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小説(転載) 「シャコンヌ」

近親相姦小説
06 /27 2018
掲載サイトは消滅。
題名  「シャコンヌ」

厳しい冬の寒さも日を追うごとに、ゆっくりとだが
西の空からやってくる柔らかな陽射しが、人を優し
くさせてくれるようになった。

麗らかなる小春日和。
それは寒さで硬く、そして重たくなった身体を優し
く揉み解してくれる。
同様に温かみのある音色で人々の心を優しく揉み解
してくれる場所があった。

そこは閑静な住宅地。
都会の喧騒など、まるで無縁な場所であった。
その優しいヴァイオリンの音色は、その場所の
一番の高台にある高級住宅から流れてきた。

『相澤』
その家の表札はそうあった。
だがそこはクラシック音楽の愛好家なら誰でも知っている
有名な人物の家だった。

相澤慶子。日本が世界に誇る天才ヴァイオリニスト。
13才で『日本クラシック音楽大会』で一位評価。
いきなり日本のトップクラスの評価を受ける。
続いて14才の時に『チャイコフスキーコンクール』
一位評価。
いきなり全世界の人達を驚かせた。

以来世界各地で行なわれる国際大会で軒並み一位評価を受けた。
勿論それに併せて各国の交響楽団からの演奏依頼も数多く受けた。

デビューから40年の長きに渡って国内外から最高の評価を受け
続ける世界最高のヴァイオリニストの1人だった。

今日も朝から練習に余念が無かった。
だが世間では日曜日。のんびりとした空気が辺り一面に漂っていた。
家の二階から、大きなあくびをしながら1人の男が降りてきた。
慶子の一人息子、憲吾だった。

日頃は朝から忙しく動き回るのだが、今日は久しぶりの休み。
ゆっくりと寝ていたようだった。

「はああ・・・おはよう母さん。今日も精が出るねぇ。」
その声を耳にした慶子は、ヴァイオリンを弾く弓を止めた。

「あらあらごめんなさい。起こしちゃった?」
凄く済まなさそうな表情を浮かべて憲吾の傍にそっと
寄ってきた。

「いいよ気にしないで。そりゃあ凄くヘタな音だったら怒るけど、
母さんの音は綺麗で心休まるから、凄く気持ちが良いんだ。」
「まあ、そう。嬉しいわ。ありがとう憲吾。」

柔らかい笑顔で優しい息子を見る慶子。
息子の憲吾は今年28になる。
音楽的才能は受け継ぐ事が出来なかったせいか、大学卒業後は、
普通に一般商社に就職をして、営業課の一社員として忙しく
働いていた。

慶子は聴く人をたちまちに虜のする素晴らしい音楽的才能を神から授かったが、
同様に彼女を見に来る全ての人々を、たちまち魅了してしまう、その素晴らしい
容姿をも慶子は授かっていた。

日本人離れした手足の長さ。そしてスラリと均整の取れた肢体。
慈愛溢れる優しげな瞳。どことなく物憂げな表情は、日本は元
より海外の男たちを熱狂させた。

多くの男たちが慶子の前に現れた。
資産家の息子、会社オーナー。野球、サッカー選手。
ありとあらゆる階層から求愛をされた。
中には、某国の大統領もいた。

だが結局その中の誰一人として、望みを果たした者はいなかった。
慶子は幼馴染みの、隣の牛乳屋の息子と結婚した。
幼い頃の約束を見事果たして・・・
25でのゴールインだった。

優しげな物の言い方をする人だったが、実に芯の強い女性であった。
望めば億万長者の妻にでもなれたのに、結局選んだ男性は名もない
牛乳屋の息子だった。
幼き頃の気持ちをそのまま大事にして、何事にもブレずに思いを貫
いたのであった。
そして人知れず2人の身内だけで慎ましい結婚式を挙げた。

一枚の写真があった。
甘えた表情で男の胸に身体を寄せる慶子が写っていた。
こんな無防備に写っている慶子の姿は珍しかった。

国内外のコンサートの時や、雑誌のインタビューの際
に使われる写真は、いつもすまし顔。
優しい微笑も、どこか構えている風だった。

一枚の写真だけが残った。
つまり慶子の幸せな家族写真は、これ一枚きり。
この写真を写した次の日彼は交通事故で、慌しくこの世
を去ってしまった。可愛い女房を残して。

慶子の嘆きは幾日も続いた。
ヴァイオリンを持つのも止めた。
涙が枯れる事は無かった。

寝食を忘れるぐらいに泣き続けた。
死ぬつもりだった・・と後に言っていた。

結局死ねなかった。そこに神の意思があった。
絶望の日々において、慶子は自身の身体の異変に気付いた。

お腹の中に新しい生命が宿っていた。
絶望が希望へと転化したのは言うまでもない。
自分が一番愛した人の命を引き継げる喜びを得た。

その時、目の前に見える風景に色彩が甦った。
生活における様々な雑音も聞こえるようになった。
懐かしい匂いも、味覚も思い出せる事が出来た。
これも全て、このお腹の子供のお蔭。

この生命を無くしてなるものか。
春、夏、秋、冬、季節は巡る。十月十日。
膨らむ希望。膨らむお腹。

そして誕生。3500グラム。元気な男の子。
慶子は5年の休暇を取った。
人は、その生涯における基礎を最初の5年で築くと云う。
慶子は、我が子に、愛した男のように優しく思いやりに溢れ
人を慈しむのに労を厭わない。そんな人間にしようと、その
ありったけの情熱と愛情を、濃密に5年懸けて注ぎ込んだ。

そして息子・憲吾が小学生に上がるのに合わせて、ヴァイオ
リニストとしての生活を再開させた。
溢れる愛情を注ぎ込んだ次に、彼女が教えようとしたものは
自立だった。
母親が不在でも、淋しさを堪えて一人で生きて行けるような
強い意志を持った子にする為だった。

自宅を出る時、いつも慶子の心は痛んだ。
悲しそうな顔の憲吾。出来れば出て行きたくは無かった。
だけど甘やかすと憲吾の為にならないと考えて、後ろ髪
を引かれれる思いを断ち切って出て行った。

「ママァ!!」
泣き叫ぶ声が聞こえる。
祖母に抱かれている憲吾。手足をばたつかせている。
大粒の涙でぐちゃぐちゃになった顔。
だけど振り切って足を前に出す慶子。
ポロポロと大粒の涙がこぼれる。
ごめんね、ごめんね・・・心の中でひたすら謝る。


1年、2年と経つと、いつしか憲吾は母親思いの子供になった。
演奏会の日、家を空ける際にも、いつも笑顔で見送った。
勿論、淋しさを見せない演技だった。
そんな顔を見せると、母はいつも悲しそうな顔になるから。
母の言う事は、みんな守った。
わがままは言わない。言えば直ぐに無理をする母だったから。

優しい母。決して怒ったりしない。
穏やかな笑みと優しい口調で諭す。

自分の事よりも我が子の事を真っ先に思いやる母。
幼い憲吾はこの美しくて優しい母を一生守ると心に誓った。

以来20年余り、憲吾と慶子の2人だけの生活が続いた。

父親譲りの体格を受け継いだ憲吾は、バレーボールに青春の
熱情全てを注ぎ込んだ。180cmを超える背丈、がっちり
とした肩幅。文句の無い素晴らしい身体。
一方母親から譲り受けたものは、その甘いマスクだった。

母親同様、よくモテた。いや今もそうだが。
憲吾は女性に優しかった。
それは相手を喜ばせるだけの媚びた優しさでは無かった。

相手の目を見て喋るのは母慶子と同じクセ。
そして母親譲りの美しく優しい笑みを絶やさない。
それだけで相手を思いやる気持ちが伝わる。
勿論、話は最後までちゃんと聞く。自分の意見はその後。

それらは計算された行動ではなかった。
その女性を見つめる先には、いつも慶子がいた。
憲吾は母を通じて女性を見ていた。

当然女性達はアツクなる。が決して勘違いではない。
憲吾の態度はいつも同じだったから。
絶対に冷たくなる事も、怒り出す事も無かった。

女性達にとっては居心地の良い優しさだったのである。
お蔭で彼の周囲は、優しい笑顔が花盛り。
温かい空気が彼の周りに漂う毎日。
憲吾にとっては、それが一番だった。
女性の淋し気な顔を見るのが大キライだった。

幼い頃見た母の大粒の涙は、生涯忘れない。
何もして上げれなかった。ただ傍に立っているだけ。
淋しい時、そっと抱きしめては静かに肩を震わせていた。

演奏の時見せる華やいだ表情などどこにも無かった。

「ママァ、泣いちゃあだめだよ。だめだったらぁ」
そう言ってはいつも泣き始めるのは憲吾からだった。
「あらあら、また泣いちゃったのねぇ。しょうがない憲吾くん。」

優しい笑みを憲吾に向けながら、そっとハンカチで目元を拭って
くれた。
憲吾の泣き顔が慶子を勇気づけた。
息子の前では、せめて笑顔でいようと誓う慶子。

2人ぼっちの母子。互いの温もりだけが生きていく上での糧だった。



「コンサートはもうすぐだね。」
「うん。そうよ。」
「久しぶりの国内でのコンサートだから力入ってるね。」
「候補曲がたくさんあって選ぶのに一苦労だわ。」

トレーニングルームはリビングの隣にある部屋にあったが、
憲吾が覗くと辺り一面に楽譜が散乱していた。
曲目は既に大筋で決まっていたのだが、アンコール曲を何に
するのかを未だに決めかねていた様子だった。

「オーソドックスに『ツィゴイネルワイゼン』がいいんじゃないの?」
「確かに派手な舞踊曲は盛り上がるわね。でもありきたりじゃない?」

そう言うと慶子は、すっとヴァイオリンを構えて弾き始めた。
力強い音色。重厚な旋律が、ずっしりと腹に響く。
そして一転、明るく派手な音調へと変わる。ジプシーの溢れん
ばかりの熱情が、部屋中に響き渡った。
そして一気に弾き飛ばした。


一瞬静まった部屋に小さな拍手が鳴った。
憲吾の爽やかな笑顔こそが評価の全て。
慶子は、その顔を満足げに見つめていた。


「さすがだね母さん。躍動感のあるジプシーが目の前に現れた
みたいだ。これならお客さんも、気持ち良く帰れるんじゃない?」
「そう?憲吾が言うのなら、これにしよっかな。」
両肩を、ひょいっと上げて笑みがこぼれる小首を傾げる。

慶子にとって憲吾は、大事な観客であり批評家であった。
小さい頃から慣れ親しんで来た母の音色である。
体調の良し悪しなど最初の一音で判ってしまうぐらいに
ヴァイオリニスト相澤慶子に関してだけは的確なジャッ
ジメントを下す事ができた。

憲吾の一言で、慶子の悩み事はあっさり解消した。
「ああ、これでちょっとはすっきりしたわ。ありがとう憲吾。」
「どういたしまして。だけど母さん凄く力入ってるね。」
「だって久しぶりの国内でのコンサートですもの、これが張り
切らずにいられますか。」

ほんの少し頬を膨らませて力説する慶子。

「はいはい、分かりました。あはは・・」
憲吾は慶子の肩に手を回して、食卓の方に足を向けた。
「それよりさ、もう朝食済ましたの?」
「ごめんね。まだなの。ちょっと練習に集中しちゃったみたい
・・・へへ。」

ペロっと舌を出してイタズラ顔を見せる。
憲吾が台所を覗くと、食卓には何も置かれてはなかった。

「何がまだだよ。何にも用意出来てないじゃないさ。」
「あらホントだわ。どうしようかしら?ねえ憲吾くん。」
そう言って小首を傾けて甘えた笑顔で憲吾を見る。

まただよ・・まったく。
仕方なさそうにため息交じりの返事をする。
「もうしょうがないなあ。俺が作るからちょっと待っててよ。」
「まあ、それはかたじけないなあ~。あはは・・」

憲吾は料理を作るのは苦ではなかった。むしろ好きな方であった。
小さい頃、母がいない間の孤独な時間を料理を覚える事で埋めて
行った。理由は、やはり母の負担軽減にあった。

あるとき慶子が慣れない環境での演奏旅行の連続で、心身ともかな
り参った事があったのだが、そのとき憲吾少年が見た母は、憔悴し
きっていて今にも倒れそうな危うさがあった。

みようみまねで作ったおにぎりを差し出すと、慶子は一口パクつくと
”ありがとう。美味しいわ憲吾くん”と言って見せた何ともいえない
暖かな笑顔を憲吾は今でもはっきりと覚えていた。

憲吾は手際良く用意をしていった。
コーヒーを作り、トーストでパンを焼く間に、フライパンの上にタマゴ
を落としてハムを乗っける。
そしてものの数分で完成。美味しく焼けたパンの匂いが鼻をくすぐる。

「さあ、ちょっと遅めの朝食を頂こっか。」
「さすがねぇ~憲吾。鮮やかだわ。うふふ・・」

久しぶりに2人で囲む食卓に会話が弾んだ。

「ねえ憲吾。今日の予定はどうなっているの?」
「丸々の休みだから、1日中寝ていようかなと思ってる。」
「まあ、勿体ない。どこか行く所ないの?」
「ちょっと疲れているんだ。明日からも仕事が立て込んでいるし・・」

憲吾は背もたれに上半身を預けて天井を眺めた。
そして”ふぅ~”と大きく息を吐いて何気に首を2度3度振った。

「あらら随分とお疲れのようね。しっかりと体調管理してる?」
「さあ~どうかな?最近忙しくなってきたから食事には気をつけている
けど・・・」
「ホント?自分の身体なんだから、あまり無茶しちゃダメよ。いい?」
「ああ、分かってるよ。」
「あなたにもしもの事があったら、私これからどうしていいか判らなく
なるもの・・」

寂しげな表情で憲吾を顔を見る慶子。
幼い頃から、ずっと見続けて来たその表情に憲吾はいつも心苦しくなった。
”また、そんな顔で俺を見るのか・・”
慶子が国内コンサートに力を入れているのも、その間だけは自宅で息子と
一緒にいられるからなのである。

慶子ほどの実力と人気ともなると、国外からの招待も当然の如く頻繁に受け
ていた。昨今のクラシックブームが隆盛を極めてきたといっても、その数は
まだまだ欧米の比ではなかった。

一向に減らない海外演奏。親子水入らずの生活など殆ど無かったと言っても
良かった。
それでも人生の全てを注ぎ込んだヴァイオリンを捨てる事など考えた事は、
一度も無かった。
当然ヴァイオリンも、そして息子憲吾も命懸けで愛してきた慶子にとって、
生きていくいう現実において止む終えない決断をしてきたのであった。

離ればなれの生活を選択した以上、慶子の奏でる音色には何ともいえない
切なさとか温かみとかが一層にじみ出るようになっていた。

卓越した技術と体力任せの迫力を前面に魅せる海外演奏者は沢山いたが、
慶子は、その上に女性特有の線の細かさと柔らかさの上に、慈愛に満ちた
母の様な温かさを加えた魅力で、まさに全世界のクラシックファンの人々
の心を捉えたのであった。

「じゃあさ、この疲れを癒してくれる曲をリクエストしてもいいかい?」
「ええ、いいわよ。この朝食のお礼も兼ねて弾いてあげる。」
「ありがとう母さん。それじゃあねえ・・」

