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小説(転載) 「あなたに逢いたい」

近親相姦小説
06 /28 2018
掲載サイトは消滅。
題名  「あなたに逢いたい」

その日の昼過ぎ、敦子が事故に遭ったという報を
受け取った修一郎は、一目散に病院へすっ飛ん
で行った。

敦子は妹だった。
地元の短大に通う19才。
勿論、自宅からの通学だった。
両親が手元から手放さないのは当たり前。
地元では評判の美人だった。

言い寄る男たちは、それこそ星の数程いた。
いや、決して大げさな表現ではない。
笑顔が飛び切り可愛い、無垢なまでの素直さが
その表情に溢れていたから、それを見た誰もが
我が胸を熱くした。
彼女の優しい笑顔は出会う人達の心を捉えて
放さなかった。


修一郎は兄として小さい頃から彼女を守った。
色んな男たちが近づいてくるのを身を挺して
守り通したのだった。
ケンカに強くなる為に、空手道場まで通って鍛えた。

敦子の為だけに身体を張った修一郎が、家を出たい
と言いだしたのは去年の春。突然だった。
念願だった教師になれたからだと修一郎は言った。

仕事に専念したいと言って、学校近くのマンションを
借りると説明した。だが行き先は、何と地元の高校。
自宅から歩いて十数分という近さなのに、修一郎は
自宅を出て行くと言ったのだ。

両親は驚いた。
妹思いで、いつも一緒に行動していた仲の良い2人
だったのに。なぜ?
「俺も23。何時までも兄妹べったりというのは変だし、
敦子の今後にも悪影響だと思うから、ここらで独立したいんだ。」

修一郎の言葉に、一応の納得をする両親。
敦子も、何も言わなかった。

それから2日間、あっと言う間に出て行く準備が
出来上がった。
こうして出て行く当日を迎えた。
修一郎は、迎えに来た荷物運搬車に乗り込んだ。
「落ち着いたら連絡するよ。父さん母さん。」

響き渡るエンジン音。
「また、ちょっとしたら遊びに行っても良いでしょ?
お兄ちゃん。」
普段見せる笑顔の敦子。
だが修一郎は、その質問に答えず、ずっと前を向
いたままだった。

そして車が動き始めても、前を向いたまま顔を
逢わせようともしない。
それでも笑顔を絶やさずに、声をかけ続ける敦子。
ゆっくりと走り出して行く。敦子は手を何度も振った。
だが修一郎は、ただの1度も振り向く事は無かった。

以来次の夏を経ても、修一郎は自宅に足を向ける事はなかった。

修一郎は避けていた。
愛くるしい妹から逃げるように家を出たのだ。
だがあれほど懸命に守ってきた妹を突き放す
のには、気が狂う程の苦しみを伴った。

いつも傍にいて、自分を気遣う敦子。
人を疑う事を知らない純真な敦子。
愛して止まない無垢な笑顔の敦子。

修一郎の心は張り裂けそうになった。
誰かが妹に害を及ぼしてはいないか?
両親の目はちゃんと行き届いているのか?

極度の不安が修一郎を襲った。無理は更なる無理を強いた。
慣れなど起こる筈も無かった。
絶えず不安と向かい合う毎日だった。

だが、その不安が最悪な形で的中してしまった。


連絡を受けた修一郎は、午後の授業をほっ放り出して
一路病院へと向った。

待合室の前では、両親が不安そうに座っていた。
「父さん、母さん、あっ敦子は、敦子は無事なのか?」
「おお修一郎。」「修ちゃん・・うう。」
両親は修一郎の顔を見るなり、一気に感情の丈を爆発させた。

「今まで連絡しなくてごめん。」
「そんな事は今はどうでもいいんだ。それよりも敦子が・・」
「分かってる。でも無事なんだろ?父さん。」

大声で詰め寄る修一郎に、弱弱しく頭を縦に振る父。
(ほっ・・)
心のどこかで張り詰めた気持ちが緩むのを感じた。

3人は看護婦の案内で集中治療室に向った。
人工呼吸器を取り付けられた敦子の顔は真っ白だった。
慌しく動く呼吸器音。
バイクと衝突事故を起こしたというのだが、顔には傷が無く、
まずは一安心というのが家族の率直な気持ちだった。

だが、主治医の所見は何かしらの不安を植え付けるものだった。

バイクとの衝突の際、敦子の頭にはかなりの衝撃を受けたとの
事で、深いレベルでの意識の混濁が著しいとの事だった。

明日目を覚ますのか、1週間先なのか、それとも一生覚まさない
のか、今の段階では何とも判断のしようがないとの事だった。

一時の安寧が崩れ落ちた。
両親は崩れるように、へたり込んだ。
そして治療室の窓から、寝ている敦子を凝視する修一郎。

「修ちゃん、敦子は毎日あなたのマンションに行ってたのよ。」
「え?」
母の言葉に、ゆっくりと振り向く修一郎。
「あの子、いつもお兄ちゃんと会って、話をよくしたって言ってたわ。
でもいつも仕事が遅いから待ちぼうけばっかりで、そんなに多く
話なんて出来なかったわって淋しそうな顔で言っていたのよ。」
うな垂れる母から、搾り出すような声が聞こえた。

「わしは、お前と敦子の間で何があったのかは知らん。
知りたくはなかったが、ここでこうなった以上知らねばならん。
なあ、何故あんなにも敦子を避けようとしていたんだ。え?
何故なんだ?修一郎、答えろ!」
父が怒気を含ませながら大声で修一郎に向って言った。

「敦子が毎日俺の所へ来ていたなんて知らなかった。だって一度も姿を
見せた事無かったんだ。ホントだよ。」
修一郎の顔にはウソが無かった。真剣な表情が伺えた。

敦子はウソの報告を、毎日母に父にしていたのだろうか?
『今日も会えなかったよ。お兄ちゃんって忙しいのね。あはは・・』

修一郎は頭を思い切り掻き毟った。
やるせない気持ちの、持って行き場所が無い故に・・・

それからの修一郎は、1日の仕事を終えると、病院に直行して
敦子の看病に残りの時間の大半を費やした。

午後の部活での生徒指導、他の先生たちとの飲み会などの交流の
殆どを止めて、敦子の為だけに時間を費やすようにしたのだった。

1日の大半は、両親が看ていたし、看護婦たちの行き届いた看護医療
のお蔭で、敦子の病状は比較的安定してきたのであった。
勿論個室での看護。静かな環境で心行くまでのケアをするには最適だった。


