小説(転載) イマジネーショん
官能小説
六歳離れた妹・あずさが、高校生の兄・ひびきの部屋をたずねた、夜の九時。
「どうした?」
ベッドに寝転んで漫画を読んでいたひびきは、来訪した妹にやさしく問い掛けた。
「風の音でも怖いか? 一緒に寝るか?」
「ち、違うよぉ。子供じゃないんだからー」
(いや、じゅーぶん子供だ)
「そうじゃなくて、あ、あのねー。お兄ちゃん」
もじもじもじもじ。もじもじもじもじ。
「……なんだよぉ?」
「んと……、一緒に寝なくてもいいけど、一緒に部屋にいてほしいんだ……」
「は? なんだそりゃ?」
「止めてほしいの。あたしのひとりエッチを」
ひびきは、ベッドの上でエビ反った。
イマジネーショん
~「ジェネレーショん」シリーズ・第3章~
「なぁ、あず。いないんだって普通。夜に兄貴の部屋に来て、ひとりエッチを止めてほしいから部屋に来てなんて言う妹は」
ひびきは、机の引き出しからガムを取り出した(禁煙中なのだ)。
あずさにも差しだすが、赤くなってる顔を横に振られて、自分だけが噛むことにする。
「クチャ……それにお前、今さらひとりでやる必要あるのか? しんごがいるだろーに」
しんごとは、あずさと同い年の、あずさのボーイフレンド。イクところまでイッちゃってる関係だ。
ついでに申し上げておくと、そんな妹の兄を務めるひびきには、残念ならが実経験はまったくない。
それなのに、過去に二度も、あずさとしんごの仲を取り持つ役目を担ってきた。
立派である。
「それともナニか? まぁた、しんごとうまくいってねーの? クチャ……俺、さすがにもーヤダぞ」
「う、ううん! しんごとは……仲いいよ。今日もデートしてきたし」
「寝ろ」
「ああ~ん、なんでぇ?!」
イヤイヤをするあずさに、ひびきは漫画に目を戻しながら答えた。
「俺はこー見えても漫画読んだり横になったりまばたきしたり心臓動かしたりで忙しーんだ。ノロケなんぞ聞いてられるか!」
「…………」
「クチャ……クチャ……」
「……ぐすっ」
「わぁ!」
ぐずり始めたあずさの元へ、ひびきはコンマ数秒で駆け寄り、小さな肩をつかんだ。
さっきまで噛んでいたガムも、キッチリと紙に包まれてゴミ箱に入っているという、驚異のスピードだ。
「わかったわかった! ちゃんと事情を聞くから、ほら、な?」
「もういい……。お兄ちゃん、イジワルだよぉ……」
「悪かったって。かわいい妹の悩みだ。しっかり相談に乗るから!」
これは、本心のセリフだ。じゃなければ、今頃はどっちかである。二度も苦労しないか、とっくに犯してるか。
「……デートはしたけどぉ、……デートしただけなの」
「んー、その辺がよくわからん。デートしたのに、それだけって何だ」
「だからあのね、学校帰りに商店街寄って、公園で遊んで、それじゃあねって……」
「…………」
「してないの!」
「おおう!」
ようやく、ひびきはピンと来た。
なんせ彼女がいたことない彼にとっては、デートが、深い仲になった男女のデートが、どんなセットで構成されているかなんて、想像できなかったのだ。
「あーそうかー。学校帰りのその前に体育用具室で、とかは?」
「してない」
「商店街で人目を盗んで、とかは?」
「してない」
「公園はどーだよ。いい茂みがあるだろー」
「してない! してないったらしてないの! って、何度も言わせないでよぉ!」
赤ペンキでもブッかけられたみたいな真っ赤な顔で、あずさは力説した。
「だって、またちょっとマンネリ気味になったんだもん! だからって、またお兄ちゃんに相談したら、それこそ月まで届くくらいに怒鳴られちゃうし、だから前にお兄ちゃんが言ってた、『しばらくしない』ってのを実行してるんだよ!」
ハア、ハア、ハア。
あずさが呼吸を整える中、ひびきはポカーンとしていた。
まだポカーンとしていた。
ほら、まだポカーンとしてる。
ああ、ようやく我に返ったらしい。
「そうか……がんばれよ」
「違ぁぁう!! ……ムグ!」
「何でもいいけど、声大き過ぎ」
ひびきがあずさの口を手で押さえていると、じきに下の階から、母親の「近所迷惑よー」という声が聞こえてきた。
(ちなみに、ひびきとあずさの部屋は二階である)
『いや悪い悪い。え? ケンカ? 違うって母さん。なんかあずが相談あるみたいでさ。それで、いきなり相談に乗るのも失礼だから、ちょっとからかってたら、やりすぎちゃって。え? 何の失礼もないから、すぐに相談に乗ってやれ? 無理なら母さんが相談に乗るから? いやいや、これはまぁ何つーか、兄じゃないと乗れない相談だと思うし、はは。ま、後は静かにやるから。じゃ、おやすみー』
「おーい、あずいるかー? 開けてくれー」
「うん。あ、ホットミルク?」
両手に湯気を立てたマグカップを持ったひびきは、あずさにドアを開けてもらって、部屋に戻った。
「夜だから、砂糖ヌキな」
「うん。……あ、ちょうどいい温度。おいしー」
「だろー」
ズズー。
