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小説(転載) Eternal Delta 7/9

官能小説
08 /28 2018
第3章 いろんな進歩といろんな疑問〈2〉

「遙紀」
「ん……」
「寝転んで」
「……え……?」
 ぼーっとしつつも遙紀は不審な目を向けてきた。
「な……なに……?」
「いーから、ほら」
「え、ちょ……」
 ベッドに座らせたままで、遙紀の上半身を後ろへ倒れさせる。
「り、梨玖? な、なにす……」
 遙紀は不安な顔をした。性的なことをしようとしてるのに、不安な顔なんてされたら男としてちょっと傷つくもんなんだなと梨玖は学習した。まあ、仕方ないが。
 梨玖は自分の枕を遙紀に持たせた。昨日みたいに頭を抱えられたら遙紀の達した顔が見られない。
 梨玖の枕を抱えた遙紀は、目をしかめた。
「……あ、汗くさーい……カバー洗濯出しなさいよぉ……」
「うるせえ」
 こんなときになに主婦みたいなことを言っているのか。
「ね、ねえ、な、なにするの?」
 判っていないわけじゃないだろうに、遙紀が聞く。
「心配しなくっても最後までしないって」
「さ、さいご、って、な、なに?」
「ちゃんとしたエッチはしないってこと」
「え!? って、じゃ、じゃあ、な、なに……」
「イカせてやるって言ってんだよ」
「……え!?」
 体を起こそうとした遙紀を、梨玖は額を押し返してまた寝転ばせた。
「ちょ、やだ、ま、また、あ、あんな……」
「あんなことするんだよ」
 梨玖はにたーっと笑った。遙紀は引きつった。
「やだ! じょ、冗談でしょ!?」
「いや、マジ」
「だ、だって、下に父さんたちいるのよ!?」
「聞こえねぇって」
「聞こえるわよ! あたしとお兄ちゃんがケンカしてる声っていつも聞こえてたし!」
「……ケンカすんのか?」
「うん。だってあたしのとこから勝手にCD持ってったりするから」
「あそ。あ~……枕で口塞いでりゃ聞こえないだろ」
「だ、だから! そういう問題じゃ……!」
「どんな問題だ?」
「……だ、だから……あ、あた、あたしだけ……」
「はあ?」
「……あたしだけって……あ、後ですごく恥ずかしいの!」
 遙紀は真っ赤っかになって怒鳴った。
 そう言えば。遙紀は昨日、感じて悶えて嬌声上げたのが恥ずかしい、みたいなことを言っていたような。あれは自分一人だけだったから嫌だったわけか?
「……つまりなにか? 俺も一緒にイって欲しいって?」
「ち、ちちち違う!」
「いや、よーするにそーいうこったろ?」
「違うってば!」
「あのな。普通は女が感じてるのを見て男ってのは興奮するんだからさ。男が感じて悶えてたら気持ちわりーだろうが」
 まあ、世の中には男が感じてるのを見て興奮する男っていうのもいるらしいが。梨玖にはさっぱり理解できない。
「だ、だ、だって!」
「いーから。俺はやってるだけで楽しんだよ」
「変態!」
「知ってっかー? スケベって意味のエッチってな、変態の頭文字なんだぞ」
「知らないわよ、そんなこと!」
「あんまし大声出してたらお袋たちが上がってくるぞ」
「だったらやめてよ!」
「やだね」
 きっぱり言って、梨玖は遙紀のスカートをめくった。
「きゃ……!」
 今日のスカートはあまりタイトじゃないので実にめくりやすい。脱がせようかと思ったのだが、本当に両親が上がってきた時に言い訳できないのでめくり上げるだけにした。
 今日の下着は白と水色のストライプ。色気もないし純潔ともいえないが、可愛いのでよしとしよう。
 一生懸命閉じようとする遙紀の膝を無理やり開かせ、その両足の間に入った梨玖は床の上に膝立ちになった。
