小説(転載) とらぶるTWIN 1/3
近親相姦小説
第1章 それぞれの想い
1.
(萌実さん、か・・・。なんでこう気になるかな。)
真は机に腰掛けて、壁のサッカー選手のポスターをぼんやりと見つめながら考えていた。
高校に入学して1ヶ月。くだらないと思っていた学校生活も意外と順調、もちろん、推薦で入ったサッカー部ではレギュラー取りが見えてきていたし、何も心配事はないはずだった。
ところが、である。
確かに、入部の時てきぱきと事務的な処理をこなし、先輩たちに温かく声をかける姿に「できるマネージャーだなあ」とは思った。けれどそれは、中学時代に何人かの女子マネージャーについて思ったことと変わりないはずだった。
「がんばって、鳴瀬君。遠慮はいらないからね。先輩とか、ゼンゼン気にしなくていいんだよ。ここは実力絶対主義なんだから。」
あの日、部員がみんな帰った後、一人プレイスキックの練習をしている後ろから声をかけられるまで・・・。
「ほんと、鳴瀬君ってよく練習してるよね。入部してからずっとでしょう?」
「江東さん、見てたんすか。人が悪いなあ。」
「そう?でも、きっと鳴瀬君はレギュラー取れるよ。もともとうまいのに、これだけ練習してるんだから。」
足元でもてあそんでいたボールを止めて、萌実と向かい合った。
あ、こんなに小さい人だったのか・・・。
オールドタイプのポニーテールに結ばれた小さな頭を上から見下ろす格好になって、真は初めて気がついた。
「わたしが一年の時、小平先輩がこの部にいたのよ。」
「小平さんって、今年Jに入ったあの人っすよね。」
「うん、そう。小平先輩以来だよ。君ほど練習してるのって。」
いつものトレーニングウェア姿とは違って、白いブラウスにベージュのベストと、赤と緑のチェック入りスカートの制服姿が新鮮で、何かが胸にこみあげてくる。
「先輩が言ってたんだよ。『練習は絶対に嘘をつかない』って。わたしもそう思うよ。だから、」
鞄を持ったまま、上目がちに真の方を見上げ、言った。
「鳴瀬君は、絶対上にいけると思うんだ。ね?」
形のよい眉毛と、少しいたずらっぽい瞳が眩しかった。
あの微笑みは、いったいどういう意味だったんだろう。
真は椅子を斜めに倒すと、天井を見上げた。
女の事に気分を割かれるのは、なんとなく居ごごちが悪かった。だいたい、中学からこっち、「スポーツ馬鹿」とか、「サッカーラバー」とか言われて、それなりに納得していたんだ。誰それがかわいい、とか、付き合ってる奴がどうとかいう話題は、まったく自分には無関係なはずだったし、そういう話をする気にもなったことはなかった。
(あーっ、ボールが蹴りたいぞ。)
外はどしゃ降りの雨だった。少しくらいだったらグラウンドに行って練習をするところだったが、この雨ではそういうわけにもいかなかった。
と、部屋の入り口のドアが乱暴に開けられた。
たく、ノックもなしに開ける奴はカズ姉しかいないだろ。
「よ、マコト。ワールドサッカー買ったか?」
案の定だ。
「はいよ、ベッドの上。」
振り向いて、部屋の入り口の方を向いた。
って、カズ姉、なんて格好だよ。
長めの白いノースリーブのTシャツに、ショーツ一枚。(多分。)
「カズ姉、なんちゅう格好だよ。俺だって男だぞ。」
「ああ、風呂入ったばっかりだもんでね。おー、ジダンさまのポスター、これこれ。」
だめだ、これは。
真は心の中でため息をついた。双子の姉の一人、一葉は、おとなしい下の姉の二葉と対照的に活発でカラッとした性格で、突発的な行動で困らせられることも一度や二度ではなかった。
「・・・たく、そんなオヤジのどこがいいんだよ。」
ベッドの上に腰掛けて、サッカー雑誌を読む一葉に言う。椅子に座っているので、ちょうど上から見下ろす格好になった。長めのボブの頭に隠れてよく見えないけれど、大きく開いたTシャツの胸元からチラチラと張りのある二つの丘に形作られた谷間が見えた。
もしかして、ノーブラ・・・?
「この力強さ、わかんないかねえ。頼れるオトコって感じじゃない。」
「・・・オンナの子だったら、ベッカムとかさ、デル・ピエロとかさ、ああいうのがいいんじゃないのか。」
半分うわの空で言葉を返す。まだ少し濡れている髪を左でかき上げたとき、ノースリーブの脇の下で胸のふくらみのすそ野が揺れるのが目に焼き付く。
おい、何を見てるんだ?これはカズ姉だぞ、あのオトコ女の。
「カッコだけ男に、ベタベタイタリアーンか?冗談じゃないよ。わたしのジダン様と比べて欲しくないね。・・・ん?」
雑誌から目を離すと、何かに気付いたように真の方を見上げた。少し目尻の上がった丸い瞳に射られて真は目を逸らした。
「お、もしかして・・・・。」
雑誌をポンとベッドの上に放ると、一葉は立ち上がった。
「おまえもそーいう年頃になったか。いや、よかったよかった。」
椅子に座った真の横に立つと、短く刈られた頭を軽くこずく。
「な、何言ってんだよ。俺はだね、そんな下着もつけないカッコでうろうろしてるカズ姉をだな・・。」
くすくすっと笑った。
「そーんな妄想してたんだ。ほらほら、見てみな。」
Tシャツの胸元を開けると、形のよい二つの丘の下半分を支えるように、薄いグリーンのスポーツブラが付けられていた。
「や、やめろよ。恥ずかしい。」
横目で見るだけで、わけもなく顔に血が上る。思ったよりずっとボリュームのある胸の谷間が・・・。
「そっか、そっか。ようやくかわいい弟にも春が来たか。うーん。かいぐり、かいぐり。」
唐突に頭の後ろに手が回されると、無理矢理顔が双丘の間に押し付けられた。胸の柔らかさと、風呂上がりのせっけんの香りで頭がクラクラする。
「いやー、このままサッカーボールと結婚するのかと思ったよ、お姉さんは。」
や、やばい。
急速に下半身に血が集まるのわかった。
「お、もしかして、勃っちゃった?」
頭の中で、快感よりからかわれている屈辱感のほうが上回った。一葉の身体を押し離すと、目を合わさずに言い放った。
「アタマのネジ飛んでじゃないのか、カズ姉。わけわかんないこと言ってんじゃねえよ。」
「おお、こわ。もう、罪のないスキンシップじゃないの。姉と弟の。」
「カズ姉のはシャレになってないんだよ。さ、用事が済んだなら出てってくれ。」
「はいはい。これ、持ってくからねえ。」
サッカー雑誌を手に取ると、一葉はさっさと部屋を出ていった。
まったく、なんて奴。高校でカズ姉のファンクラブがあるって聞くけれど、実態を知ったら絶対そんなもの解散だ。
しかしその思考とは裏腹に、頬のあたりにほのかに残る、柔らかい感覚。
はあ、まったくどうしてこんな・・・。まったく、こういうことそのものが面倒くさい。
『そんなの、付き合ってみないとわかんないよ。』
頭の中で萌実の声が聞こえたような気がした。
うーん、そうかな・・・。江東さんなら、もっと違うのかもしれない。て、俺は何を考えてんだ!
