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小説(転載) 綾香とぼく 10/10

官能小説
08 /23 2015
第10章 別れ

いつもの時間に綾香がやってきたが、少しうつむき加減で落ち込んでいるように見
えた。
「どうしたの?なにか嫌なことでもあった?」
「綾香、ひっこしするの。」
ぼくは一瞬凍り付いた。こんな関係である。のこのこ引っ越し先まで遊びに行くわ
けにはいくまい。事実上の別れであった。引っ越し先を聞いてみると、電車を何回
も乗り継がなければいけないようなところだった。
 ぼくたちはベンチに座った。
「綾香、ひっこしししたくない。お兄ちゃんと会えなくなるのはいや。」
そう言うと綾香は抱きついてきた。ぼくは優しく綾香の頭を撫でてやった。
「会えなくなってもずっと友達だろ?」
「……うん。」
綾香は顔をあげるとぼくの顔をじっと見つめていた。ぼくは綾香の手をとるとぎゅ
っと握った。綾香も握り返した。
「じゃあ、綾香ひっこしの手伝いしなきゃいけないから……。」
「そっか。」
綾香は歩きだしながらも何度も何度もぼくの方を振り返った。ぼくも綾香の背中を
ずっと見つめていた。

ぼくのかわいい綾香。彼女との出会いは偶然の繰り返しだった。今のこの関係も、
神が与えてくれたような感じすらした。息を弾ませて走る綾香。ぼくを見上げて笑
顔を浮かべる綾香。友達と楽しく談笑する綾香。ぼくにとって、彼女の全てが輝い
ていた。そんな彼女と自分との関係が許されるなど、夢にも思っていなかった。

この幸福な時間はぼくは一生涯忘れない。
ありがとう、綾香。
おわり

小説(転載) 綾香とぼく 9/10

官能小説
08 /23 2015
第9章 キャッチボール


 緑山公園で待っていると綾香が友達と一緒に帰ってきた。ぼくは彼女に声を掛け
た。
「あ、立花さんだ。」
いつもと変わらない表情でぼくを迎えてくれる綾香。
「綾香ちゃん、この人だあれ?」
友達の女の子が聞く。
「立花さんっていうの。」
「ふーん。お兄さんいくつ?」
「え、はたちだけど。」
「ねぇ、綾香ちゃん、今度一緒に遊ばない?」
ぼくが綾香を誘った。
「えー、20才が8才と遊ぶのぉ。へんなの。」
友達の娘が言った。確かに変である。だが、ぼくは本気だった。
「じゃあ、これからあそぼっか?」
綾香が提案した。ぼくはいつでも構わない。
「うん、そうしよう。」

綾香がいったん家に帰ってカバンを置くと、住宅街のちょっと広くなった道路の方
に行った。先ほどの娘は帰っていった。彼女とふたりきりになれた。ぼくはどきど
きしていた。
「立花さんお待たせ。」
小学校で使うドッジボールのような赤いボールだった。
「キャッチボールしよっ。」
「ようし。」
彼女が振りかぶって、ボールを投げる。ぼくがぽんと受け取る。ぼくは体を動かす
のは得意ではなかったが、相手はこども、丁度よいレベルだった。ぼくがボールを
山なりにゆっくり投げて返す。ふたりの間を赤いボールがぽんぽんと行き来した。
「もうちょっと強くしてもいいよ。」
「じゃあ、いくよ。」
ぼくは少し手に力をいれて投げた。
「きゃっ!」
ボールが彼女の手に当たって、宙に飛んだ。
「やっぱりもちょっと力抜いて。」
そんなことを言いながら彼女とキャッチボールをした。ぼくは彼女と一緒に時間を
過ごせるだけでも幸せを感じていた。

「お菓子食べよっか。」
ぼくが彼女に言った。
「うん食べる食べる。」
彼女がボールをわきに抱えて、近寄ってきた。ぼくはカバンからチョコレートのス
ナック菓子を取り出して、ふたを開けた。彼女が2、3個お菓子を手にとり口にほ
おばった。ぼくをちらっと見る。そのしぐさがとてもかわいかった。
「あ、これちょうだい。」
彼女がお菓子のおまけのシールをほしがっている。
「いいよ。」
「やった。」
彼女はにっこりと笑うと、シールを受け取った。