 まだなにか往生際の悪いことを言っている遙紀を無視して、梨玖はヘソのすぐ下の辺りに指を這わせた。
「やっ……んっ……」
 遙紀が枕をぎゅっと抱きしめた。ぞくぞくと体を震わせているのが指に伝わってくる。
 枕を抱かせていると、キスも出来ないし胸も触れない。まあしょうがない、と丘の部分で指を動かしていて、ふと気づいた。
 風呂に入って下着は替えたばかりのはずだ。昨日の遙紀の濡れ方を考えると、また下着を替えないわけにはいかないだろう。昨日は考えてなかったが、おそらく自分が下に行っている間に替えたはずだ。でないと濡れてて気持ち悪いだろうし。
 わざわざ替えさせるのは悪いかな、と梨玖は思った。はかせたままだと、また下着を洗うなんていう用事が出来てしまう。今日遙紀は一日中主婦で、やっと家事が全部終わったばっかりなのだ。
 梨玖は下着に手をかけ、一気に膝までずらせた。
「え、やぁっ……!」
 いきなり脱がされるとは思ってなかったんだろう。昨日は結構時間経ってから脱がせたし、ほかのことに気を取られていて脱がされたという意識がなかったはずだ。
 じたばたする足を、膝の裏から持ち上げ、完全に下着を取り去った。
「やだっ……」
 とか言って遙紀が枕で顔を隠す。ので、梨玖は枕を下から引っ張って顔を出させた。
 続けて、スカートの上、というか前はヘソの上までめくっているが、下、というか後ろはお尻の下敷きになっている。
 スカートも汚れる可能性があるな、と思って、膝をぐっと持ち上げてお尻を浮かせ、スカートを上に上げる。
 ……うーん。結構恥ずかしい恰好かもな。
 上はちゃんと服を着ているのに下半身は完全に裸。女としては恥ずかしいだろう。
 男としては楽しい。
 準備万端。膝を開かせて間に入り、手を伸ばそうとして、梨玖ははっとした。
 前戯なしでいきなり触っちゃっても大丈夫なんだろうか。
 まだヘソの下を触っただけだ。濡れている様子はない。
 手のひら全体で包み込むようにして触れ、そっと中指を沈めてみた。
「いっ……」
 遙紀が眉をひそめた。
「痛いか?」
 確かに、昨日みたいにスムーズには入らなかった。指先には液体の感触はあっても、ぬるっとした粘液の感じはない。
「ちょ……ちょっと……」
 わずかに頷いて、遙紀はそう言った。
 これぐらいで痛いってことは、レイプ犯なんかがいきなり挿入するのは女の方はめちゃくちゃ痛いんだろうなと梨玖は思った。アダルトビデオとかエロマンガなんかでレイプの話はよくあるが、「犯されて感じてやがるぜ、この淫乱め!」とかいうセリフは、実はあり得ないことなんだろう。たまには本当にそういう女もいるかもしれないが。
 困った。
 いきなり指を入れたら痛がらせてしまう。かといって周りを触るのも痛いんじゃないだろうかと思ってしまった。未経験の知識のなさが悲しい。
「……あ、そーだ」
「え、な、なに?」
 遙紀がうろたえた声を出す。しかし梨玖は何も言わなかった。
 さっき風呂に入ったばかりなのだ、遙紀は。もしそうじゃなかったとしても、まあ、遙紀だからいいやとか思ってしまう。
 梨玖は遙紀のその部分に顔を近づけ、全体を舌で舐め上げた。べろっと。
「ひゃあっ……!」
 遙紀がびくんと体を震わせた。
「な……なに!? い、今なにしたの!?」
「舐めた」
「……え!?」
「指で触るより気持ちいいらしいぞ」
 といってもう一回同じように全体を舐め、続けてつついたり吸い付いたり、唇へのキスの時みたいに、下の口にもキスをする。
「やぁんっ……ちょ、やっ……や、やめ……あんっ……」
「気持ちいいだろ?」
