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小説(転載) わたしの好きな兄だから! 4/4

近親相姦小説
10 /17 2018
第4章 冬~イモウト?コイビト?
 文化祭と、それに続く期末試験での事件以来、お兄ちゃんの周りの環境は一変してしまった。いつの間にか、うちの学年にファンクラブみたいなものもできてるし。
 だいたい、先生だって本人に訊いて欲しい。
「幹高の志望校は何処なんだ?篠田、おまえ知ってないか。」
 そんなこと聞かれたって答えるわけにいかないじゃない。そりゃ、先生方は少しでも学校のネームバリューを上げたかったんだろうけど。
 でも、ますますお兄ちゃんに近づきにくくなっちゃった・・・。だって、クラスの人達の目が恐いんだもん。
 智香は、3学期に入ったばかりの時に下駄箱に無頓着に投げ込まれていた紙切れの事を思い出した。
『イモウトだからってベタベタしてんじゃねーよ。これ以上くっついたら、コロスよ。ギャハハ!』
 ああ、ヤダヤダ。あの人達が好きなのはお兄ちゃんじゃない。自分が勝手に作ったニセモノを愛してるだけ。
 ・・・でも、そういうわたしはどうなんだろ?
 考え込むと、熱湯の中に入れた小なべをかき混ぜる手が止まる。
 ああ!ヤバイ。チョコが固まっちゃう。
 そうよ、悩んだってしょうがない。あと2ヶ月しかないんだもん。当たって砕けろ!よ。
 象の柄のついた青いエプロンに黒い染みを付けながら、智香のチョコ制作は順調に進んだ。
 大きなハートの型に溶けたチョコを流し込んだところで、一息ついた。
 あとは、ストロベリーチョコとチップで『LOVE』って大きく入れてっと。去年は、『THANKS』としか入れられなかったけど、今年のわたしは違うんだから!
 その時、玄関の戸がバタンと閉まる音がした。
 あ、お兄ちゃんだ。マズ、今キッチンに来られちゃうと。
 智香はパタパタと廊下を走ると、玄関に飛び出た。
「お帰りなさ~い。」
 いつもの制服姿で、靴を脱ぐために玄関に座った幹高が後ろを振り向く。
「ただいま。」
「今日も、図書館? お茶なら、わたしが持ってってあげるから。」
 台所への入り口を隠すように両手を前に組んで立った妹の姿を、幹高は優しい表情で見つめた。
「うん。じゃあ、部屋に行ってる。」
 ゆっくりと階段を上がっていく。
 あっ!
 編み込みを止めた頭を隠すようにかぶった三角巾と、チョコで汚れたエプロンに気付いて硬直する。
 ・・・まったく、バレバレじゃない。でも、いいんだ。今日は2月14日だもん。きっと、お兄ちゃんだって期待してるはず。
 さあ、もうひと頑張り!


