小説(転載) とらぶるTWIN 3/3
近親相姦小説
第3章 結ばれる時、それから・・・
どれくらい眠ったのだろう。
泣き疲れてベッドに突っ伏して意識が遠くなってから、随分経っているような気がした。気が付くと、さっきまで廊下側から見えていた満月が、いつのまにかレースカーテンの向こうの西の空に周って部屋の中を白く照らしていた。
・・・三時半か。
月明かりで光る机の上の置き時計をぼんやりと眺めた。
泣きたいだけ泣いて、こうして目覚めてみると、ずっと問題がクリアになったように思える。
わたしがマコ君を好きなのか、一葉もそう思っているのか、マコ君本人がわたしたちの事をどう思っているのか、それはどんなに考えても結論が出ない。
わかっているのは、このまま立ち止まっていることはできないという事。今の気持ちをぶつけて、返ってくるものを見つけ出す事。
二葉は、ベッドから身体を起こすと、乱れたままになったベージュのパジャマを脱いだ。そして、水色の地味なブラジャーとショーツも取ると、全裸になって化粧台の前のスツールに腰掛けた。月明かりだけで自分の姿を映し出す鏡を見ながら、軽くウェーブのかかった長い髪に、ゆっくりとブラシを当てた。
そして、全裸の身体に、薄いピンクの編み込みが入ったパールホワイトのスリップだけを纏う。
・・・行こう。
ベランダに出ると、雲一つない南西の空に、満月が光々と輝いている。公園の木々が、柔らかい光を受けて、静かにさざめいていた。
二葉は、カーテンのしまった一葉の部屋の窓の前を通り過ぎ、真の部屋の窓の前に立った。
さあ、気持ちを決めて・・・。
風を入れるためか、半開きになった窓の縁に手をかけ、ゆっくりと開けた。
「・・・ふーちゃんだろ。」
窓のレールの上に立った時、真の声がした。
「マコ、君。」
真もまた、うつらうつらしては目を覚ますことを繰り返してはこの夜を過ごしていた。唐突に様々なことが明らかになったこの日。真は、自分が気付かなくとも、想いはどうしようもなく人と人の間に流れていくのだ、という当たり前の真実を見つめざるを得なかった。
そして今、ベッドの上に何も掛けずに仰向けになった視界の中に、白く輝くスリップに身体を包んだ二葉が立っていた。月の光を背中に、しなやかな肢体が、スリップを透かして淡い影を落としていた。
・・・ふうちゃん、なんて奇麗なんだろう。
二葉は、何も言わずにベッドの上に身体を乗せ、身を屈ませると、真の顔に自分の顔を近づけた。長い髪が真の顔の上にかかり、そのまま二人は見つめ合った。
「ふうちゃん、俺、ふうちゃんの事、女の子として好きなのか、わからないよ。」
真は正直に言った。
「わたしも。でも、今はこうしていたい。きっと、そうしないと、何も始まらない気がするの。」
「・・・俺も、同じ事考えてた。」
そして、唇が合わさった。互いに目を閉じ、柔らかい感触を確かめるようにそのまま何秒かじっと身体を止める。二葉の方が先に唇を開くと、それに合わせるように真の唇も開いた。舌の先が、真の歯の間に割り込もうと居場所を探る。真も拙い知識を使って、自分の舌をおそるおそる絡めた。
こんな軽いキスだけで、真のトランクスの中は一気に怒張し、二葉の太股に昂まりを伝えた。
更に深く絡まりだした舌をそのままに、二葉の細い指が、下着越しに真を捉える。
マコ君の、すごい・・・。
柔らかく撫で上げると、キスをしたままの真の口から少しうめきが漏れる。
「マコ君、わたしのも触って。」
手を取ってスリップの下の乳房に導いた。
柔らかい・・・・。
もう張り出した乳首の感触を確かめながら、二葉の柔らかい胸を揉む。
「も少し、弱く・・・。ん、そう。」
真の左手は、自然に露になった二葉のヒップにそえられ、そろそろと愛撫する。
ああ、いい感じ・・・。
頭の中に、桃色の花が咲き始める。でも、その色はけっしてきらきらと輝く強いものではなく、穏やかで、静かな満足を伴っていた。
そして、二葉の手は真のトランクスの中に潜り込むと、膨らんだ先端を包み込むように摩擦した。応えるように、真の手も二葉の胸を揉み上げ、乳首をゆっくりと転がす。
・・・ここも、触っていいのかな・・・。
ためらいがちに左のヒップを撫でていた真の指先が、二葉の腰を回って、足の間を探ろうとする。二葉は、左手で真の頭を抱き寄せると、耳元にささやいた。
「ここよ。」
いっとき、トランクスに潜り込んでいた手を離し、真の左手を奥まった部分に導く。
あ、濡れてる。ふーちゃんの・・・・。
できるだけ力を抜いて、優しく、潤んだ場所を探る。どこを触ったらいいのか見当もつかないような指の動きでも、二葉には十分すぎるほどの快感を与えてくれた。
マコ君のも、濡れてきた・・。
指先に感じるぬめった感触は、真の官能も十分準備ができたことを知らせていた。
「ね、マコ君。」
また耳元でささやく。
「わたしの中に、入れて。マコ君の。」
その言葉だけで、真のペニスが手の中でピクッと震えるのがわかる。