修一郎は、ただ傍に付き添うだけだった。
「なあ敦子、今日はね、こんな授業をしたんだよ。それはね・・」
終日、ただひたすら眠り続ける敦子に語りかけ続ける毎日だった。


3日経ち、1週間が経ち、そして1ヶ月、何の進展も無く
敦子は眠り続けた。
その間中、両親達は勿論、病院スタッフたちの懸命の努力が
続けられた。
だが、そうこうしている内に、母が体調を崩してしまった。

心身共に疲れ切っていたのだった。
床に着いた母を父が看病しなければならず、敦子への看護は
結局修一郎1人でするようになってしまった。

その頃の敦子は、大分血色も良くなって、頬も赤みを増しつつ
あった。
そして何かしら感じるようになったのか、表情を現すように
目元、口元などが、動くようになっていた。
それは、修一郎が楽しい話をすれば、気のせいか緩んで見え、
悲しい話をすれば、硬く強張って見えたのだった。

あとひと息かも・・・
修一郎の気が急いた。何度も語りかけたり、肩を揺らしてもみた。
だが、大きな反応はまったく返って来なかった。

それ以後も、期待と落胆が交互に訪れた。
修一郎の頑張りは、更に3ヶ月と長引いた。

根気強い、粘りの看護が続く。
この頃には、修一郎の看護が病院内の評判となっていた。
毎日毎日、眠り続ける妹に、優しく語り掛ける兄の姿に、
人々は感心し、そして励ましの声を送るようになっていた。

そんなある日の夕方、1人の病院服を着た少女が敦子の
病室を訪れた。
「こんにちわ。」
「ああこんにちわ。初めて見る顔だね。幾つ?」
「8才。」

恥ずかしそうに小声で喋った。丸々した頬っぺが赤くなった。
「そう。ここには何で入院したの?」
「わかんない。もう3日もいるの。早くお家に帰りたいの。」
「ああ、それは可哀想だね。でも病気したからここにいるのだから
ちゃんと治るまで我慢しなくっちゃね。ははは・・」

修一郎は笑顔で、その少女の頭を撫でた。
「みんながね、きれいなお姉ちゃんを一生懸命に看病している、
カッコいいお兄ちゃんがいるって言ってたの。」
可愛らしい笑顔で、修一郎を見つめた。

「へえ・・そうなの。誰かな?そんな事言う人って、ちょっと
照れちゃうな。あはは・・・」
「ここの看護婦のお姉ちゃんたち。」

「君はどう思う?僕ってカッコいい?」
「うん思う。お兄ちゃんカッコいいよ。」
「そう。ありがとう。嬉しいな。」

他愛もないひと時、ほんの少しだけ修一郎の心は和んだ。
暫くすると、少女が小さな胸ポケットから、何かを取り出した。

「はい、これあげる。」
握り締めた小さな手が、修一郎の目の前で、ゆっくりと開いていった。
その小さな手のひらには、葉っぱの様なものが引っ付いていた。

「ああ、これはクローバーだね。あっ葉が4つある。」
「今日の朝にね、病院の花壇で見つけて採っておいたの。」
「これは幸運が舞い込む幸せの四つ葉なんだよ。」

「うん。だから看護婦のお姉ちゃんがね、これをお兄ちゃんに渡して
きたらって言ったの。だからこれあげる!」
「ありがとう。でもそうしたら君の幸運が逃げてしまう。やっぱり
これは君が持ってるべきだ。早く身体を良くしなけりゃいけないからね。」

「ダメ。これはお兄ちゃんが持ってる方がいいの。だからあげる。」
強い口調で少女は、修一郎に四つ葉のクローバーを持っているように言った。
そして、急ぐようにして外へ出て行った。

「ねえ、ちょっと待って・・・・」
慌てて声を出して後を追いかけようと外へ出たが、既にどこにも
姿は無かった。まるで煙になって消えたかのようだった。
その後も方々の部屋を探したが、とうとうその少女を見つける
ことは出来なかった。


比較的大きな葉が4枚、綺麗に付いていた。
修一郎は、今さながらにマジマジと見ていた。
何か願い事をしようか?ふと、そんな事を考えた。
まずは妹、敦子の目が覚める事を願った。
そして次に敦子に許しを乞うた。一体何を?
それは修一郎の胸の奥で語られていて今は判らなかった。


そうしている内、どのぐらい眺めていたのだろうか。
何時の間にか、周りは静かになっていた。
時計を見ると、既に22時を回っていた。

通常、外来での見舞いや、看護の場合21時までと決まっていたが、
修一郎の場合は、特殊なケースとして終日間際までの看護が認められていた。
勿論これは修一郎の熱意にほだされての処置だったのだ。
通常ならこんな事が認められるはずなど万が一でもありえるはずが
無かった。

看護のプロが揃っているのが病院なのだから、それが当たり前である。
だが敦子の病状は外的には問題無く、むしろ内的なものだったから、
他人の手によるマニュアル看護より、家族の愛情溢れる看護の方が
ひょっとしたら精神的に何らかの刺激作用をもたらすのではないか
という考えから認められたのであった。

実際に修一郎の献身的なまでの看護ぶりには涙ぐましいものがあった。
それほどまでに彼の敦子に対する看護姿勢は、まさに心打たれる
ものがあった。

だけど相変わらず眠ったままの敦子。
効果が現れる気配など望むべくも無かった。
修一郎は、そっと濡れたタオルで彼女の顔を拭いた。
「どうだい敦子。ちょっとひんやりとして気持ちイイだろ?」

果てしない1人芝居が今日も続く。
だが落胆の色など、まったく無かった。
生きているだけで希望が見出せれるのだから・・
きっといつかは目を覚まして、あの最高の笑顔で
”お兄ちゃん”と呼んでくれるはず。
そう信じて、今日も彼女の名前を呼び続けるのだった。


「こんばんわ。」
突然、静かな空間に割り込む声が、修一郎の背後から聞こえた。
幼い女の子の声、ひょっとして・・・?
振り向くと、先程四つ葉のクローバーをくれた少女が、ドアの前に
ちょこんと立っていた。
そしてあどけない笑顔で、修一郎を見ていた。

「やあ君かあ。こんばんわ。でもいけないなあ、こんな時間まで
起きていたら身体に悪いから、直ぐにベットに戻りなさい。」
先生らしい言葉で優しく諭すが、子供はまったく動かない。

修一郎は、その少女を改めて見た。
はて?どこかで逢った事のある様な?
何故か懐かしい思いに駆られるのは、
あの笑顔のせいなのか?

