小説(転載) 四枚の扉 1/10
官能小説
1
勇次は都内一流企業に勤めるサラリーマンである。
妻の静絵と5年前に結ばれ、3歳になる男の子が一人いる。
年齢は34歳。静絵は29歳。
仕事や結婚生活には、何も問題なく、平凡な生活を送っている。
会社では、課長のポストを与えられ、可も不可もなく、また部下からも慕われ
る、人当たりの良い人間である。
そんな日々を過ごしていた勇次は、有る日を境に人生を大きく変えていった。
6月の最初の月曜、勇次は部長に呼ばれ、明日からの札幌支社への急な出張を
命じられた。
自分のデスクの上には、仕事は山程溜まってはいたが、断われる訳もなく、部
下に簡単は引継ぎを行うと、出張の準備の為その日は早々と会社を後にし帰宅し
た。
「あら、今日は随分と早いのね!」
台所で夕食の準備を始めていた妻の静絵は、普段より3時間は早いであろう夫
の帰宅に、少々驚きの声をあげた。
「明日から急に北海道へ出張になったんだ・・。その準備が有るから今日は早
く帰れたのさ」
滅多に無い父親の早い帰りに、喜び飛び付いた息子の祐輔を抱きかかえなが
ら、勇次は妻に言った。
「そうなの・・・それは急よね。急いで夕飯作り終えるから、その間に支度し
たら」
静絵は冷蔵庫から材料を数品取りだし、いそいそと支度を始めた。
勇次は書斎へ入ると、出張用の資料やら着替えをバックに適当に詰め込んだ。
夕食の献立は勇次の好物の親子丼だった。
静絵は常日頃から、勇次の好むものを夕食のテーブルに並べる事が多かった。
息子の祐輔の事も有るので、子供用の献立も別に作る、マメで愛情に満ちた良
妻であると、勇次は日頃から感じている。
「主張はどの位なの?」
静絵は祐輔の口に食べ物を運びながら聞いた。
「3日の予定だよ」
「そうなんだ・・3日も居ないなんて寂しいね!」
息子の祐輔に同意を求める様に、静絵はニコリと祐輔に笑いかけた。
祐輔は余程お腹が空いていたのか、静絵の言葉には全く反応せず、無邪気に母
の手元の箸を口で追い掛けていた。
そんな息子の行動が可笑しくて、勇次と静絵は顔を見合わせて微笑んだ。
「行ってくるよ」
翌朝勇次は、玄関で見送る妻と息子の頬にキスをすると、迎えに来たタクシー
に乗り込み空港へ向かった。
札幌千歳空港行き、117便。
勇次を乗せた飛行機は、順調にフライトを続け、約1時間半後、千歳空港へ着
陸した。
空港から札幌支社へのタクシーの中で、勇次は昨夜の夕食時の事を思い出して
いた。
息子祐輔の無邪気な笑顔。妻静絵の優しい振舞い・・・。
結婚してこの5年間、勇次は幸せな生活を送れている事に嬉しくなり、思わず
口元が緩んだ。
静絵とは7年前、勇次27歳、静絵22歳の時に出会った。
勇次の勤める会社に、大卒の静絵が入社し、同じ部署で働く事になったのが、
最初の出会いである。
静絵は入社後すぐに、社内で一番の美人との評判がたった。
勇次の目からも、スラリとしたスタイルながらも、制服の上からも充分に確認
出来る凹凸を持ち、純和風系の整った顔立ちをした静絵は、皆の評判通り、社内
一だと感じていた。
当時は勇次には付き合ってる相手が社内におり、静絵にも学生時代からの彼氏
が存在し、お互いに恋愛対象と感じる事はなかった。
静絵が入社して1年が経ち、その間同じ部署で働く者として頻繁に会話を交わ
し、先輩後輩という関係のみで親近感を深めていた。
そんな二人の関係が、その年の部署の忘年会で親密になった。
深酒をしてすっかり酔っ払った静絵を、家が同じ方向だからと勇次がタクシー
に同乗し送る事になり、酔いつぶれて寝てしまった静絵を部屋まで運び入れ、目
を覚ました静絵が失恋したと泣き崩れ、そんな静絵を介抱しているうちに、大人
