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小説(転載) わたしの好きな兄だから! 4/4

近親相姦小説
10 /17 2018
第4章 冬~イモウト?コイビト?
 文化祭と、それに続く期末試験での事件以来、お兄ちゃんの周りの環境は一変してしまった。いつの間にか、うちの学年にファンクラブみたいなものもできてるし。
 だいたい、先生だって本人に訊いて欲しい。
「幹高の志望校は何処なんだ?篠田、おまえ知ってないか。」
 そんなこと聞かれたって答えるわけにいかないじゃない。そりゃ、先生方は少しでも学校のネームバリューを上げたかったんだろうけど。
 でも、ますますお兄ちゃんに近づきにくくなっちゃった・・・。だって、クラスの人達の目が恐いんだもん。
 智香は、3学期に入ったばかりの時に下駄箱に無頓着に投げ込まれていた紙切れの事を思い出した。
『イモウトだからってベタベタしてんじゃねーよ。これ以上くっついたら、コロスよ。ギャハハ!』
 ああ、ヤダヤダ。あの人達が好きなのはお兄ちゃんじゃない。自分が勝手に作ったニセモノを愛してるだけ。
 ・・・でも、そういうわたしはどうなんだろ?
 考え込むと、熱湯の中に入れた小なべをかき混ぜる手が止まる。
 ああ!ヤバイ。チョコが固まっちゃう。
 そうよ、悩んだってしょうがない。あと2ヶ月しかないんだもん。当たって砕けろ!よ。
 象の柄のついた青いエプロンに黒い染みを付けながら、智香のチョコ制作は順調に進んだ。
 大きなハートの型に溶けたチョコを流し込んだところで、一息ついた。
 あとは、ストロベリーチョコとチップで『LOVE』って大きく入れてっと。去年は、『THANKS』としか入れられなかったけど、今年のわたしは違うんだから!
 その時、玄関の戸がバタンと閉まる音がした。
 あ、お兄ちゃんだ。マズ、今キッチンに来られちゃうと。
 智香はパタパタと廊下を走ると、玄関に飛び出た。
「お帰りなさ~い。」
 いつもの制服姿で、靴を脱ぐために玄関に座った幹高が後ろを振り向く。
「ただいま。」
「今日も、図書館? お茶なら、わたしが持ってってあげるから。」
 台所への入り口を隠すように両手を前に組んで立った妹の姿を、幹高は優しい表情で見つめた。
「うん。じゃあ、部屋に行ってる。」
 ゆっくりと階段を上がっていく。
 あっ!
 編み込みを止めた頭を隠すようにかぶった三角巾と、チョコで汚れたエプロンに気付いて硬直する。
 ・・・まったく、バレバレじゃない。でも、いいんだ。今日は2月14日だもん。きっと、お兄ちゃんだって期待してるはず。
 さあ、もうひと頑張り!


 智香と幹高の母親から電話があったのは夕方になってからだった。帰りが遅くなるから何か出前でも取って食べなさい、と聞いた後で、先に誘ったのは幹高の方だった。
「智香。外に食べに行くか?」
「うん、行く行く!」
 そして、2人が夜のバレンタインの街に出たのは、時計の針が6時を回った頃だった。
 繁華街は黄や緑、オレンジのネオンで華やかに輝いていた。
 ベージュのハーフコートに緑のマフラーを巻いた智香は、素っ気ない紺のジャンパーを着た幹高の横を、両手を後ろに組んで歩いていた。
 お兄ちゃんが、食事に誘ってくれるなんて。それも、きょうは14日・・・。
 華やかな街の眺めと、斜め前を歩く体格の良い兄の姿に、胸の動悸が止まらない。
「わあ、きれい。見て、お兄ちゃん。」
 メインストリートのアーケード街に入ると、天井から下がるクリスタルのモールに光が反射して7色の海が頭上にあるようだった。
 ゆっくりと歩きながら、おしゃれな店が軒を連ねる通りの半ばに差しかかる。気が付けば、側を過ぎていくのは着飾ったアベックばかりだった。
「ね、」
 ドキドキしながら声をかける。だって、今しかない。
「腕、組んでいい?」
「ああ。」
 少しうわの空で幹高は答えた。智香はスッと兄の左腕に自分の右手を滑り込ませると、身体を密着させる。
 ああ、なんか夢みたい。それに、これも渡せる・・・。
 コートのポケットに入れたチョコの箱を確かめた。
 そうだ。今日、言おう。『あなたが好きです』って。妹としてでなく、あなたが好きなんだって。
「ここにしようか。」
 ロココ風に装飾された木のドアと、店の名前を象った銅細工の看板が目立つイタリアンレストランの前で、幹高は立ち止まった。
 店内に入ると、暖色系でまとめられた調度と、えんじ色のテーブルクロス、窓際に置かれた数々の小さなレリーフと、全体が落ち着いた雰囲気を醸し出している。
「・・・お兄ちゃん、よくこんな店知ってたね。」
「いや。僕も初めてだよ。一度、寄ってみたいとは思ってたんだけれどね。」
 え。じゃあ、わたしのために初めて一緒に来てくれたってこと? なんか嘘みたい。
 丸いライトの下、ウェイターに窓際の席まで案内される間、足元がふわふわしてまるで現実感がなかった。腰を下ろしてメニューを開くと、アルファベットの並ぶ下に、小さく日本語が印刷された沢山のパスタの名前。
「うわあ、凄い。なんか、知らない名前がいっぱいあるよ。」
「そうだね。」
 珍しくあたりをちらちらと眺めながら幹高はメニューに目をやっている。
「この、ディナーのパスタコースっていうのが良さそうだ。」
「うん。」
 店内はほとんどがカップルばかりだった。大してセットもされていない幹高のボサボサ頭は、小奇麗にしている客の間で少し異彩を放っていたが、そんなことは智香に全然関係がなかった。
「この、コースで。」
 メニューを指差すと、黒いネクタイがシックなウエイターが訊ねる。
「パスタは、どちらに致しましょう?」
「僕は、ムール貝のペスカトーレで。智香は?」
 こんな店で、「智香は?」だって・・・。なんか、すっごい幸せだ~。
「智香。」
「う、うん。わたしは、この厚切りベーコンのカルボナーラをお願いします。」
「はい。かしこまりました。」
 ウェイターが下がっていくと、智香はまだメニューを見ている兄を横目に見ながら、そっと窓の外を見た。モスグリーンのカーテンのかかった窓の向こうにでは、アーケードの光の下を思い思いに歩いていく人達。
 しばらく無言で眺めていると、幹高も同じように外をぼんやりと見ていることに気付いた。
 そ、そうだ。今しか!
 白いセーターの袖を直すと、少し深く椅子に腰掛ける。
 ドキドキドキ・・・。
 少し息を吸い込むと、できるだけ落ち着いた声を出すように努力する。
「お兄ちゃん。」
 コートのポケットから丁寧にラッピングした10センチ角の箱を取り出すと、机の下で握り締める。
「ん?」
「これ。」
 緑色に淡い雪の散らされた包装紙に、金のリボンがかけられたチョコの包みを差し出す。
「いつも、ありがとう。」
 ああ、違うぅ!いつも大好きだよ、って言うつもりだったのに。
「こちらこそ。」
 受け取ると、畳まれたジャンパーの上にそのまま包みを置こうとする幹高。
 あ、だめ。
「ね、お兄ちゃん、ここで開けて見てくれない?」
「あ、ああ。」
 眼鏡の奥から少し智香の方を見ると、包装紙を剥がし始める。
 う~、息が苦しくなりそうだ。
 ゆっくりと白い箱が開けられると、ピンクで『LOVE』と書かれた文字に白いホワイトチョコのチップがまぶされたハート型のチョコが現れた。
 あ・・・。
 なんか、ちょっと寂しそうに見えた。どうして、そんな風に微笑むの?でも、でも、今言わなきゃ!
 智香がもう一度口を開きかけた時、ジジジジジと振動が幹高の脇の荷物の当たりで響いた。
「はい。」
 携帯電話を取り上げると、小さな声で幹高は応答した。
「うん、うん。」
 もう、なんて間の悪い・・・。でも、お兄ちゃんの顔、今までわたしが見たことがないくらい柔らかい感じだ。
「ああ、今、妹と食事してるから。え?そんなことはないよ。うん、後で。」
 携帯を傍らに置くと、幹高は包みを丁寧に元に戻しながら、言った。
「ありがとう。智香。結構楽しみなんだよ。おまえから毎年チョコもらうのって。」
「う、うん。」
 出かけた言葉が砂に水が溶け込むように消えていく。今の、誰?聞きたいけれど、声が出ない。
「何か用事入った?」
「ああ、大丈夫だよ。食べる時間くらいはあるから。」
 食べる時間くらいは・・・、か。
 全てが凍り付いてしまったように感じた。暖かかったはずのライトも、外の眺めも、冬の寒さを唐突に感じさせる。並べられた料理は、後になってもどんな味だったかまったく思い出せなかった。


 大雪かもしれない、という天気予報のとおり、3月の空には低く灰色の雲がたち込めていた。それでも智香は、電車を乗り継いで大学の構内までやってきた。
 幹高が、全国で最難関のここの法学部を受ける、と言ったのはバレンタインの日からほどなくだった。留学を取りやめたかと喜んだのもつかの間、ただ受験するだけだとわかった時、少し落ち込んだのも確かだった。
 う~、寒いな・・・。もう3月なのに。
「チカ、もうチャンスが少ないよ。幹高さんなら間違いなく合格するから、その時に最初に祝福しちゃうといいよ。」
 江梨奈に背中を押されてここまで来たけど、ほんとにすごい数の人だなあ。それに、こんな所にいると、自分がまだまだ高校生だって思い知らされちゃう・・・。
 大きなスチールの掲示板の前には、何百人もの人が集まり、今か今かと合格発表を待ちわびている。
 だいたい、こんな人ごみの中じゃ、お兄ちゃんが見つかるかどうかもわかんないよ。
 ・・・それしても、寒いよお。
 赤のラインが入った白いニットの帽子を耳までかぶり直すと、茶色のロングコートの襟を寄せた。
「おっ。」
 隣に立っていた男2人組みが声を上げると、人垣の向こう側に黒い字の書かれた紙がバタバタと音を立てながら運ばれてきた。
 もうすでに、いくつかの場所で落胆と喜びの声が響き始めている。職員が脚立を立てて、掲示板に大きな白い紙を張り付けた。
 えっと、お兄ちゃんの番号は3657、と。
 3345、3443、3512、3581、・・・・・・あった。3657。
 だよね。落ちるわけないよね。でも、ちょっとドキドキしたかな。
 さて、後はお兄ちゃんを探すだけだ。今日朝、発表を見に行くって言ったから、ぜったい何処かにいるはずだけど。
 ほとんどが智香より背の高い背中を見ながら、兄の姿を探す。
 結構おしゃれに気を遣ってない人が多いなあ。いつもなら、簡単に見つかると思うんだけど・・・。
 あれ?
 見覚えのある背中があった。でも、着ている服は薄いグレーのハーフコートで、緑と白のチェックのマフラーも巻かれている。そして、髪の毛はしっかりセットされて、後ろに撫で付けられてるし・・・。人違いかな?
 あ!!
 一瞬、時間が止まって、全てがモノクロに見えた。
 隣でブルーのカーディガンを着て、見慣れた背中に寄り添っている女性の顔・・・。
 ショートカットの、眉の引き締まった、瞳の大きな、背の高い・・・。
 大沢千秋さん。
「よかった。わたしの番号、あるね。」
「大丈夫だって、言っただろう。」
 聞き慣れた声。
「幹高は、そうやって余裕だろうけど。わたしはそういうわけにはいかないから。でも、ありがと。一緒に受けてくれて。」
 言って、身体を寄せた。
 お兄ちゃんの手が、千秋さんの肩にかかる。
 ほんとは、わかってた。ずっと心の中で言葉にするのが怖かったけれど。いくつかのお兄ちゃんの仕草、秋の文化祭、バレンタインの電話。全部が、お兄ちゃんの心に誰かが住んでいる事を指してた。ほんとは、わかってたんだ。
 その後のことは、時間が止まったようにぼんやりとしていた。発表の会場を出る2人の後を見つからないようにずっと尾けていく。電車に乗って、一つ乗り換えて、駅で待って・・・。気が付けば、自分達が住んでいる街に戻っていた。その間、千秋さんの肩はずっと、お兄ちゃんの側に寄り添ったまま。
 駅前商店街を抜けて、アーケード街に入る。少しずつ暗くなる景色の中、2人はいつか見た店の前に立っていた。
 あ、そうか・・・。そうなんだ。
 バレンタインの日にお兄ちゃんと入ったイタリアンレストラン。
 店の張り出した柱の影に身を潜めると、はっきりと声が聞こえた。
「あ、いいお店。」
「うん。今日は千秋のお祝いってことで。」
「もう、幹高もでしょ。」
「僕は、関係ない。そういうことは、向こうの大学を卒業できた時、だ。」
 千秋さんが笑った。
「もう、らしいんだから。」
 言って、キスをした。
 キスを、した。
 涙が出てきた。ずっと、発表会場から我慢していた涙が。何も考えられない。どうして、お兄ちゃん、わたしを残してその人を選んだの?
 少しでもその場所を離れたかった。でも、目が霞んで何も見えない。走り出すと、すぐに誰かの肩にぶつかった。
「すいません。」
 拍子に、かぶっていたニットの帽子が脱げ落ちたけれど、拾う気にもなれなかった。ただ、この場所から離れたかった。
 何処を歩いているのかもわからないままで、ただただ、人ごみの中を抜けていく。涙が、ぜんぜん止まらない。
 わたしが、コドモだから?妹だから?お兄ちゃん、わたしの気持ちをゼッタイ知ってたはずなのに。
 ううん、でも、しょうがない。気付いていたからって、何ができるの?わたしみたいな子、妹じゃなかったらお兄ちゃんの側にいることなんてできるわけもないんだもの。お兄ちゃんが好きになるのはやっぱり、千秋さんみたいな人に決まってる。
 バレンタインのチョコを見た時のつらそうな顔。
 やっぱりわたし、お兄ちゃんのお荷物にしかなってなかった。
 ・・・冷たい。
 いつの間にか、街外れに智香は立っていた。暗くなった空からは、ひらひらと雪が舞い始めている。
 頭を触わると、編み込んだ髪の毛はすっかり解け、バラバラになって肩にかかっていた。
 ・・・帰らなきゃ・・・。
 街灯の下で空を見上げた。雪は更に激しさを増して降り落ちてくる。コートの肩が白くなり、体が冷えてくるのがわかった。
 でも、足が動かない。このままここに、座り込んでしまいたい・・・。このまま、ずっと。
 その時、頭の上に、ふわっと何かの布がかけられるのがわかった。
 わたしの、帽子。
 振り向くと、静かに幹高が見下ろしていた。髪を上げて、眼鏡をかけていない彫りの深い瞳が、智香を見つめる。
「無茶、するな。」
 お兄ちゃん、どうして。
 そして、白いニットの帽子を耳までかぶせると、智香の肩に手をかけた。
「帰ろう、智香。風邪を引くぞ。」
「ヤダ!」
 叫ぶ気はなかったのに、静かになった街外れに、わたしの声が響き渡った。
「ゼッタイ、嫌だ!だって、このまま家に帰ったら、お兄ちゃんは、お兄ちゃんは・・・」
 そのままわたしの所からいなくなっちゃう。
「智香。無理を言うな。このままだと、冗談じゃすまなくなるぞ。」
 幹高の肩にも、白い雪が残り始めていた。街灯の光が、下り始めた白いベールに黄色く淡いゆらめきを映し出している。
「・・・さ、帰ろう。」
 もう一度、ゆっくりと幹高は言った。
「嫌だ。」
 ため息をつくと、智香の乱れたコートの襟を両手で直して再び肩に手を置く。
「じゃ、どうすればいい?お兄ちゃんとしては、お前をここに立たしておく事だけはできないぞ。」
 ・・・もう、なんでそんなに優しいの?わたし、無理を言ってるんだよ。こんな子、置いてっちゃっていいんだよ。
 また、涙が溢れてきた。
「ほら。」
 幹高はしゃがみ込むと、ハンカチで智香の頬を拭った。
「・・・ね、お兄ちゃん。」
 涙まじりの声で言う。
「ん?」
 言っちゃたら、全部が終わってしまうかもしれない一言。
「わたしの気持ち、わかってる?」
「ああ。」
 少しの躊躇もなく、幹高は答えた。驚いて、まじまじと兄の顔を見つめる。
 ・・・お兄ちゃん。ほんとうに、わたしの言っている意味、わかってる?
「わたし、お兄ちゃんのこと大好きなんだよ。妹としてじゃなくて・・・・」
「わかってる。」
 しゃがみ込んだままのお兄ちゃんの瞳。嘘じゃ、ない。
「どうすれば、ここから動いてくれる?このままじゃ、二人とも肺炎になるぞ。」
 言っちゃっていいの?ほんとうに、言っちゃっていいの?
 でも、お兄ちゃんの表情は少しも動揺していない。わたしの口が、ずっと言いたかった言葉を紡ぎ出す。
「抱いて、お兄ちゃん。わたしを。」
 一瞬の沈黙の後、低い、しかしはっきりした声で幹高は言った。
「ああ。わかった。」