 智香と幹高の母親から電話があったのは夕方になってからだった。帰りが遅くなるから何か出前でも取って食べなさい、と聞いた後で、先に誘ったのは幹高の方だった。
「智香。外に食べに行くか?」
「うん、行く行く!」
 そして、2人が夜のバレンタインの街に出たのは、時計の針が6時を回った頃だった。
 繁華街は黄や緑、オレンジのネオンで華やかに輝いていた。
 ベージュのハーフコートに緑のマフラーを巻いた智香は、素っ気ない紺のジャンパーを着た幹高の横を、両手を後ろに組んで歩いていた。
 お兄ちゃんが、食事に誘ってくれるなんて。それも、きょうは14日・・・。
 華やかな街の眺めと、斜め前を歩く体格の良い兄の姿に、胸の動悸が止まらない。
「わあ、きれい。見て、お兄ちゃん。」
 メインストリートのアーケード街に入ると、天井から下がるクリスタルのモールに光が反射して7色の海が頭上にあるようだった。
 ゆっくりと歩きながら、おしゃれな店が軒を連ねる通りの半ばに差しかかる。気が付けば、側を過ぎていくのは着飾ったアベックばかりだった。
「ね、」
 ドキドキしながら声をかける。だって、今しかない。
「腕、組んでいい?」
「ああ。」
 少しうわの空で幹高は答えた。智香はスッと兄の左腕に自分の右手を滑り込ませると、身体を密着させる。
 ああ、なんか夢みたい。それに、これも渡せる・・・。
 コートのポケットに入れたチョコの箱を確かめた。
 そうだ。今日、言おう。『あなたが好きです』って。妹としてでなく、あなたが好きなんだって。
「ここにしようか。」
 ロココ風に装飾された木のドアと、店の名前を象った銅細工の看板が目立つイタリアンレストランの前で、幹高は立ち止まった。
 店内に入ると、暖色系でまとめられた調度と、えんじ色のテーブルクロス、窓際に置かれた数々の小さなレリーフと、全体が落ち着いた雰囲気を醸し出している。
「・・・お兄ちゃん、よくこんな店知ってたね。」
「いや。僕も初めてだよ。一度、寄ってみたいとは思ってたんだけれどね。」
 え。じゃあ、わたしのために初めて一緒に来てくれたってこと? なんか嘘みたい。
 丸いライトの下、ウェイターに窓際の席まで案内される間、足元がふわふわしてまるで現実感がなかった。腰を下ろしてメニューを開くと、アルファベットの並ぶ下に、小さく日本語が印刷された沢山のパスタの名前。
「うわあ、凄い。なんか、知らない名前がいっぱいあるよ。」
「そうだね。」
 珍しくあたりをちらちらと眺めながら幹高はメニューに目をやっている。
「この、ディナーのパスタコースっていうのが良さそうだ。」
「うん。」
 店内はほとんどがカップルばかりだった。大してセットもされていない幹高のボサボサ頭は、小奇麗にしている客の間で少し異彩を放っていたが、そんなことは智香に全然関係がなかった。
「この、コースで。」
 メニューを指差すと、黒いネクタイがシックなウエイターが訊ねる。
「パスタは、どちらに致しましょう?」
「僕は、ムール貝のペスカトーレで。智香は?」
 こんな店で、「智香は?」だって・・・。なんか、すっごい幸せだ~。
「智香。」
「う、うん。わたしは、この厚切りベーコンのカルボナーラをお願いします。」
「はい。かしこまりました。」
 ウェイターが下がっていくと、智香はまだメニューを見ている兄を横目に見ながら、そっと窓の外を見た。モスグリーンのカーテンのかかった窓の向こうにでは、アーケードの光の下を思い思いに歩いていく人達。
 しばらく無言で眺めていると、幹高も同じように外をぼんやりと見ていることに気付いた。
 そ、そうだ。今しか!
 白いセーターの袖を直すと、少し深く椅子に腰掛ける。
 ドキドキドキ・・・。
 少し息を吸い込むと、できるだけ落ち着いた声を出すように努力する。
「お兄ちゃん。」
 コートのポケットから丁寧にラッピングした10センチ角の箱を取り出すと、机の下で握り締める。
「ん?」
「これ。」
 緑色に淡い雪の散らされた包装紙に、金のリボンがかけられたチョコの包みを差し出す。
「いつも、ありがとう。」
 ああ、違うぅ!いつも大好きだよ、って言うつもりだったのに。
「こちらこそ。」
 受け取ると、畳まれたジャンパーの上にそのまま包みを置こうとする幹高。
 あ、だめ。
「ね、お兄ちゃん、ここで開けて見てくれない?」
「あ、ああ。」
 眼鏡の奥から少し智香の方を見ると、包装紙を剥がし始める。
 う~、息が苦しくなりそうだ。
 ゆっくりと白い箱が開けられると、ピンクで『LOVE』と書かれた文字に白いホワイトチョコのチップがまぶされたハート型のチョコが現れた。
 あ・・・。
 なんか、ちょっと寂しそうに見えた。どうして、そんな風に微笑むの?でも、でも、今言わなきゃ!