「い、いいの?ふうちゃん。」
「うん。だって、そのために来たんだもの。ただ、」
さっきベッドの端に置いたオレンジ色のコンドームを取り上げた。
「これ、つけて。」
「うん。わかった。」
二葉は、そろそろと真のトランクスを下ろす。すっかり怒張したペニスが、戒めを解かれて大きく立ち上がった。
す、すごい・・・。
ドキドキとする胸を押さえながら、コンドームを付けた。
「ふうちゃん、俺が上に・・・。」
「ううん、いいの。わたしにさせて。」
手のひらを真の頬に当てた。そして、瞳の中を覗き込むように、精悍さを増した真の顔を見つめた。
・・・ああ、そうなんだ。
見つめた瞳から暖かいものが流れ込んで来た時、二葉は悟った。真にも、その想いは伝わった。そう確信できた。
それでも、二葉は真の上に跨ると、ペニスを自らの奥まった場所に擦り付けた。息を吐くと、先の方が少し、入り口に入り込む。
大きい・・・。全部、入るかな・・・。
「ふうちゃん、大丈夫?」
眉根を寄せた表情に、真は二葉の腰の辺りに手を添えた。
「うん、大丈夫。」
グッっと腰を落とすと、一気に真の怒張は根元近くまで二葉の濡れた秘部に没入した。
う・・・気持ちいい・・。
真は、柔らかくペニスを包み込み、締め付けるような動きを時折続ける二葉の中で、すでに限界近くまで官能を昂ぶらせていた。
「まだ、まだいかないで、マコ君。」
二葉の目の端から、涙が一筋流れ落ちた。薄目を開けて耐えている真にもその涙が見えた。
「大丈夫、ふうちゃん、痛い?」
「違う、違うの。気にしないで。」
・・・ありがと、マコ君。わたし、わかった。
両手を真の胸の上に置くと、少し激しく腰を動かす。二葉の中の真は更に膨れ上がる。そして、完全に根元まで腰を沈め、受け入れた時、真が叫んだ。
「ダメだ。ふうちゃん、出るよ!」
「いいよ、出して、マコ君。わたしも、イク!」
めちゃくちゃに腰を律動させると、真のペニスが跳ね上がった。そして、二葉の一番奥深い部分をえぐった。
あ、あああ・・・・。
ビクッ、ビクッと震える真を感じながら、二葉も崩れ落ちた。そして、官能の嵐がゆっくりと引いていくまで、はだけた胸と胸を合わせて、荒い息をついていた。
・・・月が、きれい。
ゆっくりと身体を離して、真のペニスについたコンドームを取る。
「いいよ、ふうちゃん。自分でするから。」
「いいの。お姉さんにやらせて。」
精液の溜まったコンドームをティッシュに包むと、部屋の隅のごみ箱に放った。そして、乱れたスリップを直すと、真の横にうつぶせになった。
「ありがと、マコ君。」
両手を組んで、頭をもたれた二葉が、とてもリラックスしているように見えて、真は上半身を起こすと、静かに見下ろした。
「・・・初めてじゃなくて、がっかりだった?」
「ううん、そんなことはないよ。ふうちゃんは、ふうちゃんだから。」
二葉は、嬉しそうにふふふ、と笑った。
「ねえ、マコ君。」
「何?」
「憶えてる?マコ君ね、小学三年生くらいまでいっつも言ってたんだよ。『僕は、ふうちゃんのナイトだから、いつでも助けにいくんだ』って。」
忘れるわけもなかった。
「憶えてるよ。あの頃、そういうアニメがはやってたんだよね。」
「そう。だから、わたし、わかっちゃたんだ。」
少し眠そうに目を閉じ加減にして二葉は言った。
「いいよ、言わなくても。」
その先の言葉は、言わずとも真には推測がついた。
「いいの。言わせて。」
完全に目を閉じると、二葉はゆっくりと自分で確かめるように続けた。
「さっき、マコ君に抱かれた時、すっごく暖かい気持ちが流れ込んできた。でも、それは、わたしが自分で自分を大事にする気持ちにとても似てる。多分、他の知らない誰かを求めて、愛する気持ちとは違う。そうなの、もう、マコ君はわたしの中に住んでる・・・。かけがえのない家族なの。」
真は静かにうなずいた。
「・・・ごめんね、マコ君。勝手なことして、言って。マコ君の気持ちも考えないで・・・。」
「大丈夫。俺の気持ちもふうちゃんと同じだよ。」
更に眠そうになった二葉が言葉を続ける。
「・・・一葉、やっぱ、最初からわかってたんだろな・・・。もう・・・。」
後は寝息が続いた。
真はしばらく、眠りに落ちた二葉の横顔を見つめていた。乱れた髪が頬にかかってかわいらしい。足元のタオルケットを静かにかけると、ベッドから降りて、窓際に立った。
まったく、俺って情けない奴だな。一人で被害者になったつもりでさ。
自分の不安定さが、二人の姉をこんなにも悩ませていた。守られている者は、そのことになかなか気が付かないものだ.。誰かがそんな事を言っていたけれど、ほんとうにその通りだ。
俺は少なくとも、大事なみんなを守ることができる人間になりたい。
『マコトも、そろそろ大人になる時期だよ。』
一葉の言葉が不意に蘇った。
そっか、最初からわかってたってことか。まったく、カズ姉にはかなわないな。
真は白み始めた夏の空に背を向けると、部屋を出て階段を下りていった。
あれ・・・?
