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小説(転載) 蒲柳の母2-1

近親相姦小説
03 /27 2022
掲載サイト「母親の香り 息子の匂い」は消滅。

「私の勤務地は東京になったから。」
今思えば悪夢の始まりはこの一言だった。 そのときは誰にとっても悪夢の引き金となるような言葉には思えなかった。 人生は往々にしてそういうものである。 なにがきっかけで大きな波が起こるかなどわかるはずがない。
「ユッコに1人暮らしなんかできるのかよ。」
姉の優子は家族ではユッコと呼ばれている。 幹太も小さな頃から由布が呼ぶユッコという愛称で姉のことを呼び続けていた。
「ユッコがいなくなると寂しくなるわねぇ。」
ある程度覚悟は決めていたのだろうが、由布の第一声は悲観的なものだった。 由布とユッコは仲の良い姉妹のような関係だった。 由布が不安を感じるのも無理はなかった。
「まあ、この不景気にちゃんと就職できたんだからよかったじゃないか。」
父の太一(たいち)が場を和ませるようなことを言うのは珍しい。
「これで1人減ってせいせいした。」
そんな言葉が出てきても誰も不思議には思わなかっただろう。 決して冗談ではない。 太一が子育てに関心を見せたことは1度もない。 2人の子どもにとっても太一は謎の多い存在だった。
「どうしてうちには子どもが2人もできたのかしら?」
幹太とユッコはそんな会話をとしたことがある。
「お父さんが望んだとは思えないよね。」
「じゃあ、お母さんが欲しがったの?」
「お母さんいっつも愚痴ばっかり言ってるよ。」
「誰がその愚知を聞いてると思ってるのよ。幹太がなにをしたって言うの。 私が全部聞いてあげてるんでしょ。」
ユッコが由布との会話を快く思っていなかったことを幹太はそのとき初めて知った。 由布とユッコは夕食後楽しそうに会話をしていた。 少なくとも幹太はそう思っていた。 しかし、実際にはユッコも由布と会話をすることに楽しさをみいだしていたわけではなかったようである。 太一が夕食をともにすることは週末くらいだったし、 たとえ夕食を一緒に食べても、食べ終わるとすぐに自室に閉じこもってしまった。 幹太もリビングに残ってテレビを見ていても、女同士の会話に口を挟むことはなかった。
「僕なんかユッコがいなかったら家族で会話なんてほとんどないよ。」
ユッコは由布の通訳のような役割だった。 由布の意思のほとんどはユッコの口を通して幹太に伝えられていた。 太一の意思はユッコにすら伝わったことがほとんどなかった。 由布で止まっていたのか、太一が意思表示をしなかったのか、それすらユッコにも定かではなかった。
「私は幹太のお母さんじゃないんだからね。」
ユッコには家族の間をとりもってきたという自負はない。 ましてや、幹太を育ててきたという認識もない。 ただ、長い間幹太と由布がちゃんと会話をしていないことだけは知っていた。 しかしそれは、男の子と女親という難しい関係が原因なのではないかとユッコは漠然と考えていた。
「でも、2歳しか違わないのに お母さんよりユッコに育ててもらったみたいな気がするよ。」
幹太は昔のことを思い出したようにつぶやいた。
「子どもの2歳は大きいのよ。」
ユッコはまだ幹太を子ども扱いしていた。 大人の由布と子どもの幹太の間に入る存在がユッコ自身であると感じていた。
「確かに、小さい頃は掛け算ができるとか、フランスの首都を知ってるとか、 そんなことでユッコのことを尊敬してたもんなぁ。」
幹太の頭の中では次々と昔の想い出が湧き出してきた。
「なんか昔はよかったよね。」
幹太は小さな頃の幸せな生活が懐かしかった。
「お父さんは私たちと一緒に住んでいて幸せなのかしらね。」
ユッコはふとそんなことが気になった。 由布と幹太のことはよく知っている。 しかし、太一のことはユッコにもよくわからなかった。
「お父さんは絶対に幸せじゃないと思うよ。 だって、いつも1人でいたい人だろ。」
幹太は自信満々に言い切った。 幹太には太一が家庭を築いたこと自体が奇跡だと思っていた。
「そうよね。お父さんって見えない壁があるわよね。 話しかけても『うん』とか『ああ』とかしか言わないし。」
「そうそう。感情がないみたいだよね。」
幹太が太一を否定するのは反抗期だからだろうか。 それとも肉親だとは感じていないからだろうか。 いずれにしても幹太から太一に関してよい言葉は出てこない。
「でも、それで会話ができるのだから、やっぱり家族なのかしらね。」
ユッコは決して太一を擁護するつもりはなかった。 しかし、ユッコは家族を大切にしたかった。 だからこそ由布の愚痴も聞いてきたし、太一の行動に対しても文句を言うことはしなかった。
「家族ってもっと通じあえるものかのかと思っていたよ。」
幹太は諦めたようにつぶやいた。
「私は通じあえていると思っているわよ。」
やはりユッコの方が2歳年上なだけのことはあるようだった。 ユッコにだけ甘えてきた幹太にとってはこの複雑な家族の相関関係を理解することは難しいようだった。 しかし、家庭の環境が複雑なのはこの家庭に限られた話ではない。 どの家庭でも少なからず人間関係に問題を抱えているはずである。 その問題が表面化しない限り、特に大きな問題とはならないだけのことである。 この家庭ではユッコがその防波堤となっていたのだろう。

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eroerojiji

小さい頃からエロいことが好き。そのまま大人になってしまったエロジジイです。