小説(転載) 妻のヌード 2/4
官能小説
小説『妻のヌード』
(2)
僕と柿崎夫婦は、白けた感じで座っていた。
二階からかすかに声が聞こえる。由美子が笑っているようだ。
細川は由美子に何を話しているのだろう。由美子は何をおかしそうに笑っているのだろう。
由美子はもうバスタオルを身体から外しただろうか。
「何話してるのかしら・・・。楽しそうね」幸子さんが僕に水割りをつくってくれる。
「後悔してるんじゃない?」
僕は笑うしかなかった。
「でも、普段あまりかまってやらない罰よ」
僕は何も言えなかった。
しばらくすると、二階からまったく声が聞こえなくなった。
絵を描くのにバスタオルを身体に巻いたままできるわけがない。とっくに細川が取り上げているはずだ。
とっくの昔に由美子はバスタオルを取り上げられて、その全裸の身体を細川の目の前に晒しているに違いない。細川の目は由美子のすべてを見ているはずだ。
時々、ギシッと音がする。
それが、ギシッギシッ、というセックスのリズムではないことを僕は注意深く確認していた。
何を馬鹿なこと考えてるんだ。由美子がそんなことするわけがないじゃないか。これは足音だ。きっと、ポーズを変えたりしているんだ。
細川は、全裸の由美子の身体の向きを変えたり、前を向かせたり、後ろを向かせたりしているのだろう。
由美子の手の位置を動かして、由美子が乳房や秘部を隠そうとするのを止めさせているに違いない。そして、由美子の全裸の身体の全てを前や後ろからねめ回しているに違いない。
由美子は嫌がっているだろうか。嫌がっていないだろうか。
沈黙が、よけいに僕の耳をそばだたせる。
・・・。でも声は聞こえない。また、ギシッと音がした。
由美子は立ったままでいるのだろうか。床に寝そべったりさせられていないだろうか。
あの部屋には何もない。隅のほうにダンボールに入れた古本が置いてあるだけだ。カーペットもなく剥き出しの床の上に、全裸のまま由美子は寝そべっているのだろうか。
細川が、変な格好を指図してはいないだろうか。脚を強引に開かせたりしていないだろうか。
細川の手が由美子の身体に触れたりしていないのだろうか。
時間が静かに流れる。
また、音がする。何か擦れるような音。それから、ギシッという音。
由美子はむき出しの床に寝そべっているのだろうか。全裸のままで・・・。そうだとしたら全く無防備じゃないか。
何か囁いているような声が聞こえた。いや、聞こえたような気がした。
何をやっているんだ。まさか・・・。
由美子の全裸の身体を前にして、細川が平常でいられるはずがない。細川はすでに勃起しているんじゃないだろうか。勃起した細川は、寝そべっている全裸の由美子の、あのカモシカのような両脚を押し広げて、嫌がる由美子を無理やり・・・。
いや、きっと違うさ。僕は、由美子を信じている。本当に・・・?信じているさ。いや、信じたい。
由美子は、きっといろいろなポーズを取らされているだけなんだ。第一、もし変なことをされたら、由美子が黙っているはずがないじゃないか・・・。
柿崎が落ち着かないようにタバコをスパスパふかしている。これは僕も同じだ。二人とも滑稽なくらい落ち着かなかった。
つけっ放しのテレビではプロ野球が終盤をむかえていた。野球好きな僕や柿崎が、いつもとは違って静かにゲームを見ていた。
「でも、由美子さん、素敵!とっても凄いことだって、私、思うわ」
幸子さんがその沈黙を破るように言った。幸子さんだけが変に落ち着いている。
「お前もやりたいなんて言うんじゃないだろうな?」柿崎が心配そうに幸子さんに聞く。
「そう言ったらどうする?」
「そうだな。俺だったら、たぶん我慢できないだろうな。腕に賭けても止めさせるよ」
「ふふふ・・・」
「・・・やっぱりまずかったかな?」僕は幸子さんに聞いてみた。
「そんなことないと思うわ。今、由美子さんとっても輝いていると思うの。そうね、女だったら一回はやってみたい、ってところかな」
「おいおい」柿崎があわてたように言う。
「大丈夫よ。私はきっとできないわ」
「あたり前だ」
「でもね、これは私の想像だけど・・・。たぶん、由美子さん、もう明日のドライブのことは何も言わないはずよ。勝手に麻雀でも何でもやってくれって・・・」そう言って笑った。
そういうことだったのかな、と僕は思った。
どのくらい時間がたっただろうか。一時間くらいのようにも思えるし、ほんの数十分くらいのようにも思える。
突然、話し声がよみがえった。笑い声はなく、どちらかと言えば細川の声が多く、由美子の小さな声がそれに続いている感じだ。
鍵を外す音がシーンとした家中に響いて、それから二階のドアがゆっくりと開いた。
細川が二階の吹上から顔を覗かせ、
「誰か、そのソファーを持ってきてくれないか」と僕が座っているソファーを指差す。
たまたま、僕一人が幅の長いソファーを占領していた。けっして豪華なものではないが、洒落た刺繍の入った、由美子お気に入りのものだ。
「よし」と僕が持って行こうとすると、由美子が何か言っているのだろうか、細川が部屋の中に聞き返している。そして言った。
「お前じゃなく、柿崎が持って来てくれないか。由美子さんのご指名だ」
「僕じゃダメなのか?」
「うん。由美子さんがそう言ってる」
何故だ?
