小説(転載) インセスタス Incest.2 ショーペンハウエルのハリネズミ 1/3
官能小説
Incest.2 ショーペンハウエルのハリネズミ
─January.24 / Washstand ─
masaki
1月24日の朝は、いつもと変わらずに明けた。
どこか重さの残る頭に手をやりながら、パジャマ姿のまま部屋を出て、とんとん
と正樹は階段を降りる。
正直、よく眠れなかった。
かすかなぬくもりが、まだ自分の唇に残っている。あのとき、たしかに乃絵美の
唇は──正樹のそれに触れた。
(ジョークに決まってる)
とは思う。だけど、あの涙はなんだったのだろう。
どうしてあんな目で、すがるような、求めるような、そんな情念のこもった瞳で
俺を見るのだろう。
どうしてあのとき、自分の頬はあんなに上気していたんだろう。まるで、初めて
キスをしたような、中学生のように。
どうして、どくどくと胸が鳴っていたのだろう?
「くそっ」
頭の中が煮詰まったスープのようになった気がして、正樹は髪をかきむしった。
まだ、不透明感が残っているようだ。冷たい水で顔でも洗えば、すっきりするだろ
う。
こんなごちゃごちゃと絡まった糸のような気持ちも、きっと消えてしまうはずだ。
そう思いながら、正樹は洗面所のドアのノブに手をかけた。
noemi
1月24日の朝は、乃絵美にとって特別な朝だった。
きっとこの16年間でこれだけ長い朝もなかったような気がする。どんな顔をし
て正樹に会えばいいんだろう。最初にまず、なんて言えばいいんだろう?
洗面所に降りて、鏡に映る自分の顔を見ながら乃絵美は思った。
(……ひどい顔)
と思う。布団を頭から被って目を閉じたけれど、昨晩は眠りにつくことができな
った。
「ごめんね、お兄ちゃん。昨日のあれはちょっとふざけてみたんだよ。……ちょっ
と困らせたくなっちゃって。ごめんね、あはは、笑えなかった……よね?」
そんな自分らしくない言い訳が浮かぶ。
すぐに頭から、そのセンテンスを振り払う。だって、あれはふざけてなんかいな
かった。
自分の中のどこかの部分が、そう叫んでいるような気がする。
その声に突き動かされるように、そっとひとさし指で唇に触れてみる。かすかな
ぬくもり。やっぱり、夢なんかじゃない。ジョークなんかでは決してない。あのと
きわたしは、
──お兄ちゃんに、キスしたんだ。
蛇口をひねると、勢いよく水が溢れ出した。
出水口にキャップを填め、水を張る。
どうしてあんなことをしてしまったんだろう。ジョークじゃないなら、どうして。
……引き止めたかった? 正樹に遠くへ、自分の手の届かない遠くへ行ってほしく
なかった?
じゃあなんで素直にそう言わなかったの?
