小説(転載) 守ってあげたい
近親相姦小説
掲載サイトは消滅。
題名 守ってあげたい
古来、日本の家族は大所帯であった。
どこの家庭にも4人、5人兄弟なんかは、ザラに居た。
近年では、政府自ら「産めよ増やせよ」の号令の元、せっせと子作りに励んだ時代もあった。
こうなると、うじゃうじゃと子供たちで一杯になってしまうのは当然だ。
親だって、いい加減な名前をつけるのも無理は無い。
一郎、次郎、三郎・・など、数字をつけるなんて事は、まだましで、朝に生まれたから、朝子、昼太郎、晩次郎・・・
もっと昔なら、ウシ、ウマ、トラ、クワ・・おおよそ人間につける名前では無いのが一杯あった。
子供の健やかな精神的成長なんぞ、考えないある意味大らかな時代でもあった。
その上、こうも子供が多くなると、親だって、一々名前なんぞ覚えてはおらず、顔すら覚え切れないといった事もあった。
それに、それら兄弟がそれぞれ所帯を持つとなれば、さらに一族は増える・・叔父、叔母は勿論、従兄弟を併せると、その
数は膨大に膨れ上がる。
それに歳の差もマチマチで、10、15ぐらいは軽く開いているのだから、兄弟とはいえ、一方は大人もう片方はガキって
事も、よくあった。
これでは己自身の存在意義は薄れるばかり・・・自立は生きていく上で、必要不可欠な行事となっていた。
さてさて・・現代のお話をしよう。
核家族化が進み・・1世帯の家族構成は、子供がいれば、せいぜい3,4人、姑舅とか合わせても6人が最大数である。
そしてどこの家庭も、数少ない子供たちの一挙手一投足に振り回され続けている毎日を送っている。
少ないが故に尊重される自我。
競争の無いが為に、自立がなされない脆弱な子供たち。
社会の競争に立ち向かえない子供たちが、次第に内へ内へと逃避していく。
そこには無条件で助けてくれると信じている母親がいるから・・・
禁忌の扉はいつでも開けれる状態なのだ。
しかしながら世の中には、そんな人たちだけではない。
本来親がしっかりと子供達を育成している家庭などは、どこにでもあるのだ。
立派にしつけを施し、未来への挑戦を促がす。
子供の甘えを外に目を向けさせる事で、正常な自我の成長を促がすようにしている。
いつかは、1人で生きていく、人生の目標を持って歩いていく・・それが人生だ。
子は親の背を見て育つもの・・
さて、今回の物語の主人公、橘新一は、父孝一を尊敬している。
そこで、父孝一の生い立ちを簡単に説明しておこう。
彼は幼少の頃から、ひどい困窮生活を虐げられていた。
理由は、彼の父親にあった。
父親には特に変なクセは無く(酒とかギャンブル)、真面目に家業であった畜産業に努めていた。
母とは中学の同級で知り合った。
20で結婚、翌年孝一を授かった。
生来温厚で、人当たりも優しい人だった、全てが順調だった。
ただ優しすぎた・・・友人に騙されて、借金の保証人になったのが躓きの始まりだった。
家財一切を取られ、親子3人寒空に投げ出されたのだ。
それでも父は恨まず、騙した友人の身を案じ、また母も決して父を恨まず励ましていた。
孝一は、どんな逆境に巻き込まれても、人を恨まず、ただ黙々と生活の立て直しを図ろうとする
両親を見て育った。
孝一の父は母を愛した、また母も・・幾重の年月を重ねても、それは変わらなかった。
父は孝一に人を愛する事を説いた。
人間1人で生きていくには限りがあるもの、人を愛し、人の為に生きてこそ、己の幸せがあると・・
母は、苦労をする事を説いた。
人として痛みが分かるには、相当の苦労を体験しなければいけないのだと。
痛みが分からなければ、人・・1人の女性すら守ることすらできない、一人前の男にはなれないのだと。
孝一は、愛する両親から自立への訓練と教えを教授された。
ひどい困窮生活でも、彼は捻じ曲がらなかった。
そして彼は多くの友人に、先生たちに恵まれた・・彼は誰からも好かれた。
いつも誰かの為に一生懸命になったから、そして優しかったから・・・
人一倍の努力で、奨学金を得るほどの成績で高校、大学を通過していった。
そして大手商社に入った・・・彼は社内でも評価は高かった。
どんな仕事でもこなし、人付き合いも上手だった。
上司の覚えも良く、わずか1年で少人数ながらも部下を持つ身になっていた。
そして当然に部下の面倒見も良かった。
そこで、新一の母とも出会った。
23の若さで結婚・・そして新一が誕生した。
彼は単なる仕事人間にはならなかった。
家庭の幸せこそが彼にとっての大仕事だったからだ。
人一倍の愛情を家庭に注いだ。
息子新一が生まれてからは、その世話も母親だけに任せたりせず、進んで協力していった。
そして新一が成長するに従って、自身が幼いころに授かった自立のススメを新一に説いた。
カッコイイ父、厳しい父なんかはいらなかった・・ただ傍に居て欲しい父でありたかった。
幼い新一は父孝一に憧れた。
新一にとって彼はやっぱりカッコイイ父だったのだ。
人の為に、自分の為に一生懸命に動いてくれる父が好きになった。
誰彼なしに頼ってくるのを見て、カッコ良く頼もしい父を誇らしく思った。
いつかは自分も・・
新一の決意は自然の流れだった。
時は流れ・・
その年4月、新一は17才、高校3年生になった。
彼は柔道部のキャプテンに推された。
小さい頃から強い男を目指した新一は、柔道一筋に邁進した。
個人戦インターハイベスト8が、彼のこれまでの最高成績だった。
今年こそは更に上を行く・・・それが目標だ。
家庭的にも変化があった。
その1ヶ月前に父孝一の両親が亡くなったのだ。
車同士での衝突事故だった。
人からの頼まれ事を果たす為に、わざわざ遠出をして、その用事を済ましてからの帰り道であった。
最後まで人の為に奔走した人だった。
そして、その時両親2人は、手をつないで重なるように倒れていたと警察から報告を受けた。
孝一は泣いた・・しかしその後始末は迅速に行った。
心残りをさせてはいけない・・・ただその為だけに。
孝一は、その心残りを手元に引き取った。
これからは私がちゃんと面倒を見る・・・そう誓ったのだった。
「おはよう父さん、母さん。」
「おう、おはよう」「あら、おはよう・・今日はちゃんと起きれた様ね。感心、感心。」
朝の会話を交わす3人。
「そりゃ今日は特別だもん、緊張するなぁ~。」
「何言ってんだ、今日は逢子(おうこ)の入学式だからって、お前が緊張してどうするんだ。」
読んでいた新聞を、せわしく折畳む孝一。
「あらあら何ですか、お父さんの方も、ちょっと変ですよ。もうちょっと落ち着いてくださいな。」
朝の用意をしていた母、良子が笑った。
「今日から逢子も高校生かぁ~、いやあ嬉しいなぁ。もう15なんだな。」
「何しみじみしちゃってんのさ。今日から僕の後輩になるんだぜ・・でも何か不思議な気持ちだな。」
感慨ひとしおの2人・・・
「何ぼんやりしているの?もう7時半過ぎていますよ、逢子ちゃん大丈夫なの?まだ寝ているのかしら?・・」
時計を見ながら心配そうに呟く母。
「大丈夫だよ母さん。もう起きてるよ・・確かもう直ぐ降りてくるはずだよ。」
新一は、そう言って悠然と椅子に腰掛けてお茶をすすった。
パタパタ・・・
忙しそうに歩く音が次第に大きくなっていった。
ゴン・・「イタ!」
何かにぶつけた音と共に、痛がる声が響いた。
再び足音が食卓に近づく・・入り口の前でまた、
ゴン・・・「いったぁ~い!」
「おいおい、もういい加減慣れてくれよ逢子。確かにウチは、そんなに大きな家じゃないけどな・・あははは。」
孝一が愉快に笑った。
「す・・すみません。あっ、おはようございます。」
か細く、済まなさそうに小さい声で挨拶をしながら1人入ってきた。
入り口のドアの上スレスレに、頭が入ってきた。
これはでかい!
身長はどう見ても、180cmはある。
「また、おでこ打っちゃった? もう赤くなっちゃってるよ。あははは・・」
「これ新一、そんなに笑うもんじゃありません。逢子ちゃん、困ってるじゃないの。」
ふざけて笑った新一を窘めた母は、即座に逢子に話し掛けた。
「ねえ、逢子ちゃん。今日から高校生活の始まりね、私ね今日の日を無事迎えられて、凄く嬉しいの・・
今まで、色々な事があったけど、その都度あなたは立派に振舞ったわ。私は感心してるのよ、こんなに若いのに、
ちゃんと・・」
次第に感極まってしまい言葉に詰まってしまった。
「そんなにも心配してくれていたなんて・・・ありがとうございます、お義姉さん。」
内気な性格のせいか顔を赤らめながら、うつむいて喋る逢子。
「良かったな・・逢子。これで俺も、ちょっとは父さん、母さんに顔むけできるよ。うん・・うん。」
孝一も涙声だった。
「ありがとう、お兄さん。私、頑張るから・・」
逢子も泣いていた。
そう、亡くなった2人の心残りは、遅くして生まれた長女・逢子だった。
21で孝一を授かって以来25年の歳月を経て、得た待望の女の子だった。
長い年月は、決して錆び付かない2人の愛の軌跡でもあったのだ。
こうしてやっと回り逢えた奇跡に感謝して「逢子」と命名された赤ちゃんに、両親の愛情の全てが注がれた。
「ミーちゃん」
両親が逢子に点けたアダ名だった。
ミケ猫のように、丸い顔、くりくりとした丸い目、ふっくらしたほっぺ。
その愛らしい表情に、周囲の大人たちは癒され、そして可愛がってくれた。
真直ぐに見つめる表情、直ぐに笑うあどけなさ、ちゃんと最後まで人の話を聞く態度。
人を疑わない無垢な心・・両親だけでなく、周囲の人たちが大事に育ててくれた賜物であった。
身長は小学5年生ごろから急激に伸び始めた。
それは、まるで朝露に濡れた竹の子のように、日に日に伸びていった。
中学に入った頃には、すでに170は優に超えていた。
当然、運動部の連中は黙って見逃すはずもなく、特にバレー部の勧誘は熱心だった。
逢子も、スポーツが好きだったし1人よりも集団で頑張れる種目が特に好きだったので、直ぐにOKしたのだった。
彼女は、その身長を見込まれて直ぐにレギュラーの座を得た。
生来、運動神経も良かったので、直ぐにコツを掴んで、チームのエースに抜擢された。
ブロックは100%、アタッカーとしても成功率95%を誇った。
そしてチームは全国大会で優勝するまでに至った。
そして瞬く間に、その名は全国区となった。
雑誌、新聞などに紹介されるやいなや、その愛らしい容姿にも世の男性たちの支持が沸騰した。
もはや、彼女を知らぬ者など、ほとんど居なかったぐらいだった。
日本バレー界の期待は、特に大きかった。
次代のスターを得れる期待感からだろう。
実際、あの忌まわしい両親の事故さえなければ、今頃は当然のように全日本のメンバーに名を連ねていたはずだった。
「もう~早く朝ゴハン食べようよ、時間が無いしさ・・」
新一が、しんみりとした空気を打ち破った。
「あらあら、ホント、こんなことしている場合じゃないわね。さあさあ早く頂きましょ・・逢子ちゃんも早く座って
ゴハン食べちゃってね。」
母・良子の明るく優しい声に押されて、逢子は席に着いて食事を始めた。
「しかし、そうは言っても結構大変な学校生活になるぞ、これは。」
孝一は、心配そうな顔を見せた。
「そうかもね、なんせ学校の方も、凄く舞い上がってるからなあ~・・・中学とはいえ、全国的に知られたバレー界の
スターが、ウチの学校に、いち生徒としてやって来るんだから、そりゃあビックリモンだよ。」
新一が続けて相槌を打つ・・
「私は、あの新聞、雑誌が悪いと思うわ。」
いきなり良子が割って入ってきた。
「バレーに関する記事なんて、ホンのちょっとで、後は全部、男の子が興味惹きそうな逢子ちゃんの写真ばっかり、
それに、逢子ちゃんの趣味は何とか、好きな男の子のタイプは何とか、もお~最悪だったわ。」
吐き出すように続けて喋る良子だった。
「まあまあ、そりゃしょうがないさ、雑誌の方も売らんが為の方策だからな。実際、逢子は可愛いし、バレーの才能も
ある。だから男たちの食いつきもあると判断して記事にしたんだ。
まあ~腹は立つけど、認められている証拠と見て、嬉しいとも思っているんだ。」
「まあ!?、これだから男ってや~ね。あの写真を見て、毎日男たちのイヤラシイ視線に晒されているかと思ったら寒気が
するわ。女にとってこれ以上の屈辱はないのよ、第一逢子ちゃんは、タレントじゃ無いのよ。普通の女の子なの・・
分かりますか?あなた。」
アツクなって孝一に詰め寄る良子。
「分かってるさ、でもね、男の気持ちも、もうちょっとぐらい理解してよ良子さん。何も男全員が、逢子をいやらしい目で
見ているんじゃないと思うよ。中には、ああ可愛いな、こんな子が妹だったら、とか友達になりたいなとか、思っている子
もいると思うんだよな。」
「まあ・・そんなのは詭弁よ。あなた、何が男の気持ちよ、女の気持ちすら満足に理解していないのに、言う資格なんて無い
わ。だって私が、普段どういう気持ちで暮らしているか判ります?判らないでしょ。
あなたは、いつも遅くまで仕事、仕事で満足に休んでいないし、その上、家の用事もちゃんとこなしてくれているわ。
いつも一生懸命で、私は感謝しているのよ、だから心配なのよ・・いつ身体を壊すか・・
それなのにあなたは、いつも素っ気ない口ぶりで、心配するなの一点張り・・・もう嫌なのこんな気持ち・・」
「おいおい、泣くなよ。俺がいつ君を蔑ろにしたんだ?心配してくれてるのはありがたいけど、俺は本当に大丈夫だからさ、
心配しないでよね・・・・それに俺は女の気持ちは、よく判ってるつもりだけどなぁ~。」
「まあ・・どうだか~」
「俺はウソは言わないぞ。」
朝っぱらから、夫婦喧嘩とは・・・しかも論点がズレて来ているし。
「もう、止めなよ2人共さぁ~、そんな事はどうでもいいじゃん。問題は、これからの学校生活についてだろ?
興味本位で付き纏って来る連中をどうするかなんだ。そうでしょ?」
実に良いタイミングだった。
新一は、こうやって2人の喧嘩の仲裁を何度もやっていた。
やれやれ、またか・・・そんな呆れた表情からも、それが伺えた。
「それにさぁ~2人共いい加減にしなよ・・あれ見ろよ、逢子叔母さんうつむいちゃって食事してないじゃないのさ。」
2人が振り向いた先には、箸とお茶碗を持ったまま、黙ってうつむいている逢子がいた。
「ご、ゴメンな・・逢子」
「ごめんね・・・逢子ちゃん。」
息ピッタリの二重奏。
プゥー!!
肩を震わせて、思い切り吹きだしてしまった。
「あっははは・・ご、ご、ごめんなさあ~い。私一生懸命我慢してたんだけど、も、もうダメ・・きゃははは・・」
なんとも笑いが止まらない逢子・・・そして唖然とする3人。
「私たちの喧嘩って、そんなに面白かったの?あらいやだ、恥ずかしいわぁ~。」
「おいおい、なんだよう逢子、俺てっきり泣いちゃったかと思ったんだぜ。それを笑うなんて、どういうつもりだよ。」
2人して訝しがっている様子だった。
「お兄さん、お義姉さんごめんなさい。私、別にふざけて笑ったわけじゃないの・・・2人の言い争う姿が、あまりにも
似ていたから・・つい。」
「つい似ていた?・・」
孝一ははっとした。
逢子は思い出したのだ・・・両親の事を。
「親父とお袋の事をかい?」
「うん。似てたの・・・いつもお互いの事を思い合いながら喧嘩してんの。傍で聞いててもノロケているとしか思えない
ぐらいに・・本当に仲が良かったわ。」
「でも、思い出させちゃってごめんなさいね、私、そんなつもりで言った訳じゃないんだけど・・」
バツが悪そうに、しょげかえってしまった良子だった。
「うううん、いいのお義姉さん、そんなに謝らないで下さい。私ね嬉しかったの・・お父さんやお母さんの事を思い出せて・・
あの事故以来、私の記憶の中から、そういう楽しかった頃の思い出なんて、まるで抜け落ちていたから。」
「つまり、父さんや母さんらを見て、相変わらず仲がイイなとか、相変わらずバカだなとか思っちゃったって訳ね。」
「うん、そうなの・・・あ!ああ!?違う、違う、あのぉ~私、バカだなって思っていませんよ、お兄さんたち、な、
仲がイイなあって思っていますよ・・本当ですよ。ハイ・・」
天然のノリツッコミに、一気に食卓が華やいだ。
「あははは・・おいおい、俺たちって、そんなにバカに見えるのかい逢子?」
孝一のイジワルなツッコミに逢子は、またまたうつむいてしまった。
新一は、全国的に有名になろうが、チヤホヤされようが、何1つ変わらず、内気で恥ずかしがりやで、その純粋無垢な心根
に、なぜか嬉しさを覚えた。
「はいはい・・あんた達、もう時間無いわよ、くっちゃべってないで早くごはんを食べてしまってちょうだい。」
良子の締めの言葉が出て、新一らは急いで残りの分を口に運んでいった。
今日は入学式だから、当然授業は無い。
新一は、本来なら休みの日だったのだが、逢子と一緒に登校することになった。
目的は、正式に柔道部のキャプテンとして始動するため、敢えてその最初の練習日として充てたからだ。
そしてもう1つ・・おそらく群がるであろう野次馬連中たちから、逢子の身を守る為でもあったからだ。
孝一と良子も、後から行くという事なので、新一と逢子たちは先に一緒に家を出た。
学校までの道を2人で肩を並べて歩く・・
新一はその時改めて逢子が、かなり目立つという事を思い知った。
小さい頃から柔道一辺倒だった為、身長はあまり伸びずに、足も短くO脚に曲がっていた。
その上身体を鍛え上げたものだから、肩幅、腰周りなどにがっちりと筋肉が付いてしまって一見したら、
まるで大きな弁当箱みたいだった。
新一の頭は、ちょうど逢子の肩口のちょっと下ぐらいにあった。
これじゃあ、まるで新一の方が、弟のような感じで見えてしまうようだ。
遺伝的に丸顔は一緒だが、後は全然・・ダンゴ鼻に、太い眉に、小さい目玉・・ちょっと幼く見えて愛嬌があるが、
まあ平々凡々たる顔であった。
その横の逢子はと言うと、すらりと伸びた背丈、足、腕も同様にすらりと長い。
歩いていくうちに、次第にぽつぽつと新入生らしき女の子たちが見えてきたのだが明らかに頭2つ、いや3つは抜けていた。
そんな自分が恥ずかしいのか、終始うつむき加減で歩く逢子。
そんな中、目ざといヤツが逢子の存在を知って、大きな声を上げた。
「あ、橘逢子だ。おいおいあれ、バレーの橘逢子じゃないのか?」
「え?そう?」「ああ、本当だ。」
「スッゲーでっけ~な。」「すんげぇ可愛いなぁ~ヤバクねぇ?」
2人は、たちまちに囲まれてしまった。
当然の如く、道の真ん中で大渋滞となってしまった。
もみくちゃにされる2人・・スターと触れ合えるとあって、みんな興奮気味になっていた。
「キャー!!」
その時人ごみの渦の中から、突然耳を劈くような悲鳴が轟いた。
渦が散開していった・・・そしてその中から、うずくまっている逢子が見えてきた。
「ど、どうしたんだ逢子ちゃん?」
びっくりして駆け寄る新一。
「お、お尻触られた・・」
顔を真っ赤にして、泣き出しそうな顔を新一に向けた。
「おい、こらお前らぁ~!いいかげんにしろよ。こっちが大人しくしていると思ったら、ズケズケと踏み込んできやがって・・
この娘はなぁ、お前らと一緒の15の女の子なんだぞ、芸能人とは違うんだ、普通の学生なんだぞ、それを・・・
何やったか分かってんのか?おお? おい誰だよ、誰なんだよ・・出て来いよ・・おらぁ!。」
怒りで一気に捲し立てる新一。
周囲の人だかりは我関せずとばかり、ちりじりに散っていった。
「おい、いいかぁ・・俺は星村高校柔道部キャプテン橘新一だぁ・・今度こんな事があったら容赦はせんぞ、分かったか?
これからこの娘に、何かあったら俺だけでなく、柔道部一同が相手になってやるからな!!」
必要以上に脅しのセリフを吐く新一。
それは逢子を守る上において必要な防波堤を築く為だった。
大きな身体をしているが、その心の中は小さい野うさぎのように、いつもプルプル震えていた。
傷つき易い柔らかい心の持ち主なのだ。
そんな女の子が、これからずっと学校で社会の中で、絶えず好奇な目で見られ続けられるのだ。
まだ15の子供に、それが耐えられようか・・・
新一に一抹の不安が過ぎった。
「大丈夫か?逢子ちゃん。しっかし災難だったなぁ~まさかこんなに人が集まるなんて・・ゴメンな。ちゃんと守れなくて。」
「大丈夫です。こっちこそゴメンなさい。私の方も、あんな大声出さなくても良かったんだけど・・ついビックリしちゃって。」
「出して良いんだよ・・悪いのはアッチのやつらなんだから・・ったく何て野郎たちだ。」
「でも、助けてくれてありがとう新一さん。ホント、いてくれて良かったです。」
にっこりと笑って新一に感謝の言葉を述べた逢子。
そのあどけない笑顔に、さっきまでの怒りはどこへやら・・不思議と和らいだ気持ちが胸いっぱいに広がった。
「さぁ~気持ちを取り直して、学校へ行こうか逢子ちゃん。」
「ハイ!!」
午前10時を回って学校の体育館にて、厳粛な雰囲気の中、入学式が執り行われた。
新一も校庭でのランニング中だったが、ちょっと見たくなったので体育館に寄って、窓にその顔を張り付けた。
遠目でも逢子が何処にいるかは一目瞭然だった。
顎を引いて真剣な面持ちで校長先生の祝辞を聞いていた。
「う~ん。逢子ちゃんヤル気まんまんだなぁ~」
一人ご満悦な新一・・・・思わずニヤける。
そしてちょっと視線を右に向けた。
「あれ?」
そこには1組の夫婦が人目憚らず泣きじゃくっていた。
「あっちゃあ~あれは父さんかぁ?母さんもなんだい・・俺の時なんか泣かなかったクセに・・」
でも悪い気はしなかった・・・・家族全員が、本当に彼女の味方なのだと分かるからだ。
その時、幸せ気分の新一の肩をチョンチョンと突っつく奴がいた。
(ん?・・誰だ?)
