小説(転載) 命懸け
近親相姦小説
掲載サイトは消滅。
[タイトル:命懸け]
早紀子が逃げるように寝室に戻り、音を立てないように気を使いながらドアに鍵を掛け
た。今にも息子が襲ってくるような気がして居ても立ってもいられない。気が動転してい
た。ことも在ろうに夕食が終わった食堂で、息子の明が突然自分のものをズボンから引っ
ぱり出してしごき始めたのである。それも、早紀子に見せつけるように立ち上がって。久
しぶりに明が早紀子の目を真っ直ぐに見た。母親の目をジッと蛇のような目で見つめなが
ら握りしめた手を動かしていた。
(何やってるの!)
激しい言葉が喉まで出掛かった。息子の目には母親の叱責などまるで意に介さない冷た
い輝きが宿っていた。明の手の動きが一段と速くなった。明がウッと呻き、握りしめた手
の中からおびただしい精が迸る。その瞬間、早紀子の金縛りが解けた。素早く立ち上がっ
た早紀子が脱兎の如く二階に駆け上がる。部屋の隅に蹲った早紀子がジッと耳を澄ました。
階段を上がってくる足音が聞こえないか、それだけに神経を集中させた。五分、十分。時
がまるで蝸牛の歩みのようにゆっくりと流れて行った。
息子の明は今年高校生になったが、夏休み前から様子がおかしくなり、二学期に入って
とうとう学校にも行かなくなってしまった。朝は十二時近くなってようやく起き出してく
る。飯の用意がしてないと言って早紀子に当たり、何も言わずに家を出て行く。どうやら
コンビニでパンとかお菓子を買って済ませているらしい。三日と開けずに早紀子に小遣い
をせびる。最初のうちは厳しく断っていたのだが、テレビで少年の引ったくりや恐喝のニ
ュースを見ているうちに不安になり、少しずつ小出しに与えるようになった。幸い今のと
ころはまだ暴力沙汰は起こしていないようだが、それも時間の問題に思えてくる。
明の目が最近変わって来たことに早紀子は気が付いていた。ちょっと前までは、『この
糞ババア』と口に出し、そう言う目で見ていた。まともに早紀子の方を見ることなど殆ど
無かった。その視線が夏休みを過ぎた頃から早紀子の体を舐め回すような粘着質に変わっ
てきたのだ。今でも決して早紀子と視線を合わそうとはしないが、執拗に胸元や腰の辺り
を見つめている。そんな時の明は決まってズボンの前を大きくしていた。息子が自分に欲
情している。これは母親には堪えられないことだった。明も年頃だから女に興味を抱いて
も当然なのだが、その矛先がまさか実の母親とは。
汗ビッショリになった早紀子が時計を見ると夜中の十二時を過ぎていた。早紀子にとっ
ては永遠とも思えるほどの長い時間だった。どうやら明が上がってくる様子は無い。恐る
恐る立ち上がった早紀子がドアを開けて階段の方を見た。そこに明の姿は無かった。足音
を忍ばせて下に降りて見たが、そこにも明の姿は無い。玄関に行ってみると明の靴が無く
なっていた。急に体の力が抜けた早紀子が食堂に戻る。食堂には明の放った青臭い匂いが
充満していた。床や椅子、テーブルにその跡がベットリと残っていた。
早紀子と明は二人で暮らしている。元々父親はいない。早紀子はいわゆるシングルマザ
ー。以前勤めていた会社の上司と不倫関係になり明を身籠もった。不倫相手は堕ろすよう
しつこく迫った。もし産んだとしても養育費は出さない。認知もしないとさえ言った。そ
れでも早紀子が産むと言い張り、不倫相手は離れていった。恐らく強硬に迫れば認知くら
いはしたかも知れない。しかし、不倫相手の妻が訴訟を仄めかし、反対に慰謝料を請求す
るとまで言われた。最後に早紀子が折れ、たった一人で明を産み落とした。
(やっぱり父親って必要なんだろうか)
食堂の椅子に座って明が飛ばしたテーブルの上の滴を指先でなすりながら早紀子はぼん
やりとその指先を眺めていた。早紀子の頭の中に様々な事件の報道が浮かんでは消え、消
えてはまた浮かんで来た。今頃どこかで暴力沙汰でも起こしてはいないだろうか。通り掛
かりの女に襲い掛かったりしたらどうしよう。遠くでパトカーのサイレンが鳴っている。
早紀子は身も細る思いで明の帰りを今か、今かと待ちわびていた。
「どうしたらいいの。」
思わず早紀子の喉から嗚咽が漏れた。これまで明には自分なりに精一杯の愛情を注いで
きたつもりだ。女一人で息子を育て上げる。それは一口で言い尽くせるほど生やさしいも
のではない。只みたいな家賃で親類の使っていない家に住まわせて貰ってはいたが、高校
の入学金だって三軒のパートを掛け持ちして深夜まで働いてようやく納めることが出来た
のだ。そのために明と一緒に過ごす時間を犠牲にして来たことは確かである。でも、他に
どうすればいいと言うのだ。
帰ってこない息子を待ちながら、早紀子は自分がこれからどうしたらいいのか、必死で
考え始めた。不倫相手の認知が無くても明を産んだ早紀子だから芯の強さは並みではない。
自分の両親にも勘当されたが、それでも弱音を吐かず、今日まで明を育てて来たのである。
「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ。」
突然声に出してそう叫んだ早紀子がティッシュを取り出してテーブルや床に撒き散らさ
れた汚れを拭い始めた。
「負けたらお仕舞い。負けてなんかなるもんか。」
早紀子は一々声に出して自分の気持ちを吐き出して行った。このまま明が墜ちていった
ら周囲の反対を押し切って明を産んだ自分の選択は何になるのだ。血の滲むような苦労を
重ねて来た今日までの日々はいったい何のためなんだ。
それに、何があろうとも息子が力ずくで自分を犯すような事態だけは避けねばならない。
そんなことになったら明に将来は無い。自分の母親を暴力で犯すような男の居場所がこの
世の中にあると思ったら大間違いのコンコンチキ。しかし、万一そうなったとしても警察
に訴えることなど出来っこない話しである。自分の出産に反対した両親や周りから「それ
見たことか。」と言う罵声が間違いなく飛んで来るだろう。その時は明を道連れにこの世
ともおさらばだわ。早紀子の腹が決まった。後は実行あるのみだった。
「こんなんでビビッてちゃ、元スケバンの名が廃るよ。」
二階に駆け上がった早紀子は押し入れの奥から衣装ケースを引っ張り出した。中には自
分が昔、まだ高校生だった頃に着ていた派手な服が詰まっている。二度と着ることはない
と思っていた。青春の記念にと捨てないで取っておいたものである。
