小説(転載) ADAM2/4
近親相姦小説
次の日。
海原が、俺の家に来た。
でかくて黒い旅行用のバックをもって、もう片手を、陽気に軽くあげて。
「おいっすぅ!」
「ああ、よくきたな。なんだやっぱり泊まる気なのか?」
「もちろん」
と、そこへ姉さんもやってきた。
夕飯の用意をしていたから、エプロンで両手を拭きながら。
「あ、海原くん、いらっしゃい。あれ? 海原君ひとりだけ? 他の子も来るって、基樹から聞いてたんだけどなぁ」
「ああ、他のやつらは用事があるとか言ってて。俺だけっす」
「そうなの。まぁじゃあ、あがってよ」
「おいっすぅ」
海原は、スリッパも履かずにあがった。どうでもいいことだけど。
「今日はゲーム持ってきたんだぜ? “おぼっちゃまくんのすごろくゲーム”だな」
「ああ?」
「お前がたのんでたやつだろ?」
きょとんとして俺に尋ねてくる。俺が頼んだのは……。
「“キングオブファイターズ98”だろ?」
「あ?」
「たしかそうだぞ?」
「あ、ああ。そかそか。まぁ、こっちもおもしろいんだ。いいだろ?」
「ああ、なんとなく想像つくし、いいけどな」
第二章
「それじゃ、ごゆっくりね」
姉さんは、俺の部屋に、紅茶の入ったカップを置いた。
「あとでケーキ持ってくるから、待っててね」
「ああ、そうですか? やっぱり手作りですかぁ?」
「そう。ブルーベリータルトなんだけどね。ケーキとは違うのかなぁ?」
「俺らにそういうことわからないんだから、いいっすよ? うまければなんでも。真紀さんの作ったケーキは、まずいことないし」
「そうだな。姉さんのケーキは確かにうまいよ」
俺もうなずく。たしかに、小さいころから、ケーキもクッキーもタルトも、全部うまい。……ときどきこげてたりもするけど、でもやっぱりうまいから。
料理本を覗きながら、一生懸命ケーキと格闘する姉さんを見るのは、とても楽しいし。
「んじゃあ、まぁいっぱい。お前も飲めよ?」
姉さんがおぼんを持って去っていってから、海原が口を開いた。
右手で持った紅茶のカップに口をつけながら、左手を俺のほうにひらひらと振ってくる。
俺も紅茶を飲んだ。
なにも入ってないシンプルなものだが、少しハーブの香りがする。
ハーブの紅茶苦手なんだけど、海原は結構好きなんだよな。
まぁ、お客優先か。姉さんらしい。
「んじゃあまぁ、ゲームすっかぁ。例の“おぼっちゃまくんの恋愛シュミレーションゲーム”」
「さっきは、“おぼっちゃまくんのすごろくゲーム”と言っていなかったか?」
「ああ、そそ」
「いい加減なやつ」
「それも俺のひとつの特徴ということで。ではでは」
海原が、ファミコンのソフトを差し込むところに、ガチャッとオレンジ色のカセットを差し込んだ。
俺の部屋には、ファミコンとプレイステーション、それにセガサターンがある。
プレイステーション2も買うつもりでいる。
まあ、いいんだけど。
「おっ。始まったぜぇ?」
それからしばらく、ゲームで遊んだ。
「ふぅ」
「まぁ、難しくはぜんぜんないし。それなりにおもしろかったな」
「ギャグ満載だったからなぁ。腹抱えて笑うほどじゃねぇけどなぁ」
と言いつつ、へらへら笑っている。何が楽しいんだか、こいつはいつも笑っている。
たいてい、なにがおかしいのかも分からずに笑っている。
そういうやつだ。
それが逆にうらやましい。
なんてことを思ってたら、海原が、ポツリと言った。
「……お前の姉さん、相変わらず美人だよなぁ」
「んだ? とつぜん」
あたりまえだよ。突然、顔のつくりが変わることなんて、整形でもしない限り、あまりないだろ?
「お前の気持ちもわかるよ」
「ああ?」
「お前、ときどき真紀さんのこと、せつなそうな目で見てる。自分で気がついてないだろ?」
「……べつに」
「まぁいいんだけどなぁ。見てる俺のほうがせつなくなるのは、気がついてないんだろうなぁ」
「なんでお前がせつなくなるんだ?」
「なんでだと思う?」
「さぁ?」
海原が、いきなり俺のほうに、四つんばいになって近づいてきた。
俺は顔をひっこめもせずに、目をそらそうともせずに、そのまま答える。
ん? なんだ? なんかだんだん、手の先が?
「お前さぁ、綺麗な髪してるよなぁ?」
お前の顔のほうが綺麗だよ。
と思ったが、男同士でほめあうのも変な話だから、やめておいた。
「なぁ? ちょっと、ゴム外してくれねぇ?」
「なんで? まぁいいけど」
俺は、自分の髪に着けている、黒いゴムをはずした。
姉さんは、よく俺のそのままにしている髪を手にとって、櫛でときながら、ピンクのゴムを楽しそうに取り出すけど、それはかんべんしてくれと言っている。
男のくせにピンクのゴムじゃあ、また女と間違えられる。
俺は小さいころから、女と間違えられていた。
声もあまり低いほうじゃないし、顔のつくりも男性的ではなく、どちらかというと女性的だからだ。
「やっぱ綺麗だな」
そうつぶやきながら、海原は、右手で俺の髪をさらさらとすくってはすべりおち、すくってはすべりおちを繰り返している。
「お前……なんか気持ちわるいぞ?」
「そういうこと言うなよ」
「なにマジな顔してんだ? これぐらい…」
やばいな。なんでだ?
だんだん、手のひらからひじのあたりまで、しびれが来ている。
これは、なにが原因しているんだ?
「なぁ。お前が真紀さんを見ているのと同じくらい……いやそれ以上に、俺がお前のこと見てたの、知ってたか? 気付いてたか?」
「あ?」
「お前は気付いてないだろうけど。俺はお前に会ったときから……俺は!」
だんっ!!
「なにするっ!!」
海原が、俺のことを押し倒してきた。
机の上でひっくりかえった紅茶のカップから、茶色い液体がこぼれおちている。
「お前のこと、マジで」
「やめろっ!! なにしやがるっ!!」
海原が、俺の首根っこに噛みついてきた。
「っ!」
「真紀さんになんか負けないくらいに!」
「やめっ!! ろっ!!」
海原は、俺の首根っこと、そして腰に手を回し、俺の身体を、いわゆるお姫様抱っこしながら、ベッドに放り投げた。
どさっ!!
ベッドがきしんだ。ゆらゆらする。
そして今度は、俺の上にのっかってきた。
「重い……、やめ……ろ」
舌が回らなくなってくる。しゃべるのが、とてもおっくうになってくる。
ただ頭だけ、なんでだ?どうしてだ?ってフルに回転しているだけだった。
なんでだ、海原。
なんで、いきなりこんなことをするんだ?
してくるんだ?
「お前のそのうるんだ目が、すごくたまらないんだ!」
「やめっ!!」
海原は、俺のTシャツを、まくってくる。
そして俺の……乳首をなめてくる。
「やっぱピンクなんだな」
「くっ」
「やっぱお前は、どんなになってもお前だよ。綺麗なままだよ。俺とは違って」
「お……前が……これを……やめれば……綺麗な……ままだ……」
「違うね。俺は汚れてる。お前を想ってオナニーだってしてるんだから」
気持ち悪い。
海原には悪いけど、気持ちが悪い。
男が男を想ってオナニーする?
そんなこと聞いたこともない。
「んっ」
「んあっ!!んんむっ」
海原が、俺にキスをした。
深くむさぼるような、舌を入れたキスを。
「んんっむぅんんっ」
「んっ!! んむっんっ」
「っむぅっんっむぅんっ」
「むぅんんっんんっ」
「むぅんっ……ぷはぁっ」
糸を引いている。
……昔、男のごつい先輩に校舎裏に呼び出されて、無理やりキスされたときよりはマシだけど。
でも、それでも、背中がぞわぞわする。
俺の体の機能は、すべてうしなわれたようになって、ただ寝転ぶことしかできない。
いやだっ!! いやだっ!!
このまま、海原になにをされてしまうんだよっ!!
「やめろっ!! ……やめて…………くれよ……海原ぁ……」
「だんだん効いてきたみたいだな。薬」
「あ? ……くっ」
海原が、俺の両手を上にもちあげて、俺の身体をまさぐりながら、話しかけてくる。
「薬だよ。お前のために用意した。お前を襲う計画をたてたその次の日に、さっそく買った」
「く……すり……?」
「ああ。しびれてるんだろ、身体中がさぁ。これでお前は、なにをされても抵抗できないわけだな」
「ふ、ざける……なよ」
「ふざけてない」
海原がまた、俺の右乳首をむさぼってくる。
よだれがつく。
べとべとになった乳首が、気持ちが悪い。
「やめ……」
舌がびりびりして、言葉が……。
「下、脱がすからな」
「っ!」
海原が、俺のズボンを脱がした。
「……ブリーフか。お前らしいよ」
なにが俺らしいのか、わからない。
そのブリーフも、脱がされた。
そして……。ど、どこを見て……。
「っ!」
「きつそうだな。濡らさねぇと」
「や……!」
俺の脚を開かせて、ぐちゅぐちゅとなめている!