ああ、もうやめやめ。風呂に入って寝よう。
真は立ち上がるとボックスから適当に着替えを取った。時計の針はもう9時近くを指している。
そういえば、まだふーちゃんが帰った気配がなかったっけ。
夕食の時に、もう一人の姉の二葉がいなかった事を思い出した。
あの時はいつものように図書館だと思っていたけれど、まだ帰ってないのかな・・・。
ぼんやりと考えながら階段を降りて、洗面室に入ると、手早く服を脱いで脱衣カゴの中に放り込んだ。そして勢いよく浴室のドアを開くと、湯気の立ち込める中に足を踏み入れた。
・・・湯気?
その時初めて異変に気付いた。おそるおそる広い浴室の奥にあるバスタブに目を落とす。
「マ、マコ君・・・。」
そこには、濡れた髪をタオルで束ねて、胸の辺りで両手を組み、目を大きく見開いたまま硬直している二葉がいた。
「ふ、ふーちゃん。」
ま、マジか・・・。やばい。
頭が真っ白になって、数秒間(いや、それよりもっと?)素っ裸で木偶のように立ち尽くしてしまった。
「ご、ごめん。気が付かなかった。」
速攻で浴室を飛び出ると、光速で脱いだ服を着直し、階段を駆け上がった。
湯船のなかで軽やかに伸ばされた二葉の足、そして、その付根の間で揺れていた黒い陰影が電撃のように頭の中に残って離れない。そして、困ったように見開かれた瞳。一葉とまったく同じ顔のはずなのに、ずっと儚げで、胸の何処かが熱くなる。
部屋に戻っても、動悸が全然収まらなかった。それどころか、股間まで半分反応状態になっていた。
おさまれ、この野郎!ふーちゃん相手に何だってんだ!
ベッドに座って息をつくと、ようやく体中を駆け巡っていた血流が元通りに収まっていく。同時に股間の昂まりも何とか静まっていくようだった。
・・・まったく、なんて夜だ。
真は、そのままバタッっとベッドの上に仰向けに倒れると、目を閉じた。
2.
あーあ、雨になっちゃった・・・。
マンガ喫茶の入り口で空を見上げてみても、強く降り始めた雨が止むはずもなく、二葉は決断を迫られていた。ついつい、読みかけの少女マンガの続きが気になって、時間を忘れてしまっていたのだ。
今日は金曜日なので、食事当番は一葉だったし、「週末くらいは家のことはまかせて、遊んできな。」と常々言っていたのはその一葉なので、食事や弟の世話は心配ないはずだった。
もう、8時か・・・。
腕時計に目をやると、もう結構な時間だった。雨はアスファルトの駐車場に激しく叩き付けるように降っている。傘もないこの状態で帰ったら、爪先まで濡れねずみになることは火を見るより明らかだった。
一葉か、マコ君に迎えに来てもらおうかなあ・・・。少し前までだったら、きっとマコ君が来てくれたと思うけれど、最近は少し気詰まりだし・・・。
雨に曇った夏の夜の空間に、店のサインや車のライトが乱反射する様をぼんやりと見つめながら、なんとはなしに弟のことを考える。二年前にまた一緒に暮らすようになった時、一番嬉しかったのは間違いなく自分だったと思う。小学校低学年頃までみんなで暮らしていた時と変わらない「男の子」のままで、母方に引き取られ、いろいろごたごたした私達には奇跡のように感じられた。まるで、楽しかった頃が変わらずそこにある様で・・・。
やっぱり、好きな子でもできたんだろうな。
高校に入ってから、真の様子は以前のような無邪気なものではなくなっていた。
卒業までは、ほんとうに信じられないくらい真っ直ぐで、考えてる事の9割はサッカーの事だと、少し話してみれば誰でもわかるくらいだったもの。やっぱり、いつまでもオトコの子のままじゃいられないものね。
理性ではわかっているつもりだった。でも、なんとなくさびしい。迎えに来てもらったら、濡れちゃうだろうな、なんて余計な気を遣ってしまう事に。
もう、いいや。濡れて帰っちゃおう。
二葉は雨の中を走り出した。家までは大体15分くらい。我慢できない距離ではないと思った。けれど、真夏とはいっても、夜の8時過ぎ。降りしきる大粒の雨は、頭の先から爪先まで、そのままプールにでも飛び込んだように水分を染み渡らせ、玄関の戸を開けた時には身体はすっかり冷え切っていた。
「ただいまー。」
ぴったりと頭に張り付いた長い髪と、白と紺のセーラー服からぼたぼたと水滴を滴らせながら、それほど広くはない玄関に立っていると、廊下の真ん中あたりにある洗面所のドアから、肩にタオルをかけた一葉が姿を現した。
「・・・ありゃ、二葉、ずぶぬれじゃん。」
「ごめん、一葉、タオル取ってくれる?」
「あ、じゃ、これ使えば?」
一葉は肩にかけていたバスタオルを放った。
「か、一葉、なんて格好!」
肩にかけていたタオルが取れると、一葉はピンクのスポーツタイプのショーツ一枚で、他にはなにも身体につけていなかった。
「別にいいじゃん。誰か見てるわけでもなし。」
「そういう問題じゃないでしょ。マコ君だっているんだし。」
カバンを下に置いて、髪を拭きながら二葉は言った。
「マコト?冗談でしょ!」
軽く笑い声を上げてから、二葉の方にあごをしゃくった。
「あんたこそ、わざわざ濡れねずみになって帰ってくる事ないのに。傘の一本くらい、買うなり、誰かの拝借してくればいいんだから。」
「もう、すぐそういうこと言うんだから。わたしはいいの、濡れてきたかったんだから。」
「ふーん。ま、いいけど。ちょうどお風呂あったかいし、入れば。夏風邪じゃ、しゃれになんないしね。」
一葉は新しいバスタオルを手早く身体に巻くと、二階に上がっていった。
もう、ほんとに勝手なんだから・・・。
重たく身体に貼りついた制服と下着を脱ぐと、バスルームに入る。さっきまで一葉が使っていたせいで、中は湯気で暖かくなっていた。
今日くらいは、いいよね。いつもなら、必ず身体を洗ってから入るんだけど・・・。
思ったより冷えていた身体にお湯が染み渡る。芳香剤の香りを吸い込んで、安堵のため息をついた。
やっぱり、雨になんて濡れてくるもんじゃないなあ。
肩までゆっくりと湯船につかると、濡れた髪が少しずつ束になって、顔の上にパラパラとかかった。両手でグッと下からまとめ上げると、壁にかかった浴室用のタオルで軽く止めた。
髪の毛、切ろうかなあ。
水滴のついたモスグリーンの天井を見上げながら考える。
朝の手入れも大変だし、重すぎて肩は凝るし・・・。でもなあ・・・。
『えーっ、ふーちゃん、髪の毛切っちゃったの?俺、ふーちゃんの長い髪好きだったのに。』
二年前、四年ぶりに会ってマコ君に言われた時のこと、まだよく覚えてる。
はあ・・・。
少しのぼせながら考える。弟のこと、こんなに気にするなんてやっぱり変なのかな。
ガタン!
