くノ一亜沙美 =忍法まどろみ上炎=(その5)
★ローライズジーンズの女
マンションは大騒ぎになった。
男が転落したらしい。
数人の住民が現場まで見にきた。
騒ぎをききつけて25階に住んでいる柳原は、野次馬の心が騒いでマンショ
ンの下に降りてみることにした。
下に降りるエレベーターで、上から来た若い女と一緒になった。
女・・といっても高校生かもしれないほど若い女だった。
都会では深夜、若い女が出歩いていても誰も不思議には思わない。
しかし、その締まった体型の女は、やや変わった服装だった。
くりの浅い、いわゆるローライズジーンズだった。
しかしそのくりの浅さは異常なほどだった。
もう少しで性器のタテスジが見えそうなくらいだ。
Tシャツもコルセットにように後ろがヒモで結ばれた形だった。
乳首が、そのシャツの生地を突き上げている。
ブラジャーはしていないようだった。
『夜なのに大胆な格好だな』と柳原は思った。
1階について、ドアが開いた。
「どうぞ」と柳原が声をかけると、「どうも」と言って女は先にエレベー
ターを降りた。
ちらりと柳原は、ジーンズのくりに目をやった。
ドキリとした。
「尻の谷間」がはっきり見えたのだ。
その女はパンティの類を一切着けていなかった。
女は外にいたワゴン車に乗り込んでいった。
「首尾は」
「上々です。証拠は何もないはずです」
「そうか」
ワゴン車の中には、“光英殺害”の指揮を執った飛騨忍者の「上忍」が一人
待っていた。
飛弾忍者は現代に残る数少ない忍者集団だった。
もちろん、その存在は公には明かされていない秘密の存在だった。
桂木亜沙美も飛弾忍者の家に生まれ、幼いころから忍法を修業してきた。
「どうだった『まどろみ上炎』は?」
「はい十分に効きました」
『忍法まどろみ上炎』は「気を失ったと気づかせずに、意識を奪う」という
飛弾忍者の使う忍法だった。
元々、忍法というのは催眠術や幻惑を引き起こす薬などを組み合わせたもの
だが、そうした技に加えて相手に「強迫観念」を植え付ければ、相手を自由
に“操縦”することも可能なのだ。
「また、くノ一として『進化』したな。亜沙美」
「・・はい」
亜沙美は「上忍」の言葉に応えた。
亜沙美は、自分のアパートまで車で送ってもらった。
家に帰るとすぐにジーンズを脱いだ。
柳原が観察した通り、亜沙美は「ノーパン」「ノーブラ」だった。
光英にパンティを引き破かれ、時間がないことから、そのままジーンズを穿
いたのだ。
亜沙美は帰ると浴室に入った。
そして、洗面器に湯を汲み、その上に跨った。
湯で、性器の中を洗い始めた。
ぴちゃ、ぴちゃという音をたて、指で膣を洗浄する。
指を内蔵付近まで持って行って洗う。
もはや死人となった男の精液が、性器の中に溜まっていた。
湯で何度も中を洗うと粘り気のある液体は消え、さらさらになった。
ふと、亜沙美は思う。
「くノ一」になって「膣洗浄」は何度目だろうか。
自分はセックス忍法を使って何人殺せばいいのだろうか。
そして何回、こうやって「女の器」を洗うのだろうか。
まだ忍者としては若い自分の未来を、ふっと思ってみた。
★水上バスにて
お台場から浅草へ水上バスが出ている。
通常は観光客などが近代的な町と伝統的な町を往復するのに使っている。
その水上バスに2人の男がいた。
一人はテレビ局の重役、そして一人は飛騨忍群の『お館』だった。
忍者集団の最高責任者を『お館』と呼ぶ。
「本当にお手数かけました。これは残り半分の報酬です」
「お館」はアタッシュケースを開け中を見た。
中には札束が入っていた。
「たしかに」
『お館』は言った。
「本当に光英・・いや『彼』を排除していただいて感謝しています」
「・・・」
重役の言葉に『お館』は無口だった。
「『彼』はわが局の『珍肉番付』でスターだったのですが、視聴率が出てき
て増長しましてね。プロデューサーと組んで金と女で悪さを始めましたか
ら。スポンサーも噂を耳にして動き始めまして・・」
「・・・」
「しかし、『珍肉番付』は高視聴率ですのでそのままにしたい。それで『排
除』をお願いしたわけです」
「そうですか・・・」
『お館』がに重役の話に反応した言葉はそれだけだった。
★モデル控え室
美友希は、ファッションショーのモデル控え室でスポーツ新聞を見ていた。
スポーツ紙は男性人気モデル光英が、自宅のサウナで覚醒剤を致死量近くま
で注射したうえ、錯乱して飛び降りた「事故」を報じていた。
「彼、ヤク中だったんだ」
モデルの女の子の一人が新聞をのぞき込んで言った。
気づくと数人が覗き込んでいる。
まがりなりにも光英は「仕事仲間」だったのだ。
関心は高い。
その一人に見慣れない少女がいることに美友希は気づいた。
モデルの中にあったも、その美しさが目立つ少女だった。
視線を感じて、その少女は自己紹介をした。
「あっ、はじめまして、私、長沢加織です」
加織はあいさつした。
「あっ、私、如月美友希です。よろしく」
加織を見て思い出した。
数ヶ月前、彼女が高校生ながらミス日本に選ばれたことを。
「日本一の美少女高校生」と言われたが、その後、「身体を悪くした」とし
てミス日本の仕事を辞退した。
どうやら、身体が直ってモデルの仕事に復帰したようだった。
「このファッションショーのお仕事、ご一緒させていただきます。よろしく
お願いします。如月先輩」
加織は、年上の美友希をたてた。
美友希は、この世界に入って初めて「先輩」と言われた。
それも「ミス日本」にまで選ばれてこともある日本一の美少女に・・である。
悪い気分ではなかった。
「先輩、その事件に関心あるんですか?」
「詳しくは言えないけど、この『光英』に迷惑をかけられたの。それで私の
前から消えて欲しいと思っていたら・・。消えちゃった」
「そうなんですか」
「忍者が・・“くノ一”が、消してくれた・・なんて思ってね」
「えっ!?」
「あっ、冗談よ。私、空想好きだから」
美友希は笑った。
「いいえ、私は信じていますよ。“くノ一”の存在を」
「えっ、なぜ?」
「先輩ともう少しお友達になれたら教えてあげます」
「そう」
「そろそろ衣装あわせ、お願いします」
スタッフから声がかかった。
「じゃあ、行きましょうか」
「はい、先輩」
2人は一緒に衣装合わせに向かった。
(了)