汚い汚い汚い汚い!
「これぐらいでいいだろ?」
「し……!」
知るかっ!と言いたかったのだが、声にならない。
「じゃあ、いれるからな」
「ぐっぐぐぐうっ!!」
カエルみたいな声が出る。
痛いっ!! 痛いっ!! いたいっ!!
血がでる!!
「やっぱりきついな。痛いか?」
「あ……!」
あたりまえだっ!! ふざけるなっ!!
「でも、がまんしろよ? お前は、俺のものなんだからな」
「い……!」
いつからそんなことになってるんだよっ!!
やめろっやめろっやめろっやめろっやめろっ!!
「……動くぞ」
ぎしっぎしっぎしっ
俺の腰も動く。こいつの腰も動く。ベッドがきしむ。
ひどく痛い! ひどく痛いんだよっ!!
頼むからやめてくれよ、海原ぁ!!
「どうだ?」
「ふ……!」
ふざけるな!! どうだ?じゃねえっ!!
「はぁ、はぁ……くっ!」
「うぁああああっ!!」
気持ち悪い白い液体が、俺の全部にこびりつきそうだ。
俺は汚れた。
この親友の腕の中で、ヨゴレタ。
「じゃあもう一度だな」
「やめ……!」
やめろっ!! やめてくれよっ!! なぁっ!!
いたいんだよっ!! きもちわるいんだよっ!!
なぁ! 海原!!
「まずは抜かないとな」
ぬぽっ!!
「うっ!!」
抜いてから、海原はまた俺の脚を持ち上げて、相変わらずしびれたままの足を持ち上げて、俺の血にまみれているそこを、丹念にぺちゃぺちゃとなめてくる。
「……血の味か」
「やめ……!」
やめろっ!!
そう叫びたいのに、舌がしびれて声にならねぇっ!!
「じゃもう一度」
海原が、俺の脚をおろして、今度は足を広げて、中にいれようとしてくる。
とんとんとん
「………!」
「っ!!」
『基樹、海原君。ケーキできたけど? 食べるよねぇ?』
ノックの音に続いて、ね、姉さんの声が。
だ、だめだっ!
「ああ、どうぞ。今とりこんでるんですけど、あなたに、ぜひ見せたいものがあるんですよ」
「く……るな……っ!!」
くそぉおっ! 声にならねぇっ!
やめろ! ドアを開けるな! 開けないでくれぇぇっ!
『? じゃ、おとりこみ中のところ、失礼しまぁす。なんちゃっ……』
がちゃーんっ!!
ケーキを載せたおぼんが落ちた。
俺の心も沈みこむ。
どこか、闇のどこかに。
ずっと奥まで沈みこんでいく。
「どうですか? 実の弟の襲われている姿は?」
海原が、なんの表情も無い顔で、姉さんに言っている。
姉さんの顔は……見れない。
「な、なにしてる……の?」
「俺のものにしてるんですよ。基樹を、俺のものにね」
「ふっ、ふざけないでっ!! ふざけないでよっ!! 基樹! 基樹を放してよっ!!」
「いやですね。誰に頼まれたって、いやですね」
「やめてよっ!! なに考えてるのよっ!! 基樹はあなたの親友でしょ!!」
「親友じゃなくて、恋人ですよ? たった今から、そうなりました」
「恋人? 無理やりこんなことして、なにが恋人なのよっ!!」
「俺のものだって言ったでしょ?」
「ちがうっ!! 基樹は誰のものでもないわっ!! 基樹は基樹自身のものでしかないでしょっ!!」
「ええ、あなたのものでもない? ……気がついてなかったんですか?」
な……に!?
「こいつ……基樹が、どんな想いであなた……真紀さんを見ていたか」
やめっ!!
ろっ!!
それだけはっ!! 今それだけは言わないでくれよっ!!
いくらでもお前の好きにしていいから!
俺の身体なんてくれてやるからっ!!
「え?」
「気がついてない。……かわいそうな基樹」
「っ!!」
海原が、俺の中にいれたままの状態で、俺の髪をなでてくる。
「ど……どういうこと? どういうことなの?」
「いいですよ。あなたは、永遠に気がつかないままで」
「ちょ……基樹?」
「出て行ってくれませんか? これから俺は、こいつを犯しつくすつもりなんだから」
「やめてっ!! やめなさいっ!!」
ばっちーんっ!!
海原の頬を、姉さんが思いっきりたたいた。
姉さんが泣きながら、海原の頬を思いっきり叩いている。
「……ふっ」
海原は鼻で笑って、俺の上からやっと降りた。
「わかりましたよ。今回は、これまでにしときますよ」
「あたりまえでしょっ!! 今回は、じゃないわ! もう二度と家に来ないでよっ!!」
「それは無理ですね。約束できませんから」
「二度とこないでっ!!」
こんなにも姉さんが叫んでいるのに、海原は平然としている。
「じゃあな、基樹」
「っ!」
身体がびくっと震えた。
しかし海原は、そのまま部屋を出ていった。
後には、俺と姉さんだけ。
「……………………」
「基樹!! 基樹ぃ!!」
姉さんが僕に近づいてくる。
見ないでほしい。
こんな俺を見ないでほしい。
こんなに汚れた俺なんか!!
「……かわいそう、基樹……」
「っ!」
姉さんは、俺の……腹をなでてくれた。
綺麗で繊細な指が、俺の腹をやさしくなでている。
「もう怖くないからね? もう大丈夫だからね?」
「……………………」
「基樹? どうしてなにも話さないの? 基樹?」
「うっ……あ…………」
「基樹?」
「あ……」
よだれしかでてこなかった。
しゃべろうとしても、舌がしびれて、ちゃんとしゃべれない。
「基樹? ……しゃべれないの?」
「あっ……うう……」
「そう……………………」
姉さんが、悲しそうな顔で、俺を見ていた。
俺の腹をさすりながら。
ずっと飽きもせず、さすり続けながら。
夜が明けた。
いつもどおりみたいな朝日だ。
「あ、基樹。もう大丈夫なの? 学校行けるの?」
二階から降りると、姉さんがエプロンをしたままで、俺に話しかけてきた。
とても心配そうな顔だ。
「ああ。もう大丈夫だよ」
やっぱりまだ、股間が痛いけど、それでも耐えられないほどじゃないから。
「よかったぁ。じゃあ、ご飯食べようか」
「ああ」
今日は、父さんは早めに出かけている。月曜日は、いつも会議があるからだ。
当然姉さんも、弁当をつくるために、早起きをすることになる。
「姉さん。今日は僕が皿洗おうか?」
「え? ……いいよ。私が洗うから」
「でも姉さん、制服にも着替えてないじゃないか」
「うん……。でも」
「いいから僕に洗わせてよ? 洗いたいんだからさ」
「わかった。じゃあ、お願い」
そう言い残して、姉さんは二階の自分の部屋に向かった。
「……ふぅ」
ため息をひとつついてから、皿を洗い始める。
まだ股間が痛いな。
くそっ!!
「ねぇ、基樹。今度、水族館行こうか?」
「あ?」
「水族館だよ。隣町にあるでしょ?」
姉さんが、首を傾けながら確認してくる。
「ああ、あったな。いいかも」
「でしょ?! じゃあ、今度行こうねっ!!」
「ああ……あ?!」
驚いた。
姉さんが、ご機嫌な顔で、俺の腕をとったからだ。
「や、やめろよ。人が見てるだろ?」
「いいじゃない。姉弟なら、これぐらいしてもあたりまえだよ」
「年頃の姉弟が、こんなことしねぇよ」
「照れ屋だなぁ。基樹は」
「うるさい。いいから離れてよ」
「わかったわかった」
姉さんが、俺の腕から手を離す。
すこし残念だけど、自分から言った言葉だし。
それから俺らは、通学路をのんびりと歩きながら、なにとはなしにおしゃべりをした。
おしゃべりと言っても、話しているのは姉さんばかりで、僕はあいまいにうなずいたりするだけだった。
「……おはよう。……!」
教室に着くと、海原が珍しく先に来ていた。
目を合わさずに、俺はそのまま通り過ぎた。
そんな俺に、腹が立つほど元気に、美奈子が声をかけてきた。
「おはようっ!! 基樹!!」
「ああ……」
「今日も真紀さんと登校なわけ?」
「まぁな」
海原の視線を感じながら、俺は適当な言葉を返した。
毎回同じこと聞いてくるなよ。うざいやつ。
「そ、仲がいいこと」
「ああ、そう」
そっけなく対応していると、今度は大石のバカだ。
相変わらず、俺の腰をじろじろ見ながら、ふざけたことを言ってきやがった。
「おおいっ!!プリンプリンッ!!」
「……あほか、お前」
「んだよ! つれねぇなぁ」
「邪魔だ、どけ」
「おおっ、こえ。なんだよ? 生理かぁ?」
「……お前最低」
「大石最低」
美奈子が同調して言うと、大石は口元にこぶしを寄せて、気味悪く体をよじってみせた。
「いやんっ!!」
「「ばぁか」」
美奈子とそろってそう言ってから、俺はそのまま自分の机に向かい。
そして静かに目をつぶった。
退屈な授業。
これで窓際だったら、少しはマシかもしれないけど、俺の席は真ん中あたりだから、どうにもならない。
楽しんでいるのは、教壇の先生くらいだろうに。
「であるからだなぁ。この公式によって、ここがこうなるわけだ」
(……ほれ)
(おおっ!)
