小説(転載) 遠くにありて・特別編 恋
近親相姦小説
※本作品は、拙作「遠くにありて」シリーズの、「リアリティ」と「ANSWER」の中間に位置する内容です。
本作品だけを読んでも理解できないと思いますので、あらかじめご了承ください。
「はぁんっ!」
亜裕美(あゆみ)はガクンとあごを反らせ、紅潮した顔から汗を飛び散らせた。
カーテンのすき間から差し込む月光が、彼女の全裸をはかなく照らしている。
「はぁ……あ……はん…………。広樹(ひろき)さん…………」
「…………」
広樹は、亜裕美の股間から顔を上げると、手の甲で唇を拭いながら、言った。
「……どうする?」
「え……?」
「彩香(さやか)をさ……“お姉さん”にするかい?」
「…………、ん……」
遠回しな発言の意味を、白くモヤがかった頭の中で、ようやく理解した亜裕美。
「……まだ早いよ」
「そうか? 年の近い妹か弟って……ああ、亜裕美と純(じゅん)君がそうだったね」
「う、うん……。あまり年が近いと……大変よ……」
大きく開いていた彼女の足が、ほんの少し閉じる。
「色々……と……」
「わかったよ。じゃ、ちゃんと“着ける”としよう」
そう言って広樹は、ベッドの引き出しから四、五センチ四方の薄い包みを取り出した。
ベッドの端で背を向けてゴソゴソしている夫を見ながら、亜裕美は心の中でつぶやく。
(彩香にはなってほしくないもの。愛する夫に抱かれながら……足りなさを感じる女には……)
(純………………)
遠くにありて・特別編
恋
春の終わり。
温かいと思っていた陽射しに、わずかな暑さを感じる、そんな時期だった。
「おぅい、桜庭(さくらば)ー!」
新築・一戸建。その建築現場に、野太い声が響く。
「はい!」
白いヘルメットを被っている十八歳の少年が、それに答えた。
純である。サイズが大きいのか、ヘルメットがやや目深気味だ。
「何ですか、親方」
「ああ。今日はこの辺にしておこう。道具を積んじまってくれ」
「え? まだちょっと……早いんじゃないですか?」
身長は純より少し低いが、ガッシリとした筋肉質な体格の、親方と呼ばれた男は、口の周りを覆っているヒゲの間から、白い歯をのぞかせた。
「いいんだよ。今日は……ホレ」
「え……」
「親方ー! んじゃお先にー! また月曜に!」
他の社員達が、ヘルメットを取って会釈しながら、親方の横を過ぎていく。
「おう、お疲れ! さぁホレ、お前もさっさと支度しろ」
そう言って親方は、純の肩に手を回した。
「お前さんが来てちょうど今日で一年だろ。パーティするんだとよ、ウチのやつらが」
「! そ、そんな……えー?」
「だーっはっはっは!! ホレ行くぞ! 主役が遅れちゃシャレにならねぇからな! はっはっは!」
高笑いしながら自分の帰り支度を始める親方。
ヘルメットを脱いだ純は、量の多い髪をバサッと一振りすると、苦笑いをこぼした。
(一年か……)
――俺が家を飛びだして、もう一年になっていたとは、驚きだった。
こんなガキで、それも得体の知れないガキを快く雇ってくれた親方には、感謝してもし足りない。
仕事どころか、下宿までさせてくれて。寝具にテレビ、服まで与えてくれた。
もちろん、その分仕事はキツい。俺だけ特別キツくされてるわけじゃないけど。
最初の頃は、資材の重さに震え、足場の高さに怯え、夏は暑い、冬は寒い……。
でも、そうやって仕事に没頭し、そして疲れてドロのように眠ることができて……。
忘れることはできなかったけど、悩むこともなかった。
気づけば……そう、一年も経っていたんだ……――
満月に照らされた親方の家は大きく、純を三、四人泊めるくらいの広さはある。敷地も広く、家の隣にはトラックも停められる車庫や、資材置き場もあった。
「一年なんてあっと言う間だなぁ、はっはっは!」
その家中に、親方の大笑いが響いた。
パーティとは言っても、親方の家族プラス純だけがメンバーで、パーティ料理は焼き肉である。
明日が日曜ということで、親方は瓶ビールをどんどん空け、今は日本酒に切り替わっている。
純はノンアルコールのドリンクだった。酒が飲めないわけではないが、苦手ではあるのだ。
そんな純のかたわらに座って、それを酌する少女がいた。
「純ちゃん。もうおなかいっぱい?」
「あ、うん。そうだね」
「ふふっ。じゃ、アキの部屋で遊ぼう!」
少女の名は、アキ。漢字で書くと、亜季となる。純より六歳も年下だ。
髪の両脇をリボンで短くしばっていて、年相応の可愛らしさを醸しだしている。親方に似なくてよかったねと、誰もが思うほどである。腕まくりした白いブラウスと、ジーンズ生地のミニスカートが似合っていた。
「おいアキ。桜庭は疲れてるんらぞ。おまいは早く寝らさい!」
酒気帯びのオクビ混じりにそう言われて、わかったとうなずく年頃の娘なんていない。
純は、気を使った。
「ま、まあまあ親方。俺、そんなんでもないですよ。じゃ、アキちゃんの部屋に行こうか?」
「そうしよ。べーだ」
“べーた”は、もちろん父親宛。だが受け取った父も、せいぜい苦笑い程度で、妻が持っていた追加の肴を相手に、もうニンマリしていた。
「ったくションベン娘が、色気づきやがってぇ……」
などとブツブツ言いながら。
「純ちゃんが来て、もう一年なんだもんね」
「そうらしいね」
亜季の部屋。どこかもってまわった純の言い回しに、ベッドの端に座っていた亜季は、クスッと笑った。
「純ちゃんってば、一年前と変わらないねぇ。でも、ちょっと明るくなったかな?」
「そうかい? ん……そうだね」
「ま、陰りのある純ちゃんも、けっこーカッコよかったけどさ」
「…………」
純は思った。“陰り”なんて言葉、このコにとっては、単なる飾りなんだな、と。
「どうしたの、純ちゃん」
「ん? いや」
「……純ちゃんも、こっちおいでよ」
「はいはい」
お招きを受けて、純は亜季の隣に座り、ベッドをきしませた。
「ねえ純ちゃん。……あたしは、どぉ? 一年経って」
「え?」
正直に言うなら、とりたてて感想はない。だが、それをそのまま言うほど、純は馬鹿じゃない。
「うん……女っぽくなったんじゃないかなーなんて」
「あははっ。テレちゃって、かわいーの」
「なんだよぉ」
苦笑いが交差し、ちょっとだけの沈黙の後、亜季は切り出した。
「ねぇぇ、純ちゃん……」
純は、来たな、と思った。このタイミングで亜季が「ねぇぇ」と切り出す時は、決まってセックスがらみの何らかを純に質問したり、意見したりするからだ。
最初はどう受け答えすればいいのか迷っていた純も、今ではそれなりにあしらえていた。
どうして男の子のオチンチンって立つの? 電車で揺られるだけでも立つ時は立つんだよ。 へぇー。 もちろんエッチなコトを考えてもね。 あはは!
