小説(転載) Coffee Shop 1/7
官能小説
Coffee Shop
取り引き先回りが一段落し、竹内はいつもの喫茶店に入った。店内は空いている。
「いらっしゃいませ。」
竹内がカウンター近くのボックス席に座ると、店員が水を差し出す。竹内は、アメリカンを注文し、鞄からノートパソコンを取り出した。今の時期は、竹内の仕事は比較的暇であり、作成する見積書も多くはない。
必要な書類を作成しながら、竹内はふと一カ月後の同窓会のことを思った。地元から離れた東京へ進学し、そのまま就職した竹内は、同窓会にずっと欠席していた。友人たちに会いたくないわけではないが、高校を卒業して年月が経ち、連絡を絶っているので、少し行きづらく感じていたのだ。
今回の同窓会は、幹事がはりきっているらしく、絶対に来て欲しいという手書きのメッセージがついていた。前回の同窓会で、竹内の話が出、あいつは今、で盛り上がったらしい。
「別に何も変わってないよ。」
竹内はつぶやいた。
「お待たせしました。」
店員が竹内のテーブルにコーヒーを運んできた。竹内は、ありがとうと言いながら店員を見た。店員は微笑むと、他のテーブルの片づけを始めた。
「竹内さん、最近どう?」
カウンター越しにマスターが声をかけてきた。マスターは無愛想な人だが、常連の客にはよく声をかける。今は、客が少ないので、少し離れた竹内にも声をかけてきたのだ。
「ぼちぼちですよ。今はそんなに忙しくないから、楽ですけどね。」
竹内はコーヒーに口をつけながら答えた。
マスターは笑みを浮かべて竹内を見、それからカップを磨き始めた。店員がカウンターの中に入ってくると、マスターが店員に声をかけた。
「美知ちゃん、それ洗ったら、休憩していいよ。」
はい、と返事をしながら、店員はカップを洗い出した。
小さな喫茶店なので、店員は彼女一人だ。忙しい時間帯はマスターの奥さんも店に出る。竹内はマスターのいれたコーヒーの方が好きだったから、できるだけマスターだけがいる時間帯を選んでいた。
「彼女、大学生でしょ。」
竹内はマスターを通して美知に尋ねた。特に意味はなかったが、マスターに声をかけられた流れで、口にしたのだ。
美知は笑顔でうなずいた。常連の客にそう聞かれるのはいつものことなのか、美知は特に会話をしようとはしなかった。食器を洗い終わると、カウンターの奥に入って行った。
竹内はパソコンを鞄にしまい、残りのコーヒーを飲み込んだ。
「ごちそうさま。」
竹内はお金をレジに置き、店をあとにした。
数日後、竹内が駅のホームで電車を待っていた。朝の通勤の時間帯と違い、ホームの人影はさほど多くはない。電車がホームに入ってくると、竹内は車両に乗り込んだ。
ふと、前をみると、どこかで見た顔がある。向こうもこちらに気づき、軽く会釈をした。
「ああ、喫茶店の子か。」
喫茶店のユニフォームを着ていないので、すぐには気づかなかったのだ。あとから乗り込んできた他の乗客の肩が軽く竹内に触れた。美知が少し腰をずらしたので、竹内は美知の隣に座った。
「学校の帰り?」
竹内が尋ねると、そうです、と美知が答える。
「竹内さんは、仕事ですか?」
美知が自分の名前を知っていたことに驚くと、常連さんの名前はほとんど覚えている、と美知が言った。
美知は店ではほとんどしゃべらないので、おとなしい子なのかと思っていたが、普段は明るく話すようだ。
竹内が美知の大学のことを尋ねると、美知は微笑みながら話した。美知も地方出身で、初めて東京に出てきたときは、右も左も分からず困ったという話に、竹内は笑った。
竹内が降りる駅に近づき、竹内は美知に声をかけて、電車を降りた。
次の日、竹内がいつものように喫茶店に行くと、美知はいなかった。カウンターに座った竹内が
「あれ、今日は違う子なんだね。」
とマスターに声をかけると、マスターはニヤリと笑い、
「何?竹内くん、美知ちゃんに興味あるの?」
と聞いてきた。竹内は慌てて否定し、電車で出会ったことをマスターに話した。マスターは冗談だよ、と笑いながら、美知はこの曜日は休みだ、と言った。
竹内は出されたコーヒーを飲みながら、そばにあった雑誌をめくり始めた。しばらくすると、店の扉が開き、中年の夫婦連れが入ってきた。夫婦はカウンターに座りながら、そばの竹内に気づき、声をかけてきた。
この夫婦も常連の客で、竹内とはこの店で何度か顔を合わせている。中年の夫婦は仲がよいらしく、二人の会話を聞いていると、竹内は飽きない。マスターも加わって、時折大声で笑った。
