小説(転載) 紗枝の長い1日(前編)
近親相姦小説
題名 紗枝の長い1日(前編)
「あぁ…お兄ちゃん」
かすれた、それでいてはっきりとした喘ぎが洩れる。なぜ、そんな事を考えている
のか自分自身でも解らない。
兄を想うと体の芯がじわじわと疼き、奥底から何かが湧き上がる感覚に腰がくねる。
何かがゆっくりと体の中に入ってきた。
「ぁあ、いやぁ」
言葉とは裏腹に溢れ出した粘液が抵抗なく、それを奥へ導く。
膣口を押し広げる熱い肉棒に襞が絡みつき、絞り上げる。
貫く動きが激しくなり、あっという間に絶頂に達した。
「あぁっ、いくっ!」
そう叫んだ瞬間、胎内の肉棒もそれに呼応するかのように大きく脈動し、熱い液体を
勢いよく奥に向かって吐き出す。ドク、ドクッとした痙攣を奥で感じながら、胎内を
精液で満たされる素晴らしい感触にとろける。
いつまでも脈打つ肉棒、太く逞しい兄の…
「あに?」
「兄って…」
「お兄ちゃん?!」
びっくりして紗枝が飛び起きた。汗びっしょりになって、喉がカラカラだった。
「…夢、だったんだ」
ほっと、溜息を漏らし、激しい鼓動を静めるように胸に手を置く。
痛いほど乳首が尖り、ノーブラのシャツを押し上げていた。肌が熱い。
そっと手を伸ばし、下半身を触ると、指にさらっとした体液がまとわりついた。
よりにもよって、兄を受け入れて感じてしまうなんて。
(欲求不満?)
それとも、心の中では、それを望んでるのかしら。
(嘘よ、嫌らしいっ!馬鹿みたい)
すぐに、女として、妹としてのプライドが否定する。
(…でも)
素敵だった兄とのセックス。
(何考えてるんだろ、私)
顔が紅潮してくる。
脳の奥に霧がかかり、さっきまでの情景がぼんやりと甦ってきた。
無意識に、胸に置いた指がシャツ越しに乳首を探り、もう片方の指先で下着の中の
敏感な秘所をもてあそぶ。ぬるみきったそこから「くちゅ」と音がした。
美沙が身支度を整えてキッチンに向かったのは、それから小1時間が過ぎた頃だっ
た。
「おはよう!」
わざとらしいような明るさで紗枝が声をかけた。少し口元が歪んでいる。
先程まで目の前の兄を想って自慰をした彼女にとって、内心とても気恥ずかしい瞬間
だった。
「ん。おはよう」そっけない兄の態度にホッとする。
そのまま冷蔵庫に向かい、水の入ったペットボトルを咥え、一気に飲み干した。
喉を潤して落ち着いたのか、ふーっと大きな溜息が洩れる。
「紗枝、今日はえらく朝が遅かったな。もう朝飯済ませたぞ。」
そう言いながら新聞に視線を落としていた兄の目が、ふと紗枝を見た。
「あれ?お前顔が赤いぞ、熱があるんじゃないか!風邪でもひいたのか?」
「へへん。熱なかったら死んでま~す。大丈夫で~す!」
照れ隠しに、わざとはしゃいだ態度で応える。
「ねえ、そう言えば―お母さん、どっか行ったの?」
ふと母が居ないのに気が付いて兄に尋ねた。
「ああ。朝早くから町内会の寄り合いとかで出かけたよ。遅くなるって。お前も
今日はデートなんだろ?」
「ううん。それは明日に変更。今日は都合悪いって。お兄ちゃんは?」
「俺は久しぶりの土曜日の休みだから、1日中ボーっと過ごすよ」
「ふーん」
(じゃあ…今日は兄とふたりきりなんだ)そう思いながら、
「ねえ、お兄ちゃんって付き合ってる人いないの?会社の人とか…」
「いないよ。じゃなかったらこんな休みの朝から家にいないって!」
「そっかー、ちょっと淋しいね。…でも、何で彼女を作らないの?