だから純は、いつもの調子でこう返事をした。
「なんだい?」
しかし、今回の亜季は、質問ではなかった。
「アキの胸に触って」
「……え?」
“ムネ”とよく似た発音の何かかと、純は思った。腕……かな?などと。
「亜季ちゃん。ごめん、聞こえなかった」
「胸よムネ。触って」
「…………」
「触ってってば! いいから!」
「……だめだよ、そんな」
「いいから!」
女の子がこの調子で「いいから」を繰り返す時、それは望み通りにするまで止まらないという意味だ。
純は、亜季の白いブラウスの胸元に、手を重ねた。
「……もっと押し付けて」
「…………」
純の手のひらに、トクン、トクンという柔らかな鼓動が伝わる。
「成長したでしょ」
「……わからないよ」
苦笑いで、純は続ける。
「触ったの、初めてなんだからさ」
「うー……で、でも、膨らんでるでしょ? アキの胸」
「だね。柔らかいよ」
「…………」
亜季は、そっとうつむいてしまった。
「……冷静なんだね、純ちゃん」
「え? そうかな」
「アキは……」
小さく細い手が、純の手をさらに白いブラウスに押し付ける。
「アキは、こんなにドキドキしてるんだよ?!」
「…………」
「きっ……嫌いな男の人に、こんなことさせると思う?!」
「あ、亜季ちゃん。だめだよ、そんな……。親方に……悪い」
「……………………」
うつむいていた亜季は、ゆっくりと顔をあげ、その表情を純に見せながら、言った。
「うそ。悪いと思ってるのは……アユミさんに対してでしょ?」
「!!」
窓の外は、真っ青な月明かりに満ちていた。
「…………」
「…………」
「…………姉貴だよ、亜裕美は」
「うそ。言わないもん、普通。寝言でも、弟が姉に対して『アユミ……行くな……』なんて」
「っ…………」
家族同様に迎えられている純。例えばソファでのうたた寝など、機会はいくらでもあっただろう。
「彼女でしょ? わかってるんだから。フラれたんでしょ?」
「!!」
純の怒りは、拳を握るに留まった。
「やめるんだ亜季ちゃん。そんな言い方……よくないぞ」
「アキは、純ちゃんをフッたりしないよ!」
「…………」
「だから……」
「…………」
「…………!」
ボタンを外す音。ブラウスがベッドに落ちる音。その下のTシャツがめくれる……気配。
「いいんだよ……。純ちゃんだから……」
「っ!!」
もう、拳を握るだけでは済まなくなった。
「いい加減にしないか、亜季! 好きになってくれるのは嬉しいけど! だからってさ!」
純は、亜季の両肩をつかんで、怒りをぶつけた。
「なぜそうやって体を開く!? どうして好きだからって、そうなるんだよ!」
「だって!」
「だってじゃない! そんなの恋じゃないだろう?! ただのリビドーだ!」
「え……? リビドー?」
「…………性欲のことだよ。単にセックスしたいってだけの……エゴな欲望さ」
亜季の肩から、純の手が離れる。
「……ごめんな、亜季ちゃん。乱暴にして。おやすみ」
「……………………」
静かにドアを閉じ、亜季の部屋を出ていった純は、
(…………亜裕美……)
亜季の胸に触れた手を、ジッと見つめた。
同じ夜。スキンを着けた広樹は、正常位で亜裕美と重なっている。
「あっ……あはっ……んっ……んっ……」
亜裕美のショートな髪が、枕の上で舞っていた。
「あああ……んん、んああっ」
激しく揺れる、彼女の豊かな胸。
「あっあっ……ああー……あ、ひろ……きさん……」
「ん? どうした?」
動きを止める広樹。
「はぁ、はぁ……あの……ね……」
「ん?」
「背中……痛いの……」
枕に顔を埋めるように横を向く亜裕美の表情は、それが嘘だと語っていた。
痛いわけではないが、始めてからずっと、背中がベッドに着きっぱなしだと言いたかったのだ。
「あ、ああ。そうか……じゃあ、亜裕美……」
「うん……」
亜裕美はコロッとうつぶせ、そして、膝と手のひらをベッドに着けた。
「亜裕美……」
広樹は、亜裕美の滑らかな曲線を描くヒップをひと撫でしてから、再度挿入する。
「あはぁあっ! ……あん、あっ、あっ……ん……」
肌と肌がぶつかりあう音。合わせて聞こえる、ニチャニチャという音。