取り引き先回りが一段落し、竹内はいつもの喫茶店に入った。店内は空いている。
「いらっしゃいませ。」
竹内がカウンター近くのボックス席に座ると、店員が水を差し出す。竹内は、アメリカンを注文し、鞄からノートパソコンを取り出した。今の時期は、竹内の仕事は比較的暇であり、作成する見積書も多くはない。
必要な書類を作成しながら、竹内はふと一カ月後の同窓会のことを思った。地元から離れた東京へ進学し、そのまま就職した竹内は、同窓会にずっと欠席していた。友人たちに会いたくないわけではないが、高校を卒業して年月が経ち、連絡を絶っているので、少し行きづらく感じていたのだ。
今回の同窓会は、幹事がはりきっているらしく、絶対に来て欲しいという手書きのメッセージがついていた。前回の同窓会で、竹内の話が出、あいつは今、で盛り上がったらしい。
「別に何も変わってないよ。」
竹内はつぶやいた。
「お待たせしました。」
店員が竹内のテーブルにコーヒーを運んできた。竹内は、ありがとうと言いながら店員を見た。店員は微笑むと、他のテーブルの片づけを始めた。
「竹内さん、最近どう?」
カウンター越しにマスターが声をかけてきた。マスターは無愛想な人だが、常連の客にはよく声をかける。今は、客が少ないので、少し離れた竹内にも声をかけてきたのだ。
「ぼちぼちですよ。今はそんなに忙しくないから、楽ですけどね。」
竹内はコーヒーに口をつけながら答えた。
マスターは笑みを浮かべて竹内を見、それからカップを磨き始めた。店員がカウンターの中に入ってくると、マスターが店員に声をかけた。
「美知ちゃん、それ洗ったら、休憩していいよ。」
はい、と返事をしながら、店員はカップを洗い出した。
小さな喫茶店なので、店員は彼女一人だ。忙しい時間帯はマスターの奥さんも店に出る。竹内はマスターのいれたコーヒーの方が好きだったから、できるだけマスターだけがいる時間帯を選んでいた。
「彼女、大学生でしょ。」
竹内はマスターを通して美知に尋ねた。特に意味はなかったが、マスターに声をかけられた流れで、口にしたのだ。
美知は笑顔でうなずいた。常連の客にそう聞かれるのはいつものことなのか、美知は特に会話をしようとはしなかった。食器を洗い終わると、カウンターの奥に入って行った。
竹内はパソコンを鞄にしまい、残りのコーヒーを飲み込んだ。
「ごちそうさま。」
竹内はお金をレジに置き、店をあとにした。
数日後、竹内が駅のホームで電車を待っていた。朝の通勤の時間帯と違い、ホームの人影はさほど多くはない。電車がホームに入ってくると、竹内は車両に乗り込んだ。
ふと、前をみると、どこかで見た顔がある。向こうもこちらに気づき、軽く会釈をした。
「ああ、喫茶店の子か。」
喫茶店のユニフォームを着ていないので、すぐには気づかなかったのだ。あとから乗り込んできた他の乗客の肩が軽く竹内に触れた。美知が少し腰をずらしたので、竹内は美知の隣に座った。
「学校の帰り?」
竹内が尋ねると、そうです、と美知が答える。
「竹内さんは、仕事ですか?」
美知が自分の名前を知っていたことに驚くと、常連さんの名前はほとんど覚えている、と美知が言った。
美知は店ではほとんどしゃべらないので、おとなしい子なのかと思っていたが、普段は明るく話すようだ。
竹内が美知の大学のことを尋ねると、美知は微笑みながら話した。美知も地方出身で、初めて東京に出てきたときは、右も左も分からず困ったという話に、竹内は笑った。
竹内が降りる駅に近づき、竹内は美知に声をかけて、電車を降りた。
次の日、竹内がいつものように喫茶店に行くと、美知はいなかった。カウンターに座った竹内が
「あれ、今日は違う子なんだね。」
とマスターに声をかけると、マスターはニヤリと笑い、
「何?竹内くん、美知ちゃんに興味あるの?」
と聞いてきた。竹内は慌てて否定し、電車で出会ったことをマスターに話した。マスターは冗談だよ、と笑いながら、美知はこの曜日は休みだ、と言った。
竹内は出されたコーヒーを飲みながら、そばにあった雑誌をめくり始めた。しばらくすると、店の扉が開き、中年の夫婦連れが入ってきた。夫婦はカウンターに座りながら、そばの竹内に気づき、声をかけてきた。
この夫婦も常連の客で、竹内とはこの店で何度か顔を合わせている。中年の夫婦は仲がよいらしく、二人の会話を聞いていると、竹内は飽きない。マスターも加わって、時折大声で笑った。
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