ん? 二、三人の男どもが、なにかコソコソ盛り上がっている。
俺は退屈な目で、そいつらのことをのぞき見た。
雑誌だな、あれは。しかも表紙から見るに、エロいやつであることは間違いない。
なにをやっているんだか。
(へへへっ、たまらねぇなぁ)
(おい、俺にもみせろよ!)
(ちょっと待てって、あ、やべっ)
(あ、バカドジっ!!)
俺の後ろにいたやつが、雑誌を落とした。
後ろを軽く振り返り、それを見てみた。
「……!!」
かっとなって、目を見開いた。
その雑誌には、女の裸が載っていて、その顔には……。
姉さんの笑顔の写真が、切り抜いて貼り付けてあった。
「そういうわけでこの答えは……あ? おい石川? どうした? なにやって……」
ばっちーんっ!!
「イテェッ!」
「ふざけるなっ!!」
俺は、雑誌を落とした男を、殴りつけていた。
止めようもなく、反射的に。
「な、なにしやがるっ!!」
「なにしやがるだと?! てめぇっ!!」
俺が殴ったそいつは、口の端から血を流しながら、俺をにらんでくる。
まだ殴られ足りないらしいな。俺はそいつを、さらにぼこぼこにした。
「おら!おらっ!!おらっ!!」
ありったけの拳で、殴りつけるだけ殴りつけた。
「よ、よさんか石川!! 授業中だぞ!!」
先生が止めに入る。
がたいの良い先生でも、完全にキレた俺を止めるのは容易ではないらしい。
ただ、殴りにくくなったのは事実だ。
「石川! いいかげんにせんかっ!!」
「っ! はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
少しだけ正常に戻り、俺は手を止めて、殴っていた相手を見た。
「くっ……ひっく……」
……泣いてるのかよ。
ざまぁみろ。ふざけるな。
姉さんをバカにするから、こういうことになるんだ。
「……シスコン馬鹿」
気のせいみたいな美奈子の言葉が、俺の背中に届いた。
騒然とする教室をまとめてから、先生は言った。
とても冷たく。
「あとで職員室に来い、石川」
「あ、基樹」
「あ? 姉さん?」
職員室の前で、俺のことを待っていたかのように立っていた。
「姉さんも呼ばれたの?」
「……………………」
少し背伸びをして、俺の頬をなぞってくる。
「なに?」
「怪我はしてないんだね? よかった」
よくはないよ。人をなぐったんだから。
でも、悪いとも思っていない。
「ああ、来たか石川。ま、中に入れ」
先生が来て、職員室のドアを開けた。
姉さんも、一緒に入った。
俺たちを立たせておいて、先生は自分の席で、なぜか偉そうにふんぞりかえった。
「……話はわかっているな」
「はい」
「お前がやったことは、やりすぎだ。わかるな?」
「はい」
「怒りたい気持ちもわかるが、何も殴ることはないだろう?」
「…………」
もう、適当な返事ができなかった。
殴らなきゃわからないんだ、あんなヤツら……。
「ごめんなさいっ!!」
「! ね、姉さん!」
姉さんがあやまるなんて!
やめろよ! 少なくとも、姉さんがあやまるべきことじゃないんだよっ!!
「いや、まぁ君があやまることではないんだがな」
「ですが……やはり姉ですから……」
「む……ま、弟想いで結構なことだ。……で? その弟本人は、反省しているのか?」
「僕は……」
あやまってくれた姉さんには申し訳ないけど……。
「悪いことしたとは、思っていません」
「……どうして、そう思うんだ?」
「あんなことしてるやつ、許せませんから」
「ふぅ~……。だけどなぁ、石川よ」
「……………………」
「ほら、それだ」
「え?」
「お前のその目だよ」
「…………?」
「お前のその冷たい視線が、相手を怒らせているんだよ。わからないのか?」
俺の冷たい視線? 相手を怒らせている?
どういうことだ?
「お前、人を馬鹿にしているんだろ? な?」
「……別に」
「いいかげんにしろっ!!」
なんだコイツ。突然キレたりして。
向かいの席の教師にたしなめられて、どうにか落ち着いたようだが。
「……怒鳴ったりして悪かったな。……だがな。お前、もう少しどうにかならないのか?」
「どうにか?」
「もう少し、周りに心を開けと言っているんだ」
「……………………」
「お前は確かにモテるし、運動だってできる。授業だってめったにサボらない。成績も良い。それは認めるんだぞ?」
「……はい」
「もっと笑え。もっと元気になれ。そうしないと、お前はこれから、ずっとそのままだぞ」
「はい」
別にかまわない。
人間なんて、めったなことじゃあ変わらない。
笑えとか、元気にとか、そんなことぐらいで……変われるものかよっ!!
そんな俺の気持ちに、先生はとどめを刺した。
「……とりあえず、停学処分が決まった。しばらくは自宅で反省するんだな」
「っ!!」
「停学……基樹が、ですか?」
信じられないといった顔でたずねた姉さんに、先生はウムとうなずいた。
「相手は病院送りだぞ? むしろ、停学で済んだことに驚いてほしいくらいだ」
「……………………」
「そういうわけだから、君も呼んだんだ。後で、石川……あー、弟に、相手へ謝罪させるように」
冗談じゃない! そんな屈辱的なことできるもんかっ!!
「わかりました! 申し訳ありませんでしたっ!!」
「!!」
だから! 姉さんが謝らないでよっ!!
頭をさげないでくれよっ!!
姉さんは悪くないんだよっ!!
悪いとすればこの俺だし、なにより、あいつらのほうなんだからさぁっ!!
それから、姉さんに引っ張られる形で、俺はヤツが運び込まれた病院に行った。
ちょうど処置を終え(大げさに包帯で巻かれていた)、母親らしき女と同伴で、待合所で会計待ちをしていた。
他の患者が大勢いるその場所で。
姉さんは、土下座した。
ヤツよりも、母親のほうが怒っていた。
どんなに姉さんが床に頭をこすりつけても。
平気でその姿をなじって。
それでも姉さんは、屈辱的な格好をし続けて。
泣き声で、許してくださいと繰り返した。
でも、許してくれないで。
呆れ返ってから、ご両親とじっくり話すなんて言った。
母親のいない俺と姉さんに向かって、ご両親、と。
それから、ありありと軽べつした態度を見せながら、去っていった。
姉さんは、ゆっくりと立ち上がって。
必死になって怒りの爆発を抑えている俺に……。
「帰ろう、基樹」
微笑んだんだ! 俺のせいでイヤな思いをしたのに!
くそっ! くそぉっ!
夕飯時……は、少し過ぎていた。
「あ、基樹。もうすぐご飯できるからね」
姉さんが、台所で包丁を使いながら、俺に話しかけてきた。
「ああ。そう」
「今夜もおいしいよぉ。楽しみにしててね。ふんふん~♪」
「……………………」
機嫌がいいわけない。
努めて、俺に対して明るく振舞っているんだろう。
「あ、そうだ。そのお皿、出してくれない?」
「あ? ああ」
キッチンの椅子に座って、いつものように姉さんを見つめていた俺は、姉さんが指差した皿を取り出した。
「そう、それ。ありがとう」
姉さんが振り返って、笑みを浮かべている。
俺のの大好きな、輝くような笑顔を。
「……………………」
悲しいよ。
こんなに好きなのに、許されないなんて。
こんなに近くにいるのに、そんなに遠くにいるなんて。
名前で呼びたいのに、姉さんと言わなくちゃならないなんて。
悲しいよ。
近づけないまま、汚されて、けなされて、理解されないままの、俺が。
もう……たくさんだ!
「……どうかしたの? 怖いよ? 基樹の顔」
「っ!!」
ぎゅっ!!