憲吾はカップに残ったコーヒーを飲み干すと、ゆっくりと腕組みをして、
思案顔を浮かべた。
慶子はテーブルの上に両肘をついて、首を乗っけながら、にこにこと笑顔で
憲吾を見つめている。

しばらく考えた憲吾は、軽く頷いて口を開いた。
「よし。それじゃあ、リクエストします。」
「グノー作曲『夜の調べ』にしま~す・・・でしょ?うふふ。」

あっ・・と口を開けたまま憲吾は言葉を飲み込んでしまった。
慶子は、とろけるような笑顔を見せて席を立った。

「何だあ。やっぱり分かっちゃった?」
見透かされた恥ずかしさから、頭を掻きつつ苦い笑顔を見せる憲吾。
「そりゃあ、あなたがこんな小さい頃から子守唄代わりに弾いて聞かせて
いたもの。直ぐに分かったわ。」

慶子はヴァイオリンを構えると、ゆっくりと弾き始めた。

ゆっくりと響き渡る低音の調べ。
慶子は華やかなりしパリ郊外を流れるセーヌ河のほとりに1人佇でいる
自分を思い浮かべた。
立ち並ぶノートルダム大聖堂、ルーヴル宮、エッフェル塔。
静かにふけ行く夕暮れ時、立ち並ぶガス燈に灯る暖かな明かりの群れが
気持ちを家路に向けさせてくれる・・・
一転、ヴァイオリンが奏でる高音の響きが、自宅に灯る優しい明かりを
思い浮かばせる・・・
懐かしい光りよ。あそこには愛しい我が子が一人待っていてくれている。

慶子は、この曲を弾く度に涙が溢れて仕方がなかった。
郷愁感を誘うメロディのせいだろうか・・
憲吾も、このメロディを聞く度に、何ともいえない安堵感を覚えていた。
母が奏でる優しい音色のせいだろうか・・

天に昇るような高音がエンディングとして響き渡ると、ゆっくりと弓を
ヴァイオリンから離した。甘い幻想がはるか彼方に去って辺りから日常
の静けさが戻って来た。

「お金払って聞きに来る人たちに申し訳無いなあ。イイヨ、実にイイ。」
「ありがとう。じゃあ1万円頂こうかしら?」
「ちょ、ちょっと待って。月末まで待ってくれます?今はちょっと苦しく
て・・・」

53とは思えない可愛らしい微笑。慶子のジョークに付き合う憲吾。
まるで仲の良い姉弟のよう。

「しょうがないなあ・・それじゃあね、お昼御飯も作ってもらおうかしら、
良いよね?憲吾くん。」
「ああ、ず、ずるいよ母さん。今日折角の休みなんだぜ。ゆっくりしたい
のになあ・・」

慶子のジョークに付き合ったばっかりに・・悔やんでも後の祭りだった。
「ねえ、ダメ?」
上目使いでお願いのポーズ。これがダメ押し。断れなかった。
「分かったよ。作ります。作らせて頂きますよ。もうしょうがないなあ・・」
「わあ、よかったあ・・これで練習に没頭できるわ。うふふ・・」

子供みたいに無防備なまでの笑顔に、憲吾もただ笑って従うしかなかった。
慶子も憲吾が断るはずが無い事を知りぬいての作戦だったのだ。
小さい頃から一生懸命に母に尽くそうとする息子を愛しい思いで見ていたから。
慶子にとって憲吾に甘えるのが最高の息抜きだった。


昼前になって、憲吾は商店街に買出しに出かけた。
慶子もトレーニングルームに篭って練習を開始した。

日曜日の商店街は、ちょっと閑散としていて静かだったが、
憲吾がやって来た時、ちょっとした賑わいが起こった。
「よう憲ちゃん。折角の日曜日なのに大変だね。」
「あらら、買出しなの?それだったらウチへ寄りなよ。」
「新鮮なトマト入ったよ憲ちゃん。」

憲吾の周りに小さな輪が出来た。
しょっちゅう買い物をする為、商店街の人たちとは、周知の
仲となっていた。
ここに移り住んだのは彼が10才の時だった。
その頃には既に月の半分を一人で過ごす為、生活用品や日々の
食財の買出しは憲吾の役目だった。
その可愛い少年の手助けをみんなは喜んで引き受けてくれた。

ー世界的なヴァイオリニストが近所に越してくるー

この話を聞いた商店街の人たちは沸き立った。
都心から離れた侘しい町の一角にある商店街には、お世辞にも、
あまり賑わっているとは言えなかった。
そこに降って涌いたようなその話に、人々は喜びを隠せなかった。
これで、かつての賑わいを取り戻せれるーそう思うのも当然だった。

「皆様、これから私たち親子2人何かとご迷惑をお掛けするかとは
思いますが、どうか仲良くお付き合いの程をよろしくお願いします。」

慶子は越してきた初日に憲吾を連れて商店街に挨拶に出向いた。
ヒロインの登場にどよめく周囲。自然と2人を中心に大きな輪が出来た。
慶子の美しさに商店街の父ちゃん達は、鼻の下が伸びっぱなし。
呆れた母ちゃん連中は、可愛らしい笑顔の憲吾に夢中になった。

慶子のきさくで腰の低い態度に、皆一同感心した。
自分の美しさや才能を鼻にかける様子など微塵も無く、優雅で優しさが
溢れる振る舞いに誰もがファンになった。

以来、滅多には顔を出さないが、その分憲吾が皆から慕われた。
感心な孝行息子を見守って十数年。父ちゃん母ちゃん連中からも
憲ちゃんの愛称で呼ばれていた。

「ねえ、おいちゃんさあ、この『世界的ヴァイオリニスト相澤慶子も絶賛の
キュウリ』っての止めてくれる?母さんキュウリ苦手でさ、これ俺の好物な
んだよね。」
八百屋の店頭に大きく張り出した紙を前に憲吾が、困った表情で八百屋の親父
に注文をつけた。
「え?そうなの?いつも沢山買っていくから、そうじゃないかなと思ったんだ
けど違うの?あっちゃあ・・でもまあ今更撤回してもしょうがないか。
しょうがない、このままにしてても良いだろ。な?」

あっけらかんとした親父の笑顔に憲吾も二の句が告げなかった。
「でもさあ・・」
「まあお母さんの名前を出すとさ、どこでも売れ行きが違ってくるんだよね。」
「でも、このまま嘘の表示をされててもどうかなあ・・」
「じゃあさ、ここに『の息子が・・』って追加しておくからさ、それで勘弁して
よ憲ちゃん。この白菜も2,3個おまけしちゃうからさ。な?えへへ・・」

親父の寄り切り勝ちであった。大きな白菜の魅力の前に憲吾は負けた。
ちょっと困ったような、でも思いがけない褒美が嬉しいような複雑な
表情の憲吾だった。

それを見た八百屋の親父は、すぐさま店の奥に走って行った。
そして何やら手に持って再び憲吾の前にやって来た。
「白菜だけじゃあ何だから、もう1つ良いものあげようかな。」

そう言って親父の右手が開くと、中から小さな葉っぱが出てきた。
「わあ、これって四つ葉のクローバーじゃないの。すっごくきれいだなあ。」
その葉は、ちょっと太い茎に均等に大きく4枚ついていた。
これほど見事な四つ葉のクローバーは今まで見た事など無かった。
興味深く眼を輝かせながら、その葉を見つめる憲吾だった。

「白菜が入った箱の中にあったんだ。どうだ凄いだろ?」
「うん。こんな大きなモノは珍しいんじゃないかな。」
「気に入ったのなら、それやるよ。」
「おじさんありがとう。早速母さんに見せてみるよ。」
「先生にかい?ああそうか四つ葉のクローバーってのは幸運の印って
言うからなあ。何かお願い事したら叶うかもしれないな。」

憲吾は自分の願いより、まず何よりも母の願い事を叶えてあげたかった。
すぐそこまで迫ってきたコンサートの成功を一番願っているのは、他ならぬ
慶子自身だったからだ。
それは憲吾の思う何倍も強いはずだ。久しぶりの国内での演奏。
すんなり受け入れてもらえるかどうか、やってみなければ分からない事だった

いつもよりナーバスになっているのは、傍にいてよく分かっていた。
気持ちを溜め込む性質なので、限界量を超えると目に見えてイラだつ
のが常だった。憲吾にあたる事もしばしば・・
機嫌の良い時には必要以上に甘える仕草をするのも、その裏返しだった。

憲吾も心得たもので、そういう時にはちょっと突っついて溜め込んだ気持ちを
吐き出させて鬱積を発散させたりもしていた。
勿論甘えてきた時には、言う事そのまま全てを満たしてやるよう心掛けた。
ちょっと反発するのは演技に他ならない。
そのまま”うん、うん、”と素直に聞いてやると、発散への”誘発”スイッチ
が入らないからという理由からだった。

こうやって大好きな母の為にあれこれと手を尽くす憲吾が、その葉っぱを手にし
た時、真っ先に自分が願うより、母自身に願い事をしてもらおうと考えたのは
当然の流れだった。

そして沢山の買い物を済ませて自宅へと帰る道で、遠方からヴァイオリンの音色
が聞こえてきた。
(ああ、これはシャコンヌだな。)
憲吾は、アルペジオ(分散和音。指で弾きながら音を出す方法)気味に響く音色
が奏でる印象的な旋律を聞いた。

ここで少しだけ説明させていただくと・・
ヨハン・セバスチャン・バッハ作曲
「無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番ニ短調」
が正式名のヴァイオリン曲の中でも特に技巧を駆使する難曲中の難曲。
旋律を弾きつつ伴奏も兼ねる為、三重音、四重音がしょっちゅう出て
くるので、和音とリズムをどう弾き綴るかが焦点のまさしくヴァイオ
リニストの技量が試される一曲なのである。

その時憲吾は慶子の凄まじいまでの意気込みを改めて実感した。
そして帰る道々で、じっと佇んで聞き込んでいる人たちを何人も見かけた。
それだけ素晴らしい演奏だったのが分かる。
憲吾は改めて相澤慶子の素晴らしさを認識したのであった。

家に帰ると、直ぐに料理に取り掛かった。
そして、ほんの1時間ほどで昼食の用意が完了した。
その頃には、慶子も練習を一旦終えていた。

憲吾の呼びかけに直ぐにやって来た。
だが額に汗を浮かべて浮かない表情の慶子を見た憲吾は、その時一抹の
不安を覚えた。
「納得できないの?母さん。」
「うん。そうなの、ちょっと感じが掴めなくてね・・」
「じゃあさ、この食事を食べて気分を入替えよっか。」
「そうね。じゃあ早速いただこうかしら。」

なぜ?とか、どうして?といった言葉は絶対言わない。
当たり前だ。彼女レベルの才能などまったく無い以上、何を言っても
無駄なのだ。手助けにすらならない。邪魔なだけなのだ。

憲吾は、慶子にリラックスしてもらう事だけに神経を使ってきたのだ。
勿論慶子も分かっていたからこそ、憲吾にだけ素の自分を見せていた。

「ねえ、母さん。今日さ八百屋のおじさんから、こんなものを貰っちゃ
ったんだ。」
そう言うと、憲吾は貰ったばかりの四葉のクローバーを食卓の上に置いた。

「まあ。キレイねえ。それに凄く大きいわ。」
「だろ?俺も気に入っちゃったんだ。」
「これって幸運を呼ぶものなんでしょ?何かお願い事でもしたら?憲吾。」
「俺は遠慮しとくよ。それよりも母さんの方でしょ?」
「私?えぇー?そんなお願いする事なんて何も無いわよ。」
眼をパチクリとさせて憲吾の顔を見つめる慶子。

「ああそうなの。それじゃあ俺が持っててもしょうがないし・・・
勿体ないけど捨てようか。」
突然憲吾はぶっきらぼうな口ぶりで切り返して、葉っぱをゴミ箱に向って
投げようとした。すると・・
「ああん。何言ってるのよ。勿体ないじゃないの。こんなきれいに揃っている
葉っぱってそうザラには無いわよ。」
慶子は慌てて身を乗り出し、振り上げた憲吾の右腕を掴んでその動きを止めた。

「でも俺、そんなに関心無いし・・」
「あなた、さっき気に入ったって言ってたじゃないの。」
「そうだっけ?そんな事言ったっけなあ?」
「もう!ふざけないでよ。いいわ、これ私が貰っておくわね。」

慶子は憲吾から取上げた四つ葉のクローバーを大事そうに胸ポケットに入れた。
それを見た憲吾は、にやりと不敵な笑みを浮かべた。
「四つ葉のクローバーにはさ、神様の意思が含まれているって誰かが
言ってたよなあ。」
「へ、へえぇぇ・・そうなんだ。ふううん。」

憲吾は慶子の目が妙に泳いでいるのを見て、思わず笑い声を出しそうになった。
自身の不安を悟られないように、普段通りに振舞ってはいるのだが、憲吾には
全てお見通しだった。
ひと目、物腰が柔らかくて優しい雰囲気があるのだけど、こと自分自身の場合
に至ってはとても厳しく、決して弱い部分を見せようとはしなかった。
必要以上に毅然とした態度を見せる慶子。息子の前では特にそうだった。

短い昼食タイムも過ぎ憲吾が後片付けを始めると、慶子はトレーニングルームへ
と向った。そして再びバッハのジュコンヌを弾き始めるのであった。

荘厳な旋律が響き渡る中、憲吾は洗物を終えると自室に戻って、もう一眠りしよう
とベットに潜り込んだ。
慶子がつむぎ出す音色は、優しい子守唄。
耳から優しく流れ込んでくるのはまるで母の吐息のような甘い響きだった。
癒されるように憲吾は、いつしか深い眠りについたのであった。

・・・・・・・・・・・・

目の前に小さなはしごが立っていた。
視線を上に向けると、随分上の方まで延びているではないか。
憲吾は、どうしても昇ってみたいという気持ちになった。
そして、ゆっくりと取っ手を握りしめ台に足を乗っけた。

どのぐらい昇ったのだろうか?
何時の間にか辺りは、真っ青な空ばかり、ふと下を見ると街並みは米粒の
ように小さくなっていた。
もう引き返せなかった。ひたすら上を目指すのみだ。

すると大きな雲が次第に近づいて来た。
憲吾は、ゆっくりと昇っていくと、雲の上に小さな家が立っていた。
憲吾は雲の上に、恐る恐る足を置いてみた。
ふわふわした絨毯のような心地良さが足元から伝わった。

ふと頭上から、ヴァイオリンが奏でる美しい音色が聞こえて来た。
(これはメンデルスゾーン”歌の翼に”だ。)
憲吾は、何ともいえない心地良さが全身を包んでいるのを感じた。
頭上では、数十羽の小鳥たちが飛び回っている。
(ここはどこだ?何て美しい風景なのだろう。)
憲吾は、立ち尽くしたまま辺りを見回した。

その時目の前の家に、強い陽射しが当たった。
美しい黄金色の輝き。だけど不思議と眩しくは無かった。
その時、ヴァイオリンの旋律が変わった。

(今度はシューベルト”アヴェ・マリア”だ。何て美しい音色なんだ!)
憲吾が不思議そうに耳を傾けていると、突然目の前の家の玄関のドアが
開く音が聞こえた。

(誰かいるのか?)
ゆっくりと開くドア。中から強い光が憲吾めがけて射して来た。
まばゆいばかりの光りを背に誰かが現れた。
首から下を白い布に覆われた女性。「あっ!」憲吾は思わず声を上げた。