「……てなわけで、しばらくしないはいーけれど、欲求不満がたまって、ひとりエッチしちゃうワケだな」
「コホッ、コホッ!」
はげしくムセるあずさ。思いきりミルクが気管に入ったらしい。
「ひとりエッチしちゃう自分も恥ずかしいし、それで欲求を晴らしたら、しんごとする時の感動が薄れるし、だからやめたいんだけど、ベッドに入ると、ついムラムラとして、ムネやアソコをいじっちゃうワケだ」
「コホッ……う、うう~。その通りなんだけど、話早いし、露骨だしぃ……」
真っ赤な顔で抗議するあずさだが、ひびきは耳のない顔でミルクをすすっている。
抗議をあきらめたらしく、またショボンとなって、あずさは言った。
「……でも、うん、そうなんだぁ。だから、お兄ちゃんに助けてほしくて……」
「まかせろ!」
いつになく、力強く請け負うひびき。
「お兄ちゃんが、簡単には解けないよう、あずをギッチリ縛り上げてやるから、それで寝ろ」
「ええ?!」
こんなこともあろうかと、ひびきは亀甲ナントカと呼ばれる、特殊な人の縛り方をマスターしていたのだ。
もっとも、練習相手は丸めた布団だったが。
「本当は荒縄なんだけど……ああ、洗濯ロープでいいか」
「ま、待ってよ、お兄ちゃん! あたし、縛られたままなんて眠れないよぉ!」
「嫌か」
「イヤだよ! だからさぁ……お兄ちゃん。あたしの部屋で、一緒に寝てよぅ」
もじもじもじもじ。もじもじもじもじ。
「お前、俺が兄貴じゃなかったら、飛びかかってるぞ? なんて大胆なお誘いだよ」
「ち、違うからね? ちゃんと布団も持ち込んで、あたしのベッドの横で寝るんだからね?」
「でも……それ、ひとりエッチの解決になるのか?」
「だって、お兄ちゃんが横にいるのに……できないよ。恥ずかしくて」
「そーかぁ? 今まで散々見てるぞ? 触ったことも舐めたこともあるのに」
またカァッとなるあずさの顔。
だが、今度はわめきだしたりしなかった。
うつむいて、小さな口をマグカップにくっつけて、モジモジしながら、こう言った。
「ひとりエッチは、別だよぉ……」
(かくして、間抜けな兄貴は、妹の部屋で寝ることになりましたトサ……)
すでに電気を消したあずさの部屋。
持ち込んだ布団に入って、ひびきは真っ暗な天井を眺めていた。
隣のベッドでは、妹が、こちらに背中を向けて寝ている。
月並みだが、甘酸っぱい香り、というヤツだった。
(……こりゃ、今度は俺がヤバいな……)
ひとりエッチを止めに来ておいて、自分がおっぱじめた日には、立場はボロボロに砕け散るだろう。
立場がボロボロ、ならまだいい。
それで触発されたあずさが、ムラムラしてひとりエッチを始めたとしたら。
ひとつの部屋で、それぞれの快感にふける兄と妹。
日本一わけのわからない兄妹になってしまう。
(……避けよう)
ひびきは、あずさから背いてゴロッと寝返りをうった。
「……寝たか、あず」
「ううん」
「……寝ろよ」
「うん……」
声をかけておいて、寝ろと言うのも理不尽な話だが、あずさは気にしていなかった。
眠れなかったからだ。
それに、実はもう胸には、自らの小さな手が重なっていたのだ。
「……………………」
「……あず? 何か息がヘンだぞ? しちゃいないだろーな?」
「! してないよっ」
「ん……よしよし」
「……してないけどぉ……」
「…………」
「してないんだけどぉ……」
「…………?」
「したいよぉ……」
(おいおい)
暗闇の中、布団の中のひびきの目が、バッチリと開いた。
「我慢しろ、な? お兄ちゃんが隣にいるんだぞ? 恥ずかしいだろ?」
「うん……。で、でもぉ……」
「…………」
「でもぉ……、お兄ちゃんには……もう見られてるし、その……触ったりナメたりされてるし……」
「い、いやだけどホラ、別なんだろ? ひとりで触ってひとりでアンアン言ってる姿を見られるのはさ?」
「…………アンアンなんて言わないでぇ……」
消え入りそうな、相当ヤバい声の色だった。
「……お兄ちゃぁぁん……」
(うわあああ)
たまらなくなって、ひびきはガバッと上半身を起こした。
隣で寝てる少女に、甘ったるい声で「お兄ちゃぁぁん」と言われた日には、誰だってそうなる(断言)。
「あ、あず! こらえろ!」
「んん……」
(あうっ……)
「だ、だめぇ……。熱くて……はぁ……」
「お、おい。お前、何をモゾモゾと……」
「ほ……欲しいよぅ……」
「こ、こら。手! 手を出せ! 手を空にして布団から出せ!」
拳銃を所持してる犯人への、刑事の警告じみてきた。
「………………」
「ほ、ほら。早く手を……」
「……あっ」
「あずーっ!」
刹那、ひびきはベッド上のあずさに飛びかかった。
「きゃ!」
「あずっ!」
しかし、飛びかかったのは、何も自分の欲望を力いっぱい晴らそうとしたからではない。
その逆だ。
「ほら! 手を!」
「痛っ!」
ひびきは、あずさの腕を強引に布団から引っ張り出した。
これがホントの腕ずくだ。
(なんて言ってる場合か!)