「綾香ちゃん、クラスに好きな男の子いる?」
ぼくは話題を変えた。
「いないよ。」
その「いないよ」は本当はいるのに照れていないと言っているのか、本当にいない
のか、ぼくには分からなかった。
「でもね、綾香、男の子に好きって言われたことあるよ。」
「へぇ、すごいね。」
彼女はクラスの男子にも人気があるようでうれしかった。
本当はここで「ぼくは綾香ちゃんのことが好きだ」と伝えたかったが、どうしても
言い出せなかった。

「ねぇ、これからどうしよっか。誰か呼んでくる?」
ぼくはふたりきりで話がしたかったが、彼女がそうしたいのならばそれも悪い気は
しなかった。
「ちょっとまっててね。」
彼女は駆け出し、曲がり角を曲がると姿が見えなくなった。
しばらく待っていると、春菜を連れて綾香は戻ってきた。
3人でボール遊びをして楽しんだ。

あっという間に日が暮れ、あたりが薄暗くなってきた。
そろそろ春菜が帰ると言い出したので、解散することになった。
「またあしたも公園にきてね。じゃあね、ばいばーい。」
綾香はいつものように、笑顔で手を振ってくれた。

小説(転載) 綾香とぼく 8/10

官能小説
08 /23 2015
第8章 約束


 3時の約束にぼくは1時から緑山公園にいた。まだ早いと思いながらも、はやる
気持ちを抑えられなかった。ベンチに座って、彼女のことを思い浮かべる。何をし
て遊んで、何を話そう。考えるだけでも楽しくなってきた。
 2時間の時が過ぎ、約束の時間になった。ぼくは期待と興奮でどきどきしていた。
一緒にお菓子を食べて、ブランコで遊んで、ベンチに座って話をして。ぐるぐると
楽しいひとときの情景が頭の中をめぐる。
 約束の時間を15分ほど過ぎる。彼女は来ない。少し不安になってきた。約束を
忘れているのだろうか。何か事故でもあったのではないだろうか。いや、きっと何
かで遅れているだけだ。
 30分過ぎた。明らかに遅すぎる。どうしたんだろう。いや、彼女はきっと来る、
そう自分を言い聞かせた。
 45分過ぎたところでぼくはあきらめた。彼女に対する怒りは全くないが、すご
く心配だ。何かあったとしても、ぼくに確認する手段はない。オフィシャルな関係
でないことに少し悲しくなった。ぼくはとぼとぼと公園をあとにした。

 数日後、いつものように、緑山公園で彼女を待っていた。彼女の帰りを待つこと
45分。今日は彼女とは会えないかもしれないという不安の中、髪を下ろした彼女
が息を弾ませて帰ってきた。いつ見てもかわいい。夕日の中、彼女の瞳は宝石のよ
うに見えた。
 はじめは彼女はうつむいていて、ぼくには気がつかなかった。
「綾香ちゃん。」
声を掛ける。
「なあに?」という表情。
「この前ずっと待ってたんだよ。」
緑山公園の約束のことだ。
「習字があるから、綾香、遊べなかったの。」
「その次の日のことだよ。」
「次の日?」
完全に忘れている。まあ、彼女に何事もなかったので安心した。こどもの記憶力と
いうのはこの程度のものらしい。過剰に心配していたのがばからしく思えた。

 公園から彼女の家まで送ってあげた。ふたことみことなんとなく言葉を交わし歩
いた。彼女に対しては、どうしても物事を言い出しにくくなる。どうしても緊張し
てしまう。彼女と一緒にいると、頭が真っ白になる。聞きたいこと、話したいこと
はたくさんある。それが言えない自分にいらだった。
 そうしているうちにあっという間に彼女の家についた。
(ばいばい。)
家の人に気付かれるとまずいのか、彼女は口元だけでそう言った。お互い手をあげて
その日は分かれた。

