小説(転載) Eternal Delta 6/9
官能小説
第3章 いろんな進歩といろんな疑問〈1〉
常日頃から、二十歳で遙紀と結婚して子供三人ぐらい作って毎日手作りのお弁当なんて持たされて同僚からうらやましがられて、歳取ったら田舎に引っ越してたまに孫が遊びに来るのを楽しみにしながら遙紀と二人で幸せな老後を送る、という具体的なプランを立てている梨玖としては、遙紀と結婚できないのはかなりの大打撃だ。
結婚できないという可能性があるなんて想像したことなかった。
きっちりと調べる必要がある。
そう思った梨玖は、父さん仕事中だからあとにしようという遙紀を振りきって、父の書斎に向かった。
父親とは息子に冷たいものである。しかも自分は義理の息子でさらに愛娘を奪おうと企んでいる男である。ということで、書斎の前まで来たものの、仕事の邪魔をしたら怒られると今さらびびった梨玖は、遙紀に取って来てくれと頼んだ。
「……だからあとにしようって言ったのに……」
ぶつくさ言いながら、遙紀はドアをノックした。
「父さ~ん、入っていい?」
そうっとドアを開けて、遙紀が中を覗いて言った。
「……む? 晩飯か?」
とぼけた父の声がした。
「じゃなくて、六法全書借りたいの」
「む? 六法全書? どうするんだ、そんなもの?」
「あ、えっと……宿題、やるの」
「宿題? 法律の宿題か。ずいぶん難しい宿題だな」
商業校や進学校ならともかく、普通校の高鳥高校ではあまり法律は勉強しない。簡単な憲法を習うぐらいだ。
書斎の中は、本だらけ。広いはずの部屋がいくつもある本棚で埋まっていて、父の机はわずか一畳のスペースに追いやられている感じだ。さらに机の上にはいろんな辞書や専門書が積み上げられ、父の身体が半分以上隠れている。
「どの辺にあるの?」
遙紀は中に入ってうんざりしたような顔で本棚を見回した。
「む。あ~……どこにやったかな」
「……探すわ」
ため息をついた遙紀は、梨玖に手招きした。手伝えということだろう。
俺が入っても大丈夫かなあと思いながら梨玖は部屋に入った。が、父は全然気づいた様子がない。黙々と万年筆を動かしている。父は手書きの人だった。
床から天井までずずんとそびえる本棚は全部で四つ。図書館のように横並びに並んでいる。本棚の前に立ち、六法全書を探す。のだが、途中で梨玖は頭が痛くなってきた。
……何の本だかさっぱり判らん。
何について書かれた本なのかも判らないし、専門書なのか小説なのかすら判らない。
とりあえず六法全書なら六法全書と書いているだろうと思い、その四文字だけを探すことにした。
しかし一つの棚を数分かけて探したのだが、どこにも六法全書は見つからなかった。
「ねぇぞ」
「ん~、じゃあ、あそこね」
と言って遙紀は父の机に向かった。
積み上げられた分厚い本を横から覗き込んで、遙紀は山の一つを床の上に降ろしていった。膝の高さぐらいになったところで、遙紀はふうとため息をついた。
「まったくもー。父さん、ちょっとぐらい片付けてよ」
「む?」
「む?じゃないってば」
辞書のようなものを一冊よけて、遙紀は降ろした本を再び積み上げていった。
「あったのか?」
「うん、これ」
一冊ぽんと手渡された。思ったほど大きくなかった。ポケット辞典みたいな大きさで、表紙には「明解六法」と書かれている。なんだかかなり古そうだ。おくづけを見ると、昭和39年と書いていた。
「ふっるー」
こんな古いので執筆の役に立つのだろうか。
「梨玖」
「へ?」
顔を上げると、深皿を持った遙紀が早く出ろという仕草をした。
書斎を出てリビングに戻ると、久遠が退屈そうにテレビを見ていた。
「見つかったのぉ?」
「うん、あった……って、ちょっとぉ!」
父の食べ終えた冷やし中華の皿をダイニングに持っていこうとしていた遙紀は、廊下からリビングの様子を見て、眉を吊り上げた。
「あんた、なに食べてんの!?」
遙紀が一口二口食べただけの冷やし中華が、きれいさっぱりなくなっていた。
「え~。だってお腹空いてたんだもぉん」
「あたしのお昼なのよ! 勝手に食べないでよ!」
「いいじゃなぁい。遙紀ちゃん、お料理上手だもん。も一回作れば?」
「そういうことじゃないってば!」