「か、母さん?え?これって?」
まるで神話に出てくる様な出で立ちで現れたのは慶子だった。
彼女は柔らかく優しい笑みを絶やさずに、憲吾の傍までゆっくりと歩み寄った。
憲吾はどういう訳か、身体が動かなくなっていた。
ただ呆然と慶子の前に佇むだけ・・・

まばゆい光りに包まれた慶子の顔は、普段以上に美しかった。
そして白くきめ細かい肌艶。そして柔らかく弾力に富む肌。
そこには53の女性では考えられないほどの若さが溢れていた。

「憲吾、私キレイかしら?」
「も、もちろんさ。ここまでキレイな女性は見たことがないよ。」
「そう。嬉しいわ。ありがとう憲吾。」

そっと首筋にキス。憲吾の背中に電流が走った。
両手が、慶子の腰に回った。ぎゅっと抱きしめる。
しっとりした温もりと、肉厚のある重量感が手から全身へと伝わった。

慶子の右手が、憲吾の頬を優しく撫でた。
女性らしい柔らかい感触が、オトコの感性をくすぐる。
両手に力が入る。慶子はかすかに声を漏らした。

「ああ・・待っていたのよ憲吾。もっと強く抱きしめて・・」
それはいつも耳にしていた”母”の声ではなかった。
甘く切ない男恋しい”女”の声そのものだった。

「母さん。俺・・」
憲吾の腕に更に力が入る。
「ああっ!!」
慶子の顔が妖しく歪む。眉間に力が入るや苦悶の表情。
近づく顔と顔。こんなに接近するのは初めてだった。
憲吾の心臓は高鳴った。

上目使いで憲吾を見上げる慶子。寂しげな瞳が潤んでいた。
「帯を解いてくれる?」
慶子はそう言うと、顔を憲吾の胸に押し当てた。
「う・・ん。」
震える手付きで、背中で蝶々結びされた純白の帯を解き始める。

胸の辺りの布が緩んだ。そしてかすかに見え隠れする隆起。
憲吾の興奮も高まる。そして帯が下に落ちた。

憲吾は両手で胸元の布を左右に開こうとした。
その時、慶子の両手が憲吾の手首を掴んだ。
「その前にキスして。ね?憲吾。」

慶子はそっと目を閉じて、顎を突き出した。
憲吾は迷いも無く左手を顎に添えて、顔を近づけた。
辺り一面に、シューベルト”アヴェ・マリア”が鳴り響いていた。

あと数ミリという時、美しい旋律が一転、不協和音を奏で始めた。
物凄い雑音。女性の悲鳴に近かった。ヒステリックなまでの高音が、
耳の中で劈いた。
「な、なんだ?どうしたんだ?」
すると辺りが急に揺れ始めた。

耳が痛い。凄い騒音が憲吾の耳を直撃した。
立っては入られなくなった。慶子にしがみ付くが、その時いきなり
目の前から慶子が消えた。
どこだ?どこに行ったの?母さん。かあさぁぁぁぁぁぁぁーーん!

不安に駆られた憲吾が、辺りを見回すが誰もいない。
明るい陽射しが消え、暗黒の空が広がった。突然に降り注ぐ雨と吹き
すさむ風が、我が身を痛めつける。
その時、再び雑音が鳴り響いた。
うわあああ!
堪らず大声を出した。するといきなり足元の絨毯が割れて憲吾は、
その深い闇の中へと落ちて行ったのだった。
・・・・・・・・・・・・・

「うわあああ。」
憲吾は目を、かっと見開いた。
ぼんやりと眼に入ってきたのは見覚えのある電灯。
左右を見渡すと、数々の家具が見えた。
(ゆ、夢か・・・)
憲吾はゆっくりと身体をベットから起こした。
熱い・・・全身から汗が吹き出ていた。ベットリと濡れた感触が
背中に感じる。
(何という夢だったんだ。俺が母さんと・・)
胸の鼓動は、早く打っているのが分かった。興奮が醒めない。

外は、陽が落ちかかっていた。ガラス戸が朱色に染まっていた。
時計を見ると、17時を少し回ったぐらいだった。

その時、ヴァイオリンの音色が鳴り響き始めた。
(なんだあ。母さんたら、まだ練習していたのか。よくやるなあ。)
バカバカしい夢の後だったから、何となく照れくさいような感傷に
囚われた。
(だけど、母さんはキレイだったなあ。)
憲吾は、”くすっ”と小さく鼻で笑ってしまった。
ちょっとだけ幸せな夢を見たのだと思うように心に言い聞かせた。
最後の暗転は神様からの自戒なのだ。もう忘れよう・・・

「おおう。」
急に寒気が襲った。かいた汗が冷えたのだろう。着替えをしなくては。
憲吾はシャワーを浴びようと風呂場へと急いだ。

トレーニングルームからは、ヴァイオリンの音色が途切れる事無く、
聞こえて来た。

シャワーを浴びている間も、そのヴァイオリンの音色は絶える事が
無かった。勿論憲吾は耳を傾けている。
(あれ?)
その時、憲吾はその音色の異変に気付いた。
(変だなあ。音が震えているぞ。うん・・かすかだが揺れている。)

ちょっと聞いただけでは判らないぐらいの微妙な揺れと違和感。
長年、慶子のヴァイオリンを聞き続けてきた憲吾だからこその発見
だった。
(練習のしすぎだ。疲れで音がブレているんだ。)

憲吾はシャワーを終えるとジャージの上下を着こみ、急ぎ足でトレー
ニングルームに向った。
ヴァイオリンの音色は、悲鳴を上げていた。憲吾はゆっくりとドアを
開けた。

部屋はまるでサウナの中のように、熱くむせ返っていた。
その中で全身汗ビッショリの慶子が、一心不乱に弾いていた。
背中といい、胸の周りといい、服が汗をピッチリと吸い取っていて、
至る所が透けて見えていた。

喘ぐような苦悶の表情が、凄く艶かしい。
憲吾の脳裏に、先程の夢がオーバーラップした。
母に女を感じたあの一瞬が甦った。
キスを求めた衝動が、胸の中で動き始めた。
ぼぅ~と見とれている憲吾。

音が1つ大きく外れた。その瞬間はっと我に帰る。
(バカな。何を考えているんだ。)
憲吾は母の異変を心配する息子の気持ちを取り戻した。

「何やってるんだよ母さん。もう音なんて無茶苦茶になってるじゃないか。」
憲吾の怒気を含んだ声が部屋全体に響き渡った。
だが、それでも一向に止める気配などまるで無い。一体どうしたのだ?

「もういいかげんにしろ!」
憲吾が慶子の両肩をがっちりと握り締めた。
ようやく弓が弦から離れた。音は途切れた。
その時、慶子の腰がぐらりとふらつくと、力無く憲吾の身体に倒れこんだ。

がっちりと抱き抱える憲吾。華奢な肩は汗でびっしょりだった。
濡れた髪が首筋に垂れているのを見た奎吾は、胸が高鳴るのを覚えた。
初めて見る乱れた母だった。

「今までこんな無茶なんてした事なんて一度もなかったのに、どうしてなんだ?」
「ご、ごめんなさい。どうしても以前思っていた感じが思い出せなくて、それで・・」
「それで、無理して弾き続けていたんだね?」

慶子は、疲れがピークなのか喋るのも辛いようで、その問いに無言でゆっくりと
頷くだけだった。
憲吾はすぐさまタオルを持ってきて、慶子の額や、首筋などを拭いてあげた。

慶子は憲吾の胸に顔を寄せた。
ドキリと胸に矢が刺さったような痛みを感じる憲吾。
「ああ、こうしていると気持ち良いわ。ありがとう。あなた。」
心地良さそうに、ほっと安堵したような口調だった。

「もうこれ以上しても、無駄だからもう止めようよね。」
確かに疲れから、目に見えて音もリズムもバラバラになっていた。
これ以上は無理だ。体力の限界は明らかだった。

憲吾は優しく諭した。だが、慶子は違っていた。
「もうちょっとなの。もうちょっとで掴めるの。だからもう少しやらせて。
ねえお願いだから、あなた。」
疲れた表情が、何ともいえない程艶かしく色っぽかった。
だが眼は真剣さで溢れていて力強かった。

憲吾は、ゆっくりと慶子の身体を抱え起こした。
「分かったよ。俺も付き合うよ。でももう少しだけだぜ。」
「ありがとうあなた。それじゃあ私の身体を支えてくれない?」
「OK!」

憲吾は後ろから慶子の腰を両手で支えながら立った。
慶子は、多少ふらつきながらも、ヴァイオリンを構えると、その震えも
ピタリと収まった。そして力強い音色が鳴り響いた。
再びシャコンヌを弾き始めた。

先程までの乱れなど、どこにも無かった。
ここにきて、最高の音色が現出したようだ。

「母さん凄いよ。さっきとは比べものにならない程のデキだよ。」
「あなたが私を支えてくれてるからよ。」
「もう掴んだでしょ?」
「もう少しってトコね。」

慶子は更に力強く弦を弾いた。
「いつも私を助けてくれてありがとう。愛してるわ。あなた。」

憲吾は、さっきから慶子の様子が妙だと感じていた。
彼自身、”憲ちゃん”、”憲吾、憲吾くん”と言われてきたけど、
”あなた”という言われ方をされたのは、今回初めてだった。

だが憲吾は、何故か嬉しい気持ちになった。
母と子とか、年上の女性と年下の男性との関係とかではなく、対等な
男女の間柄を強調するのを”あなた”という言葉は含んでいる。
憲吾は、慶子から”あなた”の言葉を聞いて、男の本能が疼くのを
覚えた。
一度闇に消えた夢の続きが、今現実になるのでは、との気持ちもあった。
でも、それはありえない。という気持ちも勿論併せてあった。

「俺もだよ母さん。」
憲吾は震えがちに相槌の声を出した。

だが慶子は、熱心に弾き続けていた。
勿論返事は返ってはこなかった。
(ふっ・・俺はなにやってるんだか。)
当たり前の常識を認識した。己のバカさ加減を密かに恥じた。

「ねえ、いつものようにしても良いわよ。」
突然の慶子の要求。だが憲吾には何のことやらさっぱり分からない。
「いつもの・・・って何?」
「何よう。あなたがいつもしている事よ。忘れたの?」
「え?何の事だい?」

困惑する憲吾。後ろからでは慶子の表情も分からない。

「あなた私の胸が大好きって言ったじゃない。」
「ええ?」
開けっぴろげな慶子の言葉に驚く憲吾。
変だ。やっぱり変だ。慶子の人格が変わってしまったのか?
さっきからの喋り方も変だ。まるで恋人に向って喋っている
みたいに、甘えるようなタメ口だった。

「ほら、早くぅ~。」
慶子のせかす声に押され、憲吾は腰に当てていた両手を慶子の
胸の上に置いた。
柔らかく弾力性に富んだ隆起物、そして手に吸い付くような肌触り。
憲吾は我を忘れて、何度も何度もそれを揉み砕いた。

「あっはああん。気持ち良いわ。ねえあなたもそうでしょ?」
「あっ・・ああ。勿論だよ。母さんのおっぱいって柔らかいんだね。」

背後から胸を揉まれても、慶子のヴァイオリンは美しい音色を奏で続け
ていた。
憲吾は、慶子の不可解な行動を詮索する気持ちなど、既に吹っ飛んでいた。
夢に見た幻想に心を奪われてしまったようだった。

憲吾は慶子の首筋に舌を這わした。
すると慶子の背中が少し震えたのが分かった。
「はあああん。もっと強く抱いて。お願い憲幸さん。」
慶子の言葉に、憲吾の手が止まった。
(憲幸って・・・父さんの名前じゃないか。)

その時、憲吾は初めて理解した。自分と父親を間違えている・・と。
でもなぜ、そんな有り得ない事が起こったんだろう?

(ああ、そうかあ!)
憲吾の脳裏に、あの四つ葉のクローバーが浮かんだ。
慶子が何か願をかけたのであろうというのが分かった。
そしてその願い事が何であったのかも。

原点回帰。おそらく迫って来るコンサートに不安を覚えた慶子は、
すがる思いで、がむしゃらに練習に明け暮れた昔に思いを馳せた
のに違いなかった。
それが有ろう事か、恋人(父)の存在までひっくるめて幻惑して
しまったのだろう。

今の慶子は、30年前の状態にいるのだろう。
神様の仕掛けた魔法にかかっている。
力強く若々しい演奏は、当時の勢いのある慶子だからこそなのだろう。

憲吾の手が動き始めた。
左手で胸を触りつつ、右手を下に移動させる。
スカートのおなかの部分に付けられたボタンを外すと、あっけなく
スカートは下に落ちて行った。

黒のパンティだけの下半身が露わになった。
そして右手を素早く、その中に滑り込ませた。

滑らかに動く人差し指と中指の2本の指。
クリトリスを擦ると、慶子の口から声が漏れた。
そして、しっとりと濡れる感触が指に伝わって来た。

「気持ちいいのか慶子。」
「ええ、とっても。この音色を聞いてよ憲幸さん。」
官能的な高音と低音が織りなす三重音。シャコンヌは求めていた。

憲吾の指の動きが激しさを伴ってきた。
「あんあんあん・・・ああああん。す、すごく痺れちゃう。イイわ。」
激しく喘ぐ慶子。憲吾の愛撫は、強くなっていく。

「おおお慶子。久しぶりだ。お前を抱きしめるのは・・・」
憲吾の様子もどうも変だ。
スムーズな指使い。まるで以前から慣れ親しんだ様な動き具合だ。
「あああん。憲幸さん。愛してる。とっても愛してるわ。」
「俺もだ。こんな日がもう一度来るなんて・・・おお・・愛してるぞ慶子!」

ヴァイオリンの音色は更に高音が力強く鳴り響いた。
「早く、早くちょうだああい。憲幸さん、早くううう・・」
憲吾はジャージを引き下ろすと、慶子の足を広げさせ、そのまま後ろから
差し込んだ。
「あうううう!!か、硬いわ。凄く大きいわ。最高よ。」
慶子が歓喜の声を上げた。
そして互いが立ったままのSEXが始まった。

ヴァイオリンを弾きながら、”オトコ”を受け入れる慶子。
そして激しく後ろから突上げる憲吾。
激しく肉がぶつかり合う音と、ヴァイオリンが奏でる高貴な音色とのアンサンブル。

「おおおお!」「ああん、あああああん!」
互いの高まりを感じる声が交差する。
「もうダメだ。イキそうだ。」「イッてぇ。そのままイッてちょうだい!」
憲吾の腰が更に激しさを増した。
「ああああああ、出るううう!」「いっぱい出してぇぇぇぇ・・おねがああい!」

