小説(転載) 『姉への想い』 1/2
近親相姦小説
小説『姉への想い』
(前)
最近、姉の美奈子が母と二人連れでよく外出するようになった。今日もそうだ。高校三年生で受験勉強に悪戦苦闘している慶吾に隠れるようにして、二人はひっそりと出かけて行った。
慶吾は机の前に座って、シャープペンをクルクルと指で弄びながら、ぼんやりと考えている。もうそろそろなのだろうか。何時かは来るとわかっていても、姉が嫁ぐ日のことを考えると何ともいえず胸が苦しくなった。
姉の美奈子は慶吾と六歳違い。二人姉弟である。父を早く亡くし、母が昼間働いていることもあって、小さい頃から慶吾の面倒は美奈子がよく見てくれていた。
今日もそうだ。留守の間の昼食は美奈子がサンドイッチを用意してくれている。
「サラダもちゃんと食べるのよ。おおちゃくしちゃダメ。それからスープはちゃんと温めて・・・」
「わかってるよ。早く行けよ」
慶吾はわざとぶっきらぼうに言った。
でも、美奈子は心配そうに、
「一人で大丈夫?」と聞いた。
「大丈夫だよ、うるさいなぁ。勉強の邪魔だよ」
「うん。じゃあ行くわね。すぐ帰ってくるわ。お母さんとちょっと買い物に行くだけだもの・・・」
聞きもしないのに弁解がましく言った。慶吾は無視するようにノートにシャープペンシルを走らせる。
でも、慶吾にはわかっていた。結婚式の準備で家具でも見に行くのだろう。それとも、式場に打ち合わせに行くのだろうか。ひょっとしたら、行った先であの男と待ち合わせをしているのかもしれない。
「おこずかいある?」
そう言いながら、美奈子は慶吾の机の脇に千円札を置いた。慶吾はむっつりと指を二本立てた。
「受験生なんだからゲームセンターなんか行っちゃダメよ」
目で笑いながら、それでも美奈子は千円札をもう一枚出した。
「フーン・・・。一応しっかりやってるわね。結構、真面目なんだ」
「ふん」
机の上のノートを覗き込みながら、耳に懸かった髪の毛を指で掻き上げる。そんな姉の仕草に、慶吾の息は詰まりそうになった。髪の毛が慶吾の頬に触れて、うっすらとシャンプーの匂いがした。
その時の姉の残り香が、今でも部屋の中に残っているようだ。千円札が二枚、机の隅にそのまま置かれている。
昼前だというのに、慶吾はもうサンドイッチをぱくつきながら、あの男が家に来た日のことを思い出していた。
やけににやけた、真面目そうな男だった。出来合いの紺色の背広を着て、白いワイシャツに地味なネクタイをしていた。
慶吾よりもだいぶ背が低い。姉とほとんど変わらないのではないか。そういえばこの前、「もうハイヒール、履けないわね」って母に言っていた。そのことだったのかもしれぬ。とっても姉に似合ってるのに・・・。
その男は姉のことを“みなこ”と呼び捨てにした。それから、慶吾のことを“けいごくん”と馴れ馴れしく呼んだ。
そう、すでにお膳立ては出来ていたのだ。慶吾の知らないところで、すべて話はまとまっていたのだ。確か、叔母の紹介による見合い。どちらかといえば、母のほうが積極的だったのかもしれぬ。
弟として、姉の結婚を祝福しなければならないことはわかっていた。いつかはそうなることなのだ。
でも、相手が白馬にまたがった麗しき王子様であれば、慶吾はあれほど嫌悪の感情を覚えなかったと思う。しかし、あの男はどこにでもいるごく平凡なつまらない男に見えた。もしあの男が慶吾のクラスメートだったら、やぼったくて友達にしたいとも思わなかっただろう。
何故、あんな男に姉を取られなければならないのだろう。慶吾は明らかに不快感を感じていた。姉の結婚に自分がないがしろにされていることも不快だった。
それは慶吾の表情や態度にハッキリ現われていたに違いない。美奈子はそれに気が付いた。最初はこまめにあの男の相手をしていた美奈子が、いつの頃からか慶吾の脇に座って他人行儀な応対に変わっていた。
そう、あの男の相手はほとんど母がしていた。あの男にビールの酌をしたのは母だったし、慶吾のコップにコーラを入れてくれたのは美奈子だった。
あの男が帰る時もそうだった。母が美奈子に、「駅まで送って行ってあげなさい」と言った時、あの男は遠慮して「ここで結構ですから」と言った。美奈子は迷うことなくその通りにした。玄関の外まで送って行ったのは母だった。
美奈子は、慶吾の脇に静かに立っていた。
サンドイッチを食べ終わって、まだ空腹を覚えた慶吾は、台所を家捜ししてカップラーメンを見つけ出した。
美奈子の用意したサラダとスープがテーブルに置かれたままになっている。あれだけ慶吾に説明したのに、小さなメモが貼り付けられている。姉らしかった。
慶吾は野菜が嫌いだ。だから最初から食べるつもりはない。第一腹の足しにならない。スープは飲んでもいいが、でも暖めるのが面倒だ。カップラーメンにお湯を注ぎながら、あとで姉が帰って来てサラダとスープがそっくり残っていたら怒るだろうな、と思った。
カップラーメンを啜りながら、慶吾は思い出していた。
父が死んだのは、慶吾がまだ三歳の時のことだ。その頃の慶吾はとても繊細で神経質な子だったらしい。
時々母が言う。
「お父さんが亡くなった時、お前は毎日泣いてばかりいてね。お母さんも働きに出なけりゃならないし・・・。美奈子はお前の世話で悲しむどころじゃなかったんじゃない?」