小説(転載) 綾香とぼく 7/10

官能小説
08 /23 2015
第7章 再会

 運動会に会いに行ったきり、ひとつきほどの間彼女の姿を目にすることはなかっ
た。彼女への想いは募っていき、もう一度彼女と会って話をしてみたいと思った。
以前遊ぶのを断られて以来、彼女とは話していない。彼女がぼくのことをどう思っ
ているのか分からなかった。嫌われているのだろうか。それとも、親に止められて
いるのだろうか。
 これ以上彼女に近づかない方がいいのだろうか。傷つけてはしまわないだろうか。
どうしよう。
 そうだ。手紙だ。手紙を書いてみようか。彼女の住所は分かっている。どうだろ
う。しかし、手紙ならば両親の目にもつく。いっそ、ご両親にぼくの気持ちを伝え
ようか。いや、だめだ。見知らぬ青年が自分の幼い娘に恋愛感情を抱いていること
ほど気持ち悪いことはない。手紙はあきらめよう。

 それから、数日が過ぎた。どうしても彼女にあってみたくなった。散歩に出ると
自然に彼女の家や彼女の通学路の方に行ってしまう。何日もそんなことを繰り返し
ていた。

 ある日のことだった。ぼくはルールを破って、白鳩小学校の近くの横断歩道のあ
たりで、彼女を待っていた。いくら待っても彼女は帰ってこないので、「もう家に
帰ったのかな」と思い、最後に白鳩小学校の校門前を一目見てから帰ろうと思った。
いままでも何度か横断歩道で待ってはいたが、学校を見ようと思ったのは今日が初
めてだった。本当に気まぐれの思いつきだった。
 小学校近くの曲がり道を曲がると学校前の道路に出る。ぼくがその曲がり角を曲
がり、学校の方を見たとき、友達と楽しく話しながら帰る彼女の姿を見つけた。体
中に電気が走った。
 偶然だった。本当に偶然だったのだ。気まぐれでふと学校の方を覗くと、彼女に
会えたのだ。考えてみると、公園で初めて出会って以来、彼女との出会いは偶然の
積み重ねだった。まさに運命的な何かを感じた。
「あっ!立花さん。」
「あ、綾香ちゃん、おひさしぶり。」
本当はもっと喜びを表現したかったが、その場では感覚が麻痺してしまっていた。
「今日はどうしたの?」
ぼくがたずねる。
「学校の帰り。」
当たり前である。余りに彼女との出会いが唐突だったので、混乱してしまって言葉
が出てこない。他にも何か話したと思うのだがよく覚えていない。彼女はとくに嫌
そうな態度をするでもなく、友好的に接してくれた。「嫌われたのではないか」と
いうぼくの考えは、感情の読みすぎだった。半年間悩んで苦しんでいたのが、ばか
らしく思えてきた。
 彼女は髪が少し伸びたようだ。肩まで伸びた髪が魅力的だった。運動会の時に姿
を見ることはできたが、会話をするのはすごく久しぶりだった。

 彼女と他にふたりの友達と一緒に歩く。ぼくは持っていたキャンディーを3人に
渡した。彼女はぼくとの出会いを友達に話していた。
「この人と会ったときのこと、すごくおもしろいんだよ。」
「えー、綾香ちゃん、なになに?」
友達のひとりが彼女に聞く。
「うふふ、立花さんおぼえてる?」
「ああ、桜の木のところだろ?」
「そうそう。」
「『桜の木の枝をひっぱっちゃだめ』って言うんだよ。きゃはは。」
彼女は自慢げにぼくのことを友達に話している。
「でね、この人のことはお母さんには内緒なの。」
彼女なりにぼくとの関係のことは自覚があるのだろうか。ぼくと綾香ちゃんの不思
議な関係のことを。

 彼女はふたりの友達とマンションへ入っていく。彼女は友達と遊ぶようだ。
「ねえ、明日ぼくと遊ばない?」
「どこで?」
「緑山公園で。」
緑山公園とは彼女と初めて出会った公園である。
「うん、いいよ。じゃあ、あした3時ごろね。」
あまりにもあっけなく約束ができた。今まで彼女と会えなかったことを考えると、
あっけなさすぎた。
「春菜ちゃんも一緒に連れて行くから。」
「うん。」
「あ、雨がふったらなしね。」
「分かった。」
春菜ちゃんも一緒だそうだが、できればぼくは彼女とふたりっきりで会いたかった。
雨は降ってほしくない。そんなことで彼女との関係が切れてしまうのはすごく惜し
い。
 明日緑山公園で3時。ぼくはその約束を胸に刻みつけた。

