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小説(転載) 妻のヌード 4/4

官能小説
05 /16 2018
小説『妻のヌード』


(4)

 しばらくして、柿崎夫婦は降りてきた。
 僕は、一人で空になったグラスを握り締めていた。テレビのニュースが、今日のプロ野球の結果を流している。
「あら。ごめんなさい。水割り作りましょうね」幸子さんがキッチンに立つ。
「二人、ちゃんとやってたかい?」さりげなく僕は聞いた。
「大丈夫だよ」言葉少なに柿崎が言う。
「由美子さん、とってもきれいでしたよ。私達、見とれちゃった。ねえ」
「幸子さんも描いてもらえばいいのに」僕は言った。
 何も、由美子だけが恥かしい思いをすることはない。幸子さんにもやらせたらいいんだ。幸子さんは、由美子だけを晒しものにして・・・、しかもその現場をしっかり見て・・・、卑怯じゃないか。
「こいつはダメさ。そんな度胸はないし。第一、由美子さんの後じゃなぁ、こいつが可哀想さ」
「あら、私だってそんなに捨てたもんじゃないのよ。さっきからずいぶんね」
「ただなあ、由美子さんとってもきれいだった。俺も最初は戸惑ったけど、でもちっとも厭らしい気持ちはおきなかった」
「本当?」幸子さんが冷やかすように言う。
「何か、古代ギリシャの彫像を見てるって感じでなぁ。すっかり目の保養をさせてもらったよ。なぁ」
「そうねえ。細川さんが言ってたけど、本当に女性のヌードって美しいわ。私も、機会があればやってもいいかなあ、って思っちゃった」

 僕は、その後が気になった。だって、由美子と細川はそのまま降りて来ないからだ。
「ええと・・・、それで、まだ終わらないのかい」
「ええ、何か細川さんがもう少し描きたいって・・・。私達追い出されちゃったの」と幸子さん。
 えっ?
「私達がいると集中出来ないって・・・」
「あのやろう、俺達が出るとすぐ鍵を掛けやがった」憤慨するように柿崎が言う。
「でも、由美子さん大丈夫かしら・・・。ずいぶん疲れてたみたい」
「細川のやりたい放題だな」と柿崎。
 僕と目があって、「いや、変な意味じゃないけどさ」柿崎があわてて言った。
 でも、幸子さんが意味深な表情を見せていたのを僕は見逃さなかった。幸子さんはその雰囲気から、何かがあったのを、いや何かが起こるのを察したのかもしれない。由美子と細川の間にある親密な空気を感じたのかもしれない。
 さっきと違って、柿崎夫婦がにぎやかだ。僕は耳を澄ませることが出来なかった。
 僕はどうしようか迷っていた。今すぐあの部屋に駆け込もうか?
 でも、二階を見上げても、ドアは何者をも拒絶するようにピシッと閉まっている。柿崎が言うように鍵もしっかりと掛かっているのだろう。由美子、全裸で無抵抗の由美子と、そして細川の二人だけを中に残して・・・。
 僕は神経質に、さらに耳を澄ませた。
 幸子さんが、テレビのボリュームをわざと大きくした。

 十分、いやニ十分くらい時間が経っただろうか。
 二階のドアが開いて、細川がスケッチブックをパラパラめくりながら降りてきた。
 上を見上げると、細川に続いて部屋を出て来た由美子が、葡萄色のバスタオルを身体に巻いて、ゆっくりと、けだるそうにシャワールームに入るのが見えた。
 今度は何も言わせない。
 僕は階段を駆け上がった。細川はそんな僕をにやにやしながら見ている。
 階段の途中ですれ違った細川に僕は言った。
「そのスケッチブック、よこせ」
「もうちょっと手を加えたいんだけどなぁ」
「いや、もういい」
「あとで、きちんと額に入れて由美子さんにやるよ」
「もう止めてくれ。もうたくさんだ。ともかく、よこせ!」
「だって、これはお前のものじゃなくて由美子さんのだろう」
「やかましい。由美子は僕の女房だ」
 僕は無理やりスケッチブックをひったくった。
 そのまま、シャワールームの前まで駆け上がると一階を見下ろした。
 ブラブラと身体一つだけで、階段を降りて行く細川。リビングルームから上を見上げている柿崎夫婦。でも、何かとてもよそよそしい感じがした。

