小説(転載) 母心 2/12(未完)
近親相姦小説
母心 2
夕食は決まって夜の7時だった。
峰子は7時になった時点で食卓に料理を並べる事が出来なければ、夕食のおかず一品を減らすくらいに時間に几帳面な女だった。
7時より前になることもなければ、後になることもない。
子供達二人も、その時間がくると当たり前のようにテーブルに着く。
別にそれが息苦しいなどと感じた事もない。
それがこの家庭での習慣であり、どこの家でもそうであろうとさえ思っていた。
畳2枚ほどのダイニングテーブル。
キッチンの小窓にはピンク色の小さなカーテンが掛かっている。
キッチンを背にして峰子が座り、その向かいに由加利。そしてその隣が真一の席だ。
つい半年ほど前までは峰子の隣の席には夫の剛志がいた。
その椅子には、小さなクッションが敷かれたままポツンと存在している。
剛志は不動産会社を経営している男だった。
けっして大きな会社とは言えないが、地元では少しは名の知れた存在であった。
峰子と違い、軽いほどにお調子者で世渡り上手の剛志は、短い期間で経営を軌道に乗せることに成功していた。
そしてこの不景気でも安定した売り上げを確保するほどの会社を築き上げていた。
世渡り上手の商売人の剛志。神経質なほどに潔癖な峰子。
もともとこの二人の相性も悪かったのだろう。
突然、剛志から一枚の離婚届と手紙の入った封書が家に届けられたのは去年の暮れのことだった。
面と向かって離婚を切り出すのではなく、2、3日家を空けた後、手紙で用を済まそうというのがいかにも剛志らしかった。
それは峰子の性格を知り尽くした上での、一つの戦略でもあったのだろう。
飲む、打つ、買う、3拍子揃った剛志が数日家を空けることなど別に珍しい事でもなかったし、
峰子も別段、気にも留めていなかった。
ただ不意打ちのように送りつけられたその離婚届を目にした時、峰子はやはり動揺を隠す事は出来なかった。
離婚届と共に同封されていた手紙には、今住んでいる土地建物、峰子に対する慰謝料、
そして毎月支払うと記された真一と由加利の養育費を含めた具体的な生活費の額がしたためられていた。
峰子は同封されていたその手紙よりも、離婚届の方を濡れた手でじっと握りしめていた。
峰子はその日のうちにその離婚届に判を押し、そして速達で送り返した。
速達で送り返したのは、せめてもの峰子の意地であり抵抗だった。
(速達)と赤い印が押されている封書を受け取った剛志も、
峰子が手紙の中に記されていた十分な金額に目がくらんだ訳ではない事を十分に承知している。
剛志のシナリオ通りに、この離婚は成立した。
翌月の峰子の通帳には約束の期日通りにお金が入金された。
毎月の生活費も十分な額だった。
峰子が外に働きに出る必要性も特になかったが、峰子はどうしても外で働いてみたかった。
剛志からのこの仕打ちを少しでも紛らわせようと、峰子は必死だった。
これまで専業主婦しか知らない峰子にとって、働くという行為は未知のものである。
離婚して間もなく、そんな峰子の経緯を知った古くからの友人が自分の喫茶店を手伝ってみないかと声をかけてくれた。
もともと几帳面で、ちょっとした洋菓子などを作る事が出来る峰子は苦もなくその仕事に打ち解ける事が出来た。
毎月のお給料は剛志の入れてくる生活費には遠く及ばなかったが、それでも峰子はこれまでに感じた事のない喜びを味わっていた。
そして何より、憂いのある美しい峰子を目当てに来店するお客が、チラホラではあるが現れるようになっている事を
峰子自身なんとなく気がついていた。
(・・・まだまだ自分も女なんだわ・・・)
峰子は少しづつではあるが、剛志と別れた事が自分の人生において正解であったのかもしれないと思いはじめていた。
しかし喫茶店での仕事を終え、家に戻り、こう二人の子供達と夕食のテーブルを囲んでいると、
峰子の心の中にどうしても寂しさと悔しさが込み上げてくる。
目の前に座っている高校2年生の息子、真一。
中学2年生の娘、由加利。
峰子も含めてこの3人は主である剛志に捨てられたのは事実だ。
もともと快活な性格の由加利だけは、その事実を知って知らずか、この暗いテーブルを和やかにする。
今日あった学校での出来事を何度となく話し、そして大きな口を開けて笑う。
由加利は明日、峰子と一緒に買いに行く新しいカバンの事をひっきりなしに話していた。
隣で黙ったまま、黙々と食事をとる真一。
台所の小窓から、ゆるやかに風が流れカーテンを揺らす。
峰子はいつも浮かばない顔をしている真一が気にかかっていた。
自分達の離婚が、この二人の子供達に悪い影響を与えることだけは避けたかった。
由加利とは違い、真一は小さい頃から自分を主張することが少なかった。
学校でも目立った存在ではなく、控えめで大人しいのであろう。
時々、優しげな微笑みがとても悲しく見える青年。
真一はそんな印象だった。
次へ
夕食は決まって夜の7時だった。
