小説(転載) 教育実習 1/5
官能小説
教育実習
チャイムが鳴り、朝の職員会議が始まった。
「えー、一週間後に教育実習生が三人来ることになっています。実習生の教科を考えて、指導担当は、英語の森山先生、同じく英語の牧野先生、数学の岡原先生にお願いしたいと思います。」
教頭の寺下が言うと、岡原は立ちあがった。
「あの、僕ですか?僕はまだ、実習生の指導なんて…。」
岡原は教師になって五年目である。他の森山、牧野の二人は十年以上の教師歴を持ち、ベテランであったが、岡原はまだ若く、自分の授業をすることで精一杯であった。
「いや、岡原先生。」
隣に座っている数学の加納が岡原の肩をたたいた。
「大丈夫ですよ。それに、岡原先生は教員採用試験を現役で合格したんでしょ。勉強方法なんかもその実習生に教えてやったらいいんです。」
「はあ…、そうですかね。」
岡原は自信なさそうに加納の言葉に答えた。
一週間後、朝の職員会議が始まった。入り口のドアが開き、校長のあとに続いて緊張した様子の実習生たちが入ってきた。
「あれっ?女の子ばかりだ。」
岡原は自分の手元の用紙を見た。
「庄野諒」
用紙には担当するはずの実習生の名前がある。岡原は数学であることと、「諒」という名前から実習生は男だとばかり思っていたのだった。
岡原はもう一度実習生たちを見た。
「本日から二週間、勉強させていただく庄野諒です。教科は数学です。ご指導よろしくお願いします。」
諒がお辞儀をした。続けて教頭が、
「担当していただくのは、岡原先生です。」
と言いながら、岡原の方の見た。岡原は立ち上がり、よろしく、とあいさつした。
職員会議が終わり、教師たちは道具を持ちながら受け持ちのクラスへと出ていく。
「岡原せんせ。」
隣の加納が岡原の耳元に近づきささやいた。
「ずいぶんきれいな子じゃないですか。きれいな子は指導しにくいですよ。がんばってくださいね。」
加納はニヤリと笑って職員室を出ていった。岡原は加納の言った意味がよく分からなかった。
「あの…。」
声をかけられて岡原が気づいた。庄野諒が先ほどから岡原の机越しに立っているのだ。
「あの、庄野諒です。よろしくお願いします。」
岡原は、改めて諒を見た。長くまっすぐな黒髪を後ろでひとつに束ね、白いブラウスに紺色のスカートをはいた諒は、いかにも実習生らしい格好をしている。岡原はTシャツにルーズなジャージ姿の自分に気づき、少し恥ずかしくなった。
「あ、ああ。庄野さんだね。いや庄野先生かな。担当の岡原です。よろしく。」
岡原は一時間目の授業がなかったので、諒を加納の席に座らせた。
「えっと、まずは…。僕は二年生の数学を受け持っているので、庄野先生も二年生の授業を担当してもらいます。」
諒は、岡原の説明ひとつひとつに小さく返事をしている。諒の表情はかたく、岡原はしゃべりづらくなった。
「僕はね、教員になってまだ五年目で、実習生の担当は初めてなんです。だから、庄野先生にどこまで指導できるか分からないんですが…。」
岡原が授業の説明を中断し、自信なさそうに話し出したのを聞いて、諒は微笑んだ。
本当にきれいな子だな。岡原は微笑む諒を見て思った。目が大きく鼻筋も通 っているので、どこか気品すら感じられる顔立ちだ。実習生は大体、派手な化粧などはしてこないから、諒が薄化粧なのは当たり前なのだろうが、化粧をとった素顔も今と変わりはないだろう。
「彼氏はいるの?」
岡原は自分の口から出た言葉に慌てた。なんてことを聞くんだ、これじゃ下心があるみたいじゃないか。
「い、いや、あの、実習中はいろいろと、…指導案なんかを書くのに帰りが遅くなるから、彼氏がいたら、デートできなくて怒るんじゃないかなあ、なんて思っただけで…。」
