小説(転載) 四枚の扉 5/10
官能小説
4
静絵はこのところ、どうも気分がスッキリしない日が続いていた。
その理由は、夫勇次の様子がここ1ヶ月程ちょっとおかしい事が原因だった。
帰宅が0時を回ることも多くなり、今迄殆ど無かった休日出勤が増えた事に、
静絵は疑問を抱いていた・・・。
たまに家に居る時の夫は、何処か落ち付かない様子だった。
息子祐輔に対する態度は、以前となんら変わったところは無いのだが、自分に
対してはどうもヨソヨソしさが感じられる・・。
週に二度は交わしてきた夫婦生活も、この1ヶ月は皆無に等しい。
静絵の頭には、無意識に「浮気」の2文字が浮んでいた。
だが、勇次の性格からして浮気をするとは思えない。
決して自分を裏切る事はしない夫だ・・・・。
そう自分に言い聞かせ、日々の生活に手を抜くこと無く、静絵は家族と接して
いた。
静絵がそんな考えを巡らせている事も露知らず、勇次は純子との関係を続けて
いた。深く付き合えば付き合う程、純子の全てにのめり込み、純子も同じ様に、
勇次の全てを欲しがった。殆ど毎日、勇次と純子は身体を重ねていた。
背徳感から生じる興奮は、お互いの理性と常識を破壊し、時間の許す限り二人
は場所を選ばず絡み合っていた。
昼間のラブホテル・・夜の公園・・・車の中・・・。
シチュエーションを変える事によりもたらされる刺激に、二人は酔った。
前に3日会えない事があり、その後もゆっくり時間が取れず会う事がまま成ら
なかったときなど、純子は昼休みに勇次を自分の勤めるデパートに呼び出し、余
り利用されることの無い化粧室の個室で後背位から勇次に突き込まれ、声を殺し
て腰を痙攣させたりもした。
そんな関係を続けていて静絵が感付かない訳が無いのだが、純子の身体に溺れ
た勇次は、そこまで気を回すことなど出来ていなかった・・。
そんな日々が数日続いた。
相変わらずの夫の様子に、静絵の我慢も限界に達していた。
祐輔を寝付けてリビングへ戻ってきた勇次に、静絵は言い寄った。
「あなた、浮気してない!?」
いきなり静絵に詰問された勇次は、思わず声を詰まらせた。
「バ、バカなこと言うな! 俺が浮気する訳ないだろ!・・」
「だってあなた、最近様子がおかしいわ!」
「仕事が忙しくて疲れてるんだよ・・」
「そうだとしても、私のこと全然構ってくれないじゃない!」
静絵は一度切り出した不満を押さえる事が出来ず、捲くし立てた。
それでも妙に冷静さを保とうとする勇次に、静絵は遂にキレた。
「じゃあ、今すぐ私を抱いてよ! ずっと無いのよ!!」
そう言うと静絵は、軽装のワンピースを足元から脱ぎ捨て、下着姿になった。
「おい! いきなり何だ!」
「抱きなさいよ! 構ってよ!」
下着姿のまま、静絵は勇次のすぐ目の前に詰寄った!
その姿から一瞬勇次が目を反らした・・。
その瞬間を静絵は見逃さなかった。
静絵は目に一杯涙を溜めると、その場から走り去り、祐輔の部屋へ閉じ篭っ
た・・・。
勇次はソファーにドサッと腰を降ろすと、頭を抱えた。
(まいったな・・・ 静絵があんな態度を取るなんて思いもしなかった・・)
(今から謝って抱いてやるか・・・・ でも無理だ、今日純子に3回も出しち
まったし・・・)
勇次の頭には、今涙を流して走り去った静絵の顔よりも、今日の純子との営み
の情景が頭を巡っていた・・・。
状況は、最悪の方向へと向かっていた・・・。
翌朝、静絵は勇次の出勤を見送る事はしなかった。結婚して5年、初めての事
である。
祐輔と共に部屋に閉じ篭ったまま、音も立てずいた。
ドアの閉まる音が聞こえ、勇次が出勤した事を認識すると、静絵は祐輔を抱っ
こしながら部屋を出た。
静絵の目は真っ赤に張れ上がり、一晩泣き通していた事がはっきりと現れてい
た。
それでも悲しい習慣なのか、静絵は家事を一通りこなしてしまった。
一息付いてソファーに腰を降ろしたとき、涙が頬を伝った・・・。
そんな時、電話が鳴った。
「もしもし・・ 00でございます」
「静絵! 陽子よ、久し振り!」
電話口から、軽やかで明るい声が飛び込んできた。
「あら、陽子、元気だった・・・」
「元気よー! でも静絵はそうでもないみたいね・・・」
自分とは対照的に沈んだ声の静絵に、陽子は声のトーンを下げて言った。
