小説(転載) わたしの好きな兄だから! 1/4
近親相姦小説
厳密には近親相姦一歩手前だが、気持ちを汲んでおく。
第1章 春~Battle Start!!
まだ肌寒さが残る4月の朝。
ずっと憧れていた高等部の制服を今日から着られる!
白いブラウスにチェックのネクタイを締めて、ライトグレーのスカートをはき、ブルーが所々にあしらわれたベージュのブレザーを羽織る。胸のエンブレムには、『Houmei High School』のロゴ。
鏡を覗きこんで、セミロングの両側で編み込んだ髪を後ろで留めた。残った前髪にブラシを入れると、額にパラパラとかかるように梳き上げる。
あーあ、なんでこんなに垂れてるかなあ・・・。
鏡に映った眉毛を見つめて、一つため息。どうにも気弱に見られてしまうこの顔の造りが悔しい。
少しくらいなら、バレないよね。
眉の生え際を描いて、かるくチークを入れた。まつ毛を上げれば、ほら、目もパッチリ。わたしの唯一のチャームポイントなんだから、強調しないと、ね。
「智香ぁー、いつまでやってんの、お兄ちゃん待ってるよ。」
階下から母親の声がした。
・・・ヤバ、もう7時半回ってる。
カバンと大きめのポーチを掴むと、智香はドタドタと階段を駆け降りた。玄関には、もう兄の幹高が同じブレザーの制服姿で立っている。
「ほら、パン。」
母親から手渡されたパンを受け取りつつ、革靴を履く。
「もう、全然中学の時とやってることが変わらないじゃない、あなたは。」
「ごめーん。」
片手でごめんなさい、のポーズ。なんとかパンを詰め込むと、胸をトントンと叩く。
「・・・行くぞ。」
幹高はぶっきらぼうに言った。ほとんどセットもされずに伸ばされた髪の中で、ちらっと智香の顔を伺ったように見えた切れ長の瞳。ただ、それも時代遅れの厚ぼったい銀色のフレームの眼鏡の奥でだった。
・・・お兄ちゃん、わたしの顔、ちょっと見たよね・・・。幸せかも。(きっと、化粧効果だ。ゼッタイ。)
家を出て、何も喋らずに黙々と前を歩いていく兄の背中。
150cmちょっとしかない智香に比べて、頭一つ以上高い幹高の身長は180cmを超えていた。
だが、決して押し出しは強くない。ボサボサの髪も含めて、よれた制服に、なんとなくもったりとした足取り。
でも、そうじゃないと。もし、お兄ちゃんのミリョクに気付かれちゃったら・・・。
そうだ、そうなんだよねぇ・・・。
兄の斜め後ろを黙ったままで歩きながら、最近発生した『問題』を思い出す。
いいや、だからこそゼッタイ、お兄ちゃんはわたしが守る!
智香は小走りに兄の横に並び、ズボンに突っ込まれた手に腕を回すと、身体を密着させた。分厚い眼鏡の奥で、ほんの少しだけ視線が落とされたが、またぶっきらぼうな感じで前に向けられた。
「もう中等部じゃないんだからな、ベタベタしてると笑われるぞ。」
相変わらず抑揚のない太い声で幹高は言った。
「いいもん。わたしのお兄ちゃんなんだから。」
そうだよ、どうせみんなからお子ちゃま扱いされてるんだから、今更だもの。それより、ほらほら、ドウダ。これでも少し成長して、78のBカップだぞ~。
「・・・そうだ。智香、気をつけろよ。生活主任の浅井は厳しいからな。それくらいの化粧でもチェック入るぞ。」
あら、ゼンゼンこたえてない・・・。
「もう、見てないようで見てるんだね、お兄ちゃんは。」
「当たり前だ。」
ま、いいか。こうじゃないと、お兄ちゃんじゃないもんね。でも、ちょっと言われてみたいかも。『智香もいいオンナになったな。』とか・・・。
「あ、セミが木に留まってるぞ~。」
こ、この声は。
振り向くと、停留所でバスから降りた報明の制服の一団の中から、智香と同じくらいの背格好の女学生が飛び出してきた。ただ、頭の両側でひっつめお下げにされたくせっ毛の下で陽気そうに輝く大きな瞳は、智香よりずっと派手で印象に残りやすい。
「おはよ、チカ。それと、」
二人より少し前に出ると、後ろ向きに歩きながら、
「おはようございます。幹高さん。」
「おはよう。朝比奈さん。」
「やり、智香。お兄さんのあいさつゲットだよ。」
「え、江梨奈・・・。」
ああ、ついに現れてしまった、問題その1。
「わたし、またチカとおんなじクラスになったんですよ。」
あ、ああ・・・。なんてことを。
江梨奈は幹高の開いた右手に左腕を差し込むと、智香がしているのと同じように身体を密着させた。
「ああ、智香から聞いたよ。仲良くしてやってくれよ。」
気にする風もなく応える兄。
ああ、もう。どうして!