小説(転載) 綾香とぼく 6/10

官能小説
08 /23 2015
第6章 運動会

 半年の月日が流れた。しかし、まだぼくの心は彼女に奪われたままだった。何度
も彼女に会いたいと思った。だが、拒絶されるのが恐くてどうしても会いに行けな
かった。また、彼女に苦痛を与えるので、彼女に近づくのはやめようと思った。彼
女の通学路や家には近づかないというルールを作った。何度かはガラスの靴を探し
に公園にも行ってみた。しかし一度も彼女とは会えなかった。
 乾いた味のないような日々だった。毎日同じことの繰り返しで、楽しいと感じる
ものはなかった。いつも彼女のことが忘れられなかった。記憶の中で彼女の笑顔を
繰り返し再生していた。

 ある日、TVの天気予報で「明日はほとんどの小中学校で運動会ですね。」と言
っているのを聞いた。ふと彼女のことを思い出した。会いに行きたい。彼女に近づ
くのを自分で禁じていたぼくは、見るだけなら、見るだけならいいだろうと自分を
言い聞かせた。
 日曜日の朝、ぼくは最近買ったデジタルカメラを持って、彼女の通う白鳩小学校
へ行ってみた。運動会、やっていなかったらどうしよう、教師に注意されたらどう
しよう、と不安になりながらも、彼女を一目見るんだという考えで自分を引っ張っ
て行った。

 白鳩小学校につく。人混みとざわめきから、すぐに運動会が開かれているのが分
かった。全くの部外者が校内に入るわけだから少し気が引けた。しかし、いったん
校内に入ってしまうと他の父兄と同化してしまい、違和感はなくなった。
 彼女を探して歩き回る。ブルマー姿の少女たちに目を奪われながらも、彼女を探
すことは忘れなかった。半年間もブランクがあったので、完全に彼女の顔を思い出
せなかったが、彼女の雰囲気は忘れていなかった。
 午前中をかけて彼女を探したが、見つけられなかった。昼食の休憩をはさんで、
午後も探す。おかしい。いるはずだ。まさか休んでいるのだろうか。半ばあきらめ
ながらも、小学3年生が座っている席を何度も探した。
 日が傾き始めた中、数時間立ちっぱなしの足に痛みを覚え、あきらめようとした
とき、彼女の姿が目に入った。見つけた。嬉しかった。彼女は元気そうだった。い
つもの笑顔を浮かべ、友達と楽しく話していた。声を掛けたかったが、どう声を掛
けていいか分からず、彼女のそばで、その姿を眺めていることしかできなかった。
だが、それだけでもぼくは満足した。

 運動会のプログラムも終わり、校長が終わりの挨拶を始めた。もう、彼女には会
うチャンスがないと悟り、ぼくは白鳩小学校をあとにした。
 半年ぶりに満たされた感じがした。彼女が元気にしていただけでもよかった。

小説(転載) 綾香とぼく 5/10

官能小説
08 /23 2015
第5章 喪失

 次の日、またその公園に行ってみた。息を弾ませてぼくは公園の階段を上がると、
いつものベンチで彼女達を待った。
「またあした。」
そのことばを頼りにぼくは待った。

 どれぐらい待っただろう。1時間は待った。もう時刻は4時を過ぎている。彼女
達は来ない。
どうしたんだろう。不安に包まれる。昨日、ブランコで泣かせてしまったことを怒
っているのだろうか。親にそのことを話して、ぼくと会うのを止められているのだ
ろうか。しかし、考えたところでなにも始まらなかった。
 彼女の名字と住んでいるだいたいの地域から、エンジェルラインを使って彼女の
住所、電話番号は割り出した。事前に彼女の住所も確認済みだ。彼女の家に行こう
か。電話を掛けてみようか。いやだめだ。もしぼくのことを彼女が嫌がっていたら、
それは苦痛でしかない。
 その日はぐるぐると考えたあげく、おとなしく帰ることにした。