 シャワールームには鍵が掛かっていなかった。まるで僕が来るのを予期していたように・・・。
 由美子がバスタオルを身体に巻いたまま、放心したように、鏡に自分の顔を映していた。
 そして、静かに僕の方に振り向くと、ピエロのようにおどけて見せた。
「スケッチブック、取り上げてきたぞ。あいつらいい気になりやがって・・・」
「あゝ、そうね。そういう約束だったわね」あまり関心なさそうに言う。
 目が少し充血している。泣いていたのだろうか。それとも、目に汗が入っただけなのだろうか。
 僕はスケッチブックをパラパラッとめくってみた。由美子も脇から覗いていたが、
「どう?そんなに捨てたもんではないでしょう?」
「うん。きれいだよ」
 二十枚くらいだろうか、由美子のいろいろなシチュエーションの裸像が抽象的に描かれていた。
「どう?見直した?」
 パラパラとめくっていくと確かに由美子のものなんだろうが、秘部やヘアーがしっかりと描かれている。
 やっぱりナ。僕は深く深く息を吐いた。
 由美子はそんな僕に気がついたのだろうか。言い訳をするように言った。
「ほんとに無茶なんだから。あなたが言ったんですからね、私のこと晒しものにして・・・」
 ふんぎりをつけるように、「でも、これでお仕舞い」と言った。
 僕には聞きたいことが山ほどあった。でも、どういう風に聞いていったらいいかわからない。僕は言葉を探していた。
 由美子は、鏡の中からそんな僕を面白そうに見ている。どうしたの?と、言葉には出さずに首を傾げて見せた。
「恥かしくなかったのか?」自分でもつまらないことを聞くものだ。
「そりゃあ恥かしかったわよ。細川さんたら、私にいろんな格好をさせるんですもの。でもね、それを意識してたらやってられないって思って、どこかで自分を納得させてるっていうか、開き直ってたの」
 由美子がちょっと考えるように言う。
「でもね、不思議なのよ。そのうちに、少しも恥ずかしいと思わなくなったの。不安も消しとんじゃった。どう?私を見て!って感じよ」
「何故、僕を部屋に入れなかったんだ?」
「心配だった?」クスッと笑う。
「うんと心配させようと思って・・・。でも、逆に聞きたいわ。女房を他人の前で裸にしたってどんな心境だった?」
「しょうがないやつだ」
「何かね、本当の自分を取り戻してみたかったの。あなたがそばにいたら、きっと意識しちゃってダメだったでしょうね。あなたの前ではあんなふうに大胆になれなかったと思うわ」
 僕は気になっていたことを聞いた。
「何もなかったんだろうな?」
「何って?」
「細川とさ・・・」
「何言ってるの。そんなことあるわけないじゃない」
 本当だろうか?
 きっと、僕は嫉妬に満ちた、猜疑心に満ちた表情をしていたに違いない。
 由美子はそんな僕を少し押しのけるようにして離れて立つと、巻きつけていたバスタオルの胸の結び目をほどいて、身体から落とした。
 由美子の全裸の身体の全体が、僕の目の前にあった。
「どう?」
 僕はドキッとした。
「私が汚れているように見える?」
 シャワールームの照明の中で、確かに女神のような清純な裸像が輝いていた。
「これでも信じてもらえない?」
「・・・・・・」
「そうね・・・、信じてもらえないならそれでもいいわ。だって、信じてもらう方法って、ほかにないもの」
 遠いところを見るように言う。
「でもね、正直言うとね。細川さんにその瞬間だけは愛されてるって感じたわ。変でしょう・・・。でも、確かにそう感じたの。もし、セックスを挑まれたら・・・、私、拒まなかったかもしれない」
「・・・・・・」
「・・・・・・、ふふふ」由美子が何かを思い出したように笑う。
「何だ?」
「あのね、最後の時ね。細川さんたらね、・・・・・・。いえ、止めとくわ。私と細川さんだけの秘密・・・」
「やっぱり何かあったんだな」
「う~ん、そうかなあ。でもね、これは秘密。細川さんが結婚したら、その奥さんにだけ、こっそり教えてあげるわ」
 その時、僕は由美子を信じようと思った。いや、信じなければいけないと思った。
 問い詰めたところで、由美子が話すとも思えない。何かがあったようだが、でも、それは少なくとも不健全なものではないように思えた。
 それに、由美子の全裸の身体は清純そのものだった。何もなかったことを由美子の身体が正直に証明していた。
「もう止めましょう、こんな話し・・・。私はあなたの妻なんですからね」