早紀子はその中からボロボロのジーンズと深紅のカッターシャツを取り出した。当時、
一番のお気に入りだった組合せである。ジーンズはあちこち破れて白い糸が出ている。思
い切って股のところから下を破り捨てた。繊維が弱くなっているので簡単に千切れた。次
々と着ていたものを脱ぎ捨て、下着も全部脱いで素っ裸になった。その上から直に短くな
ったジーンズを履き、羽織ったカッターシャツはボタンを止めずに腰のところで結んだ。
鏡を眺めると、そこには少しとうが立った女番長が復活していた。前が開いているので角
度によっては乳首まで見えてしまう。短く切りすぎたジーンズの股からは、毛は勿論、生
々しい襞でさえ見えてしまいそうな気配だった。
「舐めんなよ。」
ドスの利いた声で自分に呼び掛け、足音高く階段を駆け下りて行った。歩き方さえ変わ
っていた。
明け方三時過ぎ、明がふてくされた顔で帰ってきた。出迎えた早紀子を見た明がギョッ
とした顔になった。
「おう、今何時だと思ってんだよ。」
機先を制して早紀子が怒鳴りつけた。
「何時だっていいじゃねえか。」
言い返す明に早紀子が畳みかけた。
「ざけんじゃねえ。てめえの汚ねえ精液で食堂汚しやがって、どこほっつき歩いてたん
だよ。女でも漁ってたか。」
「うるせえなあ、この糞ババア。」
「おう、おう。言ってくれるじゃねえか。その糞ババアから小遣いせびって、てめえは
何もしないで毎日ゴロゴロしてやがる。」
さっきから明が早紀子の胸や腿にチラチラと視線を送っていた。
「何だい、黙ってると思ったら今度は色気かい。しょうもない。そんなとこに突っ立っ
てないで入んな。」
明の表情が変わった。昔の感覚が蘇った早紀子には明が飛び掛かって来る様子が手に取
るように分かる。案の定、わざと後ろを見せて食堂に入ろうとした早紀子の後ろから明が
掴みかかって来た。
「何だよ。いきなり掛かってきて。ムードもへちまもねえな。」
サッと身をかわした早紀子がいきなりズボンのベルトを外した。一瞬明が怯んだ隙を見
て早紀子がズボンをパンツごと引き下ろす。こうしておけば脚の自由が利かないのである。
驚く明を後目に早紀子の手がむんずと前を掴んだ。
「何だよ、まだ皮被ったまんまじゃねえか。これで私を抱こうなんて、十年早いよ。」
早紀子の手が乱暴に皮を引き下げた。明が苦痛の悲鳴を上げた。
「馬鹿野郎。男がこれくらい我慢できないでどうするんだよ。ほら、風呂場に来い。」
剥いたばかりのところを引っ張って早紀子が明を風呂場に連れて行く。明がその手を振
り解いてもう一度飛び掛かろうとした。ズボンが脚に絡まって自由が利かない。その機を
逃さず早紀子の手が後の袋を思い切り握りしめた。
「ギャー。」
明が床に蹲った。
「そこいらの柔な女と一緒にしないでおくれ。今度言うこと聞かなかったら、本当に捻
り潰すよ。」
早紀子が手加減しなかったので明は気を失っていた。そのまま風呂場に引きずり込んで
裸にすると手に石鹸をつけて剥けたところを乱暴に擦り立てた。こびり付いていた白いか
すが取れ、艶々とした赤い肌が現れた。
「一丁上がりっと。」
明を洗い場の隅に座らせ、自分も服を脱いでシャワーを浴び始める。体を流し終えた早
紀子がシャワーのお湯を水に換えて明の顔に浴びせ掛けた。
「う、うう。」
明が目を開けて辺りを見回す。すぐ目の前に裸の早紀子を見付けて目を丸くした。
「ほら、あんたはこれが見たかったんだろう。とっくり見せてやるよ。」
何が何だか分からない。明はそんな表情でポカンと早紀子の体を見つめている。
「抱きたかったら抱いてもいいよ。ただし、生半可なことじゃ満足しないからね。覚悟
を決めて掛かっておいで。」
明はすっかり意気消沈していた。さっきまであれ程勢い良く上を向いていたものが今は
だらしなく首をうなだれている。
「何だよ。そんなんじゃ役に立たないよ。」
早紀子が脚を広げて見せた。
「ほら、ちゃんと拝んで、しっかり立たせな。」
突然明が泣き出した。
「何だよ、急に泣き出して。どうしたってんだよ。」
暫く待ったが泣きやまない明に痺れを切らした早紀子が体を拭いて外に出た。食堂に戻
った早紀子が明のポケットから取り上げたタバコに火を点けた。二十歳になってからは初
めてのタバコに頭がクラクラする。そんな自分に早紀子が苦笑した。
(私も焼きが回ったね)
三十分程して明が風呂から出てきた。しっかり服を着ていた。
「まったく、意気地無し。そんなんじゃ女の一人も引っ掛けられないだろうに。」
明は早紀子がタバコをふかしているのを見て驚いたようだった。
「さてと。あんたは学校が嫌いみたいだから、今日限りやめちゃいな。行かない学校に
学費払ったって勿体ないだけだからね。」
明は早紀子の変わり様について来れないらしい。ただ目をパチクリして早紀子の顔を見
つめている。
「別に、私を抱きたかったらいつでも抱きな。ただし、只じゃ駄目だよ。金稼いで持っ
て来な。」
「え、」
明が思わず声を出した。
「お前、まさか只でおまんこする気じゃないだろうね。」
「ど、どうしたの、母さん。」
「おや、糞ババアじゃなかったのかい。」
若い頃にはかなり危ない橋も渡ってきた。修羅場もくぐり抜けてきた。そんな早紀子に
とってちんぴらの一人や二人、実際問題目じゃないのだ。腕力は息子の方が強いに決まっ
ている。でも、それは高校時代、取り巻く男達を相手にしてきた時と同じこと。最悪でも
やられるだけ。それも只ではやられない。相手がしっかり自分の中に入ってきた頃合いを
見計らって玉を握りつぶせば大概の男が悶絶する。裸の男ほど無防備でやりやすい相手は
いないのである。特にイク寸前の男が一番簡単だった。その手でやっつけた男の数は十人
を下らない。
「私もそんなに若くないから、一回五千円で勘弁してやるよ。明日から頑張って稼いで
おいで。ちゃんと耳揃えて持ってきたら、その時はいつでもおまんこさせてやるよ。」
早紀子が立ち上がって台所を片付け始めた。
「何やって稼いでもいいけど、サツに捕まるようなへまだけはするなよ。まあ、未成年
だから殺しでもやらない限り少年院で済むだろうけど、肝っ玉据えて掛からないとやくざ
にすらなれないからね。」
早紀子が振り返った。
「ところであんた、シャブ持ってない。」
とんでもない、と言う顔で明が首を横に振った。
「そうかい。あれ打っておまんこすると気持ちいいらしいけどね。」
片付け終わった早紀子が台所の電気を消した。
