小説(転載) わたしの好きな兄だから! 2/4
近親相姦小説
第2章 夏~Beachで勝負?
「チカ、誰?この人。なんで幹高さんにベタベタしてるわけ?」
海岸線を走る電車の中、幹高が一時席を立つと、江梨奈は正面に座る銀髪の男を指差して言った。
・・・わたしの方が言いたいよ。お兄ちゃんと二人だけの海のはずが、なんでこの二人と一緒に・・・・。ハァ。
「原恭一さん。お兄ちゃんの高二の時の同級生だよ。」
「ダーメだよ、智香ちゃん。ちゃんと紹介してくれないと。」
派手に七色の英語のロゴが散らされたアロハ姿の恭一は、チッチッチッと指を振ると、江梨奈の方に身体を乗り出して言った。
「幹高の心友、いいかい?心の友と書いて『シンユウ』の原恭一だよ。そして、いつの日にか心のみならず身体も共にする最高のパートナーなんだな、これが。」
あ~あ、始まっちゃった、キョーイチの調子こきが・・・。
「な、なにこの人・・・。」
江梨奈は目を剥いてわたしの方を見る。
「・・・見た通り。もうずーっとこんな調子でお兄ちゃんを追っかけまわしてるの。」
げっ、目が・・・。江梨奈の目が燃えてる・・・。
「どういうこと!?幹高さんには、あんたみたいなヘンタイに追い回される筋合いはないわよ。」
江梨奈が再び正面を向いて睨み付けると、恭一は足を組んで肘を付き、余裕しゃくしゃくで見下ろした。
「ゲーっ。今どきなんて了見の狭いオンナだろ。愛に性別なんて関係ないよ。だっから、身体ばっかり育っても、メスガキはメスガキなんだよね~。」
「め、メスガキですって!?」
「だって、そうだろ。そんな恰好だけじゃ、ミキちゃんはびくともしないよ。なんたって、この美形の俺がどんなに誘惑したって、半年以上もなしのつぶてなんだから。」
「どういう意味よ!」
胸元も露わなピンクのタンクトップに、おへそ丸出しのデニムのホットパンツ姿の江梨奈は、手に顎を乗せてそっくり返る恭一の向かって、ボンと立ち上がった。
「ちょ、ちょっと、江梨奈。」
もう、周りの人が見てるじゃない。こんな狭い電車の中で、こんな大声出したら・・・。お兄ちゃ~ん、早く戻って来てよ。
「チカ、これ、どういうオトコ?ちょっと位顔がいいからって、性格歪んでんじゃないの?だいたい、なんでわたしに言わなかったのよ、こういうのが一緒だって!」
・・・だって、出かける前から問題起こるのわかってたし。どっちにしたって、わたしは二人で行きたかったんだもん。
その時、連結部のドアが開く音がした。身体を寄せて覗き込むと、やっぱり。
「お、お兄ちゃん。」
緑のTシャツにGパンという相変わらずの姿の幹高が、古びた青い座席の間をゆっくりと歩いてくる。
「さすがにこの辺りは景色は風情があるね。車掌さんが面白い話をしてくれたよ。ん、江梨奈ちゃん、どうした。」
「え、え。何でもないです。」
立ち上がったままだった江梨奈は、ペタリと座席に腰を下ろした。
「なんかさ、海が近づいてきたから興奮してるらしいよ。早く入りたいってさ。やっぱ、かわいいよな。この間まで中学生だったんだから、当たり前かもしれないけど。」
恭一は何事もなかったかのように言った。
え、江梨奈、目が恐いよ・・・。
「そうか。」
幹高は智香の前の席に腰掛けながらすまなそうに言った。
「じゃあ、先に保養所に行くべきだったかな。僕のわがままで鎌倉散策をすることにしてしまったけれど。」
もう、謝る必要なんてないのに!
「あ、いいです。わたしも、結構好きだし、お寺とか見るの。」
「ほーう。」
再びキョーイチの合いの手。
「そう。ならばよかった。」
言うと、幹高は列車の外を流れる景色に目をやった。小さな丘と緑の木々が飛び去り、町並みが時折顔を覗かせる。そして、かすかに海岸線が霞んで見えた。
幹高が言葉を止めたので、電車のガタン、ガタンという音が再び響き始め、四人はそれぞれに窓の外を見やっていた。
・・・そう言えばお兄ちゃん、この辺りの事、ちょっと話してたっけ。きっと、そういうこと考えてるんだろうな。
智香だけはこっそりと兄を表情を盗み見ると、小さくため息をついた。
あ~あ、お父さんとお母さんが行けなくなったって聞いた時、すっごく嬉しかったんだけどなあ。ふたりでこんな風に外を眺めながら電車に乗ってたら、きっと恋人同士みたいな感じで。
でも、この状態じゃあ・・・。
気が付くと、江梨奈は再び恭一の方をものすごい勢いで睨み付けていて、恭一はその視線をすかすと、小ばかにしたように鼻から息を吐いた。
ああ、頭が痛くなってきた。どうしたらいいんだろ。
う~ん、もうクタクタだぁ・・・。
いっぱい泳いだ後でお風呂に入るのって、格別。やっぱり、お父さんの会社の保養所って、Aランクだよね。
食事も終わって、浴衣で布団に寝転がると、すっかり暗くなった外からの浜風が気持ちいい。
江梨奈、遅いなあ。おふろ上がりにおじさん達に声掛けられてホイホイついてちゃたけど・・・。ま、いいや。江梨奈のことなんて。
電車でのファーストコンタクト以来、なんとかうまくいってたのに、海に入る段になってもうメチャクチャだったんだから。
・・・う~、また思い出しちゃった。
焼ける日差しに目を細めて、ビーチに立った時の事を思い出した。
淡いベージュ色の砂の広がるビーチには、たくさんのパラソルが花と咲き、カラフルな水着が目に痛いほど。所々でバーベキューの煙が上がり、遥か向こうではビーチバレーに歓声が上がっていた。
ちょっと心配だったけど、いい感じでいけそう。さて、場所取り、場所取りっと。
おだんごにした編み込みの頭をちょっと直すと、水着の胸を見下ろした。
だいぶがんばったんだけどなあ・・・。お兄ちゃん、気付いてくれるかなあ。
薄いピンクに南国の花々が満開に咲いた水着は、背中の部分が大きく開いて、後ろからは、おしりの窪みがもう少しで見えそうなほどのセパレートタイプに見える。
『ね、お兄ちゃん、サンオイル塗って。』とか・・・。この水着なら、結構いけるよね。
で、でも、おしりが見えそうでちょっと恥ずかしかったり・・・。それで、お兄ちゃんの手がちょっと触っちゃったり・・・。
『あ、ごめんな、智香。』なんて。
キャ~ッ!