慌てる岡原の様子を見て、諒はくすくす笑い出した。
「僕もねえ、実習中は彼女になんやかんや言われたことがあったりして、大変だったんだよね。」
なんとかフォローできたと岡原は思った。諒は微笑みながら、
「大丈夫です。彼はいませんから。」
と答えた。
「あの、ごめんね。セクハラだったよね。」
岡原が素直に謝るのを見て、諒は、気にしないでください、と言った。
一時間目の終わりを告げるチャイムが鳴り、岡原は二時間目の自分の授業を見学するように諒に言った。
岡原は生徒に人気のある教師だ。まだ若く容姿も悪くないことも理由のひとつだろうが、それにもまして、表情豊かにわかりやすく教えることが一番の理由だろう。
教室に入ると、生徒たちは一斉に岡原の後ろの女性に注目した。
「あれー、女の先生じゃん。」
男子生徒がそう言ったのは、岡原が生徒たちに実習生が来ることを伝えたときに、男の先生だと言っていたからである。
「あ、ああ。ごめんごめん。先生、うっかりしててなあ。」
「諒」という名前から男だと判断していたことが、諒にばれてしまったので、岡原は慌ててしまったが、諒にあいさつをするよう促すと、諒は黒板に自分の名前を書き、
「庄野諒といいます。諒という名前を見て、岡原先生が男だとお間違えになったんだと思いますが、これまでも私の名前を見て女だと思った人の方が少ないです。」
と笑った。生徒たちは、諒の笑顔につられて笑い出した。
「岡原ちゃーん、美人の先生でよかったねー。」
一人の男子生徒が岡原を冷やかした。諒を初めて見たときから、生徒たちの反応は予想していたので、岡原は平気な顔をして、
「先生もうれしいが、お前らの方がうれしいんじゃないのか?」
と答えた。生徒たちはわあっと歓声をあげた。
チャイムが鳴り、朝の職員会議が始まった。
「えー、一週間後に教育実習生が三人来ることになっています。実習生の教科を考えて、指導担当は、英語の森山先生、同じく英語の牧野先生、数学の岡原先生にお願いしたいと思います。」
教頭の寺下が言うと、岡原は立ちあがった。
「あの、僕ですか?僕はまだ、実習生の指導なんて…。」
岡原は教師になって五年目である。他の森山、牧野の二人は十年以上の教師歴を持ち、ベテランであったが、岡原はまだ若く、自分の授業をすることで精一杯であった。
「いや、岡原先生。」
隣に座っている数学の加納が岡原の肩をたたいた。
「大丈夫ですよ。それに、岡原先生は教員採用試験を現役で合格したんでしょ。勉強方法なんかもその実習生に教えてやったらいいんです。」
「はあ…、そうですかね。」
岡原は自信なさそうに加納の言葉に答えた。
一週間後、朝の職員会議が始まった。入り口のドアが開き、校長のあとに続いて緊張した様子の実習生たちが入ってきた。
「あれっ?女の子ばかりだ。」
岡原は自分の手元の用紙を見た。
「庄野諒」
用紙には担当するはずの実習生の名前がある。岡原は数学であることと、「諒」という名前から実習生は男だとばかり思っていたのだった。
岡原はもう一度実習生たちを見た。
「本日から二週間、勉強させていただく庄野諒です。教科は数学です。ご指導よろしくお願いします。」
諒がお辞儀をした。続けて教頭が、
「担当していただくのは、岡原先生です。」
と言いながら、岡原の方の見た。岡原は立ち上がり、よろしく、とあいさつした。
職員会議が終わり、教師たちは道具を持ちながら受け持ちのクラスへと出ていく。
「岡原せんせ。」
隣の加納が岡原の耳元に近づきささやいた。
「ずいぶんきれいな子じゃないですか。きれいな子は指導しにくいですよ。がんばってくださいね。」