その時、洗面所のドアを開ける音が響いた。それに続いて、ガサッ、ガサッと手早く衣服を脱ぐ音。
・・・え、まさか。
慌てて胸元を隠した瞬間、勢いよくバスルームのドアが開いた。
「マ、マコ君・・・。」
真は完全に素っ裸のままで入り口に立ち尽くしていた。普段は細い目が、大きく見開かれている。二葉はまじまじと見つめられて、恥ずかしさで身体が熱くなるのを感じた。
「ふ、ふーちゃん。」
調子はずれの声を出した真は、しばらくその場に立ち尽くしていた。その何もまとっていない身体にどうしても目がいってしまう。
なんて、逞しくなったんだろう。去年、身長がわたしより高くなったばかりだったのに・・・。こんなに男の子って変わるものなの?
「ご、ごめん。気が付かなかった。」
慌てて飛び出て行く真。突風のような出来事に、二葉はしばらく思考停止状態に陥っていた。
あ、そうだ、のぼせちゃう。髪と身体、洗わなきゃ・・・。
ぼんやりとして湯船から上がると、シャンプーを髪につけて洗いはじめる。
見られちゃったな・・・。
まだ頭が働かないままにゆっくりと髪をすすぎ、リンスをつける。タオルをお湯で絞って、また髪をまとめた。そして、スポンジを取ってボディーソープをつける。
全部見えちゃったかなあ・・・。
首筋にスポンジを当て、ゆっくりと動かす。そして、胸に泡立ったスポンジを当てた瞬間、身体にビリッと電気が走った。同時に、ぼやけていた意識が一気に鮮明になる。真の全裸の姿がリアルに蘇る。
・・・すごかった。マコ君の・・・。
厚くなった胸板、力強そうな腕、そしてなにより、真の股間で悠然と自己を主張していたペニス・・・。
わたしの知ってるのと、全然違ってた。・・・やだ、なんでこんなに意識するの・・・。
少しうわの空で動き続ける胸のスポンジは、ずっと同じ場所にボディーソープのぬめりを擦り付け続けていた。
やだ、乳首、固くなっちゃってる。どうして・・・。
二葉は意識に固定してしまった真の裸像を消そうと思って目を閉じたが、余計にイメージが強まる一方だった。
やがて想像の中の真の局部は、大きく立ち上がって自己を主張する。
や、やだ・・・。
空いた左の手の平が自然に左の乳首を転がすように刺激する。そして、お腹の下に、ジンジンとした感じが広がっていく。
だめ。・・・わたし。マコ君の裸でエッチな気分になるなんて。
気持ちとは裏腹に、泡立ったスポンジは脇腹をすり降り、隠された部分に到達した。その瞬間、ガクンとするほどの快感が背中を襲って、声が出てしまった。
「あ、マコくうん・・・。」
自分の出した声に、はっと我に帰る。
・・・なにやってるの、わたし。
全身に恥ずかしさが噴出して、動かしていた手を止めた。姿見に映る顔ははっきりわかるほど紅潮して、タオルから一房、髪が落ちて頬にかかっていた。
自慰行為自体めったにしない二葉には、今の一瞬の身体と心の昂まりは、あまり経験のないものだった。 バタン!
え?
再び浴室の入り口で誰かがドアを開ける音がした。
「見ーちゃった。」
そこには、全裸で仁王立ちしている一葉がいた。
3.
ちっとからかいすぎたかなあ。
真の部屋を出ると、一葉はTシャツの中のスポーツブラを覗き込みながら考えていた。
にしても、マコトの奴が少しは色気づいてきたのはめでたい事だ。まったく、中学の時からそうだったが、色気がないのもほどほどしておかないと却って害になるってものだ。
階段を降りて、風呂場を少し覗くと、まだ二葉は風呂の中のようだった。
相変わらず長風呂だなあ。まあ、あいつ得意の「もの思いモード」だとは思うが・・・。ま、おかずでもチンしといてやるか、食べてきたようには見えんかったからな。
一葉は相変わらずTシャツとショーツだけの格好で台所に入ると、今日のおかずだったレバニラとサバの煮付けを電子レンジに放り込んだ。スタートボタンを押すと、そのまま居間に座り込んで、テレビをつけた。
なんか面白いのは、っと。・・・あ、世界謎サーチ、野球で延長じゃんか。
まったく、むかつくなあ。家にはあんなオヤジスポーツを見る奴はおらんっていうのに。
不意に父親のことが頭に浮かぶ。家にいれば、必ずこの時間にはどっかとソファに座って野球観戦を決め込むのが一葉達の父親の日課だった。
まったく、勝手な親だよ。別れるわ、くっつくわ、挙げ句は半年間海外へ旅行に行ってきまーすだもんな。ただでさえ厄介な妹と弟だっていうのに、どうやって高三の小娘一人で面倒見ろっていうんだ。
だいたい、二葉もなあ・・・。なんでこう、おんなじ遺伝子を持ってるはずなのに、違った性格になっちまったもんか。もう少し外向きにならんと、この先わたしがどうこうしてやるわけにもいかんし。
ああ、やめやめ。考えてもしょうもないことを。最近すっかり小姑モードだ。
一葉はソファにもたれると、一つ大きな伸びをした。と、階段からばたばたと降りてくる音がして、続いて洗面所あたりのドアを開ける音。
お、風呂から出たかな。
ゆっくりと立ち上がると、台所に向かう。電子レンジは保温状態になって、時折くるくると回っていた。扉をあけて、二皿のオカズを出すと、廊下の方から何か声が聞こえる。
「・・・・ん、気が付かなかった。」
マコトの声?