「ちょっと、何一人で身悶えしてるの?」
少し癖のある高い声に振り向くと、パラソルを肩に抱えた江梨奈が立っていた。
「まったく、相変わらずおもしろいよね、チカは。」
ちょ、ちょっと。
学期中おなじみの両ひっつめ髪を、下ろして一本に束ねた江梨奈は裸だった・・・、じゃない。
「江梨奈、ぬ、布が・・・。」
胸の頂きとその周辺を申し訳程度に隠したイエローの布地は、豊かな稜線を隠すことなく細い紐で止められていた。そして、太股も露わなアンダーは、超ハイレグ!
「どしたの?」
「だ、だって・・・、大丈夫なの、そんな水着で。」
江梨奈は、ふん、と言うようにパラソルの柄をを砂に差し込んだ。
「他のオトコなんて、関係ないの。幹高さんを振り向かすには、これくらいの破壊力がないと。」
ガ~ン。これじゃ、わたしの水着なんて、ゼンッゼンインパクトがない。
「お、いいねぇ。ハミ乳に、ハミ尻!」
再び後ろから声。このすかした感じは間違いなく・・・。
二人同時に浜の入り口の方に目をやると・・・・。
「ギャ、ギャランドゥ・・・・。」
ハモってしまった。
「ちょっと、あんた。そんな格好で恥ずかしくないの!」
江梨奈は指を立てて噛みついたけど、わたしには無理。だって、だって・・・。
目を逸らすほどわずかな股間の布地。しかも、色はパープル。逸物の形がはっきり、モッコリと見て取れる。肩にかかりそうな銀髪と左肩に入ったハートのタトゥーがさらにインパクトを強めている。
「おや、お嬢さんみたいに恥知らずな豆タンクに言われたくはないよね~。そっちこそ、だろ。」
「ま、豆タンクですってぇ!」
さすがの江梨奈も、キョーイチにはちょっと押され気味かも・・・。ああ、でも、こんな強烈なのが二人いたら・・・。
電車の中の頭痛が再び蘇ってきた。
あーっ、もう、ほんとにあの二人には!あの後、オイル塗りでお兄ちゃんを奪い合おうとするし、どうにかツーショットになろうとするわで・・・。
横になっていた身体を起こすと、備え付けの冷蔵庫を開けて、オレンジジュースを一本取った。
はあ。
と、部屋のドアに誰かの身体がドン、っと当たる音。
「誰?」
引き戸を開けると、少し乱れた浴衣姿の江梨奈がゆらりと立っていた。
「江梨奈。」
うわっ、お酒くさい。
黙ったままふらりと智香の横を通り過ぎると、今しがたテーブルの上に置いたジュースを持ち上げる。
「あーっ、イラつく!あのエロオヤジども。」
と、おもむろに栓を抜き、ジュースをラッパ飲みした。
「ど、どしたの?江梨奈。」
ふぅーっ、と息をつくと江梨奈は吐き捨てた。
「ちょっと愛想振ったら、胸に手突っ込んできてさ、いくら?3本くらいでイイ?だもんね。ああ、嫌だ、嫌だ。なんでもお金でどうにかなると思ってる奴って。」
だめだ、これは。完全に目が据わってる。
「それで、大丈夫だったの?なんかされちゃったとか・・・。」
「冗談。あんたら、淫行条例って知ってる?て言ってやったから。はーあ、」
ばったりと仰向けに倒れると、江梨奈は呟いた。
「それもこれも、幹高さんが悪いんだ。わたし、結構がんばったつもりなのになあ。」
江梨奈・・・。
寝転がった横に座ると、心なしか虚ろな同級生の丸い顔を見下ろした。
「『ちょっとオイル塗ってください。』って言った時、ドキドキしてたんだよ。わたし。」
「うん。」
本当はゼッタイ負けたくないライバルのはずなんだけど・・・。
「『女の子同士でしたほうがいいよ。そういうのは、異性だったら彼とかにしてもらうものだから。』だもん。自分でブラの紐まで外したのに~!」
確かに。わたしも同じようなこと言われたもん。ほんと、ああいう時のお兄ちゃんってちょっと残酷。ほとんど海に入らずにパラソルの下で本読んでるし・・・。
「チカ、やっぱあんた凄いわ。妹の立場であの幹高さん相手にがんばろうって言うんだから。・・・わたしは、ちょっともう、無理かな・・・。」
え?
「あのむかつく恭一はいるし、さすがの江梨奈さんも白旗かなあ、なんて。」
少しもつれた舌で発された言葉に、ふっと寂しいような感じが胸に広がって。
「江梨奈。」
両手を顔の上で組み合わせた江梨奈の方に智香が身体を少し寄せた、その時。
「だから・・・、」
パッと目を見開くと、首の辺りに手を絡ませて智香を引き倒した。
「智香が慰めて。」
ギャ、やっぱり酔ってる!
「わ、わたしそういう趣味は~。」
「わたしの方は、あったりして。」
目、目がマジだよ。江梨奈ぁ。
江梨奈の手は、素早く胸元に滑り込むと、あっという間に智香を組み敷いて馬乗りの格好になる。
「中等部に入ったばっかの時、触りっこした仲でしょ。」
「あ、あれは・・。」
だって、あれくらいの時は誰でもあるちょっとした好奇心・・・。って、なんでもう裸になってるの?
智香を足で押え込んだまま帯を外すと、浴衣の下から何もつけていない裸体が露わになる。張りのある大きな乳房が揺れて・・・。
ど、どうしよう。嫌だ!って叫んでもいいんだけど。江梨奈だしぃ・・・。
ああ、ダメダメなわたしの巻き込まれ型の性格。
「ね、舐めて。」
顔の上にたわわな胸が押し付けられると、大きめの乳首が頬に当たる。
「で、でもぉ・・・。」
「あれ、こっちはそう言ってないみたいだけど。」
て、手が早ーい!!
