小説(転載) 蒲柳の母5-3
近親相姦小説掲載サイト「母親の香り 息子の匂い」は消滅。
幹太に助けられているからではないのだろうが、 由布と太一との関係は日に日に悪化していった。 もちろん最初は由布が太一にお茶碗を投げつけたことが原因である。 しかし、その行為に対して太一は夕食を外で食べてから帰るという返事で答えた。 今では朝食も由布が朝早く作って、誰もいない食卓で太一が1人で食べている。 この一家は朝食を外で食べることができるほど都会には住んでいなかった。 由布を立ち直らせるのは、本来夫である太一の役割である。 少なくとも普通の家庭ならそうだと幹太は信じていた。 しかしその役割を今は子どもの幹太が担っている。 夫の太一は見て見ぬふりをしている。
「なぜお母さんはお父さんを選んだのか。」
小さい頃から太一との接点が少ない幹太は常に由布の側からこの夫婦を見つめていた。 それは今でも変わらない。 しかし、幹太はただ由布を抱きしめ続けただけだったが、 由布が太一を選んだ理由がわかり始めた気がしていた。 由布は常に他人を見下す。 少なくともユッコと幹太の姉弟はずっとそう思ってきた。 その見方を少しだけ変えればよい。 つまり、見下すことができる人間しか近づかせなかったのではないだろうか。 由布は見下すことができるが、最低限の生活は保障してくれるパートナーとして太一を選んだのではないだろうか。 そう考えるとリビングで聞き続けた由布の愚痴も説明できる気がした。 由布は近所の友達ですら見下す対象として扱っていたのではないだろうか。 そして、他人を見下すことによって由布のプライドを守る。 そこに由布よりも優れている人間が現れるとすべてが破綻する。 それを由布は1番恐れていたはずである。 親しい家庭の不倫問題ですら由布にとっては格好の見下す材料だったのだろう。 由布が小さな声でユッコに話をするとき、 由布の心のどこかで他人を見下しているという、やましい気持ちがあったに違いない。 由布が太一の話をしているときに太一の悪口を言ったことはない。 むしろ、太一を擁護するような発言が多い。 しかし、これは裏を返せば、 由布が太一を褒めてもプライドが傷つかないほどに見下しているということにはならないだろうか。
「お父さんって実は頭がいいのよ。」
この言葉の裏には、太一を夫としている由布のプライドを守ると同時に、 太一を褒めても由布にはそれ以上に余裕があったと考えることもできる。 由布がほめることがあるのは太一だけである。 しかし、太一を尊敬している様子は全く感じられない。 事実、高専を卒業した太一よりも、有名女子短大を卒業した由布の方が学歴でも上だと考えていた。 おそらく結婚を決意した理由も、 堅実な仕事をしていて、安定した収入があって、遊ぶことを知らない太一が理想であったことは 十分に考えられることである。
幹太には太一に関して、誰にも相談できないまま常に疑問に思っていることがあった。 幹太は太一を父親だと感じたことがほとんどない。 接点が少ないということもあるが、性格も似ているところがないに等しい。 体型も似ていない。 由布と幹太は物をきれいに片づけることが好きだったり、性格が似ているところがある。 例えば、本は本棚にきっちりと小さいものから順に並んでいないと気になる性格である。 太一の部屋は男の部屋とは思えないほどきれいに片付いている。 物が決まったところにないということが幹太にとっては不満なことだった。
「幹太の部屋て女の子の部屋みたい。」
かつて幹太はユッコにそんなことを言われたことがる。 幹太も別に悪い気はしない。 由布はそんな部屋が当たり前だと思っていた。 その一方で、太一の部屋は物が乱雑に散らかっていた。 由布も太一の部屋の掃除をすることを放棄していた。 それに、幹太は太一の1つのものごとに熱中する性格や、いつまでも集中できる性格を一切引き継いでいない。 太一は模型作りなどの趣味を持っていたが、1度作り始めたものは必ず完成させる。 しかも細部にまでこだわっている。 幹太は小さな頃そんな太一を尊敬していたことがある。 マネをしてプラモデルを作ってみたりもした。 しかし幹太には完成させることすら無理だった。 完成する前にきれいにできてないことが不満でやめてしまう。 そして、しばらくするともう作ることもないだろうと考えて捨ててしまう。 太一の部屋には美しい完成品が並んでいるのに対して、 幹太の部屋には1つでも完成品が置かれることはなかった。
「幹太はどうせ捨てちゃうのだから、もう買わなければいいのに。」
ユッコにそんなことを言われてからプラモデルを買ったことはない。 それに、太一のようにちゃんと完成させる自信もない。 また、太一は1人では炊事も洗濯もまったくできないが、幹太は食器洗いなどものがきれいになることは好きである。 小さい頃は食事のあとの後片付けのお手伝いも自ら進んでしていた。 このお手伝いは幹太にとっても楽しいことだった。 きれい好きな性格はユッコにも受け継がれている。 ユッコはなにかというと掃除をしていた。 少しでも汚れているところを見つけるとすぐに掃除をした。 太一は部屋が汚れていても気にならない性格である。
「お父さん汚さないでよ。」
ユッコはよく太一に文句を言っていた。 この性格は由布の性格でもある。 由布の潔癖症は高いプライドとも関係しているのかもしれない。 身の回りが汚れていることを由布自身が許せなかったのだろう。 幹太はそんな由布の気持ちを理解することができた。 しかし、太一とは性格が似ていると思ったことはなかった。 なぜ、親子でこんなに性格が違うものなのか、幹太には納得ができなかった。 由布とは似ていると思うことがあるのに、太一とは似ていると思うことがないのである。 太一は同じ屋根の下で別の生活をしているに等しかった。 由布とケンカをした今となっては、その生活がさらに激しくなっていた。 しかもユッコはもういない。 由布と太一だけが密かに結びついている。 そんな生活が日常となっていた。 太一と性格がまったく似ていない。 もはや太一と会話をする機会も皆無と言っていいほどだった。 この疑問は誰にどう聞けばよいのだろうか。 幹太の悩みの1つであった。
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