あずさの細腕は、二つ合わせてひびきの片手でつかめるほどだった。
「よせ、あずさ! 自分で決めたんだろ? 何のために俺がいるんだ!?」
「わ、わかってるよぉ。わかってるけど……うずくのぉ……手が勝手にぃ……」
「っ!」
ひびきは、息を飲んだ。
女の欲情の、そこまでの激しさに。
男だって、女抱きてェって時は、いくらでもある。
しかし、それが理性を越えることなど、まずない(絶対ではない。だから性犯罪が起こるのだから)。
でもそれは、所詮男の欲情は、理性で抑えられる程度だからかもしれない。
ひびきはそう考えた。
押さえつけているあずさの手の指先から香る、かいだことのある淫臭。
間違いなくコイツは、隣で兄が寝ているにも関わらず、自らの肉欲を求めたのだ。
どこにでもいる、ちょっと進み過ぎってだけの、普通の少女なのに。
生まれた時から知っている妹なのに。
「つらいんだよぉ……、せつないんだよぉ……、お兄ちゃぁぁん……」
わずかな抵抗が、手を離せと語っている。
暗くて表情はわからないが、きっと、激しく熱っぽい、潤んだ瞳になっているんだろう。
(……暗くて?)
これしかない。
ひびきは、空いている手で、ベッドの枕元にあるはずの、スイッチを探った。
ほどなく、ダイヤル式のスイッチが指先に触れる。
「!」
カチッと乾いた音がして、暗闇にあずさの顔が浮かんだ。
枕元のスタンド。
妹の顔は、想像通りだった。
「ま、まぶしい……」
「あずさ……」
ひびきにとっても、暗闇から一転したスタンドの灯はまぶしかった。目が慣れれば、ボンヤリとした光なのだが。
「あず。俺の顔を見ろ」
「え……?」
言われるまま、潤んだ瞳のまま、あずさはひびきを見つめた。
「ん……んぅ……」
せつなそうに、鼻を鳴らしている。
「ほら、もっとよく見ろ」
「見てるよぉ……」
「俺は、お前の、何だ?」
「……お兄ちゃん」
「そうだ。お兄ちゃんだ。そのお兄ちゃんが、見てるんだぞ?」
「…………」
「目を反らすな。お前、兄が見てる前で、本当に、オナニーする気か?」
「…………」
「……ふん!」
ひびきは、あずさの掛け布団を、一気にめくった。
「きゃ!」
トマト柄のパジャマに包まれた幼くも女味を帯びた体が、白熱灯の弱々しい光にさらされる。
「確かに俺は、お前の体に触れたこともある。でも、今はその状況じゃない」
「…………」
「だから俺は、今はお前に触らない。じゃあ、あずはどうだ?」
「あたしは……」
「していいのか? しんごとの関わりも断って、俺に協力させて、それを無駄にするのか?」
「…………」
「お前の想いは、しんごへの想いは、所詮はエッチしたいから、ってことでしかないのか?」
「違うっ!」
「そうだな。だからこそ俺は、今まで協力してきたんだぞ」
「…………」
「……手を離すぞ。いいな、あず」
「……うん」
ひびきの手が、あずさの手から離れる。
「…………」
「…………」
「……だめだ。俺から目を反らすな」
「…………」
「落ち着くんだよ。数学の方程式でも思い出すとか……」
「まだ算数だよ……」
「じゃあ、アルファベットをZから逆に思い出すとか……」
「えっと……Z……WX……Y、X、W……えと……えと……」
「んー……Vだ。Vで、Uで……」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
両手を小さなバンザイをする位置に置いて、あずさはひびきを見つめつつ、懸命にこらえていた。
しかし、体は時折ピクッ、ピクッと動いてしまう。
「うう……」
まずその両手が、自分を抱きしめた。
「あずっ」
「ふぅ……んん……Uの……次……」
「次か? 次……OPQRSTUだから……Tだ。Tで、次がSで……」
そこまでだった。
「も、もぉダメぇぇ!」
あずさの両手が、一気にパジャマのズボンへ潜り込んだ。
「ああっ! い、いい! 気持ちっ……んん!」
「…………」
「あ! あん! ああっ……」
「…………」
あずさのパジャマの股間が、妖しくうごめいている。
それなのに、その目は、兄の顔を見つめっぱなしだ。
けなげに言いつけを守るその姿が、たまらなかった。
そう。ひびきは、たまらなくなって、思わず見とれてしまっていたのだ。
「あはっ! あ、あ、あ……」
「……ハ!? こ、こら!」
「あ!」
我に返ったひびきは、今度は両手で、あずさの両腕を抑え込んだ。
「いやぁ! 離して! 離してぇ!」
「だめだ。何とか我慢するんだ」
「もういいよぉ! どうせあたし、エッチな女の子なんだもん!」
「あずっ……」
「ヘンタイなんだよぉ! だから! だからさせてっ…………」
「…………」
両手が塞がった状態で、女の子を黙らせる方法は、ひとつだった。