「ねえ、お兄ちゃん。あの四つ葉のクローバーに何かお願い事をした?」
「え、あ、ああ・・ちゃんとしたよ。」

夕方に話をしていた時より、なぜか大人っぽい喋り方なので、
修一郎は驚きを隠せなかった。

「正直にならないと、お姉ちゃんはずっとこのままだよ。」
突然真顔になって睨みつける少女。

「君は一体誰なんだ?」
おそらくその答えは正解のはずだ、だが、まさかそんな事は
ありえないはずだ・・・
修一郎は、その答えを口にするのが怖かった。

「もう忘れたの?私よ、ほら・・・」
少女は、再び可愛らしい笑顔で、ベットの方向に指を指した。
修一郎もつられて振り向く。

「あっ!」
驚きの声が出るのも無理はなかった。
(いない・・・敦子がいない・・・そんなばかな? )

当然寝ているはずの敦子の姿が、忽然と消えていた。
慌ててベッドの上に手を置くが、そこには柔らかい
シーツの感触だけがあるだけだった。

鈍い衝撃が頭を駆け巡った。
ありえない事実を目の当たりにして愕然とする修一郎。

「お兄ちゃん。」
修一郎の背後から、女性の声が聞こえた。
それは幼い女の子の声ではなく、とても懐かしい、そして
渇望、切望して止まなかった女性の声だった。

修一郎は、高まる鼓動を抑えながら、ゆっくりと振り向いた。
「敦子。」
そっと息を吐くような、か細く震える声。

敦子が、そこに立っていた。
だが、いつも元気一杯の笑顔だった敦子ではなく、
控えめでどこか優しげな風情を漂わせた笑みを浮かべていた。

「ごめんね。凄く迷惑をかけちゃって・・・」
「何を言うんだ。そんな事は気にしなくてもいいから・・
それよりもお前の方は、もう大丈夫なのか?」
「ええ、私は大丈夫よ。だってほら、こうして立っているじゃない。」

敦子は両方の裾を握ると、ゆっくりと回って見せた。
「ね?大丈夫でしょ。うふふ・・・」
「あ、ああ、そうだな。うん。良かった。」
修一郎は、駆け寄って敦子の両手を握り締めた。
温かい”人”の温度が、握った手から全身へと流れていくのを
感じていった。
掌中の玉は、ちゃんと生きていた。
溢れる喜び、さあどうしよう・・何を話せばいいのだろうか?
嬉しいあせりが、口を震えさせた。

とりあえず、まずは椅子に座らせた。
「敦子、お前ずっと眠ったままだったのだぞ。ホントに随分と心配
させやがって・・・」
「ごめんなさい。お兄ちゃんには感謝しています。」

敦子が丁寧に頭を下げると、修一郎はちょっと困惑した。
叱るつもりなど全然無いのに・・・本当は嬉しさで一杯なのに、
愛しい気持ちを表わす言葉が出てこない。

「本当に大丈夫なのか?」
「うん。大丈夫よ。えへへ。」
同じ事を、もう一度聞くと、敦子はやっと本来の笑顔を見せた。

辺りは、しんと静まりかえっていた。
病院の夜は早い。人の気配は既に無かった。
修一郎は電灯から卓上スタンドへと明かりを変えた。

「実はお前が眠っている間に、母さんが倒れちまってな。」
「ええ!そんな・・」
大きく見開く瞳、両手で口を塞ぐ・・大きな驚きが見て取れた。

「そんなに驚くな。なあに大丈夫さ。単なる過労なんだから。」
「そ、そうなの?」
「ああ、今は父さんが付きっ切りで母さんの面倒を見ているよ。」

「ああ良かった!もうビックリしたわ。ホントに・・」
ポロポロと溢れる涙。手で何度も拭う。

敦子のきれいな涙顔、そして素直に両親を気遣う気持ちに、
修一郎は、抱きしめたい衝動に駆られた。

だが堪えた。今抱けばキスをしてしまう。
そうなったら、そのまま・・・
そうなると、何の為に今まで敦子と距離を置いて来たのか、
その苦労の全てが台無しになってしまうではないか。

「お父さんとお母さんって、ホント仲が良いよね。いつも
ラブラブで羨ましいね。」
「そうだな。」

心の内を悟られぬように、言葉少なげに相槌を打つ。
そして目は自然と下へと向いていく。
「ああいう2人っていいね。」
「・・・」

身の置き所が無く、困った風にそわそわとする修一郎。
それを見て、実に柔らかな笑みを浮かべる敦子。

「まだ馬鹿な妹を許せないの?」
「な、何を言うんだ。」
勢い顔を上げると、はっとして動かなくなった。
そこには、すぅーと涙を流す敦子の顔があった。

「ごめんね、ごめんねお兄ちゃん。」
「な、泣くな敦子。」

はらはらと泣き出す敦子の肩を抱くと、修一郎はふと
一年前の出来事を思い出していた。

あの時も敦子は泣いていたっけ・・・

1人静かに泣いていた敦子。
修一郎が尋ねても何も言わない。
ただ首を横に振るばかり。

その時修一郎の後ろには、綺麗なロングヘアの女性が
立っていた。
そっと差し出すハンカチを敦子は手で払い除けた。

たじろぐ女性に、目を真っ赤にした敦子が睨んだ。
いつも人を癒す笑顔など、どこにも見られなかった。
”出てけ”
眼はそう訴えていた。

修一郎も、事の真相をその時やっと理解した。
一緒に居過ぎたのだ。小さい頃からずっと・・・
優しすぎたのだ。敦子の手を握り締める時間が多ければ
多いほど、敦子の心を縛り付けてしまったのだ。

妹の気持ちを理解するのが遅すぎた。
修一郎は困惑した。どうすればいいのだ?