お兄ちゃんってわりとモテそうなタイプだけど」
紗枝の目がちらりと兄の顔を覗き、彼氏には無い逞しさに、どきりと男を感じてし
まう。(あの夢のせいで、意識しちゃう。兄なのに)
「そんなこと知らないって!別に女が嫌いなわけじゃないよ。ただ、そういう縁が
ないっていうのか、なんというか・・彼女が欲しいと思っても相手があることだ
し…」
歯切れが悪い。兄自身も少々焦っているのかもしれない。
「ねえ、お兄ちゃん、今日一緒にドライブでも行かない?どうせ暇でしょ!」
ふと思いついた事が紗枝の口から出た。
自分も兄も暇を持て余していたからなのか、兄が(気の毒)と同情したためか。
あるいは…
「どうせ暇で悪かったな!」乱暴に応えながらも兄の表情は優しかった。
兄自身、自分の事を気にかけてくれる妹が可愛いと思ったに違いない。
「いいけど…どこに行きたいんだ?」
「そうね~あっ、そうそう!駅前のデパートに行きたいんだけど!」
「あれ?さっきドライブって言ってなかったっけ?」
「いいじゃない。ねえ、お兄ちゃん付き合ってよ。ね!」
デパートで買い物を済ませ、夕飯まで時間があったので兄の提案で港までドライブ
することになった。
この辺りでは、カップルの集まるデートスポットとして有名な場所だ。
紗枝も何度か彼氏と来た事がある。
付き合い始めて間が無い頃、海に沈む夕日を見ながら車の中で彼と激しいぺッティ
ングを繰り返した思い出の場所だった。
車を走らせ、流れる風景の中で兄と妹は久しぶりにいろいろな話をした。
紗枝の彼の事、お互いの職場、仕事の事。普段から寡黙なタイプの兄だったが、
今日は1日中紗枝と接した気安さからか、よく口が動く。それでも紗枝の聞き
役に回る方が多かった。
「そういえば、お兄ちゃんと二人きりで車でどっか出かけるなんて初めてじゃない
?」
「ん、そうだな。ついでに助手席に座った女は、お前が初めてだよ」
少し恥ずかしそうに応える。
「ええっ、本当に?」
「よ~し!それなら記念のサインをここに書いちゃおう!」
悪戯っぽい瞳でセカンドバックからペンを取り出す仕草を横目で認め・・・慌てて!!
「うわっつ!こら紗枝、ダッシュボードに落書きするな!まだ新車なんだぞ、
この車!」ハンドルを握る兄が叫ぶ。
「まったく、子供みたいな事するんだからな、お前は」
「冗談よ、冗談」
そう言いながら彼氏の車にも同じ事をし、ひどく怒られたのを思い出して、
くすくす独り笑いする紗枝。彼とそっくりに慌てた兄の態度が可笑しかった。
「ふー、到着」
目的地の岸壁に着いた。もう既に数十台の車が止まっている。夕暮れの時間を待
っているのだ。
土曜の夕方ともなれば近県からもぞくぞくとカップルが押し寄せ、車で岸壁がい
っぱいになるほどの盛況になるのだが、まだ時間が早いせいもあって、それほど
でもない。
どの車もお決まりの濃いスモークがガラスを覆い、中の様子を窺うことは出来ない。
「あ~疲れた。ちょっと休憩!」
シートを倒して大きく伸びをする兄。
「お兄ちゃん、ごめんなさい。買い物疲れたでしょ?」
「ああ。ちょっとだけ。やっぱり混んだデパートに行くってのは疲れるよ」
「なかなかお前が買う物決まらないし!」
「ごめんね。でもお兄ちゃん、彼女が出来たら買い物付き合うってのは大事なこと
だからね」
「はいはい」
紗枝は、ふと助手席の窓から隣の車を見た。中のシルエットが2つになったり1つ
になったりしているのを見てドキリとする。紗枝の視線の先を追って、兄もそれを
見て呟く。
「うわー、まだ明るいのにキスしてる!スモーク張ったって見えるよな」
「ほ~んと」
「お前も、ここに来た事あるって言ってたけど、こんな風に覗かれてたんだぞ」
「……」
それには応えず、紗枝の脳裏にふと浮かんだものは…
初めて男性の性器に触れた。
彼氏から「手でして」と囁かれて、ぎこちない手つきで射精に導いた。
懇願されて口も使った。青臭い精液の匂いが車に充満した記憶。
急に無口になった紗枝に、
「ん?どうかした?」
「ううん。なんでもない」
「そんなHなことはしなかったから、覗かれても平気だったの!」
「ちょっと私もシート倒すね、腰が痛くなってきちゃった」
嘘をごまかすように明るい口調で応えるも顔が少し赤い。
彼氏との行為を思い出し、さらに朝の出来事―兄を対象にした自慰。
その兄がシートを倒して横で寝ている。
そういえば、彼のときもこんな格好で…彼を口に含んだのだ。
目を閉じて眠っているような兄の顔を見ながら―そっと兄のジーンズの股間に
視線を移す。紗枝の胸が淫靡なもので膨らんでいく。この中にあの夢の中で見た
逞しいものが…。(馬鹿、何考えてるの?)どこからか、囁くような声がした。
会話が途切れてしまい、二人とも無口になった。兄は眠ったのか?