何気なく振り向いた瞬間・・・「げっ、な、何だ?お前ら・・」
なんと、柔道部員9名全員勢揃いしていたのだ。
「キャ~プテン、ランニングサボって何見てんスか?えへへへ。」
「噂の逢子ちゃん見てたんスか?」
「まったくスミにおけないなぁ~おい新一よ、俺たちにもちゃんと紹介しろよ。」
ガヤガヤうるさく喋り出す連中・・
「おい、し、静かにしろよ!今、入学式の真っ最中だぞ、見たいのなら黙って見てろ。いいな!」
「ウィース!」
バカが・・そんな野太い野郎の声が9つも重なれば、否応なしに気づかれてしまうのに・・・
「こらぁ~!!な、何だお前らは!!柔道部の連中か、ここで何しているんだぁ~!!」
校長先生の怒声が響いた。
新入生、親御さんたちが一斉に窓側を向いた。
その瞬間、顔を覆う母良子、うつむいたままの父孝一。
逢子は、その時新一の顔を発見した。
そして、にっこり笑って手を振った。
「あっ、キャプテン、逢子ちゃん、手を振ってますよ。」
「ああ・・本当だ。か、可愛いなぁ~逢子ちゃん。お、おお~い!!」
応えるように、手を振る9人の部員たち。
しかし唯一人呆れかえる新一・・なぜか手を振るのを躊躇した。
でも、ずっと手を振り続ける逢子を見ている内に、いとおしい気持ちが湧いてきた。
「バッカモ~ン・・お前ら早くそこから立ち去れ~!!」
校長先生の怒声が増々勢いついた。
「い、いっけねぇ、おいお前ら逃げるぞ。」
「ウィース!」
そして新一は、そのまま敬礼のポーズを取った・・・もちろん部員も全員同じく。
「失礼いたしました!!」
その掛け声と共にグランドに駆け出していった。
場内は爆笑の渦だった。
新一は、その時、チラっと逢子を見た。
コロコロと笑っている表情が見えた。
それはまるで可愛い子猫が無邪気に遊んでいるように見えたのだった。
「こらぁ新一!!お前、よくも俺に恥かかしやがったな。」
「そうよ、もう~お母さん、どんだけ恥ずかしかった事か・・もうあんたって子は・・」
両親が怒るのも無理なかった。
あの後、校長先生や、他の先生達全員に平謝りしたそうだ。
「ごめんよ~俺1人だったらちゃんと見つからなかったのに・・あいつらが・・くっそう。」
「あいつらじゃない、そもそもお前が行かなきゃこんな事にはならなかったんだ・・人のせいにするな!!」
父孝一の一喝に、さしもの新一もシュンとしてしまった。
「でも、まあ今日の式は良かったな。天国の親父とお袋もきっと満足してくれただろうな。な?そう思うだろ新一。」
「ああ、そうだね。きっとそうだよ。」
「ええ、私もそう思いますわ。」
何時の間にか、仲良く会話する親子3人。
逢子は、その光景を羨ましそうに見つめていた。
「あっそうだ逢子ちゃん、これから柔道部員全員を紹介するから、一緒に来ないかい?」
「ハイ、行きます。」
1つ返事で承諾した逢子は、ピタっと新一に寄り添った。
「まぁ~こうして見ると、なかなか仲の良い兄妹に見えるわね。ほほほ・・」
2人の姿に微笑ましさを覚えた良子。
「じゃあ俺はこれから仕事があるから、先に行くわ・・後はちゃんと逢子を頼むぞ。」
孝一は、そう言って良子と連れ立って足早に去っていった。
そして逢子は新一と一緒に柔道部の部室を訪れた。
「ウオ~」
突然のスターの来訪に色めきたつ部員たち。
「みなさん初めまして、橘逢子と申します。どうぞよろしくお願いします。」
「ウィース!!」
新一は部員一人一人を紹介していった。
みんな、もうデレデレだった。
「って言う事は、逢子ちゃんはキャプテンと、どうゆう関係になるんですか?」
「何言ってんだよ、当然イトコに決まってるだろ、イ・ト・コ・・・それ以外に何があるっつうんだよ。」
「そりゃそうだよな、2つ違いだから、それ以外にないじゃんね。」
部員たちは、彼女が説明する前に、もう勝手に盛り上がってしまっていた。
「あのう~違うんです。」
可愛く小首を振って、やんわりと否定した。
「あのな、お前ら、聞いてビックリすんなよ。実はな、俺と逢子ちゃんとはなぁ・・」
そこで一旦息を止めて、周りを見回した。
「叔母と甥っ子という関係なんだ。」
「ええ~?!!」
案の定、予定通りのリアクション・・
「ど、どうゆう事よ~、そんな関係ってアリなの?」
「まあな、実は俺の親父と逢子ちゃんとは25も離れた兄妹なんだ。祖母ちゃんが21の時に親父を産んで、それから
46の時に、再び逢子ちゃんを産んだってことなんだ。」
訳が分からずに不思議そうにしている顔が9つ並んだ・・・
「そうなると、キャプテンは年上の甥っ子で、逢子ちゃんは年下の叔母さんになるわけね・・何か変だなぁ~。」
確かに変な親戚関係ではある。
大昔の大家族なら、おそらくあった事かもしれないが、核家族化が進む現代においては極めて珍しい現象といえる。
「よっぽど、愛してたんだろうな~お祖父ちゃんとお祖母ちゃん・・でなきゃそんな年数が経ってから子供なんて
できないからな。」
この言葉に、逢子は即座に反応した。
「はい。私もそう思います。父はず~っと女の子が欲しかったって言ってました。なのにずっとできなくて・・・
もう諦めた頃に出来たものだから、物凄く喜んだって、母がいつも言ってました。
それで、ようやく出逢えた奇跡に感謝して「逢子」って名づけられたんです。」
部員たちもしんみりと聞いていた。
すると1人の部員がいきなり大きな声を出した。
「あ、あのう逢子ちゃん・・・出来たら、俺たち柔道部員のマネージャーやってくれませんか?お願いします。」
「あ、俺も・・」「俺もなんだ・・」
突然に、その声の波が9人全員に波及していった。
「おいおい、お前らバカか?逢子ちゃんが一体今、何をしているか分かって言ってんのか?」
「はい・・バレーです。」
「だろ。いいかこの子はな、あんな事故さえ無かったら、今頃は全日本のメンバーに入っていたんだぞ。
それにこの高校でもバレーをやるんだ。おそらく学校側も、全国大会出場はおろか優勝まで期待しているはずだ。
1年ぐらい経ってから、生活や精神状態なんかが安定してきたと判断されたら、即座に全日本から声が掛かるはずなんだ。
だからもう明日から早速バレー漬けの毎日なんだ・・なのに片手間みたいな感じで、ここのマネージャーなんかできると
思ってるのか?ちょっとは考えてからしゃべ・・」
「私、ここのマネージャーやりたいです。」
新一の話を遮るように逢子はいきなり意思決定を口にしてしまった。
「ええ??ホントー?」
思わず沸き立つ部員達・・・
口を開けたまま・・の新一。
「だってぇ~このまま、またバレー漬けの毎日なんて面白くないんですもの・・せっかくの高校生活なんだから、もっと
色んな事がしたいんです。」
ランランと瞳を輝かせる逢子・・だけど。
「でもねぇ・・やるといったって一体どうするの?バレーの練習時間って、いつも大体夜の7時ごろまでだろ、俺たちの
練習時間は、まあ遅くても6時までだし・・・そうなると、マネージャーとしてすることもできないしなぁ・・」
何とか止めさそうとする新一・・・・これは当然か。
「だったら、練習時間を延ばせば良いだけじゃんか・・なぁ?」
「おう、そうだぁ!!」
「それに昼休みの時間も練習に充てれば良いしな。」
「おう、そうだぁ!!」
「洗濯物は、今まで通り俺たちで洗えばいいんだし、後は、俺たちの練習を見守ってくれれば良いだけなんだから。」
「おう、そうだぁ!!」
部員たちは抜群のコンビネーションで話を決定させていった。
「おいおい、お前ら今まで、そんなに練習熱心だったかぁ?・・俺がさんざんハッパかけても、ちっとも動かなかったくせに」
呆れた顔で部員たちを見渡す新一。
「あの、事情が変わったんスよキャプテン。」
「そうです、俺たち今まで女の子に、全然縁が無かったから、嬉しいんス、だから頑張れそうなんスよ。だから・・」
「おねがいしま~す。」
最後は部員全員の声出しだった・・・
「新一さん、私からもお願いします。今日の朝、助けてもらったお礼もあるけど・・でも」
「そうスよ、今日の朝みたいな事が、また起こるかもしれないじゃないですかぁ・・俺たちで逢子ちゃんを守りましょうよ。」
「そうだ、そうだ!」
みんなの熱意はホンモノだった。
「しかし、バレー部の連中が認めるかなぁ?おそらく無理だろうなぁ。」
新一には、無理だと言う事が判っていた。
だが・・
「いいえ、もし認めてくれなかったら私・・バレー部を辞めます。」
「よっしゃ~決まったぁ~いいぞ逢子ちゃん!!」
結局、逢子と部員たちの熱意に押し切られてしまった。
そして日が暮れて・・みんなそれぞれの家路に消えていった。
新一と逢子も、テクテクとゆっくりとした足取りで家に向かっていた。
「なあ・・逢子ちゃん。どうして柔道部のマネージャーなんかやりたいって言ったの?」
「え?」
「いつもはあんなに自分の意思なんかを全面に出さないのに、今日に限ってなぜなんだい?」
「え・・あの、そのう・・・」
先程までの勇ましい姿とは一転して、いつもの逢子・・・もじもじして何も言い出せない内気な娘だった。
「俺は分かってるつもりだよ・・・君は今、バレーに対して戸惑いを感じているんじゃないのかい?どう?」
優しく問質す新一・・・すると逢子の顔から、はっとした驚きの表情が飛び出した。
「はい・・そうなんです。私、最近バレーをやってて怖いって思う事があるんです。
私、入学前に先行してバレー部の合宿に参加したんだけど、みんな勝つ事ばかり追求していて、
楽しい雰囲気なんて何処にも無いんですよね・・橘逢子が来たんだから、全国大会へ行って優勝するぞって
みんな、私に期待しているんですもの・・正直プレッシャーで辛いんです。
楽しくやっていた中学の時だって、優勝した後、みんな変わっちゃったんだもの・・またそれが続くかと思うと・・私。」
「逢子ちゃんってさ、みんなで楽しみながら何かをやるってのが好きだったんだよな。
みんなでワイワイガヤガヤとくっちゃべったり、騒いだりして、楽しくやっていたんだよな・・分かるよ楽しいってのは。
でも、やっているうちに次第に目的や、目標なんかが出来てくるってのは当然なんだよ・・
いつまでも遊びでやっているなんて事は無いんだよ・・楽しさの次には面白さが生まれて、そして目標が生まれるんだ。
みんな何時までも子供のままじゃないんだよ・・・目標ってのは、生きる上での指標なんだから。」
新一は逢子に対して優しく諭していった。
「私だって、いつも真剣にやっていました。決して遊びの延長なんかでバレーはやってません。
やるからには勝ちたかったし、優勝もしたかった・・・でも、前までは、例えミスがあっても、
ドンマイって言ってみんなでかばって、カバーしてたのに、優勝して強豪テームって見られるようになってからは、
ちょっとでもミスしたら、そこを指差して、なじるようになっていたんです。他のチームから目標とされるように
なってから、みんな変わってしまったんです・・・」
そう言うと、ポロポロと泣き始めた。
「あっああ~ゴメン、泣かないで・・俺が間違ってたようだね。
君は、間違ってなかったようだ・・君を子供扱いにした俺がバカだった。」
慌てた新一は泣きじゃくる逢子の肩をぎゅっと抱きしめた。
ちょっと背伸びしたから、つま先が立ったままの何とも不恰好な姿勢だったのだが・・・
逢子は、甘えるように顔を新一の肩に横たえた。
髪の甘い匂いが、新一の鼻をくすぐった・・静かに泣きじゃくる声を心地よい気持ちで聞いていた。
翌日、新一は女子バレー部顧問の先生を訪ねて、逢子の柔道部マネージャー兼任の件の了承をお願いした。
当然の如く顧問は思いっきり不快感を示した。
橘逢子は、全国的に知られた天才アタッカーだ、全国の高校女子バレー界では、憧れであり目標でもあるのだ。
そんな子が我がバレー部に入ってきた以上、まずは県内での大きな目標とされてしまった。
ゆえに無様なバレーなど見せれないのだ・・なのに片手間で柔道部のマネージャーをするなんてもってのほかだ。
満足な練習もできやしないし、特にコンビネーションの練習は時間が掛かるのだ。
それよりもなにも、男所帯の柔道部に女の子が1人ってのが、危険極まりないのだ・・と。
予め想定してた通りの答が帰って来た。
新一は逢子の心情に沿って1つ1つの懸案を処理していった。
まず、逢子には過剰な期待をかけないと言う事を説明した。
逢子1人の加入で、いきなり全国だ、優勝だと口にするのは、逢子1人に過剰な期待をしている証拠だ。
まだ15の女の子に、それは酷ではないか。
そして彼女は今の勝利至上主義に対して大きく不満を持っている。
それは、彼女への過剰なまでの期待の延長線上にある。学生らしく楽しんで何かを得るといった環境に無いのだ。
今は学生らしく、みんなで楽しんで目標を持ち、達成していきたいと願っている。
今は彼女の心の成長を促がすのが先決なのでは・・ましてや彼女は両親を無くして間が無いのだ。
心のキズを癒す時間を与えてやってもいいのでは、まだ1年生なんだから、あと2年以上もある・・
それに今彼女が希望するものは、我が柔道部にある、確かに野郎ばかりのむさくるしい所だけど、気の良い連中ばかり
だ、それに自分がしっかりと監視するから大丈夫である。
・・と説明を丹念に繰り返した。
それでも顧問の不満は残った。
仕方なく、これが認められなかった場合は、逢子は直ちにバレー部を辞める意思があるということを伝えた。
そこでやっと渋々だが、なんとか認めてくれた。
この結果を部員全員に伝えた。
みんな一斉に歓喜の声を上げた。
「よ~しいいかぁみんな、今日から我が柔道部の練習は今までの3倍の量となるが、覚悟はいいか?」
「ウィース!!よーしみんなぁ、今度の春の地区大会の目標はベスト8だぁ~」
「うわぁ、セコ・・・思い切って優勝って言えんのか?折角、逢子ちゃんがマネージャーでいてくれるんだから、
頑張って優勝を狙おうぜ!!なぁ!!」
「ウィース!!」
「それから逢子ちゃん、君もこれから大変になるけど、大丈夫かい?」
「ハイ!!大丈夫です。私、一生懸命頑張ります。もちろんバレーも頑張ります。みなさんも頑張ってくださいね!!」
「ウィース!!」
「よ~し、これから練習に入るぞ、まずは乱取り稽古からだ。」
「ウィース!!」
その日から、柔道部の活気に溢れた練習が始まった。
早朝トレ、昼間のランニング、夕方からの練習と・・・今までの3倍の量をこなしていった。
逢子も、マネージャーらしく甲斐甲斐しく世話をしていた。
早朝トレも一緒につきあい、昼のランニングも大きな声で励ましていた。
夕方の練習も、バレー部の練習が終了した後に、1人買い出しに出かけて、柔道部員のお腹の面倒も見た。
部員たちの顔つきも次第に厳しいオトコの表情と変わっていった。
あの橘逢子が、ここまで一生懸命応援してくれているんだ、これに応えずしてなんの男か!・・
部員たちの気持ちが1つになっていった。
「ありがとう逢子ちゃん。」
新一は、ある日の夕食の食卓で逢子に礼を言った。
「そ、そんなぁ~、私こそお礼を言います。あんな楽しくて密度の濃い練習を見るのは久しぶりです。」
「そうかぁ~?俺には、まだまだ足らないって気がしているけど・・」
「いいえ、私は凄いって思います。だって一気に3倍の練習量に増えたのに、誰からも文句が出ずに、黙々とこなして
いるし、誰かがミスしたりしても、全員でカバーするように声を出し合っていますよね・・あれいいですよねぇ。」
「君の理想が目の前にあるわけなんだな?」
「ハイ!そうなんです。」
逢子は当初この家にやって来た時より、よく喋るようになっていた。
環境に慣れ始めてきた証拠だろう・・・新一は、この可愛い子猫を優しい目で追っていた。
「さあさあ・・お待たせ。今日は私特製のカレーでござ~い。たくさん食べてね。」
母、良子の明るい声が心地よく3人の耳に響いた。
「おっ今日はカレーかぁ・・良子さんが手を抜きたい時に作る特製カレーだぁ!!」
父・孝一の素っ頓狂な声と、そのとぼけた内容に、思わず大笑いの2人・・・
「それに、お前の方も大変なんだろう?何もそこまで新一の後をついて行かなくてもさ・・朝なんてもっと寝てれば
いいのに・・。」
孝一の心配はもっともだった。
いくら若いといったって、ハードな練習を課せられるバレーと平行して、柔道部の面倒を見るなんて実際無茶な話だった。
「いいえ、大丈夫です。だってバレーの練習だって早朝からあるからちょうどいいんですよね。
朝は同じ体育館内での練習だから、みんなの練習も見れて励みになるの・・私、今とっても充実しているの。うふふ・・」
屈託のない笑顔を見て、孝一、新一親子は、もう何も言えなかった。
そうこうしてバレー、柔道の2足わらじの生活が1ヶ月過ぎていった。
相変わらず放課後の女子バレー部の練習には、見物の人、人、人・・・凄い盛況ぶりだった。
「逢子ちゃ~ん、可愛い!!」「頑張って!!」
長い手がしなり、身体の半分はあるのではと思わせる長い足が空を跳ねる・・・
まるでこの世の者とは思えない美しい生き物が、目の前で華麗に躍動していた。
全ての観客たちは、彼女の動きだけを追っていた。
練習終了後は、着替える間もなく、柔道部の道場へ一直線。
そこでは今日も地道な反復練習を行っていた。
「はい!次は、腹ばい5周です。ヨ~イ始めぇ!」
逢子の掛け声と共に、部員10名の腕引き前進運動が始まった。
「山本さん、頑張って~」「吉田さん、しっかり~」「権藤さん、顎を上げてくださ~い!」
逢子の声に奮い立つ部員たち・・
バレーユニフォームのままで応援する逢子・・連中は、その長く綺麗な脚を見て、ありったけの根性を見せた。
やがて1人遅れ始めた・・・そして最後1人になってしまった。
全員は声を出して応援した。
「頑張れぇ~、あともうちょっとだ。」「頑張って!!あと半分よ!」
逢子の懸命な表情を見て、最後の力を振り絞ってゴールした。
「逢子ちゃあ~ん、やったよぉ~ん」
「よっしゃあ!!」
全員で目指す柔道部・・逢子の笑顔が大きく華やいだ。
夜8時・・練習終了。
帰り道・・柔道部全員が逢子の周りを取り囲んで家路に向かった。
そして、やがて新一と2人きりになった。
「いよいよ明後日が、俺がキャプテンとしての最初の試合となる大会だ・・う~ん緊張するなぁ。」
「私もです。もうみんなには是非頑張って欲しいです。」
「ここまで来れたのも、みんな君のお陰だな・・感謝してるよ。」
素直に頭を下げる新一。
「いえ、そんな・・私なんて何にも役になんか立ってませんよ・・どうか頭を上げてください。私困ります。」
首を小さく振って新一を見る逢子。
街灯の明かりに、ぽぉ~と浮かび上がる逢子の表情・・甘えた仕草の子猫の表情に似た可愛らしさがあった。
何の気なしに新一の手が逢子の頬を触った。
そして何の抵抗も無く、ただじっとしている逢子。
ほんのしばらくの静寂・・・
「新一さん?・・」
逢子の戸惑う小さな声に、はっとする新一。
「あ、ああ、ご、ごめん・・・お、俺ちょっと変だったなぁ・・あは、あは・・気にしないでね・・俺何してたんだ?」
思いっきり狼狽する新一。
「あ、ああ、家が見えてきた。さあ~ここから走って帰ろうか?」
足早に目の前に見える家に向かう新一・・・・一度も振り返らずに、ただ一直線に・・・
逢子は、触られた頬を左手で覆った。
何か満足そうな笑顔を浮かべた・・・そして、いとおしそうに頬を押さえて小走りに新一の後を追っていった。
次の日の午後・・・明日に大会を控えているので、軽い乱取り稽古で調整した。
「うりゃ~!!」「さぁ来い~!!」「うっしゃあ~!」
勇ましい声と共に、次々と投げが決まっていた。
「すみませ~ん。遅れましたぁ~」
逢子が息を切らしながら、道場に駆け込んできた。
急いで靴を脱いだ時、焦っていたせいか右足のかかとが、畳の上で滑ってしまった。
ズテ~ン!!