ああもう!と嘆きながら、遙紀は皿を全部片付けてダイニングで冷蔵庫を開けてぶつくさぶつくさ呪いの言葉を吐いていた。
梨玖は心底同情した。
「……お前、いい性格してるよな」
「やだなぁ。褒めないでよぉ」
「……誰が褒めてんだ」
梨玖は久遠から離れてソファーに座った。純真無垢な殻に包まれた邪悪なものに触れたくない。
足をテーブルに投げ出して、梨玖はぺらぺらと六法全書をめくった。
「…………」
「梨玖ちゃん、読める?」
「……判らん」
何語だ、これは。
日本語なのは判る。しかしなぜ、漢字とカタカナなのだ。
いや、ひらがなの部分もある。あるが、その場合はさらに漢字が難しくて読めない。これのどこが「明解」なのだ。
「……俺、弁護士じゃなくて良かった」
「やだぁ。梨玖ちゃんみたいなおバカさんが弁護士なんかになれるわけないじゃなーい」
「黙れ!」
人に言われると腹が立つのだ。特にこの久遠に言われると。
「……結婚って、なんだ?」
「男女が一緒に暮らすことでしょぉ?」
「ちゃうっつーの。どのページ見りゃいいんだって聞いてんだよ」
「えっとぉ……民法じゃない?」
「みんぽー?……ああ、これか」
民法と書かれたページをめくり、そこで結婚という言葉を探したのだが、結婚ではなく婚姻と書いてあった。
これだなと思い、まず一番始めの項目を読んだ。
「第七百三十一条、婚姻適齢……ああ、こりゃ判る」
男は十八歳以上、女は十六歳以上でないと結婚できない、と書いてあるだけだった。
「え~……重婚禁止……再婚禁止期間……近親婚の……これか?」
近親というのが、身近な、血の繋がった家族のことを指すということぐらいは知っている。自分と遙紀はこれに当たるのだろうと思ったが、血は繋がっていないのだから関係ないのだろうか。
「直系血族又は三親等内の……ぼ、傍系血族の間では、婚姻をすることが……」
読み上げる途中で梨玖は言葉を切った。
漢字が読めなくなったのではなく、次の文章の意味が判らないのだった。
「……養子と養方の傍系血族……ってなんだ?」
「養子って梨玖ちゃんのことでしょ?」
「……俺、養子になるのか?」
「そうじゃないの?」
「……で、養方って?」
「おじさんのことじゃない?」
「んじゃ、傍系血族ってなんだ?」
「えっとぉ……直系じゃないってことでしょ?」
「直系って……具体的になんだ?」
「う~ん、知らな~い」
久遠は朗らかにそう言った。
少ない知恵で考えてもダメだ。梨玖は続きを読んだ。
「直系姻族間の婚姻禁止……直系姻族って……なんだよ……」
なぜ法律用語とはこんなにもややこしい言葉を使うのか。どうしてもっとかみ砕いた言葉で書いてくれないのか。
この六法全書が古いからかもしれない、と梨玖は思った。最新版だったら自分にも判るように書いているかも。
しかしわざわざ買いに行くのも面倒だし、そもそも梨玖は現在金欠だ。
仕方ないので難しい本で我慢することにした。
う~~ん、と唸りながら梨玖が六法全書とにらめっこしていると、いい匂いが漂ってきた。冷やし中華の匂いではなく、ラーメンの匂いだ。
梨玖は六法全書を置いて、ダイニングへ向かった。
「遙紀、俺の分も」
「はあ?」
麺を湯がきながらスープを作っている遙紀は、お玉を持ったまま振り返った。
「さっき食べたじゃない」
「もう全部消化した」
「……よく太んないわね」
「伸び盛り」
「はいはい。作ってあげるから向こう行ってて。邪魔だから」
「……邪魔って」
気のせいかもしれないが、一緒に暮らすようになってから遙紀に邪険にされているように思う。同棲している恋人同士ってこういうものだろうか。
いや、ひょっとして昨日からかも。
……あ~、いつも可愛いけど昨日の遙紀は特別可愛かった。
梨玖はてきぱきとラーメンを作る遙紀の後ろ姿を見て、無性に抱きつきたくなってきたのだが、たぶん……絶対殴られるので我慢した。
「……なあ、遙紀」
「なに?」
振り返らずに遙紀は返事をした。
「エプロンってしないのか?」
「うん、あんまりしない。たまにするけど」
「白くて丈の短いフリルのついたエプロンって持ってないか?」
「……なんなの、その具体的な質問は?」
遙紀はしかめっ面で振り返った。
「そーいうのつけてさ」
「……なに?」
「服は着ないでさ」
「……なんでよ」
「だから、はだかえぷろ……」
──ばごっ!