の二人は自然に結び付いてしまった。
勇次は一晩で静絵に魅了され、付き合っていた彼女と速攻で別れた。
別れには当然一悶着あったが、勇次は静絵との付き合いを諦める事は全く考え
られず、1年交際した後、静絵と結婚した。
すぐに可愛い長男が生まれ、家族愛に満たされて生活を送り、現在がある。
勇次は札幌に来たばかりなのに、早く家に帰りたいと考えていた。
札幌支社での初日の業務も完了し、わざわざ本社からいらしてくれたからと、
札幌の社員が設けてくれた酒の席に招待され、勇次は北海道の酒の幸を堪能し、
とても気分が良かった。
明日も業務があるからと、一次会で早々に解散し、勇次は宿泊するビジネスホ
テルへチェックインした。
一次会で帰って来た事もあり、まだ時間が早かったので、勇次は良い気分も手
伝ってか、部屋に荷物を置くと地下のラウンジに向かった。
平日ともあって、ラウンジには一組のカップルが居るだけだった。
勇次はカウンターに座ると、バーボンのロックを注文した。
暫くバーボンを堪能していると、最初から居たカップルが喧嘩する声が聞こえ
てきた。
女は男に詰寄り、文句を言っている。
男はそれを黙って聞いていたが、おもむろに席を立つと、無言のままラウンジ
を出て行ってしまった。
一人残された女は、その場で泣いていた・・・。
5分ほど泣いていただろうか、女はバックからハンカチを取り出すと涙を拭
き、涙で落ち掛けてしまった化粧を直すのか、奥の化粧室へと入って行った。
暫くして化粧室から戻ってきた女は、勇次の事をチラっと見ると、カウンター
に座った。
マスターにシンを注文し、タバコに火を付けようとライターをカチカチ鳴らし
た。
ガスが切れているのか、火は一向に付かない。
勇次がその様子をチラチラ見ていると、女は勇次の方を向き、火を貸して欲し
いと言った。
勇次は自分のライターを女に差し出した。
女は勇次のライターでタバコに火を付けると、スウー・・と吸い込み、暫く息
を止めてから、吐き出した。その息は、少し溜息も混じっている様だった。
勇次はバーボンのお替わりを注文した。
すると女は、ハシタナイところをお見せしたからと、こちらに付けてくれとマ
スターに言った。
そんな事でご馳走にはなれないと勇次が断わると、女は、
「それなら少し私に付き合ってください」
と、自分のグラスも持ち上げ、勇次に乾杯の仕草をした。
「それなら・・」
勇次は少し躊躇いもしたが、傷付いた女性の気晴らしにでも成ればと付き合う
事にした。
数杯酌み交わしたのち、お互いに少し打ち解けた事もあり、会話が弾んでき
た。
女は先程の男の愚痴をいい、勇次はその話を聞きながら、自分なりの意見を言
った。
「なんだかバカみたいね、私って!」
女は勇次に笑顔を向けて言った。
「君は悪くないよ。相手の男が悪いのさ!」
勇次は慰めの気持ちを込めたつもりで女に言った。
「そう言ってもらえると救われるなー・・・」
女の顔が少し輝いた。
すっかり良い調子でお互い飲んでしまい、勇次が腕時計を見た時は12時だっ
た。
「そろそろお開きにしましょうか? 少しは気が晴れましたか?」
勇次は女の方を向いて聞いた。
「うーん、そうね・・・。少しはね・・・・」
勇次の顔を見詰めながら女は答えた。
女の目は、少し潤んでいた・・。また涙がこぼれそうだ。
勇次はその目に一瞬吸い込まれそうのなった。
改めてジックリ見た女は、とても妖艶で、魅力的だった。
勇次は頭を軽く振ると、煩悩を振り払った。
そしてチェックを済ますと、
「それでは・・」
と、女に声を掛けて席を立った。
(2)へつづく・・・
勇次は都内一流企業に勤めるサラリーマンである。