思わず、お尻からずっこけてしまった逢子・・・
スカートがめくれ、真っ白いパンティが、野郎たちの20個の目玉の中に映し出された。
「きゃあ!!いや~ん!!」
急いで前を塞いだ逢子・・・しかし、時すでに遅し。
ちょうど投げを打たれた瞬間だった・・投げられた3人は、つい受身を忘れた様で、全員顔から落ちていた。
その3人の中には、あらら・・新一も含まれていたようだ。
顔を擦ったようで、右の頬から血が出ていた。
他の2人も同様に、鼻血や、口の中を切ったりしていた。
「おいおい、大丈夫か?新一?おい、お前らも・・」
「アイタタタ・・まあちょっと顔を擦っただけだ、何ともないさ・・それよりも、おい、お前らはどうだ?」
もう一方のケガをした後輩たちを気遣う新一。
「ちょっと、切っちゃいましたけど、大丈夫ス・・でも、何か良いモノ見ちゃいましたよね・・グフフ。」
「俺も・・グフフ」
下品な笑い顔が部員全員に広がった。
「バカ野郎、何て顔してんだぁ、お前らは~、あんな事で気を取られるなよ、情けない!!」
「キャ~プテン、その言葉、あなたに、そっくりそのままお返ししまっせ・・」
「あははは・・そうだ、そうだぁ~!!」
10人の野郎の輪から一斉に笑い声が響いた。
「退いて、退いて、退いてくださぁ~い!!」
その声が響いた瞬間、10人の輪が吹っ飛んでしまった。
逢子が救急箱片手に、猛然と突っ込んできたのだった。
「だ、大丈夫ですか?!!」
気が動転しているらしく、大きな声で新一に呼びかけた。
「ああ、血が出てるぅ~、ごめんなさい、本当にごめんなさい・・私のせいだぁ~・・」
猫みたいに大きくて丸い瞳が潤んでいた・・そして頬に涙が伝っていた。
ポロポロと泣きながらも、白棉に消毒液を染み込ませ、傷口を拭いて素早くバンソーコを貼った。
「頭は大丈夫ですか?」「首は痛くないですか?「背中は・・」
矢継ぎ早に問質していく逢子。
「あのぉ~僕たちも血が出ているんだけど・・ちょっと見て・・くれませんよね、ハイハイ判りました。」
逢子には、もう一方のケガをした2人の声など聞こえてはいなかった。
みんなの手前、バツの悪い新一だった。
「なあ、逢子ちゃん。俺は、もう大丈夫だから、こっちの2人も診てやってくれよな・・こいつらも被害者なんだからさ。」
「え?あ・・ああゴメンナサ~イ!! 直ぐ診ま~す。」
部員全員がニヤニヤしながら、新一を見た。
熱くて仕方ないとばかりに道着の襟を掴んで、パタパタと扇ぐ仕草を全員やった。
それを見て、居心地が悪くて思わず首をすぼめる新一だった。
「お~い、明日の大会は絶対頑張ろうなぁ~」
新一の、ハリの無い細い声が、空しく部員全員の耳に響いた。
そして帰り道・・片時も新一の傍を離れずに寄り添う逢子。
新一には、それがなぜかムズ痒かった。
遅い夕食を終え、自分の部屋で明日に備えて軽い屈伸運動をしていた時、「コン、コン」と、ドアを、
ノックする音がして、逢子が携帯用救急セットを携えて入ってきた。
「もう1回だけ消毒して、バンソーコを貼り替えて置きますから・・」
「い、いいよもう、単に顔を擦っただけなんだから、逢子ちゃんも、もう気にしなくても良いからさ・・
早く部屋に戻んなよ。」
軽く拒否をする新一・・だが逢子は引き下がらない。
「いいえ、このままでは私の気が済まないんです。あと1回だけ診させてください、お願いします。」
深々と頭を下げる逢子。
こんな事で、揉めるのもなんだと、仕方なく逢子を部屋に入れた。
「今日は本当に済みませんでした・・・私ってホント、あわてんぼなんだから、困っちゃう。」
白棉でキズ口を丁寧に拭きながら、バンソーコを貼った・・新一の前に、逢子の顔が近づいた。
一生懸命に新一のキズ具合を診る逢子・・その表情に可愛いと思う感情とは別の何かが新一の心を放さなかった。
チラっと下を覗いた。
上からの視線の先にはブラウスの隙間から見える白いブラがあった。
ほんのりと盛り上がった丘に、新一は急に緊張した。
「今日は災難だったね・・俺たちの前でこけちゃってさ、その、あの・・・下着が見えちゃって・・・さ。」
「あ・・ああ、あれ・・まあ、ちょっとしまったなぁ~と思ったけど、履き替えてて良かったです。
私たちの練習って結構ハードでしょ・・終わったら下着も何もかも汗でびっしょりだから、全部履き替えちゃうんです。
だから、あの時は綺麗なパンツだったんで、まあ、助かったかなってね。アハハ・・」
屈託の無い15才の笑顔・・・あどけない瞳に、優しい光が宿る。
「ああ、そうなの・・ふ~ん。つまり逢子ちゃんってさ、いつも白なんだね?15なんだから当然か・・ははは。」
2人だけの親密な空気に酔っ払ったのか、つい軽口が突いて出た。
「え?・・あ、あのう~そ、それは、そのぉ~・・」
真っ赤な顔でうつむく逢子・・
しまったぁ・・・慌てて取り繕う新一。
「ご、ごめん、俺、ついバカな事、聞いちゃった・・・あっちゃあ、無神経だよな、俺って・・・」
「じゃあ、私はこれで・・」
慌てて、救急セットをしまって、急いで部屋を出ようとする逢子。
ゴィ~ン・・・
ドア扉の上の部分に、またまたおでこをぶつけた。
「いった~い!!」
額を押さえてうずくまる逢子・・慌てて駆け寄る新一。
「大丈夫かい?逢子ちゃん。また打っちゃったみたいだね。」
すっと逢子の肩に手を置いた。
しかし意外にも、想像していたのとは違って、随分と華奢な肩だった。
誰もが、たじろいでしまう程の強烈なスパイクを繰り出す発射台としては、拍子抜けするぐらいの細さだった。
「あ~あ・・また赤くなっちゃってる・・そんなに慌てて出て行かなくてもいいのに・・まあ俺が悪いんだけどさ・・はは」
そう言いながら、肩に置いた手を、ぐっと手前に引いた。
逢子の顔が新一の胸元に、すっぽりと収まった。
「あっ・・」
小さく呟いた逢子。
速まる脈拍を実感する新一。
(ああ・・困ったなぁ~何でこんな事を・・恥ずかしいなぁ・・・。)
トクトクと早鐘を打つ鼓動・・・悟られたらどうしよう。
あれこれと別の事を考えても、逢子の吐息が新一の胸を突っつく度に、鐘の連打が続いた。
甘い花の香りが鼻をくすぐる。
やけに股間が痛くなってきた・・・若い新一には、たまらない状況だ。
「も、もう痛くは無いかい?」
努めて冷静に言葉を出す・・・が、震えてしまった。
「は、はい。もう大丈夫です。」
逢子も、同様に小さく声を出した・・ちょっと震えているみたいだった。
「わざわざ診てくれてありがとう。」
そこまで言うのがやっとだった。
「いえ・・」
か細い声・・・逢子は、散らばった救急セットを拾い上げて立ち上がった。
「それじゃあ、おやすみなさい・・」
「ああ・・おやすみ。」
逢子は新一に背を見せながら、チョコンと小さくお辞儀をしてドアを開いた。
その時、ふいに・・・
「あのう・・」
「ん?何?逢子ちゃん。」
ふいの一言に、思わず反応する新一。
「私・・・ブルーが大好きなんです。」
そして振り向いて新一の顔を見た。
真っ赤に染まった頬・・・はにかんだ笑顔。
もう1度、今度は深々とお辞儀して部屋を出て行った。
ゴ~ン・・・
またやった・・・今度は自分の部屋の前で、おでこを擦っている逢子。
プッ・・ククク。
思わず笑いが出る新一だった。
(ああ、何ていじらしくて可愛い子なんだろう。)
ただただ無性に愛しく思った。
翌日は日曜日・・戦いの1日が始まった。
いつもは2回戦あたりが精一杯の彼ら団体戦だったが、今年は違う。
今年の彼らは、ひと味違っていた。
可愛い女神が、この1ヶ月間彼らの意欲を後押ししたからだ。
そして彼らは、この後その女神の凄い力を、まざまざと見せ付けられる事となる。
1回戦・・星村高校入場。
「あっ、あれ橘逢子じゃないのか?」
「え?ウソ・・あっホントだ!!」
「ホント、スッゲェ~可愛いな。」
目ざとく逢子を見つけた観客・・そしてざわめく会場・・異様な雰囲気が漂う。
「ウオォ~ン」
会場全体が逢子の存在を認識した雄たけびだった。
会場は星村高校を無条件に応援した・・そりゃそうだ、負けりゃ逢子を見れなくなってしまう。
一方の相手高校のやり難さは想像を絶した。
四面楚歌・・・本来味方であるべき本校の応援団も、裏切ってしまったのだ。
それに加え、星村柔道部員の張り切り様は凄かった。
「ガンバッテ!!」「そこ、足が開いてる!」「もうちょっとよ、山本さん!!」
逢子は、1人1人、一生懸命応援した。
自分だけの為の応援・・その瞬間だけは彼女は己1人だけを見ているのだ・・
ヒーロー気分を味わう面々。
一方逢子は、技が決まれば、ハデに飛び跳ね、笑い、そしてガッツポーズ・・
もう会場は逢子の姿しか追わなかった・・・そしてそこは即、熱狂ライブ会場と化した。
そして、気が付けば、もう決勝戦だった。
会場は全部星村柔道部一色・・・萎縮する相手校。
結果は明らかだった。
あっさり優勝。
全員で抱き合って喜びを爆発させた・・・そして、もうボロ泣き。
新一の個人成績だけの柔道部に、新たに1つの勲章がもたらされたのだ。
それも全員で勝ち取った価値あるものだった。
「さぁ~次は県大会、全国大会だ。そして俺も個人で頑張るぞぉ~」
「オッシャ~!!」
全員で声を上げて誓ったのだった。
「よ~し全員、逃げるぞ~」
新一の掛け声と共に、全員一斉に柔道着を着たままで駆け出した。
逢子と触れ合いたく押しかけた観客から逃げる為だった。
「逢子ちゃん、今日はありがとう、君のお陰で、なんと優勝だぁ・・あっはは・・」
「そんなぁ~、皆さんの実力ですよぉ~私なんて、ただ声出してただけなんですから・・あはは。」
「来週は、逢子ちゃんの番ですよねぇ・・今度は俺たちが応援するからね・・ねえ・・キャプテン?」
「ああ、そうだな・・お~いみんなぁ~着いて来てるかぁ?」
「ウィース!!」
逢子のお陰で、とんだ大脱走になってしまった。
(これからは専用バスが必要になるな)
逢子の存在の凄さを、マザマザと見せ付けられた1日となった。
だけど大会に出る度に、こう走っていたんじゃ身が持たない・・嗚呼、新一の悩みは尽きないようだ。
次の日から2週間、新一は逢子に柔道部マネージャーを休ませた(部室出入り禁止)。
大会に向けて、バレ-に専念させる為だった。
やはりというか、逢子は不服そうな顔をしていたけど・・・
楽しかった日々も今は無く・・
柔道部の連中も気が抜けた様な練習で日々を流した。
あの大会の余波で、道場を覗き込む人が増え、また入部を希望する野郎が多く殺到するといった現象が起きていたが、
彼女がいないと判ると、あっと言う間に消えていた。
もちろん、ウソの情報を流したのだけど・・・
結局は元のサヤで今までの10人だけが、そのまま代わり映えせずに残っただけだった。
新一も、どこか気が乗らない1人だった。
別に手を抜いている訳ではなかったのだけど、どこか集中力に欠ける所があったようだ。
家でも、ぼ~っとする事が多くなった。
次の大会は2ヶ月も先とあって、練習も軽め中心のメニューの段階だったせいもあって、どこか持余し気味の状態だった。
本来のバレー漬けの日々にどっぷりと漬かった逢子とは、逢う時間が極端に減っていた。
大会が近いということもあって、空いている時間全てをかき集めて練習の時間として充てていたからだ。
夜は9時を回ってから帰ってくる日が続いた。
もうヘトヘトの状態であるのは一目瞭然だった・・ここしばらくは笑顔など見たことが無かった。
うつろな目が、食欲よりも睡眠を欲していた・・母、良子が何とか食事をさせていた。
そして、ふらつく足取りで自室へ戻る。
でも、階段の途中で力尽きる逢子・・・たまらず肩を貸す新一。
逢子を部屋に入れると、着替えをするよう促がして部屋を出た。
すると暫くすると「バタン・・」と、ベットに倒れこむ音がした。
もう一度部屋に入ってみると、ボタンを外していて、上着を脱ぐところで力尽きていた。
スカートは既に下に落ちていて、下着1枚の状態だった。
暖かい季節だとはいえ、疲れきった身体に風呂にも入らずに下着だけで寝てしまっては、身体を壊しかねない。
新一は直ぐに逢子を起しにかかった・・・しかし反応は無かった。
昏々と眠り込む逢子・・疲労の極限状態だった。
普段の新一なら、母を呼び対処を任せていたはずだった。
しかし、この時新一は、それを行うのを躊躇してしまった。
マネージャーとして密接に会っていた時には、感じなかった感情が、今強烈に胸に迫っていた。
逢う時間の少なさ、交わせない会話、見えなくなった笑顔。
一緒に住むようになってから、無意識だけど徐々に募っていた思慕の念が、持余し気味の身体と心の中に入り込んでしまった。
新一は、恐る恐るボタンの外れた上着を脱がした。
上下ブルーの下着だけになった逢子・・・依然云ってた好きな色柄だった。
ほんのりと盛り上がった白い胸・・こんもりとした下腹部。
異常に長い手足には、無数のアザが刻まれていた・・・苛烈な練習を声高く主張しているよう。
身体は大きくとも、どこか幼さを感じる造りに見えた・・そりゃあ、やはりまだ15才だからだろう。
新一は、そっと胸に手を当てた。
柔らかい・・・まるでマシュマロを掴んだ時の感触に似ていると思った。
少し握っては放し、また握る・・・逢子は深い眠りの中・・ピクリとも動かなかった。
そして次にブルーブラを上にずらした。
そこには初めて見る、若い女の子の乳首があった。
薄いピンク色の可愛い蕾だった。
勢いづいた新一は、直ぐに下のブルーパンティをずらしに掛かった。
荒い息遣いが止まらなかった・・・そしてその行動も。
少しずつ、ずらすパンティ・・・・ゆっくりと薄く生えている陰毛が見えてきた。
初めて見る女の秘密の箱の中身。
新一は、そこで女の子には、男の子にはあるべきものが無いのだというのを本当に理解したのだった。
そしてキチンと閉じた両足を左右に広げた。
すると洞穴のようなものが目の前に見えた。
(これがオマンコと呼ばれるモノなんだな・・すっごい!何か別の生き物みたいだ。)
そして洞穴の上にあるコリコリとした部分を指で撫でるように触ってみた・・・すると・・
「あ・・あん」
眠っている逢子の口から、声が漏れた。
(うわぁ!やばい起きてしまう・・)
新一はそこで、勢いに任せて己がやっている事に怖さを覚えた。
吹き出る冷や汗・・・その時、何とか冷静になるきっかけを得た。
ブラを元に戻し、パンティを腰のところまで引き揚げたのだった。
そして逢子は、何も気が付かず、すやすやと寝息を立てていた。
(今、俺は何をやっていたんだろう・・)
忘れ難い感触が手に残る。
甘酸っぱい体臭が鼻をくすぐり続ける。
(おい新一!お前勘違いするなよ・・逢子は他人じゃないんだ、親族なんだぞ。従兄弟なんかじゃない・・俺の叔母なんだ。)
小さい子供の頃から、ずっと一緒に遊んできた・・時には兄妹のようにさえ思っていた時期もあった。
今でも、そう思う事があった・・そして、ここに住むようになってからは、都合良く従兄弟かなとさえ思い込んでいた。
従兄弟なら将来的にも、それなりの展望は開けても来るが・・彼女とは、そんな望みすら持てない間柄なのだ。
逢子の父母は、新一の祖父祖母であり、彼女の兄は新一の父親なのだ。
絶望的な血の壁だった。
いっそ年が離れていれば、こんな気持ちにはならなかったはずだ・・
全国の野郎たちを熱狂させる程の魅力的な美少女が、わずか2つ年下の叔母だなんて・・
やっと巡り逢えた奇跡・・だけど、新一にとっては悪魔の所業としか思えなかった。
(こんな関係なんて他には無いはずだ・・25才差なら、血の方だって薄くなっているはずだろう?違うのか!!)
じっと手を見ながら、自問自答を繰り返す新一。
「う・・う~ん」
寝返りを打つ逢子・・・やっと我に帰った新一。
急いで上着を着せて1階で用事をしていた母、良子を呼んだ。
「あらあら、まあまあ・・何て格好で寝ているのかしらねぇ~、ホホホ・・でも、このままじゃ身体に毒ね・・
新一、あんたは外へ出てなさい。」
即座に外に追い出された新一。
「はいはい、逢子ちゃん。起きましょうか・・ね?ほらこのままじゃ身体に悪いでしょ?さあ、お風呂に入ってさっぱり
しましょうね。はいはい、起きて起きて・・」
良子は母親のように、あやしながら逢子を起した。
「う~ん・・お母さ~ん。もう~眠いよ~う・・」
寝ぼけて良子の首にかじりつく逢子・・・外でその声を聞いた新一にとって、胸の締め付けを覚えた一言だった。
まだまだ母親に甘えたい年頃なんだ、と。
そして己のした事を素直に恥じたのだった。
しかしながらその理性の裏側に、もう1人の自分がいるのに気づいては居なかった。
新一の股間は、それでも窮屈な感触が解消しなかったのだった。
それから日が流れて、次の日曜日になった。
いよいよ2週に渡っての春のバレー大会が始まったのだった。
大会会場の雰囲気は、柔道大会の比では無かった。
超満員の観客、そして耳を劈くような地響きにも似た声援。
バレーは、柔道に比べるとかなりメジャーだが、その他のサッカーなり野球などと比べれば、
それほどの人気は無いはずなのだが、この異様な盛り上がりは一体?・・・
1回戦・・会場には2つのコートが用意されていた。
そこに4チームが縦列して入場してきた。
そして最後に星村高校が入ってきた時、うねりの様な地響きが大きくなった。
カメラのフラッシュが目映いほど放たれた。
逢子が入ってきたのだ。
何という光景なのだろう・・フラッシュの中にたたずんでいる少女は、もう新一たちが知っている逢子では無かった。
180cmの長身が、一層大きく、そして美しく映えた。
逢子は、目の前のコートに視線を向けていた・・・集中している様子が伺えた。
可愛い子猫は、1匹の美しき虎に変身していた。
「キャプテン・・逢子ちゃん気合入ってますねぇ~良い顔してるぜ。」
「ああ、そうだな、あれから結構濃密な練習を積んだそうだから、自信に溢れているなあ・・」
「しかし、すっごい人気ッスね、逢子ちゃん。みんなあの子しか見てないッスよ。まあ、すっげぇ可愛いもんな。」
柔道部員1人1人が、改めて逢子の人気の凄さを実感したようだ。
そしてそれぞれ驚きの声が口々に出た。
試合が開始された。
だがその瞬間から、そこはもう逢子の独壇場と化した。
地面も割れよとばかりに、ボールを叩きつけるアタッカー逢子。
全ての物を跳ね返す壁として、仁王立ちの逢子。
まるでミュージカルの芝居を見ているかのようだった。
その華やぐ舞台の中心には、逢子が1人光っていた。
飛んで跳ねて、そして大きく広げた腕から閃光が走る・・・観客すべて彼女の虜となった。
その時新一は、あの日の出来事をオーバラップしていた。
全裸で横たわっていた逢子の姿を・・その白い柔肌の感触も、この目に、そしてその手に残っていた。
この会場の中で、彼女の全てを知っているのは俺だけだ。
みんながどれほど乞うても、決して得る事ができない逢子の心の中を知っている。
俺はいつも逢子の近くにいるのだ・・手を出せば、直ぐにでも触れれるぐらいに・・。
いやらしいまでの優越感に、1人浸る新一。
人として最低な行為だと分かってても、その思いは消えなかった。
その日は3回戦まで行われ、当然のようにベスト8まで駒を進めた。
逢子のチームは完璧な内容で、当然のように勝ちあがった。
望んだ結果が出て、観客は大喜びだった。
一斉に逢子1人に声援が送られた・・・皆に笑顔で手を振る逢子。
その時、ようやく2階席にいる柔道部員たちを見つけた・・・「みんな~!」大きく両手を広げた。
満面の笑顔・・でも、もしあの時の行為を知ったら、それでも無邪気な笑顔を、俺に向けてくれるのだろうか?
新一の胸の中に広がる後ろめたい気持ち・・・素直に笑って手を振れなかった。
新一の悶々たる気持ちとは別に時間は大急ぎで過ぎていった。
バレー部は、優勝へ向けての最後の調整とばかりに、猛練習の日々に明け暮れた。
そうすると当然の様にヘロヘロの態で帰ってくる逢子だった。
食事も、そこそこにへたり込む日々が続いた。
その時、男としての欲望を辛抱する新一がいた。
あの日以来、逢子の裸体を思い出さない日は無かった。
そして大会の日が明日に迫ったその日・・もう1度見たいというチャンスが、今日で最後だと思った時、
新一の辛抱は限界を超えた。
ドサッ・・
いつものようにベッドに倒れこむ音がした。
新一は意を決して、逢子の部屋に入った。
そこにはいつものようにボタンを外しかけのまま力尽きて寝込んでいる逢子がいた。
母親を呼ぶまでの時間を10分と決めて行動を開始した。
逢子を仰向けに寝かせて、素早く上着を脱がした。
そして手際よく、ブラ(今日は上下シロだった。)を首のところまでずらし、パンティを足首まで一気に下げた。
新一だけに許された光景が広がった・・新一の頭から一時も離れなかった逢子の裸体が今、目の前にあった。
スースーと可愛い寝息をたてながら、すっかり安心しきった表情で寝ている・・・今起きている事実など知らずに・・
胸のふくらみに手を置いた・・・そしてピンクのつぼみを口に含んだ。
それから、ゆっくりと吸ってみた・・・やはり柔らかった。
指は下の茂みを這った。
そして秘密の洞窟の入り口に到達した。
例のコリコリした部分を擦った・・甘い吐息が漏れた。
今度は焦らなかった、新一は丹念に指で擦り続けた。
「あ、あ、あん・・ああ~ん」
敏感な部分なだけに、逢子も太ももを、くねらせてた。
続けてゆっくりと人差し指1本を洞窟内に入らせた・・ヌルヌルした感触がしたと思った瞬間、
一気に奥まで入ってしまった。
(暖かい・・)
新一は女の身体の不思議さを実感した。
男には体内に入るという体験なんか無いからだ。
入った指を少し折り曲げると、「あん・・」・・伸ばすとまた「ああ~ん」。
まるで探知機のように敏感に反応する逢子。
甘く可愛い声を漏らすと、新一の興奮も最高潮に達した。
(ああいかん、ここまでだ!!)
のめり込んでバレては元も子も無くなってしまう。
決めた制限時間10分が迫ってきた。
溢れそうになる興奮を、何とか堪えた・・ぶっ放す欲望をギリギリ鎮めたのだった。
急いで服装を整えて、何事も無かったかのような雰囲気で、母親を呼びに云った。
そして急いで風呂に入って、先程までの過程を思い起こしながら、溢れかかった欲望を吐き出した。
最高だった・・
これで当分気持ちも治まるはずだ・・
暴走しかかる寸前に歯止めが掛けられた、その安堵感で一杯になったのだった。
次の日は大会最終日だった。
よく眠れたようで、スッキリとした表情の逢子が、軽い足取りで食卓に降りてきた。
「おはようございます。」
「おお、よく眠れたようだな、逢子。今日はおでこを打たずに来れたしな・・絶好調だな・・ははは。」
陽気な口調で、逢子の身体を気遣う孝一だった。
「さあさ、今日はガンバッテよ逢子ちゃん。今日は私も見に行くからね。」
「ありがとうお義姉さん。私、今日は朝から調子がいいみたいなの。絶対に優勝するから、期待しててね。」
いつもは万事控えめな逢子にしては、珍しく強気な口調だった。
よほどの自信があるようだ。
暫くして、新一が降りてきた。
「おはよう。」
覇気の無い声、重い足取り・・・腫れぼったい目元。
「どうしたの?新一、風邪でもひいたの?顔色が悪いわよ。」
心配そうに声を掛ける良子。
「素っ裸で寝ちまったのか?新一。ちょっとだらけてるんじゃないのか。逢子を見てみろ、もうちょっと覇気を出せ。」
情けない息子に怒り心頭の様子の孝一。
結局一睡もできなかったようだった。
もう1度だけ、逢子の裸を堪能すればコト足りると思っていたが、結果、一層深みに嵌ってしまったようだった。
17の男にとって、若い女の裸は強烈な刺激だった。
ましてや、ナイスボディの逢子なら尚更の事・・逢子の喘ぎ声が新一の耳にこびりついて離れなかった。
そして逢子の中に入った指の感触も・・・
全てが中途半端に終わっているから、もどかしい気持ちもそのまま続いていた。
疲労感だけが募るだけだった。
「大丈夫ですか?新一さん・・・ホント顔色が悪いですよ。今日は1日ゆっくり休んでいた方がいいんじゃないですか。」
不安げな表情で新一の顔を見る逢子。
「な、なあ~に心配要らないよ、ちょっとテレビを見過ぎちゃってさ、夜更かししただけなんだからさ。」
手を振って否定する新一。
でも、後ろめたさからか、真正面から逢子の顔が見れなかった。
「今日も部員全員で応援するからさ、頑張って優勝してくれよ、逢子ちゃん。」
「ハイ!!絶対に勝ちます。」
いつになく瞳に力を込めて、きっぱりと言い切った。
試合会場は先週同様、超満員だった。
全員、逢子見たさで集まったのは云うまでもなかった。
「キャプテ~ン、どうしたんスか?何か疲れているみたいですね・・大丈夫スか?」
「平気だよ、ちょっと寝てないだけだから、心配するな。それよりも、ちゃんと応援しろよ、いいな!」
「ウィース!!」
試合は逢子の圧倒的な能力の前に、あっさり白旗状態になってしまった。
会場全体の雰囲気も逢子一辺倒であったのも一因だったが、その実力の差は如何ともし難いものだった。
そして、あっさりと優勝を決めた。
まさに橘逢子のワンマンショーとも云える大会であった。
飛んで跳ねて、打って拾って・・
観客は大いに満足したようだった。
ただ、新一だけが、疲労の度合いを濃くしたようだった。
例の妄想が止むことは無かったようだったからだが・・・
全裸の逢子がコートの上で躍動していたのだ。
ツンと上を向いたおっぱいが、アタックする度に揺れるのである。
コートすれすれの球を回転レシーブで防いだ時、秘貝がパックリと割れて見えた・・
幸せと思えば幸せだし、不幸だと思えば不幸だ・・・
まともな神経なら、すでに壊れている状態だった。
何度ぶっ放しても、この気持ちは収まらなかった。
裸の逢子は新一自身の願望なのだろう・・・正直に、そして堂々と名乗れない哀れな男よ。
試合後、逢子たち女子バレー部員全員は、駅近くの焼肉店で祝賀会を開いた。
2時間たっぷりと焼肉を存分に楽しんだ。
2週間ものキツイ練習に耐えた、そのごほうびだった。
久しぶりに味わう開放感・・・
満足した笑顔で店を出た・・そうだ、自宅まではゆっくりと歩いて帰ろうかな・・・・
今日1日の出来事を振り返りながら、ゆっくりと歩を進めた。
ふと前を見た時、見覚えのある男の人が、自転車にまたがってこちらを見ているのを発見した。
「よっ!今お帰り?乗ってかない彼女?」
ナンパ調の誘い文句の主は新一だった。
「今まで待っててくれたのですか?」
驚く逢子。
「いいや、買い物の次いでさ。」
「何の買い物?」
「ジュース。もう飲んじゃったけどさ。」
「アハハ・・」
軽快に飛ばす新一に、後ろから腰に腕を回して、ぴったりと密着する逢子。
「気持ち良いかい?」
「はい、とっても!」
顔を背中に押し当てながら、涼しい風を満喫する逢子。
新一の狙いは、この密着感を味わう為だったのだ。
逢子の柔らかい肌感が、背中から伝わってくる・・あれほど疲れてても、直ぐに反応する股間。
やっぱり若いってことだ。
「私って、いつも助けて貰ってばかりですね・・ホント申し訳ないわ。」
「そんなことないって、今日は偶然なんだから。気にしないで。」
「いいえ、私が小さい頃から、ずっと新一さんには助けて貰ってるわ。」
「なんだい、そんなこと、俺はもう忘れちゃったよ。」
「私は忘れた事は一度もないです・・近所の男の子たちに苛められて泣かされた時も、両親が用事で家にいなくって、
一人ぼっちで泣いてた時も、いつも新一さんに助けられたわ。」
ぎゅっと、腕に力が入った。
「うお!?」
急に締め付けられた驚きで声が出てしまった。
「あ!ごめんなさい。痛かったですか?」
「まあ・・ね。ビックリしただけだよ・・でも凄い力だね逢子ちゃん。」
「・・・・」
(また、うつむいちまったかな?)