テーブルの上に皿を置くと、廊下に出た。慌てた様子でシャツを着ながら階段の方に向かうマコトの背中が見えた。
少し考えて、状況を把握した。
多分、そうだろうな。と、すると、二葉の奴、凍り付いているに違いない・・・。ちっとからかってやるか・・・。
いたずら心が頭をもたげて、一葉はすり足で洗面所に入った。バスルームの扉は少し空いていて、シャワーの辺りが覗いている。
あれ?
声をかけようと扉に手をかけた時、シャワーの前に二葉が座り、髪の毛のシャンプーを流しているのが目に入った。
・・・なんだ、つまらん。ん・・・?
台所に戻ろうとした時、身体を洗い始めた二葉の様子がおかしいのに気がついた。
何かに浮かされたように、胸の辺りばかりをスポンジでこすっている。
まさか、二葉?
左手が乳房を愛撫しだすのに及んで、一葉の疑問は確信に変わった。やがて、手が緩やかに下腹部へと降り、足の間辺りでうごめき始めた。
目を閉じて眉根を寄せている二葉の顔は紅潮して、せつなそうな唇から言葉が漏れた。
「あ、マコくうん・・・。」
二葉の奴・・・。
妹の弟への想いを知らないわけではなかったが、やはり胸にズンっとくる。一葉はほんの数秒考えを巡らせたが、やがて決意したように自分にうなずいた。
「うん。」
そして、素早くTシャツと下着を脱ぐと、バスルームの扉を静かに開けた。二葉は手の動きを止めると、まだ、鏡をぼんやりと見ている。後ろ手にドアをバタンと閉めると、押さえた声音で言った。
「見ーちゃった。」
「か、一葉!」
唐突な双子の姉の出現に目を見開いて混乱を露にする二葉。黙ったままバスチェアーを二葉の後ろに置くと、背中に密着するように腰を下ろした。
「何をしてたのかなあ。」
まだボディソープの泡の残る胸に軽く手の平を当てる。
「・・・じょ、冗談はやめてよ。」
「冗談じゃないよ。だって、こんなになってるじゃん。」
二葉の乳首はまだ固く充血したままで、後ろから回した手のひらを押し返すように立ち上がってくる。一葉はさらに身体を密着させると、自分の胸を二葉の背中に押しつけるようにした。そして、耳元に口を寄せると、囁いた。
「誰のこと考えて、オナニーしてたのかな・・・。」
二葉の耳たぶがその言葉だけで熱を帯びるのを感じた。
「そんなこと・・・。わ、わたし、マコ君のことなんて考えてないもの。」
恥ずかしそうに視線を斜めに落としながら言ってから、二葉の背中がしまった、というようにびくっとした。
「そっか、やっぱり、マコトのこと考えてたんだ。もう、いけないお姉さんだね、弟をオカズにするなんて。」
胸に当てた手のひらの動きを早くする。小さな吐息が二葉の口から漏れた。
「やめて。一葉、わたし・・・。」
「いいの、まったく知らない仲ってわけじゃないでしょ?」
あ、しまった。余分な事言っちゃった。
一葉の肩にしなだりかけていた二葉の頭が持ち上がる。
「・・・だって、あの時は。」
余った左手で、静かに二葉の口元を覆った。
「ごめん。気にしないの。今は、わたしがイかしてあげるから。」
特上の甘い声で言った瞬間、二葉の身体から力が抜けていくのがわかった。
・・・カワイイ。
顔から体格まで、ほとんど差がないのに、そんなことは関係無しにこの妹がいとおしくなった。
まだ二葉の手に握られていたスポンジを取ると、自分の手についた細かい泡を広げるように、乳房に塗り込める。濡れた頭を押さえていたタオルが落ち、二葉の長い髪の毛がパサリと広がると、口元に当てていた左手をはずしてもう一方の乳房に当て、外側から柔らかくもみ上げた。
やがて、右手の動きは力強さを増し、左手の指が乳輪をなぞるように円を描いた。
「ダ、ダメぇ・・・。」
すっかり一葉にしなだれかかった二葉の口から声が漏れる。
「もっと、ダメになっていいよ。」
なんて、素直に感じてくれるんだろ。わたしも、ちょっと・・・。
密着した二葉の背中に自分の乳房を少しだけ擦り付けると、心地よい感覚が身体に広がり、もっと愛してあげたくなる。
脇腹からおへそのあたりを何度かさまよっていた手が、二葉の内腿に当てられ、指先を立ててなぞるようにしながら、足を開かせていった。
何かに期待するかのように二葉の息がひそやかになる。
指は焦らすように太股の付根あたりで止まる。そして、一番奥まった部分の縁に触るか触らないかのところでゆるやかに楕円を描き続ける。
「か、一葉ちゃん・・・。」
肩の上に頭を預けた二葉の丸い顎が、ヒクヒクと動いている。
「うん。」
うなずくと、二本の指を秘所の入り口に当てた。まだそれほどには開いていない中の花びらも、すっかり濡れて柔らかく咲き始めていた。ひだの始まる内側に少しだけ指を這わせると、滑らかさを増したままもう少し上へと指を上げていく。
ビクッ!
そこに触れた瞬間、二葉の身体が跳ね上がった。
感じて、二葉、イッて・・・。
心の中で囁くと、肉芽の根元を二本の指でなぞるように、そして、左手はなおも乳房と乳首を刺激しながら・・・・。
「イ、イ・・・・ちゃ・・・ぅ。ダメ・・・・。」
真珠の先に人指し指が届いた時、二葉の身体が細かく震えた。そして、クリトリスに当てられた指にも、秘所からのピクピクとしたうごめきが伝わる。
そんなに長い時間ではない官能の瞬間の間、一葉は二葉をずっと抱きしめていた。
そして、弛緩し始めると、ゆっくり身体を離す。
「大丈夫だった?」
気だるい感覚にまだ身を委ねている妹に声をかける。
「う、うん。」
もたれていた身体を起こしながら二葉は応えた。次第に我に帰ったのか、両手を胸の前で組み合わせるようにすると、開いていた足を閉じた。
「・・・ごめん。もう一回お風呂につかる。」
髪を乱したままうつむき加減に言うと、すっと立ち上がった。
「一緒に入ろか?」
「ううん、いい。」
首を横に振ると、胸元を隠したまま二葉は湯船に身を沈めた。
しょうがないかな・・・。
一葉は静かにバスルームを後にした
1.
