小説(転載) 2人だけの奇跡(改訂版)3
近親相姦小説掲載サイト「母親の香り 息子の匂い」は消滅。
まりあはドキッとした。 自分の名前は姓が聖だからまりあになったと両親から聞かされたことはあったが、 それはたまたまのゴロあわせのようなものにすぎなかった。
「まあ、母は男がいないのに僕を生んでしまったからかなり苦労をしているみたいだけどね。 だって、普通ならそんなわけないじゃん。 だから、誰にも信じてもらえなくって、 頑固に1人で殻に閉じこもって社会と接点をもとうとしないんだよ。」
まりあには不思議と男の話がウソだとは思えなくなっていた。
「ねえ、お母さんってどんな人なの?」
「どんな人って・・・もう誰も信じないって感じかな。 マルチパットだって僕からの着信しか登録してないしね。 昔はなんか宗教にはまった時期もあったみたいなんだけど、もう神様も信じてないんじゃないかな。 なにも言わないけど僕にはわかるよ。だって、神様なんかいたっていなくたって一緒じゃん。 もしも神様が本当にいるのだとしたら母みたいな人を作ったりしないと思うな。残酷だよ。」
男は悟ったようにささやいた。
「神様かぁ。そんなこと考えたこともなかったなぁ。 そんなになってまでもお母さんはどうして生き続けているのかしらね。」
まりあは息子に残酷とまで言われる女が生き続けていることが不思議だった。
「さあ、聞いたことないからなぁ。なにか生き続ける理由があるんだろうなぁ。 ずっとここに住んでなきゃいけないんだって古いアパートに住み続けているしね。」
「そこになにか秘密があるの?」
「さあな。かなり不便だと思うんだけど、それ以上のものがあるんだろうなぁ。 でも、オレにはそんなこと聞けないよ。そっとしておいてあげたいんだ。 もうこれ以上、母の生活を狂わせたくないんだよ。」
まりあは男が母親のことを労わる気持ちに感心した。 しかし、この母子の不幸な過去を垣間見たような気がして同情した。
「でも、神様だってずっと不幸な人にはものすごい幸福をくれるかもしれないじゃない。 私みたいにずっと平凡な人生だとすごい不幸もすごい幸福もないのかもしれないのだけれど、 すごい不幸を経験したらすごい幸福があるかもしれないとは考えられないのかしらね。」
まりあはそう言ってから気休めに過ぎなかったような気がして後悔した。 それほど男の言葉が重たくのしかかっていた。
「そうだといいんだけどな。でも、僕は生まれてきただけでも幸福だよ。真理ちゃんに会えたしね。」
「そんなことついでに言わなくてもいいのよ。」
まりあの笑顔で少しだけ雰囲気がなごんだが、 まりあは男の過去の話を聞かなくても十分に試練に耐えてきたことがわかった。
「あんたも結構苦労してきたのね。いじめられたりもしたんでしょ。」
「そりゃね。父が存在しないわけだからね。悩んだこともあったかな。」
「他人事みたいに言うのね。」
まりあは男の地獄のような過去を想像しながらも、それとは対照的な明るい性格に安心もしていた。
「だって、しょうがないだろ。母がそう言うんだし、実際そんなつまらないウソをつくような母じゃないしね。 僕が信じてあげなかったら誰が信じてあげるんだよ。 僕は母が生きている限りは生き続けなくっちゃいけない運命なんだよ。 不幸を覚悟で産んでくれたんだからね。 産む前からわかっていたはずなんだよ。こんなことになるんだって。」
まりあは男の母親が生き続けている理由がわかったような気がしたと同時に、 男の強い覚悟も感じることができた。
「あんた見かけより強いのね。少しだけ見直したわ。」
「そう?僕は最初から真理ちゃんのこと好きだよ。」
ふたたび男は含み笑いをした。
「そういうことはね初対面で言うもんじゃないわよ。」
まりあも無意識に含み笑いをしていた。