「…」
「…ねえ、お兄ちゃん」
「ん?」
「お兄ちゃんって…その…したことあるの?」
「何を?」
「その…女の子とセックスしたことある?」
妹の口から『セックス』という言葉が飛び出し、少し驚いたようにパッと目を
開けて彼女へ顔を向ける。
「彼女、いないんだから、したことなんてある訳ないじゃないか!全く恥ずか
しい事を聞くなよ!」
「ふふん。したことないんだ。」
「どうだっていいだろ!そんなこと」
怒ったような口調で応える。紗枝はかまわず、
「じゃあ、さ。お兄ちゃんって、独りでしてるんだよね」
「…」
「どんなこと想いながらするの?ねえ」大胆な問い。
「ば、馬鹿!そんなこと妹のお前に言えるわけないだろう!」
突然に際どい質問をされて、たじろぐ。
「いいじゃない!ねえ、教えてよ、お兄ちゃん。兄妹なんだから恥ずかしがる事
ないじゃない!」
「そんなことはお前の彼氏に聞けよな!」
普通なら彼氏にも聞けないような事を兄に訊ねる紗枝。
兄妹だから、より一層そういう類の話は出来ないのが当然なのだが、今は不思議に
そんな考えは浮かんでこない。
兄にしてみれば、妹が、ただ単に興味本位と悪戯心で自分をからかっていると思っ
たに違いない。だが、女性経験が乏しい兄には、紗枝の瞳の奥が淫靡な光で濡れてい
る事など気付くはずもない。
「普通だよ!普通」
「何よ、普通って?」
「みんなと同じってこと」
「もっと具体的に教えてよ!」
妹の熱心さに押されて、しぶしぶ口を開く。兄も妹への気安さがある。
「う~ん。AV借りてきて観たり…そういう雑誌買ってきたり…かな」
「AVってアダルトビデオのことだよね?そんなの見ながら独りでしてるんだ~」
「ふふっ。いやらしい~、エッチ!」
「うるさいな~」
「男の人って、どんなシーンが一番興奮するの?お兄ちゃん」
「!!言えないよ…そんなこと」
「教えてって!」
「う~ん…口でしたり」
ぼそっと小さな声で呟く。
「きゃー!お兄ちゃんのスケベ!!はやく彼女作らないと駄目だね!」
「放っとけよ」
弾けたように、はしゃぎながらも紗枝の体は熱くなっていた。
腰の辺りがムズムズとして紗枝もはっとした。
最初は軽い気持ちで兄に尋ねた言葉が自分自身の心の中の淫らな部分をさらに膨
らます。兄を想って自慰に励んだあの時の絶頂感を思い出した。
さらに、『口でするのが興奮する』という兄の呟きが、紗枝の淫らな妄想に拍車
をかけた。
理性では、兄をそんな対象で考えてはいけないと思っている紗枝だが、女として
の肉体の疼き、淫らな感覚に抗うのは難しい。淫夢の絶頂感…彼とでは経験でき
ないようなエロティシズム。『兄』とのセックス。絶対にしてはいけないという
禁忌が強ければ強い程、逆に紗枝の理性的な部分を白い霧で覆ってしまう。
近親相姦って何が悪いのか。勿論無理やり思いを遂げるのは許されるはずがない。
でも、お互いに割り切って…する分にとっては問題ないと思う。
肉体の繋がりが『愛情』の証のためだけではないことは周知の事実だ。
男でも女でも肉体の欲望だけでセックスするではないか。
兄は勿論好きだが、それ以上兄を束縛する気にはならない。兄に早く素敵な彼女が
できるのを本心で願っている。妊娠に対しての恐怖感があるが、避妊をすればいい
だけの事だ。
彼と普段しているのと同じ。彼が兄に代わるだけ…それだけ。
兄の体を借りて、自分の肉体の疼きを静める事はそれ程『心の重み』になるとは