「ちょっとね・・ 色々あってね・・」
静絵は懐かしい旧友の声を聞いて、泣きそうになった・・。
「ちょっと出て来れない!? 久し振りに会おうよ!」
引き裂かれそうな心に陽子の明るい声が染み渡り、静絵はホッとなった。
「そうね、久し振りだし・・ 出ようかしら!」
静絵は午後1時に会う約束をすると、身支度を始めた。
祐輔を実家に預け、静絵は待ち合わせ場所へ向かった。
自分の結婚式以来5年ぶりに会う陽子は、ちっとも変わっていなかった。
「陽子、久し振り! 変わらないわね」
陽子は現在フリーでライターをしている、静絵の大学時代の親友である。
身に付ける物や化粧の仕方も洗練され、同じ歳とは思えないと静絵は感じた。
「何言ってるの! 静絵も相変わらず綺麗よ!」
「私なんか駄目よ・・・ すっかりオバさんよ・・・」
二人は顔を見合わせて微笑んだ。
二人共昼食を済ませていなかった為、近くレストランへ入った。
ランチメニューを選び、久し振りの再開だからとワインを一本注文した。
5年ぶりの親友との会話に、静絵は心が開放されるのを感じた。
一本目のワインがアッと言う間に空になってしまい、二人は二本目を注文し
た。
楽しい会話にワイン・・。
静絵は気分が和んで行くのを感じ、陽子に最近の夫への愚痴を話し始めた。
「それは浮気ね! 間違い無いわよ!!」
ズバリ陽子に指摘され、静絵は下を向いた。
「そうだとしても、私どうしたらイイのかな・・・」
下を向いたまま呟く静絵に、陽子は以外な言葉を掛けた。
「静絵も浮気しちゃえば!」
「エッ!?」
「だから、お返しすればイイのよ!」
陽子は悪びれる様子もなく、事もなげに静絵に言った。
「そんな、無理よ・・・ 相手だっている訳ないし・・・」
少し顔を上げ、静絵は陽子を見た。
「大丈夫! 私に任せなさい。 ちょっと冒険しちゃおうよ!」
「冒険って・・ あなただって結婚してるじゃない」
陽子は二年前、同じライターの男性と結婚していた。
その事は、その年の年賀状で静絵も知っていた。
「いいのよ、そんな堅苦しく考えるから旦那に浮気されて落ち込むんじゃな
い!」
そう言うと陽子は店員にチョックのサインを送り、席を立った。
「何処いくの?」
不安げに聞く静絵に陽子は、
「黙って付いてきなさい! きっと楽しいから」
そう言って店をスタスタと出て行ってしまった。
仕方無く後をついて行く静絵・・。
陽子は10分程歩くと、ある雑居ビルの前に立った。
「ここ、なに?」
古びたビルを見上げながら、静絵は陽子に聞いた。
「ここはね、私の行き付けなの」
そう言って陽子は、脇の階段を登り始めた。
「ちょっと陽子! 待ってよ」
躊躇っている静絵の元に戻った陽子は、静絵の手を引くと階段を再度登った。
ガチャリ!
鉄のドアを陽子が開け、静絵を中へ導き入れた・・・。
中は静まり返っており、奥の方は暗くて良く見えない。
「なんなの、この部屋?」
目に不安を滲ませて覗く静絵に、陽子はニコリ笑うと、手を引き中へ入ってい
った。
「あら、陽子さん! 久し振りね!」
奥で仕切られたカーテンを潜って、中年の女性が一人出て来ると陽子に声を掛
けた。
「どうもです! 今日は友達連れて来たけど、イイ?」
中年女性は、陽子の後ろに隠れる様に立つ静絵を見た。
「あら! 綺麗な人ね! ウチは大歓迎よ!」
「良かった、 じゃあ、ヨロシクね!」
陽子はそう言うと、静絵を部屋の奥へ引っ張っていった。
仕切りのカーテンの向こうは、クラシック音楽が静かに流れる空間だった。
部屋は10畳ほどの広さで、要所に二人掛け用のソファーが数個置いてある。
何処となく怪しい雰囲気に、静絵は後退りした・・・。
そんな静絵をソファーに座らせた陽子は、中年女性が運んで来たドリンクを静
絵に勧めた。
「取り合えず乾杯!」
グラスを差し出す陽子に釣られ、静絵はカチンとグラスを合わすと、一口飲ん
だ。
部屋の温度は少し高めに設定されているのか、何だか蒸し暑い・・・。
静絵は喉の乾きを感じ、グラスの中身を殆ど飲んでしまった。
数分後、何故か身体の芯が熱い・・・・。
その熱さに耐え切れずに、静絵はジャケットを脱いだ。
すると陽子が語り出した。
(6)へつづく・・・