後ろに下げられた手が、浴衣の裾をたくし上げると、ショーツの中に潜り込もうとしてる。
「ほら、ちょっと湿ってるよ。」
ち、違うもん。それは、暑かったから、汗が・・・。え、で、でも・・・。
江梨奈の細い指がショーツの脇から茂みの生え際に触れると、頭の奥でジーンと広がるおなじみの感覚。
や、やだ。
「ね、やっぱり。」
アルコールと官能の混じった妖しげな瞳で見下ろすと、自分の胸を智香の顔に押し付けたまま、江梨奈の左手は浴衣をはだけさせる。
だ、ダメぇ。
ブラジャー越しにやわやわと刺激されると、頭の奥のジンジンが更に増して・・・。
「チカのムネ、かわいくって好き。ね、わたしのも。」
もう、どうなってもいいかも・・・。
少しずつ靄に包まれていく意識の中で、智香は江梨奈の乳首におずおずと舌を這わせた。その瞬間、江梨奈の身体がビクッと震えるのがわかった。
すごい、江梨奈の、硬くなってくる。
もう少し積極的に、立ち上がってきたピンク色の突起に唇を這わせると、裸の背中に手を回して引き寄せる。
それに合わせて江梨奈の足が智香の足に絡み付き、太股に秘部を擦り付けるように腰が動き始める。
「イイょぅ、チカぁ。」
ついにショーツの中の手が濡れ始めた中心に届いた。
・・・さわって、江梨奈、わたしも・・・・。
智香の頭の中でも花が咲き始めようとした矢先、抱え込んだ江梨奈の背中と、口に含んだ乳首に細かい痺れが走った。
え?
「い、イッちゃう・・・。」
擦り付けていた太股を、両足がグッっと挟み込んだ時、細い声が江梨奈の口から漏れた。そして、がっくりと身体から力が抜けると、仰向けの智香の隣に崩れ落ちた。
そのまましばらく、ピクリとも動かない。
「え、梨奈?」
スゥー・・・。
小さな音が耳元で聞こえる。身体を少し起こして斜めに見ると・・・。
やっぱり。
江梨奈は布団に突っ伏したまま、静かに寝息を立てていた。
もう。ほんとに勝手なんだから。でも、まあいいかあ。
智香は乱れた下着と浴衣を直すと、裸のままの江梨奈に布団を掛けた。いつもは憎らしく見えるコケテッシュな表情が、今は何かとても身近に思えた。
「元気ないなあ、豆タンク。海に入らんのか。」
「うん、幹高さんと行ってきてよ。わたしは智香とここにいるから。」
「ふーん。」
つまらん、という風に恭一は言うと、幹高の方を見た。
「行こうぜ、ミキ。」
「ああ、そうだな。少しは入るか。」
着ていた薄手のパーカーを脱ぐと、幹高は読んでいた本をデッキチェアの上に置いて立ちあがった。そして、シートの上に智香と並んで膝を抱えた江梨奈の肩に少し手を置くと、
「大丈夫?」
と低い声で言った。
「うん。大丈夫。」
寂しげな江梨奈の笑み。うーん、なんかちょっとつらい。
「ね、お兄ちゃん。」
「どうした。」
「海に入る時くらい、眼鏡外したら?」
少し意味深な笑いを浮かべると、黒いトランクス型の水着を履いた幹高は、恭一の後を追って、ゆっくりと波打ち際に向かって歩いていく。
・・・やっぱり、かっこいいなあ、お兄ちゃんって。
ああやってパーカー着て、本読んでるとゼンゼンひ弱そうなイメージなんだけど、あんなに肩幅も広いし、筋肉もついてるし・・・。
「ね、チカ。」
膝を抱え込んだ江梨奈が切なそうに言う。
「やっぱり、わたし幹高さんのこと、あきらめる。」
「うん。」
ちょっと残念な気持ちになるのはどうしてだろう。でも、しょうがないよね。
「うん、ってチカ、驚いたり嬉しがったりしないの?」
「だって、昨日も聞いたもの。」
「・・・わたし、昨日そんなこと言った?」
「うん、言ったよ。憶えてないの?」
「う~ん。」
眉根を寄せると、江梨奈は海の方を見つめた。
「馬鹿オヤジどもに悪態をついた辺りまでは憶えてるんだけど・・・。その後の記憶があいまいで・・・。なんか、朝、裸で寝てるし。」
やっぱり。江梨奈って、アルコール入ると記憶が抜けちゃうタイプなんだよね。
「なんか、ライバルがいなくなるのはちょっと拍子抜けかな。」
少し微笑んで横を向いた。目が合うと、少し恥ずかしげに江梨奈の方が視線を逸らした。
「あ~あ、この水着ちょっとフライングだったなあ。」
江梨奈がごろりと寝転んだ時、南から輝いている正午近くの太陽を遮って、大きな人影がパラソルの中まで忍び込んできた。
誰?
視線を上げると、不自然にこげ茶色に焼けた肌の男が4人、取り囲むように見下ろしていた。
「そろそろ飽きてるんじゃない、彼女達。」
一番背が高く短い茶髪の男が身体を屈めて言った。腰に手を当てて、いかにも見せつけるように顔を斜めにして江梨奈の方に突き出した。
「彼女って、誰よ?」
寝転がったまま、顔をあさっての方向に向ける江梨奈。
もしかして、これってナンパ?でも、なんか4人とも嫌な感じ。年は、大学生くらいに見えるけど。
「うわ、やっぱこの子、気強いよ。」
サーファー風のヘアスタイルの男が他の3人に向けて言った。
「まあ、待てって。」
最初に話し掛けたリーダー風の男が手を上げた。
「君らも、あんな奴等と一緒じゃつまらないだろ?大体、その水着が泣いてるよ。俺達も、昨日からやきもきしてたのさ。夏の海に来て、本ばっかり読んでるオタク野郎がいるしね。水着で待ってる君らに、それはないだろ?」
ちょ、ちょっと!
「あの。」
「何?」
主に江梨奈の方を向いて話していた日焼け男は、智香の方を向いた。
「失礼な事、言わないで下さい。わたしの兄なんですから。」
「お、それはごめん。中学生の妹さん。でも、つまらないことは確かだろ?」
な、なんですって!