 智香がもう一度口を開きかけた時、ジジジジジと振動が幹高の脇の荷物の当たりで響いた。
「はい。」
 携帯電話を取り上げると、小さな声で幹高は応答した。
「うん、うん。」
 もう、なんて間の悪い・・・。でも、お兄ちゃんの顔、今までわたしが見たことがないくらい柔らかい感じだ。
「ああ、今、妹と食事してるから。え?そんなことはないよ。うん、後で。」
 携帯を傍らに置くと、幹高は包みを丁寧に元に戻しながら、言った。
「ありがとう。智香。結構楽しみなんだよ。おまえから毎年チョコもらうのって。」
「う、うん。」
 出かけた言葉が砂に水が溶け込むように消えていく。今の、誰?聞きたいけれど、声が出ない。
「何か用事入った?」
「ああ、大丈夫だよ。食べる時間くらいはあるから。」
 食べる時間くらいは・・・、か。
 全てが凍り付いてしまったように感じた。暖かかったはずのライトも、外の眺めも、冬の寒さを唐突に感じさせる。並べられた料理は、後になってもどんな味だったかまったく思い出せなかった。


 大雪かもしれない、という天気予報のとおり、3月の空には低く灰色の雲がたち込めていた。それでも智香は、電車を乗り継いで大学の構内までやってきた。
 幹高が、全国で最難関のここの法学部を受ける、と言ったのはバレンタインの日からほどなくだった。留学を取りやめたかと喜んだのもつかの間、ただ受験するだけだとわかった時、少し落ち込んだのも確かだった。
 う~、寒いな・・・。もう3月なのに。
「チカ、もうチャンスが少ないよ。幹高さんなら間違いなく合格するから、その時に最初に祝福しちゃうといいよ。」
 江梨奈に背中を押されてここまで来たけど、ほんとにすごい数の人だなあ。それに、こんな所にいると、自分がまだまだ高校生だって思い知らされちゃう・・・。
 大きなスチールの掲示板の前には、何百人もの人が集まり、今か今かと合格発表を待ちわびている。
 だいたい、こんな人ごみの中じゃ、お兄ちゃんが見つかるかどうかもわかんないよ。
 ・・・それしても、寒いよお。
 赤のラインが入った白いニットの帽子を耳までかぶり直すと、茶色のロングコートの襟を寄せた。
「おっ。」
 隣に立っていた男2人組みが声を上げると、人垣の向こう側に黒い字の書かれた紙がバタバタと音を立てながら運ばれてきた。
 もうすでに、いくつかの場所で落胆と喜びの声が響き始めている。職員が脚立を立てて、掲示板に大きな白い紙を張り付けた。
 えっと、お兄ちゃんの番号は3657、と。
 3345、3443、3512、3581、・・・・・・あった。3657。
 だよね。落ちるわけないよね。でも、ちょっとドキドキしたかな。
 さて、後はお兄ちゃんを探すだけだ。今日朝、発表を見に行くって言ったから、ぜったい何処かにいるはずだけど。
 ほとんどが智香より背の高い背中を見ながら、兄の姿を探す。
 結構おしゃれに気を遣ってない人が多いなあ。いつもなら、簡単に見つかると思うんだけど・・・。
 あれ?
 見覚えのある背中があった。でも、着ている服は薄いグレーのハーフコートで、緑と白のチェックのマフラーも巻かれている。そして、髪の毛はしっかりセットされて、後ろに撫で付けられてるし・・・。人違いかな?
 あ!!