 シャワーを浴びる音が耳に聞こえてくる。
 智香は、裸のままでホテルのベッドの中に潜り込むと、淡いカクテルライトが照らし出す天井を見つめていた。
 不思議なほど、落ち着いて兄を待っていた。
 夢にまで見た瞬間なのに、わたしどうしちゃったんだろ。
 先にシャワーを浴びて、身体を洗っている間も、「恥ずかしくないように、きれいにしなきゃ」とか、そんなことしか考えてない。
 パタン、と浴室の扉が閉まると、大きな影がライトに照らされてベッドサイドに現れる。
 腰にバスタオルを一枚巻いただけの姿で、幹高はベッドから顔だけ出している智香の顔を見つめた。身体を屈めると、流れ落ちた髪の毛に手をかけ、頬まで撫で下ろすと、小さな声で言った。
「かわいいな、智香。」
 瞬間、体中の感覚が燃え上がるように蘇った。すぐに、逞しい身体が同じシーツの中に潜り込んでくると、小さく上を向いた胸と合わさる。
 無言のまま顔が近づくと、唇が合わさった。
 嘘じゃないんだ。わたし、お兄ちゃんに抱かれてれる。
 幹高の唇は、最初から智香の唇を割り、すぐに舌が情熱的に口の中に侵入してくると、歯茎から歯の裏をなぞるように這い回る。おずおずと舌を差し出すと、確かめるように先が触れ合い、やがてゆっくりと絡み合う。
 舌の裏側をそんなにされたら・・・。わたし・・・。
 次々に流れ込んでくる兄の唾液を受け入れながら、身体の隅々までが総毛立つように鋭敏さを増していくのを感じていた。
 やがて、離れた唇が、小さな耳たぶに下がり、生暖かさに包まれる。耳の穴に舌が少し入った瞬間、軽い痺れが全身を襲った。
 あ、アア・・・。
 ・・・す、少し感じちゃった。
 妹の身体の硬直を両手に感じた幹高は、少し身体を離して智香の大きな瞳を見つめると、囁いた。
「取るよ。」
「う、うん。」
 上掛けを外すと、ぼんやりとした光の中に白い肌が浮かび上がった。
 すっごく、恥ずかしい。だって、わたしの身体、ゼンゼン出てる所がないし・・・。
「奇麗だよ、智香。」
 ほんとうに?
 見つめる幹高の瞳に嘘はなかった。智香は自分から兄の首に両手をかけると、唇を合わせた。
 大きな手が上を向いた小さめの乳房の稜線にかかる。5本の指がゆっくりと確かめるように周辺の愛撫を繰り返した後で、固く尖りだした頂点をつまむように転がす。
 もう片方の手は、静かに脇腹から腰の辺りを上下して柔らかい官能を送り続けていた。
 あ、この太股に当たってるの・・・。
 熱い昂まりが当たっているのがわかった。
「・・・お兄ちゃん、触わらせて。」
 無言の同意に、手を伸ばしておずおずと指を絡ませる。
 すごい・・・。わたしの手じゃ、指が回らないくらい。それに、ドキドキしてる・・。これが、お兄ちゃんの、なんだ・・・。
 固い兄の中心に触れていると、腰の奥で何かが溶け出してくるのがわかった。絡み合っていた唇が離れると、幹高の身体が下へとおりていく。首筋から胸の谷間、おへそへゆっくりと舌がなぞる。
 え・・。
 淡く生えたアンダーヘアーの周辺に暖かい唇が届いた時、思わず固く足を合わせてしまう。でも、幹高はそれを許さず、両手を膝にかけると、ゆっくりと足を開かせた。
 恥ずかしい。
 身体全体が赤く染まってしまうような恥ずかしさもつかの間、唇が内側の足の付け根辺りをゆっくりと這い回る。
 やだ。お兄ちゃんの舌が・・・。
 固く合わさった扉が、少しずつ緩み始めていた。毛の生えていない中心部に向けて、ざらざらした舌が近付き、内側の粘膜を軽く掃いた。
 あ、そんなところに舌、入れられたら、わたし。
 逞しい両手が細い腰の後ろ側にまわり、力強く引き寄せる。唇全体が濡れそぼった智香の秘部を捉えた。舌が、一番内側の敏感な粘膜の壁を何度も舐め上げる。そして、尿道口のあたりを舐め上がると、今まで一度も触れていなかった敏感な突起の周辺をゆっくりと回り始める。
「・・・わたし、お兄ちゃん・・・。」
 イッちゃうよぉ。
 唇がクリトリス全体を捉え、軽くキュッっと吸い上げた瞬間、身体中に猛烈な電気が走った。
 あ、あああああっ!
 更に唇を這わせたまま、兄の手はしっかりと腰を抱き寄せる。
 い、イイ・・・・。
 ジンジンが手の指の先まで届いてしばらく止まらない。それは、今までのどんな自慰行為より深い官能を教えてくれていた。
「ハア、ハア、ハア・・・。」
 息をついている間、ずっと腰の辺りを愛撫してくれているお兄ちゃん。わたし、幸せだ・・・。
 と、幹高の身体が智香から離れ、両脇に手をつくと静かに見下ろした。
「準備、いいか?」
 え?・・・そうだ。いよいよなんだ。
 お兄ちゃんの瞳の中に、今まで見たことのない激しい光がある。そして、固い声。
「智香。先に言っておくよ。今、お前を貫けば、もう僕は止まらないと思う。」
 う、うん。
「その瞬間から、妹としての智香は消えてしまう。そして、これからもずっと。僕は、そういうやり方でしか女性を自分のものにはできない。たぶん、男が女の身体を愛するというのはそういうことなんだと思う。それでもいいか?」
「うん。」
 お兄ちゃんの言っている意味の半分くらいしかわからない。でも、最初から覚悟してたんだ。バージンはお兄ちゃんに、って。
「そうか。」
 お兄ちゃんの身体がわたしの上に乗る。両足がグッと開かれると、固い先がわたしの入り口に当たるのがわかった。
 最初に思い浮かんだのが、さっき握り締めたあの固い昂まり。あれが、わたしの中に入るんだ、そう思った。
 でも、でも・・・。
 『もう妹じゃなくなる』。その言葉の意味が唐突に気持ちの中で大きく広がっていった。
 小さい頃から、いつもわたしの事を見てくれていたお兄ちゃん。どんな失敗をしても、助け船を出してくれたのはお兄ちゃんだった。お父さんやお母さんが家にいなくても、いつも食事を作ってくれた。だから、わたしは料理を上手になろうと思った。算数が全然できなかった。積木のように頭の中を整理するやり方を教えてくれたのは誰だった?6年生の時に意味もなくいじめられた。相手の親の家でお父さんより先に声を荒げてわたしをかばってくれたのは・・・?そして、この間のバレンタインの時の少し寂しげな表情・・・。
「ヤダ!」
 わたしは、叫んでた。だって、だって・・・。
「ダメ、いいの、お兄ちゃん。」
 涙が溢れるのがわかった。これ、違う。だって、今のわたしはやっぱりお兄ちゃんの妹だ。もし、このまま抱かれたら、わたしは何もかもなくしてしまう。
 顔の横を流れ落ちていく涙。お兄ちゃんの身体がスッとわたしから離れた。そして、静かにベッドサイドに腰掛ける。
「まったく、泣き虫だな。智香は。」
 頭に大きな手がかかる。あ、あったかい。
「・・・ご、ごめん。」
 涙で声が変になってしまった。
「しゃべらなくていいよ。」
 ごめんね、お兄ちゃん。やっぱりわたしまだ、ゼンゼン子どもだ。
「ふとん、かけるか?」
「うん。」
 上掛けがかけられて、少しずつ冷静になった智香の頭に、単純な疑問が兆してきた。
 そう言えば、お兄ちゃん、千秋さんと一緒だった。試験に受かった大事な夜だったんじゃ・・・?
「お兄ちゃん、大沢さんは?」
「ああ。」
 少しうつむき加減で微笑んだ幹高は、ため息まじりに言った。
「実はね、お前を探せって言ったのは、千秋なんだよ。」
「え?」
「まったく、大した奴だよ。あいつは。」
 あ、今ちょっとだけ、お兄ちゃんがかわいく思えた。
 軽く笑った幹高の横顔を見て、智香は今までとは少し違う胸のドキドキを感じていた。
「おまえの事、よく知ってるからね、あいつは。で、抱いてあげなさいよ、って言うんだよ。」
「えーっ!」
「千秋に言わせれば、『大したことじゃないから。通り過ぎさせてあげるのも、幹高の務めなんじゃない。』ってことらしいんだ。」
「そうか・・・。すごいね、大沢さんって。」
 わたしが千秋さんの立場だったら、そんな事、言えるかな・・・?
 裸でベッドサイドに腰掛けていた幹高が、静かに立ち上がる。まだ、完全には収まり切っていない怒張が智香の目を捉えた。
 そっか、お兄ちゃんも感じてたんだよね。
「ね、お兄ちゃん、大丈夫?」
「ん?何が。」
 それ、と目をやると幹高は少し決まり悪そうに目を逸らした。
 ドキドキ・・・。また、さっきの動悸が。
「あ、大丈夫だよ。」
 え、それってもしかして・・・。今から、千秋さんとってこと?
 少しだけチクッとする感じが胸の奥で兆す。な~んか、ちょっとヤダ。
 浴室に歩いて行こうとする幹高の手を、智香は起き上がって掴む。
「ダメ。」
 そして、ちょっとカゲキな言葉。
「わたしが、してあげる。」
 つながれたお兄ちゃんの手が、ピクッとした。
「・・・ほら、気にしなくていいよ、智香は。」
「もう、我慢はよくないよ~。」
 キャー、わたしってば、ダイタン。
「こら、冗談は・・・・。」
 ううん、冗談じゃないよ。だってお兄ちゃんだって、苦しいでしょ。わたしの身体だって、結構魅力的だったと思うもん。
 ・・・あ!
 智香が幹高の昂ぶりに手と口を這わせてから、白濁が頬に飛び散るまでにそれほど時間はかからなかった。