「な、なに? どうしたの基樹?!」
俺は、姉さんを後ろから抱きしめていた。
力強く、息が切れるぐらいに力強く。
身体が意志に反して、勝手に動いている。
「ちょ、ちょっと……い、いやだなぁ、はは」
最初は驚いた姉さんだったけど、冗談だと思ったらしい。
「ふざけちゃダメよ、基樹」
「姉さん、俺……」
「うん? なにかなぁ? どうしたのぉ?」
「俺、姉さんのことが……」
「ん?」
姉さんが振り返って、俺を見つめた。
俺は……姉さんの首筋に、顔をうずめた。
「ん!」
くすぐったそうに、少し顔をうつむかせている。
「姉さん!!」
「や、やだっ! なにするの! なんのつもりなの、基樹!」
いやがってる姉さんの、エプロンの端に、手を差し入れた。
「や、やめっ!! あ、あぶない……」
ふと姉さんは、手に持っていたままだった包丁を気にして、そっと台所にのせた。
無防備になった、姉さんの胸。
「きゃ! ちょ、ちょっと! いやだってばぁっ!!」
姉さんの制止の声も聞かずに、俺はそのまま、姉さんの胸を服ごしからもみしだく。
「んっ!! んんっ!!」
「姉さんっ!! 姉さんっ!!」
「やめっ!! んんっ!!」
僕はさらに、姉さんの着ている服のボタンを、後ろから抱きしめたまま、はずしていく。
ぷちぷちと音がしていく。
「やめてよっ!! 怖いよっ!! 基樹やめてよっ!! やめてぇっ!!」
途中までボタンをはずしたところで、思いっきり、服を引き裂いた。
「いやぁあっ!!」
姉さんの、少し色黒の、胸。
ブラを上にずらして、そのまま、やわらかい胸の感触を楽しむ。
「んんっんっあっんっんんっんんっはぁっ」
やわらかく変形していく胸。
夢にまで見た、やわらかい感触。
今それが、俺の手の平にある。
「いやあっんんっんんっはぁんっ」
乳首をこりこりと指でいじくる。
本当は口に含んでもて遊びたいけど、でもそれはできない。
片手だけのつらい体勢だから、それはできない。
「んっはっんっんんっ」
姉さんの腰が動いてきた。
興奮しているから、ではないだろう。
ただ俺から逃れよう、逃げようと、必死なのだ。
「いやっ!! いやっ!!」
姉さんのスカートを捲り上げて、そのままパンツ越しに、土手に沿ってなであげた。
「っ!!」
姉さんの身体が、俺の腕の中ではねあがる。
少し濡れている。
――もっと濡らさなければ。まだ俺のものは入らないだろう――
「いやぁっ!! お願いだから、お願いだから、ゆるしてよっ!!」
パンツを左手で脱がしていく。
右手は、姉さんの手首を掴むことに必死だから。
だから、左手だけで、ぬがしていく。
ぐちゅり。
姉さんの薄い毛ごしに、ぐちゅりとした感触がつたわってきた。
もう大分濡れているようだ。
「き、気持ち悪い!!気持ち悪いよぉ!!」
姉さんが首を振っている。
俺はかまわずに、姉さんのうなじに舌をはわせ、そして、土手をいじくりまわした。
指を濡らして。
「んっんんっんんんっあっあっあっあんっ!!」
「姉さん。感じてるんだね?」
「かんじてなんかっ……んっ! あっんっ……いないっ……んんっ……よっ、んんっ!!」
「感じてるよ? もっと声聞かせてよ。姉さんの声、もっと」
「んんっんんっんんっんんっ」
姉さんは、声をこらえている。
俺は姉さんの口をこじ開け、愛液で濡れた俺の指で、姉さんの口内を蹂躙した。
これから姉さんのそこを蹂躙するように。
「ふぁっ!! んんつっふあぁっ」
腰をよじらせて、快感にたえている。
たえないでほしい。もっと感じてよっ!!
「んんっふあっんんっ」
ちゅぱちゅぱっと音がする。
姉さんの口内を蹂躙した後、俺は姉さんのそこに後ろから抱きしめながら、指をさしいれた。
じゅくじゅくじゅくじゅくじゅく!!
音がする。
「んんっあっんっはぁんっんんっ!!」
「姉さんっ!!!」
指がきつい。
これで、俺のものが入るのだろうか?
わからない。
やってみなければわからない。
何もかもが初めてで、うまくできないでいる。
かき回してみる。
そのまま指で、できるだけ大きくかきまわしてみる。
「んっあんっはぁんっんっあっあっあっんんっ!!」
「……真紀」
「! ……んんっああっんっ……ま、真紀って……よばないでっ……んんっ!!」
「真紀、真紀、真紀真紀真紀」
「んんっあっあっあっあっあっんっ!!」
そのまま俺は、左手でジッパーを下ろして、姉さんのそこに差し入れた。
「ぐっ…くっうっ!!」
とてもきつかった。
姉さんの太ももにはもちろん、俺のふとももにも、液体……姉さんの愛液が流れてくる。
「真紀ぃ!!」
そのまま、痛いだろうけどそのまま、腰を動かした。
「いっ、痛いっ!! いたいよっ!! 基樹やめてよっ!!」
「やめられないよ! いまさらだろ?」
「いやだっ!! いやだっ!! あんっ!! くっ、私達はっ、んんっ」
「そうだよ? 兄弟だよ? でも、だからなに? だから愛し合ったらいけないわけ?」
「あたりまえっ……んんっ! あんっあっあっあっあっ!!」
姉さんの腰が動く。
俺の動きに合わせて。
ゆさゆさと揺られている。
「血、っ血がつながっている……んだよっ!! あっあっあっあっ!! んんっ、だめだよっ!!」
「なにが? 血がつながっているから、何がいけないんだよっ!!」
「んっあっあっあんっあああああああああああああっ!!!」
姉さんが、イッた。
夢にまで見た、姉さんの大きな喘ぎ声だ。
そして俺も。
「うっ……!」
俺も、出した。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
「は……ぁぁ、はぁ……」
「……姉さん」
ぬぽっ!!
「うぁっ!!」
姉さんのそこから、自分のものを抜いた。こんな音がするんだな。
俺は、姉さんの両手首を後ろに回し、背中に回してからかがみこんだ。
ツライ体勢だけど、しかたがない。
そのまま、姉さんのそこをなめる。
血がいっぱい出ている。
かなり痛かったことが予想できる。
でも……姉さんは処女だったわけだ。
だれにも犯されていない領域を、俺が初めて犯したことになる。
「! い、いやぁっ!!」
俺は、ぺちゃぺちゃとそこをなめた。
綺麗に、できるだけ綺麗になるように。
「んっあんっんんっふぁっんっ」
なめるそこから、愛液があふれてくる。
でも俺はかまわずに、そこをなめていた。
ずっと。
「…………………………………………」
姉さんは、床にぺたんと座り込んだ。
どこを見るでもなく、ただ呆然と視線をさまよわせながら、息を整えている。
はだけた白いシャツを直さずに。
少し色黒のお尻をさらしたまま、乱れたスカートを直す余裕もなく。
「……姉さん」
「っ!!」
姉さんがびくつく。
俺の声で。
「……姉さん。黙って聞いていてくれないかな?」
「……………………」
姉さんの頬に、涙が流れ出している。
やっと出た涙。
俺は、なぜだか安心していた。
少しだけ安心していた。
人は、本当に悲しいと、涙が出なくなるっていう話を、どこかで聞いたことがあったから。
だから、少しだけ安心していた。
「……俺は、姉さんのこと、姉だと思っていない」
「……………………」
「俺にとって姉さんは……ひとりの女だから。セックスの対象としてしか見れない、ひとりの女だから」
「……………………」
「俺は、姉さんを、本気で愛している。それだけは、わかってほしいんだ」
「……………………」
姉さんは、うつむいて、嗚咽している。
「……なぁ」
「…………ひっく……ひっく……、ぐすっ」
静かな台所に、姉さんのすすり泣く声と、俺の告白が、溶け込んでいく。
この家で暮らす、もうひとりの存在なんか、完全に忘れていた。
がちゃりっ!!
ドアが開いた。
「!」
「っ!!」
父さんだ。
「……お帰り、父さん」
「ただいま……あ?」
「いやあっ!!いやぁっっ!!」
ギョッとする父さんと、必死で遅すぎた身繕いをする姉さん。
姉さんが、震える手でスカートを戻したところで、父さんは怒鳴った。
「な、なにしてるんだ!?」
「やめてっ!! 見ないでよっ!! いやぁあっ!!」
「お前! 真紀!! どうしたんだっ!!」
父さんが、姉さんに走り寄っている。
「近寄らないでっ!! さわらないでっ!! お願いだから、ちかよらないでっ!!」
「も、基樹!! お前どうしたんだっ!! 真紀になにかしたのかっ!!」
「……ああ。したよ」
「い、いったいなにをっ?! なにを真紀にしたんだっ!! ああっ!?」
「姉さんを犯したんだよ。姉さんを俺の、俺だけのものにしたんだよ」
「ふざけるなっ!!」
ぼっかーんっ!!