 次の日、どうしても綾香に会いたくて、自分を止められず彼女の家の近くに行っ
た。ひっそりとした住宅街。自分の足音が妙に大きく聞こえる。彼女の家だ。白い
二階建ての一戸建て住宅は明かりは消え、じっと黙り込んでいた。
 少し離れた駐車場で、学校からの彼女の帰りを待つ。自分の姿を想像してぞっと
した。
 30分ぐらいしたときだ。彼女の家に誰か来た。遠くからなのでよく分からない
が、自転車に乗ったその娘は綾香ではないように見えた。しばらくすると、彼女の
家からひとりの少女が現れた。綾香?彼女はすでに家に帰っていたのだ。
 ふたりがこちらに向かって歩き出す。ぼくは立ち上がってふたりに近づいていっ
た。
「あ、立花さんだ。」
綾香がぼくに気がついた。
「やあ。」
ぼくはしらじらしくも手をあげて挨拶する。
もうひとりの自転車を押している娘は春菜だった。
「ねぇ、今日ぼくと遊ばない?」
綾香と春菜が顔を見合わせた。
「……今日はだめ。」
綾香が言う。
「どうしても?」
「……うん。」
綾香の態度がぼくに不安感を与えた。まるで親に会うのをやめろと言われたように、
ぼくに対してなにかつきあいにくそうな態度を示している。
(ひょっとして、もうだめかな……。)
そんな感情がこみ上げてきた。
「じゃあ、しょうがないね。ぼくは帰るよ。」
ぼくはふたりに分かれを告げると自宅に向かって歩きだした。
彼女達を振り返ってみる。ふたりの少女がぼくを見つめて、手を振っている。ぼく
もそれに答えた。まるで、本当の分かれのように。

 その夜、ぼくは自宅で泣いた。

小説(転載) 綾香とぼく 4/10

官能小説
08 /23 2015
第4章 失敗

 ぼくたちは彼女達のリードでブランコで遊ぶことになった。
「ねー、はやくはやくー。」
綾香がぼくの手を引き、春菜はぼくを後ろから押した。ブランコのところまで来る
と、ふたりはさっさと腰をかけてしまった。
「おしてー。」
綾香がぼくにねだる。
「はいはい。」
綾香の背中を押す。彼女の背中はすごく小さくて、とても危なっかしい感じがした。
「きゃははは!」
綾香が声をあげて笑った。こどもは無邪気でいい。これは特別な感情がなくても、
普段から思っていることだ。
「春菜ちゃんも押してもらいなよ。」
「わたしはいい。」
春菜は少しうつむきながら、自分でブランコをこいでいた。
「押してあげるよ。」
ぼくは春菜も押してあげた。すこし春菜は緊張しているのか、綾香に比べるとおと
なしい。ふたりの少女を変わるがわる押した。小さくて軽い彼女達の背中を押す。
少女とのふれあいなんてできないと思っていたぼくからすれば、夢のような体験だ
った。
「あはは、らくちーん。」
春菜が言った。彼女の緊張もだいぶほぐれてきた気がする。
「もっと早くしてよー。」
綾香がねだった。
「よーし。」
ぼくは力いっぱい彼女達を押す。片方ずつ交互に彼女達を押した。
「きゃははは!」
「うわーい、はやーい!」
ふたりとも喜んでいるが、さすがにぼくも疲れてきた。腕が重くなってくる。
「ふぅ、この辺で勘弁してよ。」
「あーおもしろかった。」
綾香の笑顔がまぶしかった。

「じゃあ、春菜ちゃん。今度はくつのとばしっこしようよ。」
「いーよー。負けないもんね。」
ぼくはブランコのすぐ近くのベンチで休んでいた。
綾香がブランコをこいで反動をつけ、勢いよく足をあげる。彼女のくつがきれいな
放物線を描いて砂場にぽんと落ちた。
「こんどはわたしね。」
春菜も同じようにくつを飛ばす。綾香に比べるとより高く、より早く飛んでいる。
くつが砂場に落ちた。春菜の方が1mほど遠くに飛ばしていた。
「わたしの勝ちだね。」
「すごいなぁ。春菜ちゃん。」
「じゃあおにいさん、くつとってきて。」
「はいはい。」
ぼくは立ち上がると砂場へ歩いて行き、彼女達のくつを拾った。ふたりのくつは小
さかった。こんな小さな足をしていると思うと、彼女達を守ってあげたいという感
情がわいてきた。そのあともふたりは何度かくつを飛ばして遊んだ。ぼくはその度
に拾いに行かされたが、悪い気はしなかった。