目を覚ますと、ここが自分の部屋でないことに気付く。
あ、そうだ・・・。
すっかり明るくなった部屋の眺めに、ここが真の部屋であることを思い出した。
キャー、わたし、マコ君としちゃったんだ。
一瞬、顔が火照って、恥ずかしさが込み上げた。しかし、その気持ちはそれほど長くは続かず、なんとなく、気持ちのいい笑みがこぼれてしまう。
バタン!
その時、勢いよく部屋のドアが開いて、いつも通りのタンクトップに、ホットパンツのスタイルの一葉が立っていた。
「目、覚ましてたかい。」
「一葉・・・。」
「どれ、朝帰りの顔を見せてもらおうかねえ。」
いたずらっぽい表情で近寄ってくると、二葉と同じ造りの顔を寄せる。
「まったく、何だか夕べ、うるさくってね。何があったんだか知らないけどさ。」
「もう、一葉!」
「へへへ。」
上半身を起こした二葉の足元に一葉は腰を下ろした。
うん、いい顔だ。なんとかうまくいったみたいだな。
「で、マコ君は?」
「お、もう部活に行ったよ。なんか、えらい張り切ってたけどな。」
「そう。」
ふふふ。二葉は心の中で笑った。きっとマコ君、バリバリがんばるぞ。
「二葉。」
「何?」
「昨日は、悪かったな。言い過ぎた。」
「ううん、いいよ。それなら、わたしもだもの。」
ああ、もう大丈夫だな。
明るい表情の二葉を見て一葉は確信した。
「ね、それより。」
急に二葉は一葉の方に身体を寄せると、少し声を落として訊ねた。
「一葉こそ、大丈夫?」
「何が?」
何だ?妖しい目をしやがって。
「だって、ずっと男の子なしでしょ?それなのに、この一週間、いろいろしてたし。」
「何のことだ?」
やばい。吹っ切れ過ぎだぞこの娘は。
「わかってるくせに。」
二葉のスリップ一枚の胸が、一葉に押し付けられる。腕が後ろから絡みつくと、タンクトップの胸元から指が滑り込む。
「こら!」
「お礼、お礼。この間、されちゃったし・・・。」
「そんなお礼はいらん!だいたい、わたしにはそういう趣味は・・・。」
「身体はそう言ってないけどなあ。」
いつのまにか、もう一方の手が、ホットパンツの中に潜り込み、敏感な核を探り当てていた。
「二葉!」
大きな声で笑うと、二葉はベッドにひっくり返った。
「ごめん、ごめん。」
「ふーたーばー。」
「ありがとうね。一葉。ほんとは、全部わかってたんでしょ?わたしの気持ちも、マコ君の気持ちも。」
「そんなことはないよ。ただ、このまま繭に入ってても、何も変わらないからね。」
「そうだね・・・。もう、一葉には勝てないなあ。おちゃらけてるようで、結局みんなの事考えてるんだもの。」
「買い被り過ぎ。」
そして、一葉も笑った。始めはくすくすと、そして最後は何か憑き物が落ちたように大声で。
こんなにすっきり笑えたのはいつ以来だろう。気分がいいぞ!もしかすると、姉弟三人で暮らすってもの悪くないのかもな。あんな馬鹿オヤジとオフクロでも、ちっとは感謝、という所か。
「で、一葉。」
笑いが収まると、身体を起こした二葉が再び身体を寄せる。
「ほんとに、溜まってない?」
「は?」
「だ、か、ら。」
不意をついて二葉は一葉の肩をつかむと、ベッドに押し倒した。
「・・・二人とも、とりあえずの相手はいないし、ちょっとくらい気持ちよくなっても、いいでしょ?」
「二葉、冗談は・・・。」
・・・マジか!?