「さて、つけでもいいから今晩するかい。別に私の方はそれでも構わないよ。きちんと
払ってくれるなら、その方が私も楽できるってもんだ。」
明がまた首を横に振った。
「だったら、さっさと寝な。鍵は開けとくから、その気になったらいつでもおいで。」
早紀子は二階の寝室に上がって服を脱ぎ捨てた。そのままの姿でベッドに入る。ドアは
わざと開けたままにしておいた。暫くして明が上がって来た。一瞬早紀子の部屋の前で立
ち止まったが、そのまま自分の部屋に入っていった。
(根性無し。性根を叩き直さないと駄目だね)
寝ている間に明がこっそり忍び込んで来るかと思った早紀子だが、朝目覚めてみると何
事も起きていなかった。そっと体を探ってみたが、何かされた形跡は無かった。
起きて食堂に行くとテーブルの上にメモが置いてあった。
「学校に行って来ます。帰りは五時頃になると思います。明。」
早紀子が舌打ちした。
「ったく根性無し。」
どうせ学校に戻ったところで明の頭では多寡が知れている。何とか卒業したところで就
職できるかどうかも怪しい。それならいっそのことワルにでも仕立てようかと思った早紀
子だが、明にはその根性すら無いようだ。
「さて、あいつをどうしようか。」
早紀子自身もうだつの上がらないパートを辞めて夜の仕事に鞍替えしようか迷っていた。
この歳になると普通のスナックでは使って貰えないだろう。風俗はする気もないし、三十
も半ばを過ぎた早紀子では大して客が付くとも思えなかった。
早紀子は自分の変わり様がおかしかった。考えてみれば自分だって明に負けず劣らず半
端な青春を送ってきたのである。唯一の違いは少しだけ目先が利いたこと。馬鹿正直に反
発せず、自分が女であることを適当に利用しながら強かに世間を渡って来た。高校の卒業
だって女なればこそ出来た。担任に数回抱かれるのと引き替えに無事卒業証書を手に入れ
たのである。早紀子自身、決して高い買い物だったとは思っていない。
早紀子は本気で明を男にしようと考え始めていた。女の一人や二人ものに出来ないよう
では先々使い物にならない。反対に強かな女に振り回され、利用されるのがオチだ。どう
せなら振り回す側、利用する側に回らなければ人生面白くない。
早紀子は別れた不倫相手、つまり明の父親から何とか金を引き出す手立ては無いものか、
真剣に考え始めた。
早紀子がパートから戻ると明が珍しく家にいた。
「おや、今日はお出掛けじゃないのかい。」
「う、うん。」
「バイトはやらないのかい。稼がないとおまんこ出来ないよ。」
明が黙って自分の部屋に戻っていった。あの気の弱さを何とかしなければならない。取
り敢えず自分の言うことには絶対服従させねばならない。好きなようにやらせていては中
途半端なまま終わってしまう。このままフラフラされたのでは何時になっても早紀子が楽
になることはないのだ。
「明、ちょっと降りてらっしゃい。」
夕食にはまだ間があったので早紀子が明を呼んだ。
「何。」
ぶっきらぼうな顔で明が降りてくる。
「何、じゃないでしょう。何ですか、と言いなさい。」
「何ですか。」
明がしぶしぶ言い直した。
「あんたに聞いておきたいことがあるの。いいからそこに座りなさい。」
早紀子は昨日と同じ服装に着替えていた。
「さて、あんたがこれからどうするのか。いえ、どうしたいのか聞いておこうと思って
ね。」
「どうするって、何を。」
「あんた、急に学校に行くなんて言い出したけど、このまま通う積もりなの。」
「多分。」
「多分じゃ困るんだよ。行くなら行く。行かないなら行かない。どっちかに決めておく
れ。」
明は黙って答えない。
「卒業できるかどうかも分からないのに学費払うなんて勿体ないし、あんただってバイ
トするなり働くなりして金作らないと私とおまんこ出来ないだろう。」
それでも明は答えず、下を向いたままだった。
「全く煮え切らないね。ほら、したいんだろう。」
早紀子がそう言ってジーンズの裾をずらせて見せた。脚を開いているので襞の中の濡れ
た肌までが明の目に晒された。明の腰が浮きそうになった。
「おっと待った。ただ乗りはごめんだよ。」
すかさず早紀子がジーンズを元に戻した。
「そうだ、もし学校に行くんなら、誰でもいいからお前の友達を沢山連れておいで。一
回五千円でおまんこが出来るって聞けばみんな来るだろうよ。十人連れてきたら明の分は
只にしてやるからさ。」
明が悲しそうな顔で早紀子を見た。
「母さん、どうしちゃったの。」
「さあ、地が出たのかもね。もう明の前でいい母親演じるのはやめたんだよ。こう見え
ても若い頃はスケバンでならしたもんさ。おまんこした相手だって百人は下らないよ。だ
から、お前とやったって、お前の同級生何人とおまんこしたって、大した違いはないのさ。」
「ねえ、その、おまんこ、おまんこって言うのやめて。」
「何照れてるんだよ。おまんこはおまんこ。やりたいんだろう。」
「そんな母さん、嫌だ。」
「ふうん、案外純情なんだねぇ。」
急に早紀子が真顔になった。
「あんたがしようとしてたのは、おまんこだよ。ただ突っ込みたい。やりたい、それだ
けだろう。そう言うのをおまんこって言うんだよ。私だって好きな男に抱かれるのをおま
んこなんて言いやしないさ。」
早紀子の気迫に圧倒された明がまた黙り込んだ。
「何であんたに金払えって言うか分かるかい。そりゃあ、例え私が母親でも、好きで抱
きたい、あんたが心底そう思うなら喜んで抱かれて上げる。そりゃあ世間では犬畜生だっ
て蔑むだろうよ。でも、あんたが私のことが本当に好きで抱きたいなら、そんなことはど
うでもいいのさ。ここに住めなくなって逃げ出すことになったって構やしない。私らが親
子だって知らないところで暮らせばいいだけの話し。」
そこまで言って早紀子が一息ついた。冷蔵庫からビールを二缶持って来る。
「ほら、あんたも飲みな。」
明が驚いた顔で早紀子を見た。
「飲んだこと無い訳じゃないだろう。」
「う、うん。」
「だったら遠慮せず、飲みな。」
早紀子がタバコを取り出した。
「はっきり言っとくけど、私ゃダッチワイフの代わりなんてゴメンだよ。もしどうして
もおまんこしたかったら、その時はちゃんと金払いな。そうすれば目をつぶってやってや
る。一回五千円。一晩じゃないよ。一回出す毎に五千円。いいね。」
明がシクシクと泣き出した。
「母さん、元の母さんに戻って。僕、これからちゃんと学校にも行くし、変なこともし
ないから。」