「おい、どけよ」柿崎に言われて僕は仕方なく腰を上げた。
「一人で大丈夫か?」
「大丈夫だ。持って行けるよ」
柿崎のやつ、ひょっとしたら由美子のヌードを見れるとあって興奮していやがる。
小柄な柿崎が大きなソファーを担って、ふらふらしながら階段を上って行く。あっ、壁にぶつけやがった。
「ちょっと無理そうだな。よし、俺が下に降りて行こう」
細川が階段の途中まで下りて来て、柿崎と二人でソファーを担いで、またゆっくりと階段を上っていく。
僕は何もできず、ただジッと見ていた。
よく見ると、細川はさっき由美子が身体に巻きつけていた葡萄色のバスタオルを首から下げている。
ちょっと待てよ・・・。ということは、由美子は全裸の身体ひとつであの部屋にいることになる。他に由美子の身体を覆うものは何もないはずだ。そこに柿崎が行くことになるのか。由美子は、僕じゃなく柿崎に自分の全裸の身体を見られてもいいってことなのか。
「そのバスタオル、どうしたんだ?」僕はツバを飲み込むようにして聞いた。
「ああ、これか。ちょっと暑くてね。汗を拭くのに、由美子さんから借りたんだ」
さっき、由美子の全裸の身体を覆っていたバスタオルで、細川が汗を拭っている。きっと細川が無理やり取り上げたに違いない。きっとそうだ。
それに、今日はそんなに暑くはないじゃないか。何でそんなに汗をかかなければならないんだ。
「バスタオル、もうひとつ持っていくか」僕は平然を装って聞いた。
「いや、いい。二人で使っているから・・・」
「由美子も汗をかいてるのか?」
「お互い熱気がすごくてね。そりゃあ汗も出るさ」
それが由美子に聞こえたのだろうか。部屋の中から由美子の笑う声がした。
「これで拭いてやってるよ。大丈夫だ」
僕は頭がくらくらした。
細川が、
「それから・・・、幸子さん。すいませんが、由美子さんの髪が乱れているので、櫛を持って来てくれませんか」
髪が乱れている?何で髪が乱れるんだ。乱れるはずなんてないじゃないか。
「いいわよ。スタイリストやってあげる。櫛、どこにあるのかしら?」
待ってましたとばかり立ち上がった幸子さんが、僕に聞く。
そんなの判らないさ。
「お前のを使ったらいいじゃないか」と柿崎。
「あゝ、そうね」
幸子さんは、自分のバックの中から櫛を取り出すと、ちょっと早足で二人を追った。
「ソファーをドアにぶつけないようにな」細川が柿崎に言う。余計なお世話だ。僕の家だ。いや、僕と由美子の家だ。
「わかってるよ」これは柿崎のちょっと上ずった声。もうすぐ、由美子の全裸の身体が見れるのだ。
上を見上げると細川と目が合った。
細川がニャッと笑った。それが僕には、お前の女房を貰ったぞ、という勝利者の笑いに思えた。
二人が、どうにかこうにかソファーを部屋の中に入れて、最後に幸子さんが入った。
由美子は全裸のまま柿崎夫婦を迎えたのだろう。立ったまま迎えたのだろうか。それとも、寝そべっているのだろうか。
「イヤーね」と言う由美子の声がした。柿崎がからかっているのだろうか。まだドアが開いているからよく聞こえる。
幸子さんのちょっと興奮した笑い声がした。
僕は、二人がすぐ出て来ると思った。でも、なかなか出てこない。
細川の「いいかい?」と言う声がした。
「別に・・・、いいわよ」と由美子の声。
柿崎夫婦は、あの部屋にいることの許可をもらったのだろうか。それにしても、由美子はいとも簡単にオッケーしたものだ。
話し声が聞こえて、その中には由美子の笑い声も混じっていた。
しばらくして、そのままドアが閉まった。それから、少し間を置いてカチャッと鍵がかかった。由美子が命じたのだろう。
(2)
僕と柿崎夫婦は、白けた感じで座っていた。
二階からかすかに声が聞こえる。由美子が笑っているようだ。
細川は由美子に何を話しているのだろう。由美子は何をおかしそうに笑っているのだろう。
由美子はもうバスタオルを身体から外しただろうか。
「何話してるのかしら・・・。楽しそうね」幸子さんが僕に水割りをつくってくれる。
「後悔してるんじゃない?」
僕は笑うしかなかった。
「でも、普段あまりかまってやらない罰よ」
僕は何も言えなかった。
しばらくすると、二階からまったく声が聞こえなくなった。
絵を描くのにバスタオルを身体に巻いたままできるわけがない。とっくに細川が取り上げているはずだ。