 一瞬、時間が止まって、全てがモノクロに見えた。
 隣でブルーのカーディガンを着て、見慣れた背中に寄り添っている女性の顔・・・。
 ショートカットの、眉の引き締まった、瞳の大きな、背の高い・・・。
 大沢千秋さん。
「よかった。わたしの番号、あるね。」
「大丈夫だって、言っただろう。」
 聞き慣れた声。
「幹高は、そうやって余裕だろうけど。わたしはそういうわけにはいかないから。でも、ありがと。一緒に受けてくれて。」
 言って、身体を寄せた。
 お兄ちゃんの手が、千秋さんの肩にかかる。
 ほんとは、わかってた。ずっと心の中で言葉にするのが怖かったけれど。いくつかのお兄ちゃんの仕草、秋の文化祭、バレンタインの電話。全部が、お兄ちゃんの心に誰かが住んでいる事を指してた。ほんとは、わかってたんだ。
 その後のことは、時間が止まったようにぼんやりとしていた。発表の会場を出る2人の後を見つからないようにずっと尾けていく。電車に乗って、一つ乗り換えて、駅で待って・・・。気が付けば、自分達が住んでいる街に戻っていた。その間、千秋さんの肩はずっと、お兄ちゃんの側に寄り添ったまま。
 駅前商店街を抜けて、アーケード街に入る。少しずつ暗くなる景色の中、2人はいつか見た店の前に立っていた。
 あ、そうか・・・。そうなんだ。
 バレンタインの日にお兄ちゃんと入ったイタリアンレストラン。
 店の張り出した柱の影に身を潜めると、はっきりと声が聞こえた。
「あ、いいお店。」
「うん。今日は千秋のお祝いってことで。」
「もう、幹高もでしょ。」
「僕は、関係ない。そういうことは、向こうの大学を卒業できた時、だ。」
 千秋さんが笑った。
「もう、らしいんだから。」
 言って、キスをした。
 キスを、した。
 涙が出てきた。ずっと、発表会場から我慢していた涙が。何も考えられない。どうして、お兄ちゃん、わたしを残してその人を選んだの?
 少しでもその場所を離れたかった。でも、目が霞んで何も見えない。走り出すと、すぐに誰かの肩にぶつかった。
「すいません。」
 拍子に、かぶっていたニットの帽子が脱げ落ちたけれど、拾う気にもなれなかった。ただ、この場所から離れたかった。
 何処を歩いているのかもわからないままで、ただただ、人ごみの中を抜けていく。涙が、ぜんぜん止まらない。
 わたしが、コドモだから?妹だから?お兄ちゃん、わたしの気持ちをゼッタイ知ってたはずなのに。
 ううん、でも、しょうがない。気付いていたからって、何ができるの?わたしみたいな子、妹じゃなかったらお兄ちゃんの側にいることなんてできるわけもないんだもの。お兄ちゃんが好きになるのはやっぱり、千秋さんみたいな人に決まってる。
 バレンタインのチョコを見た時のつらそうな顔。
 やっぱりわたし、お兄ちゃんのお荷物にしかなってなかった。
 ・・・冷たい。
 いつの間にか、街外れに智香は立っていた。暗くなった空からは、ひらひらと雪が舞い始めている。
 頭を触わると、編み込んだ髪の毛はすっかり解け、バラバラになって肩にかかっていた。
 ・・・帰らなきゃ・・・。
 街灯の下で空を見上げた。雪は更に激しさを増して降り落ちてくる。コートの肩が白くなり、体が冷えてくるのがわかった。
 でも、足が動かない。このままここに、座り込んでしまいたい・・・。このまま、ずっと。
 その時、頭の上に、ふわっと何かの布がかけられるのがわかった。
 わたしの、帽子。
 振り向くと、静かに幹高が見下ろしていた。髪を上げて、眼鏡をかけていない彫りの深い瞳が、智香を見つめる。
「無茶、するな。」
 お兄ちゃん、どうして。
 そして、白いニットの帽子を耳までかぶせると、智香の肩に手をかけた。
「帰ろう、智香。風邪を引くぞ。」
「ヤダ!」
 叫ぶ気はなかったのに、静かになった街外れに、わたしの声が響き渡った。