「んっ…………んんんっ……! ……!」
「……?」
「…………んふ! んぅ、んぅ……」
「…………」
広樹は、亜裕美が声を殺しだしたことを、その理由を聞こうとして、やめた。
時折情事の最中にするクセだからだ。
それに、必死で声を殺してる様子も、愛らしかったからだ。
理由は残酷なのだが。
(声を出すなよ)
亜裕美は、歯を食いしばった。
(だめ……出ちゃう……。せめて……手で抑えさせて……)
(だめだ。そのままで声を我慢するんだ。じゃないと、やめちゃうぞ)
(そんな……)
亜裕美のひとり想いとなっていた。すでにそれは、セックスではなかった。
(よしいいぞ。声を出すなよ……姉ちゃん)
(もうだめぇ。イッちゃうぅ)
「んん! んん! ん……ん、ん、ん、んん!」
「亜裕美っ、そろそろ……はぁ! はぁ! はぁ!」
「んう! んっくんぅ! い……んんん!」
(イク…… 純……)
日曜の朝。雲一つない空だ。
「……ちゃん」
「んん……」
誰かに呼びかけられ、純は眠そうに布団をかぶって寝返りを打った。
「純ちゃん」
「……んあ?」
声の主が亜季だとわかり、純はガバッと起きる。
「…………」
「…………」
見つめあう二人。が、亜季が吹きだしたことで、静寂は破られた。
「やだ、スゴい寝グセ!」
「あ……ああ」
髪の量が多い純は、人よりも朝の調髪に時間がかかる。
「……おはよう、亜季ちゃん」
「おはよ、純ちゃん。朝ゴハンできてるよ……」
「ん……、?」
亜季の目線が、自分の股間辺りに向けられていると気づく。で、今は寝起きだ。
「……亜季ちゃん……」
「! あ、あはは! ごめんね。じゃ!」
男の生理現象とはいえ、布団を持ち上げるほどの“元気さ”に、純は苦い笑いをこぼした。
部屋を出ていこうとした亜季は、そんな純に、顔を少しだけ振り向かせて、言った。
「……昨日はごめんね」
「……いいんだ」
「じゃ……先行ってるよ」
パタリと閉じたドア。
それを見つめながら、純はひとりごちた。
(いいんだよ。もう……止まらないってわかってるから。だから……)
街で過ごす日曜の午後。
買い物を済ませた純は、歩道橋の真ん中で、にぎわう街を眺めていた。
カップルが目につく。
彼氏に腕を絡ませ、幸せそうな顔をしている彼女。
あの二人に、どんなドラマがあったんだろう。
告白に始まって、交際を積み、唇を重ね、体を求めあって……。
別のカップルが見えた。
あの二人に、どんなドラマがあったんだろう。
幼なじみの延長で恋愛となり、唇を重ね、体を求めあって……。
あの女の子も、この女の子も。
この沢山のカップルの中に、姉と弟という関係はいるのだろうか。
同じように姉を持つ男の友人は言っていた。姉なんかそんな目で見れるか、と。
パンツだろうが、裸だろうが、姉は姉であって、姉以外のなにものでもない。
それが他人だと、亜季のように、同じ屋根の下というだけで、そんな気持ちになる。
たぶん、それだけが理由だと思う。
恋という字は、変という字に似ている。
ヘンなんだろう。
自分が変になっている。こう言うのを避けるために、ココロなんて文字をくっつけたんだ。
恋はシタゴコロ。
それだけのことなのに。
抑えられないほどの気持ちになっちまう。
離れて、なおそう思えてくる。
「遠くにありて想うもの……か……」
空は青から赤へ、そして闇へと変わる。
真夜中と呼ばれる時間だ。
眠れずにいた純は、布団の上で小説を読んでいた。
かすかなノックが聞こえる。
『純ちゃん。……アキだよ』
なぜか純は、やっぱりと思った。
「……どうぞ」
『開けて』
「…………」
だから純は、開けたドアの向こうに、全裸の亜季を見つけても、驚きはしなかった。
「純ちゃん……」
「…………」
「一緒に来て」
「…………」
「じゃないと、大きい声出すから」
「…………」
純は亜季についていった。
資材置き場には、緩衝材の上に毛布を敷いた、ちょうどいいスペースが用意されていた。
どこまで冷静で、どこまで冷静じゃないのか。純の心が苦笑った。
「……やっぱり、純ちゃんに抱かれたい」
(肉体の快楽をむさぼりたいんだろう?)
「だって……好きなんだもん」
(ちょうどいいんだろう?)