殴られた。
「なにを考えているんだっ!! お前達は姉弟なんだぞっ!!」
そういえば、父さんに殴られたのは、これが初めてだったな。
俺は、父さんに似て、力が強い。だから当然、父さんも、力が強いわけだ。
「……ふざけてないよ。俺は本気だから。本気で、姉さんを愛しているから」
「お前っ!! お前らは姉弟なんだぞっ!! 実の、血がつながっている姉弟なんだぞっ!! 世間にどうやって……」
「世間は関係ないだろ? これは、俺と姉さんの問題なんだから」
「ふざけるなっ!!」
「ふざけてないって言っただろっ!!」
負けずに度なり返した。
「本気で、本気で姉さんのこと、愛してるんだよっ!!」
俺は、父さんをにらみつけた。
にらみつけていた。
「やめてよっ!! 喧嘩しないでよっ!!」
悲痛な、姉さんの叫び声だった。
次の日、姉さんは学校を休んだ。
夜が明けた。
いつもどおりみたいな朝日だ。
二階から、姉さんの降りてくる足音が聞こえてくる。
たんたんたん……
響いてくる。
静かで重苦しい、父さんと俺だけの空間に、姉さんが降りてくる。
「……おはよう、真紀」
「……おはよう、姉さん」
しらじらしい感じだ。
だけど、これ以外、なにも思いつかない。
「お、おはよう。父さん、基樹」
「ああ……」
「ご、ご飯作らないとね」
台所に向かおうとした姉さんを、心配そうな顔の父さんが、止めた。
「無理をするなよ? 今日も休むか?」
「でも、行かないと……」
「うむ……」
それから俺は、姉さんを玄関まで送ってから、自分の部屋に向かった。
今日は俺が、学校には行きたくない。
後悔している。
ただ。
でも。
やっぱり。
俺は、何度生まれかわっていたとしても。
姉さんを愛しただろうし。
それに。
姉さんを犯していただろう。
つづく
海原が、俺の家に来た。
でかくて黒い旅行用のバックをもって、もう片手を、陽気に軽くあげて。
「おいっすぅ!」
「ああ、よくきたな。なんだやっぱり泊まる気なのか?」
「もちろん」
と、そこへ姉さんもやってきた。
夕飯の用意をしていたから、エプロンで両手を拭きながら。
「あ、海原くん、いらっしゃい。あれ? 海原君ひとりだけ? 他の子も来るって、基樹から聞いてたんだけどなぁ」
「ああ、他のやつらは用事があるとか言ってて。俺だけっす」
「そうなの。まぁじゃあ、あがってよ」
「おいっすぅ」
海原は、スリッパも履かずにあがった。どうでもいいことだけど。
「今日はゲーム持ってきたんだぜ? “おぼっちゃまくんのすごろくゲーム”だな」
「ああ?」
「お前がたのんでたやつだろ?」
きょとんとして俺に尋ねてくる。俺が頼んだのは……。
「“キングオブファイターズ98”だろ?」
「あ?」
「たしかそうだぞ?」
「あ、ああ。そかそか。まぁ、こっちもおもしろいんだ。いいだろ?」
「ああ、なんとなく想像つくし、いいけどな」
第二章
「それじゃ、ごゆっくりね」
姉さんは、俺の部屋に、紅茶の入ったカップを置いた。
「あとでケーキ持ってくるから、待っててね」
「ああ、そうですか? やっぱり手作りですかぁ?」
「そう。ブルーベリータルトなんだけどね。ケーキとは違うのかなぁ?」
「俺らにそういうことわからないんだから、いいっすよ? うまければなんでも。真紀さんの作ったケーキは、まずいことないし」
「そうだな。姉さんのケーキは確かにうまいよ」
俺もうなずく。たしかに、小さいころから、ケーキもクッキーもタルトも、全部うまい。……ときどきこげてたりもするけど、でもやっぱりうまいから。
料理本を覗きながら、一生懸命ケーキと格闘する姉さんを見るのは、とても楽しいし。
「んじゃあ、まぁいっぱい。お前も飲めよ?」
姉さんがおぼんを持って去っていってから、海原が口を開いた。
右手で持った紅茶のカップに口をつけながら、左手を俺のほうにひらひらと振ってくる。
俺も紅茶を飲んだ。
なにも入ってないシンプルなものだが、少しハーブの香りがする。
ハーブの紅茶苦手なんだけど、海原は結構好きなんだよな。
まぁ、お客優先か。姉さんらしい。
「んじゃあまぁ、ゲームすっかぁ。例の“おぼっちゃまくんの恋愛シュミレーションゲーム”」
「さっきは、“おぼっちゃまくんのすごろくゲーム”と言っていなかったか?」
「ああ、そそ」
「いい加減なやつ」
「それも俺のひとつの特徴ということで。ではでは」
海原が、ファミコンのソフトを差し込むところに、ガチャッとオレンジ色のカセットを差し込んだ。
俺の部屋には、ファミコンとプレイステーション、それにセガサターンがある。
プレイステーション2も買うつもりでいる。
まあ、いいんだけど。
「おっ。始まったぜぇ?」
それからしばらく、ゲームで遊んだ。
「ふぅ」
「まぁ、難しくはぜんぜんないし。それなりにおもしろかったな」
「ギャグ満載だったからなぁ。腹抱えて笑うほどじゃねぇけどなぁ」
と言いつつ、へらへら笑っている。何が楽しいんだか、こいつはいつも笑っている。
たいてい、なにがおかしいのかも分からずに笑っている。
そういうやつだ。
それが逆にうらやましい。
なんてことを思ってたら、海原が、ポツリと言った。
「……お前の姉さん、相変わらず美人だよなぁ」
「んだ? とつぜん」
あたりまえだよ。突然、顔のつくりが変わることなんて、整形でもしない限り、あまりないだろ?
「お前の気持ちもわかるよ」
「ああ?」
「お前、ときどき真紀さんのこと、せつなそうな目で見てる。自分で気がついてないだろ?」
「……べつに」
「まぁいいんだけどなぁ。見てる俺のほうがせつなくなるのは、気がついてないんだろうなぁ」
「なんでお前がせつなくなるんだ?」
「なんでだと思う?」
「さぁ?」
海原が、いきなり俺のほうに、四つんばいになって近づいてきた。
俺は顔をひっこめもせずに、目をそらそうともせずに、そのまま答える。
ん? なんだ? なんかだんだん、手の先が?
「お前さぁ、綺麗な髪してるよなぁ?」
お前の顔のほうが綺麗だよ。
と思ったが、男同士でほめあうのも変な話だから、やめておいた。
「なぁ? ちょっと、ゴム外してくれねぇ?」
「なんで? まぁいいけど」
俺は、自分の髪に着けている、黒いゴムをはずした。
姉さんは、よく俺のそのままにしている髪を手にとって、櫛でときながら、ピンクのゴムを楽しそうに取り出すけど、それはかんべんしてくれと言っている。
男のくせにピンクのゴムじゃあ、また女と間違えられる。
俺は小さいころから、女と間違えられていた。
声もあまり低いほうじゃないし、顔のつくりも男性的ではなく、どちらかというと女性的だからだ。
「やっぱ綺麗だな」
そうつぶやきながら、海原は、右手で俺の髪をさらさらとすくってはすべりおち、すくってはすべりおちを繰り返している。
「お前……なんか気持ちわるいぞ?」
「そういうこと言うなよ」
「なにマジな顔してんだ? これぐらい…」
やばいな。なんでだ?
だんだん、手のひらからひじのあたりまで、しびれが来ている。
これは、なにが原因しているんだ?
「なぁ。お前が真紀さんを見ているのと同じくらい……いやそれ以上に、俺がお前のこと見てたの、知ってたか? 気付いてたか?」
「あ?」
「お前は気付いてないだろうけど。俺はお前に会ったときから……俺は!」
だんっ!!
「なにするっ!!」
海原が、俺のことを押し倒してきた。
机の上でひっくりかえった紅茶のカップから、茶色い液体がこぼれおちている。
「お前のこと、マジで」
「やめろっ!! なにしやがるっ!!」
海原が、俺の首根っこに噛みついてきた。
「っ!」
「真紀さんになんか負けないくらいに!」
「やめっ!! ろっ!!」
海原は、俺の首根っこと、そして腰に手を回し、俺の身体を、いわゆるお姫様抱っこしながら、ベッドに放り投げた。
どさっ!!
ベッドがきしんだ。ゆらゆらする。
そして今度は、俺の上にのっかってきた。
「重い……、やめ……ろ」
舌が回らなくなってくる。しゃべるのが、とてもおっくうになってくる。
ただ頭だけ、なんでだ?どうしてだ?ってフルに回転しているだけだった。
なんでだ、海原。
なんで、いきなりこんなことをするんだ?
してくるんだ?
「お前のそのうるんだ目が、すごくたまらないんだ!」
「やめっ!!」
海原は、俺のTシャツを、まくってくる。
そして俺の……乳首をなめてくる。
「やっぱピンクなんだな」
「くっ」
「やっぱお前は、どんなになってもお前だよ。綺麗なままだよ。俺とは違って」
「お……前が……これを……やめれば……綺麗な……ままだ……」
「違うね。俺は汚れてる。お前を想ってオナニーだってしてるんだから」
気持ち悪い。
海原には悪いけど、気持ちが悪い。
男が男を想ってオナニーする?
そんなこと聞いたこともない。
「んっ」
「んあっ!!んんむっ」
海原が、俺にキスをした。
深くむさぼるような、舌を入れたキスを。
「んんっむぅんんっ」
「んっ!! んむっんっ」
「っむぅっんっむぅんっ」
「むぅんんっんんっ」
「むぅんっ……ぷはぁっ」
糸を引いている。
……昔、男のごつい先輩に校舎裏に呼び出されて、無理やりキスされたときよりはマシだけど。
でも、それでも、背中がぞわぞわする。
俺の体の機能は、すべてうしなわれたようになって、ただ寝転ぶことしかできない。
いやだっ!! いやだっ!!
このまま、海原になにをされてしまうんだよっ!!
「やめろっ!! ……やめて…………くれよ……海原ぁ……」
「だんだん効いてきたみたいだな。薬」
「あ? ……くっ」
海原が、俺の両手を上にもちあげて、俺の身体をまさぐりながら、話しかけてくる。
「薬だよ。お前のために用意した。お前を襲う計画をたてたその次の日に、さっそく買った」
「く……すり……?」
「ああ。しびれてるんだろ、身体中がさぁ。これでお前は、なにをされても抵抗できないわけだな」
「ふ、ざける……なよ」
「ふざけてない」
海原がまた、俺の右乳首をむさぼってくる。
よだれがつく。
べとべとになった乳首が、気持ちが悪い。
「やめ……」
舌がびりびりして、言葉が……。
「下、脱がすからな」
「っ!」
海原が、俺のズボンを脱がした。
「……ブリーフか。お前らしいよ」
なにが俺らしいのか、わからない。
そのブリーフも、脱がされた。
そして……。ど、どこを見て……。
「っ!」
「きつそうだな。濡らさねぇと」
「や……!」
俺の脚を開かせて、ぐちゅぐちゅとなめている!
汚い汚い汚い汚い!