「冗談じゃないよん。」
二葉の手が、一葉の身体をまさぐり始める。
そ、そこは・・・。
「もう、我慢は身体に毒だよ。一葉。」
「ふ、二葉、ちょっと・・・・。やめ・・・。」
「やめない。」
あ、そこは・・・・。あっ、あっ・・・・。
あっ・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
エピローグ
秋の始まりの日曜日の朝、早くから練習試合のある真は、玄関で忙しそうに靴を履き、黒いナップを手に持つと、まだ黄色い寝間着姿のままの一葉に言った。
「カズ姉、二葉姉さんはまだ帰らないの?こんな朝早くからパーマ屋に行く事ないのに。」
「なんか、急ぎみたいだよ。それより、その「二葉姉さん」ってのでこれからいくのか?なんか不自然だけど。」
「ううん・・・。わからないな。ま、流れにまかせるってことで。」
「そう。ま、マコトの好きにすればいいさ。とにかく、がんばってきな。初スタメンだろ。」
「多分ね。あの監督、人が悪いからわからんけどね。じゃ、行くよ。」
真は扉を開けると、勢いよく外に飛び出していった。
「二葉姉さんだってさ。」
一葉は後ろを振り向くと、トイレの扉の影から出てきた二葉に話し掛けた。
「呼び方なんて、どんなでもいいけど。マコ君はマコ君だから。」
柄入りの白いシャツに、裾の詰まったグリーンのショートパンタロンを履いた二葉は、以前よりずっと大人びて見える。そして、何より・・・。
「それにしても、思いっきり切ったもんだなあ。わたしより短いじゃんか。」
襟元が刈り上げ風に仕上げられたベリーショートの髪型は、今日の朝、二葉がパーマ屋でセットしてきたものだった。
「マコ君を驚かせちゃうとね。なんたって、今日初スタメンでしょ?」
「それで二葉はグループデート、と。ま、それくらいが初めはちょうどいいかもね。」
二葉はくすくすと笑った。
「もしかして、いい感じになっちゃうかも。わたしに先に彼ができちゃったら、一葉どうする?」
「どうぞ。わたしはさみしく家ムシしてますよ。」
「うそうそ。さびしかったら、また愛してあげるからねえ。」
「二葉!あれはだな!」
「あーれ?『もっと、もっと・・・』って言ってたのは誰だっけ。」
「あー、もうわかった。さっさと行け!」
一葉はシッシッという風に手を振った。チェックのハンドバッグを持つと、二葉も走り出ていった。
「さーて、わたしも出るとしますか。」
一葉は、左足をぽんぽんと叩くと、にっこり微笑んだ。
練習試合が終わり、誰もいなくなった夕暮れの校庭で、真はゴールに向かってひたすらボールを蹴り続けていた。
ボールの置かれた足元には至る所ににえぐれたような跡が残っている。ひとカゴ蹴り終わると、またボールを集めようとゴールの方に歩み出す。
その背中から、聞き慣れた声がかかった。
「鳴瀬君、少し休めば。」
「江東さん。」
まだトレーニングウエア姿のままの萌実は、スポーツドリンクの水筒を真に放り投げた。
「ありがとう。」
ストローに口を付けると、乾いた喉を少し潤した。
「今日、いい感じだったね。」
「うん。まあね。でも、あれが入ったのは、市ノ瀬さんがスペース作ってくれたおかげだし。」
「ううん、鳴瀬君がうまくなったんだよ。あんな簡単にディフェンダー振り切ってスペースに走り込んだんだもの。」
「誉めすぎだよ、江東さん。」
萌実は、まぶしそうに真の横顔を見つめて、少し黙り込んだ。
「・・・鳴瀬君、変わったね。」
「え?」
「なんか、すっごく自信がついたみたい。」
「そう?自分じゃわからないけど。」
「だって、ついこの間まで、わたしと何か話すと、『~っす』って変な敬語ばっか使ってたでしょ。」
「そうだったかなあ。・・・・じゃ、変わったついでに、江東さんに頼みごとしていい?」
「なあに、頼みごとって?」
さすがに少し口篭もった後で、真は言った。
「こんどの休み、映画でも見に行かない?」
萌実は大きな目を見開いて、しばらく真を見つめていた。
「それ、デートの申し込み?」
「うん。」
少し考えてから、萌実は答えた。
「いいですよー。でも、部のみんなには内緒だからね。それと、練習はおろそかに・・・」
「当ったっり前。サッカーあっての萌実さんと俺でしょ。」
一つ残ったボールを蹴り終わった後、はっとして萌実の方を見る。
「いいよ、萌実で。真君。」
照れくささに二人が言葉に詰まった時、遠くから声が響いてきた。
「おー、青春だね。夕日の中で、若い男女が見詰め合い!」
「か、カズ姉!」
体育館の方から、トラックの方へゆっくりと一葉が歩き過ぎていく。
「な、なんでこんな所に・・・。」
けれど、すぐに真は一葉が陸上のユニフォーム姿である事に気付いた。
「え?もしかして!」
「おお、今日から復帰さ。見てな、今までの分取り戻すからね。」
一葉は手を振りながら高跳びのマットの置かれた一角に歩いていく。
「真君、どうする?もうちょっと練習していく?」
「うん、もちろん。さあ、目指せ日本代表だ。」