梨玖の額に見事にお玉が命中した。
「向こう行ってて!」
「……へーい」
まあ、無理だよな、と梨玖は諦めた。
せっかく料理がうまくてエプロン似合いそうなのに。
あ! そうだ。メイド服なんて似合うかも。
しかしそれこそ無理だ。メイド服なんてどこに売っているのか。買ったら絶対変態扱いされる。遙紀にはすでに変態と言われたが。
「──判らぁぁん!」
梨玖は「明解六法」を放り投げた。
ラーメンを食べている間は久遠が読んでいた。やたらとページをめくっていたので判っているのかと思ったら、商法なんていうところを読んでいた。久遠の家は芸能事務所なのだ。なんだか知らないが最近いろいろ問題があるらしい。
ラーメンを食べ終え、遙紀が片づけを終えてから、三人で頭を突き合わせて「明解六法」を一生懸命読んだのだが、何一つ理解できたことはない。
どこを読んでも、肝心の連れ子同士の結婚、なんて言葉は全くないのだった。
「なんで書いてねぇんだ!」
「んー……養子と養親又はその直系尊属との間では、えっと……親族関係が終了した後も婚姻できない……尊属って親とか自分より上の人ってことだから、養親の子供とがダメってわけじゃないみたいだけど……そういうとこ書いてないわね」
遙紀が読み上げながら何か言っているのだが、すでに梨玖には理解不能だ。
「おじさんに聞いてみた方が早いんじゃない?」
久遠の意見に、梨玖はおおそれだ、と思ったが、遙紀が否定した。
「たぶん父さん知らないと思うわ」
「はあ? なんで」
「だって父さんって商業高校出てるんだもん。商法なら詳しいと思うけど。民法はあんまり知らないんじゃないかな」
「小説書くのに使ってんじゃねぇのか、それ?」
「置いてるだけよ、きっと。父さんが書くのって童話とポルノよ? 法律なんてあんまり関係ないと思わない?」
言われてみればそうだ。童話なんて法律とは無縁だし、ポルノもたまには必要かもしれないが、あまり小難しいことは書かないだろう。書いてもそんな部分は読まれないと思う。何せポルノだ。
調べる必要がないから、こんな古い版しか持っていなかったのだろうか。
「お袋も……知らねぇよな……」
母は美術大学を出た。法律なんて勉強してないと思われる。
誰か知ってる奴はいないのか。
「……あ」
突然、なにかに気づいたように、遙紀が声を上げた。
「どした?」
「え、あ、な……なんでもない」
本当になんでもないような顔で、遙紀は首を振った。がしかし、今の「あ」が何かを思いついたことだというのは間違いないはずだ。
「誰か知ってそうな奴いるのか?」
「……ううん」
遙紀は再び首を振った。
梨玖はいや~な予感がした。たいがいこういう予感は当たる。
だが、遙紀がなんでもないと言うので聞くのはやめた。聞きたくないような気がする。
自力で調べても判らないことはすぐやめるのが梨玖のモットーであった。
こればっかりはきっちり調べたいとは思うが、無理なものは無理だ。
梨玖は夕食まで宿題をやった。遙紀の答えを写すだけだが。
夕食のあと風呂に入り、それから自分の部屋に戻って宿題の続きをやった。一人だ。遙紀は一階で主婦な仕事をしている。母は夕食前に戻ってきたが、今は部屋で仕事中。父も書斎でまだ仕事中。
午後九時を回った。写しているだけとはいっても、ちょっと宿題から離れたくなった梨玖は、なんとなーくテレビをつけた。
前に見たことのあるアクション映画とか、つまらないバラエティとか、くだらないドラマとか、野球中継とか、ニュースなどしかやっていない。
梨玖はあまりテレビを見ない。テレビはゲームをするためだけに存在している。
なんかゲームしようかな、と思って、テレビ台の下からゲーム機を引っ張り出したとき、部屋のドアがノックされた。
「……梨玖、入っていい?」
ちょっと遠慮がちな遙紀の声。ダメなわけがない。
「ああ、開いてる」
エロ本でも見てたら別だけど、と思いながら梨玖が言うと、遙紀がゆっくりドアを開けて顔だけを覗かせた。
「……宿題やってなかったの?」
「あ~いや、ちょっと休憩」
梨玖はゲーム機をテレビ台の下に押し戻した。
「なんか用か?」
「う、うん、ちょっと……」
遙紀はそうっと部屋に入ってきた。きょろきょろと辺りを見回す。どこに座ろうかと思っているんだろう。
梨玖は普通に机で宿題をやっていた。部屋にあるのは机のほか、テレビとタンスとベッドだけ。ベッド脇にMDラジカセが置いてある。遙紀の部屋よりもクール……というより殺風景だ。散らかっていないだけマシ、と自分で思っている。散らかせるほどに物がないだけなのだが。