(萌実さん、か・・・。なんでこう気になるかな。)
真は机に腰掛けて、壁のサッカー選手のポスターをぼんやりと見つめながら考えていた。
高校に入学して1ヶ月。くだらないと思っていた学校生活も意外と順調、もちろん、推薦で入ったサッカー部ではレギュラー取りが見えてきていたし、何も心配事はないはずだった。
ところが、である。
確かに、入部の時てきぱきと事務的な処理をこなし、先輩たちに温かく声をかける姿に「できるマネージャーだなあ」とは思った。けれどそれは、中学時代に何人かの女子マネージャーについて思ったことと変わりないはずだった。
「がんばって、鳴瀬君。遠慮はいらないからね。先輩とか、ゼンゼン気にしなくていいんだよ。ここは実力絶対主義なんだから。」
あの日、部員がみんな帰った後、一人プレイスキックの練習をしている後ろから声をかけられるまで・・・。
「ほんと、鳴瀬君ってよく練習してるよね。入部してからずっとでしょう?」
「江東さん、見てたんすか。人が悪いなあ。」
「そう?でも、きっと鳴瀬君はレギュラー取れるよ。もともとうまいのに、これだけ練習してるんだから。」
足元でもてあそんでいたボールを止めて、萌実と向かい合った。
あ、こんなに小さい人だったのか・・・。
オールドタイプのポニーテールに結ばれた小さな頭を上から見下ろす格好になって、真は初めて気がついた。
「わたしが一年の時、小平先輩がこの部にいたのよ。」
「小平さんって、今年Jに入ったあの人っすよね。」
「うん、そう。小平先輩以来だよ。君ほど練習してるのって。」
いつものトレーニングウェア姿とは違って、白いブラウスにベージュのベストと、赤と緑のチェック入りスカートの制服姿が新鮮で、何かが胸にこみあげてくる。
「先輩が言ってたんだよ。『練習は絶対に嘘をつかない』って。わたしもそう思うよ。だから、」
鞄を持ったまま、上目がちに真の方を見上げ、言った。
「鳴瀬君は、絶対上にいけると思うんだ。ね?」
形のよい眉毛と、少しいたずらっぽい瞳が眩しかった。
あの微笑みは、いったいどういう意味だったんだろう。
真は椅子を斜めに倒すと、天井を見上げた。
女の事に気分を割かれるのは、なんとなく居ごごちが悪かった。だいたい、中学からこっち、「スポーツ馬鹿」とか、「サッカーラバー」とか言われて、それなりに納得していたんだ。誰それがかわいい、とか、付き合ってる奴がどうとかいう話題は、まったく自分には無関係なはずだったし、そういう話をする気にもなったことはなかった。
(あーっ、ボールが蹴りたいぞ。)
外はどしゃ降りの雨だった。少しくらいだったらグラウンドに行って練習をするところだったが、この雨ではそういうわけにもいかなかった。
と、部屋の入り口のドアが乱暴に開けられた。
たく、ノックもなしに開ける奴はカズ姉しかいないだろ。
「よ、マコト。ワールドサッカー買ったか?」
案の定だ。
「はいよ、ベッドの上。」
振り向いて、部屋の入り口の方を向いた。
って、カズ姉、なんて格好だよ。
長めの白いノースリーブのTシャツに、ショーツ一枚。(多分。)
「カズ姉、なんちゅう格好だよ。俺だって男だぞ。」
「ああ、風呂入ったばっかりだもんでね。おー、ジダンさまのポスター、これこれ。」
だめだ、これは。
真は心の中でため息をついた。双子の姉の一人、一葉は、おとなしい下の姉の二葉と対照的に活発でカラッとした性格で、突発的な行動で困らせられることも一度や二度ではなかった。
「・・・たく、そんなオヤジのどこがいいんだよ。」
ベッドの上に腰掛けて、サッカー雑誌を読む一葉に言う。椅子に座っているので、ちょうど上から見下ろす格好になった。長めのボブの頭に隠れてよく見えないけれど、大きく開いたTシャツの胸元からチラチラと張りのある二つの丘に形作られた谷間が見えた。
もしかして、ノーブラ・・・?
「この力強さ、わかんないかねえ。頼れるオトコって感じじゃない。」
「・・・オンナの子だったら、ベッカムとかさ、デル・ピエロとかさ、ああいうのがいいんじゃないのか。」
半分うわの空で言葉を返す。まだ少し濡れている髪を左でかき上げたとき、ノースリーブの脇の下で胸のふくらみのすそ野が揺れるのが目に焼き付く。
おい、何を見てるんだ?これはカズ姉だぞ、あのオトコ女の。
「カッコだけ男に、ベタベタイタリアーンか?冗談じゃないよ。わたしのジダン様と比べて欲しくないね。・・・ん?」
雑誌から目を離すと、何かに気付いたように真の方を見上げた。少し目尻の上がった丸い瞳に射られて真は目を逸らした。
「お、もしかして・・・・。」
雑誌をポンとベッドの上に放ると、一葉は立ち上がった。
「おまえもそーいう年頃になったか。いや、よかったよかった。」
椅子に座った真の横に立つと、短く刈られた頭を軽くこずく。
「な、何言ってんだよ。俺はだね、そんな下着もつけないカッコでうろうろしてるカズ姉をだな・・。」
くすくすっと笑った。
「そーんな妄想してたんだ。ほらほら、見てみな。」
Tシャツの胸元を開けると、形のよい二つの丘の下半分を支えるように、薄いグリーンのスポーツブラが付けられていた。
「や、やめろよ。恥ずかしい。」
横目で見るだけで、わけもなく顔に血が上る。思ったよりずっとボリュームのある胸の谷間が・・・。
「そっか、そっか。ようやくかわいい弟にも春が来たか。うーん。かいぐり、かいぐり。」
唐突に頭の後ろに手が回されると、無理矢理顔が双丘の間に押し付けられた。胸の柔らかさと、風呂上がりのせっけんの香りで頭がクラクラする。
「いやー、このままサッカーボールと結婚するのかと思ったよ、お姉さんは。」
や、やばい。
急速に下半身に血が集まるのわかった。
「お、もしかして、勃っちゃった?」
頭の中で、快感よりからかわれている屈辱感のほうが上回った。一葉の身体を押し離すと、目を合わさずに言い放った。
「アタマのネジ飛んでじゃないのか、カズ姉。わけわかんないこと言ってんじゃねえよ。」
「おお、こわ。もう、罪のないスキンシップじゃないの。姉と弟の。」
「カズ姉のはシャレになってないんだよ。さ、用事が済んだなら出てってくれ。」
「はいはい。これ、持ってくからねえ。」
サッカー雑誌を手に取ると、一葉はさっさと部屋を出ていった。
まったく、なんて奴。高校でカズ姉のファンクラブがあるって聞くけれど、実態を知ったら絶対そんなもの解散だ。
しかしその思考とは裏腹に、頬のあたりにほのかに残る、柔らかい感覚。
はあ、まったくどうしてこんな・・・。まったく、こういうことそのものが面倒くさい。
『そんなの、付き合ってみないとわかんないよ。』
頭の中で萌実の声が聞こえたような気がした。
うーん、そうかな・・・。江東さんなら、もっと違うのかもしれない。て、俺は何を考えてんだ!