乱れていた空気が、嘘みたいに静まり返る。
約五秒ほど。
そして、ゆっくりと離れた。
「お、お兄ちゃ……、キ、キス……」
「……いいだろ、別に」
「…………」
あずさは、もちろん、初めてのキスというわけではない。
だが、兄とは初めてだった。
ひびきに至っては、正真正銘の、ファースト・キスだった。
それを、あずさは知らないが。
「……あずさ。俺は、お前がヘンだとは思わない」
「…………」
「大好きな妹なんだからな」
「お兄ちゃん……」
「だから、もう止めない。思う存分、望みを果たせばいい」
「え……? で、でもやっぱり……」
「ただし、想像でだ」
「え?」
「手は使うな。手は、やっぱり俺が抑えたままにするから、想像で、しんごに愛してもらえ」
「想像……?」
「そうだ。しんごにされてる時のことをリアルに思いだして、高めるんだ」
「…………」
「さぁ、目を閉じて」
「…………」
「もちろん、俺もアシストする」
「アシス……あ?!」
あずさの疑問に答えるより先に、ひびきは、あずさの股間に、ヒザを押し付けた。
「ほら、思いだすんだ」
「あっ……んん……」
決して単調にならぬよう、力の強弱を微妙につけて、あずさのもっとも熱くなっている部分を圧迫する。
「はぁぁ……お兄ちゃん……」
「俺じゃない。しんごだ、しんご」
「……しんごぉ」
胸で感じる、しんごの手の平の温もり。
おなかで感じる、しんごの重み。
大事な部分で感じる、しんごの情熱。
ひびきのヒザにアシストされて、あずさの脳裏に、その状況がリアルに浮かび上がる。
ただひとつだけ。
自分の手首をつかんでいる、大きな手の温もりは。
別の角度から、あずさに快感を与えていた。
自由の利かない体をくねらせて。
積み重なるように荒くなっていく呼吸の中。
「イク……あ、あ、あ……」
つぶやくように、あずさは言った。
小さなケイレンが数秒ほど彼女の体を襲って。
夜は、静けさを取り戻した。
六歳離れた妹・あずさが、高校生の兄・ひびきの部屋を再びたずねた、翌日の夜の九時。
「よ。うまかったな、今日の赤飯は」
「…………」
真っ赤な顔をうつむかせて、あずさは部屋のドアをパタンと閉じた。
「どうした? いやー、よもや赤飯だったとはなー。聞いたコトあるぞ。赤飯の前って、体がこう……」
「せっ、赤飯赤飯言わないで!」
「悪い悪い。ま、めでたいんだしさ」
「…………」
あずさは黙って、ひびきが寝転んでいるベッドの端に座った。
「…………」
もじもじもじもじ。もじもじもじもじ。
「ん? どうした? ……ソッチの方なら、俺より、母さんに相談しろよ?」
「ち、違うってば。あの……今日ね……その、したの。しんごと」
ひびきの顔面に、読んでいた漫画がバサッと墜落した。
「……なんだって?」
「だ、だって、その、赤飯……だからって言ったんだけど、ガマンできないって……それで……」
「ま、まぁいいや。でも、これからはキッチリと避妊しろよ?」
「うん……。でもね? アレはアレで……ちょっと違った……アレがあってね?」
「アレ?」
「……昨日の」
「……………………」
あずさは、手で頬を押さえながら、思いきって言った。
「また赤飯の前になったら……あたしを押さえつけてね♪」
ひびきは、顔面の漫画を振りほどくと、ユラリと立ち上がった。
そして……。
「さっさとひとりで寝ろー! このイロガキーッ!!」
叫び声は、月にめりこんだ。
おしまい
【コメント】
うわ、もう3作目を書いちゃった(^^;)。
今回は、しんご不参加ですが、別にいませんよね? しんごのファンなんて(^^;)。
私も、つくづく好きですよね。まともにHをしない官能小説が。
今回のも、結局はパジャマ姿のままだし、キスとヒザだけだし。
前2作とは雰囲気の違う「~ショん」シリーズでしたが、でもひびきとあずさだからこそまとまったと思ってます。あずさ、赤飯おめでとー! ちょっと早い気もするけど(^^;)。
さて、今回のひびき、ちょっとカッコよかったでしょ?(^^)
正直、前回「フラストレーショん」では、ちょっとやりすぎたかな?って思ったので、彼本来の原動力である「妹想い」を強調したかったんですよね。これがあるから、あれほどキワドい状況におかれても、決してあずさ相手に最後の一線を越えないわけです(今回、キスしちゃったけど)。
とりあえず今回もお疲れさん、ひびき、あずさ。次回は出番があるといいねー、しんご。
念の為。「イマジネーショん」とゆータイトル、誤植じゃないですからね(^^)。
「どうした?」
ベッドに寝転んで漫画を読んでいたひびきは、来訪した妹にやさしく問い掛けた。
「風の音でも怖いか? 一緒に寝るか?」
「ち、違うよぉ。子供じゃないんだからー」
(いや、じゅーぶん子供だ)
