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小説(転載) 天狗村奇談 権堂さんの宴 その2

近親相姦小説
02 /25 2021
掲載サイト「母と少年 禁断の部屋」は消滅。
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権堂さんの家は、江戸時代に庄屋だった頃からの由緒のある立派なお屋敷だった。権堂さんの権力を象徴するかのように、村を一望できる高台に神社と並ぶように建っている。
 屋敷に足を踏み入れるのも、権堂さんと会うのも、ぼくには初めてのことだった。
 大きな門をくぐりかけたとき、神社からピーヒャラピーヒャラという笛の音と太鼓のドンツクドンツクという音が聞こえてきた。数日前から続いている祭り囃子の練習が、今日も始まったのである。まだ息が合っていないらしく、調子っぱずれな笛の音も混じっていた。
 戸の開け放たれた表玄関から中に入り、上がり框の前に立つと、奥から年老いた使用人が出てきた。痩せていて目つきが鋭かった。ぼくは一目見て、きっとこの屋敷の使用人を束ねる番頭のような人なのだろうと思った。
 羽織っている襦袢には「安」という文字が縫い込んである。たぶん安二郎とか何とかいう名前なのだろう。
「どなたかな・・・何のご用で」
 安二郎は作り笑いをしながら尋ねたが、母が来意を告げるとぴたりと作り笑いが消えた。
「すると、家の坊ちゃんに怪我をさせたのはあんたの子かね。それでお詫びに来たということだね」
「はい、さようでございます」
 母が答えると、安二郎は明らかに憎しみのこもった声で、
「旦那様は奥の縁側にいらっしゃるから中庭を回って行くといい。ただし、旦那様はたいそう機嫌が悪いから覚悟して行きなさいよ」
 わざとぼく達を怖がらせるようなことを言うのだ。ぼくが憎らしくて、言わずにはいられなかったのだろう。使用人がこれでは、権堂さんがどれほど怒っているか知れたものではなかった。ぼくも青くなったが、母はもっと青くなっていた。それでも母は、
「ありがとうございました」
 と、安二郎に深々と頭を下げた。ふん、と鼻を鳴らし、早く行けというように顎をしゃくった安二郎が、何とも憎らしかった。
 ぼくと母は、表玄関を出て中庭に向かった。屋敷の角を回り込むと、よく手入れをされた広い庭が広がっていた。縁側には権堂さんらしき人物が座っていて、夕日に照らされながら酒を飲んでいた。
 縁側と言っても屋敷自体が大きいから、公会堂の舞台ほどもある。その広い縁側を一人で独占するように浴衣姿であぐらをかき、大振りの杯でくいくいと酒を飲んでいる姿は、噂に聞く権堂さんそのものだった。
 権堂さんは手足も長く、背も高いのに、鶴のように痩せているという。額は大きく禿げ上がり、太い眉毛の下にはギョロッ、とした目が光かっている。鼻がやたらに高かくて、まるで天狗のような人相であるという。まさに噂通りだった。
 安二郎が素早く知らせに来たのだろう、権堂さんは最初からこちらを見つめていて、僕達が中庭に入ると、早くここまでこい、というように手招きをした。
母の顔を見上げると、母はぼくを安心させるようにこくっ、と頷き、ぼくの手を引いて権堂さんの前に進み出た。二人で縁側の前に立つと、権堂さんは無言でぼく達を見下ろしながら、くいっ、と杯を煽った。それから、おもむろに口を開いた。
「わしの倅に怪我を負わせたのは、おまえか」
 権堂さんがぼくを睨んでいる。足がすくんでしまうほど怖い顔だった。
「た、たいへん申し訳ないことをしました・・・。どうぞお許し下さい」
 母がぼくの代わりにお詫びの言葉をのべ、頭を下げた。
 ぼくも慌てて頭を下げたが、権堂さんはそれっきり、また無言になった。
 かなり長いこと、二人で頭を下げていたと思う。上目遣いに見ると権堂さんは、いったいこいつらをどうしてくれようかと思案しているらしく、苦々しい顔で二度、三度と杯を煽っていた。
「安、健次を呼んでこい」
 権堂さんが奥に声をかけると、しばらくしてから安二郎につれられて、健ちゃんが縁側の奥から現れた。頭には包帯が巻かれている。
「健次、おまえを突き飛ばしたのは、この子かい」
 意外にも、健ちゃんに話しかけるときは優しい声だった。それに目つきも穏やかである。
「そう、こいつだよ。正一がぼくを突き飛ばしたんだ」
 違う、とぼくは思った。ぼくは突き飛ばしてなどいない。健ちゃんが勝手に足を滑らせたんだ、と心の中で叫んだ。それが顔に出たのだろう。権堂さんは一変して怖い目つきになった。
「謝りに来たと言ったが、この子は少しも反省していないように見えるぞ」
「い、いえ、そんなことはございません、この子は深く反省しております・・・・」
 母は慌てて弁解し、さらに何度も頭を下げながら申し訳ありません、と繰り返した。そんな母がどこか惨めに見え、ぼくには堪らなかった。
「そうか、それなら反省していることにしておいてやろう。しかしだ、何にしても大事な倅に怪我を負わされたのだ。謝られたからといって、ああそうですか、と簡単に許すわけにはいかん。それなりの代償を払ってもらわんと、ご先祖様に申し訳が立たん」
「・・・治療費などでしたら、こちらでお払いいたします」
「そんなことはどうでもいい。わしが言うのは我が家の面目のことだ」
「面目・・・と申しますと・・・」
 母の顔に動揺と不安が広がっている。
 権堂さんの目が、いっそう鋭い光を放ち始めていた。
「ご維新さえなければおまえ達平民など、何をされても文句は言えないのだぞ。何しろ我が家のご先祖様はこの村の庄屋だったのだ。庄屋というのは、武士で言えば殿様も同様だ。その息子を傷つけられて黙っていたのでは、当家を預かるわしの面目が立たんのだ」
「・・・・」
 母は言葉が出なかった。困りきっている母をどこか楽しそうに見やりながら、権堂さんは猫なぜ声で健ちゃんに尋ねた。
「健次、こんな怪我をさせられて悔しかったろう、遠慮しないで言ってみるがいい。おまえはこの子をどうしてやりたい?」
 健ちゃんは、権堂さんにニヤッ、と笑って見せ、それから、庭にある太い柿の木を指さしながら言った。
「お父さん、こいつを裸にして、あの柿の木に吊しちゃってよ」
「そうか、裸にして、痛めつけて、それから柿の木に吊すか・・・いいだろう、そのくらいのことをしてやらんと、身にしみて反省はせんだろうからな」
「そ、そんな!」
 母は驚いて叫び上げた。その顔がみるみる蒼白になっていった。
「ど、どうか・・・そんなことはしないで下さい」
 母は、唇を激しく震わせながら頼んだ。しかし権堂さんは答えず、冷たい目で母を見下ろすばかりだった。
 やがて、権堂さんは安二郎を振り返り、
「おい安、聞いていたろう」
「はい、そのようにしてよろしいのですな」
「うむ、おまえにまかせる」
「喜んでやらせて頂きます。まずはこの小僧を、素っ裸にすればよろしいのですね」
 満面に喜色を浮かべて立ち上がった安二郎が、縁側から草履を履いて下におりてきた。
 ぼくは怖くて逃げ出したかったが、足が震えて動けなかった。
「何をするんです・・・本当に吊す気ですか、お願いですからやめて下さい」
 母が、庇うようにぼくの前に立ったが、安二郎は馬鹿にしたようにせせら笑いながらぼく達に迫ってきた。
「お願いです、やめて下さい!」
 叫びながら両手を広げた母を乱暴に押しのけ、安二郎がぼくの腕を掴んだ。恐ろしくて、思わずぼくは悲鳴を上げていた。
 母は安二郎の腕にしがみつき、必死に止めようとしてくれた。しかし安二郎は、老いていても驚くほどの腕力を持っていた。しがみついた母を振り回すようにしてぼくを地面に押し倒し、シャツをめくり、ズボンを引き下げたのだ。
「わあっ・・・」
 あまりの怖さに、ぼくは叫び上げた。そのときである。
「やめて下さい!」
 母があたりに響き渡るような声で叫んだ。
(母のどこからあんな声がでたのだろう)
 母の声にはそう思わせるほどの迫力があった。安二郎もはっ、として手を止めたほどだった。母は、権堂さんの方に向き直り、
「私が身代わりになります。だから正一には何もしないで下さい」
 と、きっぱりと言いきった。さっきまでとは別人のように思えるほど、堂々とした態度だった。
「ほう、おまえが息子の身代わりになるというのか」
「はい。正一の代わりに殴るなり蹴るなり、私を好きにして下さい」
 そう答えた母の目に怯えた色はなかった。それどころか、凛とした光まで放っていた。
「ふうむ・・・しかし、女では殴ったり蹴ったりするわけにもいかんしな・・・となるとおまえは、女としての辱めを受けなくてはならんことになる。それでもよいか」
「はいっ」
 母は、きっぱり答えた。
「その言葉に嘘はないな」 
「ございません」
 頷いた母を見上げながら、ぼくは言葉もでなかった。ぼくを守るために、身代わりを勝って出た母の姿は凛々しくさえあった。しかし、いったい母はどうなるのだろう。母の心は嬉しいけれど、ぼくはとてつもなく恐ろしかった。
「健次、正一の母親がああ言っているが、どうする? この女は我が子を助けようと悲壮な覚悟をしているのだ。わしはその覚悟を尊重してやるのが礼儀だと思うがな」
 健ちゃんはニヤッ、と笑いながら答えた。
「うん、いいよ・・・その方がおもしろそうだ」
 こいつめっ、とぼくは全身が焼けるような怒りを覚えた。
「しかし、おまえ達は運がいいぞ」
 権堂さんは、ぼく達に目を据えて言った。
「家内は事情があって、昨日から実家の方に里帰りしている。もし家内がいたらおまえ達は八つ裂きにされていたろうな・・・それに健一のやつもそれ、そこで太鼓の練習をしているが・・・」
 権堂さんは神社を指さした。健一というのは、あの乱暴者のお兄さんのことだ。
「あいつも可愛い弟が怪我をさせられたとあって相当に怒っておったからな。あいつがいたら、やはり何をされるかわからんな」
 ぼくはごくり、と唾を飲んだ。運がいいと言いながら、実は一番怖いのはこのわしだよ、と、権堂さんがぼく達を脅かしているように思えてならなかった。
「では二人とも、ここへ上がってこい。健次に怪我をさせた報いをたっぷりと味あわせてやる」
「安、台所の者に酒を持ってくるように伝えてくれ。それと、新しいつまみもな・・・何やらおもしろくなってきたわい」
 安二郎はぼくを押さえていた手を放し、縁側の奥に消えていった。
 権堂さんの目が、異様な光を帯びて輝いていた。
 神社の境内からは、さっきより息の合った笛の音と、力強い太鼓の音が響き渡っている。
 夕焼けが空一面を覆っていた。
 真っ暗になるまでには、まだ時間がかかるだろう。

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eroerojiji

小さい頃からエロいことが好き。そのまま大人になってしまったエロジジイです。