こうして兄は距離を置くようにした。
妹の笑顔をすり抜けて、ただ黙って歩いた。
身体を寄せて歩こうとしても払い除けた。

修一郎は、恋人との時間を多く取った。
もちろん教職試験への準備も怠らずに行なっていた。

それまでの緊密なひと時など、もはや無くなっていた。
こうして自ら作り出した忙しさに没頭する日々が続いた。

試験が終わったのは、その年の終りが近づいた12月の事
だった。
一気の開放感、万事上手くいった。
後は合否の結果を待つばかりだった。

恋人との時間が多くなった。
女性の両親とも会った。もう時間の問題。
敦子の事も、自然と悩まなくなった。
勿論、日々の会話も普通になった。やはり一時的な感情
だったのだ。
敦子の笑顔も元通り。修一郎の気持ちも軽くなる。

だが、事件は突然に起こった。

その夜、妙な痺れで寝苦しさを覚えた。
生暖かい息吹が、修一郎の全身を包んだ。
たまらず目を開けた。

鈍いめまいの様な、”重さ”を感じながら眼を横に向けた。
(あっ!)
暗闇の中、誰かが座っていたのだ。
驚くも、めまいから目がぼやける・・・誰だ?

「誰?」
修一郎が、もどかしそうな口調で尋ねた。
だが、その影は静かに息を吐いているだけだった。
「誰?敦子か?」
肩口までの髪形が影の輪郭から見えた。

「うん。起きちゃった?ごめんねお兄ちゃん。」
「どうしたんだよ。こんな遅くに。」
「私、寝られなくなっちゃって・・・」
「一体どうしたんだ。明日は学校だろ?」

だが敦子は返事もせずに、修一郎のベットの横で座っていた。
「俺も、明日は忙しいから、早く寝かしてくれないか?」
それでも動かない。返事も無い。

「もう知らん。勝手にしろ。」
イラついた修一郎は、勢い布団を頭まで被せた。
以前の様に、親身になって言葉をかける事はしない。
もうしないと決めたのだから。

「今日も会ってたのに、明日も会うのでしょ?」
ぼんやりとした声。だが抑揚の無さが、ちょっと気になった。

修一郎は布団から顔を出した。
「お前、何言ってるんだ?」

「あの人と、また会うのでしょ?」
敦子の声が、ちょっと鋭さを感じさせた。
「だから、それがどうした?」
眠りを邪魔された修一郎のイラつきが、怒気を含ませた
口調になって表れた。

「ちょっ・・ちょっと気になって・・・。」
「もういいから寝かしてくれ!。」
修一郎は敦子の声を遮って、不機嫌な声を浴びせた。
そして顔を反対側に向けた。

だが、数分経っても動く気配が無い。
イラついていた修一郎も、さすがに変だと思ったらしく、
仕方ないといった感じで上半身を起こした。

「なあ、一体どうしたんだよ?いい加減答えろよ。」
頭を掻きながら、敦子の正面に身体を向けた。

「・・・・」
「え?なに?」
小さく呟く敦子。聞き取りにくいと修一郎は顔を前に出す。

「この前、玄関前でキスしてた。」
「はあ?」
「私、我慢したの。いっぱいいっぱい我慢したの。でも・・」
「敦子、お前・・」

思い詰めた敦子の強張った表情を見た。
思わず動揺する修一郎。

「だから・・私。」
その時、突然敦子が修一郎に飛びついた。
「な・・なんだ?あうっ・・」

驚く修一郎の唇に、敦子の唇が重なった。
ベットに倒れこむ2人。
敦子の両手が背中に回る。もう離れない。

「私、お兄ちゃんが好き。もう離れたくないの。」
「ば、ばか・・離れろ。手を放すんだ敦子。」

身体をばたつかせながら、必死に抵抗する修一郎。
敦子の右手が下に伸びる。ずらされるズボン。

股間に手が触れた。修一郎は身体をくねらせた。
だが執拗に手が股間に迫り来る。

「あうっ!」
とうとう敦子の手で握り締められてしまった。
柔らかい手のひらの感触を悠長に覚えておく余裕など無かった。
敦子の信じられない行動に動転する修一郎。

「お兄ちゃんの硬くなってる。」
「止めろ。直ぐに手を放すんだ。」
「いやよ。我慢なんてもうたくさん。」

右手に力が入る。敏感に反応する修一郎。
恥ずかしいほど硬くなる・・・若さゆえの力強さ。仕方が無い。

一気にパンツが引き下ろされた。
「バ、バカ、何する・・うっ!」
敦子の舌が荒っぽく入ってきた。
途切れる声、修一郎の口は塞がれてしまった。

敦子の右手が、いきり立つ棍棒に添えられた。
小さい手からは、はみ出ていたが、しっかりと握り締めていた。
ぎこちない動き、でも敏感にヒクついていた。
そして、ますます反り返った。

「お兄ちゃん、大好きよ。」
優しい声が、耳元で囁く。
そして、生暖かい感触が棍棒から伝わった。

「あうっ・・そんな。止めろ、止めるんだ敦子。あっ!うう・・」
ぎこちなく敦子の歯が何度も当たった。
修一郎は、左右に腰をくねらせ、抵抗を繰り返す。
だが、敦子の力は、それ以上に強く、まったく身体が離れなかった。