妻の静絵と5年前に結ばれ、3歳になる男の子が一人いる。
年齢は34歳。静絵は29歳。
仕事や結婚生活には、何も問題なく、平凡な生活を送っている。
会社では、課長のポストを与えられ、可も不可もなく、また部下からも慕われ
る、人当たりの良い人間である。
そんな日々を過ごしていた勇次は、有る日を境に人生を大きく変えていった。
6月の最初の月曜、勇次は部長に呼ばれ、明日からの札幌支社への急な出張を
命じられた。
自分のデスクの上には、仕事は山程溜まってはいたが、断われる訳もなく、部
下に簡単は引継ぎを行うと、出張の準備の為その日は早々と会社を後にし帰宅し
た。
「あら、今日は随分と早いのね!」
台所で夕食の準備を始めていた妻の静絵は、普段より3時間は早いであろう夫
の帰宅に、少々驚きの声をあげた。
「明日から急に北海道へ出張になったんだ・・。その準備が有るから今日は早
く帰れたのさ」
滅多に無い父親の早い帰りに、喜び飛び付いた息子の祐輔を抱きかかえなが
ら、勇次は妻に言った。
「そうなの・・・それは急よね。急いで夕飯作り終えるから、その間に支度し
たら」
静絵は冷蔵庫から材料を数品取りだし、いそいそと支度を始めた。
勇次は書斎へ入ると、出張用の資料やら着替えをバックに適当に詰め込んだ。
夕食の献立は勇次の好物の親子丼だった。
静絵は常日頃から、勇次の好むものを夕食のテーブルに並べる事が多かった。
息子の祐輔の事も有るので、子供用の献立も別に作る、マメで愛情に満ちた良
妻であると、勇次は日頃から感じている。
「主張はどの位なの?」
静絵は祐輔の口に食べ物を運びながら聞いた。
「3日の予定だよ」
「そうなんだ・・3日も居ないなんて寂しいね!」
息子の祐輔に同意を求める様に、静絵はニコリと祐輔に笑いかけた。
祐輔は余程お腹が空いていたのか、静絵の言葉には全く反応せず、無邪気に母
の手元の箸を口で追い掛けていた。
そんな息子の行動が可笑しくて、勇次と静絵は顔を見合わせて微笑んだ。
「行ってくるよ」
翌朝勇次は、玄関で見送る妻と息子の頬にキスをすると、迎えに来たタクシー
に乗り込み空港へ向かった。
札幌千歳空港行き、117便。
勇次を乗せた飛行機は、順調にフライトを続け、約1時間半後、千歳空港へ着
陸した。
空港から札幌支社へのタクシーの中で、勇次は昨夜の夕食時の事を思い出して
いた。
息子祐輔の無邪気な笑顔。妻静絵の優しい振舞い・・・。
結婚してこの5年間、勇次は幸せな生活を送れている事に嬉しくなり、思わず
口元が緩んだ。
静絵とは7年前、勇次27歳、静絵22歳の時に出会った。
勇次の勤める会社に、大卒の静絵が入社し、同じ部署で働く事になったのが、
最初の出会いである。
静絵は入社後すぐに、社内で一番の美人との評判がたった。
勇次の目からも、スラリとしたスタイルながらも、制服の上からも充分に確認
出来る凹凸を持ち、純和風系の整った顔立ちをした静絵は、皆の評判通り、社内
一だと感じていた。
当時は勇次には付き合ってる相手が社内におり、静絵にも学生時代からの彼氏
が存在し、お互いに恋愛対象と感じる事はなかった。
静絵が入社して1年が経ち、その間同じ部署で働く者として頻繁に会話を交わ
し、先輩後輩という関係のみで親近感を深めていた。
そんな二人の関係が、その年の部署の忘年会で親密になった。
深酒をしてすっかり酔っ払った静絵を、家が同じ方向だからと勇次がタクシー
に同乗し送る事になり、酔いつぶれて寝てしまった静絵を部屋まで運び入れ、目
を覚ました静絵が失恋したと泣き崩れ、そんな静絵を介抱しているうちに、大人
の二人は自然に結び付いてしまった。