そうだったかな、と慶吾は思う。
「お父さんが死んだ時からだわね、慶吾がお姉ちゃん子になったのは」
あの頃、美奈子は確か小学校二~三年だった。
「いつもお姉ちゃんにくっついてばかりいて・・・。食事だって、寝る時だって、お姉ちゃんの側を離れなかったじゃないの」
美奈子は何を言うでもなく、うっすらと笑みを浮かべている。
「そうかなぁ。全然、覚えてないよ」
慶吾はそういう時、決まって言う。でも、慶吾は忘れてはいない。いや、鮮明に覚えている。
その頃から母が勤め始めて、帰宅が夜遅くなることもたびたびあった。そんな時、慶吾は美奈子と同じ布団に、しっかりと抱っこされながら寝た。姉は優しかった。慶吾が赤ん坊のように姉の平板な乳首を吸ったことがあるというのは、後で聞いたことである。
風呂に入るのも一緒だった。慶吾は、姉の少年のような凹凸のない平板な胸を今でも思い出すことが出来る。何ら隠すことのない白い秘部を今でも鮮明に思い出すことが出来る。
でも、ある日、夕食にお赤飯が出て、「何故お赤飯を炊いたの?」という慶吾の問いに、母が笑みを浮かべ、美奈子が顔を赤らめていた。
そして、その時以来、美奈子と一緒に風呂に入ることはなくなった。美奈子の全裸の身体は、洋服に包まれて、慶吾の目に触れることはなくなった。
浴室の中で、いつも慶吾だけが裸にされ、美奈子によってゴシゴシと身体を洗われ、シャンプーが目に入るのを我慢しながら髪の毛を洗われた。その時の美奈子の服装は、部活帰りの中学生の体操着だったり、それから高校の制服だったりした。
だんだん慶吾が大きくなるに連れ、姉に見られながら自分だけが裸になることに恥ずかしさを覚えて、「僕、一人で入れるからいい」と言ったこともあった。そんな時、美奈子はさも意外そうに「何でそんなこと言うの?姉弟じゃない」と言われ、「慶吾は、一人だとちゃんと洗わないんだから・・・。いいから早く脱ぎなさい」と有無を言わず命令されて、慶吾は怖ず怖ずとそれに従うしかなかった。
慶吾のモノに毛が生えてきたのを発見したのも美奈子だった。確か、慶吾の小学校で隣り合わせの席に座っている望美っていうクラスメートが慶吾にしきりに意地悪をして、今度ぶん殴ってやろうかと思っている、といったようなことを話していた時だったと思う。慶吾は裸のまま浴槽の縁に寄りかかって、美奈子は高校の制服をまくりあげて浴室の入り口に屈み込んでいた。
美奈子の目の前に慶吾のモノがあった。
「あら!慶吾!」美奈子が慶吾のモノを見つめたまま、素っ頓狂な声を上げた。
「なに?お姉ちゃん」
慶吾は美奈子が自分のモノを指さしているのがわかって、下を覗き込む。
「ほら!毛が生えてる」そう言いながら、片手で慶吾のモノに触れると、ニョロッと一本だけ生えた毛をつまむようにした。
「痛いよ、お姉ちゃん」
「慶吾ったら、いやだ~ぁ。それに・・・」
姉に触れられているというだけで、下半身が熱を帯びて、不思議な膨張感を感じた。自覚したのは初めてのことだった。
「それにって、なにさ?」
美奈子はそれには答えず、笑いながら一言だけ言った。
「今度ね。望美ちゃんに、僕は望美ちゃんのこと好きだよ、って言ってみたらいいわ」
でも、そうだったのだろうか。望美に対しては何の感慨もなかった。美奈子は慶吾のモノを面白そうに弄んでいる。ますます硬度が増すような気がした。
そうされながら慶吾は訊いた。
「お姉ちゃんは、毛、生えてないの?僕だけなのかな?」
美奈子はさらに声を出して笑った。
「安心なさい。それはね、慶吾が大人になりはじめたってことなの」
「お姉ちゃんも?」
「私だって・・・、生えてるわよ」
「じゃぁ、お姉ちゃんのも見せて」
慶吾はそういって、知らず知らずのうちに視線を美奈子の下半身に遣った。
「馬鹿ね」
美奈子は笑い転げながら逃げるように浴室を後にした。
その直後からだろうか、美奈子のことを慶吾がだんだんまぶしい存在として意識するようになったのは。
服の上からも胸の膨らみがはっきりとわかるようになって、腰のラインがスカートの上から甘美な曲線を描くようになると、慶吾は何故かそんな美奈子をわざと遠ざけるようにしていたと思う。
慶吾は、美奈子が黙って慶吾の部屋に入ってくることを怒るようにして拒んだ。美奈子が馴れ馴れしい態度を取ってくると、押しやるように避けようとした。
風呂に入る時もしっかりと鍵をかけた。下着の着替えを持って来た美奈子が、「頭洗って上げようか」と声をかけても、「自分で出来るからいい」とかたくなに拒んだ。
そのくせ、美奈子のことが頭から離れず、雨の日など洗濯物が室内に干してあったりすると、どうしても美奈子の下着に視線が行った。
そんなことがたびたび続いて、母が注意したのか美奈子が自分からそうしたのかはわからない、いつの日かから、慶吾の視線に美奈子の下着が目に止まることはなくなった。
でも、一度だけ、慶吾は姉の裸を見たことがある。
あれはちょうど三年前、慶吾は中学三年生で今と同じように受験勉強で悪戦苦闘していた。
その夜、母はまだ帰って来ておらず、美奈子の帰りが遅く、心配で慶吾は参考書をリビングルームに持ち込んでテーブルの上で勉強していた。でも、ちっともはかどらない。