「柿崎のやつ、お前のこと誉めてたぞ。綺麗だったって・・・」
「そう?」
 由美子は鏡の中で髪の毛を直している。鏡の中に由美子の豊満な乳房が写っている。
「ちょっとおっぱい、下がってきたかな」バストを持ち上げるようにする。
「そんなことないよ」
 僕は由美子の両肩を抱えるようにして、僕の方を向かせると、その美しい身体を、頭の先からつま先まで見つめた。肌が、うっすらと汗ばんでいる。
「両手を上に上げてくれ」
「何?」
「いやかい?いやならいいんだけど・・・」
「そんなことないわ。いいわよ。あなたの言う通り、何でもするわ」
 由美子は両手を上げて、頭の後ろで組んだ。僕は、脇のうぶ毛を見たかったのだ。
「ちょっと後ろを向いてくれないか」
「今度は後ろね。はい」
 由美子は、微笑しながら、髪を掻き上げるようにして、くるっと後ろを向いた。
 いや、点検するっていうんじゃないんだ。僕はただ単純に、由美子の身体を見たかったのさ。由美子の美しさを再確認したかったんだ。

 その時、僕らはセックスをしなかった。いや、一階の彼等のことが気になったからじゃない。
 そうじゃなくて、由美子の全裸の身体を見ていると何か犯すべからざるもののような気がして、とてもそんな気にならなかった。
 僕は十分過ぎるくらい勃起していた。由美子もそれに気がついていた。もし、僕が抱こうとしたら、由美子は抵抗せず黙って受け入れたに違いない。たぶん、聖母のような微笑をもって・・・。
 だけど、僕は、その時、そこで由美子を抱いたら、由美子が壊れてしまうような気がしたんだ。
 僕はただ、いとおしむように、肩からわき腹、そして腰のラインを両手でさすりながら、観察するように由美子の全裸の身体を見ていた。
 背中から腰にかけて見ていくと腰の右側のちょっと上の所に大き目のホクロがあった。これだな。
「えっ、何?」由美子が聞く。
 僕はじっとそのホクロを見た。
「どうしたの」
「こんなところにホクロがあったのか。はじめて知ったよ」
 僕は、もう一度スケッチブックを広げてみた。何枚かの中に後ろ向きの絵があって、細川はしっかりとホクロを描き込んでいた。
「今度、ゆっくり、君の身体のホクロの数でも数えるかな。いいかい?」
「そんなことしてどうするの?」
 いたずらっ子を見るように僕を見た。
「でも、そうね。気が向いたらね」
 僕は由美子の唇に軽くキスをすると、わざと突き放すようにして、言った。
「早くシャワー浴びてこいよ。皆んな待ってるから・・・」
「うん。そうする」
由美子は、足元に落ちているバスタオルを拾ってシャワールームに入りかけたが、ひょっこり顔を出し、
「あ、それからね、幸子さんにね、お酒のつまみ、適当に冷蔵庫を開けて作ってくれるように言ってて」と言った。

 シャワールームから出た由美子は、また元の服を着て、皆んなの所に降りてきた。
 さっきから、柿崎が仕事での失敗談を面白おかしく喋りまくっている。
「ねえ、ねえ、私も中に入れて・・・」と由美子はいつの間にかその中に溶け込んでいく。
 まるで、今までのことがすべて幻だったように、誰もさっきのことには触れなかった。でも、由美子はちょっといつもと違ってはしゃいでいたかな?
 夜遅くまで皆んなで飲み明かしたが、途中で子供が起きだし、女性二人が寝かしつけに行ったが、そのまま起きて来なかった。そのまま寝てしまったのだろう。

 話しはそれでお仕舞い。
 夫婦なんてそんなものさ。そう奇妙きてれつなことがあるわけではない。
 柿崎夫婦や細川とのつき合いもあいかわらず続いている。
 その後、細川から、僕の勤め先に電話があって、由美子をもう一度描かせてもらえないか、と頼まれたことがあったが、僕はきっぱりと断った。由美子に聞いても同じことを言ったに違いない。

 あ、言い忘れたが、由美子は結局髪型は変えなかったな。
 それと、由美子の身体にホクロがいくつあるか、僕はまだ知らないんだ。

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eroerojiji

小さい頃からエロいことが好き。そのまま大人になってしまったエロジジイです。