幹高の身体ごしに睨み付けると、江梨奈は舌を出して応戦した。
「なんかこう、違いますよね、高等部ともなると。心も身体もこう、成長を感じるって言うのか・・・。」
江梨奈はグイッっと胸を見せつけるように身体を伸ばした。
身長は同じでも、ずっと起伏のある身体つき。中学の頃からずっとうらやましく思ってたんだけど・・・。
くそお、ここで負けてなるものか。
「江梨奈ぁ。」
「なあに。」
(やる気?)と目が言ってる。と、
「なんだ、ウド田が両手に花してるぞ~。」
「チョップだ、チョォォップ!」
わざとらしく制服を着崩した男子生徒の一団が唐突に通り過ぎ、幹高の後頭部辺りに手刀を入れて去っていった。
「ありゃ、どういうことだ。」
「ボセイ本能って奴ですかぁ。」
「あんなでかい赤ん坊か?」
「デカさは関係ないじゃないの。ニブくて、ボーっとしてりゃあ、『ママぁ』って感じですかぁ。」
智香と江梨奈は同時に幹高から手を離すと、わざとらしく囃し立てて去っていく一団を睨みつけた。
「あいつら・・・。」
走り出しかけた江梨奈の肩を掴むと、幹高は静かに言った。
「いいんだよ。それよりふたりとも、もう校門だから。」
はっと気付いて智香は兄との距離を取った。
なんと言っても、この報明学園高等部は、『男女交際厳禁』という今時化石のような校則がある学校なのだ。
でも、お兄ちゃん、やっぱりカッコイイ。いいオトコは、雑魚は相手にしないんだよね。
ハッ!
ピンときて、右側を歩く中学2年以来のくされ縁に目をやると・・・。
やっぱり。
・・・江梨奈も同じ目で兄を見上げてる。
あーあ、強力なライバル作っちゃたなあ。それに、問題その2もあるし・・・。
生活担当教諭が立ち並ぶレンガ造りの校門をくぐった時、始業10分前を告げる鐘の音が、威容を誇る大きな時計塔のてっぺんでゴーン、ゴーンと優雅に響き始めた。
夜。
智香は湯船につかりながらボーッと今日の事を考えていた。
新しいクラスは、おとなしそうな女の先生も含めて、まったく問題はなさそうだった。
なんと言っても、一つ階段を上がれば、お兄ちゃんの教室に行けるし。・・・でも、何であそこまで言いなりになってるかな、お兄ちゃんも・・・。
今日、帰りに3-Cの教室に寄った時の事を思い出す。智香が顔を出すと、兄のクラスもちょうど生徒達がばらけて帰る所だった。
「お兄ちゃ・・・」
声を掛けようと思った瞬間、何の飾り気もない短い黒髪の女生徒が、一番後ろでゆっくりと帰り支度をしている兄の前に立ちはだかる所だった。
「篠田君、まさか帰るつもりじゃないでしょうね。」
あの背筋のピンと伸びた姿、何処かで見たような・・・。
幹高は一瞥もせずに、黙々とカバンにノートを詰め込んでいる。
「委員会。さっき投票で決まったでしょう。」
腰に手を当てると、強力なオーラを放つ後ろ姿で兄を見下ろした。
残った生徒達が、面白そうに成り行きを見守っている。と、入り口で覗き込んでいる智香の頭の上から声がした。
「まったく、あのオンナ。絶対サドだわ。」
だ、誰・・・?
身を引いて見上げると、しょうゆ顔のやさ男が・・・。
げ、問題その2!
「こんにちは、智香ちゃん。今日から、同じ高等部だね。」
そして、幹高と同じくらいの長身を折りたたむように智香の顔に近づくと、
「休みも終わったし、勝負再開だよね。同じ、道ならぬ恋に身を焦がすド・ウ・シ。」
「・・・わ、わたしだって、負けませんからね、恭一さん。」
「お!」
不自然にバラけた肩にかかりそうな長髪(たぶん、染め直しだと思う)の下で、目尻の下がった瞳が面白そうにこっちを見た。
「それは、宣戦布告と取っていいのかな。智香ちゃんもホンキだね。では、まず僕が・・・。」
くそ、キョーイチなんかに負けてたまるか!