「これぐらいでいいだろ?」
「し……!」
知るかっ!と言いたかったのだが、声にならない。
「じゃあ、いれるからな」
「ぐっぐぐぐうっ!!」
カエルみたいな声が出る。
痛いっ!! 痛いっ!! いたいっ!!
血がでる!!
「やっぱりきついな。痛いか?」
「あ……!」
あたりまえだっ!! ふざけるなっ!!
「でも、がまんしろよ? お前は、俺のものなんだからな」
「い……!」
いつからそんなことになってるんだよっ!!
やめろっやめろっやめろっやめろっやめろっ!!
「……動くぞ」
ぎしっぎしっぎしっ
俺の腰も動く。こいつの腰も動く。ベッドがきしむ。
ひどく痛い! ひどく痛いんだよっ!!
頼むからやめてくれよ、海原ぁ!!
「どうだ?」
「ふ……!」
ふざけるな!! どうだ?じゃねえっ!!
「はぁ、はぁ……くっ!」
「うぁああああっ!!」
気持ち悪い白い液体が、俺の全部にこびりつきそうだ。
俺は汚れた。
この親友の腕の中で、ヨゴレタ。
「じゃあもう一度だな」
「やめ……!」
やめろっ!! やめてくれよっ!! なぁっ!!
いたいんだよっ!! きもちわるいんだよっ!!
なぁ! 海原!!
「まずは抜かないとな」
ぬぽっ!!
「うっ!!」
抜いてから、海原はまた俺の脚を持ち上げて、相変わらずしびれたままの足を持ち上げて、俺の血にまみれているそこを、丹念にぺちゃぺちゃとなめてくる。
「……血の味か」
「やめ……!」
やめろっ!!
そう叫びたいのに、舌がしびれて声にならねぇっ!!
「じゃもう一度」
海原が、俺の脚をおろして、今度は足を広げて、中にいれようとしてくる。
とんとんとん
「………!」
「っ!!」
『基樹、海原君。ケーキできたけど? 食べるよねぇ?』
ノックの音に続いて、ね、姉さんの声が。
だ、だめだっ!
「ああ、どうぞ。今とりこんでるんですけど、あなたに、ぜひ見せたいものがあるんですよ」
「く……るな……っ!!」
くそぉおっ! 声にならねぇっ!
やめろ! ドアを開けるな! 開けないでくれぇぇっ!
『? じゃ、おとりこみ中のところ、失礼しまぁす。なんちゃっ……』
がちゃーんっ!!
ケーキを載せたおぼんが落ちた。
俺の心も沈みこむ。
どこか、闇のどこかに。
ずっと奥まで沈みこんでいく。
「どうですか? 実の弟の襲われている姿は?」
海原が、なんの表情も無い顔で、姉さんに言っている。
姉さんの顔は……見れない。
「な、なにしてる……の?」
「俺のものにしてるんですよ。基樹を、俺のものにね」
「ふっ、ふざけないでっ!! ふざけないでよっ!! 基樹! 基樹を放してよっ!!」
「いやですね。誰に頼まれたって、いやですね」
「やめてよっ!! なに考えてるのよっ!! 基樹はあなたの親友でしょ!!」
「親友じゃなくて、恋人ですよ? たった今から、そうなりました」
「恋人? 無理やりこんなことして、なにが恋人なのよっ!!」
「俺のものだって言ったでしょ?」
「ちがうっ!! 基樹は誰のものでもないわっ!! 基樹は基樹自身のものでしかないでしょっ!!」
「ええ、あなたのものでもない? ……気がついてなかったんですか?」
な……に!?
「こいつ……基樹が、どんな想いであなた……真紀さんを見ていたか」
やめっ!!
ろっ!!
それだけはっ!! 今それだけは言わないでくれよっ!!
いくらでもお前の好きにしていいから!
俺の身体なんてくれてやるからっ!!
「え?」
「気がついてない。……かわいそうな基樹」
「っ!!」
海原が、俺の中にいれたままの状態で、俺の髪をなでてくる。
「ど……どういうこと? どういうことなの?」
「いいですよ。あなたは、永遠に気がつかないままで」
「ちょ……基樹?」
「出て行ってくれませんか? これから俺は、こいつを犯しつくすつもりなんだから」
「やめてっ!! やめなさいっ!!」
ばっちーんっ!!
海原の頬を、姉さんが思いっきりたたいた。
姉さんが泣きながら、海原の頬を思いっきり叩いている。
「……ふっ」
海原は鼻で笑って、俺の上からやっと降りた。
「わかりましたよ。今回は、これまでにしときますよ」
「あたりまえでしょっ!! 今回は、じゃないわ! もう二度と家に来ないでよっ!!」
「それは無理ですね。約束できませんから」
「二度とこないでっ!!」
こんなにも姉さんが叫んでいるのに、海原は平然としている。
「じゃあな、基樹」
「っ!」
身体がびくっと震えた。
しかし海原は、そのまま部屋を出ていった。
後には、俺と姉さんだけ。
「……………………」
「基樹!! 基樹ぃ!!」
姉さんが僕に近づいてくる。
見ないでほしい。
こんな俺を見ないでほしい。
こんなに汚れた俺なんか!!
「……かわいそう、基樹……」
「っ!」
姉さんは、俺の……腹をなでてくれた。
綺麗で繊細な指が、俺の腹をやさしくなでている。
「もう怖くないからね? もう大丈夫だからね?」
「……………………」
「基樹? どうしてなにも話さないの? 基樹?」
「うっ……あ…………」
「基樹?」
「あ……」
よだれしかでてこなかった。
しゃべろうとしても、舌がしびれて、ちゃんとしゃべれない。
「基樹? ……しゃべれないの?」
「あっ……うう……」
「そう……………………」
姉さんが、悲しそうな顔で、俺を見ていた。
俺の腹をさすりながら。
ずっと飽きもせず、さすり続けながら。
夜が明けた。
いつもどおりみたいな朝日だ。
「あ、基樹。もう大丈夫なの? 学校行けるの?」
二階から降りると、姉さんがエプロンをしたままで、俺に話しかけてきた。
とても心配そうな顔だ。
「ああ。もう大丈夫だよ」
やっぱりまだ、股間が痛いけど、それでも耐えられないほどじゃないから。
「よかったぁ。じゃあ、ご飯食べようか」
「ああ」
今日は、父さんは早めに出かけている。月曜日は、いつも会議があるからだ。
当然姉さんも、弁当をつくるために、早起きをすることになる。
「姉さん。今日は僕が皿洗おうか?」
「え? ……いいよ。私が洗うから」
「でも姉さん、制服にも着替えてないじゃないか」
「うん……。でも」
「いいから僕に洗わせてよ? 洗いたいんだからさ」
「わかった。じゃあ、お願い」
そう言い残して、姉さんは二階の自分の部屋に向かった。
「……ふぅ」
ため息をひとつついてから、皿を洗い始める。
まだ股間が痛いな。
くそっ!!
「ねぇ、基樹。今度、水族館行こうか?」
「あ?」
「水族館だよ。隣町にあるでしょ?」
姉さんが、首を傾けながら確認してくる。
「ああ、あったな。いいかも」
「でしょ?! じゃあ、今度行こうねっ!!」
「ああ……あ?!」
驚いた。
姉さんが、ご機嫌な顔で、俺の腕をとったからだ。
「や、やめろよ。人が見てるだろ?」
「いいじゃない。姉弟なら、これぐらいしてもあたりまえだよ」
「年頃の姉弟が、こんなことしねぇよ」
「照れ屋だなぁ。基樹は」
「うるさい。いいから離れてよ」
「わかったわかった」
姉さんが、俺の腕から手を離す。
すこし残念だけど、自分から言った言葉だし。
それから俺らは、通学路をのんびりと歩きながら、なにとはなしにおしゃべりをした。
おしゃべりと言っても、話しているのは姉さんばかりで、僕はあいまいにうなずいたりするだけだった。
「……おはよう。……!」
教室に着くと、海原が珍しく先に来ていた。
目を合わさずに、俺はそのまま通り過ぎた。
そんな俺に、腹が立つほど元気に、美奈子が声をかけてきた。
「おはようっ!! 基樹!!」
「ああ……」
「今日も真紀さんと登校なわけ?」
「まぁな」
海原の視線を感じながら、俺は適当な言葉を返した。
毎回同じこと聞いてくるなよ。うざいやつ。
「そ、仲がいいこと」
「ああ、そう」
そっけなく対応していると、今度は大石のバカだ。
相変わらず、俺の腰をじろじろ見ながら、ふざけたことを言ってきやがった。
「おおいっ!!プリンプリンッ!!」
「……あほか、お前」
「んだよ! つれねぇなぁ」
「邪魔だ、どけ」
「おおっ、こえ。なんだよ? 生理かぁ?」
「……お前最低」
「大石最低」
美奈子が同調して言うと、大石は口元にこぶしを寄せて、気味悪く体をよじってみせた。
「いやんっ!!」
「「ばぁか」」
美奈子とそろってそう言ってから、俺はそのまま自分の机に向かい。
そして静かに目をつぶった。
退屈な授業。
これで窓際だったら、少しはマシかもしれないけど、俺の席は真ん中あたりだから、どうにもならない。
楽しんでいるのは、教壇の先生くらいだろうに。
「であるからだなぁ。この公式によって、ここがこうなるわけだ」
(……ほれ)
(おおっ!)