どうしたんだろうか。交通事故にでもあったんだろうか。ひょっとしたら、夜道で痴漢に襲われたんじゃないだろうか。家の前の歩道を誰かが通る足音がするたびに、慶吾は玄関まで足を運んで、美奈子が帰って来たんじゃないかと外の様子をうかがった。
帰って来た美奈子は、薄っすらと目に涙を浮かべていたように見えた。「ただいま」と静かに一言言ったまま、黙って部屋に閉じこもった姉に、どうしようもなく不安が過ぎり、慶吾は部屋の前に行って、ドア越しに声をかけずにはいられなかった。
「どうしたの?」
「どうもしないわ。心配しないで・・・」
「食事は?」
「・・・いらないわ」
「でも、お腹すいてるんだろう?」
「いいの・・・」
「食べなきゃぁダメだよ。僕、作ってやるよ」
「ほっといて頂戴!」
美奈子の強い口調に、慶吾が思わずタジタジとなった時、
「ゴメン・・・」
ドアが少し開いて美奈子が顔を出した。無理に作り笑いをしている。
「ちょっと疲れてるの・・・。心配してくれてありがとう」
「でも・・・、お風呂くらい、入ったら?」
「・・・、沸いてるの?」
「大丈夫。いつでも入れるようになってる」
「じゃあ・・・、入ろうかな」
慶吾は嬉しかった。姉のために何かをしてやりたかったのだ。
美奈子が風呂に入っている間、慶吾は軽く食べられるものを作ってやろうと思った。スパゲッティでいいだろう。美奈子の料理の仕方は見よう見まねで覚えている。こんなことってめったにない。でも、ちょっと焦げちゃったかな?出来上がったスパゲッティをテーブルの上に広げて、フォークとスプーンを出して、それから、ちょっとつまみ食いをして・・・。別に姉のフォークを使ったって、怒りやしないのだ。そして、テーブルの向かいに座って、美奈子が出てくるのを待った。
ずいぶん時間が長く感じた。慶吾は何度となく時計を見た。でも美奈子は出てこない。浴室の方を伺ってもシーンとしている。
慶吾はまた心配になって、浴室の外から声をかけた。
「大丈夫?」
「・・・、ええ、大丈夫よ。心配しないで」
だが、無性に美奈子が気になった。
もう一度、様子を見に行こうとした時だった。ドスンと物が倒れる音がした。驚いて、慶吾があわてて浴室を覗くと、美奈子が脱衣所に横座りに倒れ込んでいた。ちょうど身体を拭いていたのだろうか。バスタオルを胸に当てたまま、放心したように座り込んでいた。
「どうしたんだ?」
「大丈夫よ。ちょっとのぼせちゃったみたい・・・」
「馬鹿だな」
慶吾は美奈子に近寄った。
「大丈夫だから・・・。向こうへ行ってて・・・」
でも美奈子の顔は青白かった。慶吾は美奈子の静止を聞かず、バスタオルで身体を拭いてやった。
美奈子は黙ってされるままになっていた。胸までしっかり押さえているバスタオルを取り上げて、顔を拭いてやり、それから背中の汗を拭いてやった。美奈子の白い肌がまぶしかった。
「恥かしいじゃないの・・・」
美奈子はわざと明るく言った。
「何言ってんだ。姉弟じゃないか」
それから、まだ完全に拭ききっていない美奈子の全裸の身体を抱き上げて、慶吾は美奈子の部屋に運んだ。その頃、中学生の慶吾の身長は、すでに美奈子よりもずっと高かった。
美奈子は恥かしそうに、でもされるままになった。階段を上がる時、二人の身体が揺れて、美奈子の両腕は慶吾の首に巻きついていた。顔を慶吾の胸に押し当てるようにして、そのままジッとしていた。水滴がポタポタと床に落ちた。
慶吾の心の中に、女の身体に対する興味がなかったと言えば嘘になるかもしれない。美奈子の全裸の身体をジックリ見てみたいという気持ちは確かにあったと思う。
でも、それにも増して、美奈子のことを心配する気持ちの方が大きかった。それは今でもはっきり断言できる。
初めて、美奈子の弱さを感じた。理由はわからない。しかし、男の僕が姉を救ってあげなければいけないと思った。
「このままで、いい?」
全裸のままベッドの上に美奈子を寝かせると、慶吾は美奈子の顔を覗き込みながら言った。
「ええ、いいわ。後で着るから・・・」
ボンヤリと天井を見ながら美奈子は言った。
慶吾はあえて美奈子の顔だけを見ていた。全裸の身体は見てないよ、とでも言うように・・・。
でも、掛け布団は被せなかった。
美奈子の身体が火照っているのはわかっていた。それに美奈子の脚の方に畳まれている掛け布団を被せるとすれば、否が応でも美奈子の全裸の身体に視線を走らせることになる。そうしたいとは思いながら、でも美奈子が可哀想で出来なかった。
いや、そうじゃないかもしれない。美奈子の全裸の身体を布団で隠したくなかった。部屋の照明の中で美奈子の全裸の身体は美しく輝いていた。慶吾の視線の隅に、美奈子の全裸の身体が否が応でも飛び込んで来る。肉感を持って、肌の弾力を感じた。ピンク色の乳首や、さらに下の方に秘部のヘアーが妖しく黒く色をなしている。
あらためて、姉がこんなにも美しい女になっていることに驚いていた。ベッドの下にしまいこんでいるヌード雑誌の女性より何倍も何十倍も姉の方が美しいと思った。
「何かあったの?」
「心配しないで・・・。何でもないわ」
「だって、泣いてるじゃないか」
「そう?・・・いいの。慶吾には関係ないことよ」
「誰かに虐められたんだったら、僕、やっつけてやるよ」
慶吾の言葉に、美奈子は慶吾を見つめたままうっすらと笑った。
「ありがとう」