若く勢いのある放流が慶子の身体に注ぎ込まれた。
その瞬間ヴァイオリンが放り出された。狂わんばかりの激情の音色が途切れた。

慶子は、そのまま憲吾に身体を預けるように倒れ込んだ。
がっちりと受け止める憲吾。
「しっかりしてよ”母さん”!!」

だが慶子は、そのまま気を失ったまま憲吾の腕の中で眠ってしまっていた。
その表情は穏やかで、優しい笑みを浮かべての寝顔だった。


翌朝・・・穏やかな陽射しが東の空から降り注ぎ始める。
山々の緑が金色に輝く時、人々の生活する音があちらこちらから聞こえ
始めてきた。
そしてここでも目覚まし時計が、けたたましく鳴り響いた。
するとベットの上に、すっぽりと被さった布団の中から、ゆっくりと手が
伸びてきて、ベットの前にある棚の上を、あちらこちらと探索した。
そしてその手が、ようやく探し当てると、それは、あっと言う間にベット
の中に引き擦り込まれていった。
暫くすると、その音は消え布団の中から憲吾が、ゆっくりと這出てきた。

そして大きなあくびを1つ、2つ・・時計の針は5時30分を指していた。
良く寝たみたいだ。だがぼんやりとした気持ちが全身に残っていた。
昨日の出来事の余韻を思い出すと、今でも不思議な思いに駆られてくる。

夢だったのか?
だが慶子と重なり合った事実を身体が覚えていた。
鈍い痺れが、腰の周りを覆っていた。
自分が何をやったのか・・

その”客観的”な事実は頭の中で、はっきりと理解出来ていた。

母とSEXをした。だけど不思議と爽やかな気持ちだった。
おぞましさなど、これっぽっちも感じなかった。
素晴らしい感動が甦ってくる。 美しくて可愛い母。当然だろう。

四つ葉のクローバーがもたらした魔法。
この真実を前に、信じられないなんて言葉は嘘になる。

慶子の女としてのあられの無い姿が脳裏に過ぎる。
素晴らしい感触が再び手の中に甦った。
憲吾は、ぎゅっと握り締めるとベットから飛び起きた。

昨日あれから、泥のように眠り続ける慶子を気遣って
今朝の食事の用意は自分がしなければと思ったからだ。

コンサートはもう真近だ。慶子のコンディションが気に
掛かる。昨日は何も食べていなかったから尚更だった。
憲吾の心配も当然だった。
朝食はしっかり取ったほうが良い。
憲吾は、静かな足取りで下に下りて行った。

だが憲吾が階段を下りた時、台所の方から、何やら
やっている物音がしていた。
憲吾が、覗くと、白い上下のパジャマ姿の慶子が忙しく
動いて食事の用意をしていた。
「母さん。起きて大丈夫なの?」
「ああ憲吾おはよう。今朝はバカに早起きねえ。どうしたの?」
「どうしたじゃないよ。昨日母さんが練習のし過ぎでぶっ倒れ
ちゃったから、今日は俺が朝食の用意をしようと思って早起き
したんじゃないか。」
「あら、そう。それはごめんねえ。私大丈夫よ。ほらこのとおり・・」

慶子はラジオ体操のような動きで、両手を左右上下に回して見せた。
そして両足も屈伸して元気さをアピールした。
「ね!ほら物凄く元気がでちゃってさ・・あはは。」

いつもの笑顔で語りかける。憲吾はほっとした表情で慶子を見た。

「良かったよ。昨日ぶっ倒れた時はどうしようかと思ったよ。」
「心配かけてごめんなさいね。どうしても思っていた音が出なくて
焦ってイラついちゃって・・迷惑かけちゃったわ。」
「いいよ。母さんが元気になってくれたから、それだけで嬉しいよ。」

憲吾は、慶子の肩をそっと抱いた。
華奢な肩。首筋のうなじが色っぽい。
だが、昨日のような衝動は起きなかった。
やはり母は母なのだ。

「もう少しで出来上がるからさ、それまでにお風呂入っちゃいなさい。
あなた昨日私に付きっ切りで入っていないでしょ?」
「どうして分かるのさ?」
「私はあなたの母親ですよ。直ぐに分かっちゃうもんなのよ。へへ・・」

憲吾はおどけた表情をする慶子を見て、嬉しい気持ちになった。
純粋に子供として・・・

「はいはい。分かりました。それではお言葉に従いまして私入らせて頂きます。」
「はいはい。どうぞどうぞ。」
2人は顔を見合わせて、互いに笑い合った。

憲吾は、用意された湯船にどっぷりと浸かった。
春先の朝風呂は、何とも言えない程爽快だった。

憲吾は昨日の出来事を振り返った。
素晴らしい慶子の肉体は、勿論の事、それをあたかも
初めから知っていたかのように振舞った自分自身に驚いた。

ひょっとしてあれは父親が自分に乗り移っていたのではないか?
母は、父を見たに違いない。あんな切なくて甘える表情の母を
見た事が無かった。息子にでは無く、最愛の男に対しての向けら
れた女の顔だった。

憲吾は、何となく面白くない感情が沸き起こった。
何時まで死んだ男を思っているのだろう。
昨日母を抱いたのは、紛れも無く自分自身なのだ。

憲吾は、今まで思いも寄らなかった感情に囚われていた。
母は俺の女だ。あの慈愛に溢れた美しく優しい笑顔は、全て
自分自身に向けられたものなんだ。誰にもやらない。決して・・

憲吾は、自身から湧き上がる昂ぶった感情に驚いた。
幼い頃誓った「母を守る」思いは、今形を変えて目の前にあった。

湯で、2度3度と顔を洗う。そして息を1つついた。
神は気付かせてはていけない感情を呼び起こしてしまった。

憲吾は、風呂から上がると、そのまま食卓へと向った。
料理は全て出来上がっていた。豪勢な品が幾皿もあった。
おそらく深夜から取り掛かっていたのだろう。

その時、憲吾が辺りを見回す仕草をした。
慶子がいない。忽然と消えた。
だが皿からは、幾本もの湯気が静かに揺らめいていた。

「母さん?」
憲吾は声を出して様子を伺った。
一体どこにいったのだろう?憲吾はもう1度呼んでみた。

ガチャッ!
ドアが開く音がした。
憲吾が、敏感にその音に反応した。
その視線は、トレーニングルームに向けられた。

(あっ!)
その時、憲吾はだらしなく口を大きく開けてしまった。
何気ないいつもの空気が一変した。

その部屋から、ゆっくりと黒のドレスに身を包んだ女性が出てきた。
胸のラインギリギリの所をなぞるように際どく両肩全開のオフショ
ルダードレス。
憲吾の表情が固まった。
慶子は優しく微笑むと、ゆっくりとお辞儀をした。

「昨日は、大変ご面倒をおかけしまして、誠に申し訳ありませんでした。
お蔭で昨日は食事ができませんでした。ごめんなさいね。
ですから今日はお詫びを兼ねて、私の手作り料理と来るコンサートへ向
けての仕上げ具合を診てもらうためのミニコンサートを行ないたいと思います。」

甘く囁くような声。優しい響きが心地良い。
だが憲吾は、ぽか~んと突っ立ったままの状態。

「ど、どうしたの?憲吾。ちゃんと聞いてる?」
堪らず怪訝そうな表情で問う慶子。
「え?あ、ああ・・・うん。聞いてるよ。」
はっと我に帰る。慌てて椅子に座った。やっと心が身体の中に帰ったよう。

クスっと笑う慶子。
そしてゆっくりとヴァイオリンを構えると、ひと息置いてから、
ゆっくりと弦を弾き始めた。

ショパンエチュード”別れの曲”だった。
美しく哀しい旋律が流れて来た。だがオープニングにしては不似合いな曲だ。
しかもこれはピアノ曲だ。
憲吾が不可解な表情を浮かべる。

すると慶子は突然にメロディーを変えた。
クライスラー”愛の喜び”
その軽快で躍動感に溢れたメロディラインが心地良い。
慶子も躍動感一杯に全身が動く。そしてその右手が舞うようにしなる。
憲吾は、ただ見とれるばかり、未だ食事には口をつけられずにいた。

その時朝の陽射しが、窓から入って来た。
全身神々しく輝く慶子の立ちスタイル。

次にEエルガーの”愛の挨拶”が流れ、そしてEサティの”3つのジムノペディ”
こうして一気に4曲を弾き終えると部屋中、春の陽射しで一杯になっていた。

こうして世界屈指のヴァイオリニストの独演会が終わった。
世界でもっとも贅沢な観客は、大きな拍手を何度もした。

「母さん。最高だ。すっげえや!」
「ありがとう。憲吾。ああ・・良かったあ。」
慶子の額の汗が光る。
そして心の底からの感動を得た憲吾だった。



中断していた食事を始めると、憲吾は、それらを一気に平らげた。
慶子は優しいまなざしで、その姿をずっと見つめていた。
「よっぽどお腹が減ってたのね。」
「良い音楽と良い料理。最高だね。あはは・・」
「まあ、嬉しい事言ってくれちゃってぇ・・うふふ。」

2人は食事が終わると、リビングでひと息入れた。
ソファーに満足気な表情で、どっかと座り込む憲吾。
それとは対照的に、そっと優雅に座る慶子。

「ねえ母さん、1つ聞いて良い?」
「うん?なあに?」
「最初の曲なんだけど、あれって変でしょ?」
「ああ”別れの曲”ね。そうかもしれないわね。」

顔色1つ変えずに同意する慶子。
「今弾いた曲はね、全部あなたに聞いて貰いたい曲だったのよ。」
「え?そ、それって・・・」
驚いた憲吾がソファーから勢い良く起きた。

「昨日。夢を見たの。もう逢えないと思った人に逢えた夢を見たの。
私嬉しかったわ。」
慶子の目は遠くを見つめているようだった。
憲吾は、胸の高鳴りを覚えた。
それは僕だよ・・その言葉を言いたかった。だけどやっとの思いで止めた。

「久しぶりの出会いで心がすっごく踊ったわ。」
「よ、良かったじゃない。母さん、ずっと父さんひとすじだったからね。」
「うん。凄く幸せな気持ちになったわ。でもね・・」
その時慶子が、突然うつむいてしまった。
「でも?なんなの?」
憲吾も心配そうに慶子の肩に手を置こうとした。
その瞬間・・・

「夢から醒めたの。はっきりと・・・」
慶子が顔を上げると、頬が真っ赤に染まり瞳はじんわりと潤んでいた。
まるで縋るような目で、憲吾を見つめる慶子だった。

「母さん、どうしたんだい?」
憲吾は明らかに、その表情の意味を理解していた。
だけど、自分からは言えなかった。決して。

「”別れの曲”は、あの人との決別の為に弾いたの。」
「そ、それじゃあ・・後の曲は?」

憲吾の表情は、明らかに分かっている顔だった。
”愛の喜び””愛の挨拶”ときて、最後の”ジムノペディ”とくれば・・

慶子は、すっとソファーから立つと、再びヴァイオリンを手にした。
「もう一曲弾くわね。」
そう言うと、右手を身体の後ろに置いた。

すると憲吾の目の前で信じられない光景が現れた。

パラリ・・・
黒のドレスが、あっと言う間に下に全て落ちてしまったのだ。
憲吾は声を出す事ができないまま、ただ凍りついてしまった。

ドレスの下から、一糸も纏わぬ裸体が現出したのだった。
そう”ジムノペディ”とはギリシャ語で「裸のスポーツ」という
意味だったのだ。

きれいな立ち姿のポーズ。
ほんの少し垂れ気味だが、まだまだ張りを失わない乳房。
ちょっぴり太目の腰周りだが、全然弾力を失っていない太もも。
キレイに手入れをした三角地帯。
美しい真珠と称えられた慶子の肉体は、今だ健在だった。

「どう?キレイかしら?」
はにかみながら、上目使いで憲吾を見る。
「勿論さ。母さんすっごくキレイだ。」
憲吾は、立ち上がると、ゆっくりと慶子に近寄った。

「また後ろから支えてくれるかしら?」
「ああ、喜んで。」

互いに笑顔で見詰め合う。
「ねえ、キスして。」
慶子の求めに憲吾は、すっと唇を合わせた。
憲吾の両手が慶子の背中に回った。

「母さん、気付いていたの?」
「ええ、途中からね。」
「何か恥ずかしいなあ。」
「そんな事無いわよ。素晴らしかったわ。」
「そうなの。嬉しいなあ。」

もう一度キス。今度は互いの舌を奪い合う激しいやつだった。
「こんなおばちゃんでも良いの?」
「母さんは十分若くてキレイだよ。他の女性なんて目じゃないさ。」

更にきつく抱きしめる憲吾。
慶子は密着する憲吾の股間を感じた。

「ホントだ。凄く硬くなってるわね。あはは・・」
「だろ?嘘じゃないって分かったでしょ?」
「はいはい。お母さん嬉しいわ。」

憲吾はシャツを脱ぎ捨てた。
厚い胸板が男らしさをアピールする。
続いてゆっくりとズボンを脱ぐ。

呆れるぐらいに反り返ってる肉棒が目に入った。
慶子は右手でゆっくりと扱いた。
「母さんの手。凄く気持ちイイよ。」
「そう。じゃあもうちょっとサービスしちゃおっか。」

そういうと慶子は、しゃがんで憲吾の肉棒を口に含んだ。
「おおおう。ねっとりしてて気持ちイイ。」
慶子の頭が前後に何度も動く。そして憲吾の腰も動く。
堪らずに憲吾は、右手で慶子の頭を押さえた。
そして更に激しさを増す腰振り。
何度も顔に打ち付ける・・・そして。

「ああああ。で、出る・・」「そのままイッて!」
慶子の口に大量の放出。そして放心した表情の憲吾。


「それじゃあ、弾くわね。」
慶子が構えると、憲吾は後ろに回った。

シャコンヌのメロディが流れて来た。
幾重にも重なる荘厳なる和音が響く。
「この曲って父さんが大好きだったのでしょ?」
「ええそうよ。いつも聞き入っていたわ。」
「俺もこの曲は大好きだよ。何度聞いても飽きないよ。」
「そうなの、嬉しいわね。これからはあなたを想って弾くわ。」

憲吾の両手が慶子の乳房を揉み砕く。
「あああん。」
慶子の甘い吐息が漏れる。2つの音色のハーモニー。

更にヴァイオリンの音色に深みが増して来た。
憲吾の右手が股間に入った。
ぐっちょりと濡れていた。

指がピアノを弾くように軽快に動く。
「はああああん。気持ちイイよ。憲吾。」
楽器名は慶子。甘い音色が鳴り響く。

慶子はヴァイオリンを弾きながら、少しずつ足を広げて行った。
「ドラムを叩いて憲吾!」
憲吾は、ゆっくりと腰を沈めた。

「ああああん。最高。もっと・・もっとちょうだい!」
「母さん。母さん。」
「あああああ・・憲吾。愛しているわ。凄く愛している!」
「俺もだ、母さん。もう離さない。母さんは俺のものだ。」

美しい立ち姿の慶子。
そして後ろから突上げる憲吾。

その音色は、更に艶っぽく聞こえるようになった。

その時暖かな陽射しが棚の上に置いてある家族写真に
向って一斉に降り注がれた。

その慶子と憲吾が幸せそうに笑っている写真の横には、
あの四つ葉のクローバーが一緒に貼り付けられてあった。

                      (おわり)
                      
[2005/01/09]