       エピローグ


 あ~、もう飛行機が着いちゃう!
 智香は、慌ててエスカレーターを駆け上がった。
 薄いグレーに緑のポイントが入った襟無しの半袖に、白いタイトなズボンを履き、小さなベージュのリュックを肩に下げた姿は、一年前よりどことなく大きく見える。ただ、二本の編みお下げを後ろで合わせ止めた髪型は相変わらずそのままだった。
 広い空港のロビーが見えてくる。スーツケースや大きなボストンバッグを持った人達が右左へ行き交っている。
 時間、時間。12時20分か。ああ、間に合った。
 搭乗口のエスカレーターの近くまで行くと、何処かで見た背中が、手すりの近くで所在なげに立っている。
 ブルーと白の裾の詰まったワンピースをきた女性。
「千秋さん。」
 智香が声をかけると、長く伸ばして軽くウェーブをかけた頭が振り向いた。
「・・・智香、ちゃん。」
 少し驚いたように千秋は応えた。
「こんにちは。お兄ちゃん、まだですよね。」
 初めてとは思えないほどの気さくさで、智香は話しかけた。
「ええ。」
 奇麗になったな、千秋さん。でも、わたしだって。
 間があった後で、千秋は少し考え込みながら言った。
「ね、智香ちゃん? あなた、少し大きくなった?こんなこと訊くの、失礼かもしれないけど。」
「ええ。」
 さすが。でも、そうじゃないと。
「はい。この一年ちょっとで、5cmも伸びたんですよ。なんか、異常に遅い成長期だったみたいですね。」
 と、少し胸を張る。盛り上がった膨らみに、千秋の眉が少しだけ寄せられた。
「千秋さん、お兄ちゃんから手紙、きました?」
「もちろんよ。」
 どういう意味、という感じで千秋の声のトーンが上がった。
「わたしも、いっぱい来たんですよ。今度の帰国も、まっさきに知らせたって。」
「な、」
 少し言葉につまる千秋。
「わたしだって、そう書いてあったわよ。」
 智香は、にっこりと笑って、ペコリとお辞儀をした。
「一年前、お兄ちゃんにわたしの所に行けって、言ってくださったんですよね。」
「え、ええ。」
 いぶかしげに同じくらい高さの視線にある智香の丸い目を見つめた。
「ありがとう。おかげで、わたし、がんばる気が出ちゃった。」
 ふふふ、と智香は笑った。
「まさか、智香ちゃん。」
「ええ。」
 もちろん。だって、わたしは誰よりも。
「・・・まったく、さすがに幹高の妹ね。ただものじゃないとは思ってたけど。」
「それって、宣戦布告って事でいいですか?」
「ええ。」
 エスカレータから今着いた便の客が、一人、また一人と上がってくる。そして、見慣れた頭が見え隠れし始める。
「幹高~。」
「お兄ちゃ~ん。」
 ゼッタイ誰にも負けないんだ。だって、わたしは誰より、お兄ちゃんを愛してるんだから!


       完

小説(転載) わたしの好きな兄だから! 3/4

近親相姦小説
10 /17 2018
第3章 秋~オトコVSオンナ
 学食の窓の外では、立ち並んだプラタナスが黄に染まった葉を一枚、また一枚と宙に放っていた。
 ふぅ・・・。
 大好きなハンバーグランチも半分残したままで、智香はぼんやりと外を眺めていた。
 変わらないものって、あるのかな・・・。
 何かが動きはじめているのはわかっていた。
 なんとなく過ぎていく自分の学園生活とは裏腹に、兄の身の回りでは新しい時が広がりつつある。
「それで、決めたのか。幹高。」
 先週の土曜日の夕食で、久しぶりに帰ったお父さんが言った時、お兄ちゃんは短くうなずいた。
「そうか。」
 あの時はなんの事かゼンゼンわかんなかったけれど・・・。
 中庭に植えられた数十本の広葉樹は、濃赤と黄を青い空の背景に散らして、その眺めだけで胸が少し痛かった。
 秋って、なんとなく好きになれないな。だって、寂しいんだもの。
 あ、ハンバーグ冷たくなっちゃった。どうしよ。
 箸でチョンチョンと表面をつつくと、デミグラスソースを舐める。やっぱり、冷たくなるとおいしくないなあ。
「よ、智香ちゃん。」
 頭の上からの声に顔を上げた。
「・・・キョーイチ。」
「珍しく、元気ないじゃん。」
 相変わらず制服の胸元を着崩した恭一は、むかいの席に座ると両肘をついて智香の方を見た。
「うん。」
 今はとても、キョーイチに張り合う元気はないや。
「な~んか、拍子抜けだなあ。ほれ!」
 前髪のぱらぱらとかかった額を中指でピン!とはじいた。
「な、何するの?」
「どーせ、ミキちゃんが文化祭でバタバタしてるから『お兄ちゃんに会えなくてさみしいよ~。』だろ。」
「・・・違うわよ。」
 最初からわかってたもん。どうせいろんな役押し付けられて、暇がなくなるって。
 でも、そんなことじゃないんだ。
「ふーん。」
 冴えない表情の智香を顔を斜め下から覗き込むと、恭一はつまらなそうに息を吐いた。
「俺も、中夜祭のスペシャルバンドのメンバーに選ばれちゃってさ、結構忙しいんだ。」
「ふーん。」
 だから、何よ。キョーイチがエレキやってるくらい、知ってるもん。
「でさ、そのバンド、なんとボーカルがあの豆タンクだぜ。」
「え、江梨奈が?そんなこと聞いてないよ。」
 落としていた視線を上げると、智香は恭一の顔を見つめた。にやりと笑うと、恭一は続けた。
「さっきの委員会で決まったの。まったく、あいつと掛け合わなきゃならんとはね。」
 ・・・そっか。江梨奈、すっごく歌うまいから。
 ああ、でもなんか、うらやましい。報明の中夜祭って言ったら、この辺りじゃすごく有名だもん。他校の生徒もいっぱい来るし・・・。
「それはいいとして、報明祭って言ったら、最後は舞台演劇だろ。」
「うん・・・。」
「それで今年は、『ロック調シェークスピア』なんだと。それで俺達スペシャルバンドがそのままバックに入って演奏するんだよ。」
 いいな。江梨奈。わたしなんて、なんの特技もないんだもの。
「そういうのはさすがに初めてだからさ、結構興奮してんだよなあ。演劇部の奴ら、演技だけはすげぇから。ここで一発、俺のテクを披露してだな、ミキちゃんのハートを・・・・・・」
 そうなんだよね。わたしには何にもない。お父さんに言われたみたいに。でも、お兄ちゃんは・・・。
「智香ちゃん。」
 え?
「俺の話、聞いてる?」
「あ、あ、うん。」
「たく、調子出ないなあ。もっと元気ださんと。俺も張り合いがないよ。」
 あれ?
 ぼんやり学食の外の廊下を見ると、見慣れた姿が向かい合っている。
 大沢さんと、お兄ちゃんだ。でも、いつもとなんとなく違う感じ・・・。
 春に委員になってから、何かと言うと引っ張りまわされているのは知っていたけれど、今は何か大沢さんの方がお兄ちゃんに頼み込んでいる感じだ。
 あ。
 幹高は、しばらく考え込んでいる風に見えたが、ふい、と向きを変えて歩み去っていった。
 いつも引き締まって隙のない大沢さんが、あんな顔するなんて・・・。
「ふうん。」
 智香と視線の先を見ていた恭一が口を開いた。
「ま、いい気味だ。あのサド女。」
「え?どういう事?」
 恭一の表情に、今まで智香が見たことのない寂しげな色が浮かんでいた。そして、怒りにも似た口調。
「あの女会長、演劇部の部長でもあるんだよ。ま、報明伝統の演劇部だからな、珍しい事じゃないけどね。」
 え?ゼンゼン意味がわかんないよ。
「さて、行こうかな。智香ちゃん、元気出せよ。じゃないと、こっちも拍子抜けだからさ。」
 立ち上がると、残っていたハンバーグをつまみ上げて口に放り込んだ。
「・・・え、どういう事、それって?」
「ふふ、コドモは知らなくっていい事。じゃあな。」
「もう!バカにして!」
「そうそう、その調子。」
 芝居がかったいつもの調子でテーブルの間を歩いていく恭一。もう、みんなしてわたしをかやの外に置いて!わたしだって、わたしだって、いつまでも子どもじゃないんだから。
 ・・・はあ、でも。
『智香は真面目にやってるだろうな。お前は大した取り柄は何もないんだからな、いい話が来るのを待ってる位しかないんだぞ。』
 この間のお父さんの言葉が頭から離れない。わたしとお兄ちゃんの距離はどんどん開いていく・・・。
 智香は窓の外をみて、もう一度ため息をついた。


 さらに中庭の木々の赤みが増す中、文化祭までの2週間はあっという間に過ぎた。
 クラスの模擬店の準備や、日々の学園生活に追われる間、ずっと続いていた青く高い秋の空とは裏腹に、智香の気分が晴れ渡ることは一度もなかった。
 そして今、ライトアップされた舞台の袖。智香の前には中夜祭のステージを目の前に、緊張を隠せない江梨奈が立っていた。
「ああ、チカ。すっごくドキドキしてる。わたしちゃんと歌えるかな。」
「大丈夫、大丈夫。」
 緑色のタンクトップに、わざと膝や裾が擦り切れたジーンズ。わずかに覗いたおへそに、銀の十字架をあしらった金属製のベルト。もともと押し出しの強い江梨奈のボディだもの、歌う前からみんな釘付けに決まってる。
「・・・でも。」
 それでも不安そうに江梨奈は言った。
「演劇部の『ロックン・シェークスピア』、主役が怪我とかで、中止になりそうなんでしょ?じゃ、わたしたちがメインってことじゃない。」
 講堂をいっぱいに埋めた学生達の笑い声が響いてきた。舞台上を覗き込むと、男子二人組みの漫談が続いている。スペシャルバンドはこの次だ。
「もう、江梨奈、いつもの強気は何処よ。そんなことじゃ、キョーイチに負けちゃうよ。」
 あ、目の色が変わった。
「・・・う。うん。そうだよね、よし。」
 江梨奈はこぶしでポンっと胸を叩いた。
「お、気合入ってるみたいだな、豆タンク。」
 ギターを抱えた恭一がバンドのメンバーと共に現れた。パーマのかかった長い髪に、ぼろぼろのTシャツとジーンズ。他のメンツも似たりよったりだ。
「おまえも、その髪下ろせよ。」
 恭一は江梨奈のひっつめお下げを解いて、両手で髪をくしゃくしゃにした。
 一瞬、驚いたような江梨奈の視線が恭一と絡んだ。
「よっしゃ、これでワイルド&フリーだぜ。うしっ、行くか!」
「よっしゃあ!!」
 掛け声を上げると、恭一も含めた4人の男達がバタバタとステージに上がっていく。
 江梨奈も、智香にうなずくと、前を向いて舞台に駆けていく。
 ウワーツ!
 眩し。・・・でもカッコイイ。わたしがあそこに立ったら、あんな歓声が上がるかな・・・。
「ファーストナンバー、『ミー・アンド・ボギーマギー』、いくよ!」
 江梨奈は四方からのライトに照らされて、右手を高く上げる。静かな出だしはやがて、テンポを上げてハスキーな声を際立たせていく。
「そうか、お前にも話すべきだったかもしれないな。」
 たくさんの本の積みあがった部屋の床に腰を下ろしたお兄ちゃんはあの時、言った。
「ごめん、だって・・・。」
 その前の日、内緒で忍び込んだ部屋で見た、英語だらけの願書。
「謝ることはないよ。こういう事は家族の問題だからね、智香だけに話さなかったのは悪かった。」
 いつの間にか、曲はゆっくりとしたラブバラードに変わっている。
 ・・・Loving You、I Always・・・
 どうして、涙が出るんだろう・・・。ねえ、教えて、お兄ちゃん。わたし、どうすればいいの。こんなに、こんなにお兄ちゃんのこと、好きなのに。
 恭一がゆっくりと舞台の前に進み出て、静かにソロを弾き上げる。歌うのを止めた江 梨奈と視線が合い、どちらともなく微笑む。
「3月には出発するよ。語学学校でみっちりやってから、カレッジに上がるつもりだ。」
 眩しい舞台の眺めが霞んで見える。昔のわたしだったら、言ったと思う。
 『ゼッタイ、やだよ。なんでアメリカの大学になんか行くの?』って。
 でも、いつからだろう。前みたいに素直に側に寄れない。お兄ちゃん、行かないで!って言いたいのに。
 総立ちの大歓声の中で、バンドのメンバー達が両手を上げて応える。
 ああ、わたしってダメだ・・・。
「気持ち良かった!」
 戻ってきた江梨奈が、汗の吹き出した顔で智香の肩に手をかけた。
「どう?よかったでしょ・・・。あれ、どしたのチカ。」
「ううん、なんでもない。凄かったよ、江梨奈。きっとプロにもなれちゃうね。」
「はは、誉めすぎ。でも、ちょっと、アイツに乗せられちゃったっていうのもあると思う。」
 離れた場所で汗を拭く恭一を見やった。江梨奈の表情は、夏の頃の敵意に溢れたものとはどこか違って見えた。
「・・・あいつ、凄いよ。練習の時から思ってたけど。やっぱ、幹高さんと釣り合いたいっていうだけのことはある。」
 智香も、他のバンドのメンバーと話す恭一を見た。
「負けられないな。」
 江梨奈が呟いた時、ブレザー姿の委員らしき男子学生が、恭一たちに何やら話しかけた。
「・・・やるの?」
 驚いたような声が聞こえた時、暗くなっていた舞台にスポットライトが当たった。人の背ほど場所に設えられたバルコニー型の足場の上に、薄いピンクのドレスを着た女性が浮かび上がる。豊かにウェーブのかかった黒髪は、白いリボンでまとめられて肩に流れ落ちていた。
「いくぞ。」
 江梨奈を除いたバンドのメンバーが、舞台前の一段下がった場所に移動していく。
 スクリーンにざわめく木々の影と、大きな満月が映し出された。
「ああ、月よ。あの人は誰?今日のあの時からわたしの心を捉えて離さないあの方は・・・。」
 眉のきりっと締まったその女性は、よく通る声で訴えかける。
 ・・・あの人、大沢さんだ。すっごい奇麗だ。まるでお姫様みたい・・・。
「チカ。」
 スポットに目をとられていた智香の脇腹を、江梨奈がつついた。
「見て、あそこ。」
 まだスポットの当たっていない木のオブジェクトのそばに、見慣れた体型の影があった。
 ・・・まさか。
「ちょっと、江梨奈。」
 江梨奈はうん、とくびを縦に振った。舞台の下でギターを取った恭一も、あっけにとられてその影を見上げている。
「おお、美しい方よ。」
 太く朗々と通る声とともに、その影は立ち上がった。裾のつまったタイツ風のズボンに、銀色のベルトで腰が止められた裾の長い上着は濃紺。オールバックに決められた秀でた額の下には、智香のよく知っている太い眉と、切れ長の瞳。
「お兄ちゃん!!」
 スポットライトが当たると、講堂の中がざわめく。報明伝統の舞台が中止になるであろうことは、生徒の間では周知の事実だった。
「一目見た時からわたしの心はあなたに奪われてしまいました。」
「ああ、あなたはいったいどなたなのですか。愛しい方。わたくしの心もまた、あなたの虜となったのです。」
 低いベースの音が響き始め、7色の光が舞台を踊る。その瞬間、バルコニーの大沢千秋の身体が宙を舞った。
「すっごい。あれ、ワイヤーで吊ってるよ。」
 あ、アタマが真っ白だ。なんで、お兄ちゃんがこんな所で演劇部に混じってるの?
「わたしは、ロミオ。モンタギュー家のロミオ。」
 歌う調子でロミオ=幹高が始めると、バンドの音がメロディを奏で始め、舞台の中央にジュリエット=千秋が舞い下りる。
 木々を象った緑色の衣装に身を包んだ数人が背後から現われ、唱和する。
「ロミオ、モンタギュー家のロミオ。」
 ドレスを翻しながら幹高に近寄ると、歌うような高い声。
「ああ、ロミオ。わたしはジュリエット。キャプレット家のジュリエット。」
 今度は星々を象った黄色い衣装の幾人かが現われ、8ビートのリズムに合わせて叫ぶ。
「ジュリエット、キャプレット家のジュリエット。」
 ぐるぐると回るライトの中で、群舞が始まった。スローだったビートは、次第にダンス調へと変わっていく。
「どうなってるの、これ・・・。」
 アタマの中をいろいろな情報がぐるぐると駆け巡る。お兄ちゃんへの想い、お父さんの言葉、積み上げられた参考書、自己嫌悪、英語だらけの出願書、シェークスピアと書かれた本・・・。
 ああ・・・。そっか。
 幹高と千秋を中心に続く群舞は、やがてミュージカル調のダンスへと変わっていった。中世調の衣装が剥がれ落ちると、フレアスカートに黒の皮ジャン、60年代風のスタイルに早変わりする。
 また、かやの外だったんだ。わたし。
 何処かで聞いたダンサブルな曲とともに、大音響のアナウンス。
「Come On Everybody,Let’s Dance!!」
 舞台上の7色の照明が一気に客席まで広がると、講堂はダンスホール状態に。
 智香は、リズミカルに踊る幹高をぼんやりと見ていた。そして、江梨奈のつぶやき。
「・・・似合ってるな、会長と幹高さん。」