遙紀は結局ベッドに腰掛けた。梨玖はその近くに椅子を引っ張っていって、後ろ向きに座った。
「で?」
「あ、あのね」
遙紀は照れたような顔をしていた。が、昨日みたいなことして、なんて言うわけじゃないだろうとは判っている。そこまで自分はシアワセな奴じゃない。
「……どーしても調べたい?」
「はあ?……ああ、結婚できるかって?」
「うん」
「そりゃまあ。知っとかないとな」
「……それって、やっぱりあたしと結婚したいとか思ってるの?」
遙紀は不思議そうに聞いた。照れた顔なのに眉根を寄せている辺りがものすごく気になる。梨玖はちょっとだけショックを受けた。思ってて当たり前だろうに。
だが、女がわりとこういう点にシビアなのは判っていた。母親の例がある。
「……あのね、知ってそうな人いるんだけど」
やっぱし。
「誰だ?」
「……あのー……修祐」
やっぱし。
「あいつやっぱ頭いいのか?」
「うん。教師か弁護士目指すって中学の時に言ってたから」
「……弁護士……」
東大予備軍という第一印象は間違ってなかったようだ。つくづく自分とは正反対だ。
「梨玖?」
「は?」
「……聞いてみる?」
「そーだな。ほかにいないし」
素直にそう言うと、遙紀は驚いたような顔をした。
「……怒るかと思った」
「はあ? なんで」
「え、だって……昨日怒ってたじゃない。名前聞くのも嫌って感じだったし」
「それとこれとは別だろ? 俺そんなに心狭くねぇぞ」
遙紀は思いっきり変な顔をした。
「うそ」
「なんだよ」
「心広い人があんなに愚痴るわけないじゃない」
「……それとこれとは別だ」
「なにがよ……えっと、じゃあ明日学校終わってから来てもらう?」
「ああ、いーよ」
「判った。じゃあ、おやす──」
言いながら立ち上がろうとした遙紀の腕を掴んで、梨玖は再びベッドに座らせた。
「な……なに?」
ちょっとびびったような顔をしている。
昨日の今日なので仕方ないが。
「今日はまだ全然してないだろ?」
梨玖は椅子から立ち上がり、遙紀の前に立って身を屈めた。
「え、な、な、なにを!?」
「キス」
と言うと、遙紀はほっとしたような気が抜けたような、複雑な顔をした。
「……べ、別に毎日しなきゃいけないってわけじゃ……」
「俺はしたいんだ」
今まで、チャンスがあればいつもやっていたのに、実際同居を始めてから昨日まで全然やっていなかった。ので、昨日ちょっとやったぐらいじゃ健全な青少年の欲望は収まらないのである。
「……あ、あたしは別に……」
「あー、じゃー、あれだ。幼なじみの名前出した罰」
「……はあ!? あんた、今、心狭くないって……!」
「まー、いーからいーから」
「あ、あのね……!」
文句を言いかけた遙紀の口を、梨玖は無理やり塞いだ。
遙紀はベッドに腰掛けているが、梨玖は立って腰を曲げているのでちょっと辛い体勢だ。右手を遙紀の頬骨の辺りに当てて上を向かせ、左手で遙紀の後頭部から首の上辺りを支えた。
やってしまえば遙紀は抵抗しない。しばらく唇同士をつつき合わせるようなキスを繰り返した。
そのうち遙紀が梨玖の服を掴んでくる。物足りないからもっとやってくれということなのか、ただ手の置き場に困るだけなのかは判らないが。そうなると梨玖は舌を遙紀の口に差し込む。まったく抵抗されずにすんなり入り、最初は歯茎とか壁の辺りをつついたり撫でるように動かしたりする。
梨玖の服を掴む遙紀の手に力が入る。服ごと引っ張られる恰好になって、さらに遙紀の奥深くに入る。が、梨玖は一旦、口を離す。
「ん……あ……」
その息継ぎみたいな吐息を聞くと、梨玖の中でいろいろとスケベな感情が育っていく。
そしてまたキスをする。差し込まなくても遙紀は口を開けている。
舌が絡んで唾液が混じり合い、唇が腫れそうなぐらいに何度も吸い付く。
だんだん気持ちよさだけを感じてなにも考えられなくなった頃に、遙紀の手はすとんと落ちる。
唾液の糸を引いてゆっくり離れる。遙紀はぽーっとしていた。その紅潮した色っぽい顔が梨玖は大好きだった。
キスだけで終わるつもりでいた。これ以上やったらいろんな意味でまずいかと思ったのだが。
しかしもうちょっと楽しみたいなーと思ってしまった。
どういうわけだか、自分が気持ちよくなりたい、なんて思わない。遙紀が気持ちよくなっているときの顔が見たくて声が聞きたいだけだった。
男として変なんだろうかと思わなくもないが。