チュウガクセイという言葉が頭の中で響き渡る。声を荒げようと思った時、江梨奈が身体を起こした。
「あんた達、ナンパのイロハがなってないよ。けなしてどうすんの?この子はわたしの同級生。高校生よ。女の子の気分悪くしてどうするの?」
男の顔色が瞬時に変わった。親切ごかした仮面の奥から、冷酷な怒りの表情が現れる。
「えーっ、この子高校生だって。」
背の低いロン毛の男が叫んだ。隣の小太りの男が相づちを打つ。
「僕は、こっちの方が好みだな。遊んでなさそうで。」
「ば~か。おまえはロリだからな。」
サーファー風の男がケラケラと笑う。
な、何このオトコ達。人を物みたいに・・・・。
大声で怒鳴りたい気分になったが、声が出なかった。特に、リーダー格の男の視線に底のない冷たさを感じる。
「ずいぶんな口をきくようだね、年上の人間に。でもな、そういう格好で言ってもなんの説得力もないんだよ。」
江梨奈の前にしゃがみこむと、水着のストラップに指を掛けた。瞬間、江梨奈の目が燃えるように光ると、右手が男の頬をバシッっと張り飛ばした。
「おーっ。」
立っている他の3人が声を上げると、男は細い目を見開いて叫んだ。
「このガキ!人が優しくしてりゃ、つけあがりやがって!おまえら最初っからお○○こ目当てだろうが。乳だけがウリのメスガキのくせに、高く売ってんじゃねえよ。」
ど、どうしよう・・・。
周りに目をやったが、誰もが知らない振りだ。江梨奈、マズイよ・・・。
「ちょっと、先輩方。」
壁になっていた男達の向こう側から声がした。
きょ、キョーイチ。
「失礼ですが、女性を誘う時は、まず礼儀をわきまえた方がいいと思いますが。」
お兄ちゃん!
「なんだ、このオタク・・・・。」
サーファー男が見下ろそうとした時、幹高のほうが頭半分高い事に気付いて口篭もる。
「待てよ。」
しゃがみこんでいたリーダー格の男が立ち上がると、並んで構える幹高と恭一の方に歩み寄った。
「お兄さんね。」
今度は幹高と同じ視線で挑発するように目を合わせると、
「あの子、俺を殴ったわけだよ。あんたらが二人でよろしくやってる間にさ。よっぽど欲求不満が溜まっているみたいでさ。これって、あんたらの責任と違う?」
「二人でよろしく、だって。」
恭一がクスクスと笑った。他の3人が睨みつけたが、構わず笑い続ける。
「だから、何ですか?」
まったく怯むことなく、幹高は男の目を真っ直ぐに射た。
「だから何だ、はないだろ?こっちは痛い思いをしたんだから。」
恭一が、腕をぐいっと振り上げて示したが、幹高は手で制止した。
「肉体的苦痛も、精神的苦痛も、基本的には同義に扱われるべきだ。それくらいは大人ならわかるでしょう。」
「何?」
「男4人で囲まれて、身体の小さな女性が精神的恐怖を感じても、それはなんら不思議ではない。たとえ江梨奈ちゃんが先に手を出したとしても、それ以前に精神的苦痛が与えられていれば、紛う事のない正当防衛だ。そして、目撃者はいくらでもいる。どう考えても、責任があるのは僕たちではなく、あなた達のように思えるが。」
「・・・口ではなんとでも・・・。」
「更に先ほどの発言。充分に性的侮辱に値するものだと思いますが。間違いなく、刑事罰ものだ。まさか、この程度の事がわからないわけではないでしょう。さ、これ以上恥をさらさない内に引き上げた方がいい。せっかく楽しみに来たんだから、お互いに不快になっても意味がない。」
お、お兄ちゃん。恰好良すぎ・・・・。(LOVE。)
「お、おい。こいつら変だ。やめとこうぜ。」
背の低い一人が男の腕を引っ張って止めようとしたが、既に遅かった。
何の前置きもなく手を振り上げると、幹高の顔を捉えようとした。が、
バタン!
激しい音がして倒れ込んだのは男の方だった。幹高の身体が静かに脇にそれ、振り出された手を手繰ると、一瞬の内に男の体を地面に叩き付けたのだ。
「う、うう・・・。」
激しく背中を打ち付けられた男は、白目を剥いてうめき声を上げた。
「さーて、俺もやらしてもらおうかなあ。」
腕を組んで見つめていた恭一が肩を回し始めると、残った3人は目を泳がせてまわりを見渡した。既に数十人のギャラリーが集まり始めており、遠くから警備員の走ってくる様が見えた。
「や、やばいよ。行こうぜ。」
胸を押さえてうめき声を上げる男を抱え上げると、大学生風の4人組は、そそくさと浜の入り口の方へ逃げ去っていく。
幹高は、身体を反転させた時に落ちた眼鏡を拾うと、そのまま髪をかき上げて後ろでまとめた。
「すいません。お騒がせしました。」
伸ばされた髪の中から、引き締まった眉と彫りの深い瞳が現われ、丁寧にお辞儀がされると、ギャラリーから拍手が起こった。その中から背の高い老人が歩み出て、何か幹高に話し掛ける。
「まったく、とことんカッコイイ奴。」
座り込んだままの智香の隣に立った恭一が呟くのが聞こえた。
うーん、(LOVE)100乗。
さっきまでのちょっとした恐怖もすっかり吹き飛んで、久しぶりに髪を上げたお兄ちゃんの顔に見とれてしまう。
「チカ。」
と、同じように幹高を見つめていた江梨奈が視線をそのままに言った。
「わたし、あきらめるの、ヤメル。」
「え?」
「やっぱ、すっごいよ、幹高さん。あんな人、ゼッタイいないもの。ちょっと位の事で諦めてたら、一生もんの後悔になっちゃうよ。」
「ふーん、」
智香の横で立っていた恭一が江梨奈の前にしゃがみこんだ。
「そんなこと考えてたんだ。俺にとっては、諦めてもらったほうが好都合だったんだけど。」
「ふん。もう一度、宣戦布告よ。あんた達みたいなヘンタイに、幹高さんは渡さないわ。」
「ヘンタイですって!(だって!)」
うわ、キョーイチとハモってしまった。
「わたしは、(俺は、)お兄ちゃん(ミキちゃん)のこと、愛してるんだから~!」
「マネするな!キョーイチ!」
「そっちこそ!」
「わたしも、負けないぞ。」
私達三人の間に青白い火花が飛び散る。うわ・・・、これからどうなっちゃうんだろ。
「なんか、にぎやかだな。」
幹高がのんびりと歩いてくる。
「ま、仲良くなったみたいで何よりだ。」
もう、お兄ちゃんの鈍感!