「や、だ、だから……んっ……あ、あの、やっ……そ、そこって、あの、と、トイレとかして、き、きた……」
「汚かねぇって。さっき風呂入っただろ?」
「そ、そうだけど……そういう問題じゃ、んぁっ……」
 確かに排泄器官が同じ部分にあるってことは、される側としても結構抵抗があるんだろう。しかし、気持ちよさがその抵抗を上回ればいいわけだ。
 だんだん、飴を舐めているような気がしてきた。飴みたいに固いというわけじゃない。ものすごく柔らかくて舐めてて気持ちいい。飴のようなというのは、ねちゃっとした感触を感じてきたからだった。
 だいぶ濡れてきたみたいなので、もう指を入れても大丈夫かなあと思ったが、いっそのこと舌を入れてみようかと考えた。
 割れ目を指で開き、庭の部分を舌で触れる。
「ひぁっ……! あっ、やあぁっ……」
 直接口をつけているということは、鼻も遙紀のその部分のすぐそばにあるわけだ。甘ったるい匂いだけどただ甘いだけじゃなくて、もっと独特の言い方があるような気がする。いわゆる女の匂いであって、味も、これが女の味って奴だなと梨玖は感慨深く思った。
 庭から、今度は中じゃなくて上に向かった。遙紀からすれば前。わずかに充血した突起を舌でつついた。
「いやぁぁっ……!」
 遙紀はまたぎゅーっと枕を抱きしめた。必死に身体の震えをなんとかしようとしているみたいだ。
「んっ、あんっ、あぁっ……やっ……」
 声を聞いていて、なんだか昨日よりおとなしいような気がした。女の中で一番敏感な部分を触っているのに。ひょっとして自分のやり方がまずいのか、とも思ったが、感じているのは感じているみたいだ。
 そしてふと気づいた。枕が悪いのかもしれない。
 枕を抱きしめることで不安が軽減して声に響いていないのかも。
 試しに取り上げてみようと、手を伸ばしたその時。

「おぉーーい。はーるきー」
 遠くで父の声がした。
 ぎっくぅ!と梨玖は身体を硬直させた。
 ま、まずいやばいぴんち。
 いくら親公認の仲とはいっても、この状態を見られて無事で済むわけがない。
 あの母ならともかくだ。娘があ~んな、いや、こ~んなことをされていて何も言わない父親がどこにいるだろう。
「な……なに? い、今、父さん……呼んでなかった……?」
 まだ半分トリップした状態で、遙紀が聞いた。
 梨玖は口元に人差し指を当てて遙紀を黙らせた。スカートを降ろし、体を起こして座らせる。下着ははかせている暇なんてないような気がするのでそのまま。
 父が階段を上がってくる足音がした。別に遙紀がこっちの部屋にいても何の問題もないとは思うのだが、今はものすごい問題だと思われた。
 父が来る前に遙紀が部屋を出て何の用かと言えばいいんだ、と思って、遙紀にそう言ったのだが。
 ベッドから立とうとした遙紀は、がくんと膝を折ってへたり込んだ。
「ど、どした?」
「……あ、足……ち、力入んない……」
「……あ~」
 そりゃそーだ。力抜けるようなことしてたんだから。
 ドアが開く音がし、「おや?」という父の声がした。
 まずい。このままだとこっちに来る。
 と思って梨玖は慌ててドアに駆け寄り、顔だけを外に出した。
「ど、どしたの?」
 遙紀の部屋の前で腕組みをして首を捻っている父に尋ねた。
「ああ、梨玖くん。遙紀そっちいるかい?」
「え、あー……いや。べ、便所じゃねぇかな」
 ほかの言い訳なんて思いつかないのだった。
 しかし母と同じく父もそれをあっさり信用した。
「む、ああそう。じゃあ梨玖くん、六法全書どこやったか知らないかい?」
「は?」
 執筆に使うんだろうか。……ポルノで? 童話か?
 いやそれより、どこにやったと聞かれても。どこにやった?