「おーい、お兄ちゃ・・・」
「おーい、ミキちゃ・・・」
二人同時に手を上げかけた時、幹高はあの女生徒と共に反対側のドアに向かう所だった。
「ああ、ちょっと委員会に出てから帰るから。」
廊下で二人を認めると、軽く手を上げてもっさりと歩み去っていく。前をシャキシャキと歩く女生徒とは対照的だ。
「・・・あのはっきりした顔立ちの人、誰です?」
「あれが、大沢千秋。智香ちゃんだって、名前くらい知ってるでしょ。」
恭一は踵を返すと、片手をズボンのポケットに突っ込み、もう片方の手をひらひらと振って歩いていく。
「じゃあね。今日は勝負預かりってことで。」
あの人が、『報明の女帝』生徒会長の大沢千秋さん、か。入学後の実力診断から学年トップを譲ったことがないっていう、伝説の・・・。
いかにも、って顔立ちだったものね。眉もきりっと太くて、目なんてわたしが睨まれたら凍っちゃいそうだったし。
・・・あ、ちょっとのぼせてきたかも。もう、出ないと。
入浴剤の穏やかな香りを吸い込むと、軽く伸びをした。
にしても、問題山積だわ。江梨奈はお兄ちゃんの素顔を見てから、すっかりその気だし、キョーイチは相変わらずだし。それに、あの生徒会長。ゼッタイ、お兄ちゃんを使い走りにするつもりだ。
脱衣所でゆっくりと身体を拭くと、大きな姿見に映った裸の全身をなんとなく見つめた。
あ~あ、やっぱり、ボリューム足りないよね。でも、前よりはゼッタイ格好がついてきたと思うんだけど。
右手を乳房の下に添えて、横向きにポーズを作ってみる。つんと上を向いた頂き。
うん、形はわるくないんだよね、形は。
それでもすぐに、健康診断の時に目撃した江梨奈の身体を想像してしまう。まるで、どっかのグラビアアイドルみたいな豊満な谷間。おしりも、わたしのみたいに平べったくないし・・・。
あんな身体でユウワクされたら、お兄ちゃんだってヤバイかも・・・・。
マケテナルモノカ!!
大き目のサイズのバスタオルを全裸の身体に巻くと、髪の毛を拭くのもそこそこに、脱衣所を飛び出した。
「智香。ちゃんと身体拭いてから出なさい!」
母親の声を後ろに、階段を駆け上る。
なんて言ったって、わたしには一緒に住んでるっていう最大のアドバンテージがあるんだから!
階段を上がって右側にある茶色のドアの前に立つと、バスタオルの胸元を直して、小さく息を吸い込む。
「智香か。開いてるぞ。」
ドアをノックすると、すぐに低いトーンの聞きなれた声で返事があった。
「ちょっとお邪魔するね~。」
椅子に座って、足をベッドに投げ出した格好で分厚い本を読んでいた幹高は、ちらっと智香の方を見たが、また本に目を戻した。
もう、なんで・・・。
本棚に囲まれた机の前まで行くと、立ったまま腰を屈めて、開いた本を覗き込むようにする。
・・・ちょっと恥ずかしいけど、これならお兄ちゃんだって・・・。
こうやって両手を膝につくような格好にすれば、わたしのムネだって、谷間ができるんだから。ホラ。
バスタオルの下には何も付けていない事を考えると、身体中が火照ってどうにかなりそう・・・。でも・・・。
「何の本、読んでるの?」
こげ茶色のハードカバーの表紙を持ち上げると、「ファウスト」と刻まれた銀色の字。
「こらこら。」
ページが持ち上がって読書を中断されると、幹高は目を上げて智香の方を見た。眼鏡の奥の深い瞳が智香の視線と合わさる。
チャンス!
ここぞばかりに腕を寄せると、胸を強調する。
「ね、野球の本?面白い?」
面白そうに瞳の色が輝くと、クックックッと笑い声が続いた。
「面白い奴だな、お前は。」
そしてしばらく押さえた声で笑い続けていた。
「・・・わ、わたし何か面白いこと、言った?」
「いや、いいよ。ごめんな。知らないことが悪いわけじゃないからね。それより、」
真面目な調子に戻ると、幹高は続けた。
「いつまでもそんな格好してるなよ。まだ冷えるからな。」
顔から火が吹き出しそうな決まり悪さが全身を駆け巡った。
・・・もう、お兄ちゃんなんて、お兄ちゃんなんて・・・!