自分の中の、また別の部分がそうささやく。
どうしてキスなんかしたの? 「行かないで」って、ひとこと言えばいいのに。
それじゃまるで、──みたいじゃない──。
ばしゃっ。
息を吹き込んだ風船のようにふくらみ始めたその声を押しつぶすように、乃絵美
は洗面台いっぱいに張った水に顔をつけた。
水の冷たさが肌にしみこむ。でも、この熱はとても消えそうになかった。マラリ
アに似たこの熱病は、水なんかじゃ消せないのだ。きっと。
そんなことを考えていると、かちゃり、と洗面所のドアが開く音がした。
1
「あっ、……と」
洗面所のドアを開けて、中にいた乃絵美が視界に入ったとたん、思わず正樹は声
をあげた。
「今、使ってるか。悪い」
取り繕うようにそんなことを言ってしまう。見れば分かるだろう、と自分で苦笑
してしまった。意識しているのがバレバレだ。
「あ、……うん。ごめんね、すぐ……あけるから」
乃絵美もすこしあわてたように、かけてあったタオルを手に取って顔を拭いた。
そして、「もういいよ」、と消え入りそうな声で言い、正樹の脇をすり抜けて、逃
げるように洗面所を出ようとする。
「乃絵美」
思わず、正樹はその腕をつかんだ。
「…………!」
乃絵美が、はっとしたように顔をあげる。
不思議なくらい、細くて柔らかい腕だった。
掌に、なめらかな弾力と感触が返ってきて、思わずどきりと正樹の胸が鳴る。
「その……な」
言葉に詰まる。どうも勝手が違う、と正樹は思った。何を意識してやがる、と自
分で突っ込みたくなる。そんな思いを振り払うように正樹は大きく深呼吸すると、
「おはよう、──乃絵美」
と笑った。
乃絵美が顔をあげる。小さな唇がわずかに震えた。
そうだ、笑ってくれよ、乃絵美。いつもみたいに、「おはよう、お兄ちゃん」っ
て言ってくれよ。それで全部チャラだ。ラインなんか踏み出してない。昨夜のこと
は、ジョークで済むじゃないか。
けれど。
けれど、乃絵美はきゅっと唇を結んだまま──うつむいていた。前髪が揺れる。
その瞳は、何か言いたげに潤んでいるように見えた。
「乃絵美?」
左手で、肩を揺する。
「なんだ乃絵美、朝は『おはよう』ってちゃんと挨拶しなきゃ駄目だろ。そんな悪
い子に躾けたおぼえは……」
「……お兄ちゃん」
茶化そうとした正樹の声は、乃絵美の小さな呟きに阻まれた。
「あ、……ん?」
「痛い……よ」
「え? あ、ああ、悪い」
最初何のことを言っているか分からなかったが、それが自分が掴んだ右手のせい
だと言うことに気づいて、はっと正樹は手をひっこめた。いつの間にか固く握りし
めていたらしい。正樹の掌はじっとりと濡れていて、乃絵美の白い二の腕にくっき
りと赤いあとが残っている。
「悪い、つい──。痛かったか?」
さっき「痛い」って言ったじゃないか、と自分で思いながらも、正樹はそう訊か
ずにはいれなかった。ふるふると乃絵美は首を振る。嘘だと分かっていても、どこ
かほっとする。
気が付くと、じっと乃絵美がこっちを見ていた。
長いまつげ。薄い唇。母さんによく似た目鼻。母さんそっくりの長い黒髪が揺れ
ている。
乃絵美の小さな唇が上下した。
「……よ」
え?
なんだ、なんて言った?
「ふざけてなんか、ないよ」
もう一度、小さな呟きが正樹の耳を打った。
「え?」
「昨夜のこと。わたし、ふざけてなんか──ないよ。冗談なんかであんなこと、し
ないから」
「……乃絵美?」
「先……学校行くね。お弁当、テーブルの上に置いてあるから」
語尾はドアの閉まるパタンという音に重なった。
その乾いた音が1メートルも離れていないのに、まるで遠くの花火のように──
くぐもって正樹の耳に届いた。
2
(なにやってるんだろう)
逃げるように家を出て、一歩一歩、重い足取りを進めながら、乃絵美は思った。
きっとあのとき、無理にでも笑って、「おはよう、お兄ちゃん」とそう言うだけ
で──戻れたのだ。いつもの日常に。きっと、何事もなく。
だけど、どうしても言えなかった。
本当は、嘘でもそう言うつもりだった。だけど、あの瞬間──正樹の大きな手で、
強く腕を掴まれたとき。
なにもかも、真っ白になってしまった。
こんなに大きな手だったんだ。優しいだけだったお兄ちゃんのてのひらは、本当
はあんなにも強くて、熱かったんだ。
その熱い掌が、乃絵美の腕を掴んだ瞬間。
縛られてしまったような気がした。頭の中に浮かんでいたいくつもの言葉は、肌
越しにしみこむ熱に全部溶かされてしまった。
あのとき乃絵美は、このまま正樹の手に首をしめられて、殺されてしまってもい
いとさえ思った。
もし、そうしていてくれたら、どんなに楽だろう──?