静絵はこのところ、どうも気分がスッキリしない日が続いていた。
その理由は、夫勇次の様子がここ1ヶ月程ちょっとおかしい事が原因だった。
帰宅が0時を回ることも多くなり、今迄殆ど無かった休日出勤が増えた事に、
静絵は疑問を抱いていた・・・。
たまに家に居る時の夫は、何処か落ち付かない様子だった。
息子祐輔に対する態度は、以前となんら変わったところは無いのだが、自分に
対してはどうもヨソヨソしさが感じられる・・。
週に二度は交わしてきた夫婦生活も、この1ヶ月は皆無に等しい。
静絵の頭には、無意識に「浮気」の2文字が浮んでいた。
だが、勇次の性格からして浮気をするとは思えない。
決して自分を裏切る事はしない夫だ・・・・。
そう自分に言い聞かせ、日々の生活に手を抜くこと無く、静絵は家族と接して
いた。
静絵がそんな考えを巡らせている事も露知らず、勇次は純子との関係を続けて
いた。深く付き合えば付き合う程、純子の全てにのめり込み、純子も同じ様に、
勇次の全てを欲しがった。殆ど毎日、勇次と純子は身体を重ねていた。
背徳感から生じる興奮は、お互いの理性と常識を破壊し、時間の許す限り二人
は場所を選ばず絡み合っていた。
昼間のラブホテル・・夜の公園・・・車の中・・・。
シチュエーションを変える事によりもたらされる刺激に、二人は酔った。
前に3日会えない事があり、その後もゆっくり時間が取れず会う事がまま成ら
なかったときなど、純子は昼休みに勇次を自分の勤めるデパートに呼び出し、余
り利用されることの無い化粧室の個室で後背位から勇次に突き込まれ、声を殺し
て腰を痙攣させたりもした。
そんな関係を続けていて静絵が感付かない訳が無いのだが、純子の身体に溺れ
た勇次は、そこまで気を回すことなど出来ていなかった・・。
そんな日々が数日続いた。
相変わらずの夫の様子に、静絵の我慢も限界に達していた。
祐輔を寝付けてリビングへ戻ってきた勇次に、静絵は言い寄った。
「あなた、浮気してない!?」
いきなり静絵に詰問された勇次は、思わず声を詰まらせた。
「バ、バカなこと言うな! 俺が浮気する訳ないだろ!・・」
「だってあなた、最近様子がおかしいわ!」
「仕事が忙しくて疲れてるんだよ・・」
「そうだとしても、私のこと全然構ってくれないじゃない!」
静絵は一度切り出した不満を押さえる事が出来ず、捲くし立てた。
それでも妙に冷静さを保とうとする勇次に、静絵は遂にキレた。
「じゃあ、今すぐ私を抱いてよ! ずっと無いのよ!!」
そう言うと静絵は、軽装のワンピースを足元から脱ぎ捨て、下着姿になった。
「おい! いきなり何だ!」
「抱きなさいよ! 構ってよ!」
下着姿のまま、静絵は勇次のすぐ目の前に詰寄った!
その姿から一瞬勇次が目を反らした・・。
その瞬間を静絵は見逃さなかった。
静絵は目に一杯涙を溜めると、その場から走り去り、祐輔の部屋へ閉じ篭っ
た・・・。
勇次はソファーにドサッと腰を降ろすと、頭を抱えた。
(まいったな・・・ 静絵があんな態度を取るなんて思いもしなかった・・)
(今から謝って抱いてやるか・・・・ でも無理だ、今日純子に3回も出しち
まったし・・・)
勇次の頭には、今涙を流して走り去った静絵の顔よりも、今日の純子との営み
の情景が頭を巡っていた・・・。
状況は、最悪の方向へと向かっていた・・・。
翌朝、静絵は勇次の出勤を見送る事はしなかった。結婚して5年、初めての事
である。
祐輔と共に部屋に閉じ篭ったまま、音も立てずいた。
ドアの閉まる音が聞こえ、勇次が出勤した事を認識すると、静絵は祐輔を抱っ
こしながら部屋を出た。
静絵の目は真っ赤に張れ上がり、一晩泣き通していた事がはっきりと現れてい
た。
それでも悲しい習慣なのか、静絵は家事を一通りこなしてしまった。
一息付いてソファーに腰を降ろしたとき、涙が頬を伝った・・・。
そんな時、電話が鳴った。
「もしもし・・ 00でございます」
「静絵! 陽子よ、久し振り!」
電話口から、軽やかで明るい声が飛び込んできた。
「あら、陽子、元気だった・・・」
「元気よー! でも静絵はそうでもないみたいね・・・」
自分とは対照的に沈んだ声の静絵に、陽子は声のトーンを下げて言った。
「ちょっとね・・ 色々あってね・・」