「大っ嫌い!!」
自分でもびっくりするくらいの大声だった。ドアをバタンと閉めると、廊下を走って自分の部屋に駆け込んだ。
どうせ、どうせわたしは子どもよ。高等部に上がってちょっとは成長したかなあ、って思ったけど、中身は変わってないんだもの。そんなこと、わかってたけど、わかってたけど・・・。
『いつまでもそんな格好してるなよ。』はあんまりだ。
ベッドの上に倒れ込むと、頭を押さえていたタオルが外れて、濡れた髪が流れ落ちた。
・・・こんなにお兄ちゃんのこと好きなわたしが変なのかな。ううん、そんなことはゼッタイにない。あんなにカッコイイ人、わたしは他に知らないもの。それがたまたま、兄妹だっただけ。
そう言えば、一回、どうしてそんなに身だし並みに気を遣わないのか訊いたことがあったっけ。
『不潔じゃないだろ。それ以上は時間の無駄なんだ。』
短くそう言った。わたしには意味がよくわかる。いつもたくさんの本を読んで、週に何度かは身体を鍛えるために何処かの道場に通っていることも知ってる。外見だけのチャラチャラしたオトコとは、基本が違うんだ。
でも・・・、お兄ちゃんがどんどん前に進むたび、わたしのいる場所は小さくなってく。
智香はため息をついて身体を起こした。バスタオルが落ちて、湯上がりでまだほのかに桜色に染まった裸体に冷たい風が当たる。
「もうちょっと大きくなれよ、オイ。」
乳房を見下ろして、軽く両手で持ち上げてみる。手の平が少しだけ乳首に触れた瞬間、ビクッと軽い電気が背中に走った。
『さっさと済ませちゃえばいいのよ、一回しちゃうと、色気も変わってくるよ。』
やっぱ、バージンなんて面倒くさいもの、捨てちゃった方がいいのかな・・・。
考えながらも、両手は胸の頂きに添えられ、ゆっくりと手のひらで乳首に刺激を送り始めている。
でも、ダメ。バージンはお兄ちゃんにあげるって決めたんだもの。
もう一度ベッドに倒れ込むと、部屋のドアの鍵がかかっているか、痺れ始めた頭で確認した。
右手が脇腹を滑り落ち、太股を柔らかく撫で続ける。
本当は、少し恐いかも。お兄ちゃんに抱かれたら、わたし、どうなっちゃうんだろ・・・。
頭の中で妄想が膨れ上がって、閉じた目の裏に、幹高の像が徐々に結ばれていく。
・・・もう、こんなに濡れてる。ねえ、お兄ちゃん、わたしの、こんなになって待ってるんだよ。
草むらの下の濡れ始めた窪みに指を這わせる。入り口の柔らかいひだをくすぐるように弄ぶと、まだ左胸に添えられた手に、乳首が立ち上がってジリジリした反応を返してくる。
意識の中で結ばれた全裸の兄の像は、智香を見下ろすように傍らに座り込むと、右手に大きな手を添えて、小さな頭を見せはじめた敏感な核を探り当てた。
そこ、もっと触って・・・。
気が付くと、隆々と男を主張する兄の逸物が目の前にあった。
舐めて、欲しいの・・・?
おずおずと左手の指を唇の中に差し込むと、想像の中のペニスに舌を這わせる。
こんな感じでいい?気持ちいい?
兄の手の添えられた右手は、更に尖りだした核をむき出しにするように、二本の指で根元をなぶるようにこすり上げる。時折中指が、狭い入り口を確かめるように浅く忍び込み、周辺を刺激した。
口の中に差し込まれたものは、大きく膨れ上がり、舌の動くスピードもどんどん速くなっていく。
ああ、気持ちいい・・・。もっとして、もっとしたいの。
兄の身体が回転すると、股間に顔を埋めようとする。
もうおしりの方まで流れはじめた滴をざらざらした舌がすくいとる。溢れ出した中心に触れることなく柔らかに周りを舐め上げると、すっかり露わになった真珠に唇がたどり着いた。
そんなところ、刺激されたら・・・、もう・・・。
二本の指でむき出しにされた頂きを中指が弾いた瞬間、身体の中心からつま先まで激しい電気が走った。
「お、お兄、ちゃん・・・、イク!」
少しだけ開いた入口のヒダヒダが、わずかにうごめくのがわかった。頭の芯がジンジンして、しばらくは何も考えられない。身体から力が抜けて、ベッドの中に沈み込んでいくような気がする。
・・・また、しちゃった。
ごめんね、お兄ちゃん。勝手に使っちゃって・・・。
ひとりHの後は、いつもなんとなくアンニュイな気分になる。オトコの子なら、「すっきりした」で終わるんだろうけど。・・・お兄ちゃんは、どうなんだろう?
智香は、兄のそういう部分をどうしても想像できなかった。いつも冷静な幹高は、決して荒っぽい部分を顕わにすることはなかったから。
まだ少し余韻の残る体をゆっくりと持ち上げると、清潔なベージュの下着を選んで、赤いチェックのパジャマを身につけた。
トントン。
その時、部屋のドアが叩かれて、廊下から声がした。
「智香。」
慌ててパジャマのすそを確かめると、部屋の鍵を開けた。
「・・・お兄ちゃん。」
さっきまでの妄想が頭をかすめて、まともに顔を上げる事ができなかった。
「まったく、まだ頭も乾かしてなかったのか。」
優しい声。大きな手がまだ半渇きの髪の上に乗せられると、静かに言葉が続いた。
「・・・大丈夫か?何かあったんじゃないのか。」
その響きが気持ち良くて、ちょっとドキドキしながら目を上げると、お兄ちゃんの瞳がしっかりとわたしを見下ろしてる。
視線が合わさった途端、なんか今までのことはどうでもよくなってしまった。きっと、わたしの気持ちなんて、お兄ちゃんはちゃんとわかってる。それでも、こんなにわたしのこと・・・。
「大好き!」
思いっきり抱きついてしまった。
幹高の手は、戸惑うことなく智香の頭と肩に添えられている。一層優しげな表情を帯びると、諭すように言った。
「早く、大きくなれよ。」
いいんだ、お兄ちゃんがわたしの事、妹としか思ってなくても。だって、今のわたしじゃ、とっても振り向かせられないもの。
だからとりあえず、変なムシはわたしが排除するんだ。いいオンナになった時、最初にわたしの方を振り向いてもらうために!