「今更そう言われてもねえ。」
「お願い。」
明が涙で濡れた顔を上げた。
「友達から金取ってやらせたりしたら、僕、学校に行けなくなっちゃう。」
「仕方ない。じゃあ、テレクラで相手でも探すとするかね。」
「駄目だったら、そんなことしちゃ駄目。」
「じゃあ、どうやって稼ぐのよ。もうパートなんか馬鹿馬鹿しくてやる気無くなっちゃ
ったんだから。」
明が真っ直ぐに早紀子の目を見た。
「僕、真面目に高校通うから。高校出たらちゃんと就職して母さん楽にして上げる。だ
から、売春なんかしないで。」
「へえ、急に言うことが変わったわね。信用していいのやら。」
「約束するから。」
「まあいいわ。暫く様子を見ましょう。私も今まで通りパートに通うことにするわ。」
早紀子がビールを飲み干して立ち上がった。
「取り敢えず二学期が終わるまで様子見るわね。それで決めましょう。」
明はとうとうビールには手をつけなかった。
早紀子は拍子抜けした気分だった。何のかんの言ってもただ甘えているだけ。こちらが
肝を据えてぶつかれば途端に腰が砕けてしまう。どうせ長続きしないだろうと思った早紀
子はその晩も裸のままベッドに入った。ドアに鍵は掛けなかった。
秋も深まり、そろそろ二学期も終わりに近付いている。早紀子の予想に反して明は毎日
真面目に学校に通っていた。このまま三学期も休まなければ留年せずに済みそうだ。期末
試験の結果もギリギリだったが一応及第点は取れたらしい。
終業式の日が来た。一週間前、物は試しと新聞広告に出ていた会社の正社員に応募した
ら、その日の午後、採用との返事が来た。これで今までと同じ給料が確保でき、働きに出
る時間が大幅に少なくなる。何しろこれまでは三カ所のパートを掛け持ちして、一日平均
十二時間以上働いて来たのである。休日も殆ど無かった。
「お帰りなさい。」
早紀子が満面の笑顔で明を出迎えた。
「どうしたの、母さん。嬉しそうな顔して。」
「今日はお祝いよ。一つは明が無事に二学期を通い終えたこと。もう一つは母さんの就
職が決まったの。お給料は変わらないけど、もう長い時間働かないでも済むの。土日も休
みだし、正月休みだってちゃんとあるのよ。」
「へえ、よかったね。」
「さ、着替えて。」
「え、何で。」
「これからお祝いに行くの。」
「うん、着替えてくる。」
早紀子は明を都心のホテルのレストランに連れていった。飛び切り豪華ではないが、そ
れでもフルコースの食事を摂る。二人がワインで乾杯した。
「さ、行くわよ。」
食事が終わったところで早紀子が明をエレベーターの方に連れて行った。
「え、どこ行くの。」
「まだお祝いは終わっていないのよ。」
早紀子の手にはホテルの部屋の鍵が握られていた。
「え、泊まるの。」
「そうよ。」
戸惑う明の手を引いて早紀子がエレベーターに乗り込んだ。二十八階のボタンを押すと
エレベーターが勢い良く上がり始めた。部屋に入るまで明は口を開かなかった。
「わあ、いい眺め。」
カーテンを開けると眼下に東京の夜景が広がっている。
「ねえ、母さん。」
「何。」
「どう言うこと、これ。」
「このまま何もしないで寝てもいいし、もし明が私のことが好きなら抱いてもいい。明
次第。」
「分からない。」
「母さんはね、明が自分で決めた通りに生きてくれればそれでいいの。真面目に生きる
ならそれもよし。母さんも一緒に頑張る。もし、そんなの馬鹿らしいと思うなら、別の生
き方してもいい。ワルになったって構わないの。ただ、すねて何もせず、ゴミみたいな生
き方だけはして欲しくないの。それだけよ。」
「それと寝ることとどう言う関係があるの。」
早紀子が明の見ている前で服を脱ぎ始めた。あっと言う間に裸になり、ベッドの上に大
の字に横になった。
「三ヶ月前の明には死んでも抱かれたくなかった。でも今の明になら抱かれてもいい。
いえ、抱かれたい。親子だからいけない。そんなこと分かってる。でも、明は私にとって
一番大切な人。」
早紀子が起き上がった。
「私だって女なの。抱かれたいと思うことだってあるのよ。」
明が早紀子の体を見て唾を飲み込んだ。
「お風呂に入るわ。」
早紀子が立ち上がった。
「一緒に入りたかったら来ていいわよ。」
早紀子がお湯の栓を捻り、シャワーを浴びているとドアが開いた。明が裸で入ってきた。
「ちゃんと自分で剥いてる。」
早紀子が振り返ると明が剥けたものを見せた。
「感心、感心。清潔にしてないと女の子に嫌われるからね。」
明の体を隅から隅まで洗い、自分も流してから二人で湯船に浸かる。浅い湯船の中で二
人の身体が絡み合った。
「何で明を誘ったと思う。」
「分からない。」
「それはね、あんたを一人前の男にして上げたかったの。女の口説き方、悦ばせ方も全
部教える積もり。嫌。」
「ううん。」
明の手が怖ず怖ずと早紀子の胸に触れた。
「母さん、ごめんなさい。でも一つだけ聞いて。」
「何。」
「僕が母さんにわざとオナニーして見せたときなんだけど、本当はあの時も母さんのこ
とが好きで、母さんが欲しかったんだ。」
「本当に。」
「嘘じゃない。でもどうしていいか分からなかったから、あんな風にしか出来なかった
んだ。」
「だから、明に色々教えて上げようって言うの。あんなこと、もし他の女にしたら嫌わ
れるだけじゃなくて、痴漢だって訴えられちゃうわよ。」
「分かってる。」
「女は上手に口説けば結構ものになるの。もっと女を勉強しなさい。」
「はい。」
早紀子の手が延びて明の袋を優しく包んだ。
「握らないでね。」
早紀子が思わず吹き出した。
「心配しなくても大丈夫よ。」
「でもマジで痛かった、あの時は。」
「ふふ、ごめんね。あれ、効くのよね。」
「死ぬかと思った。」
早紀子が明に顔を寄せてきた。
「はい、まずはキスのお勉強から。」
いつの間にか早紀子の手が袋を離れ、固くなったものを握りしめていた。
[2003/05/11]
[タイトル:命懸け]
早紀子が逃げるように寝室に戻り、音を立てないように気を使いながらドアに鍵を掛け
た。今にも息子が襲ってくるような気がして居ても立ってもいられない。気が動転してい
た。ことも在ろうに夕食が終わった食堂で、息子の明が突然自分のものをズボンから引っ
ぱり出してしごき始めたのである。それも、早紀子に見せつけるように立ち上がって。久
しぶりに明が早紀子の目を真っ直ぐに見た。母親の目をジッと蛇のような目で見つめなが
ら握りしめた手を動かしていた。
(何やってるの!)