どうしても思えない。ただ単に己の欲望を満たすためだけに『愛』という言葉を
持ち出し、セックスを迫る人間よりは私のこの気持ちは純粋だ。人間的に正直だ。
加えて、兄だって早く『経験』したいに違いない。経験出来ないが為、自分の手
を使って慰めているのだ。その兄が、実の妹という立場ではあるが、女として欲
情した自分の肉体を拒めるのか?…無理だと思う。これまで20年間一緒に暮ら
した兄の考え方は自分なりに理解している。
兄が母親を含めて誰かに自分との行為を話すとも思えない。寡黙な兄だ。
私も心に秘めて決して口外しない。当然彼にも。秘密の守るということに関して
は、「兄妹」の方が、より安心なように思う。
だが、いざ実行しようとなると、そんなこと簡単に出来るはずがない。
どうしても心にブレーキがかかる。
第一、妹の私が兄に面と向かって「抱いて」などと言えるはずが無い。なにより
女としてのプライドがある。兄をその気にさせる為にはどうすればいいのか…
ふと紗枝はこう考える。これは兄にとっても格好の『練習の機会』なのでは?
女を知っていれば行動にも余裕が出てくる。ルックスは問題ないし肉体は逞しい。
兄に足りないもの、それは…経験だけ。その経験を積む為に自分の肉体を提供す
る。兄は「経験」を、自分は兄に抱かれることで彼氏とでは味わえない「絶頂感」
を得る事が出来る。
誰も困らない。誰も傷つかないし、誰も傷つけない。
ただ1つ…紗枝が考え及ばないことがある。それは、紗枝自身、後に『経験』
してから知るであろう重要な事…
そんなことを考えながら兄の方に顔を向ける紗枝。瞳が潤んでいる。
兄はさっきの会話の気恥ずかしさからシートに寝転んで背を向けていた。
その広い背中から引き締まった腰までゆっくりと視線を動かす。逞しい兄の体。
紗枝の顔が上気し、膝が小刻みに震えていた。
(…どうしよう…濡れてきちゃった)
次から次に自分勝手とも思える願望が湧き上がり、心が嫌らしいもので満たされ
ていく。既に心の中で兄に抱かれることに折り合いをつけた。
不思議に嫌悪感など感じない。兄と行為に及ぶ自分の姿を妄想した。
しばらくは無言のまま、気まずいような雰囲気が車中に漂う。
紗枝のそんな心などお構いなしに、突然の兄の言葉。
「さ~て、もう帰るぞ!お腹もすいたし」
紗枝は内心焦った。もしかしたらこんな機会はもう無いかもしれない。
『兄に抱かれて感じたい』という願望を叶えるのは今日しかないかも…
「ねえ、お兄ちゃん、今日は外食しない?私が払うから。」
「どうせお母さんって今日は遅いんでしょ?」
少し慌てたような紗枝の口調。密かな企み。
「…そうだな。じゃあ食べていこうか。いいよ、俺が金出すから」
「なんだか、今日はお前とデートしてるみたいだったな」
「うん、そうね。今日は…お兄ちゃんとデートの日だったね!」
兄の『デート』という言葉が嬉しい。(…もしかしたら、うまくいくかも)
「お兄ちゃん。デートには素敵なレストランがつきものよ、これも覚えておい
てね!」
「お、おいおい!あまり高い物は食えないぞ」
そう応える兄も心なしか嬉しそうだ。かなり際どい会話を交わすことの出来る
紗枝への安心感があった。久しぶりに兄妹が打ち解けた気がする。
ただ、妹の淫らな心まで気が付く兄ではなかった。
紗枝の方も『兄の為の練習』という勝手な理由を付けて、欲望を満たそうとし
ている自分の不純さに気付いていない。紗枝の頭にあるのは、どうやって兄と
思いを遂げるか・・