「そうじゃなくて、あ、あのねー。お兄ちゃん」
もじもじもじもじ。もじもじもじもじ。
「……なんだよぉ?」
「んと……、一緒に寝なくてもいいけど、一緒に部屋にいてほしいんだ……」
「は? なんだそりゃ?」
「止めてほしいの。あたしのひとりエッチを」
ひびきは、ベッドの上でエビ反った。
イマジネーショん
~「ジェネレーショん」シリーズ・第3章~
「なぁ、あず。いないんだって普通。夜に兄貴の部屋に来て、ひとりエッチを止めてほしいから部屋に来てなんて言う妹は」
ひびきは、机の引き出しからガムを取り出した(禁煙中なのだ)。
あずさにも差しだすが、赤くなってる顔を横に振られて、自分だけが噛むことにする。
「クチャ……それにお前、今さらひとりでやる必要あるのか? しんごがいるだろーに」
しんごとは、あずさと同い年の、あずさのボーイフレンド。イクところまでイッちゃってる関係だ。
ついでに申し上げておくと、そんな妹の兄を務めるひびきには、残念ならが実経験はまったくない。
それなのに、過去に二度も、あずさとしんごの仲を取り持つ役目を担ってきた。
立派である。
「それともナニか? まぁた、しんごとうまくいってねーの? クチャ……俺、さすがにもーヤダぞ」
「う、ううん! しんごとは……仲いいよ。今日もデートしてきたし」
「寝ろ」
「ああ~ん、なんでぇ?!」
イヤイヤをするあずさに、ひびきは漫画に目を戻しながら答えた。
「俺はこー見えても漫画読んだり横になったりまばたきしたり心臓動かしたりで忙しーんだ。ノロケなんぞ聞いてられるか!」
「…………」
「クチャ……クチャ……」
「……ぐすっ」
「わぁ!」
ぐずり始めたあずさの元へ、ひびきはコンマ数秒で駆け寄り、小さな肩をつかんだ。
さっきまで噛んでいたガムも、キッチリと紙に包まれてゴミ箱に入っているという、驚異のスピードだ。
「わかったわかった! ちゃんと事情を聞くから、ほら、な?」
「もういい……。お兄ちゃん、イジワルだよぉ……」
「悪かったって。かわいい妹の悩みだ。しっかり相談に乗るから!」
これは、本心のセリフだ。じゃなければ、今頃はどっちかである。二度も苦労しないか、とっくに犯してるか。
「……デートはしたけどぉ、……デートしただけなの」
「んー、その辺がよくわからん。デートしたのに、それだけって何だ」
「だからあのね、学校帰りに商店街寄って、公園で遊んで、それじゃあねって……」
「…………」
「してないの!」
「おおう!」
ようやく、ひびきはピンと来た。
なんせ彼女がいたことない彼にとっては、デートが、深い仲になった男女のデートが、どんなセットで構成されているかなんて、想像できなかったのだ。
「あーそうかー。学校帰りのその前に体育用具室で、とかは?」
「してない」
「商店街で人目を盗んで、とかは?」
「してない」
「公園はどーだよ。いい茂みがあるだろー」
「してない! してないったらしてないの! って、何度も言わせないでよぉ!」
赤ペンキでもブッかけられたみたいな真っ赤な顔で、あずさは力説した。
「だって、またちょっとマンネリ気味になったんだもん! だからって、またお兄ちゃんに相談したら、それこそ月まで届くくらいに怒鳴られちゃうし、だから前にお兄ちゃんが言ってた、『しばらくしない』ってのを実行してるんだよ!」
ハア、ハア、ハア。
あずさが呼吸を整える中、ひびきはポカーンとしていた。
まだポカーンとしていた。
ほら、まだポカーンとしてる。
ああ、ようやく我に返ったらしい。
「そうか……がんばれよ」
「違ぁぁう!! ……ムグ!」
「何でもいいけど、声大き過ぎ」
ひびきがあずさの口を手で押さえていると、じきに下の階から、母親の「近所迷惑よー」という声が聞こえてきた。
(ちなみに、ひびきとあずさの部屋は二階である)
『いや悪い悪い。え? ケンカ? 違うって母さん。なんかあずが相談あるみたいでさ。それで、いきなり相談に乗るのも失礼だから、ちょっとからかってたら、やりすぎちゃって。え? 何の失礼もないから、すぐに相談に乗ってやれ? 無理なら母さんが相談に乗るから? いやいや、これはまぁ何つーか、兄じゃないと乗れない相談だと思うし、はは。ま、後は静かにやるから。じゃ、おやすみー』
「おーい、あずいるかー? 開けてくれー」
「うん。あ、ホットミルク?」
両手に湯気を立てたマグカップを持ったひびきは、あずさにドアを開けてもらって、部屋に戻った。
「夜だから、砂糖ヌキな」
「うん。……あ、ちょうどいい温度。おいしー」
「だろー」
ズズー。
「……てなわけで、しばらくしないはいーけれど、欲求不満がたまって、ひとりエッチしちゃうワケだな」
「コホッ、コホッ!」
はげしくムセるあずさ。思いきりミルクが気管に入ったらしい。