「その意気!」
ボールを集め始めた真と萌実を、遠くから眩しそうに一葉が見つめていた。
完
どれくらい眠ったのだろう。
泣き疲れてベッドに突っ伏して意識が遠くなってから、随分経っているような気がした。気が付くと、さっきまで廊下側から見えていた満月が、いつのまにかレースカーテンの向こうの西の空に周って部屋の中を白く照らしていた。
・・・三時半か。
月明かりで光る机の上の置き時計をぼんやりと眺めた。
泣きたいだけ泣いて、こうして目覚めてみると、ずっと問題がクリアになったように思える。
わたしがマコ君を好きなのか、一葉もそう思っているのか、マコ君本人がわたしたちの事をどう思っているのか、それはどんなに考えても結論が出ない。
わかっているのは、このまま立ち止まっていることはできないという事。今の気持ちをぶつけて、返ってくるものを見つけ出す事。
二葉は、ベッドから身体を起こすと、乱れたままになったベージュのパジャマを脱いだ。そして、水色の地味なブラジャーとショーツも取ると、全裸になって化粧台の前のスツールに腰掛けた。月明かりだけで自分の姿を映し出す鏡を見ながら、軽くウェーブのかかった長い髪に、ゆっくりとブラシを当てた。
そして、全裸の身体に、薄いピンクの編み込みが入ったパールホワイトのスリップだけを纏う。
・・・行こう。
ベランダに出ると、雲一つない南西の空に、満月が光々と輝いている。公園の木々が、柔らかい光を受けて、静かにさざめいていた。
二葉は、カーテンのしまった一葉の部屋の窓の前を通り過ぎ、真の部屋の窓の前に立った。
さあ、気持ちを決めて・・・。
風を入れるためか、半開きになった窓の縁に手をかけ、ゆっくりと開けた。
「・・・ふーちゃんだろ。」
窓のレールの上に立った時、真の声がした。
「マコ、君。」
真もまた、うつらうつらしては目を覚ますことを繰り返してはこの夜を過ごしていた。唐突に様々なことが明らかになったこの日。真は、自分が気付かなくとも、想いはどうしようもなく人と人の間に流れていくのだ、という当たり前の真実を見つめざるを得なかった。
そして今、ベッドの上に何も掛けずに仰向けになった視界の中に、白く輝くスリップに身体を包んだ二葉が立っていた。月の光を背中に、しなやかな肢体が、スリップを透かして淡い影を落としていた。
・・・ふうちゃん、なんて奇麗なんだろう。
二葉は、何も言わずにベッドの上に身体を乗せ、身を屈ませると、真の顔に自分の顔を近づけた。長い髪が真の顔の上にかかり、そのまま二人は見つめ合った。
「ふうちゃん、俺、ふうちゃんの事、女の子として好きなのか、わからないよ。」
真は正直に言った。
「わたしも。でも、今はこうしていたい。きっと、そうしないと、何も始まらない気がするの。」
「・・・俺も、同じ事考えてた。」
そして、唇が合わさった。互いに目を閉じ、柔らかい感触を確かめるようにそのまま何秒かじっと身体を止める。二葉の方が先に唇を開くと、それに合わせるように真の唇も開いた。舌の先が、真の歯の間に割り込もうと居場所を探る。真も拙い知識を使って、自分の舌をおそるおそる絡めた。
こんな軽いキスだけで、真のトランクスの中は一気に怒張し、二葉の太股に昂まりを伝えた。
更に深く絡まりだした舌をそのままに、二葉の細い指が、下着越しに真を捉える。
マコ君の、すごい・・・。
柔らかく撫で上げると、キスをしたままの真の口から少しうめきが漏れる。
「マコ君、わたしのも触って。」
手を取ってスリップの下の乳房に導いた。
柔らかい・・・・。
もう張り出した乳首の感触を確かめながら、二葉の柔らかい胸を揉む。
「も少し、弱く・・・。ん、そう。」
真の左手は、自然に露になった二葉のヒップにそえられ、そろそろと愛撫する。
ああ、いい感じ・・・。
頭の中に、桃色の花が咲き始める。でも、その色はけっしてきらきらと輝く強いものではなく、穏やかで、静かな満足を伴っていた。
そして、二葉の手は真のトランクスの中に潜り込むと、膨らんだ先端を包み込むように摩擦した。応えるように、真の手も二葉の胸を揉み上げ、乳首をゆっくりと転がす。
・・・ここも、触っていいのかな・・・。
ためらいがちに左のヒップを撫でていた真の指先が、二葉の腰を回って、足の間を探ろうとする。二葉は、左手で真の頭を抱き寄せると、耳元にささやいた。
「ここよ。」
いっとき、トランクスに潜り込んでいた手を離し、真の左手を奥まった部分に導く。
あ、濡れてる。ふーちゃんの・・・・。
できるだけ力を抜いて、優しく、潤んだ場所を探る。どこを触ったらいいのか見当もつかないような指の動きでも、二葉には十分すぎるほどの快感を与えてくれた。
マコ君のも、濡れてきた・・。
指先に感じるぬめった感触は、真の官能も十分準備ができたことを知らせていた。
「ね、マコ君。」
また耳元でささやく。
「わたしの中に、入れて。マコ君の。」
その言葉だけで、真のペニスが手の中でピクッと震えるのがわかる。