 ふたりがブランコに飽きて今度は滑り台で遊び始めた。体の大きいぼくは、その
滑り台は滑れない。ぼくは脇に立って彼女達を眺めていた。
「ひゅうううう。」
綾香がぼくの前を滑りおりていく。
「あはははは。」
春菜も続いた。
ぼくは滑り台の横でかがんだ。上の方を見上げる。綾香がまた滑り台の上にのぼる。
白いものが見えた。ぼくはたとえようのない幸福感に包まれた。胸の奥から甘酸っ
ぱい間隔が広がってゆく。
「いくよーん。」
綾香がかわいく言った。彼女の薄暗い股間に目を奪われていたぼくは、はっとして
立ち上がった。

 またふたりがブランコの方に移った。今度はぼくも一緒にブランコに乗った。
しばらくこいでいると、綾香が後ろからぼくのヨットパーカーのフードに砂を入れ
るのが分かった。
「こらっ!」
「きゃははははは!」
彼女のあどけない笑顔を見ていると、怒りの感情など沸き上がってこなかった。そ
の笑顔では、どんなことをやっても許してしまえるような気がした。
そのあとも何度もフードに砂や木の葉をいれてくるので、ぼくはお仕置きをしよう
と考えた。ブランコに乗った彼女を後ろからくすぐる。
「きゃははは。」
彼女がもがいてブランコから落ちる。彼女は顔を地面で打った。
(やばい!)
そう思うと同時に、彼女の顔が歪んだ。
「うわーーん!」
彼女は声をあげて泣き出した。ぼくは焦った。どうしていいのか分からない。
「あー、立花が綾香を泣かしたー。」
春菜がぼくを責めた。必死に肩を抱いて彼女をなだめるが、いっこうに泣きやんで
くれない。
「ごめんね、ごめんね。」
ぼくは錯乱状態に陥りながらも、彼女を慰めなくてはいけないという一心でなんと
か自分を保っていた。
「だいじょうぶ?」
春菜が綾香をなだめる。ぼくよりも冷静で、包み込むような感じで。春菜の冷静さ
には自分の無力さを思い知らされた。
自分を責めた。自分を卑下した。ぼくは何をやっているのだろう。彼女を泣かせて
しまってなんてやつなんだろう。全くひどい人間だ。人間失格だ。
うつ的な思考パターンにはまりながらも必死に彼女をなだめる。そのかいあってか、
彼女は落ちつき、「ひっく、ひっく」というしゃっくりをあげていた。
「綾香ちゃんはよく泣くから、いつも学校でわたしがなぐさめてあげるんだよ。」
春菜はえらいなと思った。

 ようやく綾香も落ちつきを取り戻した。しかし機嫌を損ねてしまって、ぼくと口
を聞いてくれない。というよりは、気まずい状況になって、どう話していいのか分
からないというような感じだった。彼女自身はもう怒っていないだろう。
 夕方の5時を過ぎ、春菜が「帰る」と言い出した。もう少し彼女達と過ごしたか
ったが、彼女達が親にしかられると思うと、引き留める訳にはいかなかった。
「じゃあね、またあした。」
春菜が言った。
『ばいばい。』
手を振る綾香の口元が声を出さずにそう言った。

小説(転載) 綾香とぼく 3/10

官能小説
08 /23 2015
第3章 無垢

 ベンチで楽しく過ごしたぼくたちは、植え込みの中に入って草原に直接腰を下ろ
して一緒に話した。暖かい春の日、草原がぼくたちに解放感を与え、緊張を解いて
くれた。
「城山先生って恐いんだよー。」
綾香が横に座って言った。もちろんぼくは「城山先生」は知らない。
「ほんとだよねー。すごく大きな声で怒鳴るんだよね。」
春菜が合わせる。
「ふーん。」
傾聴してみる。こどもはときどきかまってほしくて話をする。熱心に耳を傾けてい
れば、彼女たちも心を開くはずだと考えた。
「石川先生ってやさしいよねー。」
春菜が言う。
「うんうん、綾香、あそこのクラスになりたい。」
彼女達はそばに生えている花を見ながら話していた。
「あ、そうだ。春菜ちゃん、ちょっと耳かして。」
「え、なになに?」
綾香が春菜にこそこそと話しかける。ふたりともにやにやしながらこちらを見てい
る。
「ちょっと待っててね。」
ふたりは少し離れたところへ行って、なにやらごそごそやっていた。ぼくは何をし
てくれるのか楽しみに待っていた。