智香は心の中で小さなガッツポーズを作った。
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第1章 春~Battle Start!!
まだ肌寒さが残る4月の朝。
ずっと憧れていた高等部の制服を今日から着られる!
白いブラウスにチェックのネクタイを締めて、ライトグレーのスカートをはき、ブルーが所々にあしらわれたベージュのブレザーを羽織る。胸のエンブレムには、『Houmei High School』のロゴ。
鏡を覗きこんで、セミロングの両側で編み込んだ髪を後ろで留めた。残った前髪にブラシを入れると、額にパラパラとかかるように梳き上げる。
あーあ、なんでこんなに垂れてるかなあ・・・。
鏡に映った眉毛を見つめて、一つため息。どうにも気弱に見られてしまうこの顔の造りが悔しい。
少しくらいなら、バレないよね。
眉の生え際を描いて、かるくチークを入れた。まつ毛を上げれば、ほら、目もパッチリ。わたしの唯一のチャームポイントなんだから、強調しないと、ね。
「智香ぁー、いつまでやってんの、お兄ちゃん待ってるよ。」
階下から母親の声がした。
・・・ヤバ、もう7時半回ってる。
カバンと大きめのポーチを掴むと、智香はドタドタと階段を駆け降りた。玄関には、もう兄の幹高が同じブレザーの制服姿で立っている。
「ほら、パン。」
母親から手渡されたパンを受け取りつつ、革靴を履く。
「もう、全然中学の時とやってることが変わらないじゃない、あなたは。」
「ごめーん。」
片手でごめんなさい、のポーズ。なんとかパンを詰め込むと、胸をトントンと叩く。
「・・・行くぞ。」
幹高はぶっきらぼうに言った。ほとんどセットもされずに伸ばされた髪の中で、ちらっと智香の顔を伺ったように見えた切れ長の瞳。ただ、それも時代遅れの厚ぼったい銀色のフレームの眼鏡の奥でだった。
・・・お兄ちゃん、わたしの顔、ちょっと見たよね・・・。幸せかも。(きっと、化粧効果だ。ゼッタイ。)
家を出て、何も喋らずに黙々と前を歩いていく兄の背中。
150cmちょっとしかない智香に比べて、頭一つ以上高い幹高の身長は180cmを超えていた。
だが、決して押し出しは強くない。ボサボサの髪も含めて、よれた制服に、なんとなくもったりとした足取り。
でも、そうじゃないと。もし、お兄ちゃんのミリョクに気付かれちゃったら・・・。
そうだ、そうなんだよねぇ・・・。
兄の斜め後ろを黙ったままで歩きながら、最近発生した『問題』を思い出す。
いいや、だからこそゼッタイ、お兄ちゃんはわたしが守る!
智香は小走りに兄の横に並び、ズボンに突っ込まれた手に腕を回すと、身体を密着させた。分厚い眼鏡の奥で、ほんの少しだけ視線が落とされたが、またぶっきらぼうな感じで前に向けられた。
「もう中等部じゃないんだからな、ベタベタしてると笑われるぞ。」
相変わらず抑揚のない太い声で幹高は言った。
「いいもん。わたしのお兄ちゃんなんだから。」
そうだよ、どうせみんなからお子ちゃま扱いされてるんだから、今更だもの。それより、ほらほら、ドウダ。これでも少し成長して、78のBカップだぞ~。
「・・・そうだ。智香、気をつけろよ。生活主任の浅井は厳しいからな。それくらいの化粧でもチェック入るぞ。」
あら、ゼンゼンこたえてない・・・。
「もう、見てないようで見てるんだね、お兄ちゃんは。」
「当たり前だ。」
ま、いいか。こうじゃないと、お兄ちゃんじゃないもんね。でも、ちょっと言われてみたいかも。『智香もいいオンナになったな。』とか・・・。
「あ、セミが木に留まってるぞ~。」
こ、この声は。
振り向くと、停留所でバスから降りた報明の制服の一団の中から、智香と同じくらいの背格好の女学生が飛び出してきた。ただ、頭の両側でひっつめお下げにされたくせっ毛の下で陽気そうに輝く大きな瞳は、智香よりずっと派手で印象に残りやすい。
「おはよ、チカ。それと、」
二人より少し前に出ると、後ろ向きに歩きながら、
「おはようございます。幹高さん。」
「おはよう。朝比奈さん。」
「やり、智香。お兄さんのあいさつゲットだよ。」
「え、江梨奈・・・。」
ああ、ついに現れてしまった、問題その1。
「わたし、またチカとおんなじクラスになったんですよ。」
あ、ああ・・・。なんてことを。
江梨奈は幹高の開いた右手に左腕を差し込むと、智香がしているのと同じように身体を密着させた。
「ああ、智香から聞いたよ。仲良くしてやってくれよ。」
気にする風もなく応える兄。
ああ、もう。どうして!