「い、いいの?ふうちゃん。」
「うん。だって、そのために来たんだもの。ただ、」
さっきベッドの端に置いたオレンジ色のコンドームを取り上げた。
「これ、つけて。」
「うん。わかった。」
二葉は、そろそろと真のトランクスを下ろす。すっかり怒張したペニスが、戒めを解かれて大きく立ち上がった。
す、すごい・・・。
ドキドキとする胸を押さえながら、コンドームを付けた。
「ふうちゃん、俺が上に・・・。」
「ううん、いいの。わたしにさせて。」
手のひらを真の頬に当てた。そして、瞳の中を覗き込むように、精悍さを増した真の顔を見つめた。
・・・ああ、そうなんだ。
見つめた瞳から暖かいものが流れ込んで来た時、二葉は悟った。真にも、その想いは伝わった。そう確信できた。
それでも、二葉は真の上に跨ると、ペニスを自らの奥まった場所に擦り付けた。息を吐くと、先の方が少し、入り口に入り込む。
大きい・・・。全部、入るかな・・・。
「ふうちゃん、大丈夫?」
眉根を寄せた表情に、真は二葉の腰の辺りに手を添えた。
「うん、大丈夫。」
グッっと腰を落とすと、一気に真の怒張は根元近くまで二葉の濡れた秘部に没入した。
う・・・気持ちいい・・。
真は、柔らかくペニスを包み込み、締め付けるような動きを時折続ける二葉の中で、すでに限界近くまで官能を昂ぶらせていた。
「まだ、まだいかないで、マコ君。」
二葉の目の端から、涙が一筋流れ落ちた。薄目を開けて耐えている真にもその涙が見えた。
「大丈夫、ふうちゃん、痛い?」
「違う、違うの。気にしないで。」
・・・ありがと、マコ君。わたし、わかった。
両手を真の胸の上に置くと、少し激しく腰を動かす。二葉の中の真は更に膨れ上がる。そして、完全に根元まで腰を沈め、受け入れた時、真が叫んだ。
「ダメだ。ふうちゃん、出るよ!」
「いいよ、出して、マコ君。わたしも、イク!」
めちゃくちゃに腰を律動させると、真のペニスが跳ね上がった。そして、二葉の一番奥深い部分をえぐった。
あ、あああ・・・・。
ビクッ、ビクッと震える真を感じながら、二葉も崩れ落ちた。そして、官能の嵐がゆっくりと引いていくまで、はだけた胸と胸を合わせて、荒い息をついていた。
・・・月が、きれい。
ゆっくりと身体を離して、真のペニスについたコンドームを取る。
「いいよ、ふうちゃん。自分でするから。」
「いいの。お姉さんにやらせて。」
精液の溜まったコンドームをティッシュに包むと、部屋の隅のごみ箱に放った。そして、乱れたスリップを直すと、真の横にうつぶせになった。
「ありがと、マコ君。」
両手を組んで、頭をもたれた二葉が、とてもリラックスしているように見えて、真は上半身を起こすと、静かに見下ろした。
「・・・初めてじゃなくて、がっかりだった?」
「ううん、そんなことはないよ。ふうちゃんは、ふうちゃんだから。」
二葉は、嬉しそうにふふふ、と笑った。
「ねえ、マコ君。」
「何?」
「憶えてる?マコ君ね、小学三年生くらいまでいっつも言ってたんだよ。『僕は、ふうちゃんのナイトだから、いつでも助けにいくんだ』って。」
忘れるわけもなかった。
「憶えてるよ。あの頃、そういうアニメがはやってたんだよね。」
「そう。だから、わたし、わかっちゃたんだ。」
少し眠そうに目を閉じ加減にして二葉は言った。
「いいよ、言わなくても。」
その先の言葉は、言わずとも真には推測がついた。
「いいの。言わせて。」
完全に目を閉じると、二葉はゆっくりと自分で確かめるように続けた。
「さっき、マコ君に抱かれた時、すっごく暖かい気持ちが流れ込んできた。でも、それは、わたしが自分で自分を大事にする気持ちにとても似てる。多分、他の知らない誰かを求めて、愛する気持ちとは違う。そうなの、もう、マコ君はわたしの中に住んでる・・・。かけがえのない家族なの。」
真は静かにうなずいた。
「・・・ごめんね、マコ君。勝手なことして、言って。マコ君の気持ちも考えないで・・・。」
「大丈夫。俺の気持ちもふうちゃんと同じだよ。」
更に眠そうになった二葉が言葉を続ける。
「・・・一葉、やっぱ、最初からわかってたんだろな・・・。もう・・・。」
後は寝息が続いた。
真はしばらく、眠りに落ちた二葉の横顔を見つめていた。乱れた髪が頬にかかってかわいらしい。足元のタオルケットを静かにかけると、ベッドから降りて、窓際に立った。
まったく、俺って情けない奴だな。一人で被害者になったつもりでさ。
自分の不安定さが、二人の姉をこんなにも悩ませていた。守られている者は、そのことになかなか気が付かないものだ.。誰かがそんな事を言っていたけれど、ほんとうにその通りだ。
俺は少なくとも、大事なみんなを守ることができる人間になりたい。
『マコトも、そろそろ大人になる時期だよ。』
一葉の言葉が不意に蘇った。
そっか、最初からわかってたってことか。まったく、カズ姉にはかなわないな。
真は白み始めた夏の空に背を向けると、部屋を出て階段を下りていった。
あれ・・・?