(わたし、どうかしてる……)
たまらない自己嫌悪に、乃絵美は鞄を胸に抱いて、きゅっと唇を噛みしめた。
ゆっくりと坂を登る。
冬の冷たい風が電柱の隙間を抜けて、乃絵美の髪とコートを揺らした。
高い空。
見慣れている何気ない景色が、今はひどく遠くに感じる。
──ふざけてなんかないから。
自分の言葉がどこかで響いた。
じゃあ本気だったの? 自問の声がする。だとしたら、異常だよ。親愛でなく恋
情の気持ちなんだったら、それは、異常だよ──。
少なくとも、正樹はそう感じているだろう。
乃絵美は思った。
あのときの正樹の顔。ただ困惑と──おびえに似た表情をしていた。
どうしてあんな顔をさせてしまったんだろう?
笑っている正樹が好きだった。まっすぐ前を見つめて、誰よりも早く走る正樹の
横顔を、どんな宝物よりも大切に思っていたのに。
壊してしまった。
正樹をあんなに困らせて、苦しめて。
笑顔を奪ってしまった。
堰を切った心から、どんどん感情の波があふれてくる。
遠くで、チャイムの音がした。
あんなに早く家を出てきたのに、もう予鈴の音がする。坂の向こうに見えるエル
シアの校舎をぼんやりと眺めながら、乃絵美は思った。
ちくり、と何かが胸を刺した。
ハリネズミだ。
乃絵美は思う。
身を寄せあいたくて、けれどもその針で相手を刺し傷つけてしまう、ちっぽけな、
ショーペンハウエルのハリネズミ。
ぬくもりを求めるほど、深く相手の肌に針を差し込む灰色の鼠。
霧のかかったような頭で、ぼんやりとそんなことを考えながら校門をくぐる乃絵
美の耳に、どこかで「きい」、という悲しい鳴き声が響いた。
─January.24 / Washstand ─
masaki
1月24日の朝は、いつもと変わらずに明けた。
どこか重さの残る頭に手をやりながら、パジャマ姿のまま部屋を出て、とんとん
と正樹は階段を降りる。
正直、よく眠れなかった。
かすかなぬくもりが、まだ自分の唇に残っている。あのとき、たしかに乃絵美の
唇は──正樹のそれに触れた。
(ジョークに決まってる)
とは思う。だけど、あの涙はなんだったのだろう。
どうしてあんな目で、すがるような、求めるような、そんな情念のこもった瞳で
俺を見るのだろう。
どうしてあのとき、自分の頬はあんなに上気していたんだろう。まるで、初めて
キスをしたような、中学生のように。
どうして、どくどくと胸が鳴っていたのだろう?
「くそっ」
頭の中が煮詰まったスープのようになった気がして、正樹は髪をかきむしった。
まだ、不透明感が残っているようだ。冷たい水で顔でも洗えば、すっきりするだろ
う。
こんなごちゃごちゃと絡まった糸のような気持ちも、きっと消えてしまうはずだ。
そう思いながら、正樹は洗面所のドアのノブに手をかけた。
noemi
1月24日の朝は、乃絵美にとって特別な朝だった。
きっとこの16年間でこれだけ長い朝もなかったような気がする。どんな顔をし
て正樹に会えばいいんだろう。最初にまず、なんて言えばいいんだろう?