「ひとりエッチしちゃう自分も恥ずかしいし、それで欲求を晴らしたら、しんごとする時の感動が薄れるし、だからやめたいんだけど、ベッドに入ると、ついムラムラとして、ムネやアソコをいじっちゃうワケだ」
「コホッ……う、うう~。その通りなんだけど、話早いし、露骨だしぃ……」
真っ赤な顔で抗議するあずさだが、ひびきは耳のない顔でミルクをすすっている。
抗議をあきらめたらしく、またショボンとなって、あずさは言った。
「……でも、うん、そうなんだぁ。だから、お兄ちゃんに助けてほしくて……」
「まかせろ!」
いつになく、力強く請け負うひびき。
「お兄ちゃんが、簡単には解けないよう、あずをギッチリ縛り上げてやるから、それで寝ろ」
「ええ?!」
こんなこともあろうかと、ひびきは亀甲ナントカと呼ばれる、特殊な人の縛り方をマスターしていたのだ。
もっとも、練習相手は丸めた布団だったが。
「本当は荒縄なんだけど……ああ、洗濯ロープでいいか」
「ま、待ってよ、お兄ちゃん! あたし、縛られたままなんて眠れないよぉ!」
「嫌か」
「イヤだよ! だからさぁ……お兄ちゃん。あたしの部屋で、一緒に寝てよぅ」
もじもじもじもじ。もじもじもじもじ。
「お前、俺が兄貴じゃなかったら、飛びかかってるぞ? なんて大胆なお誘いだよ」
「ち、違うからね? ちゃんと布団も持ち込んで、あたしのベッドの横で寝るんだからね?」
「でも……それ、ひとりエッチの解決になるのか?」
「だって、お兄ちゃんが横にいるのに……できないよ。恥ずかしくて」
「そーかぁ? 今まで散々見てるぞ? 触ったことも舐めたこともあるのに」
またカァッとなるあずさの顔。
だが、今度はわめきだしたりしなかった。
うつむいて、小さな口をマグカップにくっつけて、モジモジしながら、こう言った。
「ひとりエッチは、別だよぉ……」
(かくして、間抜けな兄貴は、妹の部屋で寝ることになりましたトサ……)
すでに電気を消したあずさの部屋。
持ち込んだ布団に入って、ひびきは真っ暗な天井を眺めていた。
隣のベッドでは、妹が、こちらに背中を向けて寝ている。
月並みだが、甘酸っぱい香り、というヤツだった。
(……こりゃ、今度は俺がヤバいな……)
ひとりエッチを止めに来ておいて、自分がおっぱじめた日には、立場はボロボロに砕け散るだろう。
立場がボロボロ、ならまだいい。
それで触発されたあずさが、ムラムラしてひとりエッチを始めたとしたら。
ひとつの部屋で、それぞれの快感にふける兄と妹。
日本一わけのわからない兄妹になってしまう。
(……避けよう)
ひびきは、あずさから背いてゴロッと寝返りをうった。
「……寝たか、あず」
「ううん」
「……寝ろよ」
「うん……」
声をかけておいて、寝ろと言うのも理不尽な話だが、あずさは気にしていなかった。
眠れなかったからだ。
それに、実はもう胸には、自らの小さな手が重なっていたのだ。
「……………………」
「……あず? 何か息がヘンだぞ? しちゃいないだろーな?」
「! してないよっ」
「ん……よしよし」
「……してないけどぉ……」
「…………」
「してないんだけどぉ……」
「…………?」
「したいよぉ……」
(おいおい)
暗闇の中、布団の中のひびきの目が、バッチリと開いた。
「我慢しろ、な? お兄ちゃんが隣にいるんだぞ? 恥ずかしいだろ?」
「うん……。で、でもぉ……」
「…………」
「でもぉ……、お兄ちゃんには……もう見られてるし、その……触ったりナメたりされてるし……」
「い、いやだけどホラ、別なんだろ? ひとりで触ってひとりでアンアン言ってる姿を見られるのはさ?」
「…………アンアンなんて言わないでぇ……」
消え入りそうな、相当ヤバい声の色だった。
「……お兄ちゃぁぁん……」
(うわあああ)
たまらなくなって、ひびきはガバッと上半身を起こした。
隣で寝てる少女に、甘ったるい声で「お兄ちゃぁぁん」と言われた日には、誰だってそうなる(断言)。
「あ、あず! こらえろ!」
「んん……」
(あうっ……)
「だ、だめぇ……。熱くて……はぁ……」
「お、おい。お前、何をモゾモゾと……」
「ほ……欲しいよぅ……」
「こ、こら。手! 手を出せ! 手を空にして布団から出せ!」
拳銃を所持してる犯人への、刑事の警告じみてきた。
「………………」
「ほ、ほら。早く手を……」
「……あっ」
「あずーっ!」
刹那、ひびきはベッド上のあずさに飛びかかった。
「きゃ!」
「あずっ!」
しかし、飛びかかったのは、何も自分の欲望を力いっぱい晴らそうとしたからではない。
その逆だ。
「ほら! 手を!」
「痛っ!」
ひびきは、あずさの腕を強引に布団から引っ張り出した。
これがホントの腕ずくだ。
(なんて言ってる場合か!)
