小説(転載) 蒲柳の母6-1
近親相姦小説掲載サイト「母親の香り 息子の匂い」は消滅。
ある朝、まだ幹太が起きる前、由布は朝食の準備をしていた。 朝の由布は機嫌がいいことが多い。 やはりユッコと楽しく会話をしていた夕食後が1番落ち込むことが多いだろうか。 しかし、その朝は違った。 幹太が寝ている部屋に音も立てずに由布が忍び込んできた。 ユッコがいなくなってから幹太は1階の部屋で生活をしている。 以前はユッコの部屋だった場所である。 理由はいたって簡単である。 由布の寝室も1階にあるからである。 太一とともに2階で生活していた幹太は、由布のために1階に下りてきた。 その部屋に由布が飛び込んできたのである。 幹太はまだ寝ている。 由布は乱れる息を抑えながら幹太を起こした。
「幹太、起きて。早く起きて。」
由布は幹太にすがりついた。
「えっ!今何時?」
幹太は寝坊したのかと勘違いして飛び起きた。 幹太の声に由布が慌てる。
「大きな声出さないで。お父さんに気づかれるでしょ。」
由布の腕はなにかに怯えて震えている。 幹太は半分寝ぼけたまま条件反射で由布を抱きしめた。 しかし、由布の震えが止まらない。
「どうしたんだよ。しかも、こんな朝早くに。」
幹太は由布を抱きしめる腕に力を込めた。
「朝ご飯を作っていたら、2階でお父さんお足音がして、そしたら・・・」
由布はまるで幽霊でも見たかのように怯えている。 由布が恐れているのは太一の存在ではない。 由布自身が暴れ出すことである。 それは幹太も十分にわかっている。 それほどの回数だけ由布を抱きしめてきた。 由布の心の乱れに関しては、まるで恋人のように幹太は理解していた。
「もう大丈夫だって。」
幹太はとりあえず由布を安心させようとした。 太一が階段を下りてくる音がする。 幹太にはただの足音に聞こえていても、由布には家全体がきしんで由布を押し潰すような音に聞こえていた。
「大丈夫じゃない。」
由布が小声でつぶやく。 幹太はいつもよりも敏感な由布に不安を感じ始めていた。 いつものように幹太の抱擁で簡単に平常心を取り戻すことができないようだった。 幹太はベッドに座ったまま不安定な体勢で由布を抱きしめている。 由布もベッドに片膝をのせて幹太に体を半分だけあずけている。
「いつもみたいに抱きしめてあげるよ。」
幹太は由布を立ち上がらせるといつものように立って抱きしめた。 由布もいつものように両腕を胸の前に組んで幹太の腕の中にすっぽりと納まる。 由布の体の震えは収まっていたが、由布の心はまだ落ち着いていない。 なぜか幹太にはそれがわかる。 それがわかるから抱きしめる腕から力を抜くことができない。
「まだダメ。」
由布は小声で幹太を求め続ける。 幹太の胸に由布の声が響く。
「わかってる。」
太一に聞こえないように幹太も小声で答える。 お互いに耳元でささやきあっているような状態である。 幹太の背中には緊張感が走る。 こんなに壊れてしまいそうな由布を見るのは初めてかもしれない。 いつもの由布からは想像もつかないほどに、か弱い乙女を演じているようだった。 しかし、幹太には演技ではないことがわかる。 いつまで抱きしめればいいのかも想像がつかなかった。 永遠にいつもの由布が帰ってこないようにも思われた。 そして太一が朝食を終えて2階に上がっていった。 20分は抱きしめていただろうか。
「お父さん、行っちゃったよ。」
幹太は由布の頭上でささやく。
「知ってる。」
由布の返事に幹太は困った。 もう抱きしめなくてもよいかと思っていたのに、由布はそれを許してくれないようだった。 由布は幹太に体をあずけている。 幹太は由布の体を支えている。 幹太が由布を抱きしめ続けるのも限界があった。 こんなに長く抱きしめ続けたことはかつてなかったことである。 しかも寝起きの完全に目覚めていない体である。 足元にも力が入らない。 「『人』という字は人と人が支えあってできている。」 そんなつまらないことまでが幹太の脳裏をよぎるほど由布は幹太の腕の中にいた。 確かに2人は現在『人』という漢字を作っていると幹太は思った。 『人』は支えあわなくては生きていけない。 まさにそれを実感しているのが幹太だった。 1人では生きることができないガラスの心をもった由布を、 1人では生きることができない未成年の幹太が抱きしめている。 2人とも不完全な生き物だった。 そしてとうとう太一が出勤した。
「お父さん、行っちゃったよ。」
幹太はそろそろ許してほしかった。
「もう大丈夫かな。」
由布が不安げに答える。 幹太は恐る恐る由布を抱く力を弱めてみた。 由布も恐る恐る幹太を両腕で押して間を広げていった。 由布が顔を上げることはない。 これまでも立ち去るときに由布が顔を見せたことはなかった。 幹太は由布がどんな表情で去っていくのか知らなかった。 いつもうつむいたまま逃げるように由布は帰っていった。 この日も由布はうつむいたまま心の中を探っていた。
「うん。もう大丈夫。」
由布は力強く声を振り絞った。
「よかった。」
幹太は思わず自分自身が解放される喜びを口にしてしまった。 しかし、この言葉は由布の回復を喜ぶ言葉とも聞き取ることができた。 その瞬間、由布を開放しようとした幹太の足元がふらついた。 幹太に全身をあずけていた由布の体も一緒にふらついて膝から落ちそうになった。 幹太は慌てて由布の体を支えようとする。 しかし、幹太は由布を支えきることができなかった。 由布は膝から落ちて幹太の腰にすがりついた。
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