「ど~してだよ!」
 カラオケボックスの椅子にふんぞり返って、恭一は叫んだ。
「ミキは演劇部のやつらと行っちまうし、後の奴等はどうしたってんだよ!」
「も、もう飲みすぎると・・・。」
「しょうよ~!!」
 智香の隣で江梨奈も大声を上げる。
「せっかくの打ち上げじゃない!な~んで帰っちゃうのよ。」
 それは、あんた達が・・・。なんで、二人ともこんな荒れてるの。わたしのほうが叫びたいくらいだってのに。
「ビール、ビール。江梨奈、もう1杯だ。お前も飲むだろ?」
「もっちよ!わらしはカクテル!」
 立ち上がってインターホンを取る江梨奈。ああ、なんでこの店、高校生相手に平気でお酒出すわけ?
「つまんねえな~。付き合い悪すぎだぜ、あいつら。」
「けーっ、恭一のジントクのなさだってぇ。自分ばっか目立とうとすっからだよ。」
 江梨奈が舌を出して言った。
 わたし、帰りたい・・・。
「智香ちゃんも飲みなよ。飲めんでしょ~。」
 ・・・キョーイチ、目が据わってるよ。
「わ、わたしはジュースでいいよ。」
「暗い、暗いよ、智香ちゃん。ほら、お兄ちゃんの胸に飛び込んでおいで~。」
 う~。なんでこんな事に。
「恭一。」
 唐突に立ち上がった江梨奈がマイクを突き出した。
「勝負よ。」
「ナニ?」
「あたしはね~、あんたとは決着をつけないとイカン、と思ってたわけよ。」
「で、カラオケバトルか?だいたい、江梨奈、お前は生意気なんだよ。ちったあ、智香ちゃんを見習え!・・・おっ?」
 モニターに歌合戦モードのグラフィックが表示された。
「たく、勝手な奴だな。しゃあね、俺のジツリキを見せたるわ。」
 R&B調のイントロが流れ始める。マイクを持った江梨奈がソファーの上に立ちあがった。
「パンツ見えっぞ!」
「うっさいわね。あんたに見られても恥ずかしくないよ~だ。」
 うわぁ、もうメチャクチャ・・・。
「忘れな~いで~、あなたと~・・・」
「もう、ソ連はないぞ~。熊のぬいぐるみは何処に~。」
 キョーイチがわけのわからない合いの手を入れる。
 92点。
「俺はCLAYだ!!」
「粘土細工、引っ込め~。」
 95点。
「Hold On Me、形のな~い・・・。」
「あくまでジャパR&Bかあ?なら、KUBOJAじゃ!」
 90点。
「ならこれはどうよ!」
 な、なんかわたしのわかんない曲が・・・。
「Janetか?なら俺はMichealだ!」「Robertaよ。」「Stevie!」「なら、Diana。」「God Fatherじゃ、ゲロッパ!」「負けるか、はあああ、Tinaよ!」・・・・・。
 ぜんぜんわたしには入り込む余地がないよ。英語はわかんない~。
 恭一と江梨奈は汗だくになってソファにもたれかかった。
「よし、これで決まりだ。」
「さ、出るわよ。」
 チャカチャカ~ン。
 905対・・・905?
「何~?」
 白いカッターシャツの胸元を大きくはだけた恭一が床にずり落ちた。
「なんで、あんたと同点なのよ。だから機械採点なんてぇ!」
「うるさい。自分のミジュクさを棚に上げんなっての。そういうカラダだけのオコドモだから、ミキの目に留まんないんだよ。」
「・・・それはあんたこそ、でしょ。まんまとあんなオンナに持ってかれてさ。」
 まだどんよりとした目で江梨奈が恭一を睨み付ける。
 え?え?
「わかってねえな、江梨奈。そういうんじゃないんだよ。最初から出来ゲームだったってこと。」
「ああっ、どうでもいいのよ。そんなこと!」
 グラスに残ったカクテルを飲み干すと、江梨奈はドンッとガラステーブルを叩いた。
「だいたい、わたしの何処がコドモだって言うのよ。」
「さあね。俺がそう思うからさ。」
「知りもしないクセに!」
「そんなもん、普段を見りゃあわかる。」
「ちょ、ちょっと、二人とも~。」
 なんか、険悪になってきた。も、もう、お開きにした方が。
「チカは黙ってて。こいつとは決着つけなきゃならないんだから!」
 キャー、なんでそうなるの!?
 江梨奈はおもむろにTシャツを脱ぎ捨てると、ピンク色のブラも外して恭一の前に立ち塞がった。
「どうよ!これの何処がコドモ?」
 一回、わたしも触わっちゃった事のある、形のいい胸。
 恭一は座って足を組んだまま、平然と言った。
「ま、確かに胸は大きいわな。」
「ふ、ふん。どうせあんたはホモ男だもん。わたしの魅力なんて、わかるわけないでしょ。」
 少し怯んだ感じの江梨奈。でも、これってヤバクない。
「な~んか、俺のこと、誤解してない?」
 立ち上がると、江梨奈を見下ろす。
「別に、男に限ったわけじゃないんだよ。ジンブツ本位って奴。ミキはなんたって魅力的だから、付き合いたかっただけさ。だから、こういう事もできちゃうわけ。」
 う、うわぁぁぁ・・・。
 江梨奈の解けたセミロングの頭に手を当てると、身を屈めて唇に唇を当てた。驚いたように江梨奈の目が見開かれたが、恭一の手が強引に押え込んで、キスはかなり長い間続いた。
 ちょ、ちょっと・・・。なんか、すっごく・・・。
 恭一の開かれた口からちらちらと赤いものが忍び込んでいくさまが見えた。
「どう?大人のキスは?」
 身体を放すと、江梨奈の瞳が怒りに燃える。
「そ、それくらいわたしだって知ってるもの。」
「そう?じゃ、ホンキで勝負するかい?」
 恭一もシャツを脱ぎ捨てると半裸になる。
 ああ、ヤバイ、ヤバイよ~。誰かこの非常識な二人をなんとかして。
 智香はボックスの外を覗いながら、小窓の辺りに身体を寄せた。
 外から見られたら、大変なことになっちゃう。え、ええっ~!!
 既にショーツ一枚でソファの上に横になった江梨奈の上に、恭一が覆い被さろうとしている。
「きょ、キョーイチ、まずいよ。」
 ソファの上から智香の方を振り向くと、恭一は軽くウィンクする。下になった江梨奈も、親指を立てて、ふんっと構えて見せた。
 だ、か、ら、そういうことじゃなくって~。
 コンコン。
 部屋の入り口が叩かれた。
 ギャッ!!
 ドアに駆け寄ると、自分から開けて外に出る。
 トレイの上に黄色いドリンクを乗せた背の高いウエイターが、驚いたように智香を見た。
「あ、これ、わたしの!」
 トレイからドリンクを取り上げると、ゴクゴクと飲み干した。
「あ、それ・・・。」
「ごちそうさま。はい。」
 空になったグラスを渡すと、ウエイターはまいっか、という風に厨房の方に戻っていく。
 ふう、やばかった。見つかったら停学もんじゃない、もう。
 ため息をついて再び部屋のドアを開けると・・・。
 ゲッ!な、なんてコトを!!
 ペチャペチャと舐めあう音が響いていた。江梨奈の形のいいお尻がこちらにむいていて、その下に恭一の顔がある。そして、江梨奈の口は恭一の足の間当たりにあって・・・。
 江梨奈の唇が、頭の上下する度に捲れて、立ち上がった逸物がライトに照らされてヌメヌメとした光を放つ。恭一もお尻に両手をあてがうと、ぐいっと肉を開くようにして、ピンク色に光る剥き出しの秘部に舌を這わせていた。
「ほら、我慢してないで、イッちゃいなさいよ。」
 唇を放すと、右手で根元をひねるようにしながら上下に動かす。
「けっ、そんなテクじゃ俺はイかせらんないよ。」
 まだ余裕のありそうな恭一は、左手を江梨奈の身体の下から抜き出すと、唾液以外のもので光り始めた秘部の入口へと中指を這わせる。そして、親指を敏感な突起にゆるやかに擦りつけると、江梨奈の形のいい眉が少し歪んだ。
「ほら、そっちこそヤバイんじゃないか?」
「な、これからよ。」
 言葉と同時に深く咥え込むと、根元を左手で抑え、袋に右手を添えて激しく上下動を始めた。
 恭一の顔にも堪えるような表情が浮かぶ。
 うそ・・・。あんなに飲み込んじゃって苦しくないの・・・。あ、江梨奈の顔、感じてるみたい・・・。
 ドックン、ドックン、ドックン。
 心臓の音が聞こえて、顔が火照ってくる。あ、指が、入っちゃった・・・。キョーイチの舌が江梨奈のクリちゃんを舐め上げて。
 あ、江梨奈の顔。わたしも、気持ちいいとあんな顔になるのかな。あれがお兄ちゃんだったら、わたし。
 え?あ、あれれ・・・・。
 突然、頭の後ろを何かに押されたような感覚がして、視界が歪んだ。尋常でないほどの火照りが身体中を駆け巡り、座り込みたくなる。二人の絡み合う音が遠くに聞こえて、妙に感覚がふわふわする。
 あれ、わたし、酔っ払ってる・・・?あ!
 ぼんやりし始めた意識の中で、さっき飲み干した黄色いジュースを思い出した。
 ふらふらしながら、ステージの上に立つと、マイクを握った。
 もう、勝手に二人で盛り上がらないでよ!
「わたしだって、したいんだから!!」
 マイクをぺろりと舐めると、思いっきり叫ぶ。
「お兄ちゃ~ん!」
 ハウリングが起きて、部屋中がビンビンと振動する。恭一と江梨奈が動きを止めると、ステージの上に立つ智香を見た。
「ち、チカ。」
「智香ちゃん・・・。」
 わたしだって、わたしだって、もうコドモじゃないんだもん。
 アタマがぼーっとして何にも考えられない。ただ、見て欲しい。わたしだって、もう、なんでもできるだから!
「ほら、みて、見てよ。わたしだって、もう・・・。」
 白いシャツのボタンに手をかけて、ゆっくりと脱ぎ捨てる。
 見て、ねぇ、お兄ちゃん、もうこんなに大きいんだから・・・。
 チェックのスカートのホックを外し、床に落とす。淡いグリーンのブラとショーツがステージのライトで輝いて見えた。
「ちょっと、チカ!」
 ブラのフロントホックに手を掛けた瞬間、何もかも霞んで、膝に力が入らなくなるのがわかった。
「・・・あ~あ、やっちゃったか・・。」
 キョーイチの声が遠くに聞こえる。あ、なんか床がグルグル回ってる~。
「大丈夫かな。」
 しゃがみ込む気配。江梨奈かな・・・。二人のくすくす笑いが聞こえる。ど~せ、わたしはゼンゼン飲めないもん。
「かわいいな。」
「うん。だって、わたしの親友だもの。」
 遠くに声が聞こえる。
「・・・ね、もういいよね、幹高さんのこと。」
「ああ。おまえも、わかってたんだろ?」
「うん、最近、気付いた。」
「智香ちゃん、大丈夫かな? 少しはわかってるのか。」
「・・・うん。多分。はっきりとじゃないけど、勘は鋭いもの。だから、ちゃんとさせてあげたい。」
「そっか、じゃ、俺と同じ考えってわけか・・・。」
 江梨奈の低い笑い声。どうして、笑ってるの?
「やっぱ、負けちゃうよね。十何年の想いだもの。」
「そーだな・・・。でも、大丈夫かな。勝てる見込み、ほとんどゼロだぜ。」
「ふん、女の子は、当たって砕けられるの。」
「・・・ああ。そうだな。」
 両側の頬に、暖かい感触。くちびる? ね、わたし、眠く、なってる・・・・。