もちろん、いずれはちゃんと普通に遙紀とセックスする、という欲求はあるが、別に今すぐじゃなくてもいいや、と思ってしまったのだ。ただ単に、実は性的欲求が少ないだけなのかもしれないが。
勝てないかもしれない男が現れたとちょっと焦ったりしたが、遙紀が相手を友達以上に見ていないことは判ったし、口にしなくても自分を好きでいてくれてることも判った。
なので、普通にちゃんとする前に、遙紀にセックスに対する免疫をつけておこうと思ったのだった。
第3章 〈2〉へ
常日頃から、二十歳で遙紀と結婚して子供三人ぐらい作って毎日手作りのお弁当なんて持たされて同僚からうらやましがられて、歳取ったら田舎に引っ越してたまに孫が遊びに来るのを楽しみにしながら遙紀と二人で幸せな老後を送る、という具体的なプランを立てている梨玖としては、遙紀と結婚できないのはかなりの大打撃だ。
結婚できないという可能性があるなんて想像したことなかった。
きっちりと調べる必要がある。
そう思った梨玖は、父さん仕事中だからあとにしようという遙紀を振りきって、父の書斎に向かった。
父親とは息子に冷たいものである。しかも自分は義理の息子でさらに愛娘を奪おうと企んでいる男である。ということで、書斎の前まで来たものの、仕事の邪魔をしたら怒られると今さらびびった梨玖は、遙紀に取って来てくれと頼んだ。
「……だからあとにしようって言ったのに……」
ぶつくさ言いながら、遙紀はドアをノックした。
「父さ~ん、入っていい?」
そうっとドアを開けて、遙紀が中を覗いて言った。
「……む? 晩飯か?」
とぼけた父の声がした。
「じゃなくて、六法全書借りたいの」
「む? 六法全書? どうするんだ、そんなもの?」
「あ、えっと……宿題、やるの」
「宿題? 法律の宿題か。ずいぶん難しい宿題だな」
商業校や進学校ならともかく、普通校の高鳥高校ではあまり法律は勉強しない。簡単な憲法を習うぐらいだ。
書斎の中は、本だらけ。広いはずの部屋がいくつもある本棚で埋まっていて、父の机はわずか一畳のスペースに追いやられている感じだ。さらに机の上にはいろんな辞書や専門書が積み上げられ、父の身体が半分以上隠れている。
「どの辺にあるの?」
遙紀は中に入ってうんざりしたような顔で本棚を見回した。
「む。あ~……どこにやったかな」
「……探すわ」
ため息をついた遙紀は、梨玖に手招きした。手伝えということだろう。
俺が入っても大丈夫かなあと思いながら梨玖は部屋に入った。が、父は全然気づいた様子がない。黙々と万年筆を動かしている。父は手書きの人だった。
床から天井までずずんとそびえる本棚は全部で四つ。図書館のように横並びに並んでいる。本棚の前に立ち、六法全書を探す。のだが、途中で梨玖は頭が痛くなってきた。
……何の本だかさっぱり判らん。
何について書かれた本なのかも判らないし、専門書なのか小説なのかすら判らない。
とりあえず六法全書なら六法全書と書いているだろうと思い、その四文字だけを探すことにした。
しかし一つの棚を数分かけて探したのだが、どこにも六法全書は見つからなかった。
「ねぇぞ」
「ん~、じゃあ、あそこね」
と言って遙紀は父の机に向かった。
積み上げられた分厚い本を横から覗き込んで、遙紀は山の一つを床の上に降ろしていった。膝の高さぐらいになったところで、遙紀はふうとため息をついた。
「まったくもー。父さん、ちょっとぐらい片付けてよ」
「む?」
「む?じゃないってば」
辞書のようなものを一冊よけて、遙紀は降ろした本を再び積み上げていった。
「あったのか?」
「うん、これ」
一冊ぽんと手渡された。思ったほど大きくなかった。ポケット辞典みたいな大きさで、表紙には「明解六法」と書かれている。なんだかかなり古そうだ。おくづけを見ると、昭和39年と書いていた。
「ふっるー」
こんな古いので執筆の役に立つのだろうか。
「梨玖」
「へ?」
顔を上げると、深皿を持った遙紀が早く出ろという仕草をした。
書斎を出てリビングに戻ると、久遠が退屈そうにテレビを見ていた。
「見つかったのぉ?」
「うん、あった……って、ちょっとぉ!」
父の食べ終えた冷やし中華の皿をダイニングに持っていこうとしていた遙紀は、廊下からリビングの様子を見て、眉を吊り上げた。
「あんた、なに食べてんの!?」
遙紀が一口二口食べただけの冷やし中華が、きれいさっぱりなくなっていた。
「え~。だってお腹空いてたんだもぉん」
「あたしのお昼なのよ! 勝手に食べないでよ!」