新一の背中が少し熱く感じたのは気のせいではなかったようだ。
ゆっくりと、だが徐々にスピードを上げて2人を乗せた自転車は家路へと向かったのだった。
家に戻ったら、ささやかながらも祝賀会の用意ができていた。
「おめでとう逢子。よくやったな!」
「私、見てて、感動しちゃったわ・・おめでとう逢子ちゃん。」
食卓には、料理が溢れるぐらいに並べられていた。
母、良子の頑張りは相当だったに違いなかった。
申し訳無さそうな顔を見せる逢子・・・先の祝賀会で、たらふく焼肉を食べたせいで、お腹がいっぱいだった。
それでも、何とか食べようと頑張った。
勿論、新一も頑張った。
良子のがっかりした顔は見たくなかったから、2人でほとんどの料理を平らげたのであった。
また1つ、新一に感謝する逢子だった。
食事を終え、新一が部屋に入ろうとした時、後ろから抱きつく逢子・・・・胸の柔らかさを直に感じた。
また股間を熱くさせる新一・・嗚呼耐えろ!身が持たなくなるぞ。
背中に彼女の吐息を感じる・・
「新一さんって、ホントいい人・・私好きです。」
いきなりの告白に、戸惑う新一。
「俺も大好きだ・・キスしてもいいかい?」
って素直に言えれば苦労はしない。
相手は、年下とはいえ血が濃く繋がっている叔母である。
所詮は成さぬ仲なのである・・それに彼女の好きは、男としてでは無く、単に人柄だけに対しての一言だろう。
無邪気な子供の一言だ・・彼女も承知しているはずだ。
アホな妄想はケガの元なのだ。
「え?ホント?そりゃあ嬉しいな。でも他の奴らが聞いたら、絶対に殺されるかもな・・あはは。」
努めて軽く聞き流すフリをする新一だった。
それから一息入れて風呂に入りに行った。
うっすら汗をかいてしまっていて、ちょっと気持ち悪かった。
ズボンを脱いだ・・それでも暑苦しさは変わらない。
まだトランクスの中で、窮屈そうに暴れているからなのか?
急いでトランクスを脱いだ・・涼しい風が分身に当たって気持ち良かった。
やっと開放感に浸れたって感じだった。
ふいに逢子のヌードが目の前に表れた。
いつもの妄想が始まった。『新一さん・・』
甘えるように顎を上に上げて伏目がちに、こっちを見ている。
長い腕が、胸を揉みし抱く、腰をくねらせ、長い脚が九の字に曲がる・・お尻がツンと上を向いた。
1度眼に焼きついた逢子の裸は、新一の頭の中で、ドンドン進化していった。
「逢子・・」
愛しい人の名を、そっと呼んだ。
懸命に努力しても敵わぬ・・いや報われぬ人に思いのたけをぶつけれるのは、この時だけだった。
分身は、勢いを増して、お腹にくっ付くぐらいに反り返っていた。
新一は、それをそっと握り締めた。
(熱い・・)
こみ上げる興奮・・今日もここで逢子と逢瀬を楽しもうか・・
ひとこすり・・ふたこすり・・みこすり。
ゆっくりと扱き上げる新一。
「ふ・・んん・・」
快感が背中に走った・・・思わず声が漏れた。
その時、ふいに入り口のドアが開いた。
着替えの下着一式と、パジャマとバスタオルを小脇に抱えた逢子が入ってきたのである。
「え?!!」
「ああっ?!!」
お互いの目が合った。
逢子の目に新一の元気な子供が写った。
突然の出来事に固まってしまった新一。
「きゃあーーーー!!」
一呼吸遅れて逢子の絶叫が轟いた。
「うわあ~!!」
新一も遅れて叫び声が出た。
逢子は即座に外に飛び出してドアを閉めた。
新一も風呂の中に飛び込んだ。
(な、な、なんだぁ~ど、どうしよう・・変なトコ見られちゃったよう・・)
突然の出来事で、混乱と恥ずかしさが、ごちゃごちゃと頭の中で渦巻いていた。
「ご、ごめんなさあ~い。誰もいないと思ってたのに・・あ~ん・・またドジっちゃったみたいね。」
ドアの外で逢子が叫んでいた。
返す言葉が出ない新一・・・何も考えられないのだから無理も無かった。
その気になったオトコを見られたのだ・・これほどの辱めは生涯初めてだった。
決して表には出さなかった感情の全てが、今白日の元に晒されたのだ・・わずか15の女の子の前に・・
「ゆっくり入って下さいね。今日は疲れているみたいだから・・・じゃあ。」
そう言い残すと、パタパタと足音を立てて2階に上がっていった。
新一は泣きそうになった。
そして湯船の中に、勢い潜ってしまった。
(どうしよう・・もう嫌いになっちまったかもな・・)
もはや絶望のシナリオしか考えられなかった。
暫くして、風呂から上がった新一は、自分の部屋で一息ついた。
全てに萎えてしまった・・・力が入らない。
もう、まともに顔なんか見れない・・・
柔道部のマネージャーも、どうなるやら・・きっとギクシャクするだろうから。
その時はみんなに何て言おうか?
ああ~まずい、まずいなぁ~。
後悔の言葉が何度も新一の頭の中で反芻していた。
グダグタ悩みこんで、頭の中はウニのようにぐちゃぐちゃの状態になったような気分だった。
ふと時計を見た・・時刻は0時を回っていた。
(なんだぁ~もうこんな時間か、明日は朝から練習だし、もう寝るか。)
おそらく寝れそうに無いのは分かっていたけど、布団にだけは入っておこう、ひょっとしたら疲れて寝れるかも・・
そう考えた新一は、電気を消そうとスイッチに手を伸ばした。
「コンコン・・」
突然ドアをノックする音がした。
「コンコン・・」
暫くして、もう1回。
「誰?」
「私です。逢子です・・・お話があるんですけど、今いいですか?」
深夜、突然の来訪に一抹の不安を覚える新一。
だがここは、普通にしておかないと、後々面倒になると思った。
それに、これからどうやって話をしようかと悩んでいたところに、彼女の方から来てくれたのだから、これは幸いだった。
「あ、ああ・・いいよ、入っておいでよ逢子ちゃん。」
新一は、努めて普段通りの声で返事をした。
ドアが開いた。
ブルーのパジャマ姿の逢子が、ちょっとうつむき加減に、ゆっくりと入ってきた。
きっとどこかに多くいるであろう橘逢子ファンの人達よ・・申し訳ない。
君達には絶対分からないだろうな・・プライベートの彼女が、いかに可愛いかを・・
コートの中を縦横無尽に走り回る躍動的な逢子だけしか知らない人達よ、普段の彼女は、大人しく実に控えめな人なのだ。
明るく無邪気な笑顔しか知らないファンの人たちよ、普段の彼女は、いつも伏目がちの、大変内気な女の子なのだ。
そんな彼女の全てを知っている新一だが、今その立場が危うくなっていたのである。
しかし、一体どのような思いで新一の部屋を訪ねてきたのであろうか?
「一体どうしたの?こんな夜遅くに・・何かなぁ?その話って。」
すっとぼけた返事をした・・気にしていない素振りは、この際大事にしたいからだ。
「あのう~そ、その、え、ええ~と・・」
モジモジして、要領を得ない言葉しか聞こえない・・
嗚呼じれったい!
云いたい事は分かっている・・またいつもの調子か?
新一は、我慢できず自ら反省の弁を言おうと思った。
「君の言いたい事は分かっているさ。あの、その、あ、あれはちょっとした俺の不注意というか、その・・」
「あのう、気にしないで下さい!」
新一の言い訳を逢子が、大きな声で遮った。
「え?え?・・気にしないって?」
突然の大声にビクつく新一。
「わ、私、あ、ああいったモノは、み、見慣れていますから・・」
「み、見慣れているって・・あ!ああ・・そ、そうなの?」
「はい!いつもお父さんの、お風呂上りには、素っ裸でいることが多かったものですから・・
その、あれも、いつも私見せられていましたから・・今見ても別に、どうってことないって言うか・・その・・アハハ。」
どうやら逢子は、落ち込んでいるであろう新一を気遣って、わざわざ部屋を訪ねてきたようだった。
恥ずかしがりやの逢子だけに、あの出来事が起こった以上、素直に会話するなんて事は、もう出来ないのでは、
と思っていただけに、逢子からの積極的な行動は嬉しかった・・が、それ以上に驚きもあった。
おそらく、今までの関係を壊したくないとの思いからだろうけど・・。
しかし、あの内気な逢子が、ここまでの行動をやってしまうとは・・ひょっとすると彼女の思いは・・
新一は確かめたくなった。
「祖父ちゃんってさ、こ~んなにデカかったよね?」
両手を広げてオーバーに、そのカタチを造った。
「え・・ええ。いつもブラブラさせて、私の前を歩いて・・あっ!」
自分が、今女の子として凄い一言を言い放った事に気付いて、慌てて口を閉じてしまった。
「アハハハ・・ブラブラかぁ・・俺負けたなぁ~ 俺のはあんなに大きくしてても、そんなにブラブラしないもんな。」
「し、知りません!!」
顔を真っ赤にして横を向く逢子。
ここまで来たら、もう突き進むしかない・・新一は直接語を使って逢子に対峙した。
「どうしてオトコって、アレをおっきくするか分かるかい?」
「・・・・・」
「なんでもかんでも、何時でも何処でも、ってな感じでデカくさせてるんじゃないよ。そんな低俗な生き物じゃないよ。
欲しくて欲しくて、どうしようもないのに、どうやっても手に入らないもどかしさで苦しんだり、
好きで好きで、たまらないのに、どうしても打ち明けられない切なさに耐える時に心の中で爆発させるのさ。
その人の事を考えて・・想像して、内に溜まったエネルギーを吐き出す・・」
「そ・・そういう事って?」
「そう、オトコにはよくある事なんだよ。」
「私には、よく分かんないなぁ・・」
逢子は恥ずかしさからか、何処を見たら良いのか判らずに、視線が横の壁や下のカーペットを行ったり来たりしている。
「君が見たのは、俺が、そんな気持ちでいる所を見ちゃったんだよ。」
「そうなの?」
「うん・・そう。」
新一は、言葉を選ばずに、更に核心の部分を逢子に迫った。
「君は、俺の事を気遣ってここに来てくれた・・そこで、俺はちょっと驚いたんだ。
君みたいな女の子が、男のあんな所を見たら、恥ずかしいやら、気まずいやらで、普通の会話なんて出来なくなるもんだよな。
正直俺は、もうダメだと思っちゃったんだ・・君はとってもシャイで内気だから、なおさらにね・・・
でも、君は直ぐに来てくれた・・・なぜ?」
思い詰めたような表情で、真直ぐに逢子の顔を見つめる新一。
「そ・・それは、わたし・・」
「君も、俺との関係がギクシャクするのは嫌だったから?」
逢子の返答を待たずにクチを出す新一。
焦りからか・・表情が硬い。
「は・・い・・そうです。だって新一さんはいつも私には優しくしてくれるし、それにいつも私の傍にいてくれて、
励ましてくれたり、助けてくれたりしてくれて・・私いつも感謝しているんです。
だから・・嫌われたくはないし、それに口を聞いてくれなくなったりしたら、とっても悲しいんです。」
感情の昂ぶりからか、目を潤ませながら、泣きそうな顔を新一に向けた。
「だから、あんなウソを?・・」
「え?・・それは・・」
「祖父ちゃんは、そんな事はしないよ・・あんなに身の回りのことに対してキチンとする人が、そんなみっともない
事をするはずはないよ。第一、君は、祖父ちゃんらが願って願って、やっと授かった大事な宝なんだよ。
そんな宝に対して、うかつな行動はしないはずだよ・・あの祖父ちゃんなら。
「ご・・ごめんなさい・・」
「謝るのは、俺の方だよ・・君に、そんなウソをつかせたから・・ゴメン。」
ポロポロと涙を流す逢子・・いつもいつも静かに泣く可愛い娘よ・・・
新一は感情が抑えられなくなった。
さっと抱きかかえて、逢子の下唇にキスをした。
ビックリ眼の子猫ちゃん・・・真丸い瞳が一層丸く見開いた。
新一は、逢子の頭を抱えて、自分の胸元に埋めた。
頬で逢子のおでこを撫でる・・・愛しい人は今、腕の中にいた。
錯覚でもない、狂ったりもしていない・・今、はっきりと言える。
俺は逢子が好きだ、愛している・・
新一は、その時、己の心と対峙していた。
彼女とは血族であり、その血の濃さも判っている。
逢子は叔母であり、新一は甥である・・そんな事は百も承知だ。
厳然たる血の壁は、大きくて分厚い・・決して乗り越えられないのは事実だ。
でも、それでも新一は叔母である逢子が欲しかった。
いや・・叔母とは思えなかった。
2つ年下の叔母って・・どう考えたって在り得ないシチュエーションだ。
知らないヤツからみれば、どう見たって、従兄妹ぐらいにしか見えないはずだ。
それに逢子は新一を頼りにしている。
たとえそれが、一瞬にして両親を亡くして出来た心の穴を埋める為のものだとしても・・
独り善がりの錯覚の愛だと判ってても、決して報われないと判ってても、それでも逢子を守りたいのだ。
それは・・逢子の全てを知っている自分にしかできない事なのだ。
だからこそ確証が欲しかったのだ。
ほんの僅かの間でもいいから、逢子をこの手で抱きたかった。
繋がりが支えになる・・と思いたいから。
新一の想いは一気に昇華した。
「俺、君が好きだ・・好きで好きで堪らないんだ。」
そう言って、何度も唇を重ねる新一・・抱きしめる腕に力が入る。
「ら、乱暴にしないで・・お願い。」
小さく呟く逢子・・背中に回した腕をぎゅっと引き寄せた。
「キスは初めて?」
「ウン・・・。」
「ヘタクソでゴメンね。」
「・・・・・」
逢子は穏やかな笑顔を浮かべながら、黙って新一の胸に全てを委ねた。
「想像したとおりの逞しい胸板ですね。やっぱり男の人には、敵わないわ。」
初キスは甥っ子の新一だった・・だが逢子は気にも留めていなかった。
左手の人差し指で、ゆっくりと胸の上をなぞる・・・
「さっき俺の事を好きだって言ってくれたけど、あれって1人の男としてって事なの?」
勢いに乗じて逢子に、その真意を問質した・・自分の腕の中にいる以上、答えは分かっていたけど、
どうしても、彼女の口から聞きたかったのである。
「うん・・・そうよ。」
その声は、少ししゃがれていたが甘えるような口調だった。
赤くふっくらとした頬で、ゆっくりと新一の胸を擦っていく・・
我が意得たり・・・とうとう確証を得たのだ。もう独り善がりな事では無いのだ。
腕の中にいるのは、叔母ではなく、唯1人の愛すべき女性なのだ。
この先には、幸せなど無いかもしれない・・自分の思惑だけで彼女を振り回すかもしれない。
その時は・・いや今は考えない、考えたくも無い。
今この時、この瞬間の喜びをかみしめたい・・・
そして、これだけは心に刻んでおこう・・「逢子は俺が守ってみせる。」
ぎゅっと、両腕に力が入った。
「い・・痛い、痛いわ。」
逢子が苦しそうに声をあげた。
新一は委細構わず、更に力が入った。
「し、新一さん・・痛いわ。」
苦しそうに喘ぐ逢子・・だが彼女も、新一の背中に回した両腕に力を入れていた。
「もっと優しくして・・」
甘くささやく・・・コトは熟した。
新一は、そっと逢子を抱きかかえた。
180cmが小さく折畳まれた・・幼子のように新一の首根っこにかぶりつく逢子。
ゆっくりとベットに寝かされた。
だが、その長い手は新一の首に巻かれて、放そうとはしない。
パジャマのボタンに手が掛かった・・・上から、1つ、2つ、3つ・・
前扉が広げられた・・・ブルーブラが、新一の目に鮮やかに映った。
「大好きな色だったね、これって・・」
「はい。」
震える手つきで、ブラに手を置いた。
素晴らしい弾力が伝わってきた・・野郎同士の組み手では、絶対に味わえない感触だった。
女の子の肌って、こんなにも柔らかいのか。
以前自分勝手に、眠っている逢子にイタズラをした時には、思いも寄らなかった・・
その発見は、今ゆっくりと味わっている余裕から来たものなのかもしれない。
ブラを外した。
雪のように白い肌の上に、ふんわりと盛り上がった丘が出来ていた。
更にその上には、小さくて薄いピンク色の蕾があった。
新一の舌が、ゆっくりと蕾を撫でた。
「あ、ああ~ん」
軽い感度を示す逢子。
だがその声に刺激されて、いきなり荒れ狂ったように乳房を吸い付き始める新一。
しかし無邪気な赤ちゃんのソレとは違っていた。
吸って、噛んで、顔をうずめる・・・
長身の逢子は、優しく両手で新一の頭を抱えて、自分の胸に押し当てていた。
慈愛に満ちた表情で、新一の後頭部分に顔を寄せた・・新一の身体は、逢子の身体の中にすっぽりと包まれていた。
乱暴に逢子のパジャマズボンを剥ぎ取り、ブルーパンティも、一気に脱がした。
興奮する身体に制御は掛からなかった。
男の本能からか、新一の右手が逢子の秘部に伸びた。
親指はクリトリスを擦り、中指と薬指が、周辺のヒダを撫でた。
「あん・・き、気持ちいい~・・・な、なんだか変な気分になってきたわ。」
「そりゃ良かった・・ああ、俺も嬉しいな。」
新一は更に、擦っていた中指と薬指を花芯に入れた。
「ああ~ん、ウソ、何?気持ちイイわ・・あん、あん、あん・・ああ~頭が変になりそう・・」
身体を反って、よがる逢子・・・
新一の指にも力が入る・・更にスピードを上げた。
「ああ、ダ、ダメェ~、飛ぶ、飛ぶ・・飛んじゃいそう~アアアアア~ン、そこ、ダメ~!!」
階下には聞こえないように小さく呻き声を出す逢子・・
大きく身体が揺れた。
そして風船が弾けて割れたように、奇声を上げた瞬間、身体が崩れ落ちて新一に寄りかかった。
新一の我慢も弾けた。
急いでズボンを脱いだ。
大きく山を作るトランクスが見えた。
思わず丸い目をクリクリさせながら見張る逢子・・・
そして一気にトランクスを下ろした。
大きく反り返る肉棒・・・硬い弾力を伝えるように左右に揺れる茎。
充分に剥けた先っぽに、透明感のある湿り気があった。
逢子の鼻に、ツンとした匂いが立ち込めた・・
確かめようと、鼻で大きく息を吸い込んだ。
「お、俺も・・俺も気持ち良くなりたい。」
興奮からか、ろれつの回らない喋り方の新一。
急いで腰を沈めようとするが、上手くいかない。
右へ左へ・・照準が定まらない。
こみ上げてくる痺れ・・嗚呼、手とは違って、腰を使う為に目標地点が見えないのだ。
「く、くっそう・・何でだ?如何してなんだあ~?」
イラつく新一・・・バケツはもう溢れ帰りそうだ。
心配そうに見つめる逢子。
助け舟とばかりに、腰を新一の中心に移動させた。
「新一さん、ココよ・・」
指示を出す逢子。
「ああ・・」
今度こそと、腰を沈めた新一。
だがまた左にずれた・・・よく考えてみれば、よく判らない者同士が良くやっていると思う。
「こっちよ、新一さん。」
堪らずに、新一の肉茎を握って目標位置に持ってきた。
「ああ~ダメだぁ~」
その時には、既に逢子の手の温もりに耐える力はもう残っていなかった。
ピュピュ・・・・
激しい噴射が始まってしまった。
「う、う~ん・・あう・・」
堪らず呻く新一。
ピューピュ~
更に噴射が続く・・・逢子のお腹に湖が出来た。
ピュッ・・
最後の勢いで、逢子の顎にまで飛んだ。
「わぁ~何これ?・・凄いわ・・」
逢子の驚きの声が新一の耳に入った。
「はあはあ・・な、なっさけない!・・ああ、でも気持ち良かったぁ~」
気張った力が抜けていく・・次第に冷静になる新一。
「あ!そうだ、ゴムが無かったんだ・・俺、もうちょいでバカな事しでかしていたな。」
そう・・ゴムなしでヤッていたら・・あの暴発からして直ぐにでも中で出してたはずだ。
「新一さんの、あんな焦った顔を見たのは、私初めて・・アハハハ、ホントおかしな顔ねぇ・・アハハ。」
無邪気にコロコロと笑う逢子。
男のメンツ台無しからか、ちょっとむくれる新一だった。
「あのね、俺たち危なかっただぜ・・俺が上手くやってたら今頃・・ミーちゃんのお腹は、こうだったんだぜ。」
両手でお腹が膨らんだ様子を模写する新一。
「ミーちゃんって・・それ?。」
新一の突然の言い方に、はっとした表情をする逢子。
「あはは、昔小さい頃には、ずっとこう呼んでいたんだよな・・ねえ逢子ちゃん?」
「うん・・そうだったわ。私はずっと、新ちゃん、新ちゃんって言って、新一さんの背中にくっ付いてたっけ。」
その昔、2人は辺りが暗くなるまで、泥んこになりながらも、ず~と一緒に遊んでいた。
そうだ・・ずっと一緒だったんだ。
懐かしく昔の光景を思い出す2人だった。
「これからも俺たちは一緒だよな?ミーちゃん。」
「うん、そうだよ新ちゃん。」
ティシュで逢子のお腹を拭きながら、新一は逢子の顔を見た。
「それにね、私がここに来たのは、ひょっとしてこうなるかもって期待していたのよね。」
「え?それってどういう意味なの?」
「うふふ・・」
イジワルそうな笑顔で新一を見る逢子・・
大きくてクリクリした目を、更に丸くして新一の顔を覗き込む・・
「ま・・まさか!」
胸の動悸が大きく鳴り響く・・・
「私のカラダにイタズラしたでしょ?・・うふふ。」
「・・・・・」
何も言えない新一。
「私疲れてて、動けなかったけど意識はちゃんとあったんだよ。もうびっくりしたけど・・」
「ご・・ごめん。でも・・・」
「さすがに指入れちゃあ、分かるわよ・・でも、あそこで起きたら、新一さん恥かくと思って・・黙ってたの。
何か思い詰めた表情だったもん・・ちょっと怖かったわ。」
「俺もどうかしてたんだ・・君は俺の叔母なんだし、どこかではっきりさせるのが怖かったからかもしれない。
ホント・・済まなかった。許してくれ逢子ちゃん。」
深々と頭を下げる新一・・・
「ミーちゃんでしょ?新ちゃん。うふふふ・・・」
「え?」
「私は、新一さんが、こんなにも真剣に想ってくれてたって事が判って嬉しいの。私は小さい頃からあなたの事が好きでした。
今もその思いは変わりません。新一さんは何時も私の傍にいてくれて守ってくれたわ。
だから今度は私の番・・・あなたが望む事は、なんでもします・・私の事で、もう悩まないで・・
これからは私が傍にいるから・・・ね。」
逢子のいじらしい気持ちが新一の胸に伝わる。
抑えられない気持ちが、何度も何度も唇を重ねさせた。
逢子の舌が新一の舌に絡みつく・・・決して離れまいと決意したかのように。
「好きよ・・大好きよ。新ちゃん。」
「俺もだよ・・ミーちゃん。」
行為は失敗したが、2人の心は結ばれた。
新一は一番良い結果が出たのだと思った。
肉体的には結ばれなかったお陰で、叔母、甥の血の壁に触れる事は無かったからだ。
だがいずれは・・・
否応なしに真っ向から立ち向かわなくてはいけない時が、必ず来るはずだ。
その時には新一よ、お前は、どんな困難な事が起こっても逢子を守れるのか?幸せにできるのか?