「はうっ・・敦子。」
初めて敦子の舌が、裏筋に這った時、堪らず背中が反った。
そして全ての抵抗が、その時止まってしまった。

愛する男の為に女は成長する。
その一瞬から敦子は変身した。

柔らかい舌が、絶妙に絡んで来た。
強く、弱く、優しく、そして激しく・・・
敦子の頭が、上下に動く。

修一郎は、敦子の頭に手を添えた。
そして、ゆっくりと上下に動かした。

気持ちの良い痺れが全身を覆った。
経験の無い甘い痺れと、柔らかい羽毛に包まれた
かのような肌触りが修一郎の思考を停止させた。
それはとうとう神の甘淫なる罠に嵌ってしまった
証拠だった。

「敦子、敦子・・・あああ。」
更に激しさを増すスロートに、身体を預ける。
「お兄ちゃん、気持ちイイ?ねえ、どうなの?」
「あああ・・敦子。気持ち良いぞ。あああダメだ。」

「そのままイッて・・・いっぱいお口に出して。」
甘いおねだりが、修一郎の耳をくすぐった。

「あああ・・・敦子。出るぞ。あああ出る・・」
その時赤い閃光が走るのを見た。
激しい揺れが止まらない・・・熱くなった。
修一郎を口一杯に咥えている敦子。
決して離してなるものか・・・

そして濁流が敦子の口に注ぎ込まれた。
敦子は静かに受け止め、そして飲込んでいった。

全ての動きが止まった。ほんの暫く静寂の時。
修一郎は天井を見つめていた。
敦子はうつぶせのままだった。

「ああ、何ということを・・・」
呆然とした表情で、口だけが動く。

「お兄ちゃん、ごめんなさい。あたし・・」
顔を上げると、やはり呆然とした表情だった。
そしてそのまま敦子は、修一郎の胸に顔を寄せた。

「私、怖いの。1人ぼっちになるのが怖いの。
だから、一緒にいてお兄ちゃん。昔みたいに
私の傍にいて・・・お願い。」

泣き出す敦子。そして強くしがみつく。
修一郎は、敦子の頭を撫でた。いとおしく、優しく。

敦子はパジャマのボタンに手を掛けた。
そしてはだけた前から、真っ白な肌が見えていた。
きめの細かい美しい白さが、闇夜でもうっすら光り
輝やいでいた。

「泣くな、敦子。」
ぼんやりとした表情で敦子を見る修一郎。
優しく髪を撫でる。そして頬をゆっくりと擦った。

敦子はパジャマを脱ぎ捨てた。
小ぶりの乳房が綺麗だった。
「私を抱いて。お願い・・お兄ちゃん。」
小さくかすれた声で懇願する敦子。
修一郎は起き上がって、その胸に顔を埋める。

「あの人の事は忘れて、2人で暮らそ、ね?」
甘えた声が耳元近くで聞こえた。
その時・・

はっと眼が大きく見開いた。
まるで奪われていた心が、元に戻って来たかのように・・
(俺は今何をしようとしていたんだ?)

我に帰った修一郎は、敦子の胸から離れた。
(信じれない・・俺は何という事をしてしまったのだ。)
驚きの表情で敦子を見た。

「ねえ、どうしたの。お兄ちゃん?」
きょとんとした表情で、覗き込む敦子。

「わあああ。」
突然修一郎の手が宙を舞った。
「きゃああ。」
敦子の顔が左右に何度も動いた。
修一郎のビンタが雨霰の様に降り注いだ。

「や、やめて、お兄ちゃん。痛い、痛いよう。」
いきなりの事に泣き叫ぶだけの敦子。
だがそれでも、それは止まなかった。

5度、6度・・・左右に激しく舞う右手。
それでもじっとしたままの敦子だったが、勢いが
増すや、その身体は、とうとうベットの下へと転がり
落ちてしまった。

「で、出て行け。今直ぐ出て行け!」
真っ赤になった目で大きく睨みつける。
だが敦子は頬を手で抑えながらも、その場から動かな
かった。
「何をしてんだ。さっさと俺の目の前から消えろ!」
「お兄ちゃん。許して。私、本当にお兄ちゃんの事を・・」
「黙れ!もう言うな。馬鹿野郎。俺は何ということを・・」

頭を何度も自分の拳で殴りつける修一郎。
荒ぶる感情。敦子も止めに入る。
「もうやめて!私が、私が悪かったから・・もう止めて!」
必死に右腕にしがみ付く敦子。
大粒の涙で顔は、くしゃくしゃになっていた・・・・


「もう一年か・・・早いな。」
修一郎は、あの時の敦子の泣き顔が今も忘れられなかった。
「そうね。」
相槌を打つ敦子。
その表情は実に穏やな笑みを浮かべていた。

「久しぶりに、お前の笑顔を見たよ。」
「そう?」
「そうさ。こうしてじっくりと顔をつき合わすのも、俺が家を
出て以来初めてだしな。」

「うふふふ・・・」
突然敦子が、何か思い出した様に笑い出した。
「どうしたんだい?急に笑い出したりして・・」
修一郎も、つられて笑いながら問い掛けた。

「だって・・・小さい頃の事を、つい思い出しちゃって。」
「随分と昔の事だなぁ。一体何を思い出したっていうのさ?」

修一郎の自分を見る視線を感じてか、敦子はちょっと照れた
表情でうつむいた。
「えがお・・」
小さい声で、そっと呟く。
「笑顔?」
修一郎が不思議そうな表情で問い直す。

「うん。この笑顔の事よ。」
敦子は、その微笑んだ表情を修一郎に向けた。

「私が苛められて泣いていた時、お兄ちゃんが言ってくれたんだよ。
”敦子笑ってろ”って。」
「俺がそんな事言ったのか?」
「そうよ。それでね、”お前は笑っている時の顔が一番いい。俺は
その表情が一番好きなんだ。”と言ってくれたの。」

ほんの少し赤く染まった頬に柔らかい笑みが添えられた。
この表情に皆が、心を癒されてきたのだ。

「そうなのか。俺覚えてないなぁ・・」
「もうひどいわね。ちゃんと覚えててよ。私にとっては
大事な一言だったのだから。」
可愛らしく頬を膨らませての怒りのポーズ。

「それからは、ずーっと笑う練習ばかりしてきたの。それもこれも
みんなお兄ちゃんの為にと思って・・・」

敦子の告白に修一郎はドキンと胸が高鳴った。
上目遣いの視線が、自分に向けられているのが分かった。
(ああ・・敦子はいつも俺だけを見ていたのか・・)