「……初めては、好きな人としたいの」
(初めては、な)
「純ちゃんが昨日言ったことはわかってる。わかってるけど、でも……」
(わかるわけないんだ)
「来て、純ちゃん……」
(さっさと私を気持ち良くしろ……)
純は、亜季にキスをした。
「ん…………」
唇を離し、トロンとしている亜季に向かって、純は言った。
「俺のやり方を……受け止められるか?」
「え……?」
「俺が亜裕美にしてきたこと。そして、今俺がここにいること。この二つの意味……わかるか?」
「…………」
亜季は、目を閉じた。
「…………よし」
純は、亜季の両肩をつかんだ。
その手をスゥッと下に降ろし、今度は両のヒップをキュッと握る。
「んっ……」
ヒップをかきわけつつ、純の手はどんどん潜り、底にあった蕾に指先をあてる。
「っ! あ……そんな……」
構わず、純はその指をグイッと沈めた。
「うあ! や、やぁ! そんなトコ……やぁん!」
「俺のやり方がイヤか」
「!! で、でも……う、うあぁ……」
純にすがりつく形で、ビクッ、ビクッと震える。
純の指は蕾から抜け、そのままたどるように前に進んだ。
「あ……あっあっ……あっ……」
やや汗ばんだ柔らかな感触。肉の壁と壁にはさまれたすき間。
「あ……はぁ……う……」
「…………」
声から、嫌だという音が消えた。
やはり指の動きにあわせてピクピクしているものの、身のよじり方がさっきとは違う。
さらに、湿り気が帯びてきた。
(!! …………)
純は指を、そして体をも離した。
「あ……純ちゃぁん……」
うっとりした、イヤらしい目だ。
純の目は冷たい。
「……オシッコしてみせろよ」
「え?!」
「オシッコだよ。さぁ」
「えー……」
戸惑う亜季。
上目遣いに純を見て、その口元は。
「……ふふっ」
「!?」
亜季は、その場にしゃがんだ。
「見える? 純ちゃん」
「…………」
「じゃあ……、んっ」
音と、かすかな湯気が立った。
亜季の幼い割れ目から、黄色い雫が放物線を描いてほとばしる。
いったんそれに目を落としていた亜季が、またも純を上目遣いで見る。
したまま。
「ほら、してるよ、亜季」
「…………」
最後のひとしずくが終わる。
亜季はそのまま立ち上がり、毛布の上に、足を開いた格好で座った。
「……どうだった、純ちゃん」
「…………」
純は何も感想を返さないまま、亜季に歩み寄った。
亜季の前にかがみ込み、亜季の両足を握って持ち上げる。
「あん」
左右に開かれた足の真ん中に、顔を寄せる。
「……あ! ああん、だめぇ、汚いよぉ」
「…………」
純の舌が、彼女の花びらに着いていた露を舐め取っていく。
だめといいつつ、一切の抵抗をしない亜季。
「……!」
純は舐めるのをやめ、亜季の上に覆いかぶさった。
「あ……」
そして、またも指で亜季の過敏な部分を攻めた。
「あ……ん! あ! ううん! ん……っ」
窮屈なところへ、無理に指を侵入させる。
「……! い、痛! 痛い! 痛いよ純ちゃん!」
「…………」
「痛いってば! ねぇ!」
「うるさい!」
純は、これ以上ないという目つきで、亜季をにらんだ。
「これが俺のやり方だ! 嫌か!」
「っ……」
まず亜季は怯えた。
手軽に流れる情報では決してわからない、男の激しさに。
「…………」
次に亜季は葛藤した。
それでもするものだという観念と。
結果、亜季の目を閉じさせ、その言葉を発せさせた。
「……いいよ。我慢するもん」
「!!」
怒りの震え。
しかしそれは、水面の波紋が徐々に消えていくように、収まっていった。
純と亜季の体の距離が、離れた。
「! 純ちゃん?」
「…………」
「どうしたの? 我慢するってば」
「…………」
どんどん離れていく。
「ねぇってば! 我慢するって言ってるじゃない!」
「…………」
「どうして?! 続けないと、大きい声出すよ!」
ようやく立ち止まる純。
振り返って、言った。
「出せよ」
「っ……」
そして、さらに距離が開く。純の足は、一歩ずつ亜季から離れていく。
が、ふいに立ち止まって、純は最後の言葉を投げ捨てた。
「我慢される覚えはない」
ただの言いがかりであることは、純が一番わかっていた。
亜季が、少し大きな声で言った「バカァ!」というセリフは、純の背中だけが聞いた。
――部屋に戻ると、親方が待ちかまえていた。酒飲みは夜中に喉が渇くんだそうだ。
整頓しつくした部屋を見渡して、親方は、俺は構わないんだぞと言った。
亜季ちゃんが原因ではないですと言うと、少しの無言のあと、処女だったかと聞いた。
確かめていませんが、多分そうですねと答えると、息をついてそうか……と言った。
帰るんだな、と言った。
はい、と答えた。
後のことはまかせろという言葉と、精算した俺の給料入りの茶封筒を置いて、親方は立ち上がった。
どうしてなぐらないのだろうと思った。
親方が背中越しに、朝には行っちまうのかと、最後の質問をした。
俺はそのつもりですと答えたが、涙が混ざってしっかり発音できなかった――
「はぁ、はぁ……ふぅ」
性交を終えた広樹は、亜裕美の隣で仰向けになった。
少し間を置いて、亜裕美は体を起こした。
「ん?」
「シャワー浴びてくる」
「ああ」
浴室。温かいシャワーが、亜裕美の全身を濡らす。
「……………………」
頭からシャワーを浴びていた亜裕美は、ふと目線を下に降ろす。
そして、静かに目を閉じる。
「…………んっ」
少し開いた足の間から。
「…………」
シャワーにまぎれて、そうとはわからない。
「…………」
亜裕美の足下で、雫がパシャパシャと音を立てる。
顔がゆっくりと上がり、そして小刻みに震え。
「…………」
目が、シャワーのしぶきの中で開いた。
(純……)
始発の電車の中で、純はゆっくりと考えた。
体が踏み荒らしたものを、心で直せるなら。
それをそう呼ぶのかも知れない。
シタゴコロではなく。
心が支えるもの。
たとえ、実の姉であったとしても。
(亜裕美……)
「遠くにありて・追章/ANSWER」につづく
【コメント】
「リアリティ」と「ANSWER」の間には、物語的に二年の月日があります。
今回の話は、そのうちの後半一年の物語でした。
前半の一年と後半の一年の境目にあった出来事は、彩香の出産です。
さて、ちょっと漠然とした内容だったかもしれませんね(^^;)。
Hシーンの量は、実は今まで書いた作品で一番なんです。でも、Hシーンに求めているファクターが違っているため、官能小説としての役割はどこまで果たせているか……果たせてない気もしてます。
最近そうなんですよねぇ(^^;)。特に亜裕美シリーズともなると、自分の中でも存在の大きいシリーズ故、単純に亜裕美によるイヤらしさだけを描けなくって。
少なくとも、ストーリー部分とH部分があって、H部分のところを
(以下Hシーン)
で済んでしまうものにはしたくないって(^^;)。だからといって、Hシーンの最中にストーリーを展開させるのも、Hシーンそのものを殺してしまう……と昔ある漫画家が述べていたのがそのままだと思いますし。