小説(転載) 『Water lily HOTEL』

近親相姦小説
06 /27 2018
掲載サイトは消滅。
『Water lily HOTEL』

旅客船“イオカステ”号が港に着岸した衝撃でも慶子と巧は目を覚まさなかった。今
朝未明にサイパンについてすぐ港からこの船に乗った時に服用した酔い止め薬がまだ
効いていたのである。薬が効きすぎる体質は母子だけに実に良く似ていた。まあ、今
はまだ早朝六時なので起きなくても無理はないのかもしれないが。
「Good  Morning!」
他の乗客がさっさと降り、最後の乗客となった二人を船長である三十歳くらいのブロ
ンドの美女がおこしに来た。ちなみに彼女はこの船の機関士とは実の姉弟らしい。サ
イパンを出発する前にそう自己紹介された時に二十人はいた他の乗客が歓声を上げた
が、慶子達にはその意味が良く判らなかった。まあ、出港と同時に二人とも寝てし
まったので、その後の船内がどうなったのかは知らないのだが……
「あ、ついたの」
寝ぼけまなこでまず巧が起き上がった。今年で十五歳になる身体は痩せぎすなので服
を着ていると判らないが小学生から続けた柔道のお陰で意外に筋肉がついている。背
はそこそこで性格はおとなしめだがしっかりしており、結構かっこいい容姿のせいも
あって学校では特に女の子に人気があった。
「ほら、ママ。島に着いたよ。起きて」
巧は寄り添うように寝ていた母の肩を揺すった。久しぶりにきっちり化粧した慶子の
頬にショートボブの髪が当たり、いやいやをするように揺れる。十秒ほどしてからよ
うやく母は目を覚ました。
「あ、巧。おはよう。――ご飯は?」
「おはよう。今日は僕の当番じゃないよ。ママ」
ぼけた挨拶をする二人に女船長が早口の英語で長々と喋った。顔が紅潮しており、笑
顔であるから怒っているわけではないのだろうが二人の英語力――特にヒアリング能
力では聞き取れない。せいぜい巧が、五時間前の出発時には白いきっちりとした制服
の船長が、今は結構危なくらいに胸元の見えるワイシャツ一枚で、しかも運動でもし
たかのように汗をかいている事に気がついたくらいである。僕たちが寝ている間に何
かあったのだろうか?
「船長さん、なんて言ってんのよ。巧」
「わかんない」
「中学校で英語やっているでしょう!」
「・・それを言うならママは大卒だろ」
「卒業後は忘れてるわよ!それが日本の常識じゃない!」
「無茶言うな!」
結局、二人は力一杯の笑顔で愛想を振りまくと言う、純日本人的な対応でその場を離
れ、急いで船を下りた。白で統一された清潔そうな港にはもう乗客の荷物が降ろさ
れ、個々にカートに載せられている。もっとも他の乗客はとっくに上陸してホテルに
行っているので、今、残っているのは母子の旅行用スーツ二個だけであったが。
「きゃーーーっ!遅れちゃった!急ぐわよ、巧!」
慶子が慌て、巧が急いでカートに取りつく。力仕事は小さい頃からちゃんとやる子な
のだ。しかし、顔のほうは何となくまだ船のほうを向いていた。
「どうしたの?忘れ物?」
「いや、さっきの英語がちょっと気になってさ。ウェルカムの後にインセ・・何とか
・・アイランドって聞こえたんだ」
「何それ?」
「……インセクトって言ったのなら、虫の事だよ」
「じゃ“虫島”って言ってたの!あの船長さん?いやーーっ、ママ、虫嫌い!」
慶子は派手に騒いだ。子供のようだがふざけているのではない。今年で三十六歳だ
が真面目にである。システムエンジニアも慶子のような一流クラスともなればどこか
変な人が多いと言うが・・。まあ息子の巧はもう慣れていたが。
「島の名前は“Water lily Island”だったから・・あだ名なのかな。虫が多いと
か言う」
「そんなのいやーーーっ。“水百合”って名前だから綺麗なところと思ったのにぃ
!」
巧が少し首をひねった。水の百合?
「・・ママ。Water lilyって睡蓮の事だよ」
やや沈黙があった。いつもの事だ。ミスを指摘されても素直に認めるような慶子
ではない。
「コンピューターってコマンドは英語でしょ?」
「知ってたわよ!巧の英語力を確認する為にわざと間違えたの!」
「はいはい」
「わざとなんだからね!それくらいママだって判るんだから!」
「やれやれ」
巧はそれ以上の反論を諦めてカートを押した。その後で機関士が船長と大きな声で何
事かを話していたが、もちろん英語なので二人には判らなかった。


学生結婚をした慶子は二十一歳で巧を生んだ。その後にすぐ別れた夫は、今思えば何
故あんな関係になったのか判らないほどに影の薄い男だった。まあ、これが若気の至
りと言うものなのかもしれない。
大学卒業後、赤ん坊の巧を両親にまかせて働き出した慶子はシステムエンジニアとし
てはなかなかに優秀で収入もまあ悪くはなかったが、その反面、土日どころか朝も夜
もない忙しさに追い回される毎日であった。そしてそこまで会社につくした割には女
と言う事で昇進等は差別されるのである。
「これではいけない!」
三十歳の時にそう一念発起した慶子は今迄の経験と名前を使って、友達と一緒にソフ
ト会社を設立した。両親はもちろん大反対したが、昔から思い立ったら他人の言う事
など聞かない慶子はおもむくままに突っ走り、ちょっとした幸運もあって、ついに事
業をなんとか成功と言えるまでに導いたのである。
ある程度のお金を手に入れた慶子は今までの協力と親不孝に応えるべく、高校時代か
らの友人の不動産会社社長に探してもらった板橋の立派なマンションを買った.両親
と、もう中学生になっていた巧を住ませるためである。もっとも両親は東京のやかま
しさを嫌い、実家のある九州を希望したので引っ越させたのだが。
しかし、そうなると巧だけが板橋のあの広い4LDKに一人ぼっちでいる事になってしま
う。ある日、いつもどおり深夜に帰宅した慶子は黙って冷めた二人分の夕食を食べて
いる息子を見て衝撃を受けた。巧はせめて母の顔を見ながら食事しようとさっきまで
待っていたのである。
「このままではいけない!」
これほどまでに実の息子をさみしがらせていたなんて!――目から鱗が落ちたような
ショックに慶子は人生を切り替える事を誓った。今までは会社でも陣頭指揮で頑張っ
ていたが、その権限を部下にできる限り委譲する事で自分の仕事量を減らし、土日は
完全休養、平日も八時までには何とか帰れるようにしたのである。収入がその分減る
のは覚悟の上だ。
もちろん、休暇も積極的に取るようにした。今度の夏休みに二週間もの南太平洋での
バカンスを入れたのもその現われであった―――


「しかし、この島全部がそのホテルのものだなんて・・良く見つけたね」
「いーーいでしょう。ネットで探すのはちょっと大変だったけど。“家族”、“秘
密”、“隔離”なんかで検索したのよ」
誰にも知られない場所を選んだのは、バカンス中は絶対に会社から連絡を入れさせな
い為である。このホテルを選んだのは、サイパンから専用クルーザーで五時間と言う
場所にあり、また客をメイルアドレスとファーストネームだけで管理するほどプライ
バシー厳守をしていたからであった。
「ま、二週間ゆっくりしましょう。島にあるのは海と空とビーチとこのホテルだけだ
からショッピングとかは期待できないけど、“夏っ!”てのは一杯あるし、ボートと
かダイビングとかフィッシングとかのオプションも豊富だったからいいでしょ。それ
に実はママ、射撃とジェットボートをしたいの!」
「……そろそろ、自分の年齢を考えるようにしようね。ママ」
「うるさいわね!」
クルーザーの到着した港もホテルの一部であるから、建物に向かって歩き出した二
人のところへも大柄なポーターがやってきた。現地人らしい褐色の肌のそのポーター
は英語で丁寧な挨拶をして、カートを受け取る。値段が立派なホテルなのだから当た
り前の事なのだが、根が日本庶民の巧には恥ずかしい。二人はポーターに先導され、
ホテルの建物に向かった。
「きれいなとこだね」
 巧がしみじみと言ったように、見事なまでに整えられたホテルであった。庭園の中
に三階建ての建物が点在している設計だが、まるで青一色の空と合わせたかのように
色彩が抜群である。
 鮮やかな熱帯の花々に、きっちりと刈りそろえられた熱帯樹と芝の中にそびえる建
物は基本的には雪のような白を主張しながらも、藤製のひさしや黒檀の東屋のように
生き物の柔らかさを随所に配置している。これによってまるで熱帯の強い太陽の下に
いながらも涼やかな森林の中にいるような不思議な気分を入っただけで感じられるの
だ。熱帯の日差しを考慮した木々や東屋の配置もあくまで視界の邪魔にならないよう
に巧妙に設置されていた。巧は建築や造園には全くの素人だが、それでもこの空間の
趣味の良さは十二分に堪能するほど理解できた。
「うん。こんなに良いとは思わなかったわ」
 うるさ型の慶子も素直に感心する。しかし根が理系(?)なだけに別の事にも気が
ついた。
「…それにしてもカップルが多いわね」
 はっきりと慶子が眉をしかめる。巧もそれには気がついていた。視界のあちこちに
見える人影はホテルの従業員でなければ、絶対に男女の二人連れであった。それもみ
んな肌を寄せ合っているところからして恐らく恋人か夫婦なのであろうが、問題はそ
の寄せ合いかたである。
「わっ!あっちはキスしている!こっちは芝生の上で抱きあっちゃたりして!そっち
の茂みへの隠れ方も不自然!巧!中学生は見ちゃ駄目よ!」
 慶子がわあわあ騒いでも思わず見てしまう巧である。それが思春期と言うものだ。
慶子は中学生の息子に対する認識がまだまだ甘いと言うべきであろう。
 さて、それほどまでに周囲の空気は妖しかった。抱き合うカップル達の親密度が確
かに普通ではない。どうも日本人らしい者はおらず、白人四割黒人二割アジア系二割
判断不能二割というところだが、だからなのか親密度が巧達の常識を超えていた。ホ
テルの敷地内の衆人監視の中だと言うのに、まるでベットの上のような悩ましい声と
いやらしい動きは十五歳の巧には強烈過ぎる光景であった。
「何よ何よ何よ!ここってラブホなの?!家族向きってのは嘘だってーの!」
 大声で喚く場違いな慶子を押さえるためにも巧が真っ赤な顔をして反論した。
「ラブホは言いすぎだよ。カップルったって半分以上は親子ほど年齢が違うじゃない
か」
 巧の言うとおりである。客達の過半数は――男女どちらが上であれ――親子ほど年
齢が違っていた。恋人同士にしては不自然であろう。これが男が上ばかりと言うのな
ら売春じじい達かと疑うところだが、その半分以上は女が上である。しかも何となく
子供のような男とも外見が似ているような気がする。やっぱりここの連中は本当の親
子か家族なのではないのだろうか?
「じゃ、あのべたべたぶりは何だっての!ふつう家族であんなことする?説明してみ
なさい!」
 慶子が怖い声で絶叫する。もちろん、“今の”巧には説明できなかった。


「英会話の実地練習よ。行ってきなさい」
 フロントの前で慶子は巧にチケットを渡し、両手でその背中を押しやった。もちろ
んにこやかに微笑んでいるフロントが白人の男女だったせいである。自分の試練をあ
なたの為と称して息子に転送するのはいつもの事だ。巧は文句があるに違いなかった
が、慶子はそれをことさら無視してちよっと離れたソファに座る。その後姿は責任転
嫁を貫くぞ!と言う熱い意思に満ちていた―――こうなっては巧も諦めざるをえな
い。
「ぶちぶちぶちぶち」
 聞こえるように愚痴りながら勇は仕方なくフロントに向かった。
「うるさいわよ!男は細かい事をがたがた言わないの!」
 慶子は自分勝手な事を叫んで足を組み、ソファに身体を投げ出した。ソファはあま
り高級品に詳しくない慶子にも判るくらいに高品質なもので実に座りごこちが良い。
そのまま思いっきりのけぞって背中を伸ばす。
 とーーーー
(あら?)
 のけぞりから戻った慶子はようやくテーブルの向かいに人影がいたのに気がつい
た。白人の男女だ。ラフな身なりからして客であろう。自分の行儀の悪さに赤面し、
慌てて座りなおす慶子であったが、相手はそんなものを見てはいなかった。
「え?」
 慶子の目の前でカップルは濃厚なキスをしていたのだ。それも本当に互いの舌がか
らみあう音が聞こえるほど濃い奴をである。恋人か?と慶子は一瞬思ったが、それに
しては不自然な点に気づく。と言うのも女は慶子よりやや上程度だが、男は巧と同じ
位の少年だったのである。
(何よ何よ、これって淫行罪なの!?それともつばめとかショタコンってやつぅ?)
 理解できない慶子の前で、二人はしつこいほどキスを交し合い――ようやく口を離
した。そして次には男――少年が母親ほど年上の女のシャツの下に手を入れたのであ
る。
(えーーーーーっ!)
 あまりの驚愕に両手を握りしめて口を押さえる慶子など気にもせずに、少年はその
まま女のシャツを上げ、その中をさらけだした。ノーブラの豊満な二つの白い乳房が
ぺろんと剥き出しになる。Fカップはあった。そして女が恥ずかしそうに笑い、少年
もにっこりと微笑んで――その乳房にむしゃぶりついたのである。
「えーーーーーーっ!」
 思わず絶叫してしまった慶子の目の前で少年は丹念に女の乳房を舐め始めた。離婚
後、こう言う事にはまったく縁のなかった慶子にもそれが冗談ではない――本当の愛
撫である事はわかる。女が笑顔のままかすかなあえぎ声をもらし出したのが何よりの
証拠だ。そして少年と女は傍らの慶子の声も存在も無視して愛撫をし続けた。
「終わったよ。本当にファーストネームとメイルアドレスだけでいいんだね。楽なよ
うな――」
「見ちゃ駄目――ぇっ!」
 その時、手続きを終えてちょうど戻ってきた巧の顔面を慶子は両手でひっぱたい
た。派手な音があたりに響く。母としては未成年の目をこの光景から覆い隠そうとし
たのであってもちろん攻撃する意思はなかったのだが、息子には目から火花が飛び出
るほど痛かった。
「何すんだよ!」
 当然、巧は怒ったが慶子は聞かない。一生懸命になって息子をいかがわしい光景か
ら守ろうとしがみつく。
「駄目!中学生には早いの!こう言うことは大人にならないと――」
「だから何が!?」
 力の強い巧はからみつく母をようやく押しのけ、禁止されかかった方向を見た。上
等のリゾートホテルの立派なラウンジに、身なりの良い客やきっちりとした雰囲気の
従業員が散在していると言う――別に異常でも何でもない光景である。すぐそばのソ
ファには白人の親子連れらしい二人組みがびっくりした顔でこっちを見ていた。
「何だってんだよ。変な声だすからじろじろ見られているじゃないか」
「違うの!この二人はたった今――えっと……その、いかがわしい、人前でやっちゃ
いけない事をしていたの!」
 慶子の絶叫に巧はきょとんとした顔でその二人を見る。日本語が判らないらしい二
人もおんなじ表情で見返した。
「何もしていないじゃない」
「してたの!こう女が胸を出して男が口で―――」
 興奮のあまり説明しかかった慶子であったがさすがに実の母が実の息子に言うには
恥ずかしい内容である事に気づき、最後は口の中に消えてしまった。当然、何の事か
巧には通じない。それでも母の様子から何かあったのだろうと思った巧は拙い英語で
その男女に話しかけた。
「Hallo!」
 中学生英語ではあったがとりあえず英語である事は相手には伝わったらしい。巧と
同世代の少年のほうがにこにこしながら応えた。こっちの会話力を気遣ってゆっくり
と話してくれる。しかし、言っている単語が――“nipples”“toy with”の類い
だったから中学レベルの巧には良く判らない(いずれも隠語に近く、それぞれ“乳
首”、“弄ぶ”の意味)。
少年は正直に“僕がママのおっぱいをいじくっていたら君の連れが驚いちゃって”と
言っているのだが――
「――良くわかんないけど“Mom”って言っているからこの人達は母親と子供だと思
うよ」
「そんなはずはないわ!だってこっちの若いのは女の服をたくし上げてノーブラの胸
に……」
 やっぱり全部は言いきれない慶子であった。思わず自分の胸元でジェスチャーまで
してしまったが、そこは母である。こんな性的な話題を実の息子に出すのは興奮して
いても恥ずかしい。まして巧は結構人目を引くほどの美少年で、また最近は実の母で
もたまにどきりとするほど逞しさも増しているのだから――――
「――――――!!」
 何と言ったらいいか判らない母と何が何だか判らない息子を見て白人少年は何か勘
違いしたらしい。その“Mom”と呼ぶ中年女性の肩を抱いて何か言ったのである。自
慢そうな表情が印象的であった。
「何?なんて言っているの?!」
「……なんか――自分のママのほうが大きいぞって言っているみたいなんだけ
ど……」
 巧には“何が”大きいのか判らなかったが、慶子には判った。ヒヤリングが出来な
くても、そこは女のカンである。ぎりぎりCカップの慶子に対し、そのMomとやらはゆ
うにFカップはあったのだ。
「何ですってぇっ!もう一度言ってみなさいよ!これでも日本人じゃでかいほうなの
に!だいたいこれで巧におっぱいをあげたんだからね!巧は美味しい美味しいって
――」
「マ、ママ!ちょっと…もう行こうよ!」
 育ちだけの江戸っ子である慶子だが、怒ると実に喧嘩っぱやい。この剣幕だと本気
で殴りかかりかねないであろう。そんな母を巧は無理矢理引き剥がし、二人の荷物を
載せたカートを用意して待っているボーイのところまで引きずっていった。