でも、慶吾の心配そうな顔に、美奈子の目はまた涙を溢れさせた。慶吾はバスタオルの端で美奈子の涙を拭ってやった。
「・・・慶吾。今日は勉強、終わったの?」
「えっ?」
「まだやってるんだったらいいんだけど・・・」
「なんで?」
「できれば、もう少しこの部屋にいて。・・・、私を一人にしないで・・・」
そう言って、慶吾を真正面から見た。赤く充血している目が優しかった。
美奈子は僕を必要としている。慶吾はそう感じた。嬉しかった。
「よし。まかしとき」
慶吾は、「ちょっと戸締りしてくる」と言って美奈子の部屋を出ると、急いでリビングルームの電気を消して、戸締りを確認した。チェックすることはわかっている。小さい頃は、美奈子の後ろを歩きながら一緒にやったのだ。
慶吾は急いでいた。急がないと美奈子はパジャマを着てしまうかもしれないと思った。慶吾は美奈子に全裸のままでいて欲しかった。
火の元を確認して、それから風呂の電気を消して、さっき美奈子の身体から落ちた床の水滴を拭って・・・。
駆けるように美奈子の部屋に戻ると、美奈子はさっきと変わらずに全裸で寝ていた。
「戸締りしてきた?」
「うん」
「じゃぁ、電気を消して・・・。昔みたいに一緒に寝よう」
美奈子は甘ったるい声で言った。
「うん」
部屋の電気を消すと、外灯の明かりがカーテン越しに薄く差し込んでくる。美奈子の白い全裸の身体が妖しく光った。
慶吾は自分の部屋にパジャマを取りに行こうかとも思ったが、美奈子が全裸である以上、自分がパジャマを着る理由はない。シャツとトランクスの姿になって、それからちょっと考えて、それもすべて脱いだ。
そして、美奈子が身体を少しずらせてつくってくれたスペースに自分の身体を滑り込ませた。美奈子の肌が慶吾の肌に直かに触れた。
「全部脱いじゃったの?」
美奈子が目を閉じたまま言った。
「うん。お姉ちゃんと同じだ」
「フフフ・・・」
「昔と同んなじだな」
「そうね。でも、慶吾の身体はこんなに大きくなって・・・。昔とは逆だわ」
美奈子の手が慶吾の胸を優しく撫でる。
「そりゃそうさ。今日は僕がお姉ちゃんを寝かしつけてやるよ」
「ありがとう・・・」
何も話すことはなかった。慶吾の呼吸と美奈子の呼吸が同じようにリズムを刻んでいた。
美奈子が時々思い出したように声をしゃくりあげた。慶吾はそんな美奈子の髪の毛を優しく撫でた。幼い頃、慶吾を寝かせるために美奈子がしてくれたように・・・。
慶吾が身体をちょっと横向きにすると、その慶吾の胸に顔を埋めて、今までとは違って、今度は声を上げて泣き始めた。
美奈子がそんなに泣くのを見たのは慶吾にとって初めてのことだ。もともと涙もろい美奈子だったが、いつも、慶吾のちょっとしたいたずらや、姉弟喧嘩の時に見せる泣き声とは明らかに違っていた。
その泣き声は本当に悲しくて、本当に美奈子が可哀想で、理由はわからなかったが、覚えず慶吾も一緒に泣き出していた。慶吾が泣いていることに気付くと、美奈子はさらに激しく泣いた。
もっと強く抱いて、とは美奈子は言わなかった。「もっとくっついて」泣きながら美奈子は言った。慶吾は言われる通り、身体を密着させて、そのまま強く抱きしめた。
「もっと、もっとよ」慶吾はさらに強く抱きしめた。こんなに強く抱きしめて、美奈子の身体は折れたりしないだろうかと思った。
そう、慶吾は美奈子の言う通りにしただけだ。美奈子が言わなかったことは何もしなかった。ただ、黙って肌と肌を直かに触れ合って、抱きしめていた。
でも、美奈子の女の匂いが妖しく慶吾を刺戟した。美奈子の二つの豊満な乳房が、はっきりと形をつくって慶吾の胸に押し付けられていた。
慶吾のモノが勃起していた。でも、それが恥かしかった。美奈子にそのことを知られたくなかった。慶吾は勃起を悟られないように腰をちょっと引くようにして、それから強く強く美奈子を抱きしめていた。
美奈子の手は慶吾の背中に触れていた。もう片方の手は慶吾の首に巻き付いていた。
慶吾は片手で美奈子の髪の毛を撫でながら、もう片方の手で美奈子の背中を強く抱きしめていた。
ずいぶん長い間、そのままでいたように思う。それしかやることがなかった。いや、二人にはそれだけで充分だったのだ。
眠ったのは美奈子の方が先だった。美奈子の手が力を失って、ちょっと身体が離れるような感じがして、それからスヤスヤと静かな吐息をたてていた。
慶吾は静かに美奈子の手をほどいてから、ベットを下りると、掛け布団を優しく美奈子の上にかけてあげた。もう一度、美奈子がちゃんと寝ているのを確認して、自分の脱いだ服を持ったまま自分の部屋に移動した。
それから、美奈子の残り香を味わうようにしながら思いっきりマスターベーションをした。まだ童貞の慶吾は、妄想の中で美奈子と奔放にセックスしていた。プレイボーイのように巧みに美奈子を絶頂に導いた。美奈子は狂ったように慶吾の身体の下で喘いでいた。
それは一回では納まらなかった。続けて二回射精をした後、何故か美奈子に申し訳ないような、自分が美奈子を冒涜したような気がして、罪悪感に苦しんだ。
カップラーメンを食べ終わって、取りあえずサラダだけでも食べておこうと思った。スープは温めず、キッチンにそのまま流して捨てた。
これで証拠隠滅だ。
少なくとも、姉を悲しませずには済むと慶吾は思った。
(前)