激しい言葉が喉まで出掛かった。息子の目には母親の叱責などまるで意に介さない冷た
い輝きが宿っていた。明の手の動きが一段と速くなった。明がウッと呻き、握りしめた手
の中からおびただしい精が迸る。その瞬間、早紀子の金縛りが解けた。素早く立ち上がっ
た早紀子が脱兎の如く二階に駆け上がる。部屋の隅に蹲った早紀子がジッと耳を澄ました。
階段を上がってくる足音が聞こえないか、それだけに神経を集中させた。五分、十分。時
がまるで蝸牛の歩みのようにゆっくりと流れて行った。
息子の明は今年高校生になったが、夏休み前から様子がおかしくなり、二学期に入って
とうとう学校にも行かなくなってしまった。朝は十二時近くなってようやく起き出してく
る。飯の用意がしてないと言って早紀子に当たり、何も言わずに家を出て行く。どうやら
コンビニでパンとかお菓子を買って済ませているらしい。三日と開けずに早紀子に小遣い
をせびる。最初のうちは厳しく断っていたのだが、テレビで少年の引ったくりや恐喝のニ
ュースを見ているうちに不安になり、少しずつ小出しに与えるようになった。幸い今のと
ころはまだ暴力沙汰は起こしていないようだが、それも時間の問題に思えてくる。
明の目が最近変わって来たことに早紀子は気が付いていた。ちょっと前までは、『この
糞ババア』と口に出し、そう言う目で見ていた。まともに早紀子の方を見ることなど殆ど
無かった。その視線が夏休みを過ぎた頃から早紀子の体を舐め回すような粘着質に変わっ
てきたのだ。今でも決して早紀子と視線を合わそうとはしないが、執拗に胸元や腰の辺り
を見つめている。そんな時の明は決まってズボンの前を大きくしていた。息子が自分に欲
情している。これは母親には堪えられないことだった。明も年頃だから女に興味を抱いて
も当然なのだが、その矛先がまさか実の母親とは。
汗ビッショリになった早紀子が時計を見ると夜中の十二時を過ぎていた。早紀子にとっ
ては永遠とも思えるほどの長い時間だった。どうやら明が上がってくる様子は無い。恐る
恐る立ち上がった早紀子がドアを開けて階段の方を見た。そこに明の姿は無かった。足音
を忍ばせて下に降りて見たが、そこにも明の姿は無い。玄関に行ってみると明の靴が無く
なっていた。急に体の力が抜けた早紀子が食堂に戻る。食堂には明の放った青臭い匂いが
充満していた。床や椅子、テーブルにその跡がベットリと残っていた。
早紀子と明は二人で暮らしている。元々父親はいない。早紀子はいわゆるシングルマザ
ー。以前勤めていた会社の上司と不倫関係になり明を身籠もった。不倫相手は堕ろすよう
しつこく迫った。もし産んだとしても養育費は出さない。認知もしないとさえ言った。そ
れでも早紀子が産むと言い張り、不倫相手は離れていった。恐らく強硬に迫れば認知くら
いはしたかも知れない。しかし、不倫相手の妻が訴訟を仄めかし、反対に慰謝料を請求す
るとまで言われた。最後に早紀子が折れ、たった一人で明を産み落とした。
(やっぱり父親って必要なんだろうか)
食堂の椅子に座って明が飛ばしたテーブルの上の滴を指先でなすりながら早紀子はぼん
やりとその指先を眺めていた。早紀子の頭の中に様々な事件の報道が浮かんでは消え、消
えてはまた浮かんで来た。今頃どこかで暴力沙汰でも起こしてはいないだろうか。通り掛
かりの女に襲い掛かったりしたらどうしよう。遠くでパトカーのサイレンが鳴っている。
早紀子は身も細る思いで明の帰りを今か、今かと待ちわびていた。
「どうしたらいいの。」
思わず早紀子の喉から嗚咽が漏れた。これまで明には自分なりに精一杯の愛情を注いで
きたつもりだ。女一人で息子を育て上げる。それは一口で言い尽くせるほど生やさしいも
のではない。只みたいな家賃で親類の使っていない家に住まわせて貰ってはいたが、高校
の入学金だって三軒のパートを掛け持ちして深夜まで働いてようやく納めることが出来た
のだ。そのために明と一緒に過ごす時間を犠牲にして来たことは確かである。でも、他に
どうすればいいと言うのだ。
帰ってこない息子を待ちながら、早紀子は自分がこれからどうしたらいいのか、必死で
考え始めた。不倫相手の認知が無くても明を産んだ早紀子だから芯の強さは並みではない。
自分の両親にも勘当されたが、それでも弱音を吐かず、今日まで明を育てて来たのである。
「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ。」
突然声に出してそう叫んだ早紀子がティッシュを取り出してテーブルや床に撒き散らさ
れた汚れを拭い始めた。
「負けたらお仕舞い。負けてなんかなるもんか。」
早紀子は一々声に出して自分の気持ちを吐き出して行った。このまま明が墜ちていった
ら周囲の反対を押し切って明を産んだ自分の選択は何になるのだ。血の滲むような苦労を
重ねて来た今日までの日々はいったい何のためなんだ。
それに、何があろうとも息子が力ずくで自分を犯すような事態だけは避けねばならない。
そんなことになったら明に将来は無い。自分の母親を暴力で犯すような男の居場所がこの
世の中にあると思ったら大間違いのコンコンチキ。しかし、万一そうなったとしても警察
に訴えることなど出来っこない話しである。自分の出産に反対した両親や周りから「それ
見たことか。」と言う罵声が間違いなく飛んで来るだろう。その時は明を道連れにこの世
ともおさらばだわ。早紀子の腹が決まった。後は実行あるのみだった。
「こんなんでビビッてちゃ、元スケバンの名が廃るよ。」
二階に駆け上がった早紀子は押し入れの奥から衣装ケースを引っ張り出した。中には自
分が昔、まだ高校生だった頃に着ていた派手な服が詰まっている。二度と着ることはない
と思っていた。青春の記念にと捨てないで取っておいたものである。
早紀子はその中からボロボロのジーンズと深紅のカッターシャツを取り出した。当時、
一番のお気に入りだった組合せである。ジーンズはあちこち破れて白い糸が出ている。思
い切って股のところから下を破り捨てた。繊維が弱くなっているので簡単に千切れた。次