 思わず遙紀を振り返った。遙紀は首を傾げ、すぐに「あ」と小さく叫んだ。
 身振り手振りで場所を示そうとしている。まず指を下向けて上下に振り、それから両手で大きな四角を描く。
 梨玖はしかめっ面で考えたが、さっぱり判らん。
 遙紀は四つん這いで梨玖の机に近づき、ノートになにやら書き込んだ。
 〝リビングのテーブルの上〟
 と書き殴ったのを梨玖に見せた。
 そう言えば、仕事中にまた邪魔したら怒られるかもしれないから後で返すと言っていたような気がする。
「梨玖くん?」
「へ? ああえっと、リビングのテーブルの上……だと思うけど」
「ああ、なんだそうか。ありがとうね」
 父はひょいひょいといった感じで階段を下りていった。なんか妙にお茶目な人だ。
 梨玖はドアを閉め、ほっと一息ついた。
「あ~、びびった」
 それから、今日はもう無理だろうなと、遙紀の身悶える姿を見るのは諦めた。のだが。
 遙紀は部屋の真ん中で、ノートとシャーペンを握ったまま、微動だにしていなかった。
「……遙紀?」
 あからさまにびくっと身体を揺らし、遙紀がこっちを見た。
「どした?」
「……あ、あの」
 何か訴えたいことがあるけど言えない、という感じで、遙紀は怯えた顔をしていた。
 とりあえず、梨玖はノートとシャーペンを取って机に戻した。そして遙紀のそばにしゃがみ込む。
「どーしたんだ?」
「……う……」
 泣きそうな顔で、遙紀は赤面した。
「……な……治んないの」
「は?」
「さ、さっきからずっと……さ、触られてるみたいな……感じで……」
「あー。ひょっとして、あそこがずきずきうずく、みたいな?」
 遙紀はかすかに頷いた。
「んじゃ、続きやるか?」
「や、だ、だめ! い、今あんなことされたら、あたしホントに変になっちゃう!」
「ちゃんとイケなかったから、いつまでもうずいてんだよ。イったらすっきりするって」
 自分で言っててなんだが、ずいぶん怪しいセリフだ。でもまあ、この場合は当たっていると思う。一度絶頂する感覚を身体が憶えたからだろう。
「や、で、でも」
「いーからほら、寝ろ」
「え、こ、ここで!?」
「ベッドの方がいいか?」
「え、いや、あの」
 否定の言葉ではないと受け取り、遙紀を抱きかかえるように立たせ、ベッドに連れて行った。さっきと同じように座らせてから上半身を寝かせる。
「ね、ねえ、梨玖、や、やっぱりいいから、や、やめよ」
「いやダメ。ちゃんとイカせてやんないと男として失格だからな」
 と言ってスカートをめくりあげる。
「だ、だから……いやぁぁはあぁぁっ……!」
 充分濡れていたその中に、いきなり舌を入れると、遙紀は身体をのけ反らしてさっき以上の、悲鳴みたいな声を上げた。
 梨玖はちょっとびびった。枕は持たせていない。ので、今みたいな声が続くとさすがに一階の両親たちに聞こえるかもしれない。
 途中でやめたから、遙紀が頭でどう思っていようとも身体が不満を感じてうずいていた、というのは判るが、だからといって今の反応は予想していなかった。
 これが俗にいう、焦らしのテクニック。
 ……なんかちょっと違うような気がしないでもないが。
 激しい反応は、梨玖にしたら大歓迎だ。それだけ自分のやり方で感じてくれているということだから。
 身体が焦らされていると感じているのなら、徹底的に焦らしてやろうか。
 中心を攻めるのをやめ、遙紀の右の太股に舌を這わせた。
「ああ……んぅ……」
 声はおとなしくなった。が、中心に近づくと声が大きくなる。しかし直接は触れない。
 右足をしばらく舐めまくった。梨玖の唾液でべたべた。続けて左。
 遙紀の両手が、何かを求めて動き回った。しかし枕は遥か彼方。遙紀はシーツをぎゅっと握った。
「り……梨玖……」
「なんだ?」
「あ、あの……」
 焦らさないで触って。と言いたいんだろうと思ったが、遙紀が言うわけないのだった。
「なんかして欲しいか?」
 ちょっと意地悪なことを言ってみた。あとが恐いが。
「う……あ、あの……」
「なんだ?」
「……な……なんとかして……」
 遙紀は上気した顔でそう言った。梨玖は肩すかしを食らってしまった。遙紀の口から直接的な求める言葉を聞きたかったのだが。
 まあ、そう言っただけでもすごいことだし、しょうがないんでなんとかしてやろう。とは思ったが、梨玖は中ではなくて突起に舌で触れた。
「あひゃぁあんっ!」
 たぶん、直接中に来ると思っていたんだろう、遙紀はびくんと身体を揺らした。
「あ、やぁあっ、や、ちょっ、ああ、ち、ちが……ああっ……」
 お? なんか、違うって言いかけたような。
 進歩だ。
 ちょっと感動した梨玖は、焦らすのをやめて指でそこを広げ、中に舌を差し込んだ。
「はぁんっ……!」
 完全に、声の質がさっきと違う。感じているだけじゃなくて、気持ちよさも混じっているような気がした。
 二回目だからその点に余裕が出たのかも。
 勝手にそう判断して、舌で遙紀の中をかき回す。
「んふぁっ……やぁんっ、や、ああっ、んぁっ、あ、あ、あぁっ……」
 遙紀が握っているシーツに、さらにしわが寄った。
 もうすぐ達するんだろうかと思った梨玖は、深刻な問題に気づいた。
 ……まずい!