静絵は懐かしい旧友の声を聞いて、泣きそうになった・・。
「ちょっと出て来れない!? 久し振りに会おうよ!」
引き裂かれそうな心に陽子の明るい声が染み渡り、静絵はホッとなった。
「そうね、久し振りだし・・ 出ようかしら!」
静絵は午後1時に会う約束をすると、身支度を始めた。
祐輔を実家に預け、静絵は待ち合わせ場所へ向かった。
自分の結婚式以来5年ぶりに会う陽子は、ちっとも変わっていなかった。
「陽子、久し振り! 変わらないわね」
陽子は現在フリーでライターをしている、静絵の大学時代の親友である。
身に付ける物や化粧の仕方も洗練され、同じ歳とは思えないと静絵は感じた。
「何言ってるの! 静絵も相変わらず綺麗よ!」
「私なんか駄目よ・・・ すっかりオバさんよ・・・」
二人は顔を見合わせて微笑んだ。
二人共昼食を済ませていなかった為、近くレストランへ入った。
ランチメニューを選び、久し振りの再開だからとワインを一本注文した。
5年ぶりの親友との会話に、静絵は心が開放されるのを感じた。
一本目のワインがアッと言う間に空になってしまい、二人は二本目を注文し
た。
楽しい会話にワイン・・。
静絵は気分が和んで行くのを感じ、陽子に最近の夫への愚痴を話し始めた。
「それは浮気ね! 間違い無いわよ!!」
ズバリ陽子に指摘され、静絵は下を向いた。
「そうだとしても、私どうしたらイイのかな・・・」
下を向いたまま呟く静絵に、陽子は以外な言葉を掛けた。
「静絵も浮気しちゃえば!」
「エッ!?」
「だから、お返しすればイイのよ!」
陽子は悪びれる様子もなく、事もなげに静絵に言った。
「そんな、無理よ・・・ 相手だっている訳ないし・・・」
少し顔を上げ、静絵は陽子を見た。
「大丈夫! 私に任せなさい。 ちょっと冒険しちゃおうよ!」
「冒険って・・ あなただって結婚してるじゃない」
陽子は二年前、同じライターの男性と結婚していた。
その事は、その年の年賀状で静絵も知っていた。
「いいのよ、そんな堅苦しく考えるから旦那に浮気されて落ち込むんじゃな
い!」
そう言うと陽子は店員にチョックのサインを送り、席を立った。
「何処いくの?」
不安げに聞く静絵に陽子は、
「黙って付いてきなさい! きっと楽しいから」
そう言って店をスタスタと出て行ってしまった。
仕方無く後をついて行く静絵・・。
陽子は10分程歩くと、ある雑居ビルの前に立った。
「ここ、なに?」
古びたビルを見上げながら、静絵は陽子に聞いた。
「ここはね、私の行き付けなの」
そう言って陽子は、脇の階段を登り始めた。
「ちょっと陽子! 待ってよ」
躊躇っている静絵の元に戻った陽子は、静絵の手を引くと階段を再度登った。
ガチャリ!
鉄のドアを陽子が開け、静絵を中へ導き入れた・・・。
中は静まり返っており、奥の方は暗くて良く見えない。
「なんなの、この部屋?」
目に不安を滲ませて覗く静絵に、陽子はニコリ笑うと、手を引き中へ入ってい
った。
「あら、陽子さん! 久し振りね!」
奥で仕切られたカーテンを潜って、中年の女性が一人出て来ると陽子に声を掛
けた。
「どうもです! 今日は友達連れて来たけど、イイ?」
中年女性は、陽子の後ろに隠れる様に立つ静絵を見た。
「あら! 綺麗な人ね! ウチは大歓迎よ!」
「良かった、 じゃあ、ヨロシクね!」
陽子はそう言うと、静絵を部屋の奥へ引っ張っていった。
仕切りのカーテンの向こうは、クラシック音楽が静かに流れる空間だった。
部屋は10畳ほどの広さで、要所に二人掛け用のソファーが数個置いてある。
何処となく怪しい雰囲気に、静絵は後退りした・・・。
そんな静絵をソファーに座らせた陽子は、中年女性が運んで来たドリンクを静
絵に勧めた。
「取り合えず乾杯!」
グラスを差し出す陽子に釣られ、静絵はカチンとグラスを合わすと、一口飲ん
だ。
部屋の温度は少し高めに設定されているのか、何だか蒸し暑い・・・。
静絵は喉の乾きを感じ、グラスの中身を殆ど飲んでしまった。
数分後、何故か身体の芯が熱い・・・・。
その熱さに耐え切れずに、静絵はジャケットを脱いだ。
すると陽子が語り出した。
(6)へつづく・・・
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