ん? 二、三人の男どもが、なにかコソコソ盛り上がっている。
俺は退屈な目で、そいつらのことをのぞき見た。
雑誌だな、あれは。しかも表紙から見るに、エロいやつであることは間違いない。
なにをやっているんだか。
(へへへっ、たまらねぇなぁ)
(おい、俺にもみせろよ!)
(ちょっと待てって、あ、やべっ)
(あ、バカドジっ!!)
俺の後ろにいたやつが、雑誌を落とした。
後ろを軽く振り返り、それを見てみた。
「……!!」
かっとなって、目を見開いた。
その雑誌には、女の裸が載っていて、その顔には……。
姉さんの笑顔の写真が、切り抜いて貼り付けてあった。
「そういうわけでこの答えは……あ? おい石川? どうした? なにやって……」
ばっちーんっ!!
「イテェッ!」
「ふざけるなっ!!」
俺は、雑誌を落とした男を、殴りつけていた。
止めようもなく、反射的に。
「な、なにしやがるっ!!」
「なにしやがるだと?! てめぇっ!!」
俺が殴ったそいつは、口の端から血を流しながら、俺をにらんでくる。
まだ殴られ足りないらしいな。俺はそいつを、さらにぼこぼこにした。
「おら!おらっ!!おらっ!!」
ありったけの拳で、殴りつけるだけ殴りつけた。
「よ、よさんか石川!! 授業中だぞ!!」
先生が止めに入る。
がたいの良い先生でも、完全にキレた俺を止めるのは容易ではないらしい。
ただ、殴りにくくなったのは事実だ。
「石川! いいかげんにせんかっ!!」
「っ! はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
少しだけ正常に戻り、俺は手を止めて、殴っていた相手を見た。
「くっ……ひっく……」
……泣いてるのかよ。
ざまぁみろ。ふざけるな。
姉さんをバカにするから、こういうことになるんだ。
「……シスコン馬鹿」
気のせいみたいな美奈子の言葉が、俺の背中に届いた。
騒然とする教室をまとめてから、先生は言った。
とても冷たく。
「あとで職員室に来い、石川」
「あ、基樹」
「あ? 姉さん?」
職員室の前で、俺のことを待っていたかのように立っていた。
「姉さんも呼ばれたの?」
「……………………」
少し背伸びをして、俺の頬をなぞってくる。
「なに?」
「怪我はしてないんだね? よかった」
よくはないよ。人をなぐったんだから。
でも、悪いとも思っていない。
「ああ、来たか石川。ま、中に入れ」
先生が来て、職員室のドアを開けた。
姉さんも、一緒に入った。
俺たちを立たせておいて、先生は自分の席で、なぜか偉そうにふんぞりかえった。
「……話はわかっているな」
「はい」
「お前がやったことは、やりすぎだ。わかるな?」
「はい」
「怒りたい気持ちもわかるが、何も殴ることはないだろう?」
「…………」
もう、適当な返事ができなかった。
殴らなきゃわからないんだ、あんなヤツら……。
「ごめんなさいっ!!」
「! ね、姉さん!」
姉さんがあやまるなんて!
やめろよ! 少なくとも、姉さんがあやまるべきことじゃないんだよっ!!
「いや、まぁ君があやまることではないんだがな」
「ですが……やはり姉ですから……」
「む……ま、弟想いで結構なことだ。……で? その弟本人は、反省しているのか?」
「僕は……」
あやまってくれた姉さんには申し訳ないけど……。
「悪いことしたとは、思っていません」
「……どうして、そう思うんだ?」
「あんなことしてるやつ、許せませんから」
「ふぅ~……。だけどなぁ、石川よ」
「……………………」
「ほら、それだ」
「え?」
「お前のその目だよ」
「…………?」
「お前のその冷たい視線が、相手を怒らせているんだよ。わからないのか?」
俺の冷たい視線? 相手を怒らせている?
どういうことだ?
「お前、人を馬鹿にしているんだろ? な?」
「……別に」
「いいかげんにしろっ!!」
なんだコイツ。突然キレたりして。
向かいの席の教師にたしなめられて、どうにか落ち着いたようだが。
「……怒鳴ったりして悪かったな。……だがな。お前、もう少しどうにかならないのか?」
「どうにか?」
「もう少し、周りに心を開けと言っているんだ」
「……………………」
「お前は確かにモテるし、運動だってできる。授業だってめったにサボらない。成績も良い。それは認めるんだぞ?」
「……はい」
「もっと笑え。もっと元気になれ。そうしないと、お前はこれから、ずっとそのままだぞ」
「はい」
別にかまわない。
人間なんて、めったなことじゃあ変わらない。
笑えとか、元気にとか、そんなことぐらいで……変われるものかよっ!!
そんな俺の気持ちに、先生はとどめを刺した。
「……とりあえず、停学処分が決まった。しばらくは自宅で反省するんだな」
「っ!!」
「停学……基樹が、ですか?」
信じられないといった顔でたずねた姉さんに、先生はウムとうなずいた。
「相手は病院送りだぞ? むしろ、停学で済んだことに驚いてほしいくらいだ」
「……………………」
「そういうわけだから、君も呼んだんだ。後で、石川……あー、弟に、相手へ謝罪させるように」
冗談じゃない! そんな屈辱的なことできるもんかっ!!
「わかりました! 申し訳ありませんでしたっ!!」
「!!」
だから! 姉さんが謝らないでよっ!!
頭をさげないでくれよっ!!
姉さんは悪くないんだよっ!!
悪いとすればこの俺だし、なにより、あいつらのほうなんだからさぁっ!!
それから、姉さんに引っ張られる形で、俺はヤツが運び込まれた病院に行った。
ちょうど処置を終え(大げさに包帯で巻かれていた)、母親らしき女と同伴で、待合所で会計待ちをしていた。
他の患者が大勢いるその場所で。
姉さんは、土下座した。
ヤツよりも、母親のほうが怒っていた。
どんなに姉さんが床に頭をこすりつけても。
平気でその姿をなじって。
それでも姉さんは、屈辱的な格好をし続けて。
泣き声で、許してくださいと繰り返した。
でも、許してくれないで。
呆れ返ってから、ご両親とじっくり話すなんて言った。
母親のいない俺と姉さんに向かって、ご両親、と。
それから、ありありと軽べつした態度を見せながら、去っていった。
姉さんは、ゆっくりと立ち上がって。
必死になって怒りの爆発を抑えている俺に……。
「帰ろう、基樹」
微笑んだんだ! 俺のせいでイヤな思いをしたのに!
くそっ! くそぉっ!
夕飯時……は、少し過ぎていた。
「あ、基樹。もうすぐご飯できるからね」
姉さんが、台所で包丁を使いながら、俺に話しかけてきた。
「ああ。そう」
「今夜もおいしいよぉ。楽しみにしててね。ふんふん~♪」
「……………………」
機嫌がいいわけない。
努めて、俺に対して明るく振舞っているんだろう。
「あ、そうだ。そのお皿、出してくれない?」
「あ? ああ」
キッチンの椅子に座って、いつものように姉さんを見つめていた俺は、姉さんが指差した皿を取り出した。
「そう、それ。ありがとう」
姉さんが振り返って、笑みを浮かべている。
俺のの大好きな、輝くような笑顔を。
「……………………」
悲しいよ。
こんなに好きなのに、許されないなんて。
こんなに近くにいるのに、そんなに遠くにいるなんて。
名前で呼びたいのに、姉さんと言わなくちゃならないなんて。
悲しいよ。
近づけないまま、汚されて、けなされて、理解されないままの、俺が。
もう……たくさんだ!
「……どうかしたの? 怖いよ? 基樹の顔」
「っ!!」
ぎゅっ!!