例えば、同じ乳を揉むのにしても(^^;)、包むように優しくするか、乱暴に握りしめるか。で、なぜそうするのか、そういう必然性のある描写がしたいんですよね。
Hのルーチンワークにならないよう。
思えば私のH小説で挿入が少ないのも、その辺りなんでしょうね。
……だから、よしなさいって。後書きでクドクドと(^^;)。
お久しぶりの亜裕美&純でした♪ ども♪
本作品だけを読んでも理解できないと思いますので、あらかじめご了承ください。
「はぁんっ!」
亜裕美(あゆみ)はガクンとあごを反らせ、紅潮した顔から汗を飛び散らせた。
カーテンのすき間から差し込む月光が、彼女の全裸をはかなく照らしている。
「はぁ……あ……はん…………。広樹(ひろき)さん…………」
「…………」
広樹は、亜裕美の股間から顔を上げると、手の甲で唇を拭いながら、言った。
「……どうする?」
「え……?」
「彩香(さやか)をさ……“お姉さん”にするかい?」
「…………、ん……」
遠回しな発言の意味を、白くモヤがかった頭の中で、ようやく理解した亜裕美。
「……まだ早いよ」
「そうか? 年の近い妹か弟って……ああ、亜裕美と純(じゅん)君がそうだったね」
「う、うん……。あまり年が近いと……大変よ……」
大きく開いていた彼女の足が、ほんの少し閉じる。
「色々……と……」
「わかったよ。じゃ、ちゃんと“着ける”としよう」
そう言って広樹は、ベッドの引き出しから四、五センチ四方の薄い包みを取り出した。
ベッドの端で背を向けてゴソゴソしている夫を見ながら、亜裕美は心の中でつぶやく。
(彩香にはなってほしくないもの。愛する夫に抱かれながら……足りなさを感じる女には……)
(純………………)
遠くにありて・特別編
恋
春の終わり。
温かいと思っていた陽射しに、わずかな暑さを感じる、そんな時期だった。
「おぅい、桜庭(さくらば)ー!」
新築・一戸建。その建築現場に、野太い声が響く。
「はい!」
白いヘルメットを被っている十八歳の少年が、それに答えた。
純である。サイズが大きいのか、ヘルメットがやや目深気味だ。
「何ですか、親方」
「ああ。今日はこの辺にしておこう。道具を積んじまってくれ」
「え? まだちょっと……早いんじゃないですか?」
身長は純より少し低いが、ガッシリとした筋肉質な体格の、親方と呼ばれた男は、口の周りを覆っているヒゲの間から、白い歯をのぞかせた。
「いいんだよ。今日は……ホレ」
「え……」
「親方ー! んじゃお先にー! また月曜に!」
他の社員達が、ヘルメットを取って会釈しながら、親方の横を過ぎていく。
「おう、お疲れ! さぁホレ、お前もさっさと支度しろ」
そう言って親方は、純の肩に手を回した。
「お前さんが来てちょうど今日で一年だろ。パーティするんだとよ、ウチのやつらが」
「! そ、そんな……えー?」
「だーっはっはっは!! ホレ行くぞ! 主役が遅れちゃシャレにならねぇからな! はっはっは!」
高笑いしながら自分の帰り支度を始める親方。
ヘルメットを脱いだ純は、量の多い髪をバサッと一振りすると、苦笑いをこぼした。
(一年か……)
――俺が家を飛びだして、もう一年になっていたとは、驚きだった。
こんなガキで、それも得体の知れないガキを快く雇ってくれた親方には、感謝してもし足りない。
仕事どころか、下宿までさせてくれて。寝具にテレビ、服まで与えてくれた。
もちろん、その分仕事はキツい。俺だけ特別キツくされてるわけじゃないけど。
最初の頃は、資材の重さに震え、足場の高さに怯え、夏は暑い、冬は寒い……。
でも、そうやって仕事に没頭し、そして疲れてドロのように眠ることができて……。
忘れることはできなかったけど、悩むこともなかった。
気づけば……そう、一年も経っていたんだ……――
満月に照らされた親方の家は大きく、純を三、四人泊めるくらいの広さはある。敷地も広く、家の隣にはトラックも停められる車庫や、資材置き場もあった。
「一年なんてあっと言う間だなぁ、はっはっは!」
その家中に、親方の大笑いが響いた。
パーティとは言っても、親方の家族プラス純だけがメンバーで、パーティ料理は焼き肉である。
明日が日曜ということで、親方は瓶ビールをどんどん空け、今は日本酒に切り替わっている。
純はノンアルコールのドリンクだった。酒が飲めないわけではないが、苦手ではあるのだ。
そんな純のかたわらに座って、それを酌する少女がいた。
「純ちゃん。もうおなかいっぱい?」
「あ、うん。そうだね」
「ふふっ。じゃ、アキの部屋で遊ぼう!」
少女の名は、アキ。漢字で書くと、亜季となる。純より六歳も年下だ。
髪の両脇をリボンで短くしばっていて、年相応の可愛らしさを醸しだしている。親方に似なくてよかったねと、誰もが思うほどである。腕まくりした白いブラウスと、ジーンズ生地のミニスカートが似合っていた。
「おいアキ。桜庭は疲れてるんらぞ。おまいは早く寝らさい!」
酒気帯びのオクビ混じりにそう言われて、わかったとうなずく年頃の娘なんていない。
純は、気を使った。
「ま、まあまあ親方。俺、そんなんでもないですよ。じゃ、アキちゃんの部屋に行こうか?」
「そうしよ。べーだ」
“べーた”は、もちろん父親宛。だが受け取った父も、せいぜい苦笑い程度で、妻が持っていた追加の肴を相手に、もうニンマリしていた。
「ったくションベン娘が、色気づきやがってぇ……」
などとブツブツ言いながら。
「純ちゃんが来て、もう一年なんだもんね」
「そうらしいね」
亜季の部屋。どこかもってまわった純の言い回しに、ベッドの端に座っていた亜季は、クスッと笑った。
「純ちゃんってば、一年前と変わらないねぇ。でも、ちょっと明るくなったかな?」
「そうかい? ん……そうだね」
「ま、陰りのある純ちゃんも、けっこーカッコよかったけどさ」
「…………」
純は思った。“陰り”なんて言葉、このコにとっては、単なる飾りなんだな、と。
「どうしたの、純ちゃん」
「ん? いや」
「……純ちゃんも、こっちおいでよ」
「はいはい」
お招きを受けて、純は亜季の隣に座り、ベッドをきしませた。
「ねえ純ちゃん。……あたしは、どぉ? 一年経って」
「え?」
正直に言うなら、とりたてて感想はない。だが、それをそのまま言うほど、純は馬鹿じゃない。
「うん……女っぽくなったんじゃないかなーなんて」
「あははっ。テレちゃって、かわいーの」
「なんだよぉ」
苦笑いが交差し、ちょっとだけの沈黙の後、亜季は切り出した。
「ねぇぇ、純ちゃん……」
純は、来たな、と思った。このタイミングで亜季が「ねぇぇ」と切り出す時は、決まってセックスがらみの何らかを純に質問したり、意見したりするからだ。
最初はどう受け答えすればいいのか迷っていた純も、今ではそれなりにあしらえていた。
どうして男の子のオチンチンって立つの? 電車で揺られるだけでも立つ時は立つんだよ。 へぇー。 もちろんエッチなコトを考えてもね。 あはは!