車が岸壁を離れた時には、すでに日が傾きだし、情熱的な色で染まった陽が辺
りを包んでいた。
[終]
[2000/06/08]
「あぁ…お兄ちゃん」
かすれた、それでいてはっきりとした喘ぎが洩れる。なぜ、そんな事を考えている
のか自分自身でも解らない。
兄を想うと体の芯がじわじわと疼き、奥底から何かが湧き上がる感覚に腰がくねる。
何かがゆっくりと体の中に入ってきた。
「ぁあ、いやぁ」
言葉とは裏腹に溢れ出した粘液が抵抗なく、それを奥へ導く。
膣口を押し広げる熱い肉棒に襞が絡みつき、絞り上げる。
貫く動きが激しくなり、あっという間に絶頂に達した。
「あぁっ、いくっ!」
そう叫んだ瞬間、胎内の肉棒もそれに呼応するかのように大きく脈動し、熱い液体を
勢いよく奥に向かって吐き出す。ドク、ドクッとした痙攣を奥で感じながら、胎内を
精液で満たされる素晴らしい感触にとろける。
いつまでも脈打つ肉棒、太く逞しい兄の…
「あに?」
「兄って…」
「お兄ちゃん?!」
びっくりして紗枝が飛び起きた。汗びっしょりになって、喉がカラカラだった。
「…夢、だったんだ」
ほっと、溜息を漏らし、激しい鼓動を静めるように胸に手を置く。
痛いほど乳首が尖り、ノーブラのシャツを押し上げていた。肌が熱い。
そっと手を伸ばし、下半身を触ると、指にさらっとした体液がまとわりついた。
よりにもよって、兄を受け入れて感じてしまうなんて。
(欲求不満?)
それとも、心の中では、それを望んでるのかしら。
(嘘よ、嫌らしいっ!馬鹿みたい)
すぐに、女として、妹としてのプライドが否定する。
(…でも)
素敵だった兄とのセックス。
(何考えてるんだろ、私)
顔が紅潮してくる。
脳の奥に霧がかかり、さっきまでの情景がぼんやりと甦ってきた。
無意識に、胸に置いた指がシャツ越しに乳首を探り、もう片方の指先で下着の中の
敏感な秘所をもてあそぶ。ぬるみきったそこから「くちゅ」と音がした。
美沙が身支度を整えてキッチンに向かったのは、それから小1時間が過ぎた頃だっ
た。
「おはよう!」
わざとらしいような明るさで紗枝が声をかけた。少し口元が歪んでいる。
先程まで目の前の兄を想って自慰をした彼女にとって、内心とても気恥ずかしい瞬間
だった。
「ん。おはよう」そっけない兄の態度にホッとする。
そのまま冷蔵庫に向かい、水の入ったペットボトルを咥え、一気に飲み干した。
喉を潤して落ち着いたのか、ふーっと大きな溜息が洩れる。
「紗枝、今日はえらく朝が遅かったな。もう朝飯済ませたぞ。」
そう言いながら新聞に視線を落としていた兄の目が、ふと紗枝を見た。
「あれ?お前顔が赤いぞ、熱があるんじゃないか!風邪でもひいたのか?」
「へへん。熱なかったら死んでま~す。大丈夫で~す!」
照れ隠しに、わざとはしゃいだ態度で応える。
「ねえ、そう言えば―お母さん、どっか行ったの?」
ふと母が居ないのに気が付いて兄に尋ねた。
「ああ。朝早くから町内会の寄り合いとかで出かけたよ。遅くなるって。お前も
今日はデートなんだろ?」
「ううん。それは明日に変更。今日は都合悪いって。お兄ちゃんは?」
「俺は久しぶりの土曜日の休みだから、1日中ボーっと過ごすよ」
「ふーん」
(じゃあ…今日は兄とふたりきりなんだ)そう思いながら、
「ねえ、お兄ちゃんって付き合ってる人いないの?会社の人とか…」
「いないよ。じゃなかったらこんな休みの朝から家にいないって!」
「そっかー、ちょっと淋しいね。…でも、何で彼女を作らないの?