 建物の三階の二人の部屋は立派なものであった。広さと言い、調度や内装の品の良
さと言い、東京ならジュニアスイートでとおるであろう。こんな部屋があの値段なの
だからかなりのお得である――もっとも当の母子はそんな事には気づくどころではな
かったが。
「ま―――ったく、なんて所よ!風紀がなっていないわ!ラブホかはってん場じゃあ
るまいし、人前であんな事をさせるなんてこのホテルの良識を疑うわよ!」
 部屋に入っても慶子はぷりぷり怒っていた。最後の胸問題も大きかっただろうし、
また息子を産んで以来、ああ言う事には縁がなかったと言うひがみのせいもあるであ
ろう。とうていその怒りはすぐにはおさまりそうにない。
「……………」
 巧は無言である。それどころかそんな母から、かなり赤くなった顔をそむけようと
すらしていた。慶子はまだ気がついていないが、原因は部屋の調度品である。オー
シャンビューの寝室には大きく素敵でとても広いベットが――一台しかなかったの
だ。
(…これは――その…ダブルベットってやつでしょうか?)
 他にも巧が気づいた点としては、“壁に鏡が多すぎる”、“バスルームが広いのは
良いが何故ベットのような大きなマットが置かれているのか?”、“少女趣味なまで
に可愛らしい内装と何かいやらしい色彩は何故なのか”等々――
 これは確かにラブホというところではないだろうか?そして巧はそんなところに女
性と――しかも実の母親と二人きりでいるのだ。気まずいなどと言うレベルではな
い。頬の熱さだけでも耐えがたいほどであった。
「あのママ…」
 部屋の説明を聞き取れない英語でしたボーイにチップを払い終えた息子はおずおず
と母に声をかけた。顔を見るのも恥ずかしいが、用事があるのだから仕方がない。
「なんかこのホテルの支配人さんとやらが後で挨拶に来るって」
「支配人?いいじゃない、望むところよ!どんなエロじじいだか知らないけど、一度
こんこんと常識ってもんを叩きこんでやるわ!」
 勇ましく宣言した慶子だが、次の瞬間には相手が英語を喋ったら――と言う問題点
に気づいて舌が止まる。巧に通訳させようかとも思ったが、さすがに息子の会話力を
そこまであてにはできないだろう――
 その時、部屋のチャイムが小鳥のさえずりのようなメロディを鳴らした。訪問者に
違いない。母と子は思わず顔を見合わせてしまう。
「その“支配人”さん?」
「巧、出迎えて!」
 有無を言わせない母に押しつけられた息子は緊張してドアの前に立ち、おずおずと
「WHO?」と誰何した。
「当ホテル支配人の美代子と申します。ご挨拶に参りました」
 返ってきたのは意外なことに日本語だった。急いでドアを開けるときちんと麻の
スーツを着た女性がにっこりと微笑んでいる。年齢は四十代後半くらいであろうか。
巧がぽかんと見とれたほどにそのショートヘアの女性は上品かつたいそうな美人で
あった。
「慶子様と巧様ですね。本日は当ホテルにようこそ――――あの…お部屋に入っても
よろしいかしら?」
「あ?はいはい!」
 支配人と言うよりとびきり上等な女教師みたいなその女性――“美代子”の笑顔に
巧は慌てて招き入れる。中に通された美代子を見た慶子もちょっとびっくりしたらし
く、すぐには言葉でない。
「では改めてご挨拶を―――お初に御目にかかります。私は支配人をつとめておりま
す美代子と申します。
 本日は当“Water lily Hotel”をご利用いただきましてありがとうございます。
当ホテル従業員を代表して歓迎と感謝を申し上げます。どうぞお二人ともごゆっくり
と当ホテル自慢の空間と時間をお楽しみくださいませ」
 唖然としている母子に美代子はてきぱきと挨拶をした。いかにもできそうな女性で
ある。もちろん日本人で、以前は結構知られた料理研究家だったと言うのは後で知っ
た。
「こちらのホテルの利用注意につきましては御部屋に備え付けのパンフレットをご覧
下さい。日本語版もございます。一応、基本的なところは日本の本店と同じですが
――」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
 ようやく唖然とはしていられない事に気づいたらしい。さっきからの怒りと不満を
思い出した慶子は乱暴に話をさえぎった。美代子は笑顔のままで口を止める。かなり
の大声だったがまったく動じてはいない。さすがにプロである。
「そんな事の前にいろいろ聞きたい事があるの!まず。このホテルの中の風紀は何?
どこでもなんでもやりたい放題になっているじゃないの!リゾートラブホなんて聞い
た事がないわ!親と子ほど違うカップルもやたら多いし!
 外人ばっかりで慣習が違うのは判るけどこっちは思春期の息子を連れているのよ!
教育上の配慮とか公共性とかはここにはないの!」
「は?」
 今度は本気で判らなかったらしい。美代子は笑顔のまま首を微妙にかしげた。
「親と子ほど?……ですが、当ホテルは本店と同じ主旨でございまして……」
「その本店って言うのも何よ。知らないわ」
「ええっ!」
 初めて美代子の表情が変った。真面目に驚いている。冗談ではないようだ。
「お待ち下さい。お二人は日本の本店“睡蓮亭”の御得意様で、支店である当ホテル
を紹介されていらっしゃられたわけではないので?」
「何よ、その睡蓮亭って?」
 今度の美代子の反応は劇的であった。目を一杯に見開いて硬直している。何が何だ
か判らないが美人なだけに迫力がある。巧など思わず謝ってしまいそうになったくら
いだ。
「睡蓮亭を知らない?ではどうやって当ホテルをお知りになったのですか?!」
「ネットでいろいろやっているうちに見つけたの」
「ど、どうやって!一般公表はされていないはず……」
「いろいろ検索をかけて見つけた個人旅行記の一つからだったけ」
 あっ気なく言う慶子に対し、美代子の方はふらつかんばかりの衝撃を受けたようで
ある。顔色が鮮やかなまでに青くなっていた。
「……で、ではひょっとしてお二人は―――普通の親子なんですか?」
「失礼ね!わたしと巧は普通の本物の親子です!他の客みたいに、かたって人前でい
かがわしい事をしたりはしません!いいですか。さっきなんかは子供みたいな愛人に
“ママ”なんて甘えさせているおばさんがいたんですからね!」
 素直に憤慨する慶子に美代子は片手を額にあてた。その下の苦い表情がかなりまず
い事態であることを証明している。言いたい事を言っているだけの母とは違い、緊張
して口を閉じきっている巧にはそれが良くわかった。まだまだ続く慶子の苦情を巧が
そっと手で制止する。美代子がすぐには応対できないのは明らかだった。
「判りました――こうなった事情については」
 やや時間をおいてからようやく美代子は立ち直ったようである。背筋を伸ばしなお
してから、何も理解していない母子に向き直った。そしてとんでもない事を言い出し
たのである。
「まず念のためにお聞きしますが、お二人は“近親相姦”と言うものをご存知で?」
 母子がその質問の意味を理解するのには十秒以上が必要であった。そして慶子は悲
鳴を上げ、巧は真っ赤になりつつ視線を下にそらす。
「え?ええ――っ!!」
「判りやすく申し上げますと、血のつながった実の家族間で、男女の愛情関係になる
事です。英語で言えばIncestですわ」
「そ、それくらいは知っているわよ!」
 強がる慶子だが頬が紅潮したのまでは隠せない。さすがに実の息子の前で“近親相
姦”と言う話題は恥ずかしかったようだ。
「いったいそれがどうだと……」
「当ホテルは本店になる日本の温泉旅館“睡蓮亭”ともどもその近親相姦ご家族専用
の施設なのでございます」
 美代子の説明によると、睡蓮亭とは美代子の友人である菊乃と言う女将の作った旅
館らしい。そして自分自身も実の息子と近親相姦関係にある菊乃がそこを近親相姦家
族専用にしたのだ。その主旨から広告も出来ない旅館ではあるが、愛好者にはたまら
ないその専門性によってファンを掴み、その口こみによって意外に多かったターゲッ
ト層を開拓して大成功をおさめたと言う。
 そしてこのホテルはその成功によって得たノウハウと資金によって作られた二号店
で、日本人は睡蓮亭の常連のみにし、あとは外国人の愛好者をターゲットにしたらし
い。それが成功しつつある事は、桟橋からここまでに見た客の多さと熱愛ぶりを見れ
ば明らかであった。
「―――と言うわけなのですが。どうやらお二方は全く普通の人でありながら、偶然
にもこんな特殊な有志の世界に紛れ込んできてしまったのですね」
 ため息混じりの美代子に慶子と巧は、首が痛くなるほど縦に振った。驚きのあまり
もう声も出ない。“近親相姦”など話でかすかに聞いた事があるだけで、実際に人生
で目にするなど二人とも想像した事もなかった。
(こんな世界があったなんて――)
 たとえ口が動いても二人ともそうとしか言えなかったであろう。母子は呆然として
まじまじと見詰め合った。
(つまり、近親相姦と言うと自分がこれと――)
 慶子と巧は――母と子は偶然同じ事を想像してしまう。そして次の瞬間には、その
相手が目の前にいることに気づき――同じくらいに紅い頬になって急いで視線をそら
した。
「わかりました。とにかく対応させていただきます。お二方が乗ってきた船にすぐ席
を取りましょう。ホテルも当方で取りますので、残りのバカンスはサイパンでお過ご
し下さい」
 幸い――かどうか、美代子は自分の考えに熱中していたので、目の前の母子の不自
然な動揺には全く気がつかなかった。そのまま大股で母子の間を通り、ベット脇の電
話に取りつく。かなり早口の英語でどこかと連絡を取りはじめた。しかし――
「―――――えーーっ!」
 慶子のほうはとにかく息子と目をあわさないように気まずくよそを見るので精一杯
だったが、それでも美代子の口調が厳しくなっていくのはわかった。何か事故でも生
じたんじゃないのかしらと慶子は思う――その予想はあたった。
「………申し訳ありません。イオカステ号がエンジントラブルを起こしてしまいまし
た。復旧には数日かかるそうです」
 長かった電話を切ると美代子は本当に申し訳なさそうに慶子達に向き直った。表情
からして嘘でもふざけているのでもあるまい。
「あ、そう――そうなんですか」
「ですから、もう少々このホテルに滞在下さい」
「えーーっ!」
「ご不快はごもっともでございますが、修理を終えましたらすぐにでもサイパンへお
運びいたしますので――その間は食事からオプショナルツワーまで全て無料にさせて
いただきますから」


 とにかく船が出ないと言うのなら仕方がない。慶子と巧は支配人の申し出をのむし
かなかった。
「…………」
 平身低頭の美代子が退出した後、部屋は沈黙に満ちた。母も子も口も開けず、互い
を見ようともしない。しかし、互いを熱いほど意識している事は自分にもーー恐らく
相手にもわかりすぎるくらいにわかっている。
(近親相姦なんて……うちの場合だと母と子が――つまりあたしと巧が…そのSEXす
るって事なのよね……)
 無言で壁の模様を見ながら慶子は思った。それだけで頬と――胸までもが熱くなっ
ていく。その熱のせいか、次には思わずそのシーンまでも想像してしまい、頭と心臓
が爆発しそうなまでに血が逆流する。
(駄目よ。こんな事を考えちゃ!)
 急いで慶子は頭を振った。そう、うちは普通の親子なのだ。そんな変なことはしな
いのである。例え、まわりにそういう変な人達が集まったとしても、あくまで普通に
しなくては――
「た、巧。お腹空いたでしょう。朝食を取らない?」
 二人は遅くなった朝食を食べる為に部屋を出た。もうすでにここがどう言うホテル
かは判っているのだが、飛行機を降りてからはまだ一度も食事をしていないのだ。良
識も空腹には勝てない。
 この時の二人は、“近親相姦専門”と言うのがあまりにも非現実的で、まだどこか
で疑っていたのは確かである。また、逆にその非現実があるというのなら確かめてみ
たいと言う好奇心もさらに深いどこかにあったのかもしれない。
 そして――あるいは、しかし――ホテルの中は支配人の言うとおりであった。


