しばらくすると母が受話器を取った。
母 「・・・もしもし・・・」
僕 「・・・・・・」
母 「・・・沢口ですけど・・・もしもし・・・」
こんな時間に一体誰からの電話なのだろう、という母の不安な心情が電話の声で伝わってきた。
僕 「・・・俺だけど・・・」
母 「ああ、、、どうしたの?、、、」
僕 「べつに・・・何してるかなと思って」
母 「ナニって、、、、、今、ちょうどお風呂から上がって、寝ようかなって思ってたところよ、、、」
僕 「・・・兄貴は?・・家にいるの?」
母 「あっ、お兄ちゃん?・・・いると思うけど・・・」
僕 「・・・そう・・・」
母 「・・・自分の部屋でテレビでも見ているんじゃないかしら。どうして?」
僕 「べつになんでもねえよっ。いちいちうるせえなっ」
母 「お兄ちゃんに何か様があって電話したんじゃないの?・・・」
僕 「ねえよっ、そんなのっ」
母 「そう、、、」
僕 「・・・それじゃあ・・・」
母 「あっ、今夜帰ってくるの?」
僕 「・・・どうして?・・・」
母 「どうしてって、帰ってくるのなら鍵、開けておくし、、、」
僕 「必要ないよ」
母 「1時くらいまでだったら、起きて待っててあげるわよ。食べてないんでしょ?」
僕 「今日はこっちに泊まるから家には帰らねえよっ」
僕は強い声でそう言うと、すぐに携帯を切った。
無性にイライラしていた。
その理由など言うまでもない。
僕はすぐそばにある自動販売機で缶コーヒーを買った。
そして兄の部屋を見上げ、一気に飲み干した。
さっきと変わらず、兄の部屋の窓だけがぼんやりと光を放っている。
目を下に降ろすと、玄関先の小さな花壇には、小さなひまわりが植えられているのに気が付いた。
手の行き届いたその花壇。
母が毎日手入れをしているのだろう。
誰がこの家の中で近親相姦が行われていると想像する人がいるだろうか。
気が付くと僕はまた玄関の前に立っていた。
そして玄関の鍵穴にゆっくりと鍵を差し込んでいた。