 秋の終わり、期末試験の結果が張り出された職員室前の掲示板ではセンセーションが巻き起こっていた。
「嘘だろ?ウド田が・・・。」
「な、何で・・・。」
 廊下を通りかかった智香と江梨奈は、足を止めて今日何度も見た試験の順位表に目をやった。
 五教科の総合順位で二年半、トップを守り続けていた大沢千秋会長の名前は一番上にはない。
「すごいね、幹高さん。」
 ひっつめおさげをやめて、髪を下ろした江梨奈が言う。
「うん。」
 ・・・お兄ちゃん、すごいね。
「言ってたもの。勉強は、道具じゃないって。試験用の勉強なんて、始めればきっと、お兄ちゃんには簡単なものなのよ。」
 江梨奈は少しうらやましそうに智香を見つめた。
「ほんとお兄ちゃんのこと、アイしてるんだね、チカは。」
「うん。」
 そうだよ。わたし、誰よりお兄ちゃんのこと愛してるんだ。
「それより江梨奈、キョーイチとちゃんとやってる?」
「う、うん。まあね。」
 少しうつむき加減に江梨奈は言った。
「そっか。わたしも、ガンバルね。だって、このままじゃ、嫌だもの。」
「ん、そうだ。その意気。じゃないと、わたしも恭一も浮かばれんもの。」
「そう、そう。」
 ざわめく生徒達の横を、二人はゆっくりと通り過ぎていった。

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小説(転載) わたしの好きな兄だから! 2/4

近親相姦小説
10 /17 2018
第2章 夏~Beachで勝負?
「チカ、誰?この人。なんで幹高さんにベタベタしてるわけ?」
 海岸線を走る電車の中、幹高が一時席を立つと、江梨奈は正面に座る銀髪の男を指差して言った。
 ・・・わたしの方が言いたいよ。お兄ちゃんと二人だけの海のはずが、なんでこの二人と一緒に・・・・。ハァ。
「原恭一さん。お兄ちゃんの高二の時の同級生だよ。」
「ダーメだよ、智香ちゃん。ちゃんと紹介してくれないと。」
 派手に七色の英語のロゴが散らされたアロハ姿の恭一は、チッチッチッと指を振ると、江梨奈の方に身体を乗り出して言った。
「幹高の心友、いいかい?心の友と書いて『シンユウ』の原恭一だよ。そして、いつの日にか心のみならず身体も共にする最高のパートナーなんだな、これが。」
 あ~あ、始まっちゃった、キョーイチの調子こきが・・・。
「な、なにこの人・・・。」
 江梨奈は目を剥いてわたしの方を見る。
「・・・見た通り。もうずーっとこんな調子でお兄ちゃんを追っかけまわしてるの。」
 げっ、目が・・・。江梨奈の目が燃えてる・・・。
「どういうこと!?幹高さんには、あんたみたいなヘンタイに追い回される筋合いはないわよ。」
 江梨奈が再び正面を向いて睨み付けると、恭一は足を組んで肘を付き、余裕しゃくしゃくで見下ろした。
「ゲーっ。今どきなんて了見の狭いオンナだろ。愛に性別なんて関係ないよ。だっから、身体ばっかり育っても、メスガキはメスガキなんだよね~。」
「め、メスガキですって!?」
「だって、そうだろ。そんな恰好だけじゃ、ミキちゃんはびくともしないよ。なんたって、この美形の俺がどんなに誘惑したって、半年以上もなしのつぶてなんだから。」
「どういう意味よ!」
 胸元も露わなピンクのタンクトップに、おへそ丸出しのデニムのホットパンツ姿の江梨奈は、手に顎を乗せてそっくり返る恭一の向かって、ボンと立ち上がった。
「ちょ、ちょっと、江梨奈。」
 もう、周りの人が見てるじゃない。こんな狭い電車の中で、こんな大声出したら・・・。お兄ちゃ~ん、早く戻って来てよ。
「チカ、これ、どういうオトコ?ちょっと位顔がいいからって、性格歪んでんじゃないの?だいたい、なんでわたしに言わなかったのよ、こういうのが一緒だって!」
 ・・・だって、出かける前から問題起こるのわかってたし。どっちにしたって、わたしは二人で行きたかったんだもん。
 その時、連結部のドアが開く音がした。身体を寄せて覗き込むと、やっぱり。
「お、お兄ちゃん。」
 緑のTシャツにGパンという相変わらずの姿の幹高が、古びた青い座席の間をゆっくりと歩いてくる。
「さすがにこの辺りは景色は風情があるね。車掌さんが面白い話をしてくれたよ。ん、江梨奈ちゃん、どうした。」
「え、え。何でもないです。」
 立ち上がったままだった江梨奈は、ペタリと座席に腰を下ろした。
「なんかさ、海が近づいてきたから興奮してるらしいよ。早く入りたいってさ。やっぱ、かわいいよな。この間まで中学生だったんだから、当たり前かもしれないけど。」
 恭一は何事もなかったかのように言った。
 え、江梨奈、目が恐いよ・・・。
「そうか。」
 幹高は智香の前の席に腰掛けながらすまなそうに言った。
「じゃあ、先に保養所に行くべきだったかな。僕のわがままで鎌倉散策をすることにしてしまったけれど。」
 もう、謝る必要なんてないのに!
「あ、いいです。わたしも、結構好きだし、お寺とか見るの。」
「ほーう。」
 再びキョーイチの合いの手。
「そう。ならばよかった。」
 言うと、幹高は列車の外を流れる景色に目をやった。小さな丘と緑の木々が飛び去り、町並みが時折顔を覗かせる。そして、かすかに海岸線が霞んで見えた。
 幹高が言葉を止めたので、電車のガタン、ガタンという音が再び響き始め、四人はそれぞれに窓の外を見やっていた。
 ・・・そう言えばお兄ちゃん、この辺りの事、ちょっと話してたっけ。きっと、そういうこと考えてるんだろうな。
 智香だけはこっそりと兄を表情を盗み見ると、小さくため息をついた。
 あ~あ、お父さんとお母さんが行けなくなったって聞いた時、すっごく嬉しかったんだけどなあ。ふたりでこんな風に外を眺めながら電車に乗ってたら、きっと恋人同士みたいな感じで。
 でも、この状態じゃあ・・・。
 気が付くと、江梨奈は再び恭一の方をものすごい勢いで睨み付けていて、恭一はその視線をすかすと、小ばかにしたように鼻から息を吐いた。
 ああ、頭が痛くなってきた。どうしたらいいんだろ。


 う~ん、もうクタクタだぁ・・・。
 いっぱい泳いだ後でお風呂に入るのって、格別。やっぱり、お父さんの会社の保養所って、Aランクだよね。
 食事も終わって、浴衣で布団に寝転がると、すっかり暗くなった外からの浜風が気持ちいい。
 江梨奈、遅いなあ。おふろ上がりにおじさん達に声掛けられてホイホイついてちゃたけど・・・。ま、いいや。江梨奈のことなんて。
 電車でのファーストコンタクト以来、なんとかうまくいってたのに、海に入る段になってもうメチャクチャだったんだから。
 ・・・う~、また思い出しちゃった。
 焼ける日差しに目を細めて、ビーチに立った時の事を思い出した。
 淡いベージュ色の砂の広がるビーチには、たくさんのパラソルが花と咲き、カラフルな水着が目に痛いほど。所々でバーベキューの煙が上がり、遥か向こうではビーチバレーに歓声が上がっていた。
 ちょっと心配だったけど、いい感じでいけそう。さて、場所取り、場所取りっと。
 おだんごにした編み込みの頭をちょっと直すと、水着の胸を見下ろした。
 だいぶがんばったんだけどなあ・・・。お兄ちゃん、気付いてくれるかなあ。
 薄いピンクに南国の花々が満開に咲いた水着は、背中の部分が大きく開いて、後ろからは、おしりの窪みがもう少しで見えそうなほどのセパレートタイプに見える。
『ね、お兄ちゃん、サンオイル塗って。』とか・・・。この水着なら、結構いけるよね。
 で、でも、おしりが見えそうでちょっと恥ずかしかったり・・・。それで、お兄ちゃんの手がちょっと触っちゃったり・・・。
『あ、ごめんな、智香。』なんて。
 キャ~ッ!
「ちょっと、何一人で身悶えしてるの?」
 少し癖のある高い声に振り向くと、パラソルを肩に抱えた江梨奈が立っていた。
「まったく、相変わらずおもしろいよね、チカは。」
 ちょ、ちょっと。
 学期中おなじみの両ひっつめ髪を、下ろして一本に束ねた江梨奈は裸だった・・・、じゃない。
「江梨奈、ぬ、布が・・・。」
 胸の頂きとその周辺を申し訳程度に隠したイエローの布地は、豊かな稜線を隠すことなく細い紐で止められていた。そして、太股も露わなアンダーは、超ハイレグ!
「どしたの?」
「だ、だって・・・、大丈夫なの、そんな水着で。」
 江梨奈は、ふん、と言うようにパラソルの柄をを砂に差し込んだ。
「他のオトコなんて、関係ないの。幹高さんを振り向かすには、これくらいの破壊力がないと。」
 ガ~ン。これじゃ、わたしの水着なんて、ゼンッゼンインパクトがない。
「お、いいねぇ。ハミ乳に、ハミ尻!」
 再び後ろから声。このすかした感じは間違いなく・・・。
 二人同時に浜の入り口の方に目をやると・・・・。
「ギャ、ギャランドゥ・・・・。」
 ハモってしまった。
「ちょっと、あんた。そんな格好で恥ずかしくないの!」
 江梨奈は指を立てて噛みついたけど、わたしには無理。だって、だって・・・。
 目を逸らすほどわずかな股間の布地。しかも、色はパープル。逸物の形がはっきり、モッコリと見て取れる。肩にかかりそうな銀髪と左肩に入ったハートのタトゥーがさらにインパクトを強めている。
「おや、お嬢さんみたいに恥知らずな豆タンクに言われたくはないよね~。そっちこそ、だろ。」
「ま、豆タンクですってぇ!」
 さすがの江梨奈も、キョーイチにはちょっと押され気味かも・・・。ああ、でも、こんな強烈なのが二人いたら・・・。
 電車の中の頭痛が再び蘇ってきた。
 あーっ、もう、ほんとにあの二人には!あの後、オイル塗りでお兄ちゃんを奪い合おうとするし、どうにかツーショットになろうとするわで・・・。
 横になっていた身体を起こすと、備え付けの冷蔵庫を開けて、オレンジジュースを一本取った。
 はあ。
 と、部屋のドアに誰かの身体がドン、っと当たる音。
「誰?」
 引き戸を開けると、少し乱れた浴衣姿の江梨奈がゆらりと立っていた。
「江梨奈。」
 うわっ、お酒くさい。
 黙ったままふらりと智香の横を通り過ぎると、今しがたテーブルの上に置いたジュースを持ち上げる。
「あーっ、イラつく!あのエロオヤジども。」
 と、おもむろに栓を抜き、ジュースをラッパ飲みした。
「ど、どしたの?江梨奈。」
 ふぅーっ、と息をつくと江梨奈は吐き捨てた。
「ちょっと愛想振ったら、胸に手突っ込んできてさ、いくら?3本くらいでイイ?だもんね。ああ、嫌だ、嫌だ。なんでもお金でどうにかなると思ってる奴って。」
 だめだ、これは。完全に目が据わってる。
「それで、大丈夫だったの?なんかされちゃったとか・・・。」
「冗談。あんたら、淫行条例って知ってる?て言ってやったから。はーあ、」
 ばったりと仰向けに倒れると、江梨奈は呟いた。
「それもこれも、幹高さんが悪いんだ。わたし、結構がんばったつもりなのになあ。」
 江梨奈・・・。
 寝転がった横に座ると、心なしか虚ろな同級生の丸い顔を見下ろした。
「『ちょっとオイル塗ってください。』って言った時、ドキドキしてたんだよ。わたし。」
「うん。」
 本当はゼッタイ負けたくないライバルのはずなんだけど・・・。
「『女の子同士でしたほうがいいよ。そういうのは、異性だったら彼とかにしてもらうものだから。』だもん。自分でブラの紐まで外したのに~!」
 確かに。わたしも同じようなこと言われたもん。ほんと、ああいう時のお兄ちゃんってちょっと残酷。ほとんど海に入らずにパラソルの下で本読んでるし・・・。
「チカ、やっぱあんた凄いわ。妹の立場であの幹高さん相手にがんばろうって言うんだから。・・・わたしは、ちょっともう、無理かな・・・。」
 え?
「あのむかつく恭一はいるし、さすがの江梨奈さんも白旗かなあ、なんて。」
 少しもつれた舌で発された言葉に、ふっと寂しいような感じが胸に広がって。
「江梨奈。」
 両手を顔の上で組み合わせた江梨奈の方に智香が身体を少し寄せた、その時。
「だから・・・、」
 パッと目を見開くと、首の辺りに手を絡ませて智香を引き倒した。
「智香が慰めて。」
 ギャ、やっぱり酔ってる!
「わ、わたしそういう趣味は~。」
「わたしの方は、あったりして。」
 目、目がマジだよ。江梨奈ぁ。
 江梨奈の手は、素早く胸元に滑り込むと、あっという間に智香を組み敷いて馬乗りの格好になる。
「中等部に入ったばっかの時、触りっこした仲でしょ。」
「あ、あれは・・。」
 だって、あれくらいの時は誰でもあるちょっとした好奇心・・・。って、なんでもう裸になってるの?
 智香を足で押え込んだまま帯を外すと、浴衣の下から何もつけていない裸体が露わになる。張りのある大きな乳房が揺れて・・・。
 ど、どうしよう。嫌だ!って叫んでもいいんだけど。江梨奈だしぃ・・・。
 ああ、ダメダメなわたしの巻き込まれ型の性格。
「ね、舐めて。」
 顔の上にたわわな胸が押し付けられると、大きめの乳首が頬に当たる。
「で、でもぉ・・・。」
「あれ、こっちはそう言ってないみたいだけど。」
 て、手が早ーい!!
 後ろに下げられた手が、浴衣の裾をたくし上げると、ショーツの中に潜り込もうとしてる。
「ほら、ちょっと湿ってるよ。」
 ち、違うもん。それは、暑かったから、汗が・・・。え、で、でも・・・。
 江梨奈の細い指がショーツの脇から茂みの生え際に触れると、頭の奥でジーンと広がるおなじみの感覚。
 や、やだ。
「ね、やっぱり。」
 アルコールと官能の混じった妖しげな瞳で見下ろすと、自分の胸を智香の顔に押し付けたまま、江梨奈の左手は浴衣をはだけさせる。
 だ、ダメぇ。
 ブラジャー越しにやわやわと刺激されると、頭の奥のジンジンが更に増して・・・。
「チカのムネ、かわいくって好き。ね、わたしのも。」
 もう、どうなってもいいかも・・・。
 少しずつ靄に包まれていく意識の中で、智香は江梨奈の乳首におずおずと舌を這わせた。その瞬間、江梨奈の身体がビクッと震えるのがわかった。
 すごい、江梨奈の、硬くなってくる。
 もう少し積極的に、立ち上がってきたピンク色の突起に唇を這わせると、裸の背中に手を回して引き寄せる。
 それに合わせて江梨奈の足が智香の足に絡み付き、太股に秘部を擦り付けるように腰が動き始める。
「イイょぅ、チカぁ。」
 ついにショーツの中の手が濡れ始めた中心に届いた。
 ・・・さわって、江梨奈、わたしも・・・・。
 智香の頭の中でも花が咲き始めようとした矢先、抱え込んだ江梨奈の背中と、口に含んだ乳首に細かい痺れが走った。
 え?
「い、イッちゃう・・・。」
 擦り付けていた太股を、両足がグッっと挟み込んだ時、細い声が江梨奈の口から漏れた。そして、がっくりと身体から力が抜けると、仰向けの智香の隣に崩れ落ちた。
 そのまましばらく、ピクリとも動かない。
「え、梨奈?」
 スゥー・・・。
 小さな音が耳元で聞こえる。身体を少し起こして斜めに見ると・・・。
 やっぱり。
 江梨奈は布団に突っ伏したまま、静かに寝息を立てていた。
 もう。ほんとに勝手なんだから。でも、まあいいかあ。
 智香は乱れた下着と浴衣を直すと、裸のままの江梨奈に布団を掛けた。いつもは憎らしく見えるコケテッシュな表情が、今は何かとても身近に思えた。


