小説(転載) 綾香とぼく 3/10
官能小説
第3章 無垢
ベンチで楽しく過ごしたぼくたちは、植え込みの中に入って草原に直接腰を下ろ
して一緒に話した。暖かい春の日、草原がぼくたちに解放感を与え、緊張を解いて
くれた。
「城山先生って恐いんだよー。」
綾香が横に座って言った。もちろんぼくは「城山先生」は知らない。
「ほんとだよねー。すごく大きな声で怒鳴るんだよね。」
春菜が合わせる。
「ふーん。」
傾聴してみる。こどもはときどきかまってほしくて話をする。熱心に耳を傾けてい
れば、彼女たちも心を開くはずだと考えた。
「石川先生ってやさしいよねー。」
春菜が言う。
「うんうん、綾香、あそこのクラスになりたい。」
彼女達はそばに生えている花を見ながら話していた。
「あ、そうだ。春菜ちゃん、ちょっと耳かして。」
「え、なになに?」
綾香が春菜にこそこそと話しかける。ふたりともにやにやしながらこちらを見てい
る。
「ちょっと待っててね。」
ふたりは少し離れたところへ行って、なにやらごそごそやっていた。ぼくは何をし
てくれるのか楽しみに待っていた。
しばらくして、綾香が帰ってきた。手にはきれいな花を持っている。
「あげる。」
嬉しい。本当に心からそう思った。知り合いとは社交辞令的につきあうことが多か
ったぼくは、彼女の贈り物は心底喜べた。
「こっちもあげるよ。」
春菜がきれいなはっぱを手にやってきた。綾香はまた走って行き、何かを手にして
帰ってくる。
「ふぅ~。」
綾香はたんぽぽの花を手ですりつぶすと、息を吹き付けて空に飛ばした。
「うふふ。」
綾香がぼくの横にちょこんと座って満面の笑みを浮かべた。至福の喜びだった。本
当に自分がこの喜びを味わってもいいのか、不安にすら思えた。
「おにいさん、女の人みたい。」
「え?」
確かにぼくは男らしいとは思っていなかったが、女性的だと言われたのははじめて
だった。
「だって優しいんだもん。」
綾香がさらりと言った。その無垢なところがとてもかわいく思えた。嬉しかった。
こんなに自分が評価されたのは初めてだった。
ふと横を見ると、綾香がごそごそやっている。
「はい、プレゼント。」
綾香が手をさしのべた。手の上に何か乗せている。それははっぱと花をつなげて作
った指輪だった。
「ありがとう。」
ぼくはその指輪が長く形を保っていられないことに悲しさすら感じた。永遠に、こ
の指輪が永遠に今日の思い出として残ってくれたら……。ぼくはそんな気持ちでい
っぱいだった。
ベンチで楽しく過ごしたぼくたちは、植え込みの中に入って草原に直接腰を下ろ
して一緒に話した。暖かい春の日、草原がぼくたちに解放感を与え、緊張を解いて
くれた。
「城山先生って恐いんだよー。」
綾香が横に座って言った。もちろんぼくは「城山先生」は知らない。
「ほんとだよねー。すごく大きな声で怒鳴るんだよね。」
春菜が合わせる。
「ふーん。」
傾聴してみる。こどもはときどきかまってほしくて話をする。熱心に耳を傾けてい
れば、彼女たちも心を開くはずだと考えた。
「石川先生ってやさしいよねー。」
春菜が言う。
「うんうん、綾香、あそこのクラスになりたい。」
彼女達はそばに生えている花を見ながら話していた。
「あ、そうだ。春菜ちゃん、ちょっと耳かして。」
「え、なになに?」
綾香が春菜にこそこそと話しかける。ふたりともにやにやしながらこちらを見てい
る。
「ちょっと待っててね。」
ふたりは少し離れたところへ行って、なにやらごそごそやっていた。ぼくは何をし
てくれるのか楽しみに待っていた。
しばらくして、綾香が帰ってきた。手にはきれいな花を持っている。
「あげる。」
嬉しい。本当に心からそう思った。知り合いとは社交辞令的につきあうことが多か
ったぼくは、彼女の贈り物は心底喜べた。
「こっちもあげるよ。」
春菜がきれいなはっぱを手にやってきた。綾香はまた走って行き、何かを手にして
帰ってくる。
「ふぅ~。」
綾香はたんぽぽの花を手ですりつぶすと、息を吹き付けて空に飛ばした。
「うふふ。」
綾香がぼくの横にちょこんと座って満面の笑みを浮かべた。至福の喜びだった。本
当に自分がこの喜びを味わってもいいのか、不安にすら思えた。
「おにいさん、女の人みたい。」
「え?」
確かにぼくは男らしいとは思っていなかったが、女性的だと言われたのははじめて
だった。
「だって優しいんだもん。」
綾香がさらりと言った。その無垢なところがとてもかわいく思えた。嬉しかった。
こんなに自分が評価されたのは初めてだった。
ふと横を見ると、綾香がごそごそやっている。
「はい、プレゼント。」
綾香が手をさしのべた。手の上に何か乗せている。それははっぱと花をつなげて作
った指輪だった。
「ありがとう。」
ぼくはその指輪が長く形を保っていられないことに悲しさすら感じた。永遠に、こ
の指輪が永遠に今日の思い出として残ってくれたら……。ぼくはそんな気持ちでい
っぱいだった。
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