目を覚ますと、ここが自分の部屋でないことに気付く。
あ、そうだ・・・。
すっかり明るくなった部屋の眺めに、ここが真の部屋であることを思い出した。
キャー、わたし、マコ君としちゃったんだ。
一瞬、顔が火照って、恥ずかしさが込み上げた。しかし、その気持ちはそれほど長くは続かず、なんとなく、気持ちのいい笑みがこぼれてしまう。
バタン!
その時、勢いよく部屋のドアが開いて、いつも通りのタンクトップに、ホットパンツのスタイルの一葉が立っていた。
「目、覚ましてたかい。」
「一葉・・・。」
「どれ、朝帰りの顔を見せてもらおうかねえ。」
いたずらっぽい表情で近寄ってくると、二葉と同じ造りの顔を寄せる。
「まったく、何だか夕べ、うるさくってね。何があったんだか知らないけどさ。」
「もう、一葉!」
「へへへ。」
上半身を起こした二葉の足元に一葉は腰を下ろした。
うん、いい顔だ。なんとかうまくいったみたいだな。
「で、マコ君は?」
「お、もう部活に行ったよ。なんか、えらい張り切ってたけどな。」
「そう。」
ふふふ。二葉は心の中で笑った。きっとマコ君、バリバリがんばるぞ。
「二葉。」
「何?」
「昨日は、悪かったな。言い過ぎた。」
「ううん、いいよ。それなら、わたしもだもの。」
ああ、もう大丈夫だな。
明るい表情の二葉を見て一葉は確信した。
「ね、それより。」
急に二葉は一葉の方に身体を寄せると、少し声を落として訊ねた。
「一葉こそ、大丈夫?」
「何が?」
何だ?妖しい目をしやがって。
「だって、ずっと男の子なしでしょ?それなのに、この一週間、いろいろしてたし。」
「何のことだ?」
やばい。吹っ切れ過ぎだぞこの娘は。
「わかってるくせに。」
二葉のスリップ一枚の胸が、一葉に押し付けられる。腕が後ろから絡みつくと、タンクトップの胸元から指が滑り込む。
「こら!」
「お礼、お礼。この間、されちゃったし・・・。」
「そんなお礼はいらん!だいたい、わたしにはそういう趣味は・・・。」
「身体はそう言ってないけどなあ。」
いつのまにか、もう一方の手が、ホットパンツの中に潜り込み、敏感な核を探り当てていた。
「二葉!」
大きな声で笑うと、二葉はベッドにひっくり返った。
「ごめん、ごめん。」
「ふーたーばー。」
「ありがとうね。一葉。ほんとは、全部わかってたんでしょ?わたしの気持ちも、マコ君の気持ちも。」
「そんなことはないよ。ただ、このまま繭に入ってても、何も変わらないからね。」
「そうだね・・・。もう、一葉には勝てないなあ。おちゃらけてるようで、結局みんなの事考えてるんだもの。」
「買い被り過ぎ。」
そして、一葉も笑った。始めはくすくすと、そして最後は何か憑き物が落ちたように大声で。
こんなにすっきり笑えたのはいつ以来だろう。気分がいいぞ!もしかすると、姉弟三人で暮らすってもの悪くないのかもな。あんな馬鹿オヤジとオフクロでも、ちっとは感謝、という所か。
「で、一葉。」
笑いが収まると、身体を起こした二葉が再び身体を寄せる。
「ほんとに、溜まってない?」
「は?」
「だ、か、ら。」
不意をついて二葉は一葉の肩をつかむと、ベッドに押し倒した。
「・・・二人とも、とりあえずの相手はいないし、ちょっとくらい気持ちよくなっても、いいでしょ?」
「二葉、冗談は・・・。」
・・・マジか!?