だから純は、いつもの調子でこう返事をした。
「なんだい?」
しかし、今回の亜季は、質問ではなかった。
「アキの胸に触って」
「……え?」
“ムネ”とよく似た発音の何かかと、純は思った。腕……かな?などと。
「亜季ちゃん。ごめん、聞こえなかった」
「胸よムネ。触って」
「…………」
「触ってってば! いいから!」
「……だめだよ、そんな」
「いいから!」
女の子がこの調子で「いいから」を繰り返す時、それは望み通りにするまで止まらないという意味だ。
純は、亜季の白いブラウスの胸元に、手を重ねた。
「……もっと押し付けて」
「…………」
純の手のひらに、トクン、トクンという柔らかな鼓動が伝わる。
「成長したでしょ」
「……わからないよ」
苦笑いで、純は続ける。
「触ったの、初めてなんだからさ」
「うー……で、でも、膨らんでるでしょ? アキの胸」
「だね。柔らかいよ」
「…………」
亜季は、そっとうつむいてしまった。
「……冷静なんだね、純ちゃん」
「え? そうかな」
「アキは……」
小さく細い手が、純の手をさらに白いブラウスに押し付ける。
「アキは、こんなにドキドキしてるんだよ?!」
「…………」
「きっ……嫌いな男の人に、こんなことさせると思う?!」
「あ、亜季ちゃん。だめだよ、そんな……。親方に……悪い」
「……………………」
うつむいていた亜季は、ゆっくりと顔をあげ、その表情を純に見せながら、言った。
「うそ。悪いと思ってるのは……アユミさんに対してでしょ?」
「!!」
窓の外は、真っ青な月明かりに満ちていた。
「…………」
「…………」
「…………姉貴だよ、亜裕美は」
「うそ。言わないもん、普通。寝言でも、弟が姉に対して『アユミ……行くな……』なんて」
「っ…………」
家族同様に迎えられている純。例えばソファでのうたた寝など、機会はいくらでもあっただろう。
「彼女でしょ? わかってるんだから。フラれたんでしょ?」
「!!」
純の怒りは、拳を握るに留まった。
「やめるんだ亜季ちゃん。そんな言い方……よくないぞ」
「アキは、純ちゃんをフッたりしないよ!」
「…………」
「だから……」
「…………」
「…………!」
ボタンを外す音。ブラウスがベッドに落ちる音。その下のTシャツがめくれる……気配。
「いいんだよ……。純ちゃんだから……」
「っ!!」
もう、拳を握るだけでは済まなくなった。
「いい加減にしないか、亜季! 好きになってくれるのは嬉しいけど! だからってさ!」
純は、亜季の両肩をつかんで、怒りをぶつけた。
「なぜそうやって体を開く!? どうして好きだからって、そうなるんだよ!」
「だって!」
「だってじゃない! そんなの恋じゃないだろう?! ただのリビドーだ!」
「え……? リビドー?」
「…………性欲のことだよ。単にセックスしたいってだけの……エゴな欲望さ」
亜季の肩から、純の手が離れる。
「……ごめんな、亜季ちゃん。乱暴にして。おやすみ」
「……………………」
静かにドアを閉じ、亜季の部屋を出ていった純は、
(…………亜裕美……)
亜季の胸に触れた手を、ジッと見つめた。
同じ夜。スキンを着けた広樹は、正常位で亜裕美と重なっている。
「あっ……あはっ……んっ……んっ……」
亜裕美のショートな髪が、枕の上で舞っていた。
「あああ……んん、んああっ」
激しく揺れる、彼女の豊かな胸。
「あっあっ……ああー……あ、ひろ……きさん……」
「ん? どうした?」
動きを止める広樹。
「はぁ、はぁ……あの……ね……」
「ん?」
「背中……痛いの……」
枕に顔を埋めるように横を向く亜裕美の表情は、それが嘘だと語っていた。
痛いわけではないが、始めてからずっと、背中がベッドに着きっぱなしだと言いたかったのだ。
「あ、ああ。そうか……じゃあ、亜裕美……」
「うん……」
亜裕美はコロッとうつぶせ、そして、膝と手のひらをベッドに着けた。
「亜裕美……」
広樹は、亜裕美の滑らかな曲線を描くヒップをひと撫でしてから、再度挿入する。
「あはぁあっ! ……あん、あっ、あっ……ん……」
肌と肌がぶつかりあう音。合わせて聞こえる、ニチャニチャという音。
「んっ…………んんんっ……! ……!」
「……?」
「…………んふ! んぅ、んぅ……」
「…………」
広樹は、亜裕美が声を殺しだしたことを、その理由を聞こうとして、やめた。
時折情事の最中にするクセだからだ。
それに、必死で声を殺してる様子も、愛らしかったからだ。
理由は残酷なのだが。
(声を出すなよ)
亜裕美は、歯を食いしばった。
(だめ……出ちゃう……。せめて……手で抑えさせて……)
(だめだ。そのままで声を我慢するんだ。じゃないと、やめちゃうぞ)
(そんな……)
亜裕美のひとり想いとなっていた。すでにそれは、セックスではなかった。
(よしいいぞ。声を出すなよ……姉ちゃん)
(もうだめぇ。イッちゃうぅ)
「んん! んん! ん……ん、ん、ん、んん!」
「亜裕美っ、そろそろ……はぁ! はぁ! はぁ!」
「んう! んっくんぅ! い……んんん!」
(イク…… 純……)
日曜の朝。雲一つない空だ。
「……ちゃん」
「んん……」
誰かに呼びかけられ、純は眠そうに布団をかぶって寝返りを打った。
「純ちゃん」
「……んあ?」
声の主が亜季だとわかり、純はガバッと起きる。