「ゼッタイ、嫌だ!だって、このまま家に帰ったら、お兄ちゃんは、お兄ちゃんは・・・」
 そのままわたしの所からいなくなっちゃう。
「智香。無理を言うな。このままだと、冗談じゃすまなくなるぞ。」
 幹高の肩にも、白い雪が残り始めていた。街灯の光が、下り始めた白いベールに黄色く淡いゆらめきを映し出している。
「・・・さ、帰ろう。」
 もう一度、ゆっくりと幹高は言った。
「嫌だ。」
 ため息をつくと、智香の乱れたコートの襟を両手で直して再び肩に手を置く。
「じゃ、どうすればいい?お兄ちゃんとしては、お前をここに立たしておく事だけはできないぞ。」
 ・・・もう、なんでそんなに優しいの?わたし、無理を言ってるんだよ。こんな子、置いてっちゃっていいんだよ。
 また、涙が溢れてきた。
「ほら。」
 幹高はしゃがみ込むと、ハンカチで智香の頬を拭った。
「・・・ね、お兄ちゃん。」
 涙まじりの声で言う。
「ん?」
 言っちゃたら、全部が終わってしまうかもしれない一言。
「わたしの気持ち、わかってる?」
「ああ。」
 少しの躊躇もなく、幹高は答えた。驚いて、まじまじと兄の顔を見つめる。
 ・・・お兄ちゃん。ほんとうに、わたしの言っている意味、わかってる?
「わたし、お兄ちゃんのこと大好きなんだよ。妹としてじゃなくて・・・・」
「わかってる。」
 しゃがみ込んだままのお兄ちゃんの瞳。嘘じゃ、ない。
「どうすれば、ここから動いてくれる?このままじゃ、二人とも肺炎になるぞ。」
 言っちゃっていいの?ほんとうに、言っちゃっていいの?
 でも、お兄ちゃんの表情は少しも動揺していない。わたしの口が、ずっと言いたかった言葉を紡ぎ出す。
「抱いて、お兄ちゃん。わたしを。」
 一瞬の沈黙の後、低い、しかしはっきりした声で幹高は言った。
「ああ。わかった。」


 シャワーを浴びる音が耳に聞こえてくる。
 智香は、裸のままでホテルのベッドの中に潜り込むと、淡いカクテルライトが照らし出す天井を見つめていた。
 不思議なほど、落ち着いて兄を待っていた。
 夢にまで見た瞬間なのに、わたしどうしちゃったんだろ。
 先にシャワーを浴びて、身体を洗っている間も、「恥ずかしくないように、きれいにしなきゃ」とか、そんなことしか考えてない。
 パタン、と浴室の扉が閉まると、大きな影がライトに照らされてベッドサイドに現れる。
 腰にバスタオルを一枚巻いただけの姿で、幹高はベッドから顔だけ出している智香の顔を見つめた。身体を屈めると、流れ落ちた髪の毛に手をかけ、頬まで撫で下ろすと、小さな声で言った。
「かわいいな、智香。」
 瞬間、体中の感覚が燃え上がるように蘇った。すぐに、逞しい身体が同じシーツの中に潜り込んでくると、小さく上を向いた胸と合わさる。
 無言のまま顔が近づくと、唇が合わさった。
 嘘じゃないんだ。わたし、お兄ちゃんに抱かれてれる。
 幹高の唇は、最初から智香の唇を割り、すぐに舌が情熱的に口の中に侵入してくると、歯茎から歯の裏をなぞるように這い回る。おずおずと舌を差し出すと、確かめるように先が触れ合い、やがてゆっくりと絡み合う。
 舌の裏側をそんなにされたら・・・。わたし・・・。
 次々に流れ込んでくる兄の唾液を受け入れながら、身体の隅々までが総毛立つように鋭敏さを増していくのを感じていた。
 やがて、離れた唇が、小さな耳たぶに下がり、生暖かさに包まれる。耳の穴に舌が少し入った瞬間、軽い痺れが全身を襲った。
 あ、アア・・・。
 ・・・す、少し感じちゃった。
 妹の身体の硬直を両手に感じた幹高は、少し身体を離して智香の大きな瞳を見つめると、囁いた。
「取るよ。」
「う、うん。」
 上掛けを外すと、ぼんやりとした光の中に白い肌が浮かび上がった。
 すっごく、恥ずかしい。だって、わたしの身体、ゼンゼン出てる所がないし・・・。
「奇麗だよ、智香。」
 ほんとうに?