己に問い掛ける新一・・・だが答えは容易に出なかった。
まだ17の少年に、その責任は重かった。
だけど、これだけは言える・・・「逢子だけは何があっても絶対に守ってみせる。」と。
この子だけには辛い道など歩ませたくは無い・・いざとなれは俺が消えれば良いだけの事だ。
無邪気に新一の首根っこにかぶりつく逢子。
小さい子供のように抱き合う2人。
神は2人に祝福するかのように静かな夜を与えた・・・
翌日・・
2人を地の底まで叩き落す大事件が勃発した。
1枚の写真が、学校の掲示板に張り出されていたのだった。
そこには1組のカップルが写っていた。
1人は逢子、そしてもう1人は・・・
(つづく)
[2004/03/08]
題名 守ってあげたい
古来、日本の家族は大所帯であった。
どこの家庭にも4人、5人兄弟なんかは、ザラに居た。
近年では、政府自ら「産めよ増やせよ」の号令の元、せっせと子作りに励んだ時代もあった。
こうなると、うじゃうじゃと子供たちで一杯になってしまうのは当然だ。
親だって、いい加減な名前をつけるのも無理は無い。
一郎、次郎、三郎・・など、数字をつけるなんて事は、まだましで、朝に生まれたから、朝子、昼太郎、晩次郎・・・
もっと昔なら、ウシ、ウマ、トラ、クワ・・おおよそ人間につける名前では無いのが一杯あった。
子供の健やかな精神的成長なんぞ、考えないある意味大らかな時代でもあった。
その上、こうも子供が多くなると、親だって、一々名前なんぞ覚えてはおらず、顔すら覚え切れないといった事もあった。
それに、それら兄弟がそれぞれ所帯を持つとなれば、さらに一族は増える・・叔父、叔母は勿論、従兄弟を併せると、その
数は膨大に膨れ上がる。
それに歳の差もマチマチで、10、15ぐらいは軽く開いているのだから、兄弟とはいえ、一方は大人もう片方はガキって
事も、よくあった。
これでは己自身の存在意義は薄れるばかり・・・自立は生きていく上で、必要不可欠な行事となっていた。
さてさて・・現代のお話をしよう。
核家族化が進み・・1世帯の家族構成は、子供がいれば、せいぜい3,4人、姑舅とか合わせても6人が最大数である。
そしてどこの家庭も、数少ない子供たちの一挙手一投足に振り回され続けている毎日を送っている。
少ないが故に尊重される自我。
競争の無いが為に、自立がなされない脆弱な子供たち。
社会の競争に立ち向かえない子供たちが、次第に内へ内へと逃避していく。
そこには無条件で助けてくれると信じている母親がいるから・・・
禁忌の扉はいつでも開けれる状態なのだ。
しかしながら世の中には、そんな人たちだけではない。
本来親がしっかりと子供達を育成している家庭などは、どこにでもあるのだ。
立派にしつけを施し、未来への挑戦を促がす。
子供の甘えを外に目を向けさせる事で、正常な自我の成長を促がすようにしている。
いつかは、1人で生きていく、人生の目標を持って歩いていく・・それが人生だ。
子は親の背を見て育つもの・・
さて、今回の物語の主人公、橘新一は、父孝一を尊敬している。
そこで、父孝一の生い立ちを簡単に説明しておこう。
彼は幼少の頃から、ひどい困窮生活を虐げられていた。
理由は、彼の父親にあった。
父親には特に変なクセは無く(酒とかギャンブル)、真面目に家業であった畜産業に努めていた。
母とは中学の同級で知り合った。
20で結婚、翌年孝一を授かった。
生来温厚で、人当たりも優しい人だった、全てが順調だった。
ただ優しすぎた・・・友人に騙されて、借金の保証人になったのが躓きの始まりだった。
家財一切を取られ、親子3人寒空に投げ出されたのだ。
それでも父は恨まず、騙した友人の身を案じ、また母も決して父を恨まず励ましていた。
孝一は、どんな逆境に巻き込まれても、人を恨まず、ただ黙々と生活の立て直しを図ろうとする
両親を見て育った。
孝一の父は母を愛した、また母も・・幾重の年月を重ねても、それは変わらなかった。
父は孝一に人を愛する事を説いた。
人間1人で生きていくには限りがあるもの、人を愛し、人の為に生きてこそ、己の幸せがあると・・
母は、苦労をする事を説いた。
人として痛みが分かるには、相当の苦労を体験しなければいけないのだと。
痛みが分からなければ、人・・1人の女性すら守ることすらできない、一人前の男にはなれないのだと。
孝一は、愛する両親から自立への訓練と教えを教授された。
ひどい困窮生活でも、彼は捻じ曲がらなかった。
そして彼は多くの友人に、先生たちに恵まれた・・彼は誰からも好かれた。
いつも誰かの為に一生懸命になったから、そして優しかったから・・・
人一倍の努力で、奨学金を得るほどの成績で高校、大学を通過していった。
そして大手商社に入った・・・彼は社内でも評価は高かった。
どんな仕事でもこなし、人付き合いも上手だった。
上司の覚えも良く、わずか1年で少人数ながらも部下を持つ身になっていた。
そして当然に部下の面倒見も良かった。
そこで、新一の母とも出会った。
23の若さで結婚・・そして新一が誕生した。
彼は単なる仕事人間にはならなかった。
家庭の幸せこそが彼にとっての大仕事だったからだ。
人一倍の愛情を家庭に注いだ。
息子新一が生まれてからは、その世話も母親だけに任せたりせず、進んで協力していった。
そして新一が成長するに従って、自身が幼いころに授かった自立のススメを新一に説いた。
カッコイイ父、厳しい父なんかはいらなかった・・ただ傍に居て欲しい父でありたかった。
幼い新一は父孝一に憧れた。
新一にとって彼はやっぱりカッコイイ父だったのだ。
人の為に、自分の為に一生懸命に動いてくれる父が好きになった。
誰彼なしに頼ってくるのを見て、カッコ良く頼もしい父を誇らしく思った。
いつかは自分も・・
新一の決意は自然の流れだった。
時は流れ・・
その年4月、新一は17才、高校3年生になった。
彼は柔道部のキャプテンに推された。
小さい頃から強い男を目指した新一は、柔道一筋に邁進した。
個人戦インターハイベスト8が、彼のこれまでの最高成績だった。
今年こそは更に上を行く・・・それが目標だ。
家庭的にも変化があった。
その1ヶ月前に父孝一の両親が亡くなったのだ。
車同士での衝突事故だった。
人からの頼まれ事を果たす為に、わざわざ遠出をして、その用事を済ましてからの帰り道であった。
最後まで人の為に奔走した人だった。
そして、その時両親2人は、手をつないで重なるように倒れていたと警察から報告を受けた。
孝一は泣いた・・しかしその後始末は迅速に行った。
心残りをさせてはいけない・・・ただその為だけに。
孝一は、その心残りを手元に引き取った。
これからは私がちゃんと面倒を見る・・・そう誓ったのだった。
「おはよう父さん、母さん。」
「おう、おはよう」「あら、おはよう・・今日はちゃんと起きれた様ね。感心、感心。」
朝の会話を交わす3人。
「そりゃ今日は特別だもん、緊張するなぁ~。」
「何言ってんだ、今日は逢子(おうこ)の入学式だからって、お前が緊張してどうするんだ。」
読んでいた新聞を、せわしく折畳む孝一。
「あらあら何ですか、お父さんの方も、ちょっと変ですよ。もうちょっと落ち着いてくださいな。」
朝の用意をしていた母、良子が笑った。
「今日から逢子も高校生かぁ~、いやあ嬉しいなぁ。もう15なんだな。」
「何しみじみしちゃってんのさ。今日から僕の後輩になるんだぜ・・でも何か不思議な気持ちだな。」
感慨ひとしおの2人・・・
「何ぼんやりしているの?もう7時半過ぎていますよ、逢子ちゃん大丈夫なの?まだ寝ているのかしら?・・」
時計を見ながら心配そうに呟く母。
「大丈夫だよ母さん。もう起きてるよ・・確かもう直ぐ降りてくるはずだよ。」
新一は、そう言って悠然と椅子に腰掛けてお茶をすすった。
パタパタ・・・
忙しそうに歩く音が次第に大きくなっていった。
ゴン・・「イタ!」
何かにぶつけた音と共に、痛がる声が響いた。
再び足音が食卓に近づく・・入り口の前でまた、
ゴン・・・「いったぁ~い!」
「おいおい、もういい加減慣れてくれよ逢子。確かにウチは、そんなに大きな家じゃないけどな・・あははは。」
孝一が愉快に笑った。
「す・・すみません。あっ、おはようございます。」
か細く、済まなさそうに小さい声で挨拶をしながら1人入ってきた。
入り口のドアの上スレスレに、頭が入ってきた。
これはでかい!
身長はどう見ても、180cmはある。
「また、おでこ打っちゃった? もう赤くなっちゃってるよ。あははは・・」
「これ新一、そんなに笑うもんじゃありません。逢子ちゃん、困ってるじゃないの。」
ふざけて笑った新一を窘めた母は、即座に逢子に話し掛けた。
「ねえ、逢子ちゃん。今日から高校生活の始まりね、私ね今日の日を無事迎えられて、凄く嬉しいの・・
今まで、色々な事があったけど、その都度あなたは立派に振舞ったわ。私は感心してるのよ、こんなに若いのに、
ちゃんと・・」
次第に感極まってしまい言葉に詰まってしまった。
「そんなにも心配してくれていたなんて・・・ありがとうございます、お義姉さん。」
内気な性格のせいか顔を赤らめながら、うつむいて喋る逢子。
「良かったな・・逢子。これで俺も、ちょっとは父さん、母さんに顔むけできるよ。うん・・うん。」
孝一も涙声だった。
「ありがとう、お兄さん。私、頑張るから・・」
逢子も泣いていた。
そう、亡くなった2人の心残りは、遅くして生まれた長女・逢子だった。
21で孝一を授かって以来25年の歳月を経て、得た待望の女の子だった。
長い年月は、決して錆び付かない2人の愛の軌跡でもあったのだ。
こうしてやっと回り逢えた奇跡に感謝して「逢子」と命名された赤ちゃんに、両親の愛情の全てが注がれた。
「ミーちゃん」
両親が逢子に点けたアダ名だった。
ミケ猫のように、丸い顔、くりくりとした丸い目、ふっくらしたほっぺ。
その愛らしい表情に、周囲の大人たちは癒され、そして可愛がってくれた。
真直ぐに見つめる表情、直ぐに笑うあどけなさ、ちゃんと最後まで人の話を聞く態度。
人を疑わない無垢な心・・両親だけでなく、周囲の人たちが大事に育ててくれた賜物であった。
身長は小学5年生ごろから急激に伸び始めた。
それは、まるで朝露に濡れた竹の子のように、日に日に伸びていった。
中学に入った頃には、すでに170は優に超えていた。
当然、運動部の連中は黙って見逃すはずもなく、特にバレー部の勧誘は熱心だった。
逢子も、スポーツが好きだったし1人よりも集団で頑張れる種目が特に好きだったので、直ぐにOKしたのだった。
彼女は、その身長を見込まれて直ぐにレギュラーの座を得た。
生来、運動神経も良かったので、直ぐにコツを掴んで、チームのエースに抜擢された。
ブロックは100%、アタッカーとしても成功率95%を誇った。
そしてチームは全国大会で優勝するまでに至った。
そして瞬く間に、その名は全国区となった。
雑誌、新聞などに紹介されるやいなや、その愛らしい容姿にも世の男性たちの支持が沸騰した。
もはや、彼女を知らぬ者など、ほとんど居なかったぐらいだった。
日本バレー界の期待は、特に大きかった。
次代のスターを得れる期待感からだろう。
実際、あの忌まわしい両親の事故さえなければ、今頃は当然のように全日本のメンバーに名を連ねていたはずだった。
「もう~早く朝ゴハン食べようよ、時間が無いしさ・・」
新一が、しんみりとした空気を打ち破った。
「あらあら、ホント、こんなことしている場合じゃないわね。さあさあ早く頂きましょ・・逢子ちゃんも早く座って
ゴハン食べちゃってね。」
母・良子の明るく優しい声に押されて、逢子は席に着いて食事を始めた。
「しかし、そうは言っても結構大変な学校生活になるぞ、これは。」
孝一は、心配そうな顔を見せた。
「そうかもね、なんせ学校の方も、凄く舞い上がってるからなあ~・・・中学とはいえ、全国的に知られたバレー界の
スターが、ウチの学校に、いち生徒としてやって来るんだから、そりゃあビックリモンだよ。」
新一が続けて相槌を打つ・・
「私は、あの新聞、雑誌が悪いと思うわ。」
いきなり良子が割って入ってきた。
「バレーに関する記事なんて、ホンのちょっとで、後は全部、男の子が興味惹きそうな逢子ちゃんの写真ばっかり、
それに、逢子ちゃんの趣味は何とか、好きな男の子のタイプは何とか、もお~最悪だったわ。」
吐き出すように続けて喋る良子だった。
「まあまあ、そりゃしょうがないさ、雑誌の方も売らんが為の方策だからな。実際、逢子は可愛いし、バレーの才能も
ある。だから男たちの食いつきもあると判断して記事にしたんだ。
まあ~腹は立つけど、認められている証拠と見て、嬉しいとも思っているんだ。」
「まあ!?、これだから男ってや~ね。あの写真を見て、毎日男たちのイヤラシイ視線に晒されているかと思ったら寒気が
するわ。女にとってこれ以上の屈辱はないのよ、第一逢子ちゃんは、タレントじゃ無いのよ。普通の女の子なの・・
分かりますか?あなた。」
アツクなって孝一に詰め寄る良子。
「分かってるさ、でもね、男の気持ちも、もうちょっとぐらい理解してよ良子さん。何も男全員が、逢子をいやらしい目で
見ているんじゃないと思うよ。中には、ああ可愛いな、こんな子が妹だったら、とか友達になりたいなとか、思っている子
もいると思うんだよな。」
「まあ・・そんなのは詭弁よ。あなた、何が男の気持ちよ、女の気持ちすら満足に理解していないのに、言う資格なんて無い
わ。だって私が、普段どういう気持ちで暮らしているか判ります?判らないでしょ。
あなたは、いつも遅くまで仕事、仕事で満足に休んでいないし、その上、家の用事もちゃんとこなしてくれているわ。
いつも一生懸命で、私は感謝しているのよ、だから心配なのよ・・いつ身体を壊すか・・
それなのにあなたは、いつも素っ気ない口ぶりで、心配するなの一点張り・・・もう嫌なのこんな気持ち・・」
「おいおい、泣くなよ。俺がいつ君を蔑ろにしたんだ?心配してくれてるのはありがたいけど、俺は本当に大丈夫だからさ、
心配しないでよね・・・・それに俺は女の気持ちは、よく判ってるつもりだけどなぁ~。」
「まあ・・どうだか~」
「俺はウソは言わないぞ。」
朝っぱらから、夫婦喧嘩とは・・・しかも論点がズレて来ているし。
「もう、止めなよ2人共さぁ~、そんな事はどうでもいいじゃん。問題は、これからの学校生活についてだろ?
興味本位で付き纏って来る連中をどうするかなんだ。そうでしょ?」
実に良いタイミングだった。
新一は、こうやって2人の喧嘩の仲裁を何度もやっていた。
やれやれ、またか・・・そんな呆れた表情からも、それが伺えた。
「それにさぁ~2人共いい加減にしなよ・・あれ見ろよ、逢子叔母さんうつむいちゃって食事してないじゃないのさ。」
2人が振り向いた先には、箸とお茶碗を持ったまま、黙ってうつむいている逢子がいた。
「ご、ゴメンな・・逢子」
「ごめんね・・・逢子ちゃん。」
息ピッタリの二重奏。
プゥー!!
肩を震わせて、思い切り吹きだしてしまった。
「あっははは・・ご、ご、ごめんなさあ~い。私一生懸命我慢してたんだけど、も、もうダメ・・きゃははは・・」
なんとも笑いが止まらない逢子・・・そして唖然とする3人。
「私たちの喧嘩って、そんなに面白かったの?あらいやだ、恥ずかしいわぁ~。」
「おいおい、なんだよう逢子、俺てっきり泣いちゃったかと思ったんだぜ。それを笑うなんて、どういうつもりだよ。」
2人して訝しがっている様子だった。
「お兄さん、お義姉さんごめんなさい。私、別にふざけて笑ったわけじゃないの・・・2人の言い争う姿が、あまりにも
似ていたから・・つい。」
「つい似ていた?・・」
孝一ははっとした。
逢子は思い出したのだ・・・両親の事を。
「親父とお袋の事をかい?」
「うん。似てたの・・・いつもお互いの事を思い合いながら喧嘩してんの。傍で聞いててもノロケているとしか思えない
ぐらいに・・本当に仲が良かったわ。」
「でも、思い出させちゃってごめんなさいね、私、そんなつもりで言った訳じゃないんだけど・・」
バツが悪そうに、しょげかえってしまった良子だった。
「うううん、いいのお義姉さん、そんなに謝らないで下さい。私ね嬉しかったの・・お父さんやお母さんの事を思い出せて・・
あの事故以来、私の記憶の中から、そういう楽しかった頃の思い出なんて、まるで抜け落ちていたから。」
「つまり、父さんや母さんらを見て、相変わらず仲がイイなとか、相変わらずバカだなとか思っちゃったって訳ね。」
「うん、そうなの・・・あ!ああ!?違う、違う、あのぉ~私、バカだなって思っていませんよ、お兄さんたち、な、
仲がイイなあって思っていますよ・・本当ですよ。ハイ・・」
天然のノリツッコミに、一気に食卓が華やいだ。
「あははは・・おいおい、俺たちって、そんなにバカに見えるのかい逢子?」
孝一のイジワルなツッコミに逢子は、またまたうつむいてしまった。
新一は、全国的に有名になろうが、チヤホヤされようが、何1つ変わらず、内気で恥ずかしがりやで、その純粋無垢な心根
に、なぜか嬉しさを覚えた。
「はいはい・・あんた達、もう時間無いわよ、くっちゃべってないで早くごはんを食べてしまってちょうだい。」
良子の締めの言葉が出て、新一らは急いで残りの分を口に運んでいった。
今日は入学式だから、当然授業は無い。
新一は、本来なら休みの日だったのだが、逢子と一緒に登校することになった。
目的は、正式に柔道部のキャプテンとして始動するため、敢えてその最初の練習日として充てたからだ。
そしてもう1つ・・おそらく群がるであろう野次馬連中たちから、逢子の身を守る為でもあったからだ。
孝一と良子も、後から行くという事なので、新一と逢子たちは先に一緒に家を出た。
学校までの道を2人で肩を並べて歩く・・
新一はその時改めて逢子が、かなり目立つという事を思い知った。
小さい頃から柔道一辺倒だった為、身長はあまり伸びずに、足も短くO脚に曲がっていた。
その上身体を鍛え上げたものだから、肩幅、腰周りなどにがっちりと筋肉が付いてしまって一見したら、
まるで大きな弁当箱みたいだった。
新一の頭は、ちょうど逢子の肩口のちょっと下ぐらいにあった。
これじゃあ、まるで新一の方が、弟のような感じで見えてしまうようだ。
遺伝的に丸顔は一緒だが、後は全然・・ダンゴ鼻に、太い眉に、小さい目玉・・ちょっと幼く見えて愛嬌があるが、
まあ平々凡々たる顔であった。
その横の逢子はと言うと、すらりと伸びた背丈、足、腕も同様にすらりと長い。
歩いていくうちに、次第にぽつぽつと新入生らしき女の子たちが見えてきたのだが明らかに頭2つ、いや3つは抜けていた。
そんな自分が恥ずかしいのか、終始うつむき加減で歩く逢子。
そんな中、目ざといヤツが逢子の存在を知って、大きな声を上げた。
「あ、橘逢子だ。おいおいあれ、バレーの橘逢子じゃないのか?」
「え?そう?」「ああ、本当だ。」
「スッゲーでっけ~な。」「すんげぇ可愛いなぁ~ヤバクねぇ?」
2人は、たちまちに囲まれてしまった。
当然の如く、道の真ん中で大渋滞となってしまった。
もみくちゃにされる2人・・スターと触れ合えるとあって、みんな興奮気味になっていた。
「キャー!!」
その時人ごみの渦の中から、突然耳を劈くような悲鳴が轟いた。
渦が散開していった・・・そしてその中から、うずくまっている逢子が見えてきた。
「ど、どうしたんだ逢子ちゃん?」
びっくりして駆け寄る新一。
「お、お尻触られた・・」
顔を真っ赤にして、泣き出しそうな顔を新一に向けた。
「おい、こらお前らぁ~!いいかげんにしろよ。こっちが大人しくしていると思ったら、ズケズケと踏み込んできやがって・・
この娘はなぁ、お前らと一緒の15の女の子なんだぞ、芸能人とは違うんだ、普通の学生なんだぞ、それを・・・
何やったか分かってんのか?おお? おい誰だよ、誰なんだよ・・出て来いよ・・おらぁ!。」
怒りで一気に捲し立てる新一。
周囲の人だかりは我関せずとばかり、ちりじりに散っていった。
「おい、いいかぁ・・俺は星村高校柔道部キャプテン橘新一だぁ・・今度こんな事があったら容赦はせんぞ、分かったか?
これからこの娘に、何かあったら俺だけでなく、柔道部一同が相手になってやるからな!!」
必要以上に脅しのセリフを吐く新一。
それは逢子を守る上において必要な防波堤を築く為だった。
大きな身体をしているが、その心の中は小さい野うさぎのように、いつもプルプル震えていた。
傷つき易い柔らかい心の持ち主なのだ。
そんな女の子が、これからずっと学校で社会の中で、絶えず好奇な目で見られ続けられるのだ。
まだ15の子供に、それが耐えられようか・・・
新一に一抹の不安が過ぎった。
「大丈夫か?逢子ちゃん。しっかし災難だったなぁ~まさかこんなに人が集まるなんて・・ゴメンな。ちゃんと守れなくて。」
「大丈夫です。こっちこそゴメンなさい。私の方も、あんな大声出さなくても良かったんだけど・・ついビックリしちゃって。」
「出して良いんだよ・・悪いのはアッチのやつらなんだから・・ったく何て野郎たちだ。」
「でも、助けてくれてありがとう新一さん。ホント、いてくれて良かったです。」
にっこりと笑って新一に感謝の言葉を述べた逢子。
そのあどけない笑顔に、さっきまでの怒りはどこへやら・・不思議と和らいだ気持ちが胸いっぱいに広がった。
「さぁ~気持ちを取り直して、学校へ行こうか逢子ちゃん。」
「ハイ!!」
午前10時を回って学校の体育館にて、厳粛な雰囲気の中、入学式が執り行われた。
新一も校庭でのランニング中だったが、ちょっと見たくなったので体育館に寄って、窓にその顔を張り付けた。
遠目でも逢子が何処にいるかは一目瞭然だった。
顎を引いて真剣な面持ちで校長先生の祝辞を聞いていた。
「う~ん。逢子ちゃんヤル気まんまんだなぁ~」
一人ご満悦な新一・・・・思わずニヤける。
そしてちょっと視線を右に向けた。
「あれ?」
そこには1組の夫婦が人目憚らず泣きじゃくっていた。
「あっちゃあ~あれは父さんかぁ?母さんもなんだい・・俺の時なんか泣かなかったクセに・・」
でも悪い気はしなかった・・・・家族全員が、本当に彼女の味方なのだと分かるからだ。
その時、幸せ気分の新一の肩をチョンチョンと突っつく奴がいた。
(ん?・・誰だ?)