「…………」
「…………」
見つめあう二人。が、亜季が吹きだしたことで、静寂は破られた。
「やだ、スゴい寝グセ!」
「あ……ああ」
髪の量が多い純は、人よりも朝の調髪に時間がかかる。
「……おはよう、亜季ちゃん」
「おはよ、純ちゃん。朝ゴハンできてるよ……」
「ん……、?」
亜季の目線が、自分の股間辺りに向けられていると気づく。で、今は寝起きだ。
「……亜季ちゃん……」
「! あ、あはは! ごめんね。じゃ!」
男の生理現象とはいえ、布団を持ち上げるほどの“元気さ”に、純は苦い笑いをこぼした。
部屋を出ていこうとした亜季は、そんな純に、顔を少しだけ振り向かせて、言った。
「……昨日はごめんね」
「……いいんだ」
「じゃ……先行ってるよ」
パタリと閉じたドア。
それを見つめながら、純はひとりごちた。
(いいんだよ。もう……止まらないってわかってるから。だから……)
街で過ごす日曜の午後。
買い物を済ませた純は、歩道橋の真ん中で、にぎわう街を眺めていた。
カップルが目につく。
彼氏に腕を絡ませ、幸せそうな顔をしている彼女。
あの二人に、どんなドラマがあったんだろう。
告白に始まって、交際を積み、唇を重ね、体を求めあって……。
別のカップルが見えた。
あの二人に、どんなドラマがあったんだろう。
幼なじみの延長で恋愛となり、唇を重ね、体を求めあって……。
あの女の子も、この女の子も。
この沢山のカップルの中に、姉と弟という関係はいるのだろうか。
同じように姉を持つ男の友人は言っていた。姉なんかそんな目で見れるか、と。
パンツだろうが、裸だろうが、姉は姉であって、姉以外のなにものでもない。
それが他人だと、亜季のように、同じ屋根の下というだけで、そんな気持ちになる。
たぶん、それだけが理由だと思う。
恋という字は、変という字に似ている。
ヘンなんだろう。
自分が変になっている。こう言うのを避けるために、ココロなんて文字をくっつけたんだ。
恋はシタゴコロ。
それだけのことなのに。
抑えられないほどの気持ちになっちまう。
離れて、なおそう思えてくる。
「遠くにありて想うもの……か……」
空は青から赤へ、そして闇へと変わる。
真夜中と呼ばれる時間だ。
眠れずにいた純は、布団の上で小説を読んでいた。
かすかなノックが聞こえる。
『純ちゃん。……アキだよ』
なぜか純は、やっぱりと思った。
「……どうぞ」
『開けて』
「…………」
だから純は、開けたドアの向こうに、全裸の亜季を見つけても、驚きはしなかった。
「純ちゃん……」
「…………」
「一緒に来て」
「…………」
「じゃないと、大きい声出すから」
「…………」
純は亜季についていった。
資材置き場には、緩衝材の上に毛布を敷いた、ちょうどいいスペースが用意されていた。
どこまで冷静で、どこまで冷静じゃないのか。純の心が苦笑った。
「……やっぱり、純ちゃんに抱かれたい」
(肉体の快楽をむさぼりたいんだろう?)
「だって……好きなんだもん」
(ちょうどいいんだろう?)
「……初めては、好きな人としたいの」
(初めては、な)
「純ちゃんが昨日言ったことはわかってる。わかってるけど、でも……」
(わかるわけないんだ)
「来て、純ちゃん……」
(さっさと私を気持ち良くしろ……)
純は、亜季にキスをした。
「ん…………」
唇を離し、トロンとしている亜季に向かって、純は言った。
「俺のやり方を……受け止められるか?」
「え……?」
「俺が亜裕美にしてきたこと。そして、今俺がここにいること。この二つの意味……わかるか?」
「…………」
亜季は、目を閉じた。
「…………よし」
純は、亜季の両肩をつかんだ。
その手をスゥッと下に降ろし、今度は両のヒップをキュッと握る。
「んっ……」
ヒップをかきわけつつ、純の手はどんどん潜り、底にあった蕾に指先をあてる。
「っ! あ……そんな……」
構わず、純はその指をグイッと沈めた。
「うあ! や、やぁ! そんなトコ……やぁん!」
「俺のやり方がイヤか」
「!! で、でも……う、うあぁ……」
純にすがりつく形で、ビクッ、ビクッと震える。
純の指は蕾から抜け、そのままたどるように前に進んだ。
「あ……あっあっ……あっ……」
やや汗ばんだ柔らかな感触。肉の壁と壁にはさまれたすき間。
「あ……はぁ……う……」
「…………」
声から、嫌だという音が消えた。
やはり指の動きにあわせてピクピクしているものの、身のよじり方がさっきとは違う。
さらに、湿り気が帯びてきた。
(!! …………)
純は指を、そして体をも離した。
「あ……純ちゃぁん……」
うっとりした、イヤらしい目だ。
純の目は冷たい。
「……オシッコしてみせろよ」
「え?!」
「オシッコだよ。さぁ」
「えー……」
戸惑う亜季。
上目遣いに純を見て、その口元は。
「……ふふっ」
「!?」
亜季は、その場にしゃがんだ。
「見える? 純ちゃん」
「…………」
「じゃあ……、んっ」
音と、かすかな湯気が立った。
亜季の幼い割れ目から、黄色い雫が放物線を描いてほとばしる。
いったんそれに目を落としていた亜季が、またも純を上目遣いで見る。
したまま。
「ほら、してるよ、亜季」
「…………」
最後のひとしずくが終わる。
亜季はそのまま立ち上がり、毛布の上に、足を開いた格好で座った。