峰子は7時になった時点で食卓に料理を並べる事が出来なければ、夕食のおかず一品を減らすくらいに時間に几帳面な女だった。
7時より前になることもなければ、後になることもない。
子供達二人も、その時間がくると当たり前のようにテーブルに着く。
別にそれが息苦しいなどと感じた事もない。
それがこの家庭での習慣であり、どこの家でもそうであろうとさえ思っていた。
畳2枚ほどのダイニングテーブル。
キッチンの小窓にはピンク色の小さなカーテンが掛かっている。
キッチンを背にして峰子が座り、その向かいに由加利。そしてその隣が真一の席だ。
つい半年ほど前までは峰子の隣の席には夫の剛志がいた。
その椅子には、小さなクッションが敷かれたままポツンと存在している。
剛志は不動産会社を経営している男だった。
けっして大きな会社とは言えないが、地元では少しは名の知れた存在であった。
峰子と違い、軽いほどにお調子者で世渡り上手の剛志は、短い期間で経営を軌道に乗せることに成功していた。
そしてこの不景気でも安定した売り上げを確保するほどの会社を築き上げていた。
世渡り上手の商売人の剛志。神経質なほどに潔癖な峰子。
もともとこの二人の相性も悪かったのだろう。
突然、剛志から一枚の離婚届と手紙の入った封書が家に届けられたのは去年の暮れのことだった。
面と向かって離婚を切り出すのではなく、2、3日家を空けた後、手紙で用を済まそうというのがいかにも剛志らしかった。
それは峰子の性格を知り尽くした上での、一つの戦略でもあったのだろう。
飲む、打つ、買う、3拍子揃った剛志が数日家を空けることなど別に珍しい事でもなかったし、
峰子も別段、気にも留めていなかった。
ただ不意打ちのように送りつけられたその離婚届を目にした時、峰子はやはり動揺を隠す事は出来なかった。
離婚届と共に同封されていた手紙には、今住んでいる土地建物、峰子に対する慰謝料、
そして毎月支払うと記された真一と由加利の養育費を含めた具体的な生活費の額がしたためられていた。
峰子は同封されていたその手紙よりも、離婚届の方を濡れた手でじっと握りしめていた。
峰子はその日のうちにその離婚届に判を押し、そして速達で送り返した。
速達で送り返したのは、せめてもの峰子の意地であり抵抗だった。
(速達)と赤い印が押されている封書を受け取った剛志も、
峰子が手紙の中に記されていた十分な金額に目がくらんだ訳ではない事を十分に承知している。
剛志のシナリオ通りに、この離婚は成立した。
翌月の峰子の通帳には約束の期日通りにお金が入金された。
毎月の生活費も十分な額だった。
峰子が外に働きに出る必要性も特になかったが、峰子はどうしても外で働いてみたかった。
剛志からのこの仕打ちを少しでも紛らわせようと、峰子は必死だった。
これまで専業主婦しか知らない峰子にとって、働くという行為は未知のものである。
離婚して間もなく、そんな峰子の経緯を知った古くからの友人が自分の喫茶店を手伝ってみないかと声をかけてくれた。
もともと几帳面で、ちょっとした洋菓子などを作る事が出来る峰子は苦もなくその仕事に打ち解ける事が出来た。
毎月のお給料は剛志の入れてくる生活費には遠く及ばなかったが、それでも峰子はこれまでに感じた事のない喜びを味わっていた。
そして何より、憂いのある美しい峰子を目当てに来店するお客が、チラホラではあるが現れるようになっている事を
峰子自身なんとなく気がついていた。
(・・・まだまだ自分も女なんだわ・・・)
峰子は少しづつではあるが、剛志と別れた事が自分の人生において正解であったのかもしれないと思いはじめていた。
しかし喫茶店での仕事を終え、家に戻り、こう二人の子供達と夕食のテーブルを囲んでいると、
峰子の心の中にどうしても寂しさと悔しさが込み上げてくる。
目の前に座っている高校2年生の息子、真一。
中学2年生の娘、由加利。
峰子も含めてこの3人は主である剛志に捨てられたのは事実だ。
もともと快活な性格の由加利だけは、その事実を知って知らずか、この暗いテーブルを和やかにする。
今日あった学校での出来事を何度となく話し、そして大きな口を開けて笑う。
由加利は明日、峰子と一緒に買いに行く新しいカバンの事をひっきりなしに話していた。
隣で黙ったまま、黙々と食事をとる真一。
台所の小窓から、ゆるやかに風が流れカーテンを揺らす。
峰子はいつも浮かばない顔をしている真一が気にかかっていた。
自分達の離婚が、この二人の子供達に悪い影響を与えることだけは避けたかった。
由加利とは違い、真一は小さい頃から自分を主張することが少なかった。
学校でも目立った存在ではなく、控えめで大人しいのであろう。
時々、優しげな微笑みがとても悲しく見える青年。
真一はそんな印象だった。
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