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「チカ、誰?この人。なんで幹高さんにベタベタしてるわけ?」
海岸線を走る電車の中、幹高が一時席を立つと、江梨奈は正面に座る銀髪の男を指差して言った。
・・・わたしの方が言いたいよ。お兄ちゃんと二人だけの海のはずが、なんでこの二人と一緒に・・・・。ハァ。
「原恭一さん。お兄ちゃんの高二の時の同級生だよ。」
「ダーメだよ、智香ちゃん。ちゃんと紹介してくれないと。」
派手に七色の英語のロゴが散らされたアロハ姿の恭一は、チッチッチッと指を振ると、江梨奈の方に身体を乗り出して言った。
「幹高の心友、いいかい?心の友と書いて『シンユウ』の原恭一だよ。そして、いつの日にか心のみならず身体も共にする最高のパートナーなんだな、これが。」
あ~あ、始まっちゃった、キョーイチの調子こきが・・・。
「な、なにこの人・・・。」
江梨奈は目を剥いてわたしの方を見る。
「・・・見た通り。もうずーっとこんな調子でお兄ちゃんを追っかけまわしてるの。」
げっ、目が・・・。江梨奈の目が燃えてる・・・。
「どういうこと!?幹高さんには、あんたみたいなヘンタイに追い回される筋合いはないわよ。」
江梨奈が再び正面を向いて睨み付けると、恭一は足を組んで肘を付き、余裕しゃくしゃくで見下ろした。
「ゲーっ。今どきなんて了見の狭いオンナだろ。愛に性別なんて関係ないよ。だっから、身体ばっかり育っても、メスガキはメスガキなんだよね~。」
「め、メスガキですって!?」
「だって、そうだろ。そんな恰好だけじゃ、ミキちゃんはびくともしないよ。なんたって、この美形の俺がどんなに誘惑したって、半年以上もなしのつぶてなんだから。」
「どういう意味よ!」
胸元も露わなピンクのタンクトップに、おへそ丸出しのデニムのホットパンツ姿の江梨奈は、手に顎を乗せてそっくり返る恭一の向かって、ボンと立ち上がった。
「ちょ、ちょっと、江梨奈。」
もう、周りの人が見てるじゃない。こんな狭い電車の中で、こんな大声出したら・・・。お兄ちゃ~ん、早く戻って来てよ。
「チカ、これ、どういうオトコ?ちょっと位顔がいいからって、性格歪んでんじゃないの?だいたい、なんでわたしに言わなかったのよ、こういうのが一緒だって!」
・・・だって、出かける前から問題起こるのわかってたし。どっちにしたって、わたしは二人で行きたかったんだもん。
その時、連結部のドアが開く音がした。身体を寄せて覗き込むと、やっぱり。
「お、お兄ちゃん。」
緑のTシャツにGパンという相変わらずの姿の幹高が、古びた青い座席の間をゆっくりと歩いてくる。
「さすがにこの辺りは景色は風情があるね。車掌さんが面白い話をしてくれたよ。ん、江梨奈ちゃん、どうした。」
「え、え。何でもないです。」
立ち上がったままだった江梨奈は、ペタリと座席に腰を下ろした。
「なんかさ、海が近づいてきたから興奮してるらしいよ。早く入りたいってさ。やっぱ、かわいいよな。この間まで中学生だったんだから、当たり前かもしれないけど。」
恭一は何事もなかったかのように言った。
え、江梨奈、目が恐いよ・・・。
「そうか。」
幹高は智香の前の席に腰掛けながらすまなそうに言った。
「じゃあ、先に保養所に行くべきだったかな。僕のわがままで鎌倉散策をすることにしてしまったけれど。」
もう、謝る必要なんてないのに!
「あ、いいです。わたしも、結構好きだし、お寺とか見るの。」
「ほーう。」
再びキョーイチの合いの手。
「そう。ならばよかった。」
言うと、幹高は列車の外を流れる景色に目をやった。小さな丘と緑の木々が飛び去り、町並みが時折顔を覗かせる。そして、かすかに海岸線が霞んで見えた。
幹高が言葉を止めたので、電車のガタン、ガタンという音が再び響き始め、四人はそれぞれに窓の外を見やっていた。
・・・そう言えばお兄ちゃん、この辺りの事、ちょっと話してたっけ。きっと、そういうこと考えてるんだろうな。
智香だけはこっそりと兄を表情を盗み見ると、小さくため息をついた。
あ~あ、お父さんとお母さんが行けなくなったって聞いた時、すっごく嬉しかったんだけどなあ。ふたりでこんな風に外を眺めながら電車に乗ってたら、きっと恋人同士みたいな感じで。
でも、この状態じゃあ・・・。
気が付くと、江梨奈は再び恭一の方をものすごい勢いで睨み付けていて、恭一はその視線をすかすと、小ばかにしたように鼻から息を吐いた。
ああ、頭が痛くなってきた。どうしたらいいんだろ。
う~ん、もうクタクタだぁ・・・。
いっぱい泳いだ後でお風呂に入るのって、格別。やっぱり、お父さんの会社の保養所って、Aランクだよね。
食事も終わって、浴衣で布団に寝転がると、すっかり暗くなった外からの浜風が気持ちいい。
江梨奈、遅いなあ。おふろ上がりにおじさん達に声掛けられてホイホイついてちゃたけど・・・。ま、いいや。江梨奈のことなんて。
電車でのファーストコンタクト以来、なんとかうまくいってたのに、海に入る段になってもうメチャクチャだったんだから。
・・・う~、また思い出しちゃった。
焼ける日差しに目を細めて、ビーチに立った時の事を思い出した。
淡いベージュ色の砂の広がるビーチには、たくさんのパラソルが花と咲き、カラフルな水着が目に痛いほど。所々でバーベキューの煙が上がり、遥か向こうではビーチバレーに歓声が上がっていた。
ちょっと心配だったけど、いい感じでいけそう。さて、場所取り、場所取りっと。
おだんごにした編み込みの頭をちょっと直すと、水着の胸を見下ろした。
だいぶがんばったんだけどなあ・・・。お兄ちゃん、気付いてくれるかなあ。
薄いピンクに南国の花々が満開に咲いた水着は、背中の部分が大きく開いて、後ろからは、おしりの窪みがもう少しで見えそうなほどのセパレートタイプに見える。
『ね、お兄ちゃん、サンオイル塗って。』とか・・・。この水着なら、結構いけるよね。
で、でも、おしりが見えそうでちょっと恥ずかしかったり・・・。それで、お兄ちゃんの手がちょっと触っちゃったり・・・。
『あ、ごめんな、智香。』なんて。
キャ~ッ!