「いいじゃなぁい。遙紀ちゃん、お料理上手だもん。も一回作れば?」
「そういうことじゃないってば!」
ああもう!と嘆きながら、遙紀は皿を全部片付けてダイニングで冷蔵庫を開けてぶつくさぶつくさ呪いの言葉を吐いていた。
梨玖は心底同情した。
「……お前、いい性格してるよな」
「やだなぁ。褒めないでよぉ」
「……誰が褒めてんだ」
梨玖は久遠から離れてソファーに座った。純真無垢な殻に包まれた邪悪なものに触れたくない。
足をテーブルに投げ出して、梨玖はぺらぺらと六法全書をめくった。
「…………」
「梨玖ちゃん、読める?」
「……判らん」
何語だ、これは。
日本語なのは判る。しかしなぜ、漢字とカタカナなのだ。
いや、ひらがなの部分もある。あるが、その場合はさらに漢字が難しくて読めない。これのどこが「明解」なのだ。
「……俺、弁護士じゃなくて良かった」
「やだぁ。梨玖ちゃんみたいなおバカさんが弁護士なんかになれるわけないじゃなーい」
「黙れ!」
人に言われると腹が立つのだ。特にこの久遠に言われると。
「……結婚って、なんだ?」
「男女が一緒に暮らすことでしょぉ?」
「ちゃうっつーの。どのページ見りゃいいんだって聞いてんだよ」
「えっとぉ……民法じゃない?」
「みんぽー?……ああ、これか」
民法と書かれたページをめくり、そこで結婚という言葉を探したのだが、結婚ではなく婚姻と書いてあった。
これだなと思い、まず一番始めの項目を読んだ。
「第七百三十一条、婚姻適齢……ああ、こりゃ判る」
男は十八歳以上、女は十六歳以上でないと結婚できない、と書いてあるだけだった。
「え~……重婚禁止……再婚禁止期間……近親婚の……これか?」
近親というのが、身近な、血の繋がった家族のことを指すということぐらいは知っている。自分と遙紀はこれに当たるのだろうと思ったが、血は繋がっていないのだから関係ないのだろうか。
「直系血族又は三親等内の……ぼ、傍系血族の間では、婚姻をすることが……」
読み上げる途中で梨玖は言葉を切った。
漢字が読めなくなったのではなく、次の文章の意味が判らないのだった。
「……養子と養方の傍系血族……ってなんだ?」
「養子って梨玖ちゃんのことでしょ?」
「……俺、養子になるのか?」
「そうじゃないの?」
「……で、養方って?」
「おじさんのことじゃない?」
「んじゃ、傍系血族ってなんだ?」
「えっとぉ……直系じゃないってことでしょ?」
「直系って……具体的になんだ?」
「う~ん、知らな~い」
久遠は朗らかにそう言った。
少ない知恵で考えてもダメだ。梨玖は続きを読んだ。
「直系姻族間の婚姻禁止……直系姻族って……なんだよ……」
なぜ法律用語とはこんなにもややこしい言葉を使うのか。どうしてもっとかみ砕いた言葉で書いてくれないのか。
この六法全書が古いからかもしれない、と梨玖は思った。最新版だったら自分にも判るように書いているかも。
しかしわざわざ買いに行くのも面倒だし、そもそも梨玖は現在金欠だ。
仕方ないので難しい本で我慢することにした。
う~~ん、と唸りながら梨玖が六法全書とにらめっこしていると、いい匂いが漂ってきた。冷やし中華の匂いではなく、ラーメンの匂いだ。
梨玖は六法全書を置いて、ダイニングへ向かった。
「遙紀、俺の分も」
「はあ?」
麺を湯がきながらスープを作っている遙紀は、お玉を持ったまま振り返った。
「さっき食べたじゃない」
「もう全部消化した」
「……よく太んないわね」
「伸び盛り」
「はいはい。作ってあげるから向こう行ってて。邪魔だから」
「……邪魔って」
気のせいかもしれないが、一緒に暮らすようになってから遙紀に邪険にされているように思う。同棲している恋人同士ってこういうものだろうか。
いや、ひょっとして昨日からかも。
……あ~、いつも可愛いけど昨日の遙紀は特別可愛かった。
梨玖はてきぱきとラーメンを作る遙紀の後ろ姿を見て、無性に抱きつきたくなってきたのだが、たぶん……絶対殴られるので我慢した。
「……なあ、遙紀」
「なに?」
振り返らずに遙紀は返事をした。
「エプロンってしないのか?」
「うん、あんまりしない。たまにするけど」
「白くて丈の短いフリルのついたエプロンって持ってないか?」
「……なんなの、その具体的な質問は?」
遙紀はしかめっ面で振り返った。
「そーいうのつけてさ」
「……なに?」
「服は着ないでさ」
「……なんでよ」
「だから、はだかえぷろ……」
──ばごっ!