ああ、もうやめやめ。風呂に入って寝よう。
真は立ち上がるとボックスから適当に着替えを取った。時計の針はもう9時近くを指している。
そういえば、まだふーちゃんが帰った気配がなかったっけ。
夕食の時に、もう一人の姉の二葉がいなかった事を思い出した。
あの時はいつものように図書館だと思っていたけれど、まだ帰ってないのかな・・・。
ぼんやりと考えながら階段を降りて、洗面室に入ると、手早く服を脱いで脱衣カゴの中に放り込んだ。そして勢いよく浴室のドアを開くと、湯気の立ち込める中に足を踏み入れた。
・・・湯気?
その時初めて異変に気付いた。おそるおそる広い浴室の奥にあるバスタブに目を落とす。
「マ、マコ君・・・。」
そこには、濡れた髪をタオルで束ねて、胸の辺りで両手を組み、目を大きく見開いたまま硬直している二葉がいた。
「ふ、ふーちゃん。」
ま、マジか・・・。やばい。
頭が真っ白になって、数秒間(いや、それよりもっと?)素っ裸で木偶のように立ち尽くしてしまった。
「ご、ごめん。気が付かなかった。」
速攻で浴室を飛び出ると、光速で脱いだ服を着直し、階段を駆け上がった。
湯船のなかで軽やかに伸ばされた二葉の足、そして、その付根の間で揺れていた黒い陰影が電撃のように頭の中に残って離れない。そして、困ったように見開かれた瞳。一葉とまったく同じ顔のはずなのに、ずっと儚げで、胸の何処かが熱くなる。
部屋に戻っても、動悸が全然収まらなかった。それどころか、股間まで半分反応状態になっていた。
おさまれ、この野郎!ふーちゃん相手に何だってんだ!
ベッドに座って息をつくと、ようやく体中を駆け巡っていた血流が元通りに収まっていく。同時に股間の昂まりも何とか静まっていくようだった。
・・・まったく、なんて夜だ。
真は、そのままバタッっとベッドの上に仰向けに倒れると、目を閉じた。
2.
あーあ、雨になっちゃった・・・。
マンガ喫茶の入り口で空を見上げてみても、強く降り始めた雨が止むはずもなく、二葉は決断を迫られていた。ついつい、読みかけの少女マンガの続きが気になって、時間を忘れてしまっていたのだ。
今日は金曜日なので、食事当番は一葉だったし、「週末くらいは家のことはまかせて、遊んできな。」と常々言っていたのはその一葉なので、食事や弟の世話は心配ないはずだった。
もう、8時か・・・。
腕時計に目をやると、もう結構な時間だった。雨はアスファルトの駐車場に激しく叩き付けるように降っている。傘もないこの状態で帰ったら、爪先まで濡れねずみになることは火を見るより明らかだった。
一葉か、マコ君に迎えに来てもらおうかなあ・・・。少し前までだったら、きっとマコ君が来てくれたと思うけれど、最近は少し気詰まりだし・・・。
雨に曇った夏の夜の空間に、店のサインや車のライトが乱反射する様をぼんやりと見つめながら、なんとはなしに弟のことを考える。二年前にまた一緒に暮らすようになった時、一番嬉しかったのは間違いなく自分だったと思う。小学校低学年頃までみんなで暮らしていた時と変わらない「男の子」のままで、母方に引き取られ、いろいろごたごたした私達には奇跡のように感じられた。まるで、楽しかった頃が変わらずそこにある様で・・・。
やっぱり、好きな子でもできたんだろうな。
高校に入ってから、真の様子は以前のような無邪気なものではなくなっていた。
卒業までは、ほんとうに信じられないくらい真っ直ぐで、考えてる事の9割はサッカーの事だと、少し話してみれば誰でもわかるくらいだったもの。やっぱり、いつまでもオトコの子のままじゃいられないものね。
理性ではわかっているつもりだった。でも、なんとなくさびしい。迎えに来てもらったら、濡れちゃうだろうな、なんて余計な気を遣ってしまう事に。
もう、いいや。濡れて帰っちゃおう。
二葉は雨の中を走り出した。家までは大体15分くらい。我慢できない距離ではないと思った。けれど、真夏とはいっても、夜の8時過ぎ。降りしきる大粒の雨は、頭の先から爪先まで、そのままプールにでも飛び込んだように水分を染み渡らせ、玄関の戸を開けた時には身体はすっかり冷え切っていた。
「ただいまー。」
ぴったりと頭に張り付いた長い髪と、白と紺のセーラー服からぼたぼたと水滴を滴らせながら、それほど広くはない玄関に立っていると、廊下の真ん中あたりにある洗面所のドアから、肩にタオルをかけた一葉が姿を現した。
「・・・ありゃ、二葉、ずぶぬれじゃん。」
「ごめん、一葉、タオル取ってくれる?」
「あ、じゃ、これ使えば?」
一葉は肩にかけていたバスタオルを放った。
「か、一葉、なんて格好!」
肩にかけていたタオルが取れると、一葉はピンクのスポーツタイプのショーツ一枚で、他にはなにも身体につけていなかった。
「別にいいじゃん。誰か見てるわけでもなし。」
「そういう問題じゃないでしょ。マコ君だっているんだし。」
カバンを下に置いて、髪を拭きながら二葉は言った。
「マコト?冗談でしょ!」
軽く笑い声を上げてから、二葉の方にあごをしゃくった。
「あんたこそ、わざわざ濡れねずみになって帰ってくる事ないのに。傘の一本くらい、買うなり、誰かの拝借してくればいいんだから。」
「もう、すぐそういうこと言うんだから。わたしはいいの、濡れてきたかったんだから。」
「ふーん。ま、いいけど。ちょうどお風呂あったかいし、入れば。夏風邪じゃ、しゃれになんないしね。」
一葉は新しいバスタオルを手早く身体に巻くと、二階に上がっていった。
もう、ほんとに勝手なんだから・・・。
重たく身体に貼りついた制服と下着を脱ぐと、バスルームに入る。さっきまで一葉が使っていたせいで、中は湯気で暖かくなっていた。
今日くらいは、いいよね。いつもなら、必ず身体を洗ってから入るんだけど・・・。
思ったより冷えていた身体にお湯が染み渡る。芳香剤の香りを吸い込んで、安堵のため息をついた。
やっぱり、雨になんて濡れてくるもんじゃないなあ。
肩までゆっくりと湯船につかると、濡れた髪が少しずつ束になって、顔の上にパラパラとかかった。両手でグッと下からまとめ上げると、壁にかかった浴室用のタオルで軽く止めた。
髪の毛、切ろうかなあ。
水滴のついたモスグリーンの天井を見上げながら考える。
朝の手入れも大変だし、重すぎて肩は凝るし・・・。でもなあ・・・。
『えーっ、ふーちゃん、髪の毛切っちゃったの?俺、ふーちゃんの長い髪好きだったのに。』
二年前、四年ぶりに会ってマコ君に言われた時のこと、まだよく覚えてる。
はあ・・・。
少しのぼせながら考える。弟のこと、こんなに気にするなんてやっぱり変なのかな。
ガタン!