々と着ていたものを脱ぎ捨て、下着も全部脱いで素っ裸になった。その上から直に短くな
ったジーンズを履き、羽織ったカッターシャツはボタンを止めずに腰のところで結んだ。
鏡を眺めると、そこには少しとうが立った女番長が復活していた。前が開いているので角
度によっては乳首まで見えてしまう。短く切りすぎたジーンズの股からは、毛は勿論、生
々しい襞でさえ見えてしまいそうな気配だった。
「舐めんなよ。」
ドスの利いた声で自分に呼び掛け、足音高く階段を駆け下りて行った。歩き方さえ変わ
っていた。
明け方三時過ぎ、明がふてくされた顔で帰ってきた。出迎えた早紀子を見た明がギョッ
とした顔になった。
「おう、今何時だと思ってんだよ。」
機先を制して早紀子が怒鳴りつけた。
「何時だっていいじゃねえか。」
言い返す明に早紀子が畳みかけた。
「ざけんじゃねえ。てめえの汚ねえ精液で食堂汚しやがって、どこほっつき歩いてたん
だよ。女でも漁ってたか。」
「うるせえなあ、この糞ババア。」
「おう、おう。言ってくれるじゃねえか。その糞ババアから小遣いせびって、てめえは
何もしないで毎日ゴロゴロしてやがる。」
さっきから明が早紀子の胸や腿にチラチラと視線を送っていた。
「何だい、黙ってると思ったら今度は色気かい。しょうもない。そんなとこに突っ立っ
てないで入んな。」
明の表情が変わった。昔の感覚が蘇った早紀子には明が飛び掛かって来る様子が手に取
るように分かる。案の定、わざと後ろを見せて食堂に入ろうとした早紀子の後ろから明が
掴みかかって来た。
「何だよ。いきなり掛かってきて。ムードもへちまもねえな。」
サッと身をかわした早紀子がいきなりズボンのベルトを外した。一瞬明が怯んだ隙を見
て早紀子がズボンをパンツごと引き下ろす。こうしておけば脚の自由が利かないのである。
驚く明を後目に早紀子の手がむんずと前を掴んだ。
「何だよ、まだ皮被ったまんまじゃねえか。これで私を抱こうなんて、十年早いよ。」
早紀子の手が乱暴に皮を引き下げた。明が苦痛の悲鳴を上げた。
「馬鹿野郎。男がこれくらい我慢できないでどうするんだよ。ほら、風呂場に来い。」
剥いたばかりのところを引っ張って早紀子が明を風呂場に連れて行く。明がその手を振
り解いてもう一度飛び掛かろうとした。ズボンが脚に絡まって自由が利かない。その機を
逃さず早紀子の手が後の袋を思い切り握りしめた。
「ギャー。」
明が床に蹲った。
「そこいらの柔な女と一緒にしないでおくれ。今度言うこと聞かなかったら、本当に捻
り潰すよ。」
早紀子が手加減しなかったので明は気を失っていた。そのまま風呂場に引きずり込んで
裸にすると手に石鹸をつけて剥けたところを乱暴に擦り立てた。こびり付いていた白いか
すが取れ、艶々とした赤い肌が現れた。
「一丁上がりっと。」
明を洗い場の隅に座らせ、自分も服を脱いでシャワーを浴び始める。体を流し終えた早
紀子がシャワーのお湯を水に換えて明の顔に浴びせ掛けた。
「う、うう。」
明が目を開けて辺りを見回す。すぐ目の前に裸の早紀子を見付けて目を丸くした。
「ほら、あんたはこれが見たかったんだろう。とっくり見せてやるよ。」
何が何だか分からない。明はそんな表情でポカンと早紀子の体を見つめている。
「抱きたかったら抱いてもいいよ。ただし、生半可なことじゃ満足しないからね。覚悟
を決めて掛かっておいで。」
明はすっかり意気消沈していた。さっきまであれ程勢い良く上を向いていたものが今は
だらしなく首をうなだれている。
「何だよ。そんなんじゃ役に立たないよ。」
早紀子が脚を広げて見せた。
「ほら、ちゃんと拝んで、しっかり立たせな。」
突然明が泣き出した。
「何だよ、急に泣き出して。どうしたってんだよ。」
暫く待ったが泣きやまない明に痺れを切らした早紀子が体を拭いて外に出た。食堂に戻
った早紀子が明のポケットから取り上げたタバコに火を点けた。二十歳になってからは初
めてのタバコに頭がクラクラする。そんな自分に早紀子が苦笑した。
(私も焼きが回ったね)
三十分程して明が風呂から出てきた。しっかり服を着ていた。
「まったく、意気地無し。そんなんじゃ女の一人も引っ掛けられないだろうに。」
明は早紀子がタバコをふかしているのを見て驚いたようだった。
「さてと。あんたは学校が嫌いみたいだから、今日限りやめちゃいな。行かない学校に
学費払ったって勿体ないだけだからね。」
明は早紀子の変わり様について来れないらしい。ただ目をパチクリして早紀子の顔を見
つめている。
「別に、私を抱きたかったらいつでも抱きな。ただし、只じゃ駄目だよ。金稼いで持っ
て来な。」
「え、」
明が思わず声を出した。
「お前、まさか只でおまんこする気じゃないだろうね。」
「ど、どうしたの、母さん。」
「おや、糞ババアじゃなかったのかい。」
若い頃にはかなり危ない橋も渡ってきた。修羅場もくぐり抜けてきた。そんな早紀子に
とってちんぴらの一人や二人、実際問題目じゃないのだ。腕力は息子の方が強いに決まっ
ている。でも、それは高校時代、取り巻く男達を相手にしてきた時と同じこと。最悪でも
やられるだけ。それも只ではやられない。相手がしっかり自分の中に入ってきた頃合いを
見計らって玉を握りつぶせば大概の男が悶絶する。裸の男ほど無防備でやりやすい相手は
いないのである。特にイク寸前の男が一番簡単だった。その手でやっつけた男の数は十人
を下らない。
「私もそんなに若くないから、一回五千円で勘弁してやるよ。明日から頑張って稼いで
おいで。ちゃんと耳揃えて持ってきたら、その時はいつでもおまんこさせてやるよ。」
早紀子が立ち上がって台所を片付け始めた。
「何やって稼いでもいいけど、サツに捕まるようなへまだけはするなよ。まあ、未成年
だから殺しでもやらない限り少年院で済むだろうけど、肝っ玉据えて掛からないとやくざ
にすらなれないからね。」
早紀子が振り返った。
「ところであんた、シャブ持ってない。」
とんでもない、と言う顔で明が首を横に振った。
「そうかい。あれ打っておまんこすると気持ちいいらしいけどね。」
片付け終わった早紀子が台所の電気を消した。