 この角度だとイった顔が見れない!
 なんのために枕を持たせたりやめたりしたんだか。
 今から指でやっちゃっても大丈夫だろうか。しかし今、舌を引き抜いたら押し寄せてた波が退いてしまうかもしれない。せっかく絶頂を迎えようとしているんだからこのままやった方がいいように思った。
 くそ! 今度は絶対顔見るぞ!
 梨玖は重大な決意を胸に秘めた。といっても、今度とはいつになるのか。
 単純な梨玖は、一旦諦めたことはすっぱり忘れ、舌先に意識を集中させた。
「ん、あ、や、あ、あ、んぁはあぁぁぁっっ……!」
 昨日とはちょっと違う声だった。びくびくと痙攣したように体を震わせ、一瞬の間を置いて、遙紀ははあぁ、と息をついた。
「遙紀?」
 達したんだろうとは思ったが、一応確認してみようと呼びかけた。が、遙紀は胸を大きく上下させて、はあはあ言うだけだった。
 梨玖はティッシュペーパーを持ってきて、遙紀の濡れた部分を拭いていく。
 それから、ベッドに上がって遙紀の横に座り込んだ。
「すっきりしたか?」
 聞くと、遙紀は寝転んだままに梨玖の顔を見て、かーっと赤くなっていった。
 ……なんなんだ、この昨日と全然違う反応は。
「……あ、あの……」
「なんだ?」
「あ、あたし……ホントに変じゃないの……?」
「は? なにが?」
「だ、だって……し、して欲しい、みたいなこと言って……」
「ああ。俺はもっと言って欲しいけどな」
「え!?」
「もっとはっきりさ、ここをあーして、とか、そこをそーして、とか」
「や、やだ、そ、そんなこと、い、言えな……!」
「言えないってことは、だ」
「え?」
「もっとあーしてほしいとかこーしてほしいって思ったのは思ったんだろ?」
「ち、ちがっ……!」
 言いかけて、遙紀はさらに赤くなった。
 あ~も~! 可愛いな、こいつ!
 どうにも我慢できなくなって、遙紀の上半身を起こして抱き寄せた。
「え、や、ちょっと……!」
 全体的に身体が柔らかい上に、さらに柔らかい二つの胸が梨玖の胸のちょっと下辺りにふにゃっとくっついてやたら気持ちよかった。
 しばらくじーっとそうしていると、梨玖の肩口で遙紀が何か言った。
「なんだ?」
 名残惜しいが抱き締めるのはやめた。遙紀の両腕を掴んで、顔を覗き込んだ。
「……あのね」
 遙紀は不安そうな顔をした。
 ……なんで不安そうな顔だ。こっちが不安になるだろーがよ。
「どした?」
「……なんでもない」
「はあ? なんだよ。なんか言いかけたんだろ?」
「……下着どこ?」
「は? ああ、あそこ」
 梨玖は床の一点を指差した。
 ベッドを降り、遙紀はこっちをちらっと一回見てから下着をはいた。
 ……下着の場所を聞きたかったわけじゃないだろう。
 だったらなんだ?