「……どうだった、純ちゃん」
「…………」
純は何も感想を返さないまま、亜季に歩み寄った。
亜季の前にかがみ込み、亜季の両足を握って持ち上げる。
「あん」
左右に開かれた足の真ん中に、顔を寄せる。
「……あ! ああん、だめぇ、汚いよぉ」
「…………」
純の舌が、彼女の花びらに着いていた露を舐め取っていく。
だめといいつつ、一切の抵抗をしない亜季。
「……!」
純は舐めるのをやめ、亜季の上に覆いかぶさった。
「あ……」
そして、またも指で亜季の過敏な部分を攻めた。
「あ……ん! あ! ううん! ん……っ」
窮屈なところへ、無理に指を侵入させる。
「……! い、痛! 痛い! 痛いよ純ちゃん!」
「…………」
「痛いってば! ねぇ!」
「うるさい!」
純は、これ以上ないという目つきで、亜季をにらんだ。
「これが俺のやり方だ! 嫌か!」
「っ……」
まず亜季は怯えた。
手軽に流れる情報では決してわからない、男の激しさに。
「…………」
次に亜季は葛藤した。
それでもするものだという観念と。
結果、亜季の目を閉じさせ、その言葉を発せさせた。
「……いいよ。我慢するもん」
「!!」
怒りの震え。
しかしそれは、水面の波紋が徐々に消えていくように、収まっていった。
純と亜季の体の距離が、離れた。
「! 純ちゃん?」
「…………」
「どうしたの? 我慢するってば」
「…………」
どんどん離れていく。
「ねぇってば! 我慢するって言ってるじゃない!」
「…………」
「どうして?! 続けないと、大きい声出すよ!」
ようやく立ち止まる純。
振り返って、言った。
「出せよ」
「っ……」
そして、さらに距離が開く。純の足は、一歩ずつ亜季から離れていく。
が、ふいに立ち止まって、純は最後の言葉を投げ捨てた。
「我慢される覚えはない」
ただの言いがかりであることは、純が一番わかっていた。
亜季が、少し大きな声で言った「バカァ!」というセリフは、純の背中だけが聞いた。
――部屋に戻ると、親方が待ちかまえていた。酒飲みは夜中に喉が渇くんだそうだ。
整頓しつくした部屋を見渡して、親方は、俺は構わないんだぞと言った。
亜季ちゃんが原因ではないですと言うと、少しの無言のあと、処女だったかと聞いた。
確かめていませんが、多分そうですねと答えると、息をついてそうか……と言った。
帰るんだな、と言った。
はい、と答えた。
後のことはまかせろという言葉と、精算した俺の給料入りの茶封筒を置いて、親方は立ち上がった。
どうしてなぐらないのだろうと思った。
親方が背中越しに、朝には行っちまうのかと、最後の質問をした。
俺はそのつもりですと答えたが、涙が混ざってしっかり発音できなかった――
「はぁ、はぁ……ふぅ」
性交を終えた広樹は、亜裕美の隣で仰向けになった。
少し間を置いて、亜裕美は体を起こした。
「ん?」
「シャワー浴びてくる」
「ああ」
浴室。温かいシャワーが、亜裕美の全身を濡らす。
「……………………」
頭からシャワーを浴びていた亜裕美は、ふと目線を下に降ろす。
そして、静かに目を閉じる。
「…………んっ」
少し開いた足の間から。
「…………」
シャワーにまぎれて、そうとはわからない。
「…………」
亜裕美の足下で、雫がパシャパシャと音を立てる。
顔がゆっくりと上がり、そして小刻みに震え。
「…………」
目が、シャワーのしぶきの中で開いた。
(純……)
始発の電車の中で、純はゆっくりと考えた。
体が踏み荒らしたものを、心で直せるなら。
それをそう呼ぶのかも知れない。
シタゴコロではなく。
心が支えるもの。
たとえ、実の姉であったとしても。
(亜裕美……)
「遠くにありて・追章/ANSWER」につづく
【コメント】
「リアリティ」と「ANSWER」の間には、物語的に二年の月日があります。
今回の話は、そのうちの後半一年の物語でした。
前半の一年と後半の一年の境目にあった出来事は、彩香の出産です。
さて、ちょっと漠然とした内容だったかもしれませんね(^^;)。
Hシーンの量は、実は今まで書いた作品で一番なんです。でも、Hシーンに求めているファクターが違っているため、官能小説としての役割はどこまで果たせているか……果たせてない気もしてます。
最近そうなんですよねぇ(^^;)。特に亜裕美シリーズともなると、自分の中でも存在の大きいシリーズ故、単純に亜裕美によるイヤらしさだけを描けなくって。
少なくとも、ストーリー部分とH部分があって、H部分のところを
(以下Hシーン)
で済んでしまうものにはしたくないって(^^;)。だからといって、Hシーンの最中にストーリーを展開させるのも、Hシーンそのものを殺してしまう……と昔ある漫画家が述べていたのがそのままだと思いますし。
例えば、同じ乳を揉むのにしても(^^;)、包むように優しくするか、乱暴に握りしめるか。で、なぜそうするのか、そういう必然性のある描写がしたいんですよね。
Hのルーチンワークにならないよう。
思えば私のH小説で挿入が少ないのも、その辺りなんでしょうね。
……だから、よしなさいって。後書きでクドクドと(^^;)。
お久しぶりの亜裕美&純でした♪ ども♪
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