梨玖の額に見事にお玉が命中した。
「向こう行ってて!」
「……へーい」
まあ、無理だよな、と梨玖は諦めた。
せっかく料理がうまくてエプロン似合いそうなのに。
あ! そうだ。メイド服なんて似合うかも。
しかしそれこそ無理だ。メイド服なんてどこに売っているのか。買ったら絶対変態扱いされる。遙紀にはすでに変態と言われたが。
「──判らぁぁん!」
梨玖は「明解六法」を放り投げた。
ラーメンを食べている間は久遠が読んでいた。やたらとページをめくっていたので判っているのかと思ったら、商法なんていうところを読んでいた。久遠の家は芸能事務所なのだ。なんだか知らないが最近いろいろ問題があるらしい。
ラーメンを食べ終え、遙紀が片づけを終えてから、三人で頭を突き合わせて「明解六法」を一生懸命読んだのだが、何一つ理解できたことはない。
どこを読んでも、肝心の連れ子同士の結婚、なんて言葉は全くないのだった。
「なんで書いてねぇんだ!」
「んー……養子と養親又はその直系尊属との間では、えっと……親族関係が終了した後も婚姻できない……尊属って親とか自分より上の人ってことだから、養親の子供とがダメってわけじゃないみたいだけど……そういうとこ書いてないわね」
遙紀が読み上げながら何か言っているのだが、すでに梨玖には理解不能だ。
「おじさんに聞いてみた方が早いんじゃない?」
久遠の意見に、梨玖はおおそれだ、と思ったが、遙紀が否定した。
「たぶん父さん知らないと思うわ」
「はあ? なんで」
「だって父さんって商業高校出てるんだもん。商法なら詳しいと思うけど。民法はあんまり知らないんじゃないかな」
「小説書くのに使ってんじゃねぇのか、それ?」
「置いてるだけよ、きっと。父さんが書くのって童話とポルノよ? 法律なんてあんまり関係ないと思わない?」
言われてみればそうだ。童話なんて法律とは無縁だし、ポルノもたまには必要かもしれないが、あまり小難しいことは書かないだろう。書いてもそんな部分は読まれないと思う。何せポルノだ。
調べる必要がないから、こんな古い版しか持っていなかったのだろうか。
「お袋も……知らねぇよな……」
母は美術大学を出た。法律なんて勉強してないと思われる。
誰か知ってる奴はいないのか。
「……あ」
突然、なにかに気づいたように、遙紀が声を上げた。
「どした?」
「え、あ、な……なんでもない」
本当になんでもないような顔で、遙紀は首を振った。がしかし、今の「あ」が何かを思いついたことだというのは間違いないはずだ。
「誰か知ってそうな奴いるのか?」
「……ううん」
遙紀は再び首を振った。
梨玖はいや~な予感がした。たいがいこういう予感は当たる。
だが、遙紀がなんでもないと言うので聞くのはやめた。聞きたくないような気がする。
自力で調べても判らないことはすぐやめるのが梨玖のモットーであった。
こればっかりはきっちり調べたいとは思うが、無理なものは無理だ。
梨玖は夕食まで宿題をやった。遙紀の答えを写すだけだが。
夕食のあと風呂に入り、それから自分の部屋に戻って宿題の続きをやった。一人だ。遙紀は一階で主婦な仕事をしている。母は夕食前に戻ってきたが、今は部屋で仕事中。父も書斎でまだ仕事中。
午後九時を回った。写しているだけとはいっても、ちょっと宿題から離れたくなった梨玖は、なんとなーくテレビをつけた。
前に見たことのあるアクション映画とか、つまらないバラエティとか、くだらないドラマとか、野球中継とか、ニュースなどしかやっていない。
梨玖はあまりテレビを見ない。テレビはゲームをするためだけに存在している。
なんかゲームしようかな、と思って、テレビ台の下からゲーム機を引っ張り出したとき、部屋のドアがノックされた。
「……梨玖、入っていい?」
ちょっと遠慮がちな遙紀の声。ダメなわけがない。
「ああ、開いてる」
エロ本でも見てたら別だけど、と思いながら梨玖が言うと、遙紀がゆっくりドアを開けて顔だけを覗かせた。
「……宿題やってなかったの?」
「あ~いや、ちょっと休憩」
梨玖はゲーム機をテレビ台の下に押し戻した。
「なんか用か?」
「う、うん、ちょっと……」
遙紀はそうっと部屋に入ってきた。きょろきょろと辺りを見回す。どこに座ろうかと思っているんだろう。
梨玖は普通に机で宿題をやっていた。部屋にあるのは机のほか、テレビとタンスとベッドだけ。ベッド脇にMDラジカセが置いてある。遙紀の部屋よりもクール……というより殺風景だ。散らかっていないだけマシ、と自分で思っている。散らかせるほどに物がないだけなのだが。
遙紀は結局ベッドに腰掛けた。梨玖はその近くに椅子を引っ張っていって、後ろ向きに座った。
「で?」
「あ、あのね」
遙紀は照れたような顔をしていた。が、昨日みたいなことして、なんて言うわけじゃないだろうとは判っている。そこまで自分はシアワセな奴じゃない。