 梨玖は考えてみた。さっぱり判らないのですぐやめた。言いたくなったらそのうち言うだろうと思った。



 翌日。学校へは結局二人揃って行った。わざと別々に出ていくのもどうかと思ったのだが、どうせすぐに別々に行くことになるだろう。梨玖は遅刻魔だ。寝坊魔ともいう。
 高鳥高校は家から歩いて二十分ぐらい。家を出てから北へ行き、線路沿いに西へ歩く。元同級生なんかと会ったりしたが、別にはやし立てられるようなこともない。たぶんまだ同居の事実を知らないからだろうが。
 東にある正門を入って、まず北校舎の靴置き場で上履きに履き替える。自分の下駄箱の場所は三年間同じ場所だ。
 二年生の教室は南校舎。梨玖は遙紀と共に南へ向かった。
 校舎の入口横の壁に、白い大きな紙がべらっと貼られていて、生徒がいっぱい集まっていた。クラス分けの紙だろう。
「はーるきちゃぁーん!」
 甲高いロリータ声がした。クラス分けの表の前に集まった生徒たちの中から、小さい女の子が出てきた。
 大量の視線を浴びて、久遠が手を振りながらやってくる。遙紀と同じブレザーの制服を着ているのだが、久遠だとコスプレに見えるのはなぜか。
「おはよ、久遠」
「あのね、遙紀ちゃん。またクラス一緒なの!」
「あ、ホント?」
 こいつと一緒でも嬉しくないな。と梨玖は心底思った。
「俺は?」
「知らな~い」
「……見ろよ」
「自分で見ればぁ?」
 ああ、お前に言った俺がバカだった、とか思いながら、梨玖は生徒の山に突っ込んだ。
 梨玖はあまり背が高い方じゃないので、前の方に行かないと見えなかった。
 一組にいきなり遙紀の名前を見つけた。その前に久遠の名前も見つけてしまったが。
 そしていくら探しても、一組に自分の名前はなかった。
 別の方がいいかもとは思ったが、やっぱり彼女と別のクラスっていうのは悲しい。
 二組にもなく三組にもなく四組にもなかった。五組も六組もない。
 全部で八クラス。八組から見た方が早かったなと思いながら、七組に自分の名前を見つけた。
 ……七組……と一組って離れすぎ。
 あーあ、と嘆きながら知っている名前はないかと探してみた。
 ……あり?
 梨玖よりちょっと上に、工藤修祐という名前があった。
 ……しゅうすけ、って読むんだよな、これ。くどう?……って名前だったっけ?
 そう言えば名字は聞いていなかったが、間違いなくこれは遙紀の幼なじみだろう。
 なんであいつと同じクラスなんだか。
「あ」
「へ?」
 真横から聞こえた呟くような声に振り返ると、そこに東大予備軍がいた。
「……よお」
「あ、ああ……おはよう」
 なんかちょっと気まずいものを感じなくもなかったが、梨玖はとりあえず挨拶をしてみたら、相手も戸惑いながらも挨拶を返してくれた。
「これ、お前だよな?」
「え?……ああ、そう」
「修祐って呼んでいいか?」
 遙紀が名前で呼んでいるので、今さら工藤と名字で呼ぶのも変な気がした。
 驚いたような顔をしていたが、修祐は頷いた。
「ああ、いいけど……そっちは?」
「津月梨玖、っていうんだ。俺も梨玖でいいぜ」
「あ、そうか。名字別だったんだ。えっと、大陸の陸?」
「は? ああ違う。えー……あ、これ」
 と言って梨玖はクラス分けの紙に書かれた自分の名前を指差した。
「ああ……珍しい名前だな」
「そうか?……あ、そーだ。お前さ、今日暇か?」
「……今日?」
「ちょっと聞きたいことがあるんだ」
「……え?」
 修祐は眉をひそめた。今の言い方はまずかったかもしれない、と梨玖は思った。なんかいろいろ誤解されたかも。
「あーいや、え~、お前頭いいんだよな?」
「は?」
「法律に詳しいんだろ?」
「……いや、詳しいってわけじゃないけど」
「まあいーから。それでちょっと聞きたいんだ」
「……法律の勉強でもしてるのか?」
「勉強じゃねぇけどな」
 じゃああとでな、と言って、不思議そうな顔をしている修祐の元を離れた。
 遙紀は人だかりの一番端にいた。自分の名前を確認しているようだ。久遠もまだいる。
「梨玖、何組だったの?」
「七。あいつも一緒だった」
「え?」
「修祐」
「……そーなの?」
「ああ。今ちょっと話してきたんだ。帰ってから聞きたいことあるって言っといた」
「……へぇ」
 遙紀は珍獣でも見るような顔で梨玖を見た。
 一回恋敵だと思い込んだ相手と話したらそんなに変か?