とっくの昔に由美子はバスタオルを取り上げられて、その全裸の身体を細川の目の前に晒しているに違いない。細川の目は由美子のすべてを見ているはずだ。
時々、ギシッと音がする。
それが、ギシッギシッ、というセックスのリズムではないことを僕は注意深く確認していた。
何を馬鹿なこと考えてるんだ。由美子がそんなことするわけがないじゃないか。これは足音だ。きっと、ポーズを変えたりしているんだ。
細川は、全裸の由美子の身体の向きを変えたり、前を向かせたり、後ろを向かせたりしているのだろう。
由美子の手の位置を動かして、由美子が乳房や秘部を隠そうとするのを止めさせているに違いない。そして、由美子の全裸の身体の全てを前や後ろからねめ回しているに違いない。
由美子は嫌がっているだろうか。嫌がっていないだろうか。
沈黙が、よけいに僕の耳をそばだたせる。
・・・。でも声は聞こえない。また、ギシッと音がした。
由美子は立ったままでいるのだろうか。床に寝そべったりさせられていないだろうか。
あの部屋には何もない。隅のほうにダンボールに入れた古本が置いてあるだけだ。カーペットもなく剥き出しの床の上に、全裸のまま由美子は寝そべっているのだろうか。
細川が、変な格好を指図してはいないだろうか。脚を強引に開かせたりしていないだろうか。
細川の手が由美子の身体に触れたりしていないのだろうか。
時間が静かに流れる。
また、音がする。何か擦れるような音。それから、ギシッという音。
由美子はむき出しの床に寝そべっているのだろうか。全裸のままで・・・。そうだとしたら全く無防備じゃないか。
何か囁いているような声が聞こえた。いや、聞こえたような気がした。
何をやっているんだ。まさか・・・。
由美子の全裸の身体を前にして、細川が平常でいられるはずがない。細川はすでに勃起しているんじゃないだろうか。勃起した細川は、寝そべっている全裸の由美子の、あのカモシカのような両脚を押し広げて、嫌がる由美子を無理やり・・・。
いや、きっと違うさ。僕は、由美子を信じている。本当に・・・?信じているさ。いや、信じたい。
由美子は、きっといろいろなポーズを取らされているだけなんだ。第一、もし変なことをされたら、由美子が黙っているはずがないじゃないか・・・。
柿崎が落ち着かないようにタバコをスパスパふかしている。これは僕も同じだ。二人とも滑稽なくらい落ち着かなかった。
つけっ放しのテレビではプロ野球が終盤をむかえていた。野球好きな僕や柿崎が、いつもとは違って静かにゲームを見ていた。
「でも、由美子さん、素敵!とっても凄いことだって、私、思うわ」
幸子さんがその沈黙を破るように言った。幸子さんだけが変に落ち着いている。
「お前もやりたいなんて言うんじゃないだろうな?」柿崎が心配そうに幸子さんに聞く。
「そう言ったらどうする?」
「そうだな。俺だったら、たぶん我慢できないだろうな。腕に賭けても止めさせるよ」
「ふふふ・・・」
「・・・やっぱりまずかったかな?」僕は幸子さんに聞いてみた。
「そんなことないと思うわ。今、由美子さんとっても輝いていると思うの。そうね、女だったら一回はやってみたい、ってところかな」
「おいおい」柿崎があわてたように言う。
「大丈夫よ。私はきっとできないわ」
「あたり前だ」
「でもね、これは私の想像だけど・・・。たぶん、由美子さん、もう明日のドライブのことは何も言わないはずよ。勝手に麻雀でも何でもやってくれって・・・」そう言って笑った。
そういうことだったのかな、と僕は思った。
どのくらい時間がたっただろうか。一時間くらいのようにも思えるし、ほんの数十分くらいのようにも思える。
突然、話し声がよみがえった。笑い声はなく、どちらかと言えば細川の声が多く、由美子の小さな声がそれに続いている感じだ。
鍵を外す音がシーンとした家中に響いて、それから二階のドアがゆっくりと開いた。
細川が二階の吹上から顔を覗かせ、
「誰か、そのソファーを持ってきてくれないか」と僕が座っているソファーを指差す。
たまたま、僕一人が幅の長いソファーを占領していた。けっして豪華なものではないが、洒落た刺繍の入った、由美子お気に入りのものだ。
「よし」と僕が持って行こうとすると、由美子が何か言っているのだろうか、細川が部屋の中に聞き返している。そして言った。
「お前じゃなく、柿崎が持って来てくれないか。由美子さんのご指名だ」
「僕じゃダメなのか?」
「うん。由美子さんがそう言ってる」
何故だ?