幹高の身体ごしに睨み付けると、江梨奈は舌を出して応戦した。
「なんかこう、違いますよね、高等部ともなると。心も身体もこう、成長を感じるって言うのか・・・。」
江梨奈はグイッっと胸を見せつけるように身体を伸ばした。
身長は同じでも、ずっと起伏のある身体つき。中学の頃からずっとうらやましく思ってたんだけど・・・。
くそお、ここで負けてなるものか。
「江梨奈ぁ。」
「なあに。」
(やる気?)と目が言ってる。と、
「なんだ、ウド田が両手に花してるぞ~。」
「チョップだ、チョォォップ!」
わざとらしく制服を着崩した男子生徒の一団が唐突に通り過ぎ、幹高の後頭部辺りに手刀を入れて去っていった。
「ありゃ、どういうことだ。」
「ボセイ本能って奴ですかぁ。」
「あんなでかい赤ん坊か?」
「デカさは関係ないじゃないの。ニブくて、ボーっとしてりゃあ、『ママぁ』って感じですかぁ。」
智香と江梨奈は同時に幹高から手を離すと、わざとらしく囃し立てて去っていく一団を睨みつけた。
「あいつら・・・。」
走り出しかけた江梨奈の肩を掴むと、幹高は静かに言った。
「いいんだよ。それよりふたりとも、もう校門だから。」
はっと気付いて智香は兄との距離を取った。
なんと言っても、この報明学園高等部は、『男女交際厳禁』という今時化石のような校則がある学校なのだ。
でも、お兄ちゃん、やっぱりカッコイイ。いいオトコは、雑魚は相手にしないんだよね。
ハッ!
ピンときて、右側を歩く中学2年以来のくされ縁に目をやると・・・。
やっぱり。
・・・江梨奈も同じ目で兄を見上げてる。
あーあ、強力なライバル作っちゃたなあ。それに、問題その2もあるし・・・。
生活担当教諭が立ち並ぶレンガ造りの校門をくぐった時、始業10分前を告げる鐘の音が、威容を誇る大きな時計塔のてっぺんでゴーン、ゴーンと優雅に響き始めた。
夜。
智香は湯船につかりながらボーッと今日の事を考えていた。
新しいクラスは、おとなしそうな女の先生も含めて、まったく問題はなさそうだった。
なんと言っても、一つ階段を上がれば、お兄ちゃんの教室に行けるし。・・・でも、何であそこまで言いなりになってるかな、お兄ちゃんも・・・。
今日、帰りに3-Cの教室に寄った時の事を思い出す。智香が顔を出すと、兄のクラスもちょうど生徒達がばらけて帰る所だった。
「お兄ちゃ・・・」
声を掛けようと思った瞬間、何の飾り気もない短い黒髪の女生徒が、一番後ろでゆっくりと帰り支度をしている兄の前に立ちはだかる所だった。
「篠田君、まさか帰るつもりじゃないでしょうね。」
あの背筋のピンと伸びた姿、何処かで見たような・・・。
幹高は一瞥もせずに、黙々とカバンにノートを詰め込んでいる。
「委員会。さっき投票で決まったでしょう。」
腰に手を当てると、強力なオーラを放つ後ろ姿で兄を見下ろした。
残った生徒達が、面白そうに成り行きを見守っている。と、入り口で覗き込んでいる智香の頭の上から声がした。
「まったく、あのオンナ。絶対サドだわ。」
だ、誰・・・?
身を引いて見上げると、しょうゆ顔のやさ男が・・・。
げ、問題その2!
「こんにちは、智香ちゃん。今日から、同じ高等部だね。」
そして、幹高と同じくらいの長身を折りたたむように智香の顔に近づくと、
「休みも終わったし、勝負再開だよね。同じ、道ならぬ恋に身を焦がすド・ウ・シ。」
「・・・わ、わたしだって、負けませんからね、恭一さん。」
「お!」
不自然にバラけた肩にかかりそうな長髪(たぶん、染め直しだと思う)の下で、目尻の下がった瞳が面白そうにこっちを見た。
「それは、宣戦布告と取っていいのかな。智香ちゃんもホンキだね。では、まず僕が・・・。」
くそ、キョーイチなんかに負けてたまるか!