「元気ないなあ、豆タンク。海に入らんのか。」
「うん、幹高さんと行ってきてよ。わたしは智香とここにいるから。」
「ふーん。」
 つまらん、という風に恭一は言うと、幹高の方を見た。
「行こうぜ、ミキ。」
「ああ、そうだな。少しは入るか。」
 着ていた薄手のパーカーを脱ぐと、幹高は読んでいた本をデッキチェアの上に置いて立ちあがった。そして、シートの上に智香と並んで膝を抱えた江梨奈の肩に少し手を置くと、
「大丈夫?」
と低い声で言った。
「うん。大丈夫。」
 寂しげな江梨奈の笑み。うーん、なんかちょっとつらい。
「ね、お兄ちゃん。」
「どうした。」
「海に入る時くらい、眼鏡外したら?」
 少し意味深な笑いを浮かべると、黒いトランクス型の水着を履いた幹高は、恭一の後を追って、ゆっくりと波打ち際に向かって歩いていく。
 ・・・やっぱり、かっこいいなあ、お兄ちゃんって。
 ああやってパーカー着て、本読んでるとゼンゼンひ弱そうなイメージなんだけど、あんなに肩幅も広いし、筋肉もついてるし・・・。
「ね、チカ。」
 膝を抱え込んだ江梨奈が切なそうに言う。
「やっぱり、わたし幹高さんのこと、あきらめる。」
「うん。」
 ちょっと残念な気持ちになるのはどうしてだろう。でも、しょうがないよね。
「うん、ってチカ、驚いたり嬉しがったりしないの?」
「だって、昨日も聞いたもの。」
「・・・わたし、昨日そんなこと言った?」
「うん、言ったよ。憶えてないの?」
「う~ん。」
 眉根を寄せると、江梨奈は海の方を見つめた。
「馬鹿オヤジどもに悪態をついた辺りまでは憶えてるんだけど・・・。その後の記憶があいまいで・・・。なんか、朝、裸で寝てるし。」
 やっぱり。江梨奈って、アルコール入ると記憶が抜けちゃうタイプなんだよね。
「なんか、ライバルがいなくなるのはちょっと拍子抜けかな。」
 少し微笑んで横を向いた。目が合うと、少し恥ずかしげに江梨奈の方が視線を逸らした。
「あ~あ、この水着ちょっとフライングだったなあ。」
 江梨奈がごろりと寝転んだ時、南から輝いている正午近くの太陽を遮って、大きな人影がパラソルの中まで忍び込んできた。
 誰?
 視線を上げると、不自然にこげ茶色に焼けた肌の男が4人、取り囲むように見下ろしていた。
「そろそろ飽きてるんじゃない、彼女達。」
 一番背が高く短い茶髪の男が身体を屈めて言った。腰に手を当てて、いかにも見せつけるように顔を斜めにして江梨奈の方に突き出した。
「彼女って、誰よ?」
 寝転がったまま、顔をあさっての方向に向ける江梨奈。
 もしかして、これってナンパ?でも、なんか4人とも嫌な感じ。年は、大学生くらいに見えるけど。
「うわ、やっぱこの子、気強いよ。」
 サーファー風のヘアスタイルの男が他の3人に向けて言った。
「まあ、待てって。」
 最初に話し掛けたリーダー風の男が手を上げた。
「君らも、あんな奴等と一緒じゃつまらないだろ?大体、その水着が泣いてるよ。俺達も、昨日からやきもきしてたのさ。夏の海に来て、本ばっかり読んでるオタク野郎がいるしね。水着で待ってる君らに、それはないだろ?」
 ちょ、ちょっと!
「あの。」
「何?」
 主に江梨奈の方を向いて話していた日焼け男は、智香の方を向いた。
「失礼な事、言わないで下さい。わたしの兄なんですから。」
「お、それはごめん。中学生の妹さん。でも、つまらないことは確かだろ?」
 な、なんですって!
 チュウガクセイという言葉が頭の中で響き渡る。声を荒げようと思った時、江梨奈が身体を起こした。
「あんた達、ナンパのイロハがなってないよ。けなしてどうすんの?この子はわたしの同級生。高校生よ。女の子の気分悪くしてどうするの?」
 男の顔色が瞬時に変わった。親切ごかした仮面の奥から、冷酷な怒りの表情が現れる。
「えーっ、この子高校生だって。」
 背の低いロン毛の男が叫んだ。隣の小太りの男が相づちを打つ。
「僕は、こっちの方が好みだな。遊んでなさそうで。」
「ば~か。おまえはロリだからな。」
 サーファー風の男がケラケラと笑う。
 な、何このオトコ達。人を物みたいに・・・・。
 大声で怒鳴りたい気分になったが、声が出なかった。特に、リーダー格の男の視線に底のない冷たさを感じる。
「ずいぶんな口をきくようだね、年上の人間に。でもな、そういう格好で言ってもなんの説得力もないんだよ。」
 江梨奈の前にしゃがみこむと、水着のストラップに指を掛けた。瞬間、江梨奈の目が燃えるように光ると、右手が男の頬をバシッっと張り飛ばした。
「おーっ。」
 立っている他の3人が声を上げると、男は細い目を見開いて叫んだ。
「このガキ!人が優しくしてりゃ、つけあがりやがって!おまえら最初っからお○○こ目当てだろうが。乳だけがウリのメスガキのくせに、高く売ってんじゃねえよ。」
 ど、どうしよう・・・。
 周りに目をやったが、誰もが知らない振りだ。江梨奈、マズイよ・・・。
「ちょっと、先輩方。」
 壁になっていた男達の向こう側から声がした。
 きょ、キョーイチ。
「失礼ですが、女性を誘う時は、まず礼儀をわきまえた方がいいと思いますが。」
 お兄ちゃん!
「なんだ、このオタク・・・・。」
 サーファー男が見下ろそうとした時、幹高のほうが頭半分高い事に気付いて口篭もる。
「待てよ。」
 しゃがみこんでいたリーダー格の男が立ち上がると、並んで構える幹高と恭一の方に歩み寄った。
「お兄さんね。」
 今度は幹高と同じ視線で挑発するように目を合わせると、
「あの子、俺を殴ったわけだよ。あんたらが二人でよろしくやってる間にさ。よっぽど欲求不満が溜まっているみたいでさ。これって、あんたらの責任と違う?」
「二人でよろしく、だって。」
 恭一がクスクスと笑った。他の3人が睨みつけたが、構わず笑い続ける。
「だから、何ですか?」
 まったく怯むことなく、幹高は男の目を真っ直ぐに射た。
「だから何だ、はないだろ?こっちは痛い思いをしたんだから。」
 恭一が、腕をぐいっと振り上げて示したが、幹高は手で制止した。
「肉体的苦痛も、精神的苦痛も、基本的には同義に扱われるべきだ。それくらいは大人ならわかるでしょう。」
「何?」
「男4人で囲まれて、身体の小さな女性が精神的恐怖を感じても、それはなんら不思議ではない。たとえ江梨奈ちゃんが先に手を出したとしても、それ以前に精神的苦痛が与えられていれば、紛う事のない正当防衛だ。そして、目撃者はいくらでもいる。どう考えても、責任があるのは僕たちではなく、あなた達のように思えるが。」
「・・・口ではなんとでも・・・。」
「更に先ほどの発言。充分に性的侮辱に値するものだと思いますが。間違いなく、刑事罰ものだ。まさか、この程度の事がわからないわけではないでしょう。さ、これ以上恥をさらさない内に引き上げた方がいい。せっかく楽しみに来たんだから、お互いに不快になっても意味がない。」
 お、お兄ちゃん。恰好良すぎ・・・・。(LOVE。)
「お、おい。こいつら変だ。やめとこうぜ。」
 背の低い一人が男の腕を引っ張って止めようとしたが、既に遅かった。
 何の前置きもなく手を振り上げると、幹高の顔を捉えようとした。が、
 バタン!
 激しい音がして倒れ込んだのは男の方だった。幹高の身体が静かに脇にそれ、振り出された手を手繰ると、一瞬の内に男の体を地面に叩き付けたのだ。
「う、うう・・・。」
 激しく背中を打ち付けられた男は、白目を剥いてうめき声を上げた。
「さーて、俺もやらしてもらおうかなあ。」
 腕を組んで見つめていた恭一が肩を回し始めると、残った3人は目を泳がせてまわりを見渡した。既に数十人のギャラリーが集まり始めており、遠くから警備員の走ってくる様が見えた。
「や、やばいよ。行こうぜ。」
 胸を押さえてうめき声を上げる男を抱え上げると、大学生風の4人組は、そそくさと浜の入り口の方へ逃げ去っていく。
 幹高は、身体を反転させた時に落ちた眼鏡を拾うと、そのまま髪をかき上げて後ろでまとめた。
「すいません。お騒がせしました。」
 伸ばされた髪の中から、引き締まった眉と彫りの深い瞳が現われ、丁寧にお辞儀がされると、ギャラリーから拍手が起こった。その中から背の高い老人が歩み出て、何か幹高に話し掛ける。
「まったく、とことんカッコイイ奴。」
 座り込んだままの智香の隣に立った恭一が呟くのが聞こえた。
 うーん、(LOVE)100乗。
 さっきまでのちょっとした恐怖もすっかり吹き飛んで、久しぶりに髪を上げたお兄ちゃんの顔に見とれてしまう。
「チカ。」
 と、同じように幹高を見つめていた江梨奈が視線をそのままに言った。
「わたし、あきらめるの、ヤメル。」
「え?」
「やっぱ、すっごいよ、幹高さん。あんな人、ゼッタイいないもの。ちょっと位の事で諦めてたら、一生もんの後悔になっちゃうよ。」
「ふーん、」
 智香の横で立っていた恭一が江梨奈の前にしゃがみこんだ。
「そんなこと考えてたんだ。俺にとっては、諦めてもらったほうが好都合だったんだけど。」
「ふん。もう一度、宣戦布告よ。あんた達みたいなヘンタイに、幹高さんは渡さないわ。」
「ヘンタイですって!(だって!)」
 うわ、キョーイチとハモってしまった。
「わたしは、(俺は、)お兄ちゃん(ミキちゃん)のこと、愛してるんだから~!」
「マネするな!キョーイチ!」
「そっちこそ!」
「わたしも、負けないぞ。」
 私達三人の間に青白い火花が飛び散る。うわ・・・、これからどうなっちゃうんだろ。
「なんか、にぎやかだな。」
 幹高がのんびりと歩いてくる。
「ま、仲良くなったみたいで何よりだ。」
 もう、お兄ちゃんの鈍感!