最近、姉の美奈子が母と二人連れでよく外出するようになった。今日もそうだ。高校三年生で受験勉強に悪戦苦闘している慶吾に隠れるようにして、二人はひっそりと出かけて行った。
慶吾は机の前に座って、シャープペンをクルクルと指で弄びながら、ぼんやりと考えている。もうそろそろなのだろうか。何時かは来るとわかっていても、姉が嫁ぐ日のことを考えると何ともいえず胸が苦しくなった。
姉の美奈子は慶吾と六歳違い。二人姉弟である。父を早く亡くし、母が昼間働いていることもあって、小さい頃から慶吾の面倒は美奈子がよく見てくれていた。
今日もそうだ。留守の間の昼食は美奈子がサンドイッチを用意してくれている。
「サラダもちゃんと食べるのよ。おおちゃくしちゃダメ。それからスープはちゃんと温めて・・・」
「わかってるよ。早く行けよ」
慶吾はわざとぶっきらぼうに言った。
でも、美奈子は心配そうに、
「一人で大丈夫?」と聞いた。
「大丈夫だよ、うるさいなぁ。勉強の邪魔だよ」
「うん。じゃあ行くわね。すぐ帰ってくるわ。お母さんとちょっと買い物に行くだけだもの・・・」
聞きもしないのに弁解がましく言った。慶吾は無視するようにノートにシャープペンシルを走らせる。
でも、慶吾にはわかっていた。結婚式の準備で家具でも見に行くのだろう。それとも、式場に打ち合わせに行くのだろうか。ひょっとしたら、行った先であの男と待ち合わせをしているのかもしれない。
「おこずかいある?」
そう言いながら、美奈子は慶吾の机の脇に千円札を置いた。慶吾はむっつりと指を二本立てた。
「受験生なんだからゲームセンターなんか行っちゃダメよ」
目で笑いながら、それでも美奈子は千円札をもう一枚出した。
「フーン・・・。一応しっかりやってるわね。結構、真面目なんだ」
「ふん」
机の上のノートを覗き込みながら、耳に懸かった髪の毛を指で掻き上げる。そんな姉の仕草に、慶吾の息は詰まりそうになった。髪の毛が慶吾の頬に触れて、うっすらとシャンプーの匂いがした。
その時の姉の残り香が、今でも部屋の中に残っているようだ。千円札が二枚、机の隅にそのまま置かれている。
昼前だというのに、慶吾はもうサンドイッチをぱくつきながら、あの男が家に来た日のことを思い出していた。
やけににやけた、真面目そうな男だった。出来合いの紺色の背広を着て、白いワイシャツに地味なネクタイをしていた。
慶吾よりもだいぶ背が低い。姉とほとんど変わらないのではないか。そういえばこの前、「もうハイヒール、履けないわね」って母に言っていた。そのことだったのかもしれぬ。とっても姉に似合ってるのに・・・。
その男は姉のことを“みなこ”と呼び捨てにした。それから、慶吾のことを“けいごくん”と馴れ馴れしく呼んだ。
そう、すでにお膳立ては出来ていたのだ。慶吾の知らないところで、すべて話はまとまっていたのだ。確か、叔母の紹介による見合い。どちらかといえば、母のほうが積極的だったのかもしれぬ。
弟として、姉の結婚を祝福しなければならないことはわかっていた。いつかはそうなることなのだ。
でも、相手が白馬にまたがった麗しき王子様であれば、慶吾はあれほど嫌悪の感情を覚えなかったと思う。しかし、あの男はどこにでもいるごく平凡なつまらない男に見えた。もしあの男が慶吾のクラスメートだったら、やぼったくて友達にしたいとも思わなかっただろう。
何故、あんな男に姉を取られなければならないのだろう。慶吾は明らかに不快感を感じていた。姉の結婚に自分がないがしろにされていることも不快だった。
それは慶吾の表情や態度にハッキリ現われていたに違いない。美奈子はそれに気が付いた。最初はこまめにあの男の相手をしていた美奈子が、いつの頃からか慶吾の脇に座って他人行儀な応対に変わっていた。
そう、あの男の相手はほとんど母がしていた。あの男にビールの酌をしたのは母だったし、慶吾のコップにコーラを入れてくれたのは美奈子だった。
あの男が帰る時もそうだった。母が美奈子に、「駅まで送って行ってあげなさい」と言った時、あの男は遠慮して「ここで結構ですから」と言った。美奈子は迷うことなくその通りにした。玄関の外まで送って行ったのは母だった。
美奈子は、慶吾の脇に静かに立っていた。
サンドイッチを食べ終わって、まだ空腹を覚えた慶吾は、台所を家捜ししてカップラーメンを見つけ出した。
美奈子の用意したサラダとスープがテーブルに置かれたままになっている。あれだけ慶吾に説明したのに、小さなメモが貼り付けられている。姉らしかった。
慶吾は野菜が嫌いだ。だから最初から食べるつもりはない。第一腹の足しにならない。スープは飲んでもいいが、でも暖めるのが面倒だ。カップラーメンにお湯を注ぎながら、あとで姉が帰って来てサラダとスープがそっくり残っていたら怒るだろうな、と思った。
カップラーメンを啜りながら、慶吾は思い出していた。
父が死んだのは、慶吾がまだ三歳の時のことだ。その頃の慶吾はとても繊細で神経質な子だったらしい。
時々母が言う。
「お父さんが亡くなった時、お前は毎日泣いてばかりいてね。お母さんも働きに出なけりゃならないし・・・。美奈子はお前の世話で悲しむどころじゃなかったんじゃない?」
そうだったかな、と慶吾は思う。
「お父さんが死んだ時からだわね、慶吾がお姉ちゃん子になったのは」