「おーい、お兄ちゃ・・・」
「おーい、ミキちゃ・・・」
二人同時に手を上げかけた時、幹高はあの女生徒と共に反対側のドアに向かう所だった。
「ああ、ちょっと委員会に出てから帰るから。」
廊下で二人を認めると、軽く手を上げてもっさりと歩み去っていく。前をシャキシャキと歩く女生徒とは対照的だ。
「・・・あのはっきりした顔立ちの人、誰です?」
「あれが、大沢千秋。智香ちゃんだって、名前くらい知ってるでしょ。」
恭一は踵を返すと、片手をズボンのポケットに突っ込み、もう片方の手をひらひらと振って歩いていく。
「じゃあね。今日は勝負預かりってことで。」
あの人が、『報明の女帝』生徒会長の大沢千秋さん、か。入学後の実力診断から学年トップを譲ったことがないっていう、伝説の・・・。
いかにも、って顔立ちだったものね。眉もきりっと太くて、目なんてわたしが睨まれたら凍っちゃいそうだったし。
・・・あ、ちょっとのぼせてきたかも。もう、出ないと。
入浴剤の穏やかな香りを吸い込むと、軽く伸びをした。
にしても、問題山積だわ。江梨奈はお兄ちゃんの素顔を見てから、すっかりその気だし、キョーイチは相変わらずだし。それに、あの生徒会長。ゼッタイ、お兄ちゃんを使い走りにするつもりだ。
脱衣所でゆっくりと身体を拭くと、大きな姿見に映った裸の全身をなんとなく見つめた。
あ~あ、やっぱり、ボリューム足りないよね。でも、前よりはゼッタイ格好がついてきたと思うんだけど。
右手を乳房の下に添えて、横向きにポーズを作ってみる。つんと上を向いた頂き。
うん、形はわるくないんだよね、形は。
それでもすぐに、健康診断の時に目撃した江梨奈の身体を想像してしまう。まるで、どっかのグラビアアイドルみたいな豊満な谷間。おしりも、わたしのみたいに平べったくないし・・・。
あんな身体でユウワクされたら、お兄ちゃんだってヤバイかも・・・・。
マケテナルモノカ!!
大き目のサイズのバスタオルを全裸の身体に巻くと、髪の毛を拭くのもそこそこに、脱衣所を飛び出した。
「智香。ちゃんと身体拭いてから出なさい!」
母親の声を後ろに、階段を駆け上る。
なんて言ったって、わたしには一緒に住んでるっていう最大のアドバンテージがあるんだから!
階段を上がって右側にある茶色のドアの前に立つと、バスタオルの胸元を直して、小さく息を吸い込む。
「智香か。開いてるぞ。」
ドアをノックすると、すぐに低いトーンの聞きなれた声で返事があった。
「ちょっとお邪魔するね~。」
椅子に座って、足をベッドに投げ出した格好で分厚い本を読んでいた幹高は、ちらっと智香の方を見たが、また本に目を戻した。
もう、なんで・・・。
本棚に囲まれた机の前まで行くと、立ったまま腰を屈めて、開いた本を覗き込むようにする。
・・・ちょっと恥ずかしいけど、これならお兄ちゃんだって・・・。
こうやって両手を膝につくような格好にすれば、わたしのムネだって、谷間ができるんだから。ホラ。
バスタオルの下には何も付けていない事を考えると、身体中が火照ってどうにかなりそう・・・。でも・・・。
「何の本、読んでるの?」
こげ茶色のハードカバーの表紙を持ち上げると、「ファウスト」と刻まれた銀色の字。
「こらこら。」
ページが持ち上がって読書を中断されると、幹高は目を上げて智香の方を見た。眼鏡の奥の深い瞳が智香の視線と合わさる。
チャンス!
ここぞばかりに腕を寄せると、胸を強調する。
「ね、野球の本?面白い?」
面白そうに瞳の色が輝くと、クックックッと笑い声が続いた。
「面白い奴だな、お前は。」
そしてしばらく押さえた声で笑い続けていた。
「・・・わ、わたし何か面白いこと、言った?」
「いや、いいよ。ごめんな。知らないことが悪いわけじゃないからね。それより、」
真面目な調子に戻ると、幹高は続けた。
「いつまでもそんな格好してるなよ。まだ冷えるからな。」
顔から火が吹き出しそうな決まり悪さが全身を駆け巡った。
・・・もう、お兄ちゃんなんて、お兄ちゃんなんて・・・!
