小説(転載) 妻は無罪6
近親相姦小説掲載サイト「母親の香り 息子の匂い」は消滅。
妻と子どもの話は次の機会に譲ろう。 私たちの子どもは息子1人だけだったが順調に育ってくれた。 そして息子がいよいよ高校受験となった年に事件は起きた。 私に海外勤務の辞令が出たのである。 会社からは事前に相談があったので断ることもできたもしれないのだが、 将来的なことを考えると、ここで断ることが得策だとは思えなかった。 しかも、私の実績と根性を買ってくれた人事なので、 男として非常に受け甲斐のある仕事だった。
「一緒に行く。」
妻は家族で行くことを希望した。 しかし、紛争が起こった地域でもあったので、 家族で行くにはあまりにも危険だった。 しかも息子は高校受験を控えている。 期間は2年の予定だったので、へたをすれば大学受験にも影響が出かねない。 総合的に考えると単身赴任が妥当だった。
「じゃ、行かないで。」
妻は大切なことでもあっけらかんと言う。 それとも、妻にとっては大切なことではないのだろうか。 私の収入だけを頼りに家族3人が生活をしている以上、私の出世は大切なことのはずだった。 私は就職が決まった直後の妻が不安定だった時期を思い出した。 妻にとっては一緒にいることが最優先事項なのだろうか。 そう考えると、妻が選択したのはいつでも「同棲する」という選択肢だった。 つきあい始めてから離れて生活をしたことは1度もない。 妻のいないベッドで寝ることは私にも想像ができなかった。 22年間私の隣には常に妻がいた。 それが今回は2年も離れて暮らすことが決まっている。 妻が不安に思うのも当然なのかもしれなかった。
「貴志(たかし)のために我慢してくれ。頼むから。」
結婚前と違うところは「息子がいる」ということである。 私は息子の将来を中心に私たちの人生を考えたかった。 妻の考えていることは顔を見るだけでわかる。 どんなに言葉が少なくても妻の言うことは理解できる。 妻の希望を実現することがこれまでの私の使命だった。 私が妻を説得したのは、妻の実家に結婚の挨拶をしに行くと決めたときだけである。 あのときは簡単だった。 妻も妊娠していたし、妻にとっても結婚以外の選択肢はなかっただろう。 今回はどうなのだろうか。 妻にしてみれば、私が海外なんかに行かなければそれで終わる話だった。 妻の考えていることがわかるだけに説得は難航した。
そんなある日の夜、私はいつものように妻と一緒にベッドの上で横になった。 妻が天井をみたまま頭をあげる。 浮いた頭の下に右手を深く伸ばす。 妻の頭が私の腕の肩に近い位置に降りる。 毎日繰り返しているルーティン作業だった。 次は妻が私の服をクイックイッと引っ張る順番のはずなのだが、 この日はいつまで待っても妻が動き出すことはなかった。 私は妻の顔をじっと眺めていた。
「ああ、キコはいつもこんな気持ちで待っているのか・・・」
そんなことを考えながら妻の行動を待った。 妻はいつまでも瞳を見開いて天井を見つめていた。 私はついうっかり先に寝てしまうところだった。 そんなつまらないことで妻を怒らせても得られるものはなにもない。 眠ってしまわないように頑張っていると、ようやく妻が私の方を向いた。
「怒ってるの?」
妻は小さく首を横に振ったが、機嫌が悪いことは間違いない。
「仕事をとったから?」
これまで私は「妻と仕事のどっちをとるのか」という局面では、ことごとく妻を選び続けてきた。 妻もごねていれば私が妻を選ぶと思っていたのだろう。 まだ気持ちの整理ができていないのだと感じた。
「私・・・」
小さくつぶやくと視線が1度それた。 暗闇なので妻の細かい表情が読めない。 視線がそれるとそのまま謝って終わることが多かった。 妻の中では決着がついているのだろう。 私の助けは必要ないからなにも要求しないとしか考えられない。 妻が1度謝ったら、そのことを持ちだして怒り出すことはなかったし、 このときもそういう意味では不安を感じてはいなかった。
「私・・・待ってるから!」
一瞬、妻がなにを言おうとしているのかわからなかった。 意を決したようにこっそりと叫んだことだけは確かだった。 妻の瞳の輝きを確認して、妻が覚悟を決めるために視線をそらせることもあるのだと初めて知った。
「私・・・待ってるから!」
妻の瞳から涙がこぼれた。 妻がどんなに不安を感じていたのか初めて理解した気がした。
「・・・待ってるから・・・」
それ以上声を出さなくてもいいように私は妻を抱きしめた。 妻の小さな体を包み込むように抱きしめた。 妻は腕の中で声を殺して泣いていた。
「こんなとき、どんな声をかければいのだろう。」
妻の体を抱きしめながら懸命に考えた。 20年以上も一緒にいるのに、妻がなにを考えているのかわかってあげられなかった。 妻がこんなにも悩んでいるとは思っていなかった。 息子を言い訳にして自分のことしか考えていなかったとこを後悔した。 私は妻がいるからここにいるのだ。 妻のおかげで存在する価値があるのだ。
「ありがとう・・・」
声に出してみて自分の言葉に少し驚いた。 妻に感謝の言葉を伝えたのは初めてだったかもしれない。
「ありがとう。」
もう1度声に出して、妻を強く抱きしめた。 感慨にふけっていると、妻が腕の中で暴れだした。 妻は何度も私の服を引っ張っていた。 強く抱きしめすぎて気がつかなかった。 抱きしめていた腕を緩めると妻が苦しそうに顔を上げた。 何度見ても上目遣いの妻は可愛かった。 40を過ぎていることが信じられないほどだった。 この表情を独占できることは、なにものにも代えがたい幸せである。 妻が瞳を閉じて私を待っている。
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