あの頃、美奈子は確か小学校二~三年だった。
「いつもお姉ちゃんにくっついてばかりいて・・・。食事だって、寝る時だって、お姉ちゃんの側を離れなかったじゃないの」
美奈子は何を言うでもなく、うっすらと笑みを浮かべている。
「そうかなぁ。全然、覚えてないよ」
慶吾はそういう時、決まって言う。でも、慶吾は忘れてはいない。いや、鮮明に覚えている。
その頃から母が勤め始めて、帰宅が夜遅くなることもたびたびあった。そんな時、慶吾は美奈子と同じ布団に、しっかりと抱っこされながら寝た。姉は優しかった。慶吾が赤ん坊のように姉の平板な乳首を吸ったことがあるというのは、後で聞いたことである。
風呂に入るのも一緒だった。慶吾は、姉の少年のような凹凸のない平板な胸を今でも思い出すことが出来る。何ら隠すことのない白い秘部を今でも鮮明に思い出すことが出来る。
でも、ある日、夕食にお赤飯が出て、「何故お赤飯を炊いたの?」という慶吾の問いに、母が笑みを浮かべ、美奈子が顔を赤らめていた。
そして、その時以来、美奈子と一緒に風呂に入ることはなくなった。美奈子の全裸の身体は、洋服に包まれて、慶吾の目に触れることはなくなった。
浴室の中で、いつも慶吾だけが裸にされ、美奈子によってゴシゴシと身体を洗われ、シャンプーが目に入るのを我慢しながら髪の毛を洗われた。その時の美奈子の服装は、部活帰りの中学生の体操着だったり、それから高校の制服だったりした。
だんだん慶吾が大きくなるに連れ、姉に見られながら自分だけが裸になることに恥ずかしさを覚えて、「僕、一人で入れるからいい」と言ったこともあった。そんな時、美奈子はさも意外そうに「何でそんなこと言うの?姉弟じゃない」と言われ、「慶吾は、一人だとちゃんと洗わないんだから・・・。いいから早く脱ぎなさい」と有無を言わず命令されて、慶吾は怖ず怖ずとそれに従うしかなかった。
慶吾のモノに毛が生えてきたのを発見したのも美奈子だった。確か、慶吾の小学校で隣り合わせの席に座っている望美っていうクラスメートが慶吾にしきりに意地悪をして、今度ぶん殴ってやろうかと思っている、といったようなことを話していた時だったと思う。慶吾は裸のまま浴槽の縁に寄りかかって、美奈子は高校の制服をまくりあげて浴室の入り口に屈み込んでいた。
美奈子の目の前に慶吾のモノがあった。
「あら!慶吾!」美奈子が慶吾のモノを見つめたまま、素っ頓狂な声を上げた。
「なに?お姉ちゃん」
慶吾は美奈子が自分のモノを指さしているのがわかって、下を覗き込む。
「ほら!毛が生えてる」そう言いながら、片手で慶吾のモノに触れると、ニョロッと一本だけ生えた毛をつまむようにした。
「痛いよ、お姉ちゃん」
「慶吾ったら、いやだ~ぁ。それに・・・」
姉に触れられているというだけで、下半身が熱を帯びて、不思議な膨張感を感じた。自覚したのは初めてのことだった。
「それにって、なにさ?」
美奈子はそれには答えず、笑いながら一言だけ言った。
「今度ね。望美ちゃんに、僕は望美ちゃんのこと好きだよ、って言ってみたらいいわ」
でも、そうだったのだろうか。望美に対しては何の感慨もなかった。美奈子は慶吾のモノを面白そうに弄んでいる。ますます硬度が増すような気がした。
そうされながら慶吾は訊いた。
「お姉ちゃんは、毛、生えてないの?僕だけなのかな?」
美奈子はさらに声を出して笑った。
「安心なさい。それはね、慶吾が大人になりはじめたってことなの」
「お姉ちゃんも?」
「私だって・・・、生えてるわよ」
「じゃぁ、お姉ちゃんのも見せて」
慶吾はそういって、知らず知らずのうちに視線を美奈子の下半身に遣った。
「馬鹿ね」
美奈子は笑い転げながら逃げるように浴室を後にした。
その直後からだろうか、美奈子のことを慶吾がだんだんまぶしい存在として意識するようになったのは。
服の上からも胸の膨らみがはっきりとわかるようになって、腰のラインがスカートの上から甘美な曲線を描くようになると、慶吾は何故かそんな美奈子をわざと遠ざけるようにしていたと思う。
慶吾は、美奈子が黙って慶吾の部屋に入ってくることを怒るようにして拒んだ。美奈子が馴れ馴れしい態度を取ってくると、押しやるように避けようとした。
風呂に入る時もしっかりと鍵をかけた。下着の着替えを持って来た美奈子が、「頭洗って上げようか」と声をかけても、「自分で出来るからいい」とかたくなに拒んだ。
そのくせ、美奈子のことが頭から離れず、雨の日など洗濯物が室内に干してあったりすると、どうしても美奈子の下着に視線が行った。
そんなことがたびたび続いて、母が注意したのか美奈子が自分からそうしたのかはわからない、いつの日かから、慶吾の視線に美奈子の下着が目に止まることはなくなった。
でも、一度だけ、慶吾は姉の裸を見たことがある。
あれはちょうど三年前、慶吾は中学三年生で今と同じように受験勉強で悪戦苦闘していた。
その夜、母はまだ帰って来ておらず、美奈子の帰りが遅く、心配で慶吾は参考書をリビングルームに持ち込んでテーブルの上で勉強していた。でも、ちっともはかどらない。
どうしたんだろうか。交通事故にでもあったんだろうか。ひょっとしたら、夜道で痴漢に襲われたんじゃないだろうか。家の前の歩道を誰かが通る足音がするたびに、慶吾は玄関まで足を運んで、美奈子が帰って来たんじゃないかと外の様子をうかがった。