何気なく振り向いた瞬間・・・「げっ、な、何だ?お前ら・・」
なんと、柔道部員9名全員勢揃いしていたのだ。
「キャ~プテン、ランニングサボって何見てんスか?えへへへ。」
「噂の逢子ちゃん見てたんスか?」
「まったくスミにおけないなぁ~おい新一よ、俺たちにもちゃんと紹介しろよ。」
ガヤガヤうるさく喋り出す連中・・
「おい、し、静かにしろよ!今、入学式の真っ最中だぞ、見たいのなら黙って見てろ。いいな!」
「ウィース!」
バカが・・そんな野太い野郎の声が9つも重なれば、否応なしに気づかれてしまうのに・・・
「こらぁ~!!な、何だお前らは!!柔道部の連中か、ここで何しているんだぁ~!!」
校長先生の怒声が響いた。
新入生、親御さんたちが一斉に窓側を向いた。
その瞬間、顔を覆う母良子、うつむいたままの父孝一。
逢子は、その時新一の顔を発見した。
そして、にっこり笑って手を振った。
「あっ、キャプテン、逢子ちゃん、手を振ってますよ。」
「ああ・・本当だ。か、可愛いなぁ~逢子ちゃん。お、おお~い!!」
応えるように、手を振る9人の部員たち。
しかし唯一人呆れかえる新一・・なぜか手を振るのを躊躇した。
でも、ずっと手を振り続ける逢子を見ている内に、いとおしい気持ちが湧いてきた。
「バッカモ~ン・・お前ら早くそこから立ち去れ~!!」
校長先生の怒声が増々勢いついた。
「い、いっけねぇ、おいお前ら逃げるぞ。」
「ウィース!」
そして新一は、そのまま敬礼のポーズを取った・・・もちろん部員も全員同じく。
「失礼いたしました!!」
その掛け声と共にグランドに駆け出していった。
場内は爆笑の渦だった。
新一は、その時、チラっと逢子を見た。
コロコロと笑っている表情が見えた。
それはまるで可愛い子猫が無邪気に遊んでいるように見えたのだった。
「こらぁ新一!!お前、よくも俺に恥かかしやがったな。」
「そうよ、もう~お母さん、どんだけ恥ずかしかった事か・・もうあんたって子は・・」
両親が怒るのも無理なかった。
あの後、校長先生や、他の先生達全員に平謝りしたそうだ。
「ごめんよ~俺1人だったらちゃんと見つからなかったのに・・あいつらが・・くっそう。」
「あいつらじゃない、そもそもお前が行かなきゃこんな事にはならなかったんだ・・人のせいにするな!!」
父孝一の一喝に、さしもの新一もシュンとしてしまった。
「でも、まあ今日の式は良かったな。天国の親父とお袋もきっと満足してくれただろうな。な?そう思うだろ新一。」
「ああ、そうだね。きっとそうだよ。」
「ええ、私もそう思いますわ。」
何時の間にか、仲良く会話する親子3人。
逢子は、その光景を羨ましそうに見つめていた。
「あっそうだ逢子ちゃん、これから柔道部員全員を紹介するから、一緒に来ないかい?」
「ハイ、行きます。」
1つ返事で承諾した逢子は、ピタっと新一に寄り添った。
「まぁ~こうして見ると、なかなか仲の良い兄妹に見えるわね。ほほほ・・」
2人の姿に微笑ましさを覚えた良子。
「じゃあ俺はこれから仕事があるから、先に行くわ・・後はちゃんと逢子を頼むぞ。」
孝一は、そう言って良子と連れ立って足早に去っていった。
そして逢子は新一と一緒に柔道部の部室を訪れた。
「ウオ~」
突然のスターの来訪に色めきたつ部員たち。
「みなさん初めまして、橘逢子と申します。どうぞよろしくお願いします。」
「ウィース!!」
新一は部員一人一人を紹介していった。
みんな、もうデレデレだった。
「って言う事は、逢子ちゃんはキャプテンと、どうゆう関係になるんですか?」
「何言ってんだよ、当然イトコに決まってるだろ、イ・ト・コ・・・それ以外に何があるっつうんだよ。」
「そりゃそうだよな、2つ違いだから、それ以外にないじゃんね。」
部員たちは、彼女が説明する前に、もう勝手に盛り上がってしまっていた。
「あのう~違うんです。」
可愛く小首を振って、やんわりと否定した。
「あのな、お前ら、聞いてビックリすんなよ。実はな、俺と逢子ちゃんとはなぁ・・」
そこで一旦息を止めて、周りを見回した。
「叔母と甥っ子という関係なんだ。」
「ええ~?!!」
案の定、予定通りのリアクション・・
「ど、どうゆう事よ~、そんな関係ってアリなの?」
「まあな、実は俺の親父と逢子ちゃんとは25も離れた兄妹なんだ。祖母ちゃんが21の時に親父を産んで、それから
46の時に、再び逢子ちゃんを産んだってことなんだ。」
訳が分からずに不思議そうにしている顔が9つ並んだ・・・
「そうなると、キャプテンは年上の甥っ子で、逢子ちゃんは年下の叔母さんになるわけね・・何か変だなぁ~。」
確かに変な親戚関係ではある。
大昔の大家族なら、おそらくあった事かもしれないが、核家族化が進む現代においては極めて珍しい現象といえる。
「よっぽど、愛してたんだろうな~お祖父ちゃんとお祖母ちゃん・・でなきゃそんな年数が経ってから子供なんて
できないからな。」
この言葉に、逢子は即座に反応した。
「はい。私もそう思います。父はず~っと女の子が欲しかったって言ってました。なのにずっとできなくて・・・
もう諦めた頃に出来たものだから、物凄く喜んだって、母がいつも言ってました。
それで、ようやく出逢えた奇跡に感謝して「逢子」って名づけられたんです。」
部員たちもしんみりと聞いていた。
すると1人の部員がいきなり大きな声を出した。
「あ、あのう逢子ちゃん・・・出来たら、俺たち柔道部員のマネージャーやってくれませんか?お願いします。」
「あ、俺も・・」「俺もなんだ・・」
突然に、その声の波が9人全員に波及していった。
「おいおい、お前らバカか?逢子ちゃんが一体今、何をしているか分かって言ってんのか?」
「はい・・バレーです。」
「だろ。いいかこの子はな、あんな事故さえ無かったら、今頃は全日本のメンバーに入っていたんだぞ。
それにこの高校でもバレーをやるんだ。おそらく学校側も、全国大会出場はおろか優勝まで期待しているはずだ。
1年ぐらい経ってから、生活や精神状態なんかが安定してきたと判断されたら、即座に全日本から声が掛かるはずなんだ。
だからもう明日から早速バレー漬けの毎日なんだ・・なのに片手間みたいな感じで、ここのマネージャーなんかできると
思ってるのか?ちょっとは考えてからしゃべ・・」
「私、ここのマネージャーやりたいです。」
新一の話を遮るように逢子はいきなり意思決定を口にしてしまった。
「ええ??ホントー?」
思わず沸き立つ部員達・・・
口を開けたまま・・の新一。
「だってぇ~このまま、またバレー漬けの毎日なんて面白くないんですもの・・せっかくの高校生活なんだから、もっと
色んな事がしたいんです。」
ランランと瞳を輝かせる逢子・・だけど。
「でもねぇ・・やるといったって一体どうするの?バレーの練習時間って、いつも大体夜の7時ごろまでだろ、俺たちの
練習時間は、まあ遅くても6時までだし・・・そうなると、マネージャーとしてすることもできないしなぁ・・」
何とか止めさそうとする新一・・・・これは当然か。
「だったら、練習時間を延ばせば良いだけじゃんか・・なぁ?」
「おう、そうだぁ!!」
「それに昼休みの時間も練習に充てれば良いしな。」
「おう、そうだぁ!!」
「洗濯物は、今まで通り俺たちで洗えばいいんだし、後は、俺たちの練習を見守ってくれれば良いだけなんだから。」
「おう、そうだぁ!!」
部員たちは抜群のコンビネーションで話を決定させていった。
「おいおい、お前ら今まで、そんなに練習熱心だったかぁ?・・俺がさんざんハッパかけても、ちっとも動かなかったくせに」
呆れた顔で部員たちを見渡す新一。
「あの、事情が変わったんスよキャプテン。」
「そうです、俺たち今まで女の子に、全然縁が無かったから、嬉しいんス、だから頑張れそうなんスよ。だから・・」
「おねがいしま~す。」
最後は部員全員の声出しだった・・・
「新一さん、私からもお願いします。今日の朝、助けてもらったお礼もあるけど・・でも」
「そうスよ、今日の朝みたいな事が、また起こるかもしれないじゃないですかぁ・・俺たちで逢子ちゃんを守りましょうよ。」
「そうだ、そうだ!」
みんなの熱意はホンモノだった。
「しかし、バレー部の連中が認めるかなぁ?おそらく無理だろうなぁ。」
新一には、無理だと言う事が判っていた。
だが・・
「いいえ、もし認めてくれなかったら私・・バレー部を辞めます。」
「よっしゃ~決まったぁ~いいぞ逢子ちゃん!!」
結局、逢子と部員たちの熱意に押し切られてしまった。
そして日が暮れて・・みんなそれぞれの家路に消えていった。
新一と逢子も、テクテクとゆっくりとした足取りで家に向かっていた。
「なあ・・逢子ちゃん。どうして柔道部のマネージャーなんかやりたいって言ったの?」
「え?」
「いつもはあんなに自分の意思なんかを全面に出さないのに、今日に限ってなぜなんだい?」
「え・・あの、そのう・・・」
先程までの勇ましい姿とは一転して、いつもの逢子・・・もじもじして何も言い出せない内気な娘だった。
「俺は分かってるつもりだよ・・・君は今、バレーに対して戸惑いを感じているんじゃないのかい?どう?」
優しく問質す新一・・・すると逢子の顔から、はっとした驚きの表情が飛び出した。
「はい・・そうなんです。私、最近バレーをやってて怖いって思う事があるんです。
私、入学前に先行してバレー部の合宿に参加したんだけど、みんな勝つ事ばかり追求していて、
楽しい雰囲気なんて何処にも無いんですよね・・橘逢子が来たんだから、全国大会へ行って優勝するぞって
みんな、私に期待しているんですもの・・正直プレッシャーで辛いんです。
楽しくやっていた中学の時だって、優勝した後、みんな変わっちゃったんだもの・・またそれが続くかと思うと・・私。」
「逢子ちゃんってさ、みんなで楽しみながら何かをやるってのが好きだったんだよな。
みんなでワイワイガヤガヤとくっちゃべったり、騒いだりして、楽しくやっていたんだよな・・分かるよ楽しいってのは。
でも、やっているうちに次第に目的や、目標なんかが出来てくるってのは当然なんだよ・・
いつまでも遊びでやっているなんて事は無いんだよ・・楽しさの次には面白さが生まれて、そして目標が生まれるんだ。
みんな何時までも子供のままじゃないんだよ・・・目標ってのは、生きる上での指標なんだから。」
新一は逢子に対して優しく諭していった。
「私だって、いつも真剣にやっていました。決して遊びの延長なんかでバレーはやってません。
やるからには勝ちたかったし、優勝もしたかった・・・でも、前までは、例えミスがあっても、
ドンマイって言ってみんなでかばって、カバーしてたのに、優勝して強豪テームって見られるようになってからは、
ちょっとでもミスしたら、そこを指差して、なじるようになっていたんです。他のチームから目標とされるように
なってから、みんな変わってしまったんです・・・」
そう言うと、ポロポロと泣き始めた。
「あっああ~ゴメン、泣かないで・・俺が間違ってたようだね。
君は、間違ってなかったようだ・・君を子供扱いにした俺がバカだった。」
慌てた新一は泣きじゃくる逢子の肩をぎゅっと抱きしめた。
ちょっと背伸びしたから、つま先が立ったままの何とも不恰好な姿勢だったのだが・・・
逢子は、甘えるように顔を新一の肩に横たえた。
髪の甘い匂いが、新一の鼻をくすぐった・・静かに泣きじゃくる声を心地よい気持ちで聞いていた。
翌日、新一は女子バレー部顧問の先生を訪ねて、逢子の柔道部マネージャー兼任の件の了承をお願いした。
当然の如く顧問は思いっきり不快感を示した。
橘逢子は、全国的に知られた天才アタッカーだ、全国の高校女子バレー界では、憧れであり目標でもあるのだ。
そんな子が我がバレー部に入ってきた以上、まずは県内での大きな目標とされてしまった。
ゆえに無様なバレーなど見せれないのだ・・なのに片手間で柔道部のマネージャーをするなんてもってのほかだ。
満足な練習もできやしないし、特にコンビネーションの練習は時間が掛かるのだ。
それよりもなにも、男所帯の柔道部に女の子が1人ってのが、危険極まりないのだ・・と。
予め想定してた通りの答が帰って来た。
新一は逢子の心情に沿って1つ1つの懸案を処理していった。
まず、逢子には過剰な期待をかけないと言う事を説明した。
逢子1人の加入で、いきなり全国だ、優勝だと口にするのは、逢子1人に過剰な期待をしている証拠だ。
まだ15の女の子に、それは酷ではないか。
そして彼女は今の勝利至上主義に対して大きく不満を持っている。
それは、彼女への過剰なまでの期待の延長線上にある。学生らしく楽しんで何かを得るといった環境に無いのだ。
今は学生らしく、みんなで楽しんで目標を持ち、達成していきたいと願っている。
今は彼女の心の成長を促がすのが先決なのでは・・ましてや彼女は両親を無くして間が無いのだ。
心のキズを癒す時間を与えてやってもいいのでは、まだ1年生なんだから、あと2年以上もある・・
それに今彼女が希望するものは、我が柔道部にある、確かに野郎ばかりのむさくるしい所だけど、気の良い連中ばかり
だ、それに自分がしっかりと監視するから大丈夫である。
・・と説明を丹念に繰り返した。
それでも顧問の不満は残った。
仕方なく、これが認められなかった場合は、逢子は直ちにバレー部を辞める意思があるということを伝えた。
そこでやっと渋々だが、なんとか認めてくれた。
この結果を部員全員に伝えた。
みんな一斉に歓喜の声を上げた。
「よ~しいいかぁみんな、今日から我が柔道部の練習は今までの3倍の量となるが、覚悟はいいか?」
「ウィース!!よーしみんなぁ、今度の春の地区大会の目標はベスト8だぁ~」
「うわぁ、セコ・・・思い切って優勝って言えんのか?折角、逢子ちゃんがマネージャーでいてくれるんだから、
頑張って優勝を狙おうぜ!!なぁ!!」
「ウィース!!」
「それから逢子ちゃん、君もこれから大変になるけど、大丈夫かい?」
「ハイ!!大丈夫です。私、一生懸命頑張ります。もちろんバレーも頑張ります。みなさんも頑張ってくださいね!!」
「ウィース!!」
「よ~し、これから練習に入るぞ、まずは乱取り稽古からだ。」
「ウィース!!」
その日から、柔道部の活気に溢れた練習が始まった。
早朝トレ、昼間のランニング、夕方からの練習と・・・今までの3倍の量をこなしていった。
逢子も、マネージャーらしく甲斐甲斐しく世話をしていた。
早朝トレも一緒につきあい、昼のランニングも大きな声で励ましていた。
夕方の練習も、バレー部の練習が終了した後に、1人買い出しに出かけて、柔道部員のお腹の面倒も見た。
部員たちの顔つきも次第に厳しいオトコの表情と変わっていった。
あの橘逢子が、ここまで一生懸命応援してくれているんだ、これに応えずしてなんの男か!・・
部員たちの気持ちが1つになっていった。
「ありがとう逢子ちゃん。」
新一は、ある日の夕食の食卓で逢子に礼を言った。
「そ、そんなぁ~、私こそお礼を言います。あんな楽しくて密度の濃い練習を見るのは久しぶりです。」
「そうかぁ~?俺には、まだまだ足らないって気がしているけど・・」
「いいえ、私は凄いって思います。だって一気に3倍の練習量に増えたのに、誰からも文句が出ずに、黙々とこなして
いるし、誰かがミスしたりしても、全員でカバーするように声を出し合っていますよね・・あれいいですよねぇ。」
「君の理想が目の前にあるわけなんだな?」
「ハイ!そうなんです。」
逢子は当初この家にやって来た時より、よく喋るようになっていた。
環境に慣れ始めてきた証拠だろう・・・新一は、この可愛い子猫を優しい目で追っていた。
「さあさあ・・お待たせ。今日は私特製のカレーでござ~い。たくさん食べてね。」
母、良子の明るい声が心地よく3人の耳に響いた。
「おっ今日はカレーかぁ・・良子さんが手を抜きたい時に作る特製カレーだぁ!!」
父・孝一の素っ頓狂な声と、そのとぼけた内容に、思わず大笑いの2人・・・
「それに、お前の方も大変なんだろう?何もそこまで新一の後をついて行かなくてもさ・・朝なんてもっと寝てれば
いいのに・・。」
孝一の心配はもっともだった。
いくら若いといったって、ハードな練習を課せられるバレーと平行して、柔道部の面倒を見るなんて実際無茶な話だった。
「いいえ、大丈夫です。だってバレーの練習だって早朝からあるからちょうどいいんですよね。
朝は同じ体育館内での練習だから、みんなの練習も見れて励みになるの・・私、今とっても充実しているの。うふふ・・」
屈託のない笑顔を見て、孝一、新一親子は、もう何も言えなかった。
そうこうしてバレー、柔道の2足わらじの生活が1ヶ月過ぎていった。
相変わらず放課後の女子バレー部の練習には、見物の人、人、人・・・凄い盛況ぶりだった。
「逢子ちゃ~ん、可愛い!!」「頑張って!!」
長い手がしなり、身体の半分はあるのではと思わせる長い足が空を跳ねる・・・
まるでこの世の者とは思えない美しい生き物が、目の前で華麗に躍動していた。
全ての観客たちは、彼女の動きだけを追っていた。
練習終了後は、着替える間もなく、柔道部の道場へ一直線。
そこでは今日も地道な反復練習を行っていた。
「はい!次は、腹ばい5周です。ヨ~イ始めぇ!」
逢子の掛け声と共に、部員10名の腕引き前進運動が始まった。
「山本さん、頑張って~」「吉田さん、しっかり~」「権藤さん、顎を上げてくださ~い!」
逢子の声に奮い立つ部員たち・・
バレーユニフォームのままで応援する逢子・・連中は、その長く綺麗な脚を見て、ありったけの根性を見せた。
やがて1人遅れ始めた・・・そして最後1人になってしまった。
全員は声を出して応援した。
「頑張れぇ~、あともうちょっとだ。」「頑張って!!あと半分よ!」
逢子の懸命な表情を見て、最後の力を振り絞ってゴールした。
「逢子ちゃあ~ん、やったよぉ~ん」
「よっしゃあ!!」
全員で目指す柔道部・・逢子の笑顔が大きく華やいだ。
夜8時・・練習終了。
帰り道・・柔道部全員が逢子の周りを取り囲んで家路に向かった。
そして、やがて新一と2人きりになった。
「いよいよ明後日が、俺がキャプテンとしての最初の試合となる大会だ・・う~ん緊張するなぁ。」
「私もです。もうみんなには是非頑張って欲しいです。」
「ここまで来れたのも、みんな君のお陰だな・・感謝してるよ。」
素直に頭を下げる新一。
「いえ、そんな・・私なんて何にも役になんか立ってませんよ・・どうか頭を上げてください。私困ります。」
首を小さく振って新一を見る逢子。
街灯の明かりに、ぽぉ~と浮かび上がる逢子の表情・・甘えた仕草の子猫の表情に似た可愛らしさがあった。
何の気なしに新一の手が逢子の頬を触った。
そして何の抵抗も無く、ただじっとしている逢子。
ほんのしばらくの静寂・・・
「新一さん?・・」
逢子の戸惑う小さな声に、はっとする新一。
「あ、ああ、ご、ごめん・・・お、俺ちょっと変だったなぁ・・あは、あは・・気にしないでね・・俺何してたんだ?」
思いっきり狼狽する新一。
「あ、ああ、家が見えてきた。さあ~ここから走って帰ろうか?」
足早に目の前に見える家に向かう新一・・・・一度も振り返らずに、ただ一直線に・・・
逢子は、触られた頬を左手で覆った。
何か満足そうな笑顔を浮かべた・・・そして、いとおしそうに頬を押さえて小走りに新一の後を追っていった。
次の日の午後・・・明日に大会を控えているので、軽い乱取り稽古で調整した。
「うりゃ~!!」「さぁ来い~!!」「うっしゃあ~!」
勇ましい声と共に、次々と投げが決まっていた。
「すみませ~ん。遅れましたぁ~」
逢子が息を切らしながら、道場に駆け込んできた。
急いで靴を脱いだ時、焦っていたせいか右足のかかとが、畳の上で滑ってしまった。
ズテ~ン!!
