小説(転載) 盆休み2/6
官能小説
次の日から、圭介は愛子たちの運転手としてあちこち連れまわされた。都会育ちの紫織は、何もかもが珍しいようで、あれこれ愛子や圭介に教えてもらいながら、そのつど感心していた。
愛子は活発で、言いにくいこともずばずば言うが、紫織は愛子に比べるとおとなしい性格だった。ただ、たまに変なことをくちばしったりするので、愛子はおもしろがって紫織と付き合っているらしい。
夕方、圭介の友人四人が家に遊びに来た。みんな地元を離れて生活しているので、盆や正月になると決まって圭介の家で飲むのだ。
「おっ、愛子ちゃんじゃねーの。」
友人の佐々木が愛子の姿を見つけて呼び止めた。
「ちょっと見ないうちに、きれいになったねえ。」
隣に座っていた聡美が愛子に言うと、愛子は笑いながら、聡美さんにはかなわないよ、と答えた。圭介の友人たちは大笑いし、部屋に戻っていく愛子に手を振った。
「圭介、あさっての祭りどうする?」
寺田が言うと、圭介の隣に座っていた伊藤が太鼓でもやるか、と言いだした。圭介の地元では、盆踊りのイベントとして子供たちに太鼓を演奏させる習わしがある。聡美を除く四人も中学までは太鼓の演奏に参加していた。
「聡美は腹踊りでもしてろ。」
自分が参加できない、と文句を言う聡美に伊藤が言った。よしっ、と言って服をまくろうとする聡美を、寺田が慌ててとめた。
「相変わらずだなぁ、聡美ぃ。」
その日、遅くまで圭介たちの笑い声が絶えなかった。
翌朝、圭介は祭りの責任者に連絡すると、太鼓の練習に出かけていった。おかげで愛子たちはどこへも行けず、近所の河原で愛子の両親とバーベキューをした。
「愛子、明日の祭りに紫織ちゃんを連れていったらええわ。」
母親はそう言いながら、押し入れから二人分の浴衣を出した。紫織は、喜んで浴衣を眺めている。愛子も屋台が出ると聞き、あれこれ食べたいものを紫織に言いながら、浴衣を干す母親を手伝った。
夜遅く、圭介が帰ってくると、愛子は明日の祭りに、紫織を連れて行くことを話した。圭介は、祭りの夜はたぶん打ち上げがあるだろうから、自分は一緒に帰れないが、二人で楽しめと言って、財布から五千円札を出し、愛子に渡した。
「やったあ。」
うれしそうに愛子はお金を受け取ると、紫織に話すと言って部屋に戻った。
翌日、昼頃から盆踊りの音楽が聞こえてきた。圭介は朝早くから準備があると言って、家を出かけていて、家にはいなかった。
陽がおちると、愛子と紫織は愛子の母親に浴衣を着せてもらい、歩いて祭りの会場となっている神社へと出かけた。祭りの会場はもう大勢の人でにぎわっている。二人はたち並ぶ屋台をひとつひとつ見ながら、はしゃぎまわった。
どーん。
太鼓の音が聞こえた。
「あっ、太鼓が始まるみたいだね。」
愛子が紫織の手を引っ張り、盆踊りの輪の近くへ連れていった。はっぴを来た子供たちがかけ声をあげながら、太鼓をたたき始めた。垂れ幕がかかった正方形のやぐらの上に大きな太鼓が二つあり、その前に小さめの太鼓が四つ並んでいる。紫織は、一生懸命太鼓をたたく子供たちの様子を見て、かわいいと笑った。
「愛子ちゃん。」
太鼓の音の中で、自分を呼ぶ声が聞こえ、愛子が振り返ると、浴衣を着た聡子が立っていた。
「もうすぐ、圭介たちの番だよ。」
聡子はそう言うと、愛子の横に立ち、一緒にやぐらを見上げる。紫織は圭介と親しそうな聡子の姿を見て、心の中がもやもやとし始めていた。
「あ、兄貴だ。」
愛子の声に、紫織がやぐらを見上げると、圭介が大太鼓の前に立っていた。四人は白い短パンをはき、さらしを巻いた上半身に、黒地のはっぴを着ている。
「あれーっ、あのはっぴどうしたの?」
見慣れぬはっぴに気づき、愛子が聡美に尋ねると、地元の消防団のはっぴを借りたと聡美が言った。
「そっか、聡美さんの彼氏って、地元の人だったもんねえ。」