帰って来た美奈子は、薄っすらと目に涙を浮かべていたように見えた。「ただいま」と静かに一言言ったまま、黙って部屋に閉じこもった姉に、どうしようもなく不安が過ぎり、慶吾は部屋の前に行って、ドア越しに声をかけずにはいられなかった。
「どうしたの?」
「どうもしないわ。心配しないで・・・」
「食事は?」
「・・・いらないわ」
「でも、お腹すいてるんだろう?」
「いいの・・・」
「食べなきゃぁダメだよ。僕、作ってやるよ」
「ほっといて頂戴!」
美奈子の強い口調に、慶吾が思わずタジタジとなった時、
「ゴメン・・・」
ドアが少し開いて美奈子が顔を出した。無理に作り笑いをしている。
「ちょっと疲れてるの・・・。心配してくれてありがとう」
「でも・・・、お風呂くらい、入ったら?」
「・・・、沸いてるの?」
「大丈夫。いつでも入れるようになってる」
「じゃあ・・・、入ろうかな」
慶吾は嬉しかった。姉のために何かをしてやりたかったのだ。
美奈子が風呂に入っている間、慶吾は軽く食べられるものを作ってやろうと思った。スパゲッティでいいだろう。美奈子の料理の仕方は見よう見まねで覚えている。こんなことってめったにない。でも、ちょっと焦げちゃったかな?出来上がったスパゲッティをテーブルの上に広げて、フォークとスプーンを出して、それから、ちょっとつまみ食いをして・・・。別に姉のフォークを使ったって、怒りやしないのだ。そして、テーブルの向かいに座って、美奈子が出てくるのを待った。
ずいぶん時間が長く感じた。慶吾は何度となく時計を見た。でも美奈子は出てこない。浴室の方を伺ってもシーンとしている。
慶吾はまた心配になって、浴室の外から声をかけた。
「大丈夫?」
「・・・、ええ、大丈夫よ。心配しないで」
だが、無性に美奈子が気になった。
もう一度、様子を見に行こうとした時だった。ドスンと物が倒れる音がした。驚いて、慶吾があわてて浴室を覗くと、美奈子が脱衣所に横座りに倒れ込んでいた。ちょうど身体を拭いていたのだろうか。バスタオルを胸に当てたまま、放心したように座り込んでいた。
「どうしたんだ?」
「大丈夫よ。ちょっとのぼせちゃったみたい・・・」
「馬鹿だな」
慶吾は美奈子に近寄った。
「大丈夫だから・・・。向こうへ行ってて・・・」
でも美奈子の顔は青白かった。慶吾は美奈子の静止を聞かず、バスタオルで身体を拭いてやった。
美奈子は黙ってされるままになっていた。胸までしっかり押さえているバスタオルを取り上げて、顔を拭いてやり、それから背中の汗を拭いてやった。美奈子の白い肌がまぶしかった。
「恥かしいじゃないの・・・」
美奈子はわざと明るく言った。
「何言ってんだ。姉弟じゃないか」
それから、まだ完全に拭ききっていない美奈子の全裸の身体を抱き上げて、慶吾は美奈子の部屋に運んだ。その頃、中学生の慶吾の身長は、すでに美奈子よりもずっと高かった。
美奈子は恥かしそうに、でもされるままになった。階段を上がる時、二人の身体が揺れて、美奈子の両腕は慶吾の首に巻きついていた。顔を慶吾の胸に押し当てるようにして、そのままジッとしていた。水滴がポタポタと床に落ちた。
慶吾の心の中に、女の身体に対する興味がなかったと言えば嘘になるかもしれない。美奈子の全裸の身体をジックリ見てみたいという気持ちは確かにあったと思う。
でも、それにも増して、美奈子のことを心配する気持ちの方が大きかった。それは今でもはっきり断言できる。
初めて、美奈子の弱さを感じた。理由はわからない。しかし、男の僕が姉を救ってあげなければいけないと思った。
「このままで、いい?」
全裸のままベッドの上に美奈子を寝かせると、慶吾は美奈子の顔を覗き込みながら言った。
「ええ、いいわ。後で着るから・・・」
ボンヤリと天井を見ながら美奈子は言った。
慶吾はあえて美奈子の顔だけを見ていた。全裸の身体は見てないよ、とでも言うように・・・。
でも、掛け布団は被せなかった。
美奈子の身体が火照っているのはわかっていた。それに美奈子の脚の方に畳まれている掛け布団を被せるとすれば、否が応でも美奈子の全裸の身体に視線を走らせることになる。そうしたいとは思いながら、でも美奈子が可哀想で出来なかった。
いや、そうじゃないかもしれない。美奈子の全裸の身体を布団で隠したくなかった。部屋の照明の中で美奈子の全裸の身体は美しく輝いていた。慶吾の視線の隅に、美奈子の全裸の身体が否が応でも飛び込んで来る。肉感を持って、肌の弾力を感じた。ピンク色の乳首や、さらに下の方に秘部のヘアーが妖しく黒く色をなしている。
あらためて、姉がこんなにも美しい女になっていることに驚いていた。ベッドの下にしまいこんでいるヌード雑誌の女性より何倍も何十倍も姉の方が美しいと思った。
「何かあったの?」
「心配しないで・・・。何でもないわ」
「だって、泣いてるじゃないか」
「そう?・・・いいの。慶吾には関係ないことよ」
「誰かに虐められたんだったら、僕、やっつけてやるよ」
慶吾の言葉に、美奈子は慶吾を見つめたままうっすらと笑った。
「ありがとう」
でも、慶吾の心配そうな顔に、美奈子の目はまた涙を溢れさせた。慶吾はバスタオルの端で美奈子の涙を拭ってやった。