「ごめんよ。俺が素直じゃなかったのが原因でこうなってしまって。」
「ううん・・これは私のせいよ。もうちょっと勇気があって、ちゃんと
お兄ちゃんの部屋を尋ねていれば・・・あんな不注意な事しなかったのにね。」

会えない苦しみが強くなれば、また会う時の戸惑いも強くなる。
それは普通の恋人ではない血の繋がった兄なればこその戸惑いであった。
会えばたぶん止まらないだろう。重ねたい逢瀬は罪悪であった。
敦子の苦悩が結局身に周りへの注意を怠った。

修一郎は今こそ、敦子の苦しみをはっきりと知った。
そして自分の気持ちも知った。
小さい頃から妹を独占してきた報いだとも理解した。
他の男どもから遠ざけるように敦子から離れなかったのは、
全て彼女を掌握しておきたかったのに他ならなかった。

やがて妹が自分に注がれてくる視線を分かっていながら、
通俗倫理とやらに毒された自分が清らかなる宝を唾棄して
しまった。
敦子の降りかかった不幸の根源は自分にあった。

修一郎は、はかなげな面影を漂わす敦子を愛しく思った。
そして自分の勝手な思いに振り回されても笑顔を絶やさ
ない敦子を哀れに思った。

哀れ?バカな・・自分は何様のつもりだ。
直ぐに修一郎は自分を責めた。
さっき悪いのは自分だと思ったばかりではないか。
なにを上から見下ろす様な考え方をしているのだ。

恥ずかしい・・・
修一郎は、敦子の前でうつむいてしまった。

「どうしたの?お兄ちゃん。」
「何でもないよ。ちょっと疲れただけだよ。」

敦子には悟られないように心掛ける修一郎。
なにせ3ヶ月間眠り続けた後なのだから、
心身に負担をかけさせたくない。

「随分と静かね。」
敦子は辺りを見渡して何かを確認していた。
「大体10時を回ると、こんなもんさ。」
修一郎も何気に相槌を打った。

外は静まり返っていた。巡回の靴の音はまだ無い。
「こんな時間まで居ても大丈夫なの?」
「ここのスタッフの好意で居させて貰ってんだ。
普通なら絶対ダメだけどな。」

「いつもこんなに遅くまで私の看護をしていたの?」
「まあな。俺にも責任があったのだから、これぐらい
は当然だよ。」

そう。当然なのだ。

修一郎は、力強い眼で敦子の顔を見据えた。
すると何かしらの場を圧する異様な空気が
2人の間に流れ始めた。

「あの人とは大丈夫なの?」
「どうしてそんな事を聞くんだ?」
「だって、こんなに遅くまでここに居たら、
2人で会う時間なんて無いでしょ?」

暫く見詰め合う2人。静寂な空間が身体を
身動きできないぐらいに締め付ける。

「それは・・もういいんだ。」
「え?」
低く聞き取れないぐらいの小さな声。
敦子は遅れて反応した。

「終わったんだよ。」
「そ、それって私のせい?」
「関係無い。これは俺たち2人だけの問題
だからな。」
「だってぇ・・・」

敦子の表情が歪んだ。
正直な反応だった。決して喜びが先立つ訳が
無かった。敦子はそういう娘だった。

「お前が事故に遭ってからというもの、俺は
ずっと後悔していたんだ。」
「後悔?お兄ちゃんそれって・・」

「お前の面倒を見ている内に、増々その思いが
膨らんできちまってな。それで・・・」
修一郎は毅然とした態度で、敦子の前で語った。
驚きの表情のまま、兄の話を聞く敦子。

「それで俺たちは話し合いをしたんだ。多くの時間
を使ってな。」
「だったら何も別れなくても良いじゃないの。どうして?」
「選択を迫ったからさ。」
「選択?」
「そうだ。自分を取るか、お前を取るか・・って。」

相手女性は見抜いていた。
敦子が事故に遭った時からの修一郎の顔が、
今まで1度たりとて自分に見せた事が無いの
を知ってから・・・
修一郎もまた、その時に気付いたのだった。
敦子が自分の近くにずっといたという事を。

「お兄ちゃん・・・」
敦子は両手で顔を覆った。
そして小さい泣き声が聞こえて来た。
「泣くな。バカだな・・お前はいつまで経っても
泣き虫だなあ。あはは・・」
「だって、だって・・・」

「妹が大変な時に何てこと言うんだって言ってやった。
だってそうだろう?大事な肉親が生きるか死ぬかって
時にだぞ。それで頭にきて、ケンカして・・そうなった。」


相手女性は、一体どこまで気付いていたのだろうか?
このケンカの後、驚くほどあっさりと別れてしまった。

「無理しちゃダメよ。いい?この後もずっとそのままだったら
誰と付き合っても重荷になるだけだから・・私はそれを背負う
だけの強さは無いの。ごめんなさい。じゃあさようなら。」
この言葉を残して彼の元から去って行った。


わああ!
耐え切れず修一郎に抱きついて大声で泣き出す敦子。
「ごめんなさい。ごめんなさい。みんな私の・・私のせいで、
お兄ちゃん許してぇ!」
しがみ付く力はか細く頼りなかった。
だけど愛しさが一層こみ上げてくるのを感じる修一郎だった。

「泣くな敦子。これはみんな俺のせいなのだから。」
「だって、だって・・お兄ちゃん可哀想。」
しゃくりあげて泣く敦子。乱れた髪を撫で付ける修一郎。

「可哀想なもんか。これでいいんだ。俺は正直に生きるって
決めたんだから。」
「え?」
ふいに顔を上げて修一郎を見る敦子。きれいな瞳。濡れた眼差し。

修一郎は敦子を抱き寄せてキスをした。
背中に回している両腕に力が入る。
呆然とする敦子。放心状態のままに眼が
宙に浮いたままだった。

「これが俺の正直な気持ちだ。」
声が震えていた。そして更に腕に力が入った。

「誰にも言えないんだよ?それでもいいの?」
「ああ、今まで1人ぼっちだったお前の苦しさから
すれば、どうってことないさ。」
「嬉しい!!」

無邪気に抱きつく敦子。
満面の笑み。
ああ、この笑顔を見るのは久しぶりだ。
修一郎は、この笑顔を見たいが為に一生懸命看護を
してきたのだ。と改めて気付かされたのであった。