「さて、つけでもいいから今晩するかい。別に私の方はそれでも構わないよ。きちんと
払ってくれるなら、その方が私も楽できるってもんだ。」
明がまた首を横に振った。
「だったら、さっさと寝な。鍵は開けとくから、その気になったらいつでもおいで。」
早紀子は二階の寝室に上がって服を脱ぎ捨てた。そのままの姿でベッドに入る。ドアは
わざと開けたままにしておいた。暫くして明が上がって来た。一瞬早紀子の部屋の前で立
ち止まったが、そのまま自分の部屋に入っていった。
(根性無し。性根を叩き直さないと駄目だね)
寝ている間に明がこっそり忍び込んで来るかと思った早紀子だが、朝目覚めてみると何
事も起きていなかった。そっと体を探ってみたが、何かされた形跡は無かった。
起きて食堂に行くとテーブルの上にメモが置いてあった。
「学校に行って来ます。帰りは五時頃になると思います。明。」
早紀子が舌打ちした。
「ったく根性無し。」
どうせ学校に戻ったところで明の頭では多寡が知れている。何とか卒業したところで就
職できるかどうかも怪しい。それならいっそのことワルにでも仕立てようかと思った早紀
子だが、明にはその根性すら無いようだ。
「さて、あいつをどうしようか。」
早紀子自身もうだつの上がらないパートを辞めて夜の仕事に鞍替えしようか迷っていた。
この歳になると普通のスナックでは使って貰えないだろう。風俗はする気もないし、三十
も半ばを過ぎた早紀子では大して客が付くとも思えなかった。
早紀子は自分の変わり様がおかしかった。考えてみれば自分だって明に負けず劣らず半
端な青春を送ってきたのである。唯一の違いは少しだけ目先が利いたこと。馬鹿正直に反
発せず、自分が女であることを適当に利用しながら強かに世間を渡って来た。高校の卒業
だって女なればこそ出来た。担任に数回抱かれるのと引き替えに無事卒業証書を手に入れ
たのである。早紀子自身、決して高い買い物だったとは思っていない。
早紀子は本気で明を男にしようと考え始めていた。女の一人や二人ものに出来ないよう
では先々使い物にならない。反対に強かな女に振り回され、利用されるのがオチだ。どう
せなら振り回す側、利用する側に回らなければ人生面白くない。
早紀子は別れた不倫相手、つまり明の父親から何とか金を引き出す手立ては無いものか、
真剣に考え始めた。
早紀子がパートから戻ると明が珍しく家にいた。
「おや、今日はお出掛けじゃないのかい。」
「う、うん。」
「バイトはやらないのかい。稼がないとおまんこ出来ないよ。」
明が黙って自分の部屋に戻っていった。あの気の弱さを何とかしなければならない。取
り敢えず自分の言うことには絶対服従させねばならない。好きなようにやらせていては中
途半端なまま終わってしまう。このままフラフラされたのでは何時になっても早紀子が楽
になることはないのだ。
「明、ちょっと降りてらっしゃい。」
夕食にはまだ間があったので早紀子が明を呼んだ。
「何。」
ぶっきらぼうな顔で明が降りてくる。
「何、じゃないでしょう。何ですか、と言いなさい。」
「何ですか。」
明がしぶしぶ言い直した。
「あんたに聞いておきたいことがあるの。いいからそこに座りなさい。」
早紀子は昨日と同じ服装に着替えていた。
「さて、あんたがこれからどうするのか。いえ、どうしたいのか聞いておこうと思って
ね。」
「どうするって、何を。」
「あんた、急に学校に行くなんて言い出したけど、このまま通う積もりなの。」
「多分。」
「多分じゃ困るんだよ。行くなら行く。行かないなら行かない。どっちかに決めておく
れ。」
明は黙って答えない。
「卒業できるかどうかも分からないのに学費払うなんて勿体ないし、あんただってバイ
トするなり働くなりして金作らないと私とおまんこ出来ないだろう。」
それでも明は答えず、下を向いたままだった。
「全く煮え切らないね。ほら、したいんだろう。」
早紀子がそう言ってジーンズの裾をずらせて見せた。脚を開いているので襞の中の濡れ
た肌までが明の目に晒された。明の腰が浮きそうになった。
「おっと待った。ただ乗りはごめんだよ。」
すかさず早紀子がジーンズを元に戻した。
「そうだ、もし学校に行くんなら、誰でもいいからお前の友達を沢山連れておいで。一
回五千円でおまんこが出来るって聞けばみんな来るだろうよ。十人連れてきたら明の分は
只にしてやるからさ。」
明が悲しそうな顔で早紀子を見た。
「母さん、どうしちゃったの。」
「さあ、地が出たのかもね。もう明の前でいい母親演じるのはやめたんだよ。こう見え
ても若い頃はスケバンでならしたもんさ。おまんこした相手だって百人は下らないよ。だ
から、お前とやったって、お前の同級生何人とおまんこしたって、大した違いはないのさ。」
「ねえ、その、おまんこ、おまんこって言うのやめて。」
「何照れてるんだよ。おまんこはおまんこ。やりたいんだろう。」
「そんな母さん、嫌だ。」
「ふうん、案外純情なんだねぇ。」
急に早紀子が真顔になった。
「あんたがしようとしてたのは、おまんこだよ。ただ突っ込みたい。やりたい、それだ
けだろう。そう言うのをおまんこって言うんだよ。私だって好きな男に抱かれるのをおま
んこなんて言いやしないさ。」
早紀子の気迫に圧倒された明がまた黙り込んだ。
「何であんたに金払えって言うか分かるかい。そりゃあ、例え私が母親でも、好きで抱
きたい、あんたが心底そう思うなら喜んで抱かれて上げる。そりゃあ世間では犬畜生だっ
て蔑むだろうよ。でも、あんたが私のことが本当に好きで抱きたいなら、そんなことはど
うでもいいのさ。ここに住めなくなって逃げ出すことになったって構やしない。私らが親
子だって知らないところで暮らせばいいだけの話し。」
そこまで言って早紀子が一息ついた。冷蔵庫からビールを二缶持って来る。
「ほら、あんたも飲みな。」
明が驚いた顔で早紀子を見た。
「飲んだこと無い訳じゃないだろう。」
「う、うん。」
「だったら遠慮せず、飲みな。」
早紀子がタバコを取り出した。
「はっきり言っとくけど、私ゃダッチワイフの代わりなんてゴメンだよ。もしどうして
もおまんこしたかったら、その時はちゃんと金払いな。そうすれば目をつぶってやってや
