家族の時間 両親の離婚2
妄想ピンポン、ピンポン
玄関のチャイムが鳴った。時計をみると9時だった。昨日は風呂にも入らず寝てしまったことを思い出した。
部屋を出て玄関に向かう。インターフォンのディスプレイには母が立っていた。
「それじゃあ、乾杯しましょ。」
母を迎え入れて3時間が経った。母はワインのコルクを抜くと並べたグラスにトクトクと注いだ。赤ワインの芳醇な香りが漂う。
朝、チャイムの音で起こされて、母を家に入れると玄関先で正座をして、
「ふつつか者ですが、よろしくお願いいたします。」
と頭を下げた。
「やめてくれよ、母さん」
私は母を立たせようと腕を掴んだが動かない。どうしたものか考えて、私も正座して頭を下げた。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。」
母が納得したのか、
「じゃあ上がらせてもらうわね。」
そう言ってスリッパに足を通して廊下を進んだ。
リビングに入ると母が私に、
「きれいにしてるじゃない。家に居たときは掃除もしなかったのに。」
とい笑って部屋を眺めた。
「ああ、少しはね。」
照れて言うと、
「上出来上出来、大したもんよ。」
我が家は4LDK。全部キレイにするのは大変だからリビングだけは荷物を置かないようにしてスッキリさせている。私が結婚したとき新居で選んだのは郊外の庭付き中古物件だった。一人では広すぎて持て余していたところだ。
「さて、どの部屋を使わせて貰おうかな。」
母はリビングを抜けると空いた部屋を物色し始めた。
「うん、ここが良いわね。使わせてもらうわよ。」
そこは南側の6畳の和室だ。離婚する前は寝室に使っていたところだ。日当たりが良くて休みの日などゆっくり過ごすには最適だった。私がだめと言っても母はここを使うに違いない。
「ああ、判った。荷物はいつ届くの?」
段取りの良い母だから、今日の午後にでも届くかもしれない。
「あら、荷物はあのバッグだけよ。」
玄関に置いたキャリーケースは2泊用ぐらいの小さなものだ。
「ほかにはないの?」
「どうせみんなあの人のものなんだから置いてきてやったわ。必要なものはこれから買っていくわよ。」
「まあそうかもしれないけど。」
「なにか不満でもあるわけ。」
「いや、そうじゃないけど。」
「じゃあいいでしょ。だいたい新しい生活をスタートするんだから気持ちを切り替えていかなきゃね。」
前向きな母で良かった。
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