加納はニヤリと笑って職員室を出ていった。岡原は加納の言った意味がよく分からなかった。
「あの…。」
声をかけられて岡原が気づいた。庄野諒が先ほどから岡原の机越しに立っているのだ。
「あの、庄野諒です。よろしくお願いします。」
岡原は、改めて諒を見た。長くまっすぐな黒髪を後ろでひとつに束ね、白いブラウスに紺色のスカートをはいた諒は、いかにも実習生らしい格好をしている。岡原はTシャツにルーズなジャージ姿の自分に気づき、少し恥ずかしくなった。
「あ、ああ。庄野さんだね。いや庄野先生かな。担当の岡原です。よろしく。」
岡原は一時間目の授業がなかったので、諒を加納の席に座らせた。
「えっと、まずは…。僕は二年生の数学を受け持っているので、庄野先生も二年生の授業を担当してもらいます。」
諒は、岡原の説明ひとつひとつに小さく返事をしている。諒の表情はかたく、岡原はしゃべりづらくなった。
「僕はね、教員になってまだ五年目で、実習生の担当は初めてなんです。だから、庄野先生にどこまで指導できるか分からないんですが…。」
岡原が授業の説明を中断し、自信なさそうに話し出したのを聞いて、諒は微笑んだ。
本当にきれいな子だな。岡原は微笑む諒を見て思った。目が大きく鼻筋も通 っているので、どこか気品すら感じられる顔立ちだ。実習生は大体、派手な化粧などはしてこないから、諒が薄化粧なのは当たり前なのだろうが、化粧をとった素顔も今と変わりはないだろう。
「彼氏はいるの?」
岡原は自分の口から出た言葉に慌てた。なんてことを聞くんだ、これじゃ下心があるみたいじゃないか。
「い、いや、あの、実習中はいろいろと、…指導案なんかを書くのに帰りが遅くなるから、彼氏がいたら、デートできなくて怒るんじゃないかなあ、なんて思っただけで…。」
慌てる岡原の様子を見て、諒はくすくす笑い出した。
「僕もねえ、実習中は彼女になんやかんや言われたことがあったりして、大変だったんだよね。」
なんとかフォローできたと岡原は思った。諒は微笑みながら、
「大丈夫です。彼はいませんから。」
と答えた。
「あの、ごめんね。セクハラだったよね。」
岡原が素直に謝るのを見て、諒は、気にしないでください、と言った。
一時間目の終わりを告げるチャイムが鳴り、岡原は二時間目の自分の授業を見学するように諒に言った。
岡原は生徒に人気のある教師だ。まだ若く容姿も悪くないことも理由のひとつだろうが、それにもまして、表情豊かにわかりやすく教えることが一番の理由だろう。
教室に入ると、生徒たちは一斉に岡原の後ろの女性に注目した。
「あれー、女の先生じゃん。」
男子生徒がそう言ったのは、岡原が生徒たちに実習生が来ることを伝えたときに、男の先生だと言っていたからである。
「あ、ああ。ごめんごめん。先生、うっかりしててなあ。」
「諒」という名前から男だと判断していたことが、諒にばれてしまったので、岡原は慌ててしまったが、諒にあいさつをするよう促すと、諒は黒板に自分の名前を書き、
「庄野諒といいます。諒という名前を見て、岡原先生が男だとお間違えになったんだと思いますが、これまでも私の名前を見て女だと思った人の方が少ないです。」
と笑った。生徒たちは、諒の笑顔につられて笑い出した。
「岡原ちゃーん、美人の先生でよかったねー。」
一人の男子生徒が岡原を冷やかした。諒を初めて見たときから、生徒たちの反応は予想していたので、岡原は平気な顔をして、
「先生もうれしいが、お前らの方がうれしいんじゃないのか?」
と答えた。生徒たちはわあっと歓声をあげた。
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