愛子が聡美を見て微笑み、聡美の恋人が地元の消防団員であることを紫織に教えた。
「彼氏がいたんだ…。」
紫織がつぶやく。
「えっ、何か言った?」
愛子が紫織に聞き返したのと同時に、やあっというかけ声で、どーんと大太鼓の音が鳴った。愛子たちは、やぐらの上を見上げる。
どーん、どーんという大太鼓の低い音に合わせて、前の小太鼓の音が繰り返される。さきほどの子供たちの太鼓よりも力強い音が、紫織の全身にびりびりと伝わってくる。テレビでしか、太鼓の演奏を聴いたことのない紫織は、その迫力に圧倒された。
「結構、うまいもんでしょ。」
愛子が大声で紫織に話しかけたが、紫織は気づかない。紫織の目線をたどるように愛子は、やぐらに目をやった。
「わかりやすいなあ。紫織は…。」
愛子は紫織の目線が圭介の元にあることに気づき思った。まあ、無理もないか、と愛子は圭介を見た。
酒を飲み、だらしない格好で愛子に話しかけてくる圭介と友人たちを見ている愛子でも、今、やぐらの上に立ち、真剣に太鼓をたたく姿はかっこいい、と思う。
「でも、顔は平凡なんだけどなあ。」
愛子のつぶやきに、聡美が気づいた。どうしたのか、と聞く聡美に、愛子は紫織をちらっと見て、なにやら告げた。聡美も、愛子の耳元で何か言っている。
演奏が終わり、会場から拍手が起こった。人のざわめきが聞こえ始めると、スピーカーから盆踊りの曲が流れ始めた。何事もなかったかのように、また人が動き出す。愛子は聡美と別 れ、紫織と一緒に歩き始めた。
しばらくすると、遠くで佐々木が愛子を呼んでいる。近づくと、佐々木は愛子と一緒の紫織を見て、打ち上げに誘った。紫織はためらっていたが、愛子は強引に紫織を連れて行った。人混みから少し離れた場所に、大きなシートを広げ、紫織の知らない人たちと圭介たちがビールを飲みながら笑っていた。みな、愛子と紫織に気づくと、酔っぱらっているのかいろいろと話しかけてくる。愛子は酔っぱらいたちをうまくあしらいながら、紫織も加えて場を盛り上げてた。
愛子は活発で、言いにくいこともずばずば言うが、紫織は愛子に比べるとおとなしい性格だった。ただ、たまに変なことをくちばしったりするので、愛子はおもしろがって紫織と付き合っているらしい。
夕方、圭介の友人四人が家に遊びに来た。みんな地元を離れて生活しているので、盆や正月になると決まって圭介の家で飲むのだ。
「おっ、愛子ちゃんじゃねーの。」
友人の佐々木が愛子の姿を見つけて呼び止めた。
「ちょっと見ないうちに、きれいになったねえ。」
隣に座っていた聡美が愛子に言うと、愛子は笑いながら、聡美さんにはかなわないよ、と答えた。圭介の友人たちは大笑いし、部屋に戻っていく愛子に手を振った。
「圭介、あさっての祭りどうする?」
寺田が言うと、圭介の隣に座っていた伊藤が太鼓でもやるか、と言いだした。圭介の地元では、盆踊りのイベントとして子供たちに太鼓を演奏させる習わしがある。聡美を除く四人も中学までは太鼓の演奏に参加していた。
「聡美は腹踊りでもしてろ。」
自分が参加できない、と文句を言う聡美に伊藤が言った。よしっ、と言って服をまくろうとする聡美を、寺田が慌ててとめた。
「相変わらずだなぁ、聡美ぃ。」
その日、遅くまで圭介たちの笑い声が絶えなかった。
翌朝、圭介は祭りの責任者に連絡すると、太鼓の練習に出かけていった。おかげで愛子たちはどこへも行けず、近所の河原で愛子の両親とバーベキューをした。
「愛子、明日の祭りに紫織ちゃんを連れていったらええわ。」
母親はそう言いながら、押し入れから二人分の浴衣を出した。紫織は、喜んで浴衣を眺めている。愛子も屋台が出ると聞き、あれこれ食べたいものを紫織に言いながら、浴衣を干す母親を手伝った。
夜遅く、圭介が帰ってくると、愛子は明日の祭りに、紫織を連れて行くことを話した。圭介は、祭りの夜はたぶん打ち上げがあるだろうから、自分は一緒に帰れないが、二人で楽しめと言って、財布から五千円札を出し、愛子に渡した。