お兄ちゃんってわりとモテそうなタイプだけど」
紗枝の目がちらりと兄の顔を覗き、彼氏には無い逞しさに、どきりと男を感じてし
まう。(あの夢のせいで、意識しちゃう。兄なのに)
「そんなこと知らないって!別に女が嫌いなわけじゃないよ。ただ、そういう縁が
ないっていうのか、なんというか・・彼女が欲しいと思っても相手があることだ
し…」
歯切れが悪い。兄自身も少々焦っているのかもしれない。
「ねえ、お兄ちゃん、今日一緒にドライブでも行かない?どうせ暇でしょ!」
ふと思いついた事が紗枝の口から出た。
自分も兄も暇を持て余していたからなのか、兄が(気の毒)と同情したためか。
あるいは…
「どうせ暇で悪かったな!」乱暴に応えながらも兄の表情は優しかった。
兄自身、自分の事を気にかけてくれる妹が可愛いと思ったに違いない。
「いいけど…どこに行きたいんだ?」
「そうね~あっ、そうそう!駅前のデパートに行きたいんだけど!」
「あれ?さっきドライブって言ってなかったっけ?」
「いいじゃない。ねえ、お兄ちゃん付き合ってよ。ね!」
デパートで買い物を済ませ、夕飯まで時間があったので兄の提案で港までドライブ
することになった。
この辺りでは、カップルの集まるデートスポットとして有名な場所だ。
紗枝も何度か彼氏と来た事がある。
付き合い始めて間が無い頃、海に沈む夕日を見ながら車の中で彼と激しいぺッティ
ングを繰り返した思い出の場所だった。
車を走らせ、流れる風景の中で兄と妹は久しぶりにいろいろな話をした。
紗枝の彼の事、お互いの職場、仕事の事。普段から寡黙なタイプの兄だったが、
今日は1日中紗枝と接した気安さからか、よく口が動く。それでも紗枝の聞き
役に回る方が多かった。
「そういえば、お兄ちゃんと二人きりで車でどっか出かけるなんて初めてじゃない
?」
「ん、そうだな。ついでに助手席に座った女は、お前が初めてだよ」
少し恥ずかしそうに応える。
「ええっ、本当に?」
「よ~し!それなら記念のサインをここに書いちゃおう!」
悪戯っぽい瞳でセカンドバックからペンを取り出す仕草を横目で認め・・・慌てて!!
「うわっつ!こら紗枝、ダッシュボードに落書きするな!まだ新車なんだぞ、
この車!」ハンドルを握る兄が叫ぶ。
「まったく、子供みたいな事するんだからな、お前は」
「冗談よ、冗談」
そう言いながら彼氏の車にも同じ事をし、ひどく怒られたのを思い出して、
くすくす独り笑いする紗枝。彼とそっくりに慌てた兄の態度が可笑しかった。
「ふー、到着」
目的地の岸壁に着いた。もう既に数十台の車が止まっている。夕暮れの時間を待
っているのだ。
土曜の夕方ともなれば近県からもぞくぞくとカップルが押し寄せ、車で岸壁がい
っぱいになるほどの盛況になるのだが、まだ時間が早いせいもあって、それほど
でもない。
どの車もお決まりの濃いスモークがガラスを覆い、中の様子を窺うことは出来ない。
「あ~疲れた。ちょっと休憩!」
シートを倒して大きく伸びをする兄。
「お兄ちゃん、ごめんなさい。買い物疲れたでしょ?」
「ああ。ちょっとだけ。やっぱり混んだデパートに行くってのは疲れるよ」
「なかなかお前が買う物決まらないし!」
「ごめんね。でもお兄ちゃん、彼女が出来たら買い物付き合うってのは大事なこと
だからね」
「はいはい」
紗枝は、ふと助手席の窓から隣の車を見た。中のシルエットが2つになったり1つ
になったりしているのを見てドキリとする。紗枝の視線の先を追って、兄もそれを
見て呟く。
「うわー、まだ明るいのにキスしてる!スモーク張ったって見えるよな」
「ほ~んと」
「お前も、ここに来た事あるって言ってたけど、こんな風に覗かれてたんだぞ」
「……」
それには応えず、紗枝の脳裏にふと浮かんだものは…
初めて男性の性器に触れた。
彼氏から「手でして」と囁かれて、ぎこちない手つきで射精に導いた。
懇願されて口も使った。青臭い精液の匂いが車に充満した記憶。
急に無口になった紗枝に、
「ん?どうかした?」
「ううん。なんでもない」
「そんなHなことはしなかったから、覗かれても平気だったの!」
「ちょっと私もシート倒すね、腰が痛くなってきちゃった」
嘘をごまかすように明るい口調で応えるも顔が少し赤い。
彼氏との行為を思い出し、さらに朝の出来事―兄を対象にした自慰。
その兄がシートを倒して横で寝ている。
そういえば、彼のときもこんな格好で…彼を口に含んだのだ。
目を閉じて眠っているような兄の顔を見ながら―そっと兄のジーンズの股間に
視線を移す。紗枝の胸が淫靡なもので膨らんでいく。この中にあの夢の中で見た
逞しいものが…。(馬鹿、何考えてるの?)どこからか、囁くような声がした。
会話が途切れてしまい、二人とも無口になった。兄は眠ったのか?