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小説(転載) わたしの好きな兄だから! 1/4

近親相姦小説
10 /17 2018
厳密には近親相姦一歩手前だが、気持ちを汲んでおく。
第1章 春~Battle Start!!
 まだ肌寒さが残る4月の朝。
 ずっと憧れていた高等部の制服を今日から着られる!
 白いブラウスにチェックのネクタイを締めて、ライトグレーのスカートをはき、ブルーが所々にあしらわれたベージュのブレザーを羽織る。胸のエンブレムには、『Houmei High School』のロゴ。 
 鏡を覗きこんで、セミロングの両側で編み込んだ髪を後ろで留めた。残った前髪にブラシを入れると、額にパラパラとかかるように梳き上げる。
 あーあ、なんでこんなに垂れてるかなあ・・・。
 鏡に映った眉毛を見つめて、一つため息。どうにも気弱に見られてしまうこの顔の造りが悔しい。
 少しくらいなら、バレないよね。
 眉の生え際を描いて、かるくチークを入れた。まつ毛を上げれば、ほら、目もパッチリ。わたしの唯一のチャームポイントなんだから、強調しないと、ね。
「智香ぁー、いつまでやってんの、お兄ちゃん待ってるよ。」
 階下から母親の声がした。
 ・・・ヤバ、もう7時半回ってる。
 カバンと大きめのポーチを掴むと、智香はドタドタと階段を駆け降りた。玄関には、もう兄の幹高が同じブレザーの制服姿で立っている。
「ほら、パン。」
 母親から手渡されたパンを受け取りつつ、革靴を履く。
「もう、全然中学の時とやってることが変わらないじゃない、あなたは。」
「ごめーん。」
 片手でごめんなさい、のポーズ。なんとかパンを詰め込むと、胸をトントンと叩く。
「・・・行くぞ。」
 幹高はぶっきらぼうに言った。ほとんどセットもされずに伸ばされた髪の中で、ちらっと智香の顔を伺ったように見えた切れ長の瞳。ただ、それも時代遅れの厚ぼったい銀色のフレームの眼鏡の奥でだった。
 ・・・お兄ちゃん、わたしの顔、ちょっと見たよね・・・。幸せかも。(きっと、化粧効果だ。ゼッタイ。)
 家を出て、何も喋らずに黙々と前を歩いていく兄の背中。
 150cmちょっとしかない智香に比べて、頭一つ以上高い幹高の身長は180cmを超えていた。
 だが、決して押し出しは強くない。ボサボサの髪も含めて、よれた制服に、なんとなくもったりとした足取り。
 でも、そうじゃないと。もし、お兄ちゃんのミリョクに気付かれちゃったら・・・。
 そうだ、そうなんだよねぇ・・・。
 兄の斜め後ろを黙ったままで歩きながら、最近発生した『問題』を思い出す。
 いいや、だからこそゼッタイ、お兄ちゃんはわたしが守る!
 智香は小走りに兄の横に並び、ズボンに突っ込まれた手に腕を回すと、身体を密着させた。分厚い眼鏡の奥で、ほんの少しだけ視線が落とされたが、またぶっきらぼうな感じで前に向けられた。
「もう中等部じゃないんだからな、ベタベタしてると笑われるぞ。」
 相変わらず抑揚のない太い声で幹高は言った。
「いいもん。わたしのお兄ちゃんなんだから。」
 そうだよ、どうせみんなからお子ちゃま扱いされてるんだから、今更だもの。それより、ほらほら、ドウダ。これでも少し成長して、78のBカップだぞ~。
「・・・そうだ。智香、気をつけろよ。生活主任の浅井は厳しいからな。それくらいの化粧でもチェック入るぞ。」
 あら、ゼンゼンこたえてない・・・。
「もう、見てないようで見てるんだね、お兄ちゃんは。」
「当たり前だ。」
 ま、いいか。こうじゃないと、お兄ちゃんじゃないもんね。でも、ちょっと言われてみたいかも。『智香もいいオンナになったな。』とか・・・。
「あ、セミが木に留まってるぞ~。」
 こ、この声は。
 振り向くと、停留所でバスから降りた報明の制服の一団の中から、智香と同じくらいの背格好の女学生が飛び出してきた。ただ、頭の両側でひっつめお下げにされたくせっ毛の下で陽気そうに輝く大きな瞳は、智香よりずっと派手で印象に残りやすい。
「おはよ、チカ。それと、」
 二人より少し前に出ると、後ろ向きに歩きながら、
「おはようございます。幹高さん。」
「おはよう。朝比奈さん。」
「やり、智香。お兄さんのあいさつゲットだよ。」
「え、江梨奈・・・。」
 ああ、ついに現れてしまった、問題その1。
「わたし、またチカとおんなじクラスになったんですよ。」
 あ、ああ・・・。なんてことを。
 江梨奈は幹高の開いた右手に左腕を差し込むと、智香がしているのと同じように身体を密着させた。
「ああ、智香から聞いたよ。仲良くしてやってくれよ。」
 気にする風もなく応える兄。
 ああ、もう。どうして!
 幹高の身体ごしに睨み付けると、江梨奈は舌を出して応戦した。
「なんかこう、違いますよね、高等部ともなると。心も身体もこう、成長を感じるって言うのか・・・。」
 江梨奈はグイッっと胸を見せつけるように身体を伸ばした。
 身長は同じでも、ずっと起伏のある身体つき。中学の頃からずっとうらやましく思ってたんだけど・・・。
 くそお、ここで負けてなるものか。
「江梨奈ぁ。」
「なあに。」
 (やる気?)と目が言ってる。と、
「なんだ、ウド田が両手に花してるぞ~。」
「チョップだ、チョォォップ!」
 わざとらしく制服を着崩した男子生徒の一団が唐突に通り過ぎ、幹高の後頭部辺りに手刀を入れて去っていった。
「ありゃ、どういうことだ。」
「ボセイ本能って奴ですかぁ。」
「あんなでかい赤ん坊か?」
「デカさは関係ないじゃないの。ニブくて、ボーっとしてりゃあ、『ママぁ』って感じですかぁ。」
 智香と江梨奈は同時に幹高から手を離すと、わざとらしく囃し立てて去っていく一団を睨みつけた。
「あいつら・・・。」
 走り出しかけた江梨奈の肩を掴むと、幹高は静かに言った。
「いいんだよ。それよりふたりとも、もう校門だから。」
 はっと気付いて智香は兄との距離を取った。
 なんと言っても、この報明学園高等部は、『男女交際厳禁』という今時化石のような校則がある学校なのだ。
 でも、お兄ちゃん、やっぱりカッコイイ。いいオトコは、雑魚は相手にしないんだよね。
 ハッ!
 ピンときて、右側を歩く中学2年以来のくされ縁に目をやると・・・。
 やっぱり。
 ・・・江梨奈も同じ目で兄を見上げてる。
 あーあ、強力なライバル作っちゃたなあ。それに、問題その2もあるし・・・。
 生活担当教諭が立ち並ぶレンガ造りの校門をくぐった時、始業10分前を告げる鐘の音が、威容を誇る大きな時計塔のてっぺんでゴーン、ゴーンと優雅に響き始めた。


 夜。
 智香は湯船につかりながらボーッと今日の事を考えていた。
 新しいクラスは、おとなしそうな女の先生も含めて、まったく問題はなさそうだった。
 なんと言っても、一つ階段を上がれば、お兄ちゃんの教室に行けるし。・・・でも、何であそこまで言いなりになってるかな、お兄ちゃんも・・・。
 今日、帰りに3-Cの教室に寄った時の事を思い出す。智香が顔を出すと、兄のクラスもちょうど生徒達がばらけて帰る所だった。
「お兄ちゃ・・・」
 声を掛けようと思った瞬間、何の飾り気もない短い黒髪の女生徒が、一番後ろでゆっくりと帰り支度をしている兄の前に立ちはだかる所だった。
「篠田君、まさか帰るつもりじゃないでしょうね。」
 あの背筋のピンと伸びた姿、何処かで見たような・・・。
 幹高は一瞥もせずに、黙々とカバンにノートを詰め込んでいる。
「委員会。さっき投票で決まったでしょう。」
 腰に手を当てると、強力なオーラを放つ後ろ姿で兄を見下ろした。
 残った生徒達が、面白そうに成り行きを見守っている。と、入り口で覗き込んでいる智香の頭の上から声がした。
「まったく、あのオンナ。絶対サドだわ。」
 だ、誰・・・?
 身を引いて見上げると、しょうゆ顔のやさ男が・・・。
 げ、問題その2!
「こんにちは、智香ちゃん。今日から、同じ高等部だね。」
 そして、幹高と同じくらいの長身を折りたたむように智香の顔に近づくと、
「休みも終わったし、勝負再開だよね。同じ、道ならぬ恋に身を焦がすド・ウ・シ。」
「・・・わ、わたしだって、負けませんからね、恭一さん。」
「お!」
 不自然にバラけた肩にかかりそうな長髪(たぶん、染め直しだと思う)の下で、目尻の下がった瞳が面白そうにこっちを見た。
「それは、宣戦布告と取っていいのかな。智香ちゃんもホンキだね。では、まず僕が・・・。」
 くそ、キョーイチなんかに負けてたまるか!
「おーい、お兄ちゃ・・・」
「おーい、ミキちゃ・・・」
 二人同時に手を上げかけた時、幹高はあの女生徒と共に反対側のドアに向かう所だった。
「ああ、ちょっと委員会に出てから帰るから。」
 廊下で二人を認めると、軽く手を上げてもっさりと歩み去っていく。前をシャキシャキと歩く女生徒とは対照的だ。
「・・・あのはっきりした顔立ちの人、誰です?」
「あれが、大沢千秋。智香ちゃんだって、名前くらい知ってるでしょ。」
 恭一は踵を返すと、片手をズボンのポケットに突っ込み、もう片方の手をひらひらと振って歩いていく。
「じゃあね。今日は勝負預かりってことで。」
 あの人が、『報明の女帝』生徒会長の大沢千秋さん、か。入学後の実力診断から学年トップを譲ったことがないっていう、伝説の・・・。
 いかにも、って顔立ちだったものね。眉もきりっと太くて、目なんてわたしが睨まれたら凍っちゃいそうだったし。
 ・・・あ、ちょっとのぼせてきたかも。もう、出ないと。
 入浴剤の穏やかな香りを吸い込むと、軽く伸びをした。
 にしても、問題山積だわ。江梨奈はお兄ちゃんの素顔を見てから、すっかりその気だし、キョーイチは相変わらずだし。それに、あの生徒会長。ゼッタイ、お兄ちゃんを使い走りにするつもりだ。
 脱衣所でゆっくりと身体を拭くと、大きな姿見に映った裸の全身をなんとなく見つめた。
 あ~あ、やっぱり、ボリューム足りないよね。でも、前よりはゼッタイ格好がついてきたと思うんだけど。
 右手を乳房の下に添えて、横向きにポーズを作ってみる。つんと上を向いた頂き。
 うん、形はわるくないんだよね、形は。
 それでもすぐに、健康診断の時に目撃した江梨奈の身体を想像してしまう。まるで、どっかのグラビアアイドルみたいな豊満な谷間。おしりも、わたしのみたいに平べったくないし・・・。
 あんな身体でユウワクされたら、お兄ちゃんだってヤバイかも・・・・。
 マケテナルモノカ!!
 大き目のサイズのバスタオルを全裸の身体に巻くと、髪の毛を拭くのもそこそこに、脱衣所を飛び出した。
「智香。ちゃんと身体拭いてから出なさい!」
 母親の声を後ろに、階段を駆け上る。
 なんて言ったって、わたしには一緒に住んでるっていう最大のアドバンテージがあるんだから!
 階段を上がって右側にある茶色のドアの前に立つと、バスタオルの胸元を直して、小さく息を吸い込む。
「智香か。開いてるぞ。」
 ドアをノックすると、すぐに低いトーンの聞きなれた声で返事があった。
「ちょっとお邪魔するね~。」
 椅子に座って、足をベッドに投げ出した格好で分厚い本を読んでいた幹高は、ちらっと智香の方を見たが、また本に目を戻した。
 もう、なんで・・・。
 本棚に囲まれた机の前まで行くと、立ったまま腰を屈めて、開いた本を覗き込むようにする。
 ・・・ちょっと恥ずかしいけど、これならお兄ちゃんだって・・・。
 こうやって両手を膝につくような格好にすれば、わたしのムネだって、谷間ができるんだから。ホラ。
 バスタオルの下には何も付けていない事を考えると、身体中が火照ってどうにかなりそう・・・。でも・・・。
「何の本、読んでるの?」
 こげ茶色のハードカバーの表紙を持ち上げると、「ファウスト」と刻まれた銀色の字。
「こらこら。」
 ページが持ち上がって読書を中断されると、幹高は目を上げて智香の方を見た。眼鏡の奥の深い瞳が智香の視線と合わさる。
 チャンス!
 ここぞばかりに腕を寄せると、胸を強調する。
「ね、野球の本?面白い?」
 面白そうに瞳の色が輝くと、クックックッと笑い声が続いた。
「面白い奴だな、お前は。」
 そしてしばらく押さえた声で笑い続けていた。
「・・・わ、わたし何か面白いこと、言った?」
「いや、いいよ。ごめんな。知らないことが悪いわけじゃないからね。それより、」
 真面目な調子に戻ると、幹高は続けた。
「いつまでもそんな格好してるなよ。まだ冷えるからな。」
 顔から火が吹き出しそうな決まり悪さが全身を駆け巡った。
 ・・・もう、お兄ちゃんなんて、お兄ちゃんなんて・・・!
「大っ嫌い!!」
 自分でもびっくりするくらいの大声だった。ドアをバタンと閉めると、廊下を走って自分の部屋に駆け込んだ。
 どうせ、どうせわたしは子どもよ。高等部に上がってちょっとは成長したかなあ、って思ったけど、中身は変わってないんだもの。そんなこと、わかってたけど、わかってたけど・・・。
 『いつまでもそんな格好してるなよ。』はあんまりだ。
 ベッドの上に倒れ込むと、頭を押さえていたタオルが外れて、濡れた髪が流れ落ちた。
 ・・・こんなにお兄ちゃんのこと好きなわたしが変なのかな。ううん、そんなことはゼッタイにない。あんなにカッコイイ人、わたしは他に知らないもの。それがたまたま、兄妹だっただけ。
 そう言えば、一回、どうしてそんなに身だし並みに気を遣わないのか訊いたことがあったっけ。
『不潔じゃないだろ。それ以上は時間の無駄なんだ。』
 短くそう言った。わたしには意味がよくわかる。いつもたくさんの本を読んで、週に何度かは身体を鍛えるために何処かの道場に通っていることも知ってる。外見だけのチャラチャラしたオトコとは、基本が違うんだ。
 でも・・・、お兄ちゃんがどんどん前に進むたび、わたしのいる場所は小さくなってく。
 智香はため息をついて身体を起こした。バスタオルが落ちて、湯上がりでまだほのかに桜色に染まった裸体に冷たい風が当たる。
「もうちょっと大きくなれよ、オイ。」
 乳房を見下ろして、軽く両手で持ち上げてみる。手の平が少しだけ乳首に触れた瞬間、ビクッと軽い電気が背中に走った。
『さっさと済ませちゃえばいいのよ、一回しちゃうと、色気も変わってくるよ。』
 やっぱ、バージンなんて面倒くさいもの、捨てちゃった方がいいのかな・・・。
 考えながらも、両手は胸の頂きに添えられ、ゆっくりと手のひらで乳首に刺激を送り始めている。
 でも、ダメ。バージンはお兄ちゃんにあげるって決めたんだもの。
 もう一度ベッドに倒れ込むと、部屋のドアの鍵がかかっているか、痺れ始めた頭で確認した。
 右手が脇腹を滑り落ち、太股を柔らかく撫で続ける。
 本当は、少し恐いかも。お兄ちゃんに抱かれたら、わたし、どうなっちゃうんだろ・・・。
 頭の中で妄想が膨れ上がって、閉じた目の裏に、幹高の像が徐々に結ばれていく。
 ・・・もう、こんなに濡れてる。ねえ、お兄ちゃん、わたしの、こんなになって待ってるんだよ。
 草むらの下の濡れ始めた窪みに指を這わせる。入り口の柔らかいひだをくすぐるように弄ぶと、まだ左胸に添えられた手に、乳首が立ち上がってジリジリした反応を返してくる。
 意識の中で結ばれた全裸の兄の像は、智香を見下ろすように傍らに座り込むと、右手に大きな手を添えて、小さな頭を見せはじめた敏感な核を探り当てた。
 そこ、もっと触って・・・。
 気が付くと、隆々と男を主張する兄の逸物が目の前にあった。
 舐めて、欲しいの・・・?
 おずおずと左手の指を唇の中に差し込むと、想像の中のペニスに舌を這わせる。
 こんな感じでいい?気持ちいい?
 兄の手の添えられた右手は、更に尖りだした核をむき出しにするように、二本の指で根元をなぶるようにこすり上げる。時折中指が、狭い入り口を確かめるように浅く忍び込み、周辺を刺激した。
 口の中に差し込まれたものは、大きく膨れ上がり、舌の動くスピードもどんどん速くなっていく。
 ああ、気持ちいい・・・。もっとして、もっとしたいの。
 兄の身体が回転すると、股間に顔を埋めようとする。
 もうおしりの方まで流れはじめた滴をざらざらした舌がすくいとる。溢れ出した中心に触れることなく柔らかに周りを舐め上げると、すっかり露わになった真珠に唇がたどり着いた。
 そんなところ、刺激されたら・・・、もう・・・。
 二本の指でむき出しにされた頂きを中指が弾いた瞬間、身体の中心からつま先まで激しい電気が走った。
「お、お兄、ちゃん・・・、イク!」
 少しだけ開いた入口のヒダヒダが、わずかにうごめくのがわかった。頭の芯がジンジンして、しばらくは何も考えられない。身体から力が抜けて、ベッドの中に沈み込んでいくような気がする。
 ・・・また、しちゃった。
 ごめんね、お兄ちゃん。勝手に使っちゃって・・・。
 ひとりHの後は、いつもなんとなくアンニュイな気分になる。オトコの子なら、「すっきりした」で終わるんだろうけど。・・・お兄ちゃんは、どうなんだろう?
 智香は、兄のそういう部分をどうしても想像できなかった。いつも冷静な幹高は、決して荒っぽい部分を顕わにすることはなかったから。
 まだ少し余韻の残る体をゆっくりと持ち上げると、清潔なベージュの下着を選んで、赤いチェックのパジャマを身につけた。
 トントン。
 その時、部屋のドアが叩かれて、廊下から声がした。
「智香。」
 慌ててパジャマのすそを確かめると、部屋の鍵を開けた。
「・・・お兄ちゃん。」
 さっきまでの妄想が頭をかすめて、まともに顔を上げる事ができなかった。
「まったく、まだ頭も乾かしてなかったのか。」
 優しい声。大きな手がまだ半渇きの髪の上に乗せられると、静かに言葉が続いた。
「・・・大丈夫か?何かあったんじゃないのか。」
 その響きが気持ち良くて、ちょっとドキドキしながら目を上げると、お兄ちゃんの瞳がしっかりとわたしを見下ろしてる。
 視線が合わさった途端、なんか今までのことはどうでもよくなってしまった。きっと、わたしの気持ちなんて、お兄ちゃんはちゃんとわかってる。それでも、こんなにわたしのこと・・・。
「大好き!」
 思いっきり抱きついてしまった。
 幹高の手は、戸惑うことなく智香の頭と肩に添えられている。一層優しげな表情を帯びると、諭すように言った。
「早く、大きくなれよ。」
 いいんだ、お兄ちゃんがわたしの事、妹としか思ってなくても。だって、今のわたしじゃ、とっても振り向かせられないもの。
 だからとりあえず、変なムシはわたしが排除するんだ。いいオンナになった時、最初にわたしの方を振り向いてもらうために!
 智香は心の中で小さなガッツポーズを作った。