 しばらくして、綾香が帰ってきた。手にはきれいな花を持っている。
「あげる。」
嬉しい。本当に心からそう思った。知り合いとは社交辞令的につきあうことが多か
ったぼくは、彼女の贈り物は心底喜べた。
「こっちもあげるよ。」
春菜がきれいなはっぱを手にやってきた。綾香はまた走って行き、何かを手にして
帰ってくる。
「ふぅ~。」
綾香はたんぽぽの花を手ですりつぶすと、息を吹き付けて空に飛ばした。
「うふふ。」
綾香がぼくの横にちょこんと座って満面の笑みを浮かべた。至福の喜びだった。本
当に自分がこの喜びを味わってもいいのか、不安にすら思えた。
「おにいさん、女の人みたい。」
「え?」
確かにぼくは男らしいとは思っていなかったが、女性的だと言われたのははじめて
だった。
「だって優しいんだもん。」
綾香がさらりと言った。その無垢なところがとてもかわいく思えた。嬉しかった。
こんなに自分が評価されたのは初めてだった。
 ふと横を見ると、綾香がごそごそやっている。
「はい、プレゼント。」
綾香が手をさしのべた。手の上に何か乗せている。それははっぱと花をつなげて作
った指輪だった。
「ありがとう。」
ぼくはその指輪が長く形を保っていられないことに悲しさすら感じた。永遠に、こ
の指輪が永遠に今日の思い出として残ってくれたら……。ぼくはそんな気持ちでい
っぱいだった。

小説(転載) 綾香とぼく 2/10

官能小説
08 /23 2015
第2章 ベンチで

 昨日の少女達にまた会えるかもしれないという淡い期待を抱いて、今日もその公
園に行った。昨日となんら変わらない風景の中、ぼくは彼女達の温もりを求めて歩
き回った。桜の木のところに行ってみた。彼女達はいない。さあっと、公園の中を
風が吹き抜けた。桜の花が舞い上がる。
(やはり、そううまくいくものでもないか……。)
 ぼくは落胆した。公園の少し高くなったところに、景色がよく見えるベンチがあ
る。ぼくはあの娘達のことをあきらめて、そこに向かってとぼとぼと歩きだした。
ベンチに向かう階段をゆっくりと上がっていったときのことだった。
「あっ。」
 少女のかわいい声が聞こえた。ぼくは耳を疑った。声の聞こえた方を振り向くと、
植え込みの向こう側に昨日の少女がいた。間違いない、彼女だ。彼女と会えた嬉し
さと同時に、自分のことを覚えていてくれたことにも喜びを感じた。
「昨日の子だね。」
 あまりにも急な出来事だったので、ぼくはまともな言葉が出ないでいた。当たり
前のことを言っている自分になにか腹が立った。
「……ねぇ。一緒にジュース飲む?」
ない勇気を振り絞って言った。
「どうして?」
彼女があどけない表情を浮かべて聞き返した。
「いや、ひとりで飲むより、みんなで飲んだ方が楽しいかなって思って。」
「うーん。」
彼女が考え込む。
「ちょっと待ってね、春菜ちゃんに聞いてくる。」
彼女は少し向こうへ走って行った。「春菜」とは友達のことだろう。しばらくする
と彼女が友達を連れて帰ってきた。
「いいよ。いこっ!」
彼女はにこにこした表情で言った。