 見つめる幹高の瞳に嘘はなかった。智香は自分から兄の首に両手をかけると、唇を合わせた。
 大きな手が上を向いた小さめの乳房の稜線にかかる。5本の指がゆっくりと確かめるように周辺の愛撫を繰り返した後で、固く尖りだした頂点をつまむように転がす。
 もう片方の手は、静かに脇腹から腰の辺りを上下して柔らかい官能を送り続けていた。
 あ、この太股に当たってるの・・・。
 熱い昂まりが当たっているのがわかった。
「・・・お兄ちゃん、触わらせて。」
 無言の同意に、手を伸ばしておずおずと指を絡ませる。
 すごい・・・。わたしの手じゃ、指が回らないくらい。それに、ドキドキしてる・・。これが、お兄ちゃんの、なんだ・・・。
 固い兄の中心に触れていると、腰の奥で何かが溶け出してくるのがわかった。絡み合っていた唇が離れると、幹高の身体が下へとおりていく。首筋から胸の谷間、おへそへゆっくりと舌がなぞる。
 え・・。
 淡く生えたアンダーヘアーの周辺に暖かい唇が届いた時、思わず固く足を合わせてしまう。でも、幹高はそれを許さず、両手を膝にかけると、ゆっくりと足を開かせた。
 恥ずかしい。
 身体全体が赤く染まってしまうような恥ずかしさもつかの間、唇が内側の足の付け根辺りをゆっくりと這い回る。
 やだ。お兄ちゃんの舌が・・・。
 固く合わさった扉が、少しずつ緩み始めていた。毛の生えていない中心部に向けて、ざらざらした舌が近付き、内側の粘膜を軽く掃いた。
 あ、そんなところに舌、入れられたら、わたし。
 逞しい両手が細い腰の後ろ側にまわり、力強く引き寄せる。唇全体が濡れそぼった智香の秘部を捉えた。舌が、一番内側の敏感な粘膜の壁を何度も舐め上げる。そして、尿道口のあたりを舐め上がると、今まで一度も触れていなかった敏感な突起の周辺をゆっくりと回り始める。
「・・・わたし、お兄ちゃん・・・。」
 イッちゃうよぉ。
 唇がクリトリス全体を捉え、軽くキュッっと吸い上げた瞬間、身体中に猛烈な電気が走った。
 あ、あああああっ!
