小説(転載) 2人だけの奇跡(改訂版)2
近親相姦小説掲載サイト「母親の香り 息子の匂い」は消滅。
目をあけるとカーテンから漏れる黄昏の陽とともに布団に包まれていた。 心地よいまどろみの中でまったく見覚えのない天井が見え、そこが自分の部屋ではないことだけは確かだった。 おぼろげな記憶をたどると駅で貧血を起こしたところで終わっていた。 そして、ここがいてはいけない場所だと思い急いで起き上がった。
「あ、気がつきましたか?」
男の優しい声が聞こえたが、まりあは聞く耳をもたずに帰ろうとした。
「ご迷惑をおかけしました。本当に申し訳ありませんでした。」
「ちょ、ちょっと待って下さいよ。どこに行くんですか。」
男が戸惑って引きとめる。
「私帰ります。」
「ダメですよ。また倒れたらどうするんですか。」
「もう大丈夫ですから。」
「まだ気がついたばかりじゃないですか。もう少し休まないと・・・」
「私、知らない男の人の部屋にいるなんてできません。」
まりあは毅然とした態度で断った。
「僕はよく知っています。」
男は落ちついた態度でまりあを見つめている。
「私のなにを知っていると言うんですか?」
男は言葉を詰まらせた。
「・・・もう3時間以上もあなたの寝顔を見ていました。」
「人を馬鹿にしないでください。」
まりあは男の軽さに耐えられなかった。
「ごめんなさい。ごめんなさい。正直に言います。正直に言いますから。」
「なにを正直に言うんですか?」
「一目惚れしました。」
「なにを言っているんですか。」
「好きです。もう少し僕と話をしてください。」
「私、あなたみたいな人のこと好きじゃありません。」
まりあは誠実で一途な男性が好きだったが、今までにそんな男性と出会ったことはなかった。 この男からも誠実さを感じることはなかった。
「今は好きじゃなくてもいいんです。でも、あなたと話がしたいんです。 マルチパットも返さないといけなし。」
まりあにはマルチパットの意味がわからなかった。
「マルチパットって・・・なに?」
男は驚く様子もなく例の黒い楕円形のものを見せた。
「ああ、これね。マルチパットって言うの。じゃあ、 これの使い方教えてくれる?私わからなくて困ってたのよね。」
「いいですよ。でも、その前に名前くらい教えて下さいよ。僕はメシア。」
「あなたメシアって名前なの?ハーフ?」
まりあはあえて失礼な言い方をした。それくらいこの男に興味がなかった。
「いや。列記とした日本人ですよ。親の顔が見たいでしょ。そのうち見せてあげますよ。」
男は妖しい笑みを浮かべながら瞳でまりあの返事を求めた。
「私、そういう冗談は嫌いなの。私の名前は・・・まり。真理って書いて、まり。」
まりあは正直に本名を教えることに気が引けた。
「あ、そう・・・。じゃあ、真理ちゃんって呼んでもいい。」
男は一瞬ためらった様子を見せたが、すぐに明るく振舞った。
「好きにすれば。でも、私、あなたの笑い方嫌いよ。」
まりあはつれなく答えた。この男と長くつきあうつもりはなかった。
「僕の笑い方は母に似てるんですよ。」
「あらそうなの。残念だったわね。」
「もう、真理ちゃんはそっけないなぁ。」
男は照れながらも嬉しそうにマルチパットの説明を始めた。
「僕のはモニター付きのモデルだから見た目はちょっと違うけど、 それはモニターがついてない最新型なんだよ。」
男は自分のマルチパットと比べながら説明を始めた。 確かに男のマルチパットにはサングラスのようなモニターがついていた。
「なるほどね。耳と鼻で支えるわけね。うまくできているのね。」
まりあは男のマルチパットを手にとって観察していた。 男性用はまりあのものとは違い角ばった形をしていた。
「どう、気にいった?」
「こんな暗いモニターがついていてちゃんと前は見えるの?」
「装着すると自動で明るさが調節されるんだよ。しかも、最近はソーラーシートのせいで眩しいだろ。 だから、外にいるときはこれくらいでちょうどいいんだよ。」
「ソーラーシートってなによ?」
「ビルの壁とかに貼るだけで使える太陽光発電のシートだよ。 駅前のビルもほとんどソーラーシートが貼ってあっただろ。 それぞれのビルで発電できるのはいいけど、眩しいんだよね。」
「ああ・・・だから。」
まりあが駅を出たときに感じた異常な眩しさの原因はそれだったのだ。 確かに、今思えばサングラスをしている人が多かったような気もする。 もしかしたらサングラスではなくマルチパットだったのかもしれない。 まりあの頭の中は急速にこの世界の状況を把握し始めていた。
「真理ちゃんのはモニターがついてないから音声だけしか使えないけどね。」
「それで、なにができるのよ?」
まりあには声だけで操作できる機械というものが想像できなかった。
「基本的にはインターネットだよ。」
「音だけのインターネットに意味なんかあるの?」
「意味って・・・電話もできるし、検索もできるし、健康管理もできるし、音楽も聞けるし。」
男はとりあえずマルチパトでできることを思いつく限り並べてみた。
「電話ってどうやってかけるの?」
まりあは声だけで電話をかけるということに素朴な疑問を感じた。
「登録した名前を言えばいいんだよ。」
「でも、例えば私とあんたみたいに近くにいたら話をしているだけで電話がつながっちゃうの?」
「一応、距離が近かったり日常会話のトーンのときは 機械が判断してつながらないようになっているらしいんだけど、 ときどきおかしいときがあるかな。 でも、『真理ちゃんどこにいるの?』って言ったら近くにいてもつながるよ。」
「なるほどね。あんた詳しいのね。」
「母が旧型を使い続けていてね。 僕が不便だからこの前新しいのを買って送ってあげたんだけど、 真理ちゃんのはそれと同じ型なんだよね。」
「ああ、だから詳しいのね。」
マルチパットの説明を聞いてまりあも少しずつ気を許し始めていた。 少なくとも、今すぐにでも帰ろうとする気はなくなっていた。
「どう?これってかわいいと思わない?」
「そうね。ちょっと慣れないからわからないけど、デザインは悪くないわよね。」
「そう言ってくれると嬉しいね。まだ、母の感想を聞いてないんだよ。」
「あんたってマザコンなの?私よりも母親の話ばかりじゃないの。」
まりあは容赦なく男の発言の上げ足をとった。
「違うよ。うちはね・・・特殊なんだよ。」
そう言うと、男はまた例の含み笑いをした。
「その笑い方嫌いって言ったでしょ。 それに、なにもったいぶった言い方してんのよ。人間には誰にでも母親がいるものよ。」
「僕にはもう1人の方がいないんだよ。父が・い・な・い・の。」
「母子家庭なの。じゃあ、お母さん苦労したんでしょうね。ごめんなさいね。」
まりあは申し訳ないことを言ってしまった気がしたが、謝罪の言葉は型どおりのものに過ぎなかった。
「それも不正解です。最初っからいないんだよ。母はね男と寝てないのに僕が生まれたんだって。 だから僕はキリストと同じなんだよ。」
「そんなわけないでしょ。なに言ってんのよ。」
まりあはそんなことを真面目に言う男が信じられなかった。
「ウソじゃないよ。だから僕の名前はメシアなんだもん。イエスでもキリストでもよかったんだよ。 だから、僕の母はマリア様なんだよ。」
初めて男は笑わずに言い切った。
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