洗面所に降りて、鏡に映る自分の顔を見ながら乃絵美は思った。
(……ひどい顔)
と思う。布団を頭から被って目を閉じたけれど、昨晩は眠りにつくことができな
った。
「ごめんね、お兄ちゃん。昨日のあれはちょっとふざけてみたんだよ。……ちょっ
と困らせたくなっちゃって。ごめんね、あはは、笑えなかった……よね?」
そんな自分らしくない言い訳が浮かぶ。
すぐに頭から、そのセンテンスを振り払う。だって、あれはふざけてなんかいな
かった。
自分の中のどこかの部分が、そう叫んでいるような気がする。
その声に突き動かされるように、そっとひとさし指で唇に触れてみる。かすかな
ぬくもり。やっぱり、夢なんかじゃない。ジョークなんかでは決してない。あのと
きわたしは、
──お兄ちゃんに、キスしたんだ。
蛇口をひねると、勢いよく水が溢れ出した。
出水口にキャップを填め、水を張る。
どうしてあんなことをしてしまったんだろう。ジョークじゃないなら、どうして。
……引き止めたかった? 正樹に遠くへ、自分の手の届かない遠くへ行ってほしく
なかった?
じゃあなんで素直にそう言わなかったの?
自分の中の、また別の部分がそうささやく。
どうしてキスなんかしたの? 「行かないで」って、ひとこと言えばいいのに。
それじゃまるで、──みたいじゃない──。
ばしゃっ。
息を吹き込んだ風船のようにふくらみ始めたその声を押しつぶすように、乃絵美
は洗面台いっぱいに張った水に顔をつけた。
水の冷たさが肌にしみこむ。でも、この熱はとても消えそうになかった。マラリ
アに似たこの熱病は、水なんかじゃ消せないのだ。きっと。
そんなことを考えていると、かちゃり、と洗面所のドアが開く音がした。
1
「あっ、……と」
洗面所のドアを開けて、中にいた乃絵美が視界に入ったとたん、思わず正樹は声
をあげた。
「今、使ってるか。悪い」
取り繕うようにそんなことを言ってしまう。見れば分かるだろう、と自分で苦笑
してしまった。意識しているのがバレバレだ。
「あ、……うん。ごめんね、すぐ……あけるから」
乃絵美もすこしあわてたように、かけてあったタオルを手に取って顔を拭いた。
そして、「もういいよ」、と消え入りそうな声で言い、正樹の脇をすり抜けて、逃
げるように洗面所を出ようとする。
「乃絵美」
思わず、正樹はその腕をつかんだ。
「…………!」
乃絵美が、はっとしたように顔をあげる。
不思議なくらい、細くて柔らかい腕だった。
掌に、なめらかな弾力と感触が返ってきて、思わずどきりと正樹の胸が鳴る。
「その……な」
言葉に詰まる。どうも勝手が違う、と正樹は思った。何を意識してやがる、と自
分で突っ込みたくなる。そんな思いを振り払うように正樹は大きく深呼吸すると、
「おはよう、──乃絵美」
と笑った。
乃絵美が顔をあげる。小さな唇がわずかに震えた。
そうだ、笑ってくれよ、乃絵美。いつもみたいに、「おはよう、お兄ちゃん」っ
て言ってくれよ。それで全部チャラだ。ラインなんか踏み出してない。昨夜のこと
は、ジョークで済むじゃないか。
けれど。
けれど、乃絵美はきゅっと唇を結んだまま──うつむいていた。前髪が揺れる。
その瞳は、何か言いたげに潤んでいるように見えた。
「乃絵美?」
左手で、肩を揺する。
「なんだ乃絵美、朝は『おはよう』ってちゃんと挨拶しなきゃ駄目だろ。そんな悪
い子に躾けたおぼえは……」
「……お兄ちゃん」
茶化そうとした正樹の声は、乃絵美の小さな呟きに阻まれた。
「あ、……ん?」
「痛い……よ」
「え? あ、ああ、悪い」
最初何のことを言っているか分からなかったが、それが自分が掴んだ右手のせい
だと言うことに気づいて、はっと正樹は手をひっこめた。いつの間にか固く握りし
めていたらしい。正樹の掌はじっとりと濡れていて、乃絵美の白い二の腕にくっき
りと赤いあとが残っている。
「悪い、つい──。痛かったか?」
さっき「痛い」って言ったじゃないか、と自分で思いながらも、正樹はそう訊か
ずにはいれなかった。ふるふると乃絵美は首を振る。嘘だと分かっていても、どこ
かほっとする。
気が付くと、じっと乃絵美がこっちを見ていた。
長いまつげ。薄い唇。母さんによく似た目鼻。母さんそっくりの長い黒髪が揺れ
ている。
乃絵美の小さな唇が上下した。
「……よ」
え?