 更に唇を這わせたまま、兄の手はしっかりと腰を抱き寄せる。
 い、イイ・・・・。
 ジンジンが手の指の先まで届いてしばらく止まらない。それは、今までのどんな自慰行為より深い官能を教えてくれていた。
「ハア、ハア、ハア・・・。」
 息をついている間、ずっと腰の辺りを愛撫してくれているお兄ちゃん。わたし、幸せだ・・・。
 と、幹高の身体が智香から離れ、両脇に手をつくと静かに見下ろした。
「準備、いいか?」
 え?・・・そうだ。いよいよなんだ。
 お兄ちゃんの瞳の中に、今まで見たことのない激しい光がある。そして、固い声。
「智香。先に言っておくよ。今、お前を貫けば、もう僕は止まらないと思う。」
 う、うん。
「その瞬間から、妹としての智香は消えてしまう。そして、これからもずっと。僕は、そういうやり方でしか女性を自分のものにはできない。たぶん、男が女の身体を愛するというのはそういうことなんだと思う。それでもいいか?」
「うん。」
 お兄ちゃんの言っている意味の半分くらいしかわからない。でも、最初から覚悟してたんだ。バージンはお兄ちゃんに、って。
「そうか。」
 お兄ちゃんの身体がわたしの上に乗る。両足がグッと開かれると、固い先がわたしの入り口に当たるのがわかった。
 最初に思い浮かんだのが、さっき握り締めたあの固い昂まり。あれが、わたしの中に入るんだ、そう思った。
 でも、でも・・・。
 『もう妹じゃなくなる』。その言葉の意味が唐突に気持ちの中で大きく広がっていった。
 小さい頃から、いつもわたしの事を見てくれていたお兄ちゃん。どんな失敗をしても、助け船を出してくれたのはお兄ちゃんだった。お父さんやお母さんが家にいなくても、いつも食事を作ってくれた。だから、わたしは料理を上手になろうと思った。算数が全然できなかった。積木のように頭の中を整理するやり方を教えてくれたのは誰だった?6年生の時に意味もなくいじめられた。相手の親の家でお父さんより先に声を荒げてわたしをかばってくれたのは・・・?そして、この間のバレンタインの時の少し寂しげな表情・・・。
「ヤダ!」
 わたしは、叫んでた。だって、だって・・・。
「ダメ、いいの、お兄ちゃん。」
 涙が溢れるのがわかった。これ、違う。だって、今のわたしはやっぱりお兄ちゃんの妹だ。もし、このまま抱かれたら、わたしは何もかもなくしてしまう。
 顔の横を流れ落ちていく涙。お兄ちゃんの身体がスッとわたしから離れた。そして、静かにベッドサイドに腰掛ける。
「まったく、泣き虫だな。智香は。」
 頭に大きな手がかかる。あ、あったかい。
「・・・ご、ごめん。」
 涙で声が変になってしまった。
「しゃべらなくていいよ。」
 ごめんね、お兄ちゃん。やっぱりわたしまだ、ゼンゼン子どもだ。
「ふとん、かけるか?」
「うん。」
 上掛けがかけられて、少しずつ冷静になった智香の頭に、単純な疑問が兆してきた。
 そう言えば、お兄ちゃん、千秋さんと一緒だった。試験に受かった大事な夜だったんじゃ・・・?
「お兄ちゃん、大沢さんは?」
「ああ。」
 少しうつむき加減で微笑んだ幹高は、ため息まじりに言った。
「実はね、お前を探せって言ったのは、千秋なんだよ。」
「え?」
「まったく、大した奴だよ。あいつは。」
 あ、今ちょっとだけ、お兄ちゃんがかわいく思えた。
 軽く笑った幹高の横顔を見て、智香は今までとは少し違う胸のドキドキを感じていた。
「おまえの事、よく知ってるからね、あいつは。で、抱いてあげなさいよ、って言うんだよ。」
「えーっ!」
「千秋に言わせれば、『大したことじゃないから。通り過ぎさせてあげるのも、幹高の務めなんじゃない。』ってことらしいんだ。」
「そうか・・・。すごいね、大沢さんって。」
 わたしが千秋さんの立場だったら、そんな事、言えるかな・・・?
 裸でベッドサイドに腰掛けていた幹高が、静かに立ち上がる。まだ、完全には収まり切っていない怒張が智香の目を捉えた。
 そっか、お兄ちゃんも感じてたんだよね。
「ね、お兄ちゃん、大丈夫?」
「ん?何が。」
 それ、と目をやると幹高は少し決まり悪そうに目を逸らした。
 ドキドキ・・・。また、さっきの動悸が。
「あ、大丈夫だよ。」
 え、それってもしかして・・・。今から、千秋さんとってこと?