その時、洗面所のドアを開ける音が響いた。それに続いて、ガサッ、ガサッと手早く衣服を脱ぐ音。
・・・え、まさか。
慌てて胸元を隠した瞬間、勢いよくバスルームのドアが開いた。
「マ、マコ君・・・。」
真は完全に素っ裸のままで入り口に立ち尽くしていた。普段は細い目が、大きく見開かれている。二葉はまじまじと見つめられて、恥ずかしさで身体が熱くなるのを感じた。
「ふ、ふーちゃん。」
調子はずれの声を出した真は、しばらくその場に立ち尽くしていた。その何もまとっていない身体にどうしても目がいってしまう。
なんて、逞しくなったんだろう。去年、身長がわたしより高くなったばかりだったのに・・・。こんなに男の子って変わるものなの?
「ご、ごめん。気が付かなかった。」
慌てて飛び出て行く真。突風のような出来事に、二葉はしばらく思考停止状態に陥っていた。
あ、そうだ、のぼせちゃう。髪と身体、洗わなきゃ・・・。
ぼんやりとして湯船から上がると、シャンプーを髪につけて洗いはじめる。
見られちゃったな・・・。
まだ頭が働かないままにゆっくりと髪をすすぎ、リンスをつける。タオルをお湯で絞って、また髪をまとめた。そして、スポンジを取ってボディーソープをつける。
全部見えちゃったかなあ・・・。
首筋にスポンジを当て、ゆっくりと動かす。そして、胸に泡立ったスポンジを当てた瞬間、身体にビリッと電気が走った。同時に、ぼやけていた意識が一気に鮮明になる。真の全裸の姿がリアルに蘇る。
・・・すごかった。マコ君の・・・。
厚くなった胸板、力強そうな腕、そしてなにより、真の股間で悠然と自己を主張していたペニス・・・。
わたしの知ってるのと、全然違ってた。・・・やだ、なんでこんなに意識するの・・・。
少しうわの空で動き続ける胸のスポンジは、ずっと同じ場所にボディーソープのぬめりを擦り付け続けていた。
やだ、乳首、固くなっちゃってる。どうして・・・。
二葉は意識に固定してしまった真の裸像を消そうと思って目を閉じたが、余計にイメージが強まる一方だった。
やがて想像の中の真の局部は、大きく立ち上がって自己を主張する。
や、やだ・・・。
空いた左の手の平が自然に左の乳首を転がすように刺激する。そして、お腹の下に、ジンジンとした感じが広がっていく。
だめ。・・・わたし。マコ君の裸でエッチな気分になるなんて。
気持ちとは裏腹に、泡立ったスポンジは脇腹をすり降り、隠された部分に到達した。その瞬間、ガクンとするほどの快感が背中を襲って、声が出てしまった。
「あ、マコくうん・・・。」
自分の出した声に、はっと我に帰る。
・・・なにやってるの、わたし。
全身に恥ずかしさが噴出して、動かしていた手を止めた。姿見に映る顔ははっきりわかるほど紅潮して、タオルから一房、髪が落ちて頬にかかっていた。
自慰行為自体めったにしない二葉には、今の一瞬の身体と心の昂まりは、あまり経験のないものだった。 バタン!
え?
再び浴室の入り口で誰かがドアを開ける音がした。
「見ーちゃった。」
そこには、全裸で仁王立ちしている一葉がいた。
3.
ちっとからかいすぎたかなあ。
真の部屋を出ると、一葉はTシャツの中のスポーツブラを覗き込みながら考えていた。
にしても、マコトの奴が少しは色気づいてきたのはめでたい事だ。まったく、中学の時からそうだったが、色気がないのもほどほどしておかないと却って害になるってものだ。
階段を降りて、風呂場を少し覗くと、まだ二葉は風呂の中のようだった。
相変わらず長風呂だなあ。まあ、あいつ得意の「もの思いモード」だとは思うが・・・。ま、おかずでもチンしといてやるか、食べてきたようには見えんかったからな。
一葉は相変わらずTシャツとショーツだけの格好で台所に入ると、今日のおかずだったレバニラとサバの煮付けを電子レンジに放り込んだ。スタートボタンを押すと、そのまま居間に座り込んで、テレビをつけた。
なんか面白いのは、っと。・・・あ、世界謎サーチ、野球で延長じゃんか。
まったく、むかつくなあ。家にはあんなオヤジスポーツを見る奴はおらんっていうのに。
不意に父親のことが頭に浮かぶ。家にいれば、必ずこの時間にはどっかとソファに座って野球観戦を決め込むのが一葉達の父親の日課だった。
まったく、勝手な親だよ。別れるわ、くっつくわ、挙げ句は半年間海外へ旅行に行ってきまーすだもんな。ただでさえ厄介な妹と弟だっていうのに、どうやって高三の小娘一人で面倒見ろっていうんだ。
だいたい、二葉もなあ・・・。なんでこう、おんなじ遺伝子を持ってるはずなのに、違った性格になっちまったもんか。もう少し外向きにならんと、この先わたしがどうこうしてやるわけにもいかんし。
ああ、やめやめ。考えてもしょうもないことを。最近すっかり小姑モードだ。
一葉はソファにもたれると、一つ大きな伸びをした。と、階段からばたばたと降りてくる音がして、続いて洗面所あたりのドアを開ける音。
お、風呂から出たかな。
ゆっくりと立ち上がると、台所に向かう。電子レンジは保温状態になって、時折くるくると回っていた。扉をあけて、二皿のオカズを出すと、廊下の方から何か声が聞こえる。
「・・・・ん、気が付かなかった。」
マコトの声?