「・・・慶吾。今日は勉強、終わったの?」
「えっ?」
「まだやってるんだったらいいんだけど・・・」
「なんで?」
「できれば、もう少しこの部屋にいて。・・・、私を一人にしないで・・・」
そう言って、慶吾を真正面から見た。赤く充血している目が優しかった。
美奈子は僕を必要としている。慶吾はそう感じた。嬉しかった。
「よし。まかしとき」
慶吾は、「ちょっと戸締りしてくる」と言って美奈子の部屋を出ると、急いでリビングルームの電気を消して、戸締りを確認した。チェックすることはわかっている。小さい頃は、美奈子の後ろを歩きながら一緒にやったのだ。
慶吾は急いでいた。急がないと美奈子はパジャマを着てしまうかもしれないと思った。慶吾は美奈子に全裸のままでいて欲しかった。
火の元を確認して、それから風呂の電気を消して、さっき美奈子の身体から落ちた床の水滴を拭って・・・。
駆けるように美奈子の部屋に戻ると、美奈子はさっきと変わらずに全裸で寝ていた。
「戸締りしてきた?」
「うん」
「じゃぁ、電気を消して・・・。昔みたいに一緒に寝よう」
美奈子は甘ったるい声で言った。
「うん」
部屋の電気を消すと、外灯の明かりがカーテン越しに薄く差し込んでくる。美奈子の白い全裸の身体が妖しく光った。
慶吾は自分の部屋にパジャマを取りに行こうかとも思ったが、美奈子が全裸である以上、自分がパジャマを着る理由はない。シャツとトランクスの姿になって、それからちょっと考えて、それもすべて脱いだ。
そして、美奈子が身体を少しずらせてつくってくれたスペースに自分の身体を滑り込ませた。美奈子の肌が慶吾の肌に直かに触れた。
「全部脱いじゃったの?」
美奈子が目を閉じたまま言った。
「うん。お姉ちゃんと同じだ」
「フフフ・・・」
「昔と同んなじだな」
「そうね。でも、慶吾の身体はこんなに大きくなって・・・。昔とは逆だわ」
美奈子の手が慶吾の胸を優しく撫でる。
「そりゃそうさ。今日は僕がお姉ちゃんを寝かしつけてやるよ」
「ありがとう・・・」
何も話すことはなかった。慶吾の呼吸と美奈子の呼吸が同じようにリズムを刻んでいた。
美奈子が時々思い出したように声をしゃくりあげた。慶吾はそんな美奈子の髪の毛を優しく撫でた。幼い頃、慶吾を寝かせるために美奈子がしてくれたように・・・。
慶吾が身体をちょっと横向きにすると、その慶吾の胸に顔を埋めて、今までとは違って、今度は声を上げて泣き始めた。
美奈子がそんなに泣くのを見たのは慶吾にとって初めてのことだ。もともと涙もろい美奈子だったが、いつも、慶吾のちょっとしたいたずらや、姉弟喧嘩の時に見せる泣き声とは明らかに違っていた。
その泣き声は本当に悲しくて、本当に美奈子が可哀想で、理由はわからなかったが、覚えず慶吾も一緒に泣き出していた。慶吾が泣いていることに気付くと、美奈子はさらに激しく泣いた。
もっと強く抱いて、とは美奈子は言わなかった。「もっとくっついて」泣きながら美奈子は言った。慶吾は言われる通り、身体を密着させて、そのまま強く抱きしめた。
「もっと、もっとよ」慶吾はさらに強く抱きしめた。こんなに強く抱きしめて、美奈子の身体は折れたりしないだろうかと思った。
そう、慶吾は美奈子の言う通りにしただけだ。美奈子が言わなかったことは何もしなかった。ただ、黙って肌と肌を直かに触れ合って、抱きしめていた。
でも、美奈子の女の匂いが妖しく慶吾を刺戟した。美奈子の二つの豊満な乳房が、はっきりと形をつくって慶吾の胸に押し付けられていた。
慶吾のモノが勃起していた。でも、それが恥かしかった。美奈子にそのことを知られたくなかった。慶吾は勃起を悟られないように腰をちょっと引くようにして、それから強く強く美奈子を抱きしめていた。
美奈子の手は慶吾の背中に触れていた。もう片方の手は慶吾の首に巻き付いていた。
慶吾は片手で美奈子の髪の毛を撫でながら、もう片方の手で美奈子の背中を強く抱きしめていた。
ずいぶん長い間、そのままでいたように思う。それしかやることがなかった。いや、二人にはそれだけで充分だったのだ。
眠ったのは美奈子の方が先だった。美奈子の手が力を失って、ちょっと身体が離れるような感じがして、それからスヤスヤと静かな吐息をたてていた。
慶吾は静かに美奈子の手をほどいてから、ベットを下りると、掛け布団を優しく美奈子の上にかけてあげた。もう一度、美奈子がちゃんと寝ているのを確認して、自分の脱いだ服を持ったまま自分の部屋に移動した。
それから、美奈子の残り香を味わうようにしながら思いっきりマスターベーションをした。まだ童貞の慶吾は、妄想の中で美奈子と奔放にセックスしていた。プレイボーイのように巧みに美奈子を絶頂に導いた。美奈子は狂ったように慶吾の身体の下で喘いでいた。
それは一回では納まらなかった。続けて二回射精をした後、何故か美奈子に申し訳ないような、自分が美奈子を冒涜したような気がして、罪悪感に苦しんだ。
カップラーメンを食べ終わって、取りあえずサラダだけでも食べておこうと思った。スープは温めず、キッチンにそのまま流して捨てた。
これで証拠隠滅だ。
少なくとも、姉を悲しませずには済むと慶吾は思った。
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