 公園の中にある自動販売機へ向かってぼくたちは歩きだした。少し離れて、後ろ
から少女ふたりがついてくる。夢のような状況だった。まさか、こんなにうまくい
くとは思ってもみなかった。
 後ろでこそこそと少女達が話していた。ときどきくすくすと笑い声も聞こえる。
何を話しているのだろう。たぶん、ぼくのことについてだ。彼女達はぼくをどう思
っているだろう。変な人だと思っているのだろうか、優しいおにいちゃんだろうか。
時折聞こえる笑い声が、ぼくを馬鹿にしているものではないかと不安にさせた。
 自動販売機につく。
「ふたりで一本にしてね。」
「はーい。」
ふたりが声を合わせて言った。
ぼくがお金をいれる。彼女達はサイダーにし、ぼくは暖かいミルクティーを買った。
「ありがとう。」
ふたりはちゃんとお礼を言った。
3人で座れる場所を探した。手ごろなベンチがあったのでみんなで座る。
ぷしゅ!
ふたりが缶を開けてジュースを飲みだした。
「ねぇ、名前はなんていうの?」
「えーっと、斉藤綾香です。」
はじめに植え込みでぼくに気がついた女の子が言った。
「上島春菜です。」
もうひとりの活発そうな子が言った。ふたりは学校の自己紹介のような口調で名前
を教えてくれた。
「あ、ぼくは立花 光といいます。」
「うふふ。」
ふたりは楽しそうにジュースを交代しながら飲んでいた。
「いくつ?」
「8才だよ。小学校3年生。おにいさんは?」
「19才。」
「ふーん。大きいんだね。」
そんなたあいのないことを話しながら過ごした。このとき飲んだミルクティーが今
まで飲んだ中で一番おいしく感じた。

小説(転載) 綾香とぼく 1/10

官能小説
08 /23 2015
10章に分けなくてもよい分量だが原文のままとする。


第1章 桜の天使


 綾香と出会ったのは桜が舞うある暖かい春の日のことだった。何気なく大きな公
園に散歩に出かけたとき、桜の中でまるで天使のように戯れる彼女を見つけた。彼
女は他にふたりの友達の娘と遊んでいた。ぼくは少し離れたベンチに座り、彼女を
ぼんやり眺めていた。かわいい。彼女と友達になりたい。そんな気持ちでいっぱい
になった。
 声を掛けてみたくなった。どうやって声を掛けよう、なんて言えばいいんだろう。
頭の中で空想の問答がぐるぐるとめぐる。
少女達が桜の木の枝を引っ張って遊びだした。
これだ。
ぼくは意を決して立ち上がると、ゆっくりと少女達に近づいて行った。
緊張で心臓を吐き出しそうになりながらも、思いきって話しかける。
「桜の木の枝をひっぱっちゃだめだよ。」
 少女達は驚いたように顔を見合わせ、そして笑った。こそこそと内緒話をする。
ぼくは自分が何かまずいことでも言ったのかと不安になった。だが、彼女達はぼ
くの言ったことを気にする様子もなく、再び桜の木の枝を引っ張って遊びだした。
「危ないよ。」
桜の木の近くのベンチに座ったぼくは、もう一度声を掛けてみた。今度はとくに驚
く様子もなかったが、何のリアクションもなかった。
(まずったか……。)
不安が広がる。あきらめて、いづらくなったその場を立とうかと考えた。すると、
少女達が笑いながら桜の木の枝についた雨の水滴をぼくにかけてきた。
どうやら友好の表現のようだ。
「うわっ!やめろよ。」
「きゃははははは!」
少女達が黄色い声で笑う。彼女達はぼくの座っているベンチから桜の木の枝を引っ
張ったり、ぼくの前で桜の花を広い集めたりして遊んでいた。
 ぼくは緊張していた。自分の幼い少女へ対する特別な感情の存在を知って以来、
少女と接する初めての機会だからだ。言葉につまった。ただぼくは黙って、横に座
っているしかできなかった。
 ふと、ひとりの少女が時間を聞いてきた。
ぼくが「5時前だよ。」と答えると、少女達は「もう帰らなきゃ。」と言って、
さっさと帰っていってしまった。
ぼくはその場に取り残されて唖然とした。こどもというのはこんなもんなんだろう。
感情の切り替えが早い。そのテンポにぼくはついて行けないでいた。
 でも、ひとときでも少女と一緒に過ごせたことに、ぼくは喜びをかみしめていた。

eroerojiji

小さい頃からエロいことが好き。そのまま大人になってしまったエロジジイです。