「…」
「…ねえ、お兄ちゃん」
「ん?」
「お兄ちゃんって…その…したことあるの?」
「何を?」
「その…女の子とセックスしたことある?」
妹の口から『セックス』という言葉が飛び出し、少し驚いたようにパッと目を
開けて彼女へ顔を向ける。
「彼女、いないんだから、したことなんてある訳ないじゃないか!全く恥ずか
しい事を聞くなよ!」
「ふふん。したことないんだ。」
「どうだっていいだろ!そんなこと」
怒ったような口調で応える。紗枝はかまわず、
「じゃあ、さ。お兄ちゃんって、独りでしてるんだよね」
「…」
「どんなこと想いながらするの?ねえ」大胆な問い。
「ば、馬鹿!そんなこと妹のお前に言えるわけないだろう!」
突然に際どい質問をされて、たじろぐ。
「いいじゃない!ねえ、教えてよ、お兄ちゃん。兄妹なんだから恥ずかしがる事
ないじゃない!」
「そんなことはお前の彼氏に聞けよな!」
普通なら彼氏にも聞けないような事を兄に訊ねる紗枝。
兄妹だから、より一層そういう類の話は出来ないのが当然なのだが、今は不思議に
そんな考えは浮かんでこない。
兄にしてみれば、妹が、ただ単に興味本位と悪戯心で自分をからかっていると思っ
たに違いない。だが、女性経験が乏しい兄には、紗枝の瞳の奥が淫靡な光で濡れてい
る事など気付くはずもない。
「普通だよ!普通」
「何よ、普通って?」
「みんなと同じってこと」
「もっと具体的に教えてよ!」
妹の熱心さに押されて、しぶしぶ口を開く。兄も妹への気安さがある。
「う~ん。AV借りてきて観たり…そういう雑誌買ってきたり…かな」
「AVってアダルトビデオのことだよね?そんなの見ながら独りでしてるんだ~」
「ふふっ。いやらしい~、エッチ!」
「うるさいな~」
「男の人って、どんなシーンが一番興奮するの?お兄ちゃん」
「!!言えないよ…そんなこと」
「教えてって!」
「う~ん…口でしたり」
ぼそっと小さな声で呟く。
「きゃー!お兄ちゃんのスケベ!!はやく彼女作らないと駄目だね!」
「放っとけよ」
弾けたように、はしゃぎながらも紗枝の体は熱くなっていた。
腰の辺りがムズムズとして紗枝もはっとした。
最初は軽い気持ちで兄に尋ねた言葉が自分自身の心の中の淫らな部分をさらに膨
らます。兄を想って自慰に励んだあの時の絶頂感を思い出した。
さらに、『口でするのが興奮する』という兄の呟きが、紗枝の淫らな妄想に拍車
をかけた。
理性では、兄をそんな対象で考えてはいけないと思っている紗枝だが、女として
の肉体の疼き、淫らな感覚に抗うのは難しい。淫夢の絶頂感…彼とでは経験でき
ないようなエロティシズム。『兄』とのセックス。絶対にしてはいけないという
禁忌が強ければ強い程、逆に紗枝の理性的な部分を白い霧で覆ってしまう。
近親相姦って何が悪いのか。勿論無理やり思いを遂げるのは許されるはずがない。
でも、お互いに割り切って…する分にとっては問題ないと思う。
肉体の繋がりが『愛情』の証のためだけではないことは周知の事実だ。
男でも女でも肉体の欲望だけでセックスするではないか。
兄は勿論好きだが、それ以上兄を束縛する気にはならない。兄に早く素敵な彼女が
できるのを本心で願っている。妊娠に対しての恐怖感があるが、避妊をすればいい
だけの事だ。
彼と普段しているのと同じ。彼が兄に代わるだけ…それだけ。
兄の体を借りて、自分の肉体の疼きを静める事はそれ程『心の重み』になるとは
どうしても思えない。ただ単に己の欲望を満たすためだけに『愛』という言葉を
持ち出し、セックスを迫る人間よりは私のこの気持ちは純粋だ。人間的に正直だ。