「おい、どけよ」柿崎に言われて僕は仕方なく腰を上げた。
「一人で大丈夫か?」
「大丈夫だ。持って行けるよ」
柿崎のやつ、ひょっとしたら由美子のヌードを見れるとあって興奮していやがる。
小柄な柿崎が大きなソファーを担って、ふらふらしながら階段を上って行く。あっ、壁にぶつけやがった。
「ちょっと無理そうだな。よし、俺が下に降りて行こう」
細川が階段の途中まで下りて来て、柿崎と二人でソファーを担いで、またゆっくりと階段を上っていく。
僕は何もできず、ただジッと見ていた。
よく見ると、細川はさっき由美子が身体に巻きつけていた葡萄色のバスタオルを首から下げている。
ちょっと待てよ・・・。ということは、由美子は全裸の身体ひとつであの部屋にいることになる。他に由美子の身体を覆うものは何もないはずだ。そこに柿崎が行くことになるのか。由美子は、僕じゃなく柿崎に自分の全裸の身体を見られてもいいってことなのか。
「そのバスタオル、どうしたんだ?」僕はツバを飲み込むようにして聞いた。
「ああ、これか。ちょっと暑くてね。汗を拭くのに、由美子さんから借りたんだ」
さっき、由美子の全裸の身体を覆っていたバスタオルで、細川が汗を拭っている。きっと細川が無理やり取り上げたに違いない。きっとそうだ。
それに、今日はそんなに暑くはないじゃないか。何でそんなに汗をかかなければならないんだ。
「バスタオル、もうひとつ持っていくか」僕は平然を装って聞いた。
「いや、いい。二人で使っているから・・・」
「由美子も汗をかいてるのか?」
「お互い熱気がすごくてね。そりゃあ汗も出るさ」
それが由美子に聞こえたのだろうか。部屋の中から由美子の笑う声がした。
「これで拭いてやってるよ。大丈夫だ」
僕は頭がくらくらした。
細川が、
「それから・・・、幸子さん。すいませんが、由美子さんの髪が乱れているので、櫛を持って来てくれませんか」
髪が乱れている?何で髪が乱れるんだ。乱れるはずなんてないじゃないか。
「いいわよ。スタイリストやってあげる。櫛、どこにあるのかしら?」
待ってましたとばかり立ち上がった幸子さんが、僕に聞く。
そんなの判らないさ。
「お前のを使ったらいいじゃないか」と柿崎。
「あゝ、そうね」
幸子さんは、自分のバックの中から櫛を取り出すと、ちょっと早足で二人を追った。
「ソファーをドアにぶつけないようにな」細川が柿崎に言う。余計なお世話だ。僕の家だ。いや、僕と由美子の家だ。
「わかってるよ」これは柿崎のちょっと上ずった声。もうすぐ、由美子の全裸の身体が見れるのだ。
上を見上げると細川と目が合った。
細川がニャッと笑った。それが僕には、お前の女房を貰ったぞ、という勝利者の笑いに思えた。
二人が、どうにかこうにかソファーを部屋の中に入れて、最後に幸子さんが入った。
由美子は全裸のまま柿崎夫婦を迎えたのだろう。立ったまま迎えたのだろうか。それとも、寝そべっているのだろうか。
「イヤーね」と言う由美子の声がした。柿崎がからかっているのだろうか。まだドアが開いているからよく聞こえる。
幸子さんのちょっと興奮した笑い声がした。
僕は、二人がすぐ出て来ると思った。でも、なかなか出てこない。
細川の「いいかい?」と言う声がした。
「別に・・・、いいわよ」と由美子の声。
柿崎夫婦は、あの部屋にいることの許可をもらったのだろうか。それにしても、由美子はいとも簡単にオッケーしたものだ。
話し声が聞こえて、その中には由美子の笑い声も混じっていた。
しばらくして、そのままドアが閉まった。それから、少し間を置いてカチャッと鍵がかかった。由美子が命じたのだろう。
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