「さあ、もう寝なさい。こんな遅くまで起きていたら
身体に毒だからな。」
「やっと眼が覚めたっていうのに、もう寝るの?
もうちょっとこのままでいたいわ。」

幼子のように、ほっぺを膨らませながら不服顔。
だけど仕方が無い。修一郎の心配は当然だった。

「明日の朝に今度は家族みんなで話をしよう。な、敦子?」
優しく諭す修一郎。だが敦子の表情はなぜか浮かなかった。

「そうね・・でも今はこのまま2人でいたいの。いいでしょ?」
「俺もそうしたいのは山々だけど、もう時間も遅いし、巡回の人も
もうすぐ回ってくる時間だから、俺はそれまでに帰らなくてはいけない
約束になっているんだ。ごめんな敦子。」

「まだ時間有るでしょ?」
「まあ、半まで少し時間あるけど・・」
修一郎の言葉を待たずに敦子は、すっとベットから降り立った。
スラリとした足。きれいな立ち姿。
今さながらに見とれてしまう。

敦子は優しげな瞳を見せながら、静かにパジャマのボタンに手を掛けた。
上から1つ、2つ、3つ・・・そして静かに前が開く。
修一郎が声を上げる間も無く、それは終えた。

「今を大事にしたいの。今、お兄ちゃんに見てもらいたいの。」
小さな声だが、澄んだ響きが修一郎の胸に染み渡った。
ハラリと上着が落ちた。
白くきめ細かい肌が印象的だった。
長い闘病生活の割りに艶があった。それに肉付きも良かった。
大きくはないが、お碗型のきれいな乳房。
ツンと上を向いて若さを主張していた。

「凄くきれいだ。きれいだよ敦子。」
歓喜に震える修一郎。ウソ偽りの無いのは明白だった。
「ありがとう。お兄ちゃん。」

潤んだ瞳に思いの全てを包み込む優しげな笑顔の敦子。
そして両手を広げて修一郎に歩み寄った。
「抱きしめて、お兄ちゃん。」
「ああ・・敦子。」

座ったままの修一郎の目の前には、敦子の胸があった。
迷う事なく顔を埋める。そして抱きしめる。
柔肌が温かさを伝えた。離したくは無い。
気持ちは強くなった。

「もっと強くして・・時間が無いわ。」
切ない声の敦子。気になった修一郎は顔を上げた。

そこには翳りが顔に浮かんでいた。
「どうしたんだ。気分でも悪くなったのか?」
「いいえ、そうじゃないの。この時間が、ただ過ぎて
行くのが悲しくて・・・」

そう言うと、増々翳りが濃くなっていった。

まさか?
修一郎はふと自分に問い掛けた。

これは現実なのか?
そういえばあの少女はどこにいったのだ?
あの少女は何者だったのか?

「これは現実よ。お兄ちゃん。」
「な!・・・」
驚く修一郎。当然だ。心を見透かされたのだ。
抱きしめていた両手が離れた。

「今、ここはお兄ちゃんが望んだ世界なのよ。
ほら、これに祈ったでしょ?」
敦子は1片の葉をかざした。
それは昼間、あの少女から譲り受けた四つ葉のクローバ
だった。

「お兄ちゃんの強い思いで、私は開放されたの。
だから、ここはお兄ちゃんの望む世界なのよ。」

「お前は本当に生きているのか?」
「もちろんよ。」

修一郎は気が変になりそうな気持ちだった。
一体これはどういう事なのだ?

「お兄ちゃん。本当に時間が無いの。」
「時間が無いって?一体何処に行くんだ?」
「またベットに縛りつけられるだけよ。」
「何でだ?今ちゃんと眼を覚ましているじゃないか。」

最後の問いに敦子は、ただ首を横に振るだけだった。

「分かった。じゃあ俺はここを動かないぞ。それだったら
良いだろう?」
だけど、それにも同じく首を横に振るばかりだった。

「もう一度抱きしめて。ね、お兄ちゃん。」

白い肌が、ぽうっと朱色に染まった。
悲しさがにじむ優しげな眼差しに誘われる。
もう一度、敦子を抱きしめた。
だが力は入らなかった。なぜか壊れそうな気持ちに駆られた。
そっと、大事に身体を引き寄せる修一郎だった。

「また独りぼっちになるなぁ。」
「ごめんね。」
「バカ、お前の事だ。」

修一郎の目に涙が溢れた。
「泣いちゃいやよ。お兄ちゃん。」
「バカ、鼻をすすってるだけだ。」

何故なんだ。どうしてなんだ。
敦子のぬくもりをこんなにも感じているのに・・・
無常に進む時計の針が憎らしかった。

「今度はいつ眼が覚めるのかなぁ。ねえ・・あはは。」
「笑うな。バカ!」
「ごめんなさい。」

何度バカって言ったのか・・だけど敦子は優しく微笑むだけだった。
「死ぬ訳じゃないんだ。俺がきっと治してみせる。」
「嬉しいよ。その言葉だけで幸せよ、私。」

修一郎は、キスをした。
何度も何度も唇を重ねた。
「また祈ってね。私の気持ちはお兄ちゃんだけのものだから。」
「ああ、もう気持ちを隠したりはしないよ。」

敦子は修一郎の頭を抱えた。深く深く・・慈しむように。
修一郎は乳房を口に含んだ。
「柔らかいなあ。」
「もっと吸って良いのよ。お兄ちゃん。」
切なく喘ぐ敦子に修一郎の気持ちは急いた。

だけど、もどかしさだけが先走って、ただ顔を押し付ける
ばかりだった。これ以上何をしたらいいのだ?