思わず、お尻からずっこけてしまった逢子・・・
スカートがめくれ、真っ白いパンティが、野郎たちの20個の目玉の中に映し出された。
「きゃあ!!いや~ん!!」
急いで前を塞いだ逢子・・・しかし、時すでに遅し。
ちょうど投げを打たれた瞬間だった・・投げられた3人は、つい受身を忘れた様で、全員顔から落ちていた。
その3人の中には、あらら・・新一も含まれていたようだ。
顔を擦ったようで、右の頬から血が出ていた。
他の2人も同様に、鼻血や、口の中を切ったりしていた。
「おいおい、大丈夫か?新一?おい、お前らも・・」
「アイタタタ・・まあちょっと顔を擦っただけだ、何ともないさ・・それよりも、おい、お前らはどうだ?」
もう一方のケガをした後輩たちを気遣う新一。
「ちょっと、切っちゃいましたけど、大丈夫ス・・でも、何か良いモノ見ちゃいましたよね・・グフフ。」
「俺も・・グフフ」
下品な笑い顔が部員全員に広がった。
「バカ野郎、何て顔してんだぁ、お前らは~、あんな事で気を取られるなよ、情けない!!」
「キャ~プテン、その言葉、あなたに、そっくりそのままお返ししまっせ・・」
「あははは・・そうだ、そうだぁ~!!」
10人の野郎の輪から一斉に笑い声が響いた。
「退いて、退いて、退いてくださぁ~い!!」
その声が響いた瞬間、10人の輪が吹っ飛んでしまった。
逢子が救急箱片手に、猛然と突っ込んできたのだった。
「だ、大丈夫ですか?!!」
気が動転しているらしく、大きな声で新一に呼びかけた。
「ああ、血が出てるぅ~、ごめんなさい、本当にごめんなさい・・私のせいだぁ~・・」
猫みたいに大きくて丸い瞳が潤んでいた・・そして頬に涙が伝っていた。
ポロポロと泣きながらも、白棉に消毒液を染み込ませ、傷口を拭いて素早くバンソーコを貼った。
「頭は大丈夫ですか?」「首は痛くないですか?「背中は・・」
矢継ぎ早に問質していく逢子。
「あのぉ~僕たちも血が出ているんだけど・・ちょっと見て・・くれませんよね、ハイハイ判りました。」
逢子には、もう一方のケガをした2人の声など聞こえてはいなかった。
みんなの手前、バツの悪い新一だった。
「なあ、逢子ちゃん。俺は、もう大丈夫だから、こっちの2人も診てやってくれよな・・こいつらも被害者なんだからさ。」
「え?あ・・ああゴメンナサ~イ!! 直ぐ診ま~す。」
部員全員がニヤニヤしながら、新一を見た。
熱くて仕方ないとばかりに道着の襟を掴んで、パタパタと扇ぐ仕草を全員やった。
それを見て、居心地が悪くて思わず首をすぼめる新一だった。
「お~い、明日の大会は絶対頑張ろうなぁ~」
新一の、ハリの無い細い声が、空しく部員全員の耳に響いた。
そして帰り道・・片時も新一の傍を離れずに寄り添う逢子。
新一には、それがなぜかムズ痒かった。
遅い夕食を終え、自分の部屋で明日に備えて軽い屈伸運動をしていた時、「コン、コン」と、ドアを、
ノックする音がして、逢子が携帯用救急セットを携えて入ってきた。
「もう1回だけ消毒して、バンソーコを貼り替えて置きますから・・」
「い、いいよもう、単に顔を擦っただけなんだから、逢子ちゃんも、もう気にしなくても良いからさ・・
早く部屋に戻んなよ。」
軽く拒否をする新一・・だが逢子は引き下がらない。
「いいえ、このままでは私の気が済まないんです。あと1回だけ診させてください、お願いします。」
深々と頭を下げる逢子。
こんな事で、揉めるのもなんだと、仕方なく逢子を部屋に入れた。
「今日は本当に済みませんでした・・・私ってホント、あわてんぼなんだから、困っちゃう。」
白棉でキズ口を丁寧に拭きながら、バンソーコを貼った・・新一の前に、逢子の顔が近づいた。
一生懸命に新一のキズ具合を診る逢子・・その表情に可愛いと思う感情とは別の何かが新一の心を放さなかった。
チラっと下を覗いた。
上からの視線の先にはブラウスの隙間から見える白いブラがあった。
ほんのりと盛り上がった丘に、新一は急に緊張した。
「今日は災難だったね・・俺たちの前でこけちゃってさ、その、あの・・・下着が見えちゃって・・・さ。」
「あ・・ああ、あれ・・まあ、ちょっとしまったなぁ~と思ったけど、履き替えてて良かったです。
私たちの練習って結構ハードでしょ・・終わったら下着も何もかも汗でびっしょりだから、全部履き替えちゃうんです。
だから、あの時は綺麗なパンツだったんで、まあ、助かったかなってね。アハハ・・」
屈託の無い15才の笑顔・・・あどけない瞳に、優しい光が宿る。
「ああ、そうなの・・ふ~ん。つまり逢子ちゃんってさ、いつも白なんだね?15なんだから当然か・・ははは。」
2人だけの親密な空気に酔っ払ったのか、つい軽口が突いて出た。
「え?・・あ、あのう~そ、それは、そのぉ~・・」
真っ赤な顔でうつむく逢子・・
しまったぁ・・・慌てて取り繕う新一。
「ご、ごめん、俺、ついバカな事、聞いちゃった・・・あっちゃあ、無神経だよな、俺って・・・」
「じゃあ、私はこれで・・」
慌てて、救急セットをしまって、急いで部屋を出ようとする逢子。
ゴィ~ン・・・
ドア扉の上の部分に、またまたおでこをぶつけた。
「いった~い!!」
額を押さえてうずくまる逢子・・慌てて駆け寄る新一。
「大丈夫かい?逢子ちゃん。また打っちゃったみたいだね。」
すっと逢子の肩に手を置いた。
しかし意外にも、想像していたのとは違って、随分と華奢な肩だった。
誰もが、たじろいでしまう程の強烈なスパイクを繰り出す発射台としては、拍子抜けするぐらいの細さだった。
「あ~あ・・また赤くなっちゃってる・・そんなに慌てて出て行かなくてもいいのに・・まあ俺が悪いんだけどさ・・はは」
そう言いながら、肩に置いた手を、ぐっと手前に引いた。
逢子の顔が新一の胸元に、すっぽりと収まった。
「あっ・・」
小さく呟いた逢子。
速まる脈拍を実感する新一。
(ああ・・困ったなぁ~何でこんな事を・・恥ずかしいなぁ・・・。)
トクトクと早鐘を打つ鼓動・・・悟られたらどうしよう。
あれこれと別の事を考えても、逢子の吐息が新一の胸を突っつく度に、鐘の連打が続いた。
甘い花の香りが鼻をくすぐる。
やけに股間が痛くなってきた・・・若い新一には、たまらない状況だ。
「も、もう痛くは無いかい?」
努めて冷静に言葉を出す・・・が、震えてしまった。
「は、はい。もう大丈夫です。」
逢子も、同様に小さく声を出した・・ちょっと震えているみたいだった。
「わざわざ診てくれてありがとう。」
そこまで言うのがやっとだった。
「いえ・・」
か細い声・・・逢子は、散らばった救急セットを拾い上げて立ち上がった。
「それじゃあ、おやすみなさい・・」
「ああ・・おやすみ。」
逢子は新一に背を見せながら、チョコンと小さくお辞儀をしてドアを開いた。
その時、ふいに・・・
「あのう・・」
「ん?何?逢子ちゃん。」
ふいの一言に、思わず反応する新一。
「私・・・ブルーが大好きなんです。」
そして振り向いて新一の顔を見た。
真っ赤に染まった頬・・・はにかんだ笑顔。
もう1度、今度は深々とお辞儀して部屋を出て行った。
ゴ~ン・・・
またやった・・・今度は自分の部屋の前で、おでこを擦っている逢子。
プッ・・ククク。
思わず笑いが出る新一だった。
(ああ、何ていじらしくて可愛い子なんだろう。)
ただただ無性に愛しく思った。
翌日は日曜日・・戦いの1日が始まった。
いつもは2回戦あたりが精一杯の彼ら団体戦だったが、今年は違う。
今年の彼らは、ひと味違っていた。
可愛い女神が、この1ヶ月間彼らの意欲を後押ししたからだ。
そして彼らは、この後その女神の凄い力を、まざまざと見せ付けられる事となる。
1回戦・・星村高校入場。
「あっ、あれ橘逢子じゃないのか?」
「え?ウソ・・あっホントだ!!」
「ホント、スッゲェ~可愛いな。」
目ざとく逢子を見つけた観客・・そしてざわめく会場・・異様な雰囲気が漂う。
「ウオォ~ン」
会場全体が逢子の存在を認識した雄たけびだった。
会場は星村高校を無条件に応援した・・そりゃそうだ、負けりゃ逢子を見れなくなってしまう。
一方の相手高校のやり難さは想像を絶した。
四面楚歌・・・本来味方であるべき本校の応援団も、裏切ってしまったのだ。
それに加え、星村柔道部員の張り切り様は凄かった。
「ガンバッテ!!」「そこ、足が開いてる!」「もうちょっとよ、山本さん!!」
逢子は、1人1人、一生懸命応援した。
自分だけの為の応援・・その瞬間だけは彼女は己1人だけを見ているのだ・・
ヒーロー気分を味わう面々。
一方逢子は、技が決まれば、ハデに飛び跳ね、笑い、そしてガッツポーズ・・
もう会場は逢子の姿しか追わなかった・・・そしてそこは即、熱狂ライブ会場と化した。
そして、気が付けば、もう決勝戦だった。
会場は全部星村柔道部一色・・・萎縮する相手校。
結果は明らかだった。
あっさり優勝。
全員で抱き合って喜びを爆発させた・・・そして、もうボロ泣き。
新一の個人成績だけの柔道部に、新たに1つの勲章がもたらされたのだ。
それも全員で勝ち取った価値あるものだった。
「さぁ~次は県大会、全国大会だ。そして俺も個人で頑張るぞぉ~」
「オッシャ~!!」
全員で声を上げて誓ったのだった。
「よ~し全員、逃げるぞ~」
新一の掛け声と共に、全員一斉に柔道着を着たままで駆け出した。
逢子と触れ合いたく押しかけた観客から逃げる為だった。
「逢子ちゃん、今日はありがとう、君のお陰で、なんと優勝だぁ・・あっはは・・」
「そんなぁ~、皆さんの実力ですよぉ~私なんて、ただ声出してただけなんですから・・あはは。」
「来週は、逢子ちゃんの番ですよねぇ・・今度は俺たちが応援するからね・・ねえ・・キャプテン?」
「ああ、そうだな・・お~いみんなぁ~着いて来てるかぁ?」
「ウィース!!」
逢子のお陰で、とんだ大脱走になってしまった。
(これからは専用バスが必要になるな)
逢子の存在の凄さを、マザマザと見せ付けられた1日となった。
だけど大会に出る度に、こう走っていたんじゃ身が持たない・・嗚呼、新一の悩みは尽きないようだ。
次の日から2週間、新一は逢子に柔道部マネージャーを休ませた(部室出入り禁止)。
大会に向けて、バレ-に専念させる為だった。
やはりというか、逢子は不服そうな顔をしていたけど・・・
楽しかった日々も今は無く・・
柔道部の連中も気が抜けた様な練習で日々を流した。
あの大会の余波で、道場を覗き込む人が増え、また入部を希望する野郎が多く殺到するといった現象が起きていたが、
彼女がいないと判ると、あっと言う間に消えていた。
もちろん、ウソの情報を流したのだけど・・・
結局は元のサヤで今までの10人だけが、そのまま代わり映えせずに残っただけだった。
新一も、どこか気が乗らない1人だった。
別に手を抜いている訳ではなかったのだけど、どこか集中力に欠ける所があったようだ。
家でも、ぼ~っとする事が多くなった。
次の大会は2ヶ月も先とあって、練習も軽め中心のメニューの段階だったせいもあって、どこか持余し気味の状態だった。
本来のバレー漬けの日々にどっぷりと漬かった逢子とは、逢う時間が極端に減っていた。
大会が近いということもあって、空いている時間全てをかき集めて練習の時間として充てていたからだ。
夜は9時を回ってから帰ってくる日が続いた。
もうヘトヘトの状態であるのは一目瞭然だった・・ここしばらくは笑顔など見たことが無かった。
うつろな目が、食欲よりも睡眠を欲していた・・母、良子が何とか食事をさせていた。
そして、ふらつく足取りで自室へ戻る。
でも、階段の途中で力尽きる逢子・・・たまらず肩を貸す新一。
逢子を部屋に入れると、着替えをするよう促がして部屋を出た。
すると暫くすると「バタン・・」と、ベットに倒れこむ音がした。
もう一度部屋に入ってみると、ボタンを外していて、上着を脱ぐところで力尽きていた。
スカートは既に下に落ちていて、下着1枚の状態だった。
暖かい季節だとはいえ、疲れきった身体に風呂にも入らずに下着だけで寝てしまっては、身体を壊しかねない。
新一は直ぐに逢子を起しにかかった・・・しかし反応は無かった。
昏々と眠り込む逢子・・疲労の極限状態だった。
普段の新一なら、母を呼び対処を任せていたはずだった。
しかし、この時新一は、それを行うのを躊躇してしまった。
マネージャーとして密接に会っていた時には、感じなかった感情が、今強烈に胸に迫っていた。
逢う時間の少なさ、交わせない会話、見えなくなった笑顔。
一緒に住むようになってから、無意識だけど徐々に募っていた思慕の念が、持余し気味の身体と心の中に入り込んでしまった。
新一は、恐る恐るボタンの外れた上着を脱がした。
上下ブルーの下着だけになった逢子・・・依然云ってた好きな色柄だった。
ほんのりと盛り上がった白い胸・・こんもりとした下腹部。
異常に長い手足には、無数のアザが刻まれていた・・・苛烈な練習を声高く主張しているよう。
身体は大きくとも、どこか幼さを感じる造りに見えた・・そりゃあ、やはりまだ15才だからだろう。
新一は、そっと胸に手を当てた。
柔らかい・・・まるでマシュマロを掴んだ時の感触に似ていると思った。
少し握っては放し、また握る・・・逢子は深い眠りの中・・ピクリとも動かなかった。
そして次にブルーブラを上にずらした。
そこには初めて見る、若い女の子の乳首があった。
薄いピンク色の可愛い蕾だった。
勢いづいた新一は、直ぐに下のブルーパンティをずらしに掛かった。
荒い息遣いが止まらなかった・・・そしてその行動も。
少しずつ、ずらすパンティ・・・・ゆっくりと薄く生えている陰毛が見えてきた。
初めて見る女の秘密の箱の中身。
新一は、そこで女の子には、男の子にはあるべきものが無いのだというのを本当に理解したのだった。
そしてキチンと閉じた両足を左右に広げた。
すると洞穴のようなものが目の前に見えた。
(これがオマンコと呼ばれるモノなんだな・・すっごい!何か別の生き物みたいだ。)
そして洞穴の上にあるコリコリとした部分を指で撫でるように触ってみた・・・すると・・
「あ・・あん」
眠っている逢子の口から、声が漏れた。
(うわぁ!やばい起きてしまう・・)
新一はそこで、勢いに任せて己がやっている事に怖さを覚えた。
吹き出る冷や汗・・・その時、何とか冷静になるきっかけを得た。
ブラを元に戻し、パンティを腰のところまで引き揚げたのだった。
そして逢子は、何も気が付かず、すやすやと寝息を立てていた。
(今、俺は何をやっていたんだろう・・)
忘れ難い感触が手に残る。
甘酸っぱい体臭が鼻をくすぐり続ける。
(おい新一!お前勘違いするなよ・・逢子は他人じゃないんだ、親族なんだぞ。従兄弟なんかじゃない・・俺の叔母なんだ。)
小さい子供の頃から、ずっと一緒に遊んできた・・時には兄妹のようにさえ思っていた時期もあった。
今でも、そう思う事があった・・そして、ここに住むようになってからは、都合良く従兄弟かなとさえ思い込んでいた。
従兄弟なら将来的にも、それなりの展望は開けても来るが・・彼女とは、そんな望みすら持てない間柄なのだ。
逢子の父母は、新一の祖父祖母であり、彼女の兄は新一の父親なのだ。
絶望的な血の壁だった。
いっそ年が離れていれば、こんな気持ちにはならなかったはずだ・・
全国の野郎たちを熱狂させる程の魅力的な美少女が、わずか2つ年下の叔母だなんて・・
やっと巡り逢えた奇跡・・だけど、新一にとっては悪魔の所業としか思えなかった。
(こんな関係なんて他には無いはずだ・・25才差なら、血の方だって薄くなっているはずだろう?違うのか!!)
じっと手を見ながら、自問自答を繰り返す新一。
「う・・う~ん」
寝返りを打つ逢子・・・やっと我に帰った新一。
急いで上着を着せて1階で用事をしていた母、良子を呼んだ。
「あらあら、まあまあ・・何て格好で寝ているのかしらねぇ~、ホホホ・・でも、このままじゃ身体に毒ね・・
新一、あんたは外へ出てなさい。」
即座に外に追い出された新一。
「はいはい、逢子ちゃん。起きましょうか・・ね?ほらこのままじゃ身体に悪いでしょ?さあ、お風呂に入ってさっぱり
しましょうね。はいはい、起きて起きて・・」
良子は母親のように、あやしながら逢子を起した。
「う~ん・・お母さ~ん。もう~眠いよ~う・・」
寝ぼけて良子の首にかじりつく逢子・・・外でその声を聞いた新一にとって、胸の締め付けを覚えた一言だった。
まだまだ母親に甘えたい年頃なんだ、と。
そして己のした事を素直に恥じたのだった。
しかしながらその理性の裏側に、もう1人の自分がいるのに気づいては居なかった。
新一の股間は、それでも窮屈な感触が解消しなかったのだった。
それから日が流れて、次の日曜日になった。
いよいよ2週に渡っての春のバレー大会が始まったのだった。
大会会場の雰囲気は、柔道大会の比では無かった。
超満員の観客、そして耳を劈くような地響きにも似た声援。
バレーは、柔道に比べるとかなりメジャーだが、その他のサッカーなり野球などと比べれば、
それほどの人気は無いはずなのだが、この異様な盛り上がりは一体?・・・
1回戦・・会場には2つのコートが用意されていた。
そこに4チームが縦列して入場してきた。
そして最後に星村高校が入ってきた時、うねりの様な地響きが大きくなった。
カメラのフラッシュが目映いほど放たれた。
逢子が入ってきたのだ。
何という光景なのだろう・・フラッシュの中にたたずんでいる少女は、もう新一たちが知っている逢子では無かった。
180cmの長身が、一層大きく、そして美しく映えた。
逢子は、目の前のコートに視線を向けていた・・・集中している様子が伺えた。
可愛い子猫は、1匹の美しき虎に変身していた。
「キャプテン・・逢子ちゃん気合入ってますねぇ~良い顔してるぜ。」
「ああ、そうだな、あれから結構濃密な練習を積んだそうだから、自信に溢れているなあ・・」
「しかし、すっごい人気ッスね、逢子ちゃん。みんなあの子しか見てないッスよ。まあ、すっげぇ可愛いもんな。」
柔道部員1人1人が、改めて逢子の人気の凄さを実感したようだ。
そしてそれぞれ驚きの声が口々に出た。
試合が開始された。
だがその瞬間から、そこはもう逢子の独壇場と化した。
地面も割れよとばかりに、ボールを叩きつけるアタッカー逢子。
全ての物を跳ね返す壁として、仁王立ちの逢子。
まるでミュージカルの芝居を見ているかのようだった。
その華やぐ舞台の中心には、逢子が1人光っていた。
飛んで跳ねて、そして大きく広げた腕から閃光が走る・・・観客すべて彼女の虜となった。
その時新一は、あの日の出来事をオーバラップしていた。
全裸で横たわっていた逢子の姿を・・その白い柔肌の感触も、この目に、そしてその手に残っていた。
この会場の中で、彼女の全てを知っているのは俺だけだ。
みんながどれほど乞うても、決して得る事ができない逢子の心の中を知っている。
俺はいつも逢子の近くにいるのだ・・手を出せば、直ぐにでも触れれるぐらいに・・。
いやらしいまでの優越感に、1人浸る新一。
人として最低な行為だと分かってても、その思いは消えなかった。
その日は3回戦まで行われ、当然のようにベスト8まで駒を進めた。
逢子のチームは完璧な内容で、当然のように勝ちあがった。
望んだ結果が出て、観客は大喜びだった。
一斉に逢子1人に声援が送られた・・・皆に笑顔で手を振る逢子。
その時、ようやく2階席にいる柔道部員たちを見つけた・・・「みんな~!」大きく両手を広げた。
満面の笑顔・・でも、もしあの時の行為を知ったら、それでも無邪気な笑顔を、俺に向けてくれるのだろうか?
新一の胸の中に広がる後ろめたい気持ち・・・素直に笑って手を振れなかった。
新一の悶々たる気持ちとは別に時間は大急ぎで過ぎていった。
バレー部は、優勝へ向けての最後の調整とばかりに、猛練習の日々に明け暮れた。
そうすると当然の様にヘロヘロの態で帰ってくる逢子だった。
食事も、そこそこにへたり込む日々が続いた。
その時、男としての欲望を辛抱する新一がいた。
あの日以来、逢子の裸体を思い出さない日は無かった。
そして大会の日が明日に迫ったその日・・もう1度見たいというチャンスが、今日で最後だと思った時、
新一の辛抱は限界を超えた。
ドサッ・・
いつものようにベッドに倒れこむ音がした。
新一は意を決して、逢子の部屋に入った。
そこにはいつものようにボタンを外しかけのまま力尽きて寝込んでいる逢子がいた。
母親を呼ぶまでの時間を10分と決めて行動を開始した。
逢子を仰向けに寝かせて、素早く上着を脱がした。
そして手際よく、ブラ(今日は上下シロだった。)を首のところまでずらし、パンティを足首まで一気に下げた。
新一だけに許された光景が広がった・・新一の頭から一時も離れなかった逢子の裸体が今、目の前にあった。
スースーと可愛い寝息をたてながら、すっかり安心しきった表情で寝ている・・・今起きている事実など知らずに・・
胸のふくらみに手を置いた・・・そしてピンクのつぼみを口に含んだ。
それから、ゆっくりと吸ってみた・・・やはり柔らかった。
指は下の茂みを這った。
そして秘密の洞窟の入り口に到達した。
例のコリコリした部分を擦った・・甘い吐息が漏れた。
今度は焦らなかった、新一は丹念に指で擦り続けた。
「あ、あ、あん・・ああ~ん」
敏感な部分なだけに、逢子も太ももを、くねらせてた。
続けてゆっくりと人差し指1本を洞窟内に入らせた・・ヌルヌルした感触がしたと思った瞬間、
一気に奥まで入ってしまった。
(暖かい・・)
新一は女の身体の不思議さを実感した。
男には体内に入るという体験なんか無いからだ。
入った指を少し折り曲げると、「あん・・」・・伸ばすとまた「ああ~ん」。
まるで探知機のように敏感に反応する逢子。
甘く可愛い声を漏らすと、新一の興奮も最高潮に達した。
(ああいかん、ここまでだ!!)
のめり込んでバレては元も子も無くなってしまう。
決めた制限時間10分が迫ってきた。
溢れそうになる興奮を、何とか堪えた・・ぶっ放す欲望をギリギリ鎮めたのだった。
急いで服装を整えて、何事も無かったかのような雰囲気で、母親を呼びに云った。
そして急いで風呂に入って、先程までの過程を思い起こしながら、溢れかかった欲望を吐き出した。
最高だった・・
これで当分気持ちも治まるはずだ・・
暴走しかかる寸前に歯止めが掛けられた、その安堵感で一杯になったのだった。
次の日は大会最終日だった。
よく眠れたようで、スッキリとした表情の逢子が、軽い足取りで食卓に降りてきた。
「おはようございます。」
「おお、よく眠れたようだな、逢子。今日はおでこを打たずに来れたしな・・絶好調だな・・ははは。」
陽気な口調で、逢子の身体を気遣う孝一だった。
「さあさ、今日はガンバッテよ逢子ちゃん。今日は私も見に行くからね。」
「ありがとうお義姉さん。私、今日は朝から調子がいいみたいなの。絶対に優勝するから、期待しててね。」
いつもは万事控えめな逢子にしては、珍しく強気な口調だった。
よほどの自信があるようだ。
暫くして、新一が降りてきた。
「おはよう。」
覇気の無い声、重い足取り・・・腫れぼったい目元。
「どうしたの?新一、風邪でもひいたの?顔色が悪いわよ。」
心配そうに声を掛ける良子。
「素っ裸で寝ちまったのか?新一。ちょっとだらけてるんじゃないのか。逢子を見てみろ、もうちょっと覇気を出せ。」
情けない息子に怒り心頭の様子の孝一。
結局一睡もできなかったようだった。
もう1度だけ、逢子の裸を堪能すればコト足りると思っていたが、結果、一層深みに嵌ってしまったようだった。
17の男にとって、若い女の裸は強烈な刺激だった。
ましてや、ナイスボディの逢子なら尚更の事・・逢子の喘ぎ声が新一の耳にこびりついて離れなかった。
そして逢子の中に入った指の感触も・・・
全てが中途半端に終わっているから、もどかしい気持ちもそのまま続いていた。
疲労感だけが募るだけだった。
「大丈夫ですか?新一さん・・・ホント顔色が悪いですよ。今日は1日ゆっくり休んでいた方がいいんじゃないですか。」
不安げな表情で新一の顔を見る逢子。
「な、なあ~に心配要らないよ、ちょっとテレビを見過ぎちゃってさ、夜更かししただけなんだからさ。」
手を振って否定する新一。
でも、後ろめたさからか、真正面から逢子の顔が見れなかった。
「今日も部員全員で応援するからさ、頑張って優勝してくれよ、逢子ちゃん。」
「ハイ!!絶対に勝ちます。」
いつになく瞳に力を込めて、きっぱりと言い切った。
試合会場は先週同様、超満員だった。
全員、逢子見たさで集まったのは云うまでもなかった。
「キャプテ~ン、どうしたんスか?何か疲れているみたいですね・・大丈夫スか?」
「平気だよ、ちょっと寝てないだけだから、心配するな。それよりも、ちゃんと応援しろよ、いいな!」
「ウィース!!」
試合は逢子の圧倒的な能力の前に、あっさり白旗状態になってしまった。
会場全体の雰囲気も逢子一辺倒であったのも一因だったが、その実力の差は如何ともし難いものだった。
そして、あっさりと優勝を決めた。
まさに橘逢子のワンマンショーとも云える大会であった。
飛んで跳ねて、打って拾って・・
観客は大いに満足したようだった。
ただ、新一だけが、疲労の度合いを濃くしたようだった。
例の妄想が止むことは無かったようだったからだが・・・
全裸の逢子がコートの上で躍動していたのだ。
ツンと上を向いたおっぱいが、アタックする度に揺れるのである。
コートすれすれの球を回転レシーブで防いだ時、秘貝がパックリと割れて見えた・・
幸せと思えば幸せだし、不幸だと思えば不幸だ・・・
まともな神経なら、すでに壊れている状態だった。
何度ぶっ放しても、この気持ちは収まらなかった。
裸の逢子は新一自身の願望なのだろう・・・正直に、そして堂々と名乗れない哀れな男よ。
試合後、逢子たち女子バレー部員全員は、駅近くの焼肉店で祝賀会を開いた。
2時間たっぷりと焼肉を存分に楽しんだ。
2週間ものキツイ練習に耐えた、そのごほうびだった。
久しぶりに味わう開放感・・・
満足した笑顔で店を出た・・そうだ、自宅まではゆっくりと歩いて帰ろうかな・・・・
今日1日の出来事を振り返りながら、ゆっくりと歩を進めた。
ふと前を見た時、見覚えのある男の人が、自転車にまたがってこちらを見ているのを発見した。
「よっ!今お帰り?乗ってかない彼女?」
ナンパ調の誘い文句の主は新一だった。
「今まで待っててくれたのですか?」
驚く逢子。
「いいや、買い物の次いでさ。」
「何の買い物?」
「ジュース。もう飲んじゃったけどさ。」
「アハハ・・」
軽快に飛ばす新一に、後ろから腰に腕を回して、ぴったりと密着する逢子。
「気持ち良いかい?」
「はい、とっても!」
顔を背中に押し当てながら、涼しい風を満喫する逢子。
新一の狙いは、この密着感を味わう為だったのだ。
逢子の柔らかい肌感が、背中から伝わってくる・・あれほど疲れてても、直ぐに反応する股間。
やっぱり若いってことだ。
「私って、いつも助けて貰ってばかりですね・・ホント申し訳ないわ。」
「そんなことないって、今日は偶然なんだから。気にしないで。」
「いいえ、私が小さい頃から、ずっと新一さんには助けて貰ってるわ。」
「なんだい、そんなこと、俺はもう忘れちゃったよ。」
「私は忘れた事は一度もないです・・近所の男の子たちに苛められて泣かされた時も、両親が用事で家にいなくって、
一人ぼっちで泣いてた時も、いつも新一さんに助けられたわ。」
ぎゅっと、腕に力が入った。
「うお!?」
急に締め付けられた驚きで声が出てしまった。
「あ!ごめんなさい。痛かったですか?」
「まあ・・ね。ビックリしただけだよ・・でも凄い力だね逢子ちゃん。」
「・・・・」
(また、うつむいちまったかな?)