 客は必ず家族らしい組み合わせで、しかも家族ではありえない種類の親密さを見せ
つけているようなカップルばかりだった。もちろんキスや抱擁など序の口である。ど
うやらカップル同士ならどこで何をやっても良いらしく、ソファに腰掛けて少女の乳
房に悪戯する中年男性とか、柱の影で濃密に抱き合っているらしいがこちらから見え
るお尻は布切れ一つつけていない若い男女とかばかりであった。
(そんじょそこらのラブホを透視したって、ここまではならないんじゃない?)
 慶子はしみじみと思った。もちろん、この母はその間も息子が教育上悪いものを見
ないようにと手と声で大忙しである。巧の方はただただ気まずそうに床ばかりを見て
いた。
 そんなあまたの迷惑の中をぬうようにして二人はホテルの一階にあるカフェに入っ
た。別にここを選んだわけではない。よく地理がわからないうちに、一番最初に目に
ついたところにたまたまあっただけである。ここがバッフェ(食べ放題フリーサービ
ス)をやっていたのは幸いであった。
「じゃ、取ってきて――いや!いい、ママが行く」
 美人のウェイトレスに案内されてボックス席につき、すぐにもいつもどおりに息子
をこき使おうとした慶子であったが、さすがにこのホテルでは、巧一人でうろつかせ
るのは危険と思ったらしい。急いで自分が立つ。巧の方もその意味は判っていたから
無言の紅い頬のままで下を向いただけで何も言わなかった。
 結局、慶子は四度往復してさまざまな料理をテーブル一杯に並べた。慶子本人には
先ほどからの驚きのせいで、お腹は減っても食欲は不思議と感じられなかったが、育
ち盛りの息子の事を気にして大量に持ってきてしまったのである。料理そのものはと
ても美味しかった。
「ふーーーー」
 なんのかんの言ってもお腹が窮屈になるくらいに食べ、美味いコーヒーを飲みなが
ら慶子は一息つく。その隣で巧が黙ってデザートのアイスクリームをつついていた。
そろそろ十一時近い事もあって、カフェの中では人影もまばらになってきている。喧
騒も心地よい程度の音量だ。さすがに食事中にふらちな真似をする客もいないよう
だ。(後で知った事だが、夕食の時は別らしい。)
 このシーンだけを見れば確かにリゾートホテルの優雅な風景であろう。
「あのーー日本の方ですよね」
 こう言う客さえいなければ―――であるが。
「あ、やっぱり!いやーー。ほっとしました。実は今日あたりに日本人客が来るって
支配人さんに聞いて探していたんですよぉ」
 突然のようにして、母子の席に現れたのは程よく日焼けした目の大きい女だった。
結構美人である。二十歳前後であろうか。極彩色の花柄のタンクトップに白いホット
パンツと言う慶子の年齢では理解不可能なものを着ている。肩あたりからさらけ出し
た健康的な首筋のラインは息子の巧も混乱しそうなくらいに綺麗であった。
「もっと睡蓮亭からのお客がいると思ったんですけど、ここのところはあたし達だけ
だったんです。お兄ちゃんが英語できるから不自由はないんですけど……ここ、座っ
ていいですか?」
「……どうぞ」 
 消極的に慶子は認め、女はそれを気にもせずに巧の隣に座った。見るからに日本語
に飢えているようすである。ここの滞在も長いのであろう。
「初めまして。あたし百合って言います。ここにはお兄ちゃんときているの。
えーーっとお二人はママと息子さんですか?」
 慶子と巧は遠慮がちにうなずいた。そんな二人を女は――百合はにこにことながめ
る。その表情には屈託など全くない。
「あ、やっぱり。姉弟かもしれないって思ったんだけど、母子なんですね。母子相姦
のママって年齢をとらないから判りにくいわあ」
「待ってください!」
 慶子が慌てて口を開いた。思わず大きな声になったのはあせったせいである。
「あたし達は違うんです!」
「へ?」
「あたし達は――そのここのホテルのお客さんとは違うんです」
 百合が不思議そうな顔になった。慶子の言っている意味が良くわからなかったらし
い。それはそうであろう。ここはそういうホテルなのだから。
 結局、理解を得るのには二分少々もかかってしまったのである。百合は驚愕した。
「えーーーっ!じゃ、Hしていないんですか!実の母と子なのに!うっそーーっ!」
 まさかこう言う非難を受けるとは思ってもいなかった慶子達は半分のけぞってしま
う。さすがにこのホテルならではであろう。驚く百合の表情にはやましさなどこれっ
ぽちもなく、多数派(ここでは)としての自信に満ち満ちていた。気の弱い巧など思
わず、自分達のほうが異常ではないのだろうか―と思いそうになったくらいである。
「めずらしいわね。信じられない。健康的で仲良さそうな母子なのに。何か変な趣味
でもあるんですか?」
「ありません!そもそも信じられないのは、そっちでしょう!」
 さすがに慶子も声を荒げた。このままだと何かがなし崩しになりそうな予感が自分
の中で爆発する。
「いいですか。近親相姦ですよ。近親相姦!普通、家族でそう言う事をやっちゃいけ
ないって事くらいはどこの家庭でも習っているでしょう!」
 慶子の絶叫も説教も、百合にはかすり傷一つ与えられなかったらしい。可愛く顔を
かしげただけである。若いけどよほどのベテランなのに違いない。
「いいじゃないですか。別に誰かに迷惑かけているわけじゃないし」
「め、迷惑とか何とかじゃないでしょう!」
「仲の良い家族がさらに仲良くしているだけじゃないですかあ」
「仲良くの方法が非常識じゃない!」
「あたし、愛に常識を持ちこむのは嫌いなんです」
「よそで言えるような事じゃないって言っているの!」
「世間の無理解と言う味付けがあるからこそ、密やかにかつ激しく燃えるんですよ」
 慶子はさんざん言ってみたが何を言ってもこたえない百合であった。しかもそれだ
けではない。何と逆襲に出たのである。
「じゃ、逆にお聞きしますけど、お母さんはこちらの美少年の坊ちゃんは好きですか
?」
「―――当たり前じゃない。母と子なんだから」
「SEXしたいと思ったことは?」
「ありません!」
 普通はそうである。しかし――
「じゃ、SEXしたくないと思ったことは?」
 そこでぐっ!と慶子はつまってしまった。確かに巧とSEXしたくないと思ったこと
はない。いや、そもそもそう言う検討をしたことすらないのだ。
「ほーーら。真面目に考えた事もないんでしょう?していいかどうかより、したいか
どうかを考えた事もないような家族関係の人に、それより深い愛情のあったあたし達
のことをとやかく言える資格はないと思うのだけど」
 慶子は黙る。詭弁のような気もするが――詭弁だ――、自信に満ちた百合の態度に
気圧されたような形になってしまった。
「それからもう一つお聞きしますけど、お母さんは息子さんがどこかの知らない女に
抱かれるのを想像した事があります?」
「……………」
 正直言って想像した事はない。しかし、今、言われてみて脳裏にその事を思い浮か
べると、突如として胸の奥に鈍い痛みが走ったのを確かに感じてしまった。
「ね?嫌でしょう。悔しいでしょう。判るわよ。あたしもそうだったから。
 家族がどうのこうのじゃないの。人間として愛するものを独占したいのが普通な
の。ここの人達は偶然それが家族だっただけなのよ。それを異常だなんて――失礼し
ちゃうわ」
 ますます詭弁のような気もしたが慶子は何も言い返せない。巧が他の女と――と言
う想像が舌を強く止めていた。これは嫉妬だと言って良いのだろうか?そして、その
嫉妬により次におこるべき愛の行動を認めても―――
 二人の間に座っている巧は黙りこくった母を心配そうに、余裕の百合を何故か眩し
く交互に見つめる。それに気づいたのかどうか――百合がとんでもない事を言った。
「ちょうど良いわよ。このホテルってそれ専門だから。いっそここで始めてみたら
?」
「は?」
 今度の疑問符は母と子が同時であった。無理はない。百合はこの普通の母子に、近
親相姦を勧めているのである。驚いて声も出ないのが普通人と言うものであろう。
「大丈夫よ。ここなら完全に秘密は守られるわ。まあお二方は何故か違うけど、お客
は全て同好の士よ。従業員だって日本の睡蓮亭と同じく、あたし達みたいな同じカッ
プルしかいないし」
「え?ええーーっ!じゃあ、あの支配人さんも!?」
 そうらしかった。百合の説明によると、支配人美代子は病弱で若死にした実の弟と
そう言う関係にあったらしい。その弟が死ぬ前にはその弟の子を妊娠までしたと言
う。何でも実業家の愛人になってその男の子供という事にし、愛人を含めた周囲全部
を誤魔化して出産したのである。
 その産まれた子は娘で、もう息子(美代子にとっては初孫)までいるそうだ。もち
ろんその娘や孫に対しても美代子は今まで事実を隠していたが、今回ようやく踏ん切
りがついたらしく、この夏にこのホテルに招待して全てを話すつもりとの事であっ
た。
「だから、遠慮しなくて良いの。外にはばれないから。ここはみーーんな同じ種類な
んだもん。あたしにだまされたと思って母子でHしてみたら?本当に愛しているのな
らすんごく気持ち良いわよ。わたしなんか、ほら」
 いきなり百合はタンクトップの胸をはだけた。そんなに大きくはないが乳首の先ま
で小麦色になった胸がさらけ出される。そこにはキスマークに違いない跡が二桁以上
も誇らしげに残っていた。
「お兄ちゃんったら、口ではいやいやだけど、本当は激しいの。二人きりになったら
すごいんだから。今朝だって―――」
 百合のあまりのおおらかさに慶子は息子の目をふさぐ事も忘れてあんぐりと口を開
けてしまった。


 結局、慶子と巧は逃げるようにして部屋に戻った。その間、ほとんど無言である。
この仲の良い明るい母子がここまで沈黙を守ったのは初めてではないだろうか。無理
はないにせよ、その恥ずかしさと気まずさはどちらにも苦痛以上のものであった。
 さすがにもう外へ行く気もせず、慶子はソファで、巧は少し離れた椅子に座って時
間をすごすはめになった。テレビでも見ようかと思って案内を見たが、日本語の通常
チャンネルはない。ビデオのチャンネルは四つもあり、作品も日本のものがかなり
あったが、まずい事に題名が近親相姦をうかがわさせるようなものばかりである。全
て無料なのだが、さすがにさっきの今で、しかもこう言うホテルに母と子では、見て
みるわけにはいかなかった。
(何だって日本でこんなに近親相姦ビデオが作られてんのよ!)
 それはたんに慶子が無知なだけである。アダルトショップには専門コーナーすらあ
る時代なのだ。
 結局、八つあたり気味に怒りながら慶子は日本から持ってきた週刊誌を読む事にこ
の日の午後一杯を費やす羽目になった。巧はせめてゲームセンターでもないかとパン
フレットを探したが、それも無理と言うものである。ここの客はゲームなんかより
ずっと楽しいことをやりにきているのだから―――
 時間だけがたち、エアコンによるさわやかな温度と湿度の中、窓ガラスの外が暗く
なるまで二人はそうしていた。やがて時計の針が七時になり、八時になる。そして無
言の二人にも空腹感がじわじわと大きくなってくる。こう言う場所でのこう言う時で
もお腹は減るのだ。しかし、また外へ食べに行くとは二人ともさすがに言い出せな
かった。
 結局、ルームサービスを取った。メニューは部屋に備え付けられているからこれな
ら巧の英語力でも何とかなる。十五分後に届けられたディナーセットはとても美味し
かった。
 食後に慶子は宣言した。
「じゃ、ママはシャワー浴びて寝るわ」
 つとめて平静な声である。確かにもう他にする事がない。しかし、こう言うホテル
で母子二人きりで、“シャワー”とか“寝る”とかを口にするのにはかなりの勇気と
思いきりが必要であった。
 母の宣言を聞いて巧はやや困った顔になる。目の前で母に服を脱がれても何故かす
ごく困った気がするし、また、寝ると言ってもこの豪華な部屋にはダブルベットが一
つしかない。そんな息子の狼狽を背中で感じながら、新しい下着や持ってきたパジャ
マをスーツケースから取った慶子は服を着たままバスルームに入った――つまり息子
と同じ事を気にしているのである。
(……どうしよう。シャワーは良いとしても、ベットは一つしかないし…巧にソファ
で寝ろと言うのもひどい気がするし、あたしがソファってのも逆に息子を意識してい
るようで恥ずかしいし……)
 わざとシャワーを大きく開放して大きな水音を立てながらも悶々と悩む慶子であっ
た。
「あーー良いお湯だった。巧、お入り」
 悩んだ末に慶子はなしくずしに決着することに決めた。自分が出るのと入れ替わり
に息子を入浴させ、その隙にダブルベットの片隅でさっさと寝てしまおうというので
ある。身体を洗い終えた息子がようやくバスルームから出た時にはすでに毛布にくる
まり寝息すら立てている母であった。
「え、寝たの。ママ?」
 ちょっと驚いた巧である。あてが外れたのではなくまるで肩透かしをくらったよう
な感じだ。結局、母と同じダブルベットで寝るか、ソファに一人で寝るかの決断は息
子に任されたのである。巧は真剣に悩まざるを得なかった。
 そのまま小一時間が過ぎた。巧はバスローブを着ただけでまだどちらに寝るかを決
めあぐねている。ただ、大きなダブルベットの向こう端に身を硬くして眠る母の背中
をソファからぼんやりと見ていた。ここまでの移動で疲れているはずなのだが、全然
眠くならないのだ。それどころか―――
「………ママ。寝た?」
 こっそりと巧が声を出した。返事はない。照明が暗いので巧には身動きもないよう
に見えたが――。
(わ、わ、わああああああ。何よ何よ!)
 目を閉じたままの母は脳裏で絶叫していた。実は慶子はずっと寝たふりをしていた
のである。寝つけないのは息子と同じ理由からだ。つまり、昼間にさんざん近親相姦
関係を見せつけられ意識させられた事と、今は母子二人きりで同じ部屋にいる事――
「ねえ。眠っているの?本当に?」
(何よ。眠っているのなら何だって言うのよ。何かする気?ちょっと待ってよ。そん
な事いけないわ。それにママにも心の準備ってものが……)
 密かに動転する慶子の耳に巧がソファから立ちあがる音が聞こえた。ゆっくりと動
き出したのである。押さえているらしいかすかな足音がだんだん近づいてくる。慶子
はより一層身を硬くした。
(だ、駄目ぇ!ママだって――)
 巧の足音は母の傍らを通りすぎてバスルームへ行ってしまった。頭の中だけで盛り
上ってしまった慶子はこける。
(何なのよ!何だって言うのよ!)
 これで怒ったのだから母も勝手なものであった。何もなくバスルームに息子がいっ
たのだから良いではないか。それとも何かしてもらうことでも期待していたとでもい
うのだろうか?
(ふーーんだ!やきもき…じゃなかった、心配させて!こんな時にお風呂で何してん
のよ!)
 シャワーの水音などはしないのだが、何故か巧はなかなか出てこようとはしない。
何かやっているらしい。バスルームで寝ようとしているわけではないのだろうが。
(悔しいから――いや心配だからのぞいてやるぅ!)
 さっき気がついたのだが、バスルームのベット側の壁は実はスライド式の窓になっ
ており開放できるのである。入浴しながら部屋の風景越しにオーシャンビューできる
ようになっているのだ。だからこちらからも逆にちょっと扉をずらせばバスルームの
中を覗けるのである。慶子は出来るだけ音を立てないようにしてバスルーム側の壁際
まで行き、ほんの少し窓を開けた。
(あ――――)
 慶子の視界にまず飛びこんできたのはバスタブのふちに腰掛ける息子の姿であっ
た。下半身には何もつけておらず、しかもその中心に手をあてている。何かを握り、
上下に動かしているようだった。
(うわうわうわ…わーーーーっ!)
 息子が握っているのはピンク色の大きな棒状のものだった。それが男の肉棒だと言
うことに慶子が気がつくのに数秒かかった。そしてオナニーをしているのだと言う事
に気がつくにはさらに十秒以上が必要であった。
(う、うそ。巧もこんなことするの?あたしの――真面目な巧が……)
 巧は紅い顔で薄く目を瞑ったまま、一心に手を動かし続けている。それを目の前に
しても信じられない慶子であった。慶子は離婚以来、男関係がまったくなく、そう言
ういやらしい事はこのホテルに来るまでほとんど考えた事のなかったのだ。
 しかし、今、母の目の前の光景のように、息子は違うのだ。ちゃんと男として成長
しているのである。こうして処理しなければならない物も身体の中でたっぷりと出来
ているのであった。
 考えてみれば朝からいやらしいものを見せつけられ、いやらしい話を聞かされ、最
後にはいやらしい事を勧められまでしたのである。健康な男の子としては身体の中で
盛り上るものがあって当然であった。そしてそれをどこかで処理したくとも、実の母
がずっとそばにいるのだ。きっと今まで我慢していたのであろう。いや、実はその母
こそが――
「う……」
 母に数十センチの距離で自分のオナニーを見られているとも知らず、巧は絶頂に達
した。吐き出すほどの量の男のミルクが、びしゃっ!と生っぽい音を立てて飛び散る。
そのしずくは覗いている慶子の目元にまで飛び、小さな音を立てた。
(あ………)
 慶子は硬直したまま動けない。びっくりしただけではない。その目元には息子が射
精した精子の小さな塊が熱いままでへばりついているのだ。それはにわかに流れ落ち
ないほど濃厚で、まるで息子の肉棒がそのまま触れているような存在感で母の身体を
縛りつけていた。
 そして驚く事はそれだけではなかった。一度出し終えた巧の肉棒はそれでも小さく
ならず、もう一度しごかれはじめたのである。しかもその時に息子ははっきりとこう
呟いたのだ。
「ママ……」
 慶子の耳にははっきりとそう聞こえた。息子が母を思って欲情しているのだという
事はそれだけでも疑いようがなかった。びくびくとうごめく逞しい息子の肉棒を目の
前で見ながら慶子は呆然としてしまう。
「ママ!」
 次の射精はかなり早かった。先ほど以上の男のミルクが飛び散る。今度は慶子の顔
へはこなかったが、次の瞬間、それを残念だと思っている自分に慶子は気がついた。
「ふーーーう」
 二度もたっぷりと出した事で巧は一応満足したらしい。シャワーで周囲と自分の
身体を洗い始める。慶子は慌ててベットに戻った。
 やがて狸寝入りをする母の傍らへ足音を忍ばせて息子が戻ってきた。慶子はより一
層身を硬くしながら、耳だけで息子の動きを心臓が破裂しそうな思いで探る。次にど
うするのかしら。このまま寝るのかしら。このベットで?いやソファで?
(――それに、あたしはどうしたらいいの?)
 巧がベットの向こうはしに立つ。毛布をひっぱっている。中に入ろうと言うのか。
(えーーーーっ!) 
 しかし、幸いに――か不幸に――か、巧は毛布だけが目的だったらしい。母がくる
まっている大きな一枚しかないと悟ると、あっさり諦めてソファに行ってしまった。
そのままキャビネットから予備の毛布を取りだし、かぶって横になる。やがて、寝息
が聞こえてきた。
(…………)
 息子が確かに眠ったと確信するまで慶子は眠れそうになかった。そうしている内に
ふと股間の違和感に気がつく。指で触れてみると粘つくような湿り気があった。
(え?これって――)
 間違いない。それは女の愛液である。久しぶりだが、指がかすかに触れた肉襞に痺
れるような快感が走ったのだから。
(あたしも興奮しているの?――巧に?)
 そう思った時の衝撃はさきほどの息子の母への欲情を見た瞬間以上であったかもし
れない。慶子は自分の身体の反応と、次にそれを嫌がっていない自分の心の反応に声
も出なかった。
(どうしよう……) 
 頭の中で今日起きたことがランダムに走りまわる。度重なる衝撃に理性がループし
そうだ。まず、この指をどうかしなければならないが――出来ない。触る事が気持ち
良さ過ぎて秘肉から外れないのだ。
 慶子は混乱したまま、それでも声だけはひそめて静かにオナニーを始めた。