「ちょっと、何一人で身悶えしてるの?」
少し癖のある高い声に振り向くと、パラソルを肩に抱えた江梨奈が立っていた。
「まったく、相変わらずおもしろいよね、チカは。」
ちょ、ちょっと。
学期中おなじみの両ひっつめ髪を、下ろして一本に束ねた江梨奈は裸だった・・・、じゃない。
「江梨奈、ぬ、布が・・・。」
胸の頂きとその周辺を申し訳程度に隠したイエローの布地は、豊かな稜線を隠すことなく細い紐で止められていた。そして、太股も露わなアンダーは、超ハイレグ!
「どしたの?」
「だ、だって・・・、大丈夫なの、そんな水着で。」
江梨奈は、ふん、と言うようにパラソルの柄をを砂に差し込んだ。
「他のオトコなんて、関係ないの。幹高さんを振り向かすには、これくらいの破壊力がないと。」
ガ~ン。これじゃ、わたしの水着なんて、ゼンッゼンインパクトがない。
「お、いいねぇ。ハミ乳に、ハミ尻!」
再び後ろから声。このすかした感じは間違いなく・・・。
二人同時に浜の入り口の方に目をやると・・・・。
「ギャ、ギャランドゥ・・・・。」
ハモってしまった。
「ちょっと、あんた。そんな格好で恥ずかしくないの!」
江梨奈は指を立てて噛みついたけど、わたしには無理。だって、だって・・・。
目を逸らすほどわずかな股間の布地。しかも、色はパープル。逸物の形がはっきり、モッコリと見て取れる。肩にかかりそうな銀髪と左肩に入ったハートのタトゥーがさらにインパクトを強めている。
「おや、お嬢さんみたいに恥知らずな豆タンクに言われたくはないよね~。そっちこそ、だろ。」
「ま、豆タンクですってぇ!」
さすがの江梨奈も、キョーイチにはちょっと押され気味かも・・・。ああ、でも、こんな強烈なのが二人いたら・・・。
電車の中の頭痛が再び蘇ってきた。
あーっ、もう、ほんとにあの二人には!あの後、オイル塗りでお兄ちゃんを奪い合おうとするし、どうにかツーショットになろうとするわで・・・。
横になっていた身体を起こすと、備え付けの冷蔵庫を開けて、オレンジジュースを一本取った。
はあ。
と、部屋のドアに誰かの身体がドン、っと当たる音。
「誰?」
引き戸を開けると、少し乱れた浴衣姿の江梨奈がゆらりと立っていた。
「江梨奈。」
うわっ、お酒くさい。
黙ったままふらりと智香の横を通り過ぎると、今しがたテーブルの上に置いたジュースを持ち上げる。
「あーっ、イラつく!あのエロオヤジども。」
と、おもむろに栓を抜き、ジュースをラッパ飲みした。
「ど、どしたの?江梨奈。」
ふぅーっ、と息をつくと江梨奈は吐き捨てた。
「ちょっと愛想振ったら、胸に手突っ込んできてさ、いくら?3本くらいでイイ?だもんね。ああ、嫌だ、嫌だ。なんでもお金でどうにかなると思ってる奴って。」
だめだ、これは。完全に目が据わってる。
「それで、大丈夫だったの?なんかされちゃったとか・・・。」
「冗談。あんたら、淫行条例って知ってる?て言ってやったから。はーあ、」
ばったりと仰向けに倒れると、江梨奈は呟いた。
「それもこれも、幹高さんが悪いんだ。わたし、結構がんばったつもりなのになあ。」
江梨奈・・・。
寝転がった横に座ると、心なしか虚ろな同級生の丸い顔を見下ろした。
「『ちょっとオイル塗ってください。』って言った時、ドキドキしてたんだよ。わたし。」
「うん。」
本当はゼッタイ負けたくないライバルのはずなんだけど・・・。
「『女の子同士でしたほうがいいよ。そういうのは、異性だったら彼とかにしてもらうものだから。』だもん。自分でブラの紐まで外したのに~!」
確かに。わたしも同じようなこと言われたもん。ほんと、ああいう時のお兄ちゃんってちょっと残酷。ほとんど海に入らずにパラソルの下で本読んでるし・・・。
「チカ、やっぱあんた凄いわ。妹の立場であの幹高さん相手にがんばろうって言うんだから。・・・わたしは、ちょっともう、無理かな・・・。」
え?
「あのむかつく恭一はいるし、さすがの江梨奈さんも白旗かなあ、なんて。」
少しもつれた舌で発された言葉に、ふっと寂しいような感じが胸に広がって。
「江梨奈。」
両手を顔の上で組み合わせた江梨奈の方に智香が身体を少し寄せた、その時。
「だから・・・、」
パッと目を見開くと、首の辺りに手を絡ませて智香を引き倒した。
「智香が慰めて。」
ギャ、やっぱり酔ってる!
「わ、わたしそういう趣味は~。」
「わたしの方は、あったりして。」
目、目がマジだよ。江梨奈ぁ。
江梨奈の手は、素早く胸元に滑り込むと、あっという間に智香を組み敷いて馬乗りの格好になる。
「中等部に入ったばっかの時、触りっこした仲でしょ。」
「あ、あれは・・。」
だって、あれくらいの時は誰でもあるちょっとした好奇心・・・。って、なんでもう裸になってるの?
智香を足で押え込んだまま帯を外すと、浴衣の下から何もつけていない裸体が露わになる。張りのある大きな乳房が揺れて・・・。
ど、どうしよう。嫌だ!って叫んでもいいんだけど。江梨奈だしぃ・・・。
ああ、ダメダメなわたしの巻き込まれ型の性格。
「ね、舐めて。」
顔の上にたわわな胸が押し付けられると、大きめの乳首が頬に当たる。
「で、でもぉ・・・。」
「あれ、こっちはそう言ってないみたいだけど。」
て、手が早ーい!!