「お兄ちゃん。ありがとう。今度は私が慰めてあげる。」
敦子は兄の気持ちが分かっていた。

すっと修一郎の前に座ると、すぐさまチャックに手を掛けて
それからズボンのボタンを外し始めた。
「あ、敦子。いいのか?こんな事しても大丈夫なんだな?」
「うん。今の私にはこれしか出来ないけど・・ごめんね。」

黒のトランクスを下ろすと、敦子は直ぐに口の中に収めた。
上下する頭。ぎこちない舌使い。だけど愛情は何よりもあった。
うつろげな修一郎の目。一生懸命な妹の髪を何度も撫で付けた。

何度も出し入れが可愛い唇から見えると、何ともいえない興奮が
こみ上げてきた。
イキそう・・・でもまだ楽しみたい。終わりたくはなかった。
だけど、敦子の舌の動きが段々と上手くなってきたようだ。
ねっとりと舌が棍棒に絡みついて最高だった。

「お兄ちゃん。もうイキそうでしょ?」
「ま、まだまだだ。あうっ!」
敦子は手を添えて扱き始めた。
このW攻撃には、さすがに余裕など与えてはくれなかった。

「そろそろお別れね。お兄ちゃん。」
「ば、ばかな。まだ良いだろう?もう少し一緒にいよう。
な?敦子。いいだろう?」

修一郎は敦子の肩に手を置いたのだが、彼女は止まらずに、
ただひたすらにしゃぶり、そして扱いていた。

「ああ、あああ・・そんな。もう出ちゃう。敦子もう止めてくれ。
これ以上すると、出ちゃうよう。終わっちゃうううう!!」

何ともいえない刺激が全身を走った。そして甘美な刺激が脳を直撃した。
あれ?なんだこれって?
その痺れが全身に回った途端。どういうわけか意識が遠くなってきた
ような気がした。

辺りが白い光りで満ちてくるのが分かった。
まぶしいのか、意識が朦朧としてきたのか、
辺りがぼんやりとして何も 見えなくなって
いたのだった。

「おおい敦子。何処に居るんだ?ちゃんと顔を
見せてくれよ。 凄くまぶしくて何も見えないんだ。」

「良かったよお兄ちゃん。今までよほど我慢
していたんだね。 本当に眼が覚めるまで、
もうちょっと時間が掛かるかもしれないけど、
待っててね。」

なぜかしら耳元から離れて行くような声。
胸を掻き毟られるような思いに修一郎は、
駆られた。
折角本当の気持ちを言えたのに。

「おおおい。行くんじゃない。もうちょっと
俺の傍にいろよ。なあ、頼むからさあ・・うう。」

「私、お兄ちゃんの本当の気持ちを知ることが出来て、
とても嬉しかったわ。凄く幸せ。今は残念だけど、
もう少ししたら帰るから。そうしたら今度こそ2人
だけで暮らそ。ね?良いでしょ?」

「ああ、そうしよう。もう放さない。一緒に暮らそう。」
「嬉しいわ。きっとね。だからもう泣かないで、お兄ちゃん。」
「バカ。これは鼻水だって言ってるだろう。」

「うふふふ・・・。」

次第に遠ざかる敦子の笑い声。
何も見えない修一郎はモヤを裂くように
両手を何度も振り回す。

「おおおおい。あつこぉぉぉ!!」



「・・・・」
遠くから何かを言ってる声が聞こえている。
「・・・・さん。」
(背中を揺らすのは誰?折角気持ち良く寝ているのに
起こさないでくれよ。)

「・・・なかさん。起きてください。里中さんってば。」

(聞き慣れた声。あれ?ここは病院だったっけ。)
修一郎は、その業務的な口調に誘われてゆっくりと頭を上げた。

「おはようございます。里中さん。やっとお目覚めのようですね。」
「あれれ?もう朝ですか?」
「ええ、きれいな朝日が燦々と照っていますよ。とうとう徹夜しちゃいましたね。
本来なら、巡回の時に起こして帰って頂く所なんですけど、あまりにも、
気持ち良く、すやすやと寝ていらっしゃるようでしたから、そのまま毛布だけを
掛けておきましたわ。うふふ・・」

にこやかな笑顔の看護婦の言葉に、辺りを見渡す修一郎。
窓から差し込む陽射しは爽やかだった。
ドアの向こうからはいつもの賑やかな声が聞こえてくる。

「昨日ここに巡回に来たのは何時頃だったのですか?」
「10時30分キッカリ。いつも通りですよ。」
「何か変わったことは?」
「何も。里中さんが、寝ている妹さんの傍らで、
手を握ったまま、すやすやと寝ていただけですよ。」

ぼんやりとする修一郎。
なんだ夢だったのか。ちょっとだけ口元が緩んだ。

良い夢だった。泣きたくなるぐらいに。
今思い出しても、直ぐに涙が出そうだ。

修一郎は敦子を見た。
相変わらず静かに寝ていた。

あれ?
修一郎はふと敦子の異変に気付いた。

目元が薄っすら濡れていた。そして少し笑っている
様にも見えた。

(やはりそうか。なんだあ。そういうことか。)
修一郎は、堪えきれずに笑い声を上げた。
「ど、どうしたの里中さん?何が可笑しいの?」

驚く看護婦など気にもせず、大きな笑い声が部屋中に
響き渡った。

その時、出口のドアが開いた。
その方に顔を向ける修一郎。
すると1人の少女が立っていた。

あの少女だった。
そして、にこりと笑顔を見せる。
勿論、修一郎も笑顔の挨拶。

「やあ、おはよう。」
「あはよう。お兄ちゃん。」

少女の手には、あの四つ葉のクローバーがあった。
「またお願い事する?」

少女の差し出す葉を穏やかな笑みと共に
丁寧に受け取った修一郎。
そしてゆっくりと慈しむ様に頭を撫でた。

「ああ勿論さ。”敦子”。」


               (おわり)

[2005/01/09]

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eroerojiji

小さい頃からエロいことが好き。そのまま大人になってしまったエロジジイです。