「やったあ。」
うれしそうに愛子はお金を受け取ると、紫織に話すと言って部屋に戻った。
翌日、昼頃から盆踊りの音楽が聞こえてきた。圭介は朝早くから準備があると言って、家を出かけていて、家にはいなかった。
陽がおちると、愛子と紫織は愛子の母親に浴衣を着せてもらい、歩いて祭りの会場となっている神社へと出かけた。祭りの会場はもう大勢の人でにぎわっている。二人はたち並ぶ屋台をひとつひとつ見ながら、はしゃぎまわった。
どーん。
太鼓の音が聞こえた。
「あっ、太鼓が始まるみたいだね。」
愛子が紫織の手を引っ張り、盆踊りの輪の近くへ連れていった。はっぴを来た子供たちがかけ声をあげながら、太鼓をたたき始めた。垂れ幕がかかった正方形のやぐらの上に大きな太鼓が二つあり、その前に小さめの太鼓が四つ並んでいる。紫織は、一生懸命太鼓をたたく子供たちの様子を見て、かわいいと笑った。
「愛子ちゃん。」
太鼓の音の中で、自分を呼ぶ声が聞こえ、愛子が振り返ると、浴衣を着た聡子が立っていた。
「もうすぐ、圭介たちの番だよ。」
聡子はそう言うと、愛子の横に立ち、一緒にやぐらを見上げる。紫織は圭介と親しそうな聡子の姿を見て、心の中がもやもやとし始めていた。
「あ、兄貴だ。」
愛子の声に、紫織がやぐらを見上げると、圭介が大太鼓の前に立っていた。四人は白い短パンをはき、さらしを巻いた上半身に、黒地のはっぴを着ている。
「あれーっ、あのはっぴどうしたの?」
見慣れぬはっぴに気づき、愛子が聡美に尋ねると、地元の消防団のはっぴを借りたと聡美が言った。
「そっか、聡美さんの彼氏って、地元の人だったもんねえ。」
愛子が聡美を見て微笑み、聡美の恋人が地元の消防団員であることを紫織に教えた。
「彼氏がいたんだ…。」
紫織がつぶやく。
「えっ、何か言った?」
愛子が紫織に聞き返したのと同時に、やあっというかけ声で、どーんと大太鼓の音が鳴った。愛子たちは、やぐらの上を見上げる。
どーん、どーんという大太鼓の低い音に合わせて、前の小太鼓の音が繰り返される。さきほどの子供たちの太鼓よりも力強い音が、紫織の全身にびりびりと伝わってくる。テレビでしか、太鼓の演奏を聴いたことのない紫織は、その迫力に圧倒された。
「結構、うまいもんでしょ。」
愛子が大声で紫織に話しかけたが、紫織は気づかない。紫織の目線をたどるように愛子は、やぐらに目をやった。
「わかりやすいなあ。紫織は…。」
愛子は紫織の目線が圭介の元にあることに気づき思った。まあ、無理もないか、と愛子は圭介を見た。
酒を飲み、だらしない格好で愛子に話しかけてくる圭介と友人たちを見ている愛子でも、今、やぐらの上に立ち、真剣に太鼓をたたく姿はかっこいい、と思う。
「でも、顔は平凡なんだけどなあ。」
愛子のつぶやきに、聡美が気づいた。どうしたのか、と聞く聡美に、愛子は紫織をちらっと見て、なにやら告げた。聡美も、愛子の耳元で何か言っている。
演奏が終わり、会場から拍手が起こった。人のざわめきが聞こえ始めると、スピーカーから盆踊りの曲が流れ始めた。何事もなかったかのように、また人が動き出す。愛子は聡美と別 れ、紫織と一緒に歩き始めた。
しばらくすると、遠くで佐々木が愛子を呼んでいる。近づくと、佐々木は愛子と一緒の紫織を見て、打ち上げに誘った。紫織はためらっていたが、愛子は強引に紫織を連れて行った。人混みから少し離れた場所に、大きなシートを広げ、紫織の知らない人たちと圭介たちがビールを飲みながら笑っていた。みな、愛子と紫織に気づくと、酔っぱらっているのかいろいろと話しかけてくる。愛子は酔っぱらいたちをうまくあしらいながら、紫織も加えて場を盛り上げてた。
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