 少しだけチクッとする感じが胸の奥で兆す。な~んか、ちょっとヤダ。
 浴室に歩いて行こうとする幹高の手を、智香は起き上がって掴む。
「ダメ。」
 そして、ちょっとカゲキな言葉。
「わたしが、してあげる。」
 つながれたお兄ちゃんの手が、ピクッとした。
「・・・ほら、気にしなくていいよ、智香は。」
「もう、我慢はよくないよ~。」
 キャー、わたしってば、ダイタン。
「こら、冗談は・・・・。」
 ううん、冗談じゃないよ。だってお兄ちゃんだって、苦しいでしょ。わたしの身体だって、結構魅力的だったと思うもん。
 ・・・あ!
 智香が幹高の昂ぶりに手と口を這わせてから、白濁が頬に飛び散るまでにそれほど時間はかからなかった。



       エピローグ


 あ~、もう飛行機が着いちゃう!
 智香は、慌ててエスカレーターを駆け上がった。
 薄いグレーに緑のポイントが入った襟無しの半袖に、白いタイトなズボンを履き、小さなベージュのリュックを肩に下げた姿は、一年前よりどことなく大きく見える。ただ、二本の編みお下げを後ろで合わせ止めた髪型は相変わらずそのままだった。
 広い空港のロビーが見えてくる。スーツケースや大きなボストンバッグを持った人達が右左へ行き交っている。
 時間、時間。12時20分か。ああ、間に合った。
 搭乗口のエスカレーターの近くまで行くと、何処かで見た背中が、手すりの近くで所在なげに立っている。
 ブルーと白の裾の詰まったワンピースをきた女性。
「千秋さん。」
 智香が声をかけると、長く伸ばして軽くウェーブをかけた頭が振り向いた。
「・・・智香、ちゃん。」
 少し驚いたように千秋は応えた。
「こんにちは。お兄ちゃん、まだですよね。」
 初めてとは思えないほどの気さくさで、智香は話しかけた。
「ええ。」
 奇麗になったな、千秋さん。でも、わたしだって。
 間があった後で、千秋は少し考え込みながら言った。
「ね、智香ちゃん? あなた、少し大きくなった?こんなこと訊くの、失礼かもしれないけど。」
「ええ。」
 さすが。でも、そうじゃないと。
「はい。この一年ちょっとで、5cmも伸びたんですよ。なんか、異常に遅い成長期だったみたいですね。」
 と、少し胸を張る。盛り上がった膨らみに、千秋の眉が少しだけ寄せられた。
「千秋さん、お兄ちゃんから手紙、きました?」
「もちろんよ。」
 どういう意味、という感じで千秋の声のトーンが上がった。
「わたしも、いっぱい来たんですよ。今度の帰国も、まっさきに知らせたって。」
「な、」
 少し言葉につまる千秋。
「わたしだって、そう書いてあったわよ。」
 智香は、にっこりと笑って、ペコリとお辞儀をした。
「一年前、お兄ちゃんにわたしの所に行けって、言ってくださったんですよね。」
「え、ええ。」
 いぶかしげに同じくらい高さの視線にある智香の丸い目を見つめた。
「ありがとう。おかげで、わたし、がんばる気が出ちゃった。」
 ふふふ、と智香は笑った。
「まさか、智香ちゃん。」
「ええ。」
 もちろん。だって、わたしは誰よりも。
「・・・まったく、さすがに幹高の妹ね。ただものじゃないとは思ってたけど。」
「それって、宣戦布告って事でいいですか?」
「ええ。」
 エスカレータから今着いた便の客が、一人、また一人と上がってくる。そして、見慣れた頭が見え隠れし始める。
「幹高~。」
「お兄ちゃ~ん。」
 ゼッタイ誰にも負けないんだ。だって、わたしは誰より、お兄ちゃんを愛してるんだから!


       完

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eroerojiji

小さい頃からエロいことが好き。そのまま大人になってしまったエロジジイです。