なんだ、なんて言った?
「ふざけてなんか、ないよ」
もう一度、小さな呟きが正樹の耳を打った。
「え?」
「昨夜のこと。わたし、ふざけてなんか──ないよ。冗談なんかであんなこと、し
ないから」
「……乃絵美?」
「先……学校行くね。お弁当、テーブルの上に置いてあるから」
語尾はドアの閉まるパタンという音に重なった。
その乾いた音が1メートルも離れていないのに、まるで遠くの花火のように──
くぐもって正樹の耳に届いた。
2
(なにやってるんだろう)
逃げるように家を出て、一歩一歩、重い足取りを進めながら、乃絵美は思った。
きっとあのとき、無理にでも笑って、「おはよう、お兄ちゃん」とそう言うだけ
で──戻れたのだ。いつもの日常に。きっと、何事もなく。
だけど、どうしても言えなかった。
本当は、嘘でもそう言うつもりだった。だけど、あの瞬間──正樹の大きな手で、
強く腕を掴まれたとき。
なにもかも、真っ白になってしまった。
こんなに大きな手だったんだ。優しいだけだったお兄ちゃんのてのひらは、本当
はあんなにも強くて、熱かったんだ。
その熱い掌が、乃絵美の腕を掴んだ瞬間。
縛られてしまったような気がした。頭の中に浮かんでいたいくつもの言葉は、肌
越しにしみこむ熱に全部溶かされてしまった。
あのとき乃絵美は、このまま正樹の手に首をしめられて、殺されてしまってもい
いとさえ思った。
もし、そうしていてくれたら、どんなに楽だろう──?
(わたし、どうかしてる……)
たまらない自己嫌悪に、乃絵美は鞄を胸に抱いて、きゅっと唇を噛みしめた。
ゆっくりと坂を登る。
冬の冷たい風が電柱の隙間を抜けて、乃絵美の髪とコートを揺らした。
高い空。
見慣れている何気ない景色が、今はひどく遠くに感じる。
──ふざけてなんかないから。
自分の言葉がどこかで響いた。
じゃあ本気だったの? 自問の声がする。だとしたら、異常だよ。親愛でなく恋
情の気持ちなんだったら、それは、異常だよ──。
少なくとも、正樹はそう感じているだろう。
乃絵美は思った。
あのときの正樹の顔。ただ困惑と──おびえに似た表情をしていた。
どうしてあんな顔をさせてしまったんだろう?
笑っている正樹が好きだった。まっすぐ前を見つめて、誰よりも早く走る正樹の
横顔を、どんな宝物よりも大切に思っていたのに。
壊してしまった。
正樹をあんなに困らせて、苦しめて。
笑顔を奪ってしまった。
堰を切った心から、どんどん感情の波があふれてくる。
遠くで、チャイムの音がした。
あんなに早く家を出てきたのに、もう予鈴の音がする。坂の向こうに見えるエル
シアの校舎をぼんやりと眺めながら、乃絵美は思った。
ちくり、と何かが胸を刺した。
ハリネズミだ。
乃絵美は思う。
身を寄せあいたくて、けれどもその針で相手を刺し傷つけてしまう、ちっぽけな、
ショーペンハウエルのハリネズミ。
ぬくもりを求めるほど、深く相手の肌に針を差し込む灰色の鼠。
霧のかかったような頭で、ぼんやりとそんなことを考えながら校門をくぐる乃絵
美の耳に、どこかで「きい」、という悲しい鳴き声が響いた。
コメント