「真理ちゃんは一目惚れを信じないのかよ。」
「信じるとか信じないじゃないのよ。 もっと時間をかけてよく知ってから好きとか嫌いとかわかるものじゃないの?」
「それは信じていないからだよ。世の中には奇跡ってものがあるんだよ。 奇跡っていうのは宝くじに当たるとかそんなしょぼい話じゃないんだよ。 もっと宇宙全体がひっくりかえるような、 それこそ男と寝ていないのに子どもが生まれちゃうようなことを奇跡って言うんだよ。 僕は奇跡を信じてるよ。 それに比べたら一目惚れなんてよくあることだよ。一瞬だけでも見たらわかるんだよ。この人だって。」
「ちょっと見ただけで私のなにがわかるって言うのよ。」
まりあは男が自分になにを見出したのか見当もつかなかった。
「例えばさぁ、なんて言うのかなぁ・・・この人のことを昔から知っている確信があるとか、 ちょっと違うなぁ・・・今言わないと一生告白するチャンスがないかもしれないって言うか・・・ うまく説明できないよ。 とにかくさぁ・・・この人のためなら他人の目なんか気にならないって言うのかな。 実際、真理ちゃんをうちまで連れてくるのも大変だったんだからね。 真理ちゃん倒れちゃうから、『大丈夫です、大丈夫です。僕、この人の知り合いです。』って言って タクシーでここまで来たんだから。こういうことができるっていうことが一目惚れってことなんじゃないかな。 真理ちゃんじゃなかったらこんなことしてないと思うよ。 駅員さんとかを呼んで、『はい、さようなら』ってできたんだからね。 そしたらそれっきり会えないわけでしょ。 初めて会ったのに、それじゃダメだってその瞬間に思っちゃうのが一目惚れだったんじゃないのかな。」
まりあは男の熱弁に聞き入っていた。
「あんたよくそんなに熱く語れるわね。」
「僕はね、このときのために生きてきた気がしているんだ。 真理ちゃんを見た瞬間に奇跡だって思ったんだよ。」
まりあは男の口説き文句に心を動かされてしまっている自分がいるのがわかった。 まりあが男に魅力を感じたわけではなかったが、男の気持ちに応えてあげなければならない気持ちになっていた。 そして、男の言う奇跡というものがどういうものなのかも知りたいと思った。
「・・・私もその奇跡を信じてみようかな・・・。」
そう言うとまりあは男により添って座って、男の肩に頬を寄せた。
「奇跡を信じるってどういうことだよ。」
「あんた鈍いのねぇ。そんなこと女の口から言わせるんじゃないの。」
駄々をこねる子どもを諭すようにまりあが優しく甘えてみる。
「ホントにいいのかよ。」
男が緊張気味に正面を見つめたまま尋ねる。
その緊張が伝染したかのようにまりあがぎこちなくうなずく。
「あんたが好きなわけじゃないのよ、同情してあげているだけなのよ。」
男性経験のないまりあが照れ隠しを言う。
「やっぱり真理ちゃん運命の人だっただろ。」
男の手がまりあの背後から肩に伸びるとまりあの体を引き寄せた。
「初めてなんだからね。優しくしてよね。」
「オレだって初めてだよ。」
男の手が震えていた。
「なに急に緊張してんのよ。さっきまでの強気のあんたはどこに行っちゃったのよ。」
「人生で1番大切なときなんだぞ。緊張くらいするだろ。」
「なに大げさなこと言ってるのよ。運命の人なんでしょ。・・・大丈夫よ、うまくいくって。」
まりあは男の言う運命という言葉になぜか説得力を感じていた。 男が本当に初めからまりあのことを知っていたかのような錯覚に陥っていた。 もはや男のことを他人のようには感じていなかった。 男は優しくまりあの唇を奪うとそのまま倒れ込み2人の体が絡みあった。
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