新一の背中が少し熱く感じたのは気のせいではなかったようだ。
ゆっくりと、だが徐々にスピードを上げて2人を乗せた自転車は家路へと向かったのだった。
家に戻ったら、ささやかながらも祝賀会の用意ができていた。
「おめでとう逢子。よくやったな!」
「私、見てて、感動しちゃったわ・・おめでとう逢子ちゃん。」
食卓には、料理が溢れるぐらいに並べられていた。
母、良子の頑張りは相当だったに違いなかった。
申し訳無さそうな顔を見せる逢子・・・先の祝賀会で、たらふく焼肉を食べたせいで、お腹がいっぱいだった。
それでも、何とか食べようと頑張った。
勿論、新一も頑張った。
良子のがっかりした顔は見たくなかったから、2人でほとんどの料理を平らげたのであった。
また1つ、新一に感謝する逢子だった。
食事を終え、新一が部屋に入ろうとした時、後ろから抱きつく逢子・・・・胸の柔らかさを直に感じた。
また股間を熱くさせる新一・・嗚呼耐えろ!身が持たなくなるぞ。
背中に彼女の吐息を感じる・・
「新一さんって、ホントいい人・・私好きです。」
いきなりの告白に、戸惑う新一。
「俺も大好きだ・・キスしてもいいかい?」
って素直に言えれば苦労はしない。
相手は、年下とはいえ血が濃く繋がっている叔母である。
所詮は成さぬ仲なのである・・それに彼女の好きは、男としてでは無く、単に人柄だけに対しての一言だろう。
無邪気な子供の一言だ・・彼女も承知しているはずだ。
アホな妄想はケガの元なのだ。
「え?ホント?そりゃあ嬉しいな。でも他の奴らが聞いたら、絶対に殺されるかもな・・あはは。」
努めて軽く聞き流すフリをする新一だった。
それから一息入れて風呂に入りに行った。
うっすら汗をかいてしまっていて、ちょっと気持ち悪かった。
ズボンを脱いだ・・それでも暑苦しさは変わらない。
まだトランクスの中で、窮屈そうに暴れているからなのか?
急いでトランクスを脱いだ・・涼しい風が分身に当たって気持ち良かった。
やっと開放感に浸れたって感じだった。
ふいに逢子のヌードが目の前に表れた。
いつもの妄想が始まった。『新一さん・・』
甘えるように顎を上に上げて伏目がちに、こっちを見ている。
長い腕が、胸を揉みし抱く、腰をくねらせ、長い脚が九の字に曲がる・・お尻がツンと上を向いた。
1度眼に焼きついた逢子の裸は、新一の頭の中で、ドンドン進化していった。
「逢子・・」
愛しい人の名を、そっと呼んだ。
懸命に努力しても敵わぬ・・いや報われぬ人に思いのたけをぶつけれるのは、この時だけだった。
分身は、勢いを増して、お腹にくっ付くぐらいに反り返っていた。
新一は、それをそっと握り締めた。
(熱い・・)
こみ上げる興奮・・今日もここで逢子と逢瀬を楽しもうか・・
ひとこすり・・ふたこすり・・みこすり。
ゆっくりと扱き上げる新一。
「ふ・・んん・・」
快感が背中に走った・・・思わず声が漏れた。
その時、ふいに入り口のドアが開いた。
着替えの下着一式と、パジャマとバスタオルを小脇に抱えた逢子が入ってきたのである。
「え?!!」
「ああっ?!!」
お互いの目が合った。
逢子の目に新一の元気な子供が写った。
突然の出来事に固まってしまった新一。
「きゃあーーーー!!」
一呼吸遅れて逢子の絶叫が轟いた。
「うわあ~!!」
新一も遅れて叫び声が出た。
逢子は即座に外に飛び出してドアを閉めた。
新一も風呂の中に飛び込んだ。
(な、な、なんだぁ~ど、どうしよう・・変なトコ見られちゃったよう・・)
突然の出来事で、混乱と恥ずかしさが、ごちゃごちゃと頭の中で渦巻いていた。
「ご、ごめんなさあ~い。誰もいないと思ってたのに・・あ~ん・・またドジっちゃったみたいね。」
ドアの外で逢子が叫んでいた。
返す言葉が出ない新一・・・何も考えられないのだから無理も無かった。
その気になったオトコを見られたのだ・・これほどの辱めは生涯初めてだった。
決して表には出さなかった感情の全てが、今白日の元に晒されたのだ・・わずか15の女の子の前に・・
「ゆっくり入って下さいね。今日は疲れているみたいだから・・・じゃあ。」
そう言い残すと、パタパタと足音を立てて2階に上がっていった。
新一は泣きそうになった。
そして湯船の中に、勢い潜ってしまった。
(どうしよう・・もう嫌いになっちまったかもな・・)
もはや絶望のシナリオしか考えられなかった。
暫くして、風呂から上がった新一は、自分の部屋で一息ついた。
全てに萎えてしまった・・・力が入らない。
もう、まともに顔なんか見れない・・・
柔道部のマネージャーも、どうなるやら・・きっとギクシャクするだろうから。
その時はみんなに何て言おうか?
ああ~まずい、まずいなぁ~。
後悔の言葉が何度も新一の頭の中で反芻していた。
グダグタ悩みこんで、頭の中はウニのようにぐちゃぐちゃの状態になったような気分だった。
ふと時計を見た・・時刻は0時を回っていた。
(なんだぁ~もうこんな時間か、明日は朝から練習だし、もう寝るか。)
おそらく寝れそうに無いのは分かっていたけど、布団にだけは入っておこう、ひょっとしたら疲れて寝れるかも・・
そう考えた新一は、電気を消そうとスイッチに手を伸ばした。
「コンコン・・」
突然ドアをノックする音がした。
「コンコン・・」
暫くして、もう1回。
「誰?」
「私です。逢子です・・・お話があるんですけど、今いいですか?」
深夜、突然の来訪に一抹の不安を覚える新一。
だがここは、普通にしておかないと、後々面倒になると思った。
それに、これからどうやって話をしようかと悩んでいたところに、彼女の方から来てくれたのだから、これは幸いだった。
「あ、ああ・・いいよ、入っておいでよ逢子ちゃん。」
新一は、努めて普段通りの声で返事をした。
ドアが開いた。
ブルーのパジャマ姿の逢子が、ちょっとうつむき加減に、ゆっくりと入ってきた。
きっとどこかに多くいるであろう橘逢子ファンの人達よ・・申し訳ない。
君達には絶対分からないだろうな・・プライベートの彼女が、いかに可愛いかを・・
コートの中を縦横無尽に走り回る躍動的な逢子だけしか知らない人達よ、普段の彼女は、大人しく実に控えめな人なのだ。
明るく無邪気な笑顔しか知らないファンの人たちよ、普段の彼女は、いつも伏目がちの、大変内気な女の子なのだ。
そんな彼女の全てを知っている新一だが、今その立場が危うくなっていたのである。
しかし、一体どのような思いで新一の部屋を訪ねてきたのであろうか?
「一体どうしたの?こんな夜遅くに・・何かなぁ?その話って。」
すっとぼけた返事をした・・気にしていない素振りは、この際大事にしたいからだ。
「あのう~そ、その、え、ええ~と・・」
モジモジして、要領を得ない言葉しか聞こえない・・
嗚呼じれったい!
云いたい事は分かっている・・またいつもの調子か?
新一は、我慢できず自ら反省の弁を言おうと思った。
「君の言いたい事は分かっているさ。あの、その、あ、あれはちょっとした俺の不注意というか、その・・」
「あのう、気にしないで下さい!」
新一の言い訳を逢子が、大きな声で遮った。
「え?え?・・気にしないって?」
突然の大声にビクつく新一。
「わ、私、あ、ああいったモノは、み、見慣れていますから・・」
「み、見慣れているって・・あ!ああ・・そ、そうなの?」
「はい!いつもお父さんの、お風呂上りには、素っ裸でいることが多かったものですから・・
その、あれも、いつも私見せられていましたから・・今見ても別に、どうってことないって言うか・・その・・アハハ。」
どうやら逢子は、落ち込んでいるであろう新一を気遣って、わざわざ部屋を訪ねてきたようだった。
恥ずかしがりやの逢子だけに、あの出来事が起こった以上、素直に会話するなんて事は、もう出来ないのでは、
と思っていただけに、逢子からの積極的な行動は嬉しかった・・が、それ以上に驚きもあった。
おそらく、今までの関係を壊したくないとの思いからだろうけど・・。
しかし、あの内気な逢子が、ここまでの行動をやってしまうとは・・ひょっとすると彼女の思いは・・
新一は確かめたくなった。
「祖父ちゃんってさ、こ~んなにデカかったよね?」
両手を広げてオーバーに、そのカタチを造った。
「え・・ええ。いつもブラブラさせて、私の前を歩いて・・あっ!」
自分が、今女の子として凄い一言を言い放った事に気付いて、慌てて口を閉じてしまった。
「アハハハ・・ブラブラかぁ・・俺負けたなぁ~ 俺のはあんなに大きくしてても、そんなにブラブラしないもんな。」
「し、知りません!!」
顔を真っ赤にして横を向く逢子。
ここまで来たら、もう突き進むしかない・・新一は直接語を使って逢子に対峙した。
「どうしてオトコって、アレをおっきくするか分かるかい?」
「・・・・・」
「なんでもかんでも、何時でも何処でも、ってな感じでデカくさせてるんじゃないよ。そんな低俗な生き物じゃないよ。
欲しくて欲しくて、どうしようもないのに、どうやっても手に入らないもどかしさで苦しんだり、
好きで好きで、たまらないのに、どうしても打ち明けられない切なさに耐える時に心の中で爆発させるのさ。
その人の事を考えて・・想像して、内に溜まったエネルギーを吐き出す・・」
「そ・・そういう事って?」
「そう、オトコにはよくある事なんだよ。」
「私には、よく分かんないなぁ・・」
逢子は恥ずかしさからか、何処を見たら良いのか判らずに、視線が横の壁や下のカーペットを行ったり来たりしている。
「君が見たのは、俺が、そんな気持ちでいる所を見ちゃったんだよ。」
「そうなの?」
「うん・・そう。」
新一は、言葉を選ばずに、更に核心の部分を逢子に迫った。
「君は、俺の事を気遣ってここに来てくれた・・そこで、俺はちょっと驚いたんだ。
君みたいな女の子が、男のあんな所を見たら、恥ずかしいやら、気まずいやらで、普通の会話なんて出来なくなるもんだよな。
正直俺は、もうダメだと思っちゃったんだ・・君はとってもシャイで内気だから、なおさらにね・・・
でも、君は直ぐに来てくれた・・・なぜ?」
思い詰めたような表情で、真直ぐに逢子の顔を見つめる新一。
「そ・・それは、わたし・・」
「君も、俺との関係がギクシャクするのは嫌だったから?」
逢子の返答を待たずにクチを出す新一。
焦りからか・・表情が硬い。
「は・・い・・そうです。だって新一さんはいつも私には優しくしてくれるし、それにいつも私の傍にいてくれて、
励ましてくれたり、助けてくれたりしてくれて・・私いつも感謝しているんです。
だから・・嫌われたくはないし、それに口を聞いてくれなくなったりしたら、とっても悲しいんです。」
感情の昂ぶりからか、目を潤ませながら、泣きそうな顔を新一に向けた。
「だから、あんなウソを?・・」
「え?・・それは・・」
「祖父ちゃんは、そんな事はしないよ・・あんなに身の回りのことに対してキチンとする人が、そんなみっともない
事をするはずはないよ。第一、君は、祖父ちゃんらが願って願って、やっと授かった大事な宝なんだよ。
そんな宝に対して、うかつな行動はしないはずだよ・・あの祖父ちゃんなら。
「ご・・ごめんなさい・・」
「謝るのは、俺の方だよ・・君に、そんなウソをつかせたから・・ゴメン。」
ポロポロと涙を流す逢子・・いつもいつも静かに泣く可愛い娘よ・・・
新一は感情が抑えられなくなった。
さっと抱きかかえて、逢子の下唇にキスをした。
ビックリ眼の子猫ちゃん・・・真丸い瞳が一層丸く見開いた。
新一は、逢子の頭を抱えて、自分の胸元に埋めた。
頬で逢子のおでこを撫でる・・・愛しい人は今、腕の中にいた。
錯覚でもない、狂ったりもしていない・・今、はっきりと言える。
俺は逢子が好きだ、愛している・・
新一は、その時、己の心と対峙していた。
彼女とは血族であり、その血の濃さも判っている。
逢子は叔母であり、新一は甥である・・そんな事は百も承知だ。
厳然たる血の壁は、大きくて分厚い・・決して乗り越えられないのは事実だ。
でも、それでも新一は叔母である逢子が欲しかった。
いや・・叔母とは思えなかった。
2つ年下の叔母って・・どう考えたって在り得ないシチュエーションだ。
知らないヤツからみれば、どう見たって、従兄妹ぐらいにしか見えないはずだ。
それに逢子は新一を頼りにしている。
たとえそれが、一瞬にして両親を亡くして出来た心の穴を埋める為のものだとしても・・
独り善がりの錯覚の愛だと判ってても、決して報われないと判ってても、それでも逢子を守りたいのだ。
それは・・逢子の全てを知っている自分にしかできない事なのだ。
だからこそ確証が欲しかったのだ。
ほんの僅かの間でもいいから、逢子をこの手で抱きたかった。
繋がりが支えになる・・と思いたいから。
新一の想いは一気に昇華した。
「俺、君が好きだ・・好きで好きで堪らないんだ。」
そう言って、何度も唇を重ねる新一・・抱きしめる腕に力が入る。
「ら、乱暴にしないで・・お願い。」
小さく呟く逢子・・背中に回した腕をぎゅっと引き寄せた。
「キスは初めて?」
「ウン・・・。」
「ヘタクソでゴメンね。」
「・・・・・」
逢子は穏やかな笑顔を浮かべながら、黙って新一の胸に全てを委ねた。
「想像したとおりの逞しい胸板ですね。やっぱり男の人には、敵わないわ。」
初キスは甥っ子の新一だった・・だが逢子は気にも留めていなかった。
左手の人差し指で、ゆっくりと胸の上をなぞる・・・
「さっき俺の事を好きだって言ってくれたけど、あれって1人の男としてって事なの?」
勢いに乗じて逢子に、その真意を問質した・・自分の腕の中にいる以上、答えは分かっていたけど、
どうしても、彼女の口から聞きたかったのである。
「うん・・・そうよ。」
その声は、少ししゃがれていたが甘えるような口調だった。
赤くふっくらとした頬で、ゆっくりと新一の胸を擦っていく・・
我が意得たり・・・とうとう確証を得たのだ。もう独り善がりな事では無いのだ。
腕の中にいるのは、叔母ではなく、唯1人の愛すべき女性なのだ。
この先には、幸せなど無いかもしれない・・自分の思惑だけで彼女を振り回すかもしれない。
その時は・・いや今は考えない、考えたくも無い。
今この時、この瞬間の喜びをかみしめたい・・・
そして、これだけは心に刻んでおこう・・「逢子は俺が守ってみせる。」
ぎゅっと、両腕に力が入った。
「い・・痛い、痛いわ。」
逢子が苦しそうに声をあげた。
新一は委細構わず、更に力が入った。
「し、新一さん・・痛いわ。」
苦しそうに喘ぐ逢子・・だが彼女も、新一の背中に回した両腕に力を入れていた。
「もっと優しくして・・」
甘くささやく・・・コトは熟した。
新一は、そっと逢子を抱きかかえた。
180cmが小さく折畳まれた・・幼子のように新一の首根っこにかぶりつく逢子。
ゆっくりとベットに寝かされた。
だが、その長い手は新一の首に巻かれて、放そうとはしない。
パジャマのボタンに手が掛かった・・・上から、1つ、2つ、3つ・・
前扉が広げられた・・・ブルーブラが、新一の目に鮮やかに映った。
「大好きな色だったね、これって・・」
「はい。」
震える手つきで、ブラに手を置いた。
素晴らしい弾力が伝わってきた・・野郎同士の組み手では、絶対に味わえない感触だった。
女の子の肌って、こんなにも柔らかいのか。
以前自分勝手に、眠っている逢子にイタズラをした時には、思いも寄らなかった・・
その発見は、今ゆっくりと味わっている余裕から来たものなのかもしれない。
ブラを外した。
雪のように白い肌の上に、ふんわりと盛り上がった丘が出来ていた。
更にその上には、小さくて薄いピンク色の蕾があった。
新一の舌が、ゆっくりと蕾を撫でた。
「あ、ああ~ん」
軽い感度を示す逢子。
だがその声に刺激されて、いきなり荒れ狂ったように乳房を吸い付き始める新一。
しかし無邪気な赤ちゃんのソレとは違っていた。
吸って、噛んで、顔をうずめる・・・
長身の逢子は、優しく両手で新一の頭を抱えて、自分の胸に押し当てていた。
慈愛に満ちた表情で、新一の後頭部分に顔を寄せた・・新一の身体は、逢子の身体の中にすっぽりと包まれていた。
乱暴に逢子のパジャマズボンを剥ぎ取り、ブルーパンティも、一気に脱がした。
興奮する身体に制御は掛からなかった。
男の本能からか、新一の右手が逢子の秘部に伸びた。
親指はクリトリスを擦り、中指と薬指が、周辺のヒダを撫でた。
「あん・・き、気持ちいい~・・・な、なんだか変な気分になってきたわ。」
「そりゃ良かった・・ああ、俺も嬉しいな。」
新一は更に、擦っていた中指と薬指を花芯に入れた。
「ああ~ん、ウソ、何?気持ちイイわ・・あん、あん、あん・・ああ~頭が変になりそう・・」
身体を反って、よがる逢子・・・
新一の指にも力が入る・・更にスピードを上げた。
「ああ、ダ、ダメェ~、飛ぶ、飛ぶ・・飛んじゃいそう~アアアアア~ン、そこ、ダメ~!!」
階下には聞こえないように小さく呻き声を出す逢子・・
大きく身体が揺れた。
そして風船が弾けて割れたように、奇声を上げた瞬間、身体が崩れ落ちて新一に寄りかかった。
新一の我慢も弾けた。
急いでズボンを脱いだ。
大きく山を作るトランクスが見えた。
思わず丸い目をクリクリさせながら見張る逢子・・・
そして一気にトランクスを下ろした。
大きく反り返る肉棒・・・硬い弾力を伝えるように左右に揺れる茎。
充分に剥けた先っぽに、透明感のある湿り気があった。
逢子の鼻に、ツンとした匂いが立ち込めた・・
確かめようと、鼻で大きく息を吸い込んだ。
「お、俺も・・俺も気持ち良くなりたい。」
興奮からか、ろれつの回らない喋り方の新一。
急いで腰を沈めようとするが、上手くいかない。
右へ左へ・・照準が定まらない。
こみ上げてくる痺れ・・嗚呼、手とは違って、腰を使う為に目標地点が見えないのだ。
「く、くっそう・・何でだ?如何してなんだあ~?」
イラつく新一・・・バケツはもう溢れ帰りそうだ。
心配そうに見つめる逢子。
助け舟とばかりに、腰を新一の中心に移動させた。
「新一さん、ココよ・・」
指示を出す逢子。
「ああ・・」
今度こそと、腰を沈めた新一。
だがまた左にずれた・・・よく考えてみれば、よく判らない者同士が良くやっていると思う。
「こっちよ、新一さん。」
堪らずに、新一の肉茎を握って目標位置に持ってきた。
「ああ~ダメだぁ~」
その時には、既に逢子の手の温もりに耐える力はもう残っていなかった。
ピュピュ・・・・
激しい噴射が始まってしまった。
「う、う~ん・・あう・・」
堪らず呻く新一。
ピューピュ~
更に噴射が続く・・・逢子のお腹に湖が出来た。
ピュッ・・
最後の勢いで、逢子の顎にまで飛んだ。
「わぁ~何これ?・・凄いわ・・」
逢子の驚きの声が新一の耳に入った。
「はあはあ・・な、なっさけない!・・ああ、でも気持ち良かったぁ~」
気張った力が抜けていく・・次第に冷静になる新一。
「あ!そうだ、ゴムが無かったんだ・・俺、もうちょいでバカな事しでかしていたな。」
そう・・ゴムなしでヤッていたら・・あの暴発からして直ぐにでも中で出してたはずだ。
「新一さんの、あんな焦った顔を見たのは、私初めて・・アハハハ、ホントおかしな顔ねぇ・・アハハ。」
無邪気にコロコロと笑う逢子。
男のメンツ台無しからか、ちょっとむくれる新一だった。
「あのね、俺たち危なかっただぜ・・俺が上手くやってたら今頃・・ミーちゃんのお腹は、こうだったんだぜ。」
両手でお腹が膨らんだ様子を模写する新一。
「ミーちゃんって・・それ?。」
新一の突然の言い方に、はっとした表情をする逢子。
「あはは、昔小さい頃には、ずっとこう呼んでいたんだよな・・ねえ逢子ちゃん?」
「うん・・そうだったわ。私はずっと、新ちゃん、新ちゃんって言って、新一さんの背中にくっ付いてたっけ。」
その昔、2人は辺りが暗くなるまで、泥んこになりながらも、ず~と一緒に遊んでいた。
そうだ・・ずっと一緒だったんだ。
懐かしく昔の光景を思い出す2人だった。
「これからも俺たちは一緒だよな?ミーちゃん。」
「うん、そうだよ新ちゃん。」
ティシュで逢子のお腹を拭きながら、新一は逢子の顔を見た。
「それにね、私がここに来たのは、ひょっとしてこうなるかもって期待していたのよね。」
「え?それってどういう意味なの?」
「うふふ・・」
イジワルそうな笑顔で新一を見る逢子・・
大きくてクリクリした目を、更に丸くして新一の顔を覗き込む・・
「ま・・まさか!」
胸の動悸が大きく鳴り響く・・・
「私のカラダにイタズラしたでしょ?・・うふふ。」
「・・・・・」
何も言えない新一。
「私疲れてて、動けなかったけど意識はちゃんとあったんだよ。もうびっくりしたけど・・」
「ご・・ごめん。でも・・・」
「さすがに指入れちゃあ、分かるわよ・・でも、あそこで起きたら、新一さん恥かくと思って・・黙ってたの。
何か思い詰めた表情だったもん・・ちょっと怖かったわ。」
「俺もどうかしてたんだ・・君は俺の叔母なんだし、どこかではっきりさせるのが怖かったからかもしれない。
ホント・・済まなかった。許してくれ逢子ちゃん。」
深々と頭を下げる新一・・・
「ミーちゃんでしょ?新ちゃん。うふふふ・・・」
「え?」
「私は、新一さんが、こんなにも真剣に想ってくれてたって事が判って嬉しいの。私は小さい頃からあなたの事が好きでした。
今もその思いは変わりません。新一さんは何時も私の傍にいてくれて守ってくれたわ。
だから今度は私の番・・・あなたが望む事は、なんでもします・・私の事で、もう悩まないで・・
これからは私が傍にいるから・・・ね。」
逢子のいじらしい気持ちが新一の胸に伝わる。
抑えられない気持ちが、何度も何度も唇を重ねさせた。
逢子の舌が新一の舌に絡みつく・・・決して離れまいと決意したかのように。
「好きよ・・大好きよ。新ちゃん。」
「俺もだよ・・ミーちゃん。」
行為は失敗したが、2人の心は結ばれた。
新一は一番良い結果が出たのだと思った。
肉体的には結ばれなかったお陰で、叔母、甥の血の壁に触れる事は無かったからだ。
だがいずれは・・・
否応なしに真っ向から立ち向かわなくてはいけない時が、必ず来るはずだ。
その時には新一よ、お前は、どんな困難な事が起こっても逢子を守れるのか?幸せにできるのか?
己に問い掛ける新一・・・だが答えは容易に出なかった。
まだ17の少年に、その責任は重かった。
だけど、これだけは言える・・・「逢子だけは何があっても絶対に守ってみせる。」と。
この子だけには辛い道など歩ませたくは無い・・いざとなれは俺が消えれば良いだけの事だ。
無邪気に新一の首根っこにかぶりつく逢子。
小さい子供のように抱き合う2人。
神は2人に祝福するかのように静かな夜を与えた・・・
翌日・・
2人を地の底まで叩き落す大事件が勃発した。
1枚の写真が、学校の掲示板に張り出されていたのだった。
そこには1組のカップルが写っていた。
1人は逢子、そしてもう1人は・・・
(つづく)
[2004/03/08]
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