あずさの細腕は、二つ合わせてひびきの片手でつかめるほどだった。
「よせ、あずさ! 自分で決めたんだろ? 何のために俺がいるんだ!?」
「わ、わかってるよぉ。わかってるけど……うずくのぉ……手が勝手にぃ……」
「っ!」
ひびきは、息を飲んだ。
女の欲情の、そこまでの激しさに。
男だって、女抱きてェって時は、いくらでもある。
しかし、それが理性を越えることなど、まずない(絶対ではない。だから性犯罪が起こるのだから)。
でもそれは、所詮男の欲情は、理性で抑えられる程度だからかもしれない。
ひびきはそう考えた。
押さえつけているあずさの手の指先から香る、かいだことのある淫臭。
間違いなくコイツは、隣で兄が寝ているにも関わらず、自らの肉欲を求めたのだ。
どこにでもいる、ちょっと進み過ぎってだけの、普通の少女なのに。
生まれた時から知っている妹なのに。
「つらいんだよぉ……、せつないんだよぉ……、お兄ちゃぁぁん……」
わずかな抵抗が、手を離せと語っている。
暗くて表情はわからないが、きっと、激しく熱っぽい、潤んだ瞳になっているんだろう。
(……暗くて?)
これしかない。
ひびきは、空いている手で、ベッドの枕元にあるはずの、スイッチを探った。
ほどなく、ダイヤル式のスイッチが指先に触れる。
「!」
カチッと乾いた音がして、暗闇にあずさの顔が浮かんだ。
枕元のスタンド。
妹の顔は、想像通りだった。
「ま、まぶしい……」
「あずさ……」
ひびきにとっても、暗闇から一転したスタンドの灯はまぶしかった。目が慣れれば、ボンヤリとした光なのだが。
「あず。俺の顔を見ろ」
「え……?」
言われるまま、潤んだ瞳のまま、あずさはひびきを見つめた。
「ん……んぅ……」
せつなそうに、鼻を鳴らしている。
「ほら、もっとよく見ろ」
「見てるよぉ……」
「俺は、お前の、何だ?」
「……お兄ちゃん」
「そうだ。お兄ちゃんだ。そのお兄ちゃんが、見てるんだぞ?」
「…………」
「目を反らすな。お前、兄が見てる前で、本当に、オナニーする気か?」
「…………」
「……ふん!」
ひびきは、あずさの掛け布団を、一気にめくった。
「きゃ!」
トマト柄のパジャマに包まれた幼くも女味を帯びた体が、白熱灯の弱々しい光にさらされる。
「確かに俺は、お前の体に触れたこともある。でも、今はその状況じゃない」
「…………」
「だから俺は、今はお前に触らない。じゃあ、あずはどうだ?」
「あたしは……」
「していいのか? しんごとの関わりも断って、俺に協力させて、それを無駄にするのか?」
「…………」
「お前の想いは、しんごへの想いは、所詮はエッチしたいから、ってことでしかないのか?」
「違うっ!」
「そうだな。だからこそ俺は、今まで協力してきたんだぞ」
「…………」
「……手を離すぞ。いいな、あず」
「……うん」
ひびきの手が、あずさの手から離れる。
「…………」
「…………」
「……だめだ。俺から目を反らすな」
「…………」
「落ち着くんだよ。数学の方程式でも思い出すとか……」
「まだ算数だよ……」
「じゃあ、アルファベットをZから逆に思い出すとか……」
「えっと……Z……WX……Y、X、W……えと……えと……」
「んー……Vだ。Vで、Uで……」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
両手を小さなバンザイをする位置に置いて、あずさはひびきを見つめつつ、懸命にこらえていた。
しかし、体は時折ピクッ、ピクッと動いてしまう。
「うう……」
まずその両手が、自分を抱きしめた。
「あずっ」
「ふぅ……んん……Uの……次……」
「次か? 次……OPQRSTUだから……Tだ。Tで、次がSで……」
そこまでだった。
「も、もぉダメぇぇ!」
あずさの両手が、一気にパジャマのズボンへ潜り込んだ。
「ああっ! い、いい! 気持ちっ……んん!」
「…………」
「あ! あん! ああっ……」
「…………」
あずさのパジャマの股間が、妖しくうごめいている。
それなのに、その目は、兄の顔を見つめっぱなしだ。
けなげに言いつけを守るその姿が、たまらなかった。
そう。ひびきは、たまらなくなって、思わず見とれてしまっていたのだ。
「あはっ! あ、あ、あ……」
「……ハ!? こ、こら!」
「あ!」
我に返ったひびきは、今度は両手で、あずさの両腕を抑え込んだ。
「いやぁ! 離して! 離してぇ!」
「だめだ。何とか我慢するんだ」
「もういいよぉ! どうせあたし、エッチな女の子なんだもん!」
「あずっ……」
「ヘンタイなんだよぉ! だから! だからさせてっ…………」
「…………」