テーブルの上に皿を置くと、廊下に出た。慌てた様子でシャツを着ながら階段の方に向かうマコトの背中が見えた。
少し考えて、状況を把握した。
多分、そうだろうな。と、すると、二葉の奴、凍り付いているに違いない・・・。ちっとからかってやるか・・・。
いたずら心が頭をもたげて、一葉はすり足で洗面所に入った。バスルームの扉は少し空いていて、シャワーの辺りが覗いている。
あれ?
声をかけようと扉に手をかけた時、シャワーの前に二葉が座り、髪の毛のシャンプーを流しているのが目に入った。
・・・なんだ、つまらん。ん・・・?
台所に戻ろうとした時、身体を洗い始めた二葉の様子がおかしいのに気がついた。
何かに浮かされたように、胸の辺りばかりをスポンジでこすっている。
まさか、二葉?
左手が乳房を愛撫しだすのに及んで、一葉の疑問は確信に変わった。やがて、手が緩やかに下腹部へと降り、足の間辺りでうごめき始めた。
目を閉じて眉根を寄せている二葉の顔は紅潮して、せつなそうな唇から言葉が漏れた。
「あ、マコくうん・・・。」
二葉の奴・・・。
妹の弟への想いを知らないわけではなかったが、やはり胸にズンっとくる。一葉はほんの数秒考えを巡らせたが、やがて決意したように自分にうなずいた。
「うん。」
そして、素早くTシャツと下着を脱ぐと、バスルームの扉を静かに開けた。二葉は手の動きを止めると、まだ、鏡をぼんやりと見ている。後ろ手にドアをバタンと閉めると、押さえた声音で言った。
「見ーちゃった。」
「か、一葉!」
唐突な双子の姉の出現に目を見開いて混乱を露にする二葉。黙ったままバスチェアーを二葉の後ろに置くと、背中に密着するように腰を下ろした。
「何をしてたのかなあ。」
まだボディソープの泡の残る胸に軽く手の平を当てる。
「・・・じょ、冗談はやめてよ。」
「冗談じゃないよ。だって、こんなになってるじゃん。」
二葉の乳首はまだ固く充血したままで、後ろから回した手のひらを押し返すように立ち上がってくる。一葉はさらに身体を密着させると、自分の胸を二葉の背中に押しつけるようにした。そして、耳元に口を寄せると、囁いた。
「誰のこと考えて、オナニーしてたのかな・・・。」
二葉の耳たぶがその言葉だけで熱を帯びるのを感じた。
「そんなこと・・・。わ、わたし、マコ君のことなんて考えてないもの。」
恥ずかしそうに視線を斜めに落としながら言ってから、二葉の背中がしまった、というようにびくっとした。
「そっか、やっぱり、マコトのこと考えてたんだ。もう、いけないお姉さんだね、弟をオカズにするなんて。」
胸に当てた手のひらの動きを早くする。小さな吐息が二葉の口から漏れた。
「やめて。一葉、わたし・・・。」
「いいの、まったく知らない仲ってわけじゃないでしょ?」
あ、しまった。余分な事言っちゃった。
一葉の肩にしなだりかけていた二葉の頭が持ち上がる。
「・・・だって、あの時は。」
余った左手で、静かに二葉の口元を覆った。
「ごめん。気にしないの。今は、わたしがイかしてあげるから。」
特上の甘い声で言った瞬間、二葉の身体から力が抜けていくのがわかった。
・・・カワイイ。
顔から体格まで、ほとんど差がないのに、そんなことは関係無しにこの妹がいとおしくなった。
まだ二葉の手に握られていたスポンジを取ると、自分の手についた細かい泡を広げるように、乳房に塗り込める。濡れた頭を押さえていたタオルが落ち、二葉の長い髪の毛がパサリと広がると、口元に当てていた左手をはずしてもう一方の乳房に当て、外側から柔らかくもみ上げた。
やがて、右手の動きは力強さを増し、左手の指が乳輪をなぞるように円を描いた。
「ダ、ダメぇ・・・。」
すっかり一葉にしなだれかかった二葉の口から声が漏れる。
「もっと、ダメになっていいよ。」
なんて、素直に感じてくれるんだろ。わたしも、ちょっと・・・。
密着した二葉の背中に自分の乳房を少しだけ擦り付けると、心地よい感覚が身体に広がり、もっと愛してあげたくなる。
脇腹からおへそのあたりを何度かさまよっていた手が、二葉の内腿に当てられ、指先を立ててなぞるようにしながら、足を開かせていった。
何かに期待するかのように二葉の息がひそやかになる。
指は焦らすように太股の付根あたりで止まる。そして、一番奥まった部分の縁に触るか触らないかのところでゆるやかに楕円を描き続ける。
「か、一葉ちゃん・・・。」
肩の上に頭を預けた二葉の丸い顎が、ヒクヒクと動いている。
「うん。」
うなずくと、二本の指を秘所の入り口に当てた。まだそれほどには開いていない中の花びらも、すっかり濡れて柔らかく咲き始めていた。ひだの始まる内側に少しだけ指を這わせると、滑らかさを増したままもう少し上へと指を上げていく。
ビクッ!
そこに触れた瞬間、二葉の身体が跳ね上がった。
感じて、二葉、イッて・・・。
心の中で囁くと、肉芽の根元を二本の指でなぞるように、そして、左手はなおも乳房と乳首を刺激しながら・・・・。
「イ、イ・・・・ちゃ・・・ぅ。ダメ・・・・。」
真珠の先に人指し指が届いた時、二葉の身体が細かく震えた。そして、クリトリスに当てられた指にも、秘所からのピクピクとしたうごめきが伝わる。
そんなに長い時間ではない官能の瞬間の間、一葉は二葉をずっと抱きしめていた。
そして、弛緩し始めると、ゆっくり身体を離す。
「大丈夫だった?」
気だるい感覚にまだ身を委ねている妹に声をかける。
「う、うん。」
もたれていた身体を起こしながら二葉は応えた。次第に我に帰ったのか、両手を胸の前で組み合わせるようにすると、開いていた足を閉じた。
「・・・ごめん。もう一回お風呂につかる。」
髪を乱したままうつむき加減に言うと、すっと立ち上がった。
「一緒に入ろか?」
「ううん、いい。」
首を横に振ると、胸元を隠したまま二葉は湯船に身を沈めた。
しょうがないかな・・・。
一葉は静かにバスルームを後にした