「な、なに? どうしたの基樹?!」
俺は、姉さんを後ろから抱きしめていた。
力強く、息が切れるぐらいに力強く。
身体が意志に反して、勝手に動いている。
「ちょ、ちょっと……い、いやだなぁ、はは」
最初は驚いた姉さんだったけど、冗談だと思ったらしい。
「ふざけちゃダメよ、基樹」
「姉さん、俺……」
「うん? なにかなぁ? どうしたのぉ?」
「俺、姉さんのことが……」
「ん?」
姉さんが振り返って、俺を見つめた。
俺は……姉さんの首筋に、顔をうずめた。
「ん!」
くすぐったそうに、少し顔をうつむかせている。
「姉さん!!」
「や、やだっ! なにするの! なんのつもりなの、基樹!」
いやがってる姉さんの、エプロンの端に、手を差し入れた。
「や、やめっ!! あ、あぶない……」
ふと姉さんは、手に持っていたままだった包丁を気にして、そっと台所にのせた。
無防備になった、姉さんの胸。
「きゃ! ちょ、ちょっと! いやだってばぁっ!!」
姉さんの制止の声も聞かずに、俺はそのまま、姉さんの胸を服ごしからもみしだく。
「んっ!! んんっ!!」
「姉さんっ!! 姉さんっ!!」
「やめっ!! んんっ!!」
僕はさらに、姉さんの着ている服のボタンを、後ろから抱きしめたまま、はずしていく。
ぷちぷちと音がしていく。
「やめてよっ!! 怖いよっ!! 基樹やめてよっ!! やめてぇっ!!」
途中までボタンをはずしたところで、思いっきり、服を引き裂いた。
「いやぁあっ!!」
姉さんの、少し色黒の、胸。
ブラを上にずらして、そのまま、やわらかい胸の感触を楽しむ。
「んんっんっあっんっんんっんんっはぁっ」
やわらかく変形していく胸。
夢にまで見た、やわらかい感触。
今それが、俺の手の平にある。
「いやあっんんっんんっはぁんっ」
乳首をこりこりと指でいじくる。
本当は口に含んでもて遊びたいけど、でもそれはできない。
片手だけのつらい体勢だから、それはできない。
「んっはっんっんんっ」
姉さんの腰が動いてきた。
興奮しているから、ではないだろう。
ただ俺から逃れよう、逃げようと、必死なのだ。
「いやっ!! いやっ!!」
姉さんのスカートを捲り上げて、そのままパンツ越しに、土手に沿ってなであげた。
「っ!!」
姉さんの身体が、俺の腕の中ではねあがる。
少し濡れている。
――もっと濡らさなければ。まだ俺のものは入らないだろう――
「いやぁっ!! お願いだから、お願いだから、ゆるしてよっ!!」
パンツを左手で脱がしていく。
右手は、姉さんの手首を掴むことに必死だから。
だから、左手だけで、ぬがしていく。
ぐちゅり。
姉さんの薄い毛ごしに、ぐちゅりとした感触がつたわってきた。
もう大分濡れているようだ。
「き、気持ち悪い!!気持ち悪いよぉ!!」
姉さんが首を振っている。
俺はかまわずに、姉さんのうなじに舌をはわせ、そして、土手をいじくりまわした。
指を濡らして。
「んっんんっんんんっあっあっあっあんっ!!」
「姉さん。感じてるんだね?」
「かんじてなんかっ……んっ! あっんっ……いないっ……んんっ……よっ、んんっ!!」
「感じてるよ? もっと声聞かせてよ。姉さんの声、もっと」
「んんっんんっんんっんんっ」
姉さんは、声をこらえている。
俺は姉さんの口をこじ開け、愛液で濡れた俺の指で、姉さんの口内を蹂躙した。
これから姉さんのそこを蹂躙するように。
「ふぁっ!! んんつっふあぁっ」
腰をよじらせて、快感にたえている。
たえないでほしい。もっと感じてよっ!!
「んんっふあっんんっ」
ちゅぱちゅぱっと音がする。
姉さんの口内を蹂躙した後、俺は姉さんのそこに後ろから抱きしめながら、指をさしいれた。
じゅくじゅくじゅくじゅくじゅく!!
音がする。
「んんっあっんっはぁんっんんっ!!」
「姉さんっ!!!」
指がきつい。
これで、俺のものが入るのだろうか?
わからない。
やってみなければわからない。
何もかもが初めてで、うまくできないでいる。
かき回してみる。
そのまま指で、できるだけ大きくかきまわしてみる。
「んっあんっはぁんっんっあっあっあっんんっ!!」
「……真紀」
「! ……んんっああっんっ……ま、真紀って……よばないでっ……んんっ!!」
「真紀、真紀、真紀真紀真紀」
「んんっあっあっあっあっあっんっ!!」
そのまま俺は、左手でジッパーを下ろして、姉さんのそこに差し入れた。
「ぐっ…くっうっ!!」
とてもきつかった。
姉さんの太ももにはもちろん、俺のふとももにも、液体……姉さんの愛液が流れてくる。
「真紀ぃ!!」
そのまま、痛いだろうけどそのまま、腰を動かした。
「いっ、痛いっ!! いたいよっ!! 基樹やめてよっ!!」
「やめられないよ! いまさらだろ?」
「いやだっ!! いやだっ!! あんっ!! くっ、私達はっ、んんっ」
「そうだよ? 兄弟だよ? でも、だからなに? だから愛し合ったらいけないわけ?」
「あたりまえっ……んんっ! あんっあっあっあっあっ!!」
姉さんの腰が動く。
俺の動きに合わせて。
ゆさゆさと揺られている。
「血、っ血がつながっている……んだよっ!! あっあっあっあっ!! んんっ、だめだよっ!!」
「なにが? 血がつながっているから、何がいけないんだよっ!!」
「んっあっあっあんっあああああああああああああっ!!!」
姉さんが、イッた。
夢にまで見た、姉さんの大きな喘ぎ声だ。
そして俺も。
「うっ……!」
俺も、出した。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
「は……ぁぁ、はぁ……」
「……姉さん」
ぬぽっ!!
「うぁっ!!」
姉さんのそこから、自分のものを抜いた。こんな音がするんだな。
俺は、姉さんの両手首を後ろに回し、背中に回してからかがみこんだ。
ツライ体勢だけど、しかたがない。
そのまま、姉さんのそこをなめる。
血がいっぱい出ている。
かなり痛かったことが予想できる。
でも……姉さんは処女だったわけだ。
だれにも犯されていない領域を、俺が初めて犯したことになる。
「! い、いやぁっ!!」
俺は、ぺちゃぺちゃとそこをなめた。
綺麗に、できるだけ綺麗になるように。
「んっあんっんんっふぁっんっ」
なめるそこから、愛液があふれてくる。
でも俺はかまわずに、そこをなめていた。
ずっと。
「…………………………………………」
姉さんは、床にぺたんと座り込んだ。
どこを見るでもなく、ただ呆然と視線をさまよわせながら、息を整えている。
はだけた白いシャツを直さずに。
少し色黒のお尻をさらしたまま、乱れたスカートを直す余裕もなく。
「……姉さん」
「っ!!」
姉さんがびくつく。
俺の声で。
「……姉さん。黙って聞いていてくれないかな?」
「……………………」
姉さんの頬に、涙が流れ出している。
やっと出た涙。
俺は、なぜだか安心していた。
少しだけ安心していた。
人は、本当に悲しいと、涙が出なくなるっていう話を、どこかで聞いたことがあったから。
だから、少しだけ安心していた。
「……俺は、姉さんのこと、姉だと思っていない」
「……………………」
「俺にとって姉さんは……ひとりの女だから。セックスの対象としてしか見れない、ひとりの女だから」
「……………………」
「俺は、姉さんを、本気で愛している。それだけは、わかってほしいんだ」
「……………………」
姉さんは、うつむいて、嗚咽している。
「……なぁ」
「…………ひっく……ひっく……、ぐすっ」
静かな台所に、姉さんのすすり泣く声と、俺の告白が、溶け込んでいく。
この家で暮らす、もうひとりの存在なんか、完全に忘れていた。
がちゃりっ!!
ドアが開いた。
「!」
「っ!!」
父さんだ。
「……お帰り、父さん」
「ただいま……あ?」
「いやあっ!!いやぁっっ!!」
ギョッとする父さんと、必死で遅すぎた身繕いをする姉さん。
姉さんが、震える手でスカートを戻したところで、父さんは怒鳴った。
「な、なにしてるんだ!?」
「やめてっ!! 見ないでよっ!! いやぁあっ!!」
「お前! 真紀!! どうしたんだっ!!」
父さんが、姉さんに走り寄っている。
「近寄らないでっ!! さわらないでっ!! お願いだから、ちかよらないでっ!!」
「も、基樹!! お前どうしたんだっ!! 真紀になにかしたのかっ!!」
「……ああ。したよ」
「い、いったいなにをっ?! なにを真紀にしたんだっ!! ああっ!?」
「姉さんを犯したんだよ。姉さんを俺の、俺だけのものにしたんだよ」
「ふざけるなっ!!」
ぼっかーんっ!!
殴られた。
「なにを考えているんだっ!! お前達は姉弟なんだぞっ!!」
そういえば、父さんに殴られたのは、これが初めてだったな。
俺は、父さんに似て、力が強い。だから当然、父さんも、力が強いわけだ。
「……ふざけてないよ。俺は本気だから。本気で、姉さんを愛しているから」
「お前っ!! お前らは姉弟なんだぞっ!! 実の、血がつながっている姉弟なんだぞっ!! 世間にどうやって……」
「世間は関係ないだろ? これは、俺と姉さんの問題なんだから」
「ふざけるなっ!!」
「ふざけてないって言っただろっ!!」
負けずに度なり返した。
「本気で、本気で姉さんのこと、愛してるんだよっ!!」
俺は、父さんをにらみつけた。
にらみつけていた。
「やめてよっ!! 喧嘩しないでよっ!!」
悲痛な、姉さんの叫び声だった。
次の日、姉さんは学校を休んだ。
夜が明けた。
いつもどおりみたいな朝日だ。
二階から、姉さんの降りてくる足音が聞こえてくる。
たんたんたん……
響いてくる。
静かで重苦しい、父さんと俺だけの空間に、姉さんが降りてくる。
「……おはよう、真紀」
「……おはよう、姉さん」
しらじらしい感じだ。
だけど、これ以外、なにも思いつかない。
「お、おはよう。父さん、基樹」
「ああ……」
「ご、ご飯作らないとね」
台所に向かおうとした姉さんを、心配そうな顔の父さんが、止めた。
「無理をするなよ? 今日も休むか?」
「でも、行かないと……」
「うむ……」
それから俺は、姉さんを玄関まで送ってから、自分の部屋に向かった。
今日は俺が、学校には行きたくない。
後悔している。
ただ。
でも。
やっぱり。
俺は、何度生まれかわっていたとしても。
姉さんを愛しただろうし。
それに。
姉さんを犯していただろう。
つづく
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