る。一回五千円。一晩じゃないよ。一回出す毎に五千円。いいね。」
明がシクシクと泣き出した。
「母さん、元の母さんに戻って。僕、これからちゃんと学校にも行くし、変なこともし
ないから。」
「今更そう言われてもねえ。」
「お願い。」
明が涙で濡れた顔を上げた。
「友達から金取ってやらせたりしたら、僕、学校に行けなくなっちゃう。」
「仕方ない。じゃあ、テレクラで相手でも探すとするかね。」
「駄目だったら、そんなことしちゃ駄目。」
「じゃあ、どうやって稼ぐのよ。もうパートなんか馬鹿馬鹿しくてやる気無くなっちゃ
ったんだから。」
明が真っ直ぐに早紀子の目を見た。
「僕、真面目に高校通うから。高校出たらちゃんと就職して母さん楽にして上げる。だ
から、売春なんかしないで。」
「へえ、急に言うことが変わったわね。信用していいのやら。」
「約束するから。」
「まあいいわ。暫く様子を見ましょう。私も今まで通りパートに通うことにするわ。」
早紀子がビールを飲み干して立ち上がった。
「取り敢えず二学期が終わるまで様子見るわね。それで決めましょう。」
明はとうとうビールには手をつけなかった。
早紀子は拍子抜けした気分だった。何のかんの言ってもただ甘えているだけ。こちらが
肝を据えてぶつかれば途端に腰が砕けてしまう。どうせ長続きしないだろうと思った早紀
子はその晩も裸のままベッドに入った。ドアに鍵は掛けなかった。
秋も深まり、そろそろ二学期も終わりに近付いている。早紀子の予想に反して明は毎日
真面目に学校に通っていた。このまま三学期も休まなければ留年せずに済みそうだ。期末
試験の結果もギリギリだったが一応及第点は取れたらしい。
終業式の日が来た。一週間前、物は試しと新聞広告に出ていた会社の正社員に応募した
ら、その日の午後、採用との返事が来た。これで今までと同じ給料が確保でき、働きに出
る時間が大幅に少なくなる。何しろこれまでは三カ所のパートを掛け持ちして、一日平均
十二時間以上働いて来たのである。休日も殆ど無かった。
「お帰りなさい。」
早紀子が満面の笑顔で明を出迎えた。
「どうしたの、母さん。嬉しそうな顔して。」
「今日はお祝いよ。一つは明が無事に二学期を通い終えたこと。もう一つは母さんの就
職が決まったの。お給料は変わらないけど、もう長い時間働かないでも済むの。土日も休
みだし、正月休みだってちゃんとあるのよ。」
「へえ、よかったね。」
「さ、着替えて。」
「え、何で。」
「これからお祝いに行くの。」
「うん、着替えてくる。」
早紀子は明を都心のホテルのレストランに連れていった。飛び切り豪華ではないが、そ
れでもフルコースの食事を摂る。二人がワインで乾杯した。
「さ、行くわよ。」
食事が終わったところで早紀子が明をエレベーターの方に連れて行った。
「え、どこ行くの。」
「まだお祝いは終わっていないのよ。」
早紀子の手にはホテルの部屋の鍵が握られていた。
「え、泊まるの。」
「そうよ。」
戸惑う明の手を引いて早紀子がエレベーターに乗り込んだ。二十八階のボタンを押すと
エレベーターが勢い良く上がり始めた。部屋に入るまで明は口を開かなかった。
「わあ、いい眺め。」
カーテンを開けると眼下に東京の夜景が広がっている。
「ねえ、母さん。」
「何。」
「どう言うこと、これ。」
「このまま何もしないで寝てもいいし、もし明が私のことが好きなら抱いてもいい。明
次第。」
「分からない。」
「母さんはね、明が自分で決めた通りに生きてくれればそれでいいの。真面目に生きる
ならそれもよし。母さんも一緒に頑張る。もし、そんなの馬鹿らしいと思うなら、別の生
き方してもいい。ワルになったって構わないの。ただ、すねて何もせず、ゴミみたいな生
き方だけはして欲しくないの。それだけよ。」
「それと寝ることとどう言う関係があるの。」
早紀子が明の見ている前で服を脱ぎ始めた。あっと言う間に裸になり、ベッドの上に大
の字に横になった。
「三ヶ月前の明には死んでも抱かれたくなかった。でも今の明になら抱かれてもいい。
いえ、抱かれたい。親子だからいけない。そんなこと分かってる。でも、明は私にとって
一番大切な人。」
早紀子が起き上がった。
「私だって女なの。抱かれたいと思うことだってあるのよ。」
明が早紀子の体を見て唾を飲み込んだ。
「お風呂に入るわ。」
早紀子が立ち上がった。
「一緒に入りたかったら来ていいわよ。」
早紀子がお湯の栓を捻り、シャワーを浴びているとドアが開いた。明が裸で入ってきた。
「ちゃんと自分で剥いてる。」
早紀子が振り返ると明が剥けたものを見せた。
「感心、感心。清潔にしてないと女の子に嫌われるからね。」
明の体を隅から隅まで洗い、自分も流してから二人で湯船に浸かる。浅い湯船の中で二
人の身体が絡み合った。
「何で明を誘ったと思う。」
「分からない。」
「それはね、あんたを一人前の男にして上げたかったの。女の口説き方、悦ばせ方も全
部教える積もり。嫌。」
「ううん。」
明の手が怖ず怖ずと早紀子の胸に触れた。
「母さん、ごめんなさい。でも一つだけ聞いて。」
「何。」
「僕が母さんにわざとオナニーして見せたときなんだけど、本当はあの時も母さんのこ
とが好きで、母さんが欲しかったんだ。」
「本当に。」
「嘘じゃない。でもどうしていいか分からなかったから、あんな風にしか出来なかった
んだ。」
「だから、明に色々教えて上げようって言うの。あんなこと、もし他の女にしたら嫌わ
れるだけじゃなくて、痴漢だって訴えられちゃうわよ。」
「分かってる。」
「女は上手に口説けば結構ものになるの。もっと女を勉強しなさい。」
「はい。」
早紀子の手が延びて明の袋を優しく包んだ。
「握らないでね。」
早紀子が思わず吹き出した。
「心配しなくても大丈夫よ。」
「でもマジで痛かった、あの時は。」
「ふふ、ごめんね。あれ、効くのよね。」
「死ぬかと思った。」
早紀子が明に顔を寄せてきた。
「はい、まずはキスのお勉強から。」
いつの間にか早紀子の手が袋を離れ、固くなったものを握りしめていた。
[2003/05/11]
コメント