小説(転載) 蒲柳の母7-1
近親相姦小説掲載サイト「母親の香り 息子の匂い」は消滅。
「幹太。抱きしめて。」
その夜、由布がいつものように幹太に抱擁をねだった。 幹太はしばらく躊躇して返事をした。
「イヤだよ。今朝みたなことになるんだろ。」
由布は想定外の返事に戸惑っているようだった。 由布が抱擁を求めてきた瞬間の由布はそれほど落ち込んでいなかった。 それは幹太にもわかることである。 幹太は抱きしめなくても大丈夫なのではないかという思いもあった。 しかし、幹太が拒否した直後の由布は明らかに落ち込みが激しかった。
「わかったわよ。もう頼まないわよ。」
由布は怒って出て行った。 幹太は決して抱きしめたくなかったわけではない。 抱きしめて由布が落ち着きを取り戻してくれるのであれば幹太もそれを望んでいた。 しかし、その後の展開が恐ろしかった。 朝のように由布に襲われたら夜はエンドレスである。 そう考えながらも幹太は拒否したことを少し後悔していた。 そのときである。 激しく食卓を叩く音がしてきた。 とても人間の手で叩いているとは思えないような音だった。 幹太は急いで食卓に向かった。 幹太は食卓の前で暴れている由布を見て目を疑った。 由布は両手でフライパンを握りしめて食卓を叩き続けていた。 また振出しに戻った気がした。 幹太が多少冷静だったことだけが、昔とは違っていた。 幹太は由布がフライパンを振り上げた瞬間にフライパンを取り上げた。 そして、由布を後ろから抱きしめた。
「もう抱きしめてくれないって言ったでしょ!」
由布は悲鳴を上げた。 おそらく近所にも響き渡ったであろう。 幹太は右手で由布の口をふさぐと左手だけで由布の体を抱きしめた。 しかし、片手で暴れる由布を止めることは難しかった。 由布は体勢を入れ替えると思いっきり幹太の胸をなくり始めた。 かつて見た風景がそこでは再現されていた。
「お母さん、どうすればいいんだよ。抱きしめたら落ち着くのかよ。」
幹太は大きな声を出した。 普通の声では暴れる由布には届かない気がした。
「もう抱きしめなくていいわよ。」
由布は頑固に幹太の抱擁を否定し続けた。 それでも、時間が経つと由布の心は次第に落ち着きを取り戻していた。 幹太の抱擁にはどのような効果があるのだろうか。
「どうして、もう抱きしめないなんて言ったのよ。」
由布は静かに怒っていた。 落ち着いた精神状態の中で確実に幹太を非難していた。
「お母さんがあんなことしたからだろ!」
幹太も由布の理不尽さに怒りを感じていた。 人間のケンカはどちらかが引くから収まる。 どちらも引かなければ収まることはない。 由布は決して引くような性格ではない。 つまり、幹太が引かなければ2人のケンカが終わることはなかった。
「じゃあ、お母さんが悪いって言うの!」
由布も幹太の言葉に興奮していた。 幹太はどう考えても由布が悪いと思っていた。 しかし、フライパンを叩きつける由布を見た今となっては、 由布が悪いと言い切る自信がなかった。 おそらく由布は自分の気持ちを抑えきれなくなって、 たまたまコンロの上にあったフライパンを手に取って叩きつけたのだろう。 その強烈なインパクトが幹太にどのような恐怖心を与えるかなど計算していたわけではない。 もともと由布は思ったことが行動に出る性格である。 計算して先を考えてから慎重に行動するような女ではなかった。 幹太は不思議なほど強気な由布の表情を見つめながら言葉を詰まらせた。 由布は黙って由布を見つめるだけの幹太に不満だった。
「なんとか言いなさいよ!お母さんが悪かったの!」
由布はまだ自分に非がなかったと言い張っている。 幹太相手なら言い張ればなんとかなると思っているのか、 本当に自分には非がないと信じているのか、 そんなことは知る由もなかったが、幹太には自信満々に言い切る由布が信じられなかった。
「お母さんが悪いんだろ。」
幹太は何度そう言いそうになったかわからない。 しかし、その言葉が2人の関係を、もしくはこの家庭そのものを崩壊させてしまうかもしれないと恐れた。 恐れたからこそただ由布を見つめて黙り続けて自分自身を納得させるしかなかった。 由布の後ろには食卓の上に放り投げられたフライパンが見える。 幹太ですらそのフライパンを手に取って叩きつけたい気持ちだった。 しかし幹太には結局、由布のプライドを守るという選択肢しか残されていないのだ。 幹太は由布を抱きしめた。
「落ち着くまで抱きしめてあげるよ。」
幹太にも由布の怒りが直接伝わってきた。 幹太が由布を抱きしめるときはいつも由布の心は乱れている。 しかし、次第にその怒りも落ち着いていった。 そのために幹太は存在している。 なぜ幹太に由布の心が伝わるのかはわからない。 親子だからだろうか。 それとも幹太が由布にとっても特別な存在だからなのだろうか。 由布は幹太の腕の中で深呼吸をするように気持ちを落ち着かせている。
「でも、お母さんは悪くないわよ。」
それでも由布はそこにこだわっていた。 もう幹太にも由布の落ち着いた心が伝わってくる。 『でも』が由布のプライドを象徴していた。 由布自身にも逆説であることがわかっているのである。 幹太はなにもかも承知していた。
「わかってるよ。」
幹太はすべてを含めてそう答えた。 誰が悪いとかじゃない。 由布がご機嫌なときが地球が平和なときなのだ。 幹太は本気でそんな気がしていた。
「もうユッコに助けを求めたりしない。 自分が地球の平和を守らなければならないのだ。」
幹太が決意を新たにした日だった。
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