「冗談じゃないよん。」
二葉の手が、一葉の身体をまさぐり始める。
そ、そこは・・・。
「もう、我慢は身体に毒だよ。一葉。」
「ふ、二葉、ちょっと・・・・。やめ・・・。」
「やめない。」
あ、そこは・・・・。あっ、あっ・・・・。
あっ・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
エピローグ
秋の始まりの日曜日の朝、早くから練習試合のある真は、玄関で忙しそうに靴を履き、黒いナップを手に持つと、まだ黄色い寝間着姿のままの一葉に言った。
「カズ姉、二葉姉さんはまだ帰らないの?こんな朝早くからパーマ屋に行く事ないのに。」
「なんか、急ぎみたいだよ。それより、その「二葉姉さん」ってのでこれからいくのか?なんか不自然だけど。」
「ううん・・・。わからないな。ま、流れにまかせるってことで。」
「そう。ま、マコトの好きにすればいいさ。とにかく、がんばってきな。初スタメンだろ。」
「多分ね。あの監督、人が悪いからわからんけどね。じゃ、行くよ。」
真は扉を開けると、勢いよく外に飛び出していった。
「二葉姉さんだってさ。」
一葉は後ろを振り向くと、トイレの扉の影から出てきた二葉に話し掛けた。
「呼び方なんて、どんなでもいいけど。マコ君はマコ君だから。」
柄入りの白いシャツに、裾の詰まったグリーンのショートパンタロンを履いた二葉は、以前よりずっと大人びて見える。そして、何より・・・。
「それにしても、思いっきり切ったもんだなあ。わたしより短いじゃんか。」
襟元が刈り上げ風に仕上げられたベリーショートの髪型は、今日の朝、二葉がパーマ屋でセットしてきたものだった。
「マコ君を驚かせちゃうとね。なんたって、今日初スタメンでしょ?」
「それで二葉はグループデート、と。ま、それくらいが初めはちょうどいいかもね。」
二葉はくすくすと笑った。
「もしかして、いい感じになっちゃうかも。わたしに先に彼ができちゃったら、一葉どうする?」
「どうぞ。わたしはさみしく家ムシしてますよ。」
「うそうそ。さびしかったら、また愛してあげるからねえ。」
「二葉!あれはだな!」
「あーれ?『もっと、もっと・・・』って言ってたのは誰だっけ。」
「あー、もうわかった。さっさと行け!」
一葉はシッシッという風に手を振った。チェックのハンドバッグを持つと、二葉も走り出ていった。
「さーて、わたしも出るとしますか。」
一葉は、左足をぽんぽんと叩くと、にっこり微笑んだ。
練習試合が終わり、誰もいなくなった夕暮れの校庭で、真はゴールに向かってひたすらボールを蹴り続けていた。
ボールの置かれた足元には至る所ににえぐれたような跡が残っている。ひとカゴ蹴り終わると、またボールを集めようとゴールの方に歩み出す。
その背中から、聞き慣れた声がかかった。
「鳴瀬君、少し休めば。」
「江東さん。」
まだトレーニングウエア姿のままの萌実は、スポーツドリンクの水筒を真に放り投げた。
「ありがとう。」
ストローに口を付けると、乾いた喉を少し潤した。
「今日、いい感じだったね。」
「うん。まあね。でも、あれが入ったのは、市ノ瀬さんがスペース作ってくれたおかげだし。」
「ううん、鳴瀬君がうまくなったんだよ。あんな簡単にディフェンダー振り切ってスペースに走り込んだんだもの。」
「誉めすぎだよ、江東さん。」
萌実は、まぶしそうに真の横顔を見つめて、少し黙り込んだ。
「・・・鳴瀬君、変わったね。」
「え?」
「なんか、すっごく自信がついたみたい。」
「そう?自分じゃわからないけど。」
「だって、ついこの間まで、わたしと何か話すと、『~っす』って変な敬語ばっか使ってたでしょ。」
「そうだったかなあ。・・・・じゃ、変わったついでに、江東さんに頼みごとしていい?」
「なあに、頼みごとって?」
さすがに少し口篭もった後で、真は言った。
「こんどの休み、映画でも見に行かない?」
萌実は大きな目を見開いて、しばらく真を見つめていた。
「それ、デートの申し込み?」
「うん。」
少し考えてから、萌実は答えた。
「いいですよー。でも、部のみんなには内緒だからね。それと、練習はおろそかに・・・」
「当ったっり前。サッカーあっての萌実さんと俺でしょ。」
一つ残ったボールを蹴り終わった後、はっとして萌実の方を見る。
「いいよ、萌実で。真君。」
照れくささに二人が言葉に詰まった時、遠くから声が響いてきた。
「おー、青春だね。夕日の中で、若い男女が見詰め合い!」
「か、カズ姉!」
体育館の方から、トラックの方へゆっくりと一葉が歩き過ぎていく。
「な、なんでこんな所に・・・。」
けれど、すぐに真は一葉が陸上のユニフォーム姿である事に気付いた。
「え?もしかして!」
「おお、今日から復帰さ。見てな、今までの分取り戻すからね。」
一葉は手を振りながら高跳びのマットの置かれた一角に歩いていく。
「真君、どうする?もうちょっと練習していく?」
「うん、もちろん。さあ、目指せ日本代表だ。」
「その意気!」
ボールを集め始めた真と萌実を、遠くから眩しそうに一葉が見つめていた。
完
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