「ねぇねぇ。しゅーすけって誰?」
 久遠は目を輝かせて聞いた。
「……なにが楽しいんだよ」
「えー、だってぇ。梨玖ちゃんピンチ!なのかなぁと思ってぇ」
「うるせぇ!」
 当たらずとも遠からずなので余計ムカついた。
「……あのね、久遠。修祐っていうのは、うちの裏に住んでる奴のことなの」
「遙紀ちゃんの友達なの?」
「え、うん、まあ……ね」
「ふうぅぅん。その人が遙紀ちゃん家に行くのねぇ?」
「な、なに?」
「お前、まさか……」
「はいはぁーい。私も行きますぅ」
「来るな!」
「いやぁん。梨玖ちゃんの不幸を楽しみたいのぉ」
「てめぇ!」
「く、久遠、仕事は?」
「お休み~。今週ずっとオフなのー。だから暇なのぉ」
 長年芸能界で培った有無を言わせぬ笑顔を振りまく久遠に、梨玖と遙紀は顔を見合わせてため息をついた。



 学校が終わったのが午前十一時。待ち合わせはしていなかった、というか久遠のせいでしている暇がなかったので、遙紀は先に帰ってしまっていた。待っててくれてもいいのにな、と思って家に帰ると、リビングに制服のままの久遠も一緒にいた。おそらく久遠が引っ張って帰ったんだろう。
 部屋に行って服を着替え、再びリビングに降りた。遙紀が昼食を作っていたので、また梨玖は久遠と嫌味の応酬をしていた。一方的に言われているような気もする。
 今日の昼食は親子どんぶり。梨玖は大盛り。特別にしてくれた、というよりはおかわりとか言われるのが嫌だからじゃないかと思う。
 父の分を遙紀が書斎に運び、それからなぜか久遠の分まで作っていた。
 ちょうど全員食べ終えた頃、玄関のチャイムが鳴った。おそらく修祐だろう。遙紀は片づけをしているので梨玖が出た。
「──はい?」
「……あ、こんちは」
「ああ、わりいな」
 まだ修祐の態度はぎこちない。顔見知りする奴なのかも。
 顔見知りなんて無縁の梨玖は、修祐を中に通した。
「……あ、え? さ、崎元久遠?」
 さすがに芸能人は有名だ。リビングに入った瞬間に、修祐は久遠を見て驚いていた。
 久遠はくるっと振り返り、修祐をじーっと見た。品定めでもしているんだろうか。
「な、なんで……崎元久遠が?」
「遙紀の親友なんだよ。不幸なことに」
 余計な一言に久遠がなにか嫌味を返すかと思ったが、なにも言われなかった。
「へぇー……高鳥にいたのか……」
 修祐は妙に感心したように呟いた。
「突っ立ってないで座れば?」
 コーラが入ったグラスを四人分、遙紀がお盆に載せて運んできた。
 梨玖が修祐を促して、ソファーに一歩近づいたとき。久遠がさっと立ち上がり、すたすたすたとこっちに近づいてきた。
 思わず身構えた梨玖だったが、自分じゃなくて修祐に用があったらしい。
 修祐の目の前に久遠が立ちふさがった。かなりの身長差がある。
「あ、あのぉ!」
「え?」
 修祐は戸惑っていた。久遠は思い詰めたような顔で言った。
「だ、抱いてください!」
 ──がたっ! ごちっ!
 ──ごとっ! ばりんっ!
 梨玖がずっこけてソファーの角で頭を打った音と、遙紀が手を滑らせてグラスを倒して割った音だ。
「……は?」
 ずいぶん経ってから、修祐のぽかんとした声がした。
 梨玖が振り返ると、冷や汗をかいている修祐と、必死の表情をしている久遠がにらめっこをしていた。
 ……あ、あいつ……あーいうのが趣味だったのか?
 と思ってから、梨玖は自分で論点がずれているような気がした。


第3章 いろんな進歩といろんな疑問 終わり

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eroerojiji

小さい頃からエロいことが好き。そのまま大人になってしまったエロジジイです。

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