「……どーしても調べたい?」
「はあ?……ああ、結婚できるかって?」
「うん」
「そりゃまあ。知っとかないとな」
「……それって、やっぱりあたしと結婚したいとか思ってるの?」
遙紀は不思議そうに聞いた。照れた顔なのに眉根を寄せている辺りがものすごく気になる。梨玖はちょっとだけショックを受けた。思ってて当たり前だろうに。
だが、女がわりとこういう点にシビアなのは判っていた。母親の例がある。
「……あのね、知ってそうな人いるんだけど」
やっぱし。
「誰だ?」
「……あのー……修祐」
やっぱし。
「あいつやっぱ頭いいのか?」
「うん。教師か弁護士目指すって中学の時に言ってたから」
「……弁護士……」
東大予備軍という第一印象は間違ってなかったようだ。つくづく自分とは正反対だ。
「梨玖?」
「は?」
「……聞いてみる?」
「そーだな。ほかにいないし」
素直にそう言うと、遙紀は驚いたような顔をした。
「……怒るかと思った」
「はあ? なんで」
「え、だって……昨日怒ってたじゃない。名前聞くのも嫌って感じだったし」
「それとこれとは別だろ? 俺そんなに心狭くねぇぞ」
遙紀は思いっきり変な顔をした。
「うそ」
「なんだよ」
「心広い人があんなに愚痴るわけないじゃない」
「……それとこれとは別だ」
「なにがよ……えっと、じゃあ明日学校終わってから来てもらう?」
「ああ、いーよ」
「判った。じゃあ、おやす──」
言いながら立ち上がろうとした遙紀の腕を掴んで、梨玖は再びベッドに座らせた。
「な……なに?」
ちょっとびびったような顔をしている。
昨日の今日なので仕方ないが。
「今日はまだ全然してないだろ?」
梨玖は椅子から立ち上がり、遙紀の前に立って身を屈めた。
「え、な、な、なにを!?」
「キス」
と言うと、遙紀はほっとしたような気が抜けたような、複雑な顔をした。
「……べ、別に毎日しなきゃいけないってわけじゃ……」
「俺はしたいんだ」
今まで、チャンスがあればいつもやっていたのに、実際同居を始めてから昨日まで全然やっていなかった。ので、昨日ちょっとやったぐらいじゃ健全な青少年の欲望は収まらないのである。
「……あ、あたしは別に……」
「あー、じゃー、あれだ。幼なじみの名前出した罰」
「……はあ!? あんた、今、心狭くないって……!」
「まー、いーからいーから」
「あ、あのね……!」
文句を言いかけた遙紀の口を、梨玖は無理やり塞いだ。
遙紀はベッドに腰掛けているが、梨玖は立って腰を曲げているのでちょっと辛い体勢だ。右手を遙紀の頬骨の辺りに当てて上を向かせ、左手で遙紀の後頭部から首の上辺りを支えた。
やってしまえば遙紀は抵抗しない。しばらく唇同士をつつき合わせるようなキスを繰り返した。
そのうち遙紀が梨玖の服を掴んでくる。物足りないからもっとやってくれということなのか、ただ手の置き場に困るだけなのかは判らないが。そうなると梨玖は舌を遙紀の口に差し込む。まったく抵抗されずにすんなり入り、最初は歯茎とか壁の辺りをつついたり撫でるように動かしたりする。
梨玖の服を掴む遙紀の手に力が入る。服ごと引っ張られる恰好になって、さらに遙紀の奥深くに入る。が、梨玖は一旦、口を離す。
「ん……あ……」
その息継ぎみたいな吐息を聞くと、梨玖の中でいろいろとスケベな感情が育っていく。
そしてまたキスをする。差し込まなくても遙紀は口を開けている。
舌が絡んで唾液が混じり合い、唇が腫れそうなぐらいに何度も吸い付く。
だんだん気持ちよさだけを感じてなにも考えられなくなった頃に、遙紀の手はすとんと落ちる。
唾液の糸を引いてゆっくり離れる。遙紀はぽーっとしていた。その紅潮した色っぽい顔が梨玖は大好きだった。
キスだけで終わるつもりでいた。これ以上やったらいろんな意味でまずいかと思ったのだが。
しかしもうちょっと楽しみたいなーと思ってしまった。
どういうわけだか、自分が気持ちよくなりたい、なんて思わない。遙紀が気持ちよくなっているときの顔が見たくて声が聞きたいだけだった。
男として変なんだろうかと思わなくもないが。
もちろん、いずれはちゃんと普通に遙紀とセックスする、という欲求はあるが、別に今すぐじゃなくてもいいや、と思ってしまったのだ。ただ単に、実は性的欲求が少ないだけなのかもしれないが。
勝てないかもしれない男が現れたとちょっと焦ったりしたが、遙紀が相手を友達以上に見ていないことは判ったし、口にしなくても自分を好きでいてくれてることも判った。
なので、普通にちゃんとする前に、遙紀にセックスに対する免疫をつけておこうと思ったのだった。
第3章 〈2〉へ
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