 翌朝の朝食もルームサービスだった。ホテルの格を証明するような正統派洋式モー
ニングである。そしてそれを食べている最中に慶子は力強く宣言したのであった。
「泳ぎに行くわよ」
「え?でも……」
 ホテルの中は近親カップルばかりがいろいろなことを――と止めようとした巧であ
るが、具体的に言うのはやはり恥ずかしく声が途中で消えてしまう。よって、慶子に
は通じない。
「私達が悪いことしているわけじゃないのに、なんで部屋の中でこそこそしなくちゃ
なんないのよ!南の海に来て泳いで何が悪いって言うの!」
 テーブルを叩いて吼える慶子に対し、巧は黙ってカリカリのベイクドベーコンとと
ろけそうなスクランブルエッグを食べる。味はとても良いはずなのだが、昨日から身
体のどこかが浮いたような気分になっている巧にはむこうの世界の事のようであっ
た。
 結局、慶子の主張どおりを実行する事になった。
 ここのようにプールとビーチが敷地内にそろっているリゾートホテルでは、外には
シャワー程度のみでちゃんとした更衣室などはない。たいていは部屋で水着を着た上
にシャツやブラウスをつけただけでホテル内を移動し、水のところに行ってから上を
脱ぐのである。二人の部屋備え付けの日本語説明書にもそう書いてあった。会話の
まったく弾まなかった朝食の後に母子はそのとおりにそれぞれの準備をした。
 二週間ものバカンスの予定だから二人とも水着は数枚持ってきている。その中から
巧はできるだけ大きめで余裕のある奴を着た。もちろん万が一にもその下の変化が判
らないためである。そして――
「―――お待たせ」
「あ………!」
 かなり時間をかけてからようやくバスルームから着替えて出てきた慶子を見て巧は
息を呑んだ。なんと母は赤のセパレーツの水着を身に着けていたのである。三十五才
の身体とは思えないほどの見事なボディに加え、腰の極彩色のパレオから伸びた足と
はっきりあらわになったウエストの白さ、そしてそれらの肌の美しさが息子の視線を
釘付けにした。
「…………」
 息子が母の水着姿を唖然として見つめている事は慶子にもわかったが、あえて何も
言わなかった。またいつもの慶子ならこの若い水着の似合う見事な身体のラインを自
慢したのであろうが、それもない。そうするには慶子も思いが強すぎたのだ。
 母の肉体に対する賞賛としか思えない息子の眼差しを意識すると昨夜の光景が脳裏
にまざまざと浮かんでしまう。何か言ってしまいそうな衝動をかろうじてこらえつ
つ、ことさら平静を保った声を出して慶子は息子をうながした。
「さ、いくわよ。日焼け止めクリームなんかは外でしましょ」
 

 エレベーターで一階におり、まずは誘導表示に従ってプールに向かった。このホテ
ルの庭は熱帯樹や築山、モニュメント等の間を縫うようにして、葡萄の房のようにつ
ながった数十のプールが設置された構造になっている。水の中に入れば全部に通じて
いる反面、個々のプールサイドはほとんど独立したような狭い空間なのだ。慣れなけ
ればほとんど迷路である。これでは十メートル先で何があっても熱帯樹やモニュメン
トに邪魔されて、音はともかく見ることは出来ないだろう。
 もちろん慣れていない慶子と巧の母子はすぐにも迷い、どこだかよく判らないまま
にプールサイドの一角に出た。
「あ………」
 そこには先客がいた。一組の若い黒人の男女である。このホテルのことだからきっ
と兄妹か姉弟に違いない。そして二人は真っ最中だった――銀色のビキニの下だけを
脱いだ女が四つん這いになり、その背後から男が腰を打ちつけている。女の押し殺す
ようなあえぎ声と男の荒い呼吸が慶子たちにもよく聞こえた。
「い、行くわよ!」
 目の前のカップルが何をしているかは一目瞭然である。いきなりのこれに慶子は慌
てて回れ右をした。しかし生まれて初めてSEXを生でフルに見てしまった巧は硬直し
てしまい、咄嗟には動けない。それに気づいた慶子はわざわざ引き返してから息子の
手を乱暴に取り、引きずるようにしてその場を離れる。
 しかし、次に出たプールサイドにも先客はいた。中年の白人男性がでっぷりとした
身体をデッキチェアに横たわらせていたのである。問題はそのおじさんが全裸であ
り、しかもその股間に綺麗な金髪の可愛い少女が獣のようにむしゃぶりついていた事
であった。
「もう!他人の迷惑も考えてよね!」
 慶子は地団太を踏みかねない勢いで叫び、またもや初めてフェラチオを生で見て硬
直している巧を引きずってその場を離れた。いやはや思春期の男の子を持つお母さん
は大変である。
 それからも母子は迷路のようなホテル内をさんざんにさまよった。しかも現地時間
ではまだ午前中のはずだが、母子が行った大抵のところには先客のカップルがおり、
それぞれ息子には見せたくない行為に何の照れもなく励んでいるのである。プールサ
イドでの全裸などまだ可愛いもので、プールの中も外もほとんど近親愛の展示場のよ
うであった。
「いい加減にしてよ!あたしが目のやり場に困らなくて、巧がきょろきょろしないと
こってないの!」
 絶叫する母と黙って頬を染めたままの息子は、二十分以上かけてからようやく人気
のない場所に出た。
「そうそう、こう言うとこ……」
 そこは敷地内では相当にはずれらしく、プールではなくビーチであった。熱帯樹と
大きな岩が視界をさえぎって死角となった砂浜であり、不思議なまでに青くて静かな
南太平洋の海と狭いけれども白くてさっぱりとした綺麗な砂がまるで個室のような風
景の中にまとまって並んでいた。
「え……っと―――」
 慶子と巧の母子以外には人影はない。聞こえるのは静かな波の音だけだ。そして見
えるのは青い海と白い砂だけであり、空にも二人を邪魔するような雲のかけらもな
かった。
「………!」
 そこでようやく慶子は自分が息子の手をしっかりと握っている事に気づいた。同時
に息子の肌が異様なまでに熱くなっている事もその掌に感じてしまう。思わず慌てて
その手を振りほどき――またその事にさらに慌ててしまった。
「と、とにかく…」
 何がとにかくなのか本人にも判らないのだが、急いで息子からやや離れる。そして
その照れ隠しのようにして慶子は持ってきた荷物の中からシートを出し、砂の上に広
げた。ここはちょうど木陰になっていて熱帯の熱すぎる日差しがさえぎられている。
意外なまでに海からの風が心地よかった。
 ふと母子の視線が合う。しかし反射的なまでにすぐにもそらしてしまう。気まずさ
と恥ずかしさはまだ濃厚に二人の間にあった――しかし、今日は昨日とは違うのだ。
「日焼け止め塗らなくちゃ…」
 棒読みのように呟いて慶子は出来るだけ堂々とシートに座った。先ほどまで日に照
らされていたのであろう砂の熱さがじんわりと下から伝わる。慶子は日焼け止めクリ
ームのチューブを取り出し、自分の身体に白いローションを塗り始めた。
「どしたの?座ってクリームを塗りなさいよ。ここらの陽射しは日陰にいてもなめら
れないわよ」
 慶子はまだ立ちすくんでいる息子に言った。我ながら声が震えているのがわかる。
しかし、言われた息子はさらに動転していたようで母の不自然には気がつかなかっ
た。
 ちなみに持ってきた日焼け止めクリームは一つしかない。慶子が今つかっている奴
だ。だから、塗ろうとするのなら、慶子の隣に腰掛けてわけてもらわねばならない。
巧にすればそれが恥ずかしいのだ。水着姿の母の隣に座るなんて――ただでさえ、
こっちは変になっているというのに。
 しかし、拒絶は出来ない。熱帯の太陽は決して馬鹿には出来ないし、何よりここで
恥ずかしがればこのホテルの事を過剰に意識しているととられてしまう。巧は唾を一
度だけ飲むと、なんとなくおずおずした動きで母の隣に座った。
「はい、クリーム」
「……ありがと」
 母がひょいと差し出したクリームを息子は、こわれもののようにして受け取る。女
性用だから良い匂いがそこからも、それをつけた母の身体からもした。巧は少しだけ
ほんわかとなる。そんな息子の目の前で母はうつぶせに寝そべった。
「え?」
「え?じゃないでしょう。ママの背中に塗ってよ、それを」
 うつぶせのまま顔も向けず慶子が命じる。意味を理解した巧は悲鳴をあげそうに
なった。
「背中まで手が届かないのよ。お願い。今日の水着は露出度が高いから油断できない
の」
(えーーーーーーっ!)
 まだまだ自分の悲鳴が巧の脳裏に鳴り響いていた。息子がママの背中にクリームを
塗ると言う、普通ならおかしくない行為だが、何せこの島での出来事だ。しかも、母
には言えない事だが、昨夜、巧は昼間の刺激に耐えきれずオナニーをした時にはっき
りと母の裸身を思い浮かべていた。その事への自己嫌悪は確かにあったが、反面、こ
こに来る間、母に手を取られた時は、心も身体も浮かび上がらんばかりに嬉しかった
のである。
(でも……)
 だからと言って近親相姦と言う異常事に納得したのではない。昨日、当事者である
百合は盛んに勧めていたが、ここだけの話だからと受け入られるものでもないだろ
う。何よりも肝心の母がずっと嫌悪感を示していたではないか。ここで母の背中に触
れると言うのはとても嬉しい事であろうが、もし、母にその胸の内が知られでもした
ら――
「どしたの?」
「あ、はいはい。今します」
 あどけなく母に聞かれて巧は急いでクリームを手に取った。この恥かしい思いを隠
すためには、逆に母の頼みを断るような不自然な真似も出来ないのだ。ここは言われ
たとおりにやるしかない。しかし、その拍子に身をひねり――やや強い痛みが走る。
「痛っ!」
「あら、大丈夫?どこかぶつけたの?」
 優しく心配した慶子に巧は愛想笑いだけを返した。痛いところなど説明しない。正
確には出来ない。実は痛いのは股間なのである。さっきから水着の中で膨張している
肉棒がひっかっかっているのだ。肉棒はもうかちんかちんでちょっとでも身体を動か
すとこのありさまだ。外から見れば水着に不自然な棒が浮かび出ているのがはっきり
と見えたであろう。巧は母がうつぶせ状態になっている事をつくづくと神に感謝し
た。
「なんでもないよ」
「うそ。水着の下が痛いんでしょう」
 だから、母にずばり指摘されて巧は心臓が止まるかと思うくらいに驚愕した。
「ななななな――な、な、な、なにを……」
「嘘ついても駄目よ。男の子なんだからしょうがないわよね。さっきから他の客
の……を見て興奮しているんでしょう」
 慶子は言った。動転しきった巧には死刑判決のようにその台詞が頭にこだまする。
冷静に見れば、慶子がうつぶせのままで表情をあえて見せないようにしていることに
気がついたのかもしれないが、それどころではない。指摘に反論も出来ず、正直、こ
の場から逃げ出したい気にすらなったが、母はそれを許さなかった。
「別に