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告白(転載) ■告白100 男友達二人の前で・・・ ゆみぃ ♀23歳

告白・体験
10 /17 2018
■告白100 男友達二人の前で・・・ ゆみぃ ♀23歳
 オナしちゃったんです(苦笑)
 先週の土曜日に私のマンションでA君、B君と私の三人で飲んでました。
 いつものようにH話してたらA君が「ゆみぃもオナとかするの?」
 さりげな~く聞かれて思わず、「うん。するよー」て答えちゃったの(後悔)
「どーやってするの?見たいなぁ!」
 私は冗談だと思っていたので「A君のオナ見せてくれるんだったら・・・」と最後まで言ってないのに突然立ち上がり私の顔の前におち○ちんを出してオナ始めちゃったんです。
 大きいおちん○んと素早い手の動きに見とれてました。
「ちゃんと見せたから、ゆみぃのオナも見せて!」
 私は必死で誤魔化そうとしたんですが、A君の真剣(!?)なお願いに折れてしまい、1分間だけ見せる事になりました。
 私は恥ずかしさを堪え、いつもしてるようにベットに横になりました。
「それじゃぁ見えないよ!こっちに足出して!」と二人に片方づつ足を持たれ大きく開かされました。
 私は妙な興奮を感じながらも「痛いし、やっぱできないよ~」と叫びました。
「ごめん。もう痛くしないから・・・、絶対触んないし・・・」そう言って膝の辺りを擦ってました。
「もう~、本当に1分間だけだよ!ちゃんと時間はかってよ」でも私の胸はバクバクと段々激しくなっていました。
 B君が腕時計に目をやり「はい、スタート」
 私は渋々(の振りをして・・・)「脱がなくていいでしょ!」とパンティの上から割れ目を触りました。
 触った瞬間(あ、濡れてる・・・)こんなイヤラシイ女だと思われたくなくて(オナ見せてる次点でイヤラシイんだけど・・・)
 急所とは少しずれた所を触りました。
「もうやめていいでしょ?」
「だめだよ。まだ1分経ってない!途中でやめたから最初からね!」とA君。
「え~!なんで~」
「はやくはやく!」
 私はもう1度さっきと同じ急所とは少しずれた所を触りました。
 しかし、1分も触っていると本当に感じ始めちゃって・・・。
 A君が「ゆみぃ、感じてるんでしょ?」と私の顔を見ながら言いました。
 私が首を振ると、「パンツ濡れてるし、イケそうだったらイッてもいいよ」
 もう1度首を振ったのですが、私の指は勝手に急所を触ってました。
「ぁぁっ」
 思わず喘ぎ声が・・・。「ぅぅっ、いっちゃうぅ!見ちゃだめぇ」
 恥ずかしながら・・・本当にイッちゃったんです。見られてのって・・・感じちゃいます。

H16.1/17掲載

告白(転載) ■告白99 夏祭り ヨシ ♂19歳

告白・体験
10 /17 2018
■告白99 夏祭り ヨシ ♂19歳
 静岡市に住んでいる大学生です。
 祭りがありました。町内会のもので、役員は近所の父母だったのです。
 僕は19歳で、大学でお祭り関連ののサークルにはいっており、そのお祭りのお手伝いをする依頼をうけて参加したのです。
 太鼓の演奏だけでなくサークルのメンバーは出店の手伝いなどもしました。
 僕はカキ氷屋の手伝いをしていました。機材の運び出しなどです。
 店番をしていたのは、主婦二人組みでした。年は三十代後半だったと思います。
 僕はその二人に「名前はなんていうの?」「童顔なのねー」とか話しかけられました。
 祭りも終盤にさしかかり、ひと段落着くと僕はおばさんとずっとお喋りをしていました。
 二人は「彼女はいるのー?」と聞いてきました。僕は「いませんよ~」と答えました。そして、僕は年上の女性が好きだという事を話すと、
「じゃあ、私たちくらいの年は?」と聞かれたので、「全然OKですよ。」と答えました。
 実際、僕は30代から40代の女性が大好きだったのです。
 僕の趣味を聞くと、二人は急に嬉しそうになって、最近は夫と一緒にいても面白くない、ということを話してくれました。
 最後に「この後、一緒に遊びに行かない?」と誘ってくれました。僕はまだ体力も余っていたし、お酒をおごってくれるという事なので、(ラッキー!)と思って約束をしてしまいました。
 サークルのメンバーが解散をすると、僕は他のメンバーに見つからないように抜け出して、おばさん二人のもとへ行きました。車に乗り込んで、いざ出発です。 二人とも、夫は祭りの役員同士の打ち上げに参加しているので、家には帰らなくて平気だそうです。
 車で街中の飲み屋にいって、僕は二人にどんどんお酒を飲まされてしまいました。お酒は好きですが強いほうではなかったので、最後のほうではフラフラになってしまいました。二人はあまり飲まないで、僕だけを潰してしまおうという作戦だったようです。その後、飲み屋を出てホテルに連れて行かれました。ホテルに入ったのは初めてでしたが、なにせ酔っていたのでどういう内装だったのかあまり覚えていません。
 部屋に入ると、僕は服をむりやり脱がされました。本気で抵抗すれば脱出できたかもしれませんが、二人の熟した色気に僕はすっかり魅かれてしまっていたので、「やめてよ~」と軽く言っただけで、されるがままでした。
 素っ裸にされると、おばさんの一人が
「あら、いい体してるのね!ガッシリしてるし、あったかい~」
 と言って僕の体をいやらしく撫で回してきます。もう一人は僕とキスをしてきます。舌を絡めてねっとりと唾液を僕に飲ませようとします。こんなに興奮したキスは初めてでした。
 おかげで僕のアソコはすっかり勃起してしまいました。
「やだー!若いのね。堅いし、美味しそう~♪」
 と言って、手コキをしてくれました。タマ袋もモミモミしてもらい、味わったことの無い快感を得ました。僕の反応があまりに敏感だったので、
「Hしたことないのー?」
 と聞かれました。恥ずかしかったのですが、「うん」と答えました。実際に童貞だったのです。
「じゃあ、私たちがもらっちゃおう!筆おろししちゃお~」
 と、二人はおおはしゃぎです。散々オチンチンを弄ばれたので、僕は我慢できなくなって思いっきり発射してしまいました。一人が僕の飛び散った精液を舐めて「美味しい美味しい」と言っています。
 その後、僕は四つんばいにさせられました。一人が僕のオチンチンを激しくシコシコして、もう一人が僕のアナルを舐めてくれます。
 僕は「ああああ~」と情けない声を出してしまいました。恥ずかしかったのですが、気持ちよくてたまらなかったのです。その体勢でも僕は射精してしまいました。
 そして、仰向けにさせられて、一人が騎上位で挿入して、腰を振ってくれます。すでに僕はヘロヘロでしたが、おばさんのオマ○コはとても熱くてヌルヌルしており、僕はうめき声をあげながら足をピンと伸ばして快感にもだえていました。
 もう一人が、オマ○コを僕に見せ付けて、顔面騎乗します。僕ははじめてみる生のオマ○コに興奮して、必死でペロペロと舐めました。オバサンのオマ○コの感触を、口とオチンチンで味わいながら、僕は必死でした。
 オバサンはコンドームを僕につけてくれていたので「いいのよ~、イっちゃっても!」と言ってくれます。僕は数分で射精しましたが、オバサンはそれに構わずに腰を振り続けるので、僕のオチンチンはまた元気を取り戻してオバサンの膣内ですぐに復活して、またオバサンのオマ○コをかきまわすのです。
 オバサンは交代で僕のオチンチンを挿入します。何度もやっているうちに僕はオチンチンが痛くなってきました。段々とイクことも難しくなってきましたが、相変わらず勃起しっぱなしです。オバサン二人は大喜びで
「やっぱ若い子は最高ね!」と言っていました。僕は段々と気が遠くなっていくような気がしてました。
 オバサン二人が両方とも2回づつイクと、やっと許してくれました。その夜は、二人で僕を挟んで添い寝してくれましたが、その間もずっと僕のオチンチンをニギニギしてくれたのです。

 朝になって、僕のオチンチンはずっとビリビリした感覚。車で下宿まで送り返されると、僕は部屋でグッタリと寝てしまったのです。
 オバサンと携帯の電話番号は交換しなかったので、もう付き合いはりませんが、それ以来僕はすっかり熟女好きになってしまいました。
―――また、こんな体験したいなぁ

H16.1/7掲載

eroerojiji

小さい頃からエロいことが好き。そのまま大人になってしまったエロジジイです。