小説(転載) 蒲柳の母2-3
近親相姦小説掲載サイト「母親の香り 息子の匂い」は消滅。
由布の高いプライドの比較対象はユッコだけではない。
「木之元さんの旦那さん、また不倫がバレたんだって。」
ユッコと2人しかいない食卓で由布が小声でつぶやく。 決して誰かに聞かれたくないから小声になるわけではない。 リビングに幹太がいれば十分に聞き取れる程度の小声である。 おそらく小声になるのは由布の癖なのだろう。 心の奥底にやましい気持ちがあるのかもしれない。
「お母さん、そういう話を誰から聞いて来るのよ。」
ユッコは常に母親たちのネットワークには感心している。 誰かに漏れれば瞬時に全員に伝わるような錯覚を覚えていた。 確かに女子高生の情報網もかなり発達はしている。 しかし、女子高生の情報ネットワークよりも明らかに組織ができあがっているような気がした。
「永原さんから聞いたのよ。 永原さんも1度旦那さんが不倫をして離婚しそうになったことがあるでしょ。 ちょうどそのころ木之元さんも不倫がバレて2人でよく相談していたみたいなのよ。 永原さんなんて拒食症になってすごく痩せちゃったことがあったのよ。 見ていてホントにかわいそうだったわ。」
他人事だからこそ出てくる同情の言葉である。 由布は他人の不幸を小声でいつまでも話し続ける勢いであった。 こんなときユッコは由布の話をさえぎることなく差し障りのない言葉を挟む。 これはちゃんと由布の話を聞いているという意思表示でもある。
「じゃあ、木之元さんは2度目ってこと。」
「違うのよ。前に3人と不倫していたのがバレちゃったんだけれど、 そのうちの1人と切れてなかったのよ。前にバレたときは2年位前だと思うから、 その間もずっと不倫を続けていたってことよね。あんたも気をつけなさいよ。 不倫する男は何度だってするって言うんだから。お父さんみたいに女の人と話ができないくらいでちょうどいいのよ。 私はそういう心配がないからホントによかったわ。」
由布は太一がモテないことですら自慢話に変えてしまう。 ユッコの高校でも男女のこじれた話は頻繁に聞くが、結婚していないだけまだマシである。 離婚などの法的な話と関係がないうちは、まだまだ子どものじゃれあいなのだろうか。
「高校でも彼氏が浮気したって泣いてた子がいたなぁ。」
ユッコは自分の身の回りの話を始めようとした。 特別由布に聞いて欲しい話だったわけではなかったが、 予想通り、その言葉は導入部分だけで由布にただちにさえぎられた。
「そうでしょ。どこにでもいるのよ、そういう男って。 木之元さんの旦那さんの相手って同じ会社の人で奥さんも知ってる人なんだって。 木之元さんって社内恋愛だから会社の人のこと知ってるのよ。 もう、最低よね。私の知ってる人がお父さんに手を出したら殺しに行くかもしれないわよ。」
ユッコの暴力的な性格は由布の血なのかもしれない。 しかし、人の話を聞かずに自分の話をまくしたてる由布の性格はユッコには受け継がれなかったようである。
「だって、考えてもみなさいよ。 知っている女がずっと隠れてお父さんと寝てたなんて考えられる? 旦那さんも旦那さんだけど、女の方もひどいわよねぇ。 1度バレたのに関係を続けるなんて普通じゃないわよ。」
「普通の女だったら最初から不倫なんてしないわよ。」
ユッコはもう自分の話をすることをあきらめていた。 むしろ由布の前で自分の話を聞いてもらおうとすることが無理なことである。 ユッコはそんな由布の性格をイヤなほど熟知していた。
「そうかもしれないわねぇ。木之元さんはどうするのかしら。 私なら絶対に離婚するわよ。慰謝料ふんだくってやるんだから。 だって、バレたあともずっと隠れて関係を続けていたなんて信じられないわよ。 でも、離婚したらその女と再婚するのかしらね。それもシャクよね。 愛はなくても別れないでその女に会わせないようにする方がいいのかしら。 もう、考えただけでも腹が立つわ。」
由布はまるで太一が不倫をしたかのように怒りをあらわにしていた。
「どうしてお母さんがそんなに怒るのよ。 関係ないんだから、お母さんがそんなこと考えたってしょうがないでしょ。」
由布は1度熱くなるとなかなか冷めない性格である。 しかし、ユッコは熱くなる由布をほどほどのところでなだめる役割も担っていた。 由布の熱くなるポイントさえ把握していれば、熱く語る由布を冷ますことも難しいことではなかった。
「それもそうよね。私には関係ないものね。」
由布はあっけらかんと言い放った。 由布は太一が不倫をすることがないと信じて疑わなかった。 信じて疑わなかったからこそ、浮気問題は他人事でしかなかった。 しかし、その太一を信じて疑わない由布自身が太一以外の男と寝ることになるとは夢にも思わなかっただろう。
「でも、人生ってなにが起こるかわからないわよね。 信じて結婚した人がたまたま不倫する人だったら一生不幸なままってことでしょ。」
ユッコはこれから自分の夫となる人を想像して不安を覚えた。 ユッコは決して男慣れしているわけではない。 男とつきあうくらいなら女友達と楽しくしている方がいいと思うような性格である。 女友達から男っぽい性格だと言われ続けてきたユッコが、結婚する相手など想像することすら難しいことだった。
「そうよ、ユッコも気をつけなさいよ。そういう人は始めからそういう人なのよ。 ユッコが頑張ったってどうしようもないのよ。だって、木之元さんの奥さんすごくいい人だもの。 あんなにいい人を泣かせるなんて悪い男がいたものだわ。」
ユッコを気遣った言葉でさえも、このときの由布にとっては自分は不幸ではないと確かめるためのものでしかなかった。 由布は終始小声でユッコに話し続けてた。 由布の高いプライドは、実はもろいガラスでできていたのかもしれなかった。
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