後ろに下げられた手が、浴衣の裾をたくし上げると、ショーツの中に潜り込もうとしてる。
「ほら、ちょっと湿ってるよ。」
ち、違うもん。それは、暑かったから、汗が・・・。え、で、でも・・・。
江梨奈の細い指がショーツの脇から茂みの生え際に触れると、頭の奥でジーンと広がるおなじみの感覚。
や、やだ。
「ね、やっぱり。」
アルコールと官能の混じった妖しげな瞳で見下ろすと、自分の胸を智香の顔に押し付けたまま、江梨奈の左手は浴衣をはだけさせる。
だ、ダメぇ。
ブラジャー越しにやわやわと刺激されると、頭の奥のジンジンが更に増して・・・。
「チカのムネ、かわいくって好き。ね、わたしのも。」
もう、どうなってもいいかも・・・。
少しずつ靄に包まれていく意識の中で、智香は江梨奈の乳首におずおずと舌を這わせた。その瞬間、江梨奈の身体がビクッと震えるのがわかった。
すごい、江梨奈の、硬くなってくる。
もう少し積極的に、立ち上がってきたピンク色の突起に唇を這わせると、裸の背中に手を回して引き寄せる。
それに合わせて江梨奈の足が智香の足に絡み付き、太股に秘部を擦り付けるように腰が動き始める。
「イイょぅ、チカぁ。」
ついにショーツの中の手が濡れ始めた中心に届いた。
・・・さわって、江梨奈、わたしも・・・・。
智香の頭の中でも花が咲き始めようとした矢先、抱え込んだ江梨奈の背中と、口に含んだ乳首に細かい痺れが走った。
え?
「い、イッちゃう・・・。」
擦り付けていた太股を、両足がグッっと挟み込んだ時、細い声が江梨奈の口から漏れた。そして、がっくりと身体から力が抜けると、仰向けの智香の隣に崩れ落ちた。
そのまましばらく、ピクリとも動かない。
「え、梨奈?」
スゥー・・・。
小さな音が耳元で聞こえる。身体を少し起こして斜めに見ると・・・。
やっぱり。
江梨奈は布団に突っ伏したまま、静かに寝息を立てていた。
もう。ほんとに勝手なんだから。でも、まあいいかあ。
智香は乱れた下着と浴衣を直すと、裸のままの江梨奈に布団を掛けた。いつもは憎らしく見えるコケテッシュな表情が、今は何かとても身近に思えた。
「元気ないなあ、豆タンク。海に入らんのか。」
「うん、幹高さんと行ってきてよ。わたしは智香とここにいるから。」
「ふーん。」
つまらん、という風に恭一は言うと、幹高の方を見た。
「行こうぜ、ミキ。」
「ああ、そうだな。少しは入るか。」
着ていた薄手のパーカーを脱ぐと、幹高は読んでいた本をデッキチェアの上に置いて立ちあがった。そして、シートの上に智香と並んで膝を抱えた江梨奈の肩に少し手を置くと、
「大丈夫?」
と低い声で言った。
「うん。大丈夫。」
寂しげな江梨奈の笑み。うーん、なんかちょっとつらい。
「ね、お兄ちゃん。」
「どうした。」
「海に入る時くらい、眼鏡外したら?」
少し意味深な笑いを浮かべると、黒いトランクス型の水着を履いた幹高は、恭一の後を追って、ゆっくりと波打ち際に向かって歩いていく。
・・・やっぱり、かっこいいなあ、お兄ちゃんって。
ああやってパーカー着て、本読んでるとゼンゼンひ弱そうなイメージなんだけど、あんなに肩幅も広いし、筋肉もついてるし・・・。
「ね、チカ。」
膝を抱え込んだ江梨奈が切なそうに言う。
「やっぱり、わたし幹高さんのこと、あきらめる。」
「うん。」
ちょっと残念な気持ちになるのはどうしてだろう。でも、しょうがないよね。
「うん、ってチカ、驚いたり嬉しがったりしないの?」
「だって、昨日も聞いたもの。」
「・・・わたし、昨日そんなこと言った?」
「うん、言ったよ。憶えてないの?」
「う~ん。」
眉根を寄せると、江梨奈は海の方を見つめた。
「馬鹿オヤジどもに悪態をついた辺りまでは憶えてるんだけど・・・。その後の記憶があいまいで・・・。なんか、朝、裸で寝てるし。」
やっぱり。江梨奈って、アルコール入ると記憶が抜けちゃうタイプなんだよね。
「なんか、ライバルがいなくなるのはちょっと拍子抜けかな。」
少し微笑んで横を向いた。目が合うと、少し恥ずかしげに江梨奈の方が視線を逸らした。
「あ~あ、この水着ちょっとフライングだったなあ。」
江梨奈がごろりと寝転んだ時、南から輝いている正午近くの太陽を遮って、大きな人影がパラソルの中まで忍び込んできた。
誰?
視線を上げると、不自然にこげ茶色に焼けた肌の男が4人、取り囲むように見下ろしていた。
「そろそろ飽きてるんじゃない、彼女達。」
一番背が高く短い茶髪の男が身体を屈めて言った。腰に手を当てて、いかにも見せつけるように顔を斜めにして江梨奈の方に突き出した。
「彼女って、誰よ?」
寝転がったまま、顔をあさっての方向に向ける江梨奈。
もしかして、これってナンパ?でも、なんか4人とも嫌な感じ。年は、大学生くらいに見えるけど。
「うわ、やっぱこの子、気強いよ。」
サーファー風のヘアスタイルの男が他の3人に向けて言った。
「まあ、待てって。」
最初に話し掛けたリーダー風の男が手を上げた。
「君らも、あんな奴等と一緒じゃつまらないだろ?大体、その水着が泣いてるよ。俺達も、昨日からやきもきしてたのさ。夏の海に来て、本ばっかり読んでるオタク野郎がいるしね。水着で待ってる君らに、それはないだろ?」
ちょ、ちょっと!
「あの。」
「何?」
主に江梨奈の方を向いて話していた日焼け男は、智香の方を向いた。
「失礼な事、言わないで下さい。わたしの兄なんですから。」
「お、それはごめん。中学生の妹さん。でも、つまらないことは確かだろ?」
な、なんですって!