加えて、兄だって早く『経験』したいに違いない。経験出来ないが為、自分の手
を使って慰めているのだ。その兄が、実の妹という立場ではあるが、女として欲
情した自分の肉体を拒めるのか?…無理だと思う。これまで20年間一緒に暮ら
した兄の考え方は自分なりに理解している。
兄が母親を含めて誰かに自分との行為を話すとも思えない。寡黙な兄だ。
私も心に秘めて決して口外しない。当然彼にも。秘密の守るということに関して
は、「兄妹」の方が、より安心なように思う。
だが、いざ実行しようとなると、そんなこと簡単に出来るはずがない。
どうしても心にブレーキがかかる。
第一、妹の私が兄に面と向かって「抱いて」などと言えるはずが無い。なにより
女としてのプライドがある。兄をその気にさせる為にはどうすればいいのか…
ふと紗枝はこう考える。これは兄にとっても格好の『練習の機会』なのでは?
女を知っていれば行動にも余裕が出てくる。ルックスは問題ないし肉体は逞しい。
兄に足りないもの、それは…経験だけ。その経験を積む為に自分の肉体を提供す
る。兄は「経験」を、自分は兄に抱かれることで彼氏とでは味わえない「絶頂感」
を得る事が出来る。
誰も困らない。誰も傷つかないし、誰も傷つけない。
ただ1つ…紗枝が考え及ばないことがある。それは、紗枝自身、後に『経験』
してから知るであろう重要な事…
そんなことを考えながら兄の方に顔を向ける紗枝。瞳が潤んでいる。
兄はさっきの会話の気恥ずかしさからシートに寝転んで背を向けていた。
その広い背中から引き締まった腰までゆっくりと視線を動かす。逞しい兄の体。
紗枝の顔が上気し、膝が小刻みに震えていた。
(…どうしよう…濡れてきちゃった)
次から次に自分勝手とも思える願望が湧き上がり、心が嫌らしいもので満たされ
ていく。既に心の中で兄に抱かれることに折り合いをつけた。
不思議に嫌悪感など感じない。兄と行為に及ぶ自分の姿を妄想した。
しばらくは無言のまま、気まずいような雰囲気が車中に漂う。
紗枝のそんな心などお構いなしに、突然の兄の言葉。
「さ~て、もう帰るぞ!お腹もすいたし」
紗枝は内心焦った。もしかしたらこんな機会はもう無いかもしれない。
『兄に抱かれて感じたい』という願望を叶えるのは今日しかないかも…
「ねえ、お兄ちゃん、今日は外食しない?私が払うから。」
「どうせお母さんって今日は遅いんでしょ?」
少し慌てたような紗枝の口調。密かな企み。
「…そうだな。じゃあ食べていこうか。いいよ、俺が金出すから」
「なんだか、今日はお前とデートしてるみたいだったな」
「うん、そうね。今日は…お兄ちゃんとデートの日だったね!」
兄の『デート』という言葉が嬉しい。(…もしかしたら、うまくいくかも)
「お兄ちゃん。デートには素敵なレストランがつきものよ、これも覚えておい
てね!」
「お、おいおい!あまり高い物は食えないぞ」
そう応える兄も心なしか嬉しそうだ。かなり際どい会話を交わすことの出来る
紗枝への安心感があった。久しぶりに兄妹が打ち解けた気がする。
ただ、妹の淫らな心まで気が付く兄ではなかった。
紗枝の方も『兄の為の練習』という勝手な理由を付けて、欲望を満たそうとし
ている自分の不純さに気付いていない。紗枝の頭にあるのは、どうやって兄と
思いを遂げるか・・
車が岸壁を離れた時には、すでに日が傾きだし、情熱的な色で染まった陽が辺
りを包んでいた。
[終]
[2000/06/08]
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