「大っ嫌い!!」
自分でもびっくりするくらいの大声だった。ドアをバタンと閉めると、廊下を走って自分の部屋に駆け込んだ。
どうせ、どうせわたしは子どもよ。高等部に上がってちょっとは成長したかなあ、って思ったけど、中身は変わってないんだもの。そんなこと、わかってたけど、わかってたけど・・・。
『いつまでもそんな格好してるなよ。』はあんまりだ。
ベッドの上に倒れ込むと、頭を押さえていたタオルが外れて、濡れた髪が流れ落ちた。
・・・こんなにお兄ちゃんのこと好きなわたしが変なのかな。ううん、そんなことはゼッタイにない。あんなにカッコイイ人、わたしは他に知らないもの。それがたまたま、兄妹だっただけ。
そう言えば、一回、どうしてそんなに身だし並みに気を遣わないのか訊いたことがあったっけ。
『不潔じゃないだろ。それ以上は時間の無駄なんだ。』
短くそう言った。わたしには意味がよくわかる。いつもたくさんの本を読んで、週に何度かは身体を鍛えるために何処かの道場に通っていることも知ってる。外見だけのチャラチャラしたオトコとは、基本が違うんだ。
でも・・・、お兄ちゃんがどんどん前に進むたび、わたしのいる場所は小さくなってく。
智香はため息をついて身体を起こした。バスタオルが落ちて、湯上がりでまだほのかに桜色に染まった裸体に冷たい風が当たる。
「もうちょっと大きくなれよ、オイ。」
乳房を見下ろして、軽く両手で持ち上げてみる。手の平が少しだけ乳首に触れた瞬間、ビクッと軽い電気が背中に走った。
『さっさと済ませちゃえばいいのよ、一回しちゃうと、色気も変わってくるよ。』
やっぱ、バージンなんて面倒くさいもの、捨てちゃった方がいいのかな・・・。
考えながらも、両手は胸の頂きに添えられ、ゆっくりと手のひらで乳首に刺激を送り始めている。
でも、ダメ。バージンはお兄ちゃんにあげるって決めたんだもの。
もう一度ベッドに倒れ込むと、部屋のドアの鍵がかかっているか、痺れ始めた頭で確認した。
右手が脇腹を滑り落ち、太股を柔らかく撫で続ける。
本当は、少し恐いかも。お兄ちゃんに抱かれたら、わたし、どうなっちゃうんだろ・・・。
頭の中で妄想が膨れ上がって、閉じた目の裏に、幹高の像が徐々に結ばれていく。
・・・もう、こんなに濡れてる。ねえ、お兄ちゃん、わたしの、こんなになって待ってるんだよ。
草むらの下の濡れ始めた窪みに指を這わせる。入り口の柔らかいひだをくすぐるように弄ぶと、まだ左胸に添えられた手に、乳首が立ち上がってジリジリした反応を返してくる。
意識の中で結ばれた全裸の兄の像は、智香を見下ろすように傍らに座り込むと、右手に大きな手を添えて、小さな頭を見せはじめた敏感な核を探り当てた。
そこ、もっと触って・・・。
気が付くと、隆々と男を主張する兄の逸物が目の前にあった。
舐めて、欲しいの・・・?
おずおずと左手の指を唇の中に差し込むと、想像の中のペニスに舌を這わせる。
こんな感じでいい?気持ちいい?
兄の手の添えられた右手は、更に尖りだした核をむき出しにするように、二本の指で根元をなぶるようにこすり上げる。時折中指が、狭い入り口を確かめるように浅く忍び込み、周辺を刺激した。
口の中に差し込まれたものは、大きく膨れ上がり、舌の動くスピードもどんどん速くなっていく。
ああ、気持ちいい・・・。もっとして、もっとしたいの。
兄の身体が回転すると、股間に顔を埋めようとする。
もうおしりの方まで流れはじめた滴をざらざらした舌がすくいとる。溢れ出した中心に触れることなく柔らかに周りを舐め上げると、すっかり露わになった真珠に唇がたどり着いた。
そんなところ、刺激されたら・・・、もう・・・。
二本の指でむき出しにされた頂きを中指が弾いた瞬間、身体の中心からつま先まで激しい電気が走った。
「お、お兄、ちゃん・・・、イク!」
少しだけ開いた入口のヒダヒダが、わずかにうごめくのがわかった。頭の芯がジンジンして、しばらくは何も考えられない。身体から力が抜けて、ベッドの中に沈み込んでいくような気がする。
・・・また、しちゃった。
ごめんね、お兄ちゃん。勝手に使っちゃって・・・。
ひとりHの後は、いつもなんとなくアンニュイな気分になる。オトコの子なら、「すっきりした」で終わるんだろうけど。・・・お兄ちゃんは、どうなんだろう?
智香は、兄のそういう部分をどうしても想像できなかった。いつも冷静な幹高は、決して荒っぽい部分を顕わにすることはなかったから。
まだ少し余韻の残る体をゆっくりと持ち上げると、清潔なベージュの下着を選んで、赤いチェックのパジャマを身につけた。
トントン。
その時、部屋のドアが叩かれて、廊下から声がした。
「智香。」
慌ててパジャマのすそを確かめると、部屋の鍵を開けた。
「・・・お兄ちゃん。」
さっきまでの妄想が頭をかすめて、まともに顔を上げる事ができなかった。
「まったく、まだ頭も乾かしてなかったのか。」
優しい声。大きな手がまだ半渇きの髪の上に乗せられると、静かに言葉が続いた。
「・・・大丈夫か?何かあったんじゃないのか。」
その響きが気持ち良くて、ちょっとドキドキしながら目を上げると、お兄ちゃんの瞳がしっかりとわたしを見下ろしてる。
視線が合わさった途端、なんか今までのことはどうでもよくなってしまった。きっと、わたしの気持ちなんて、お兄ちゃんはちゃんとわかってる。それでも、こんなにわたしのこと・・・。
「大好き!」
思いっきり抱きついてしまった。
幹高の手は、戸惑うことなく智香の頭と肩に添えられている。一層優しげな表情を帯びると、諭すように言った。
「早く、大きくなれよ。」
いいんだ、お兄ちゃんがわたしの事、妹としか思ってなくても。だって、今のわたしじゃ、とっても振り向かせられないもの。
だからとりあえず、変なムシはわたしが排除するんだ。いいオンナになった時、最初にわたしの方を振り向いてもらうために!
智香は心の中で小さなガッツポーズを作った。
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