チュウガクセイという言葉が頭の中で響き渡る。声を荒げようと思った時、江梨奈が身体を起こした。
「あんた達、ナンパのイロハがなってないよ。けなしてどうすんの?この子はわたしの同級生。高校生よ。女の子の気分悪くしてどうするの?」
男の顔色が瞬時に変わった。親切ごかした仮面の奥から、冷酷な怒りの表情が現れる。
「えーっ、この子高校生だって。」
背の低いロン毛の男が叫んだ。隣の小太りの男が相づちを打つ。
「僕は、こっちの方が好みだな。遊んでなさそうで。」
「ば~か。おまえはロリだからな。」
サーファー風の男がケラケラと笑う。
な、何このオトコ達。人を物みたいに・・・・。
大声で怒鳴りたい気分になったが、声が出なかった。特に、リーダー格の男の視線に底のない冷たさを感じる。
「ずいぶんな口をきくようだね、年上の人間に。でもな、そういう格好で言ってもなんの説得力もないんだよ。」
江梨奈の前にしゃがみこむと、水着のストラップに指を掛けた。瞬間、江梨奈の目が燃えるように光ると、右手が男の頬をバシッっと張り飛ばした。
「おーっ。」
立っている他の3人が声を上げると、男は細い目を見開いて叫んだ。
「このガキ!人が優しくしてりゃ、つけあがりやがって!おまえら最初っからお○○こ目当てだろうが。乳だけがウリのメスガキのくせに、高く売ってんじゃねえよ。」
ど、どうしよう・・・。
周りに目をやったが、誰もが知らない振りだ。江梨奈、マズイよ・・・。
「ちょっと、先輩方。」
壁になっていた男達の向こう側から声がした。
きょ、キョーイチ。
「失礼ですが、女性を誘う時は、まず礼儀をわきまえた方がいいと思いますが。」
お兄ちゃん!
「なんだ、このオタク・・・・。」
サーファー男が見下ろそうとした時、幹高のほうが頭半分高い事に気付いて口篭もる。
「待てよ。」
しゃがみこんでいたリーダー格の男が立ち上がると、並んで構える幹高と恭一の方に歩み寄った。
「お兄さんね。」
今度は幹高と同じ視線で挑発するように目を合わせると、
「あの子、俺を殴ったわけだよ。あんたらが二人でよろしくやってる間にさ。よっぽど欲求不満が溜まっているみたいでさ。これって、あんたらの責任と違う?」
「二人でよろしく、だって。」
恭一がクスクスと笑った。他の3人が睨みつけたが、構わず笑い続ける。
「だから、何ですか?」
まったく怯むことなく、幹高は男の目を真っ直ぐに射た。
「だから何だ、はないだろ?こっちは痛い思いをしたんだから。」
恭一が、腕をぐいっと振り上げて示したが、幹高は手で制止した。
「肉体的苦痛も、精神的苦痛も、基本的には同義に扱われるべきだ。それくらいは大人ならわかるでしょう。」
「何?」
「男4人で囲まれて、身体の小さな女性が精神的恐怖を感じても、それはなんら不思議ではない。たとえ江梨奈ちゃんが先に手を出したとしても、それ以前に精神的苦痛が与えられていれば、紛う事のない正当防衛だ。そして、目撃者はいくらでもいる。どう考えても、責任があるのは僕たちではなく、あなた達のように思えるが。」
「・・・口ではなんとでも・・・。」
「更に先ほどの発言。充分に性的侮辱に値するものだと思いますが。間違いなく、刑事罰ものだ。まさか、この程度の事がわからないわけではないでしょう。さ、これ以上恥をさらさない内に引き上げた方がいい。せっかく楽しみに来たんだから、お互いに不快になっても意味がない。」
お、お兄ちゃん。恰好良すぎ・・・・。(LOVE。)
「お、おい。こいつら変だ。やめとこうぜ。」
背の低い一人が男の腕を引っ張って止めようとしたが、既に遅かった。
何の前置きもなく手を振り上げると、幹高の顔を捉えようとした。が、
バタン!
激しい音がして倒れ込んだのは男の方だった。幹高の身体が静かに脇にそれ、振り出された手を手繰ると、一瞬の内に男の体を地面に叩き付けたのだ。
「う、うう・・・。」
激しく背中を打ち付けられた男は、白目を剥いてうめき声を上げた。
「さーて、俺もやらしてもらおうかなあ。」
腕を組んで見つめていた恭一が肩を回し始めると、残った3人は目を泳がせてまわりを見渡した。既に数十人のギャラリーが集まり始めており、遠くから警備員の走ってくる様が見えた。
「や、やばいよ。行こうぜ。」
胸を押さえてうめき声を上げる男を抱え上げると、大学生風の4人組は、そそくさと浜の入り口の方へ逃げ去っていく。
幹高は、身体を反転させた時に落ちた眼鏡を拾うと、そのまま髪をかき上げて後ろでまとめた。
「すいません。お騒がせしました。」
伸ばされた髪の中から、引き締まった眉と彫りの深い瞳が現われ、丁寧にお辞儀がされると、ギャラリーから拍手が起こった。その中から背の高い老人が歩み出て、何か幹高に話し掛ける。
「まったく、とことんカッコイイ奴。」
座り込んだままの智香の隣に立った恭一が呟くのが聞こえた。
うーん、(LOVE)100乗。
さっきまでのちょっとした恐怖もすっかり吹き飛んで、久しぶりに髪を上げたお兄ちゃんの顔に見とれてしまう。
「チカ。」
と、同じように幹高を見つめていた江梨奈が視線をそのままに言った。
「わたし、あきらめるの、ヤメル。」
「え?」
「やっぱ、すっごいよ、幹高さん。あんな人、ゼッタイいないもの。ちょっと位の事で諦めてたら、一生もんの後悔になっちゃうよ。」
「ふーん、」
智香の横で立っていた恭一が江梨奈の前にしゃがみこんだ。
「そんなこと考えてたんだ。俺にとっては、諦めてもらったほうが好都合だったんだけど。」
「ふん。もう一度、宣戦布告よ。あんた達みたいなヘンタイに、幹高さんは渡さないわ。」
「ヘンタイですって!(だって!)」
うわ、キョーイチとハモってしまった。
「わたしは、(俺は、)お兄ちゃん(ミキちゃん)のこと、愛してるんだから~!」
「マネするな!キョーイチ!」
「そっちこそ!」
「わたしも、負けないぞ。」
私達三人の間に青白い火花が飛び散る。うわ・・・、これからどうなっちゃうんだろ。
「なんか、にぎやかだな。」
幹高がのんびりと歩いてくる。
「ま、仲良くなったみたいで何よりだ。」
もう、お兄ちゃんの鈍感!
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