両手が塞がった状態で、女の子を黙らせる方法は、ひとつだった。
乱れていた空気が、嘘みたいに静まり返る。
約五秒ほど。
そして、ゆっくりと離れた。
「お、お兄ちゃ……、キ、キス……」
「……いいだろ、別に」
「…………」
あずさは、もちろん、初めてのキスというわけではない。
だが、兄とは初めてだった。
ひびきに至っては、正真正銘の、ファースト・キスだった。
それを、あずさは知らないが。
「……あずさ。俺は、お前がヘンだとは思わない」
「…………」
「大好きな妹なんだからな」
「お兄ちゃん……」
「だから、もう止めない。思う存分、望みを果たせばいい」
「え……? で、でもやっぱり……」
「ただし、想像でだ」
「え?」
「手は使うな。手は、やっぱり俺が抑えたままにするから、想像で、しんごに愛してもらえ」
「想像……?」
「そうだ。しんごにされてる時のことをリアルに思いだして、高めるんだ」
「…………」
「さぁ、目を閉じて」
「…………」
「もちろん、俺もアシストする」
「アシス……あ?!」
あずさの疑問に答えるより先に、ひびきは、あずさの股間に、ヒザを押し付けた。
「ほら、思いだすんだ」
「あっ……んん……」
決して単調にならぬよう、力の強弱を微妙につけて、あずさのもっとも熱くなっている部分を圧迫する。
「はぁぁ……お兄ちゃん……」
「俺じゃない。しんごだ、しんご」
「……しんごぉ」
胸で感じる、しんごの手の平の温もり。
おなかで感じる、しんごの重み。
大事な部分で感じる、しんごの情熱。
ひびきのヒザにアシストされて、あずさの脳裏に、その状況がリアルに浮かび上がる。
ただひとつだけ。
自分の手首をつかんでいる、大きな手の温もりは。
別の角度から、あずさに快感を与えていた。
自由の利かない体をくねらせて。
積み重なるように荒くなっていく呼吸の中。
「イク……あ、あ、あ……」
つぶやくように、あずさは言った。
小さなケイレンが数秒ほど彼女の体を襲って。
夜は、静けさを取り戻した。
六歳離れた妹・あずさが、高校生の兄・ひびきの部屋を再びたずねた、翌日の夜の九時。
「よ。うまかったな、今日の赤飯は」
「…………」
真っ赤な顔をうつむかせて、あずさは部屋のドアをパタンと閉じた。
「どうした? いやー、よもや赤飯だったとはなー。聞いたコトあるぞ。赤飯の前って、体がこう……」
「せっ、赤飯赤飯言わないで!」
「悪い悪い。ま、めでたいんだしさ」
「…………」
あずさは黙って、ひびきが寝転んでいるベッドの端に座った。
「…………」
もじもじもじもじ。もじもじもじもじ。
「ん? どうした? ……ソッチの方なら、俺より、母さんに相談しろよ?」
「ち、違うってば。あの……今日ね……その、したの。しんごと」
ひびきの顔面に、読んでいた漫画がバサッと墜落した。
「……なんだって?」
「だ、だって、その、赤飯……だからって言ったんだけど、ガマンできないって……それで……」
「ま、まぁいいや。でも、これからはキッチリと避妊しろよ?」
「うん……。でもね? アレはアレで……ちょっと違った……アレがあってね?」
「アレ?」
「……昨日の」
「……………………」
あずさは、手で頬を押さえながら、思いきって言った。
「また赤飯の前になったら……あたしを押さえつけてね♪」
ひびきは、顔面の漫画を振りほどくと、ユラリと立ち上がった。
そして……。
「さっさとひとりで寝ろー! このイロガキーッ!!」
叫び声は、月にめりこんだ。
おしまい
【コメント】
うわ、もう3作目を書いちゃった(^^;)。
今回は、しんご不参加ですが、別にいませんよね? しんごのファンなんて(^^;)。
私も、つくづく好きですよね。まともにHをしない官能小説が。
今回のも、結局はパジャマ姿のままだし、キスとヒザだけだし。
前2作とは雰囲気の違う「~ショん」シリーズでしたが、でもひびきとあずさだからこそまとまったと思ってます。あずさ、赤飯おめでとー! ちょっと早い気もするけど(^^;)。
さて、今回のひびき、ちょっとカッコよかったでしょ?(^^)
正直、前回「フラストレーショん」では、ちょっとやりすぎたかな?って思ったので、彼本来の原動力である「妹想い」を強調したかったんですよね。これがあるから、あれほどキワドい状況におかれても、決してあずさ相手に最後の一線を越えないわけです(今回、キスしちゃったけど)。
とりあえず今回もお疲れさん、ひびき、あずさ。次回は出番があるといいねー、しんご。
念の為。「イマジネーショん」とゆータイトル、誤植じゃないですからね(^^)。
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