勇次は一晩で静絵に魅了され、付き合っていた彼女と速攻で別れた。
別れには当然一悶着あったが、勇次は静絵との付き合いを諦める事は全く考え
られず、1年交際した後、静絵と結婚した。
すぐに可愛い長男が生まれ、家族愛に満たされて生活を送り、現在がある。
勇次は札幌に来たばかりなのに、早く家に帰りたいと考えていた。
札幌支社での初日の業務も完了し、わざわざ本社からいらしてくれたからと、
札幌の社員が設けてくれた酒の席に招待され、勇次は北海道の酒の幸を堪能し、
とても気分が良かった。
明日も業務があるからと、一次会で早々に解散し、勇次は宿泊するビジネスホ
テルへチェックインした。
一次会で帰って来た事もあり、まだ時間が早かったので、勇次は良い気分も手
伝ってか、部屋に荷物を置くと地下のラウンジに向かった。
平日ともあって、ラウンジには一組のカップルが居るだけだった。
勇次はカウンターに座ると、バーボンのロックを注文した。
暫くバーボンを堪能していると、最初から居たカップルが喧嘩する声が聞こえ
てきた。
女は男に詰寄り、文句を言っている。
男はそれを黙って聞いていたが、おもむろに席を立つと、無言のままラウンジ
を出て行ってしまった。
一人残された女は、その場で泣いていた・・・。
5分ほど泣いていただろうか、女はバックからハンカチを取り出すと涙を拭
き、涙で落ち掛けてしまった化粧を直すのか、奥の化粧室へと入って行った。
暫くして化粧室から戻ってきた女は、勇次の事をチラっと見ると、カウンター
に座った。
マスターにシンを注文し、タバコに火を付けようとライターをカチカチ鳴らし
た。
ガスが切れているのか、火は一向に付かない。
勇次がその様子をチラチラ見ていると、女は勇次の方を向き、火を貸して欲し
いと言った。
勇次は自分のライターを女に差し出した。
女は勇次のライターでタバコに火を付けると、スウー・・と吸い込み、暫く息
を止めてから、吐き出した。その息は、少し溜息も混じっている様だった。
勇次はバーボンのお替わりを注文した。
すると女は、ハシタナイところをお見せしたからと、こちらに付けてくれとマ
スターに言った。
そんな事でご馳走にはなれないと勇次が断わると、女は、
「それなら少し私に付き合ってください」
と、自分のグラスも持ち上げ、勇次に乾杯の仕草をした。
「それなら・・」
勇次は少し躊躇いもしたが、傷付いた女性の気晴らしにでも成ればと付き合う
事にした。
数杯酌み交わしたのち、お互いに少し打ち解けた事もあり、会話が弾んでき
た。
女は先程の男の愚痴をいい、勇次はその話を聞きながら、自分なりの意見を言
った。
「なんだかバカみたいね、私って!」
女は勇次に笑顔を向けて言った。
「君は悪くないよ。相手の男が悪いのさ!」
勇次は慰めの気持ちを込めたつもりで女に言った。
「そう言ってもらえると救われるなー・・・」
女の顔が少し輝いた。
すっかり良い調子でお互い飲んでしまい、勇次が腕時計を見た時は12時だっ
た。
「そろそろお開きにしましょうか? 少しは気が晴れましたか?」
勇次は女の方を向いて聞いた。
「うーん、そうね・・・。少しはね・・・・」
勇次の顔を見詰めながら女は答えた。
女の目は、少し潤んでいた・・。また涙がこぼれそうだ。
勇次はその目に一瞬吸い込まれそうのなった。
改めてジックリ見た女は、とても妖艶で、魅力的だった。
勇次は頭を軽く振ると、煩悩を振り払った。
そしてチェックを済ますと、
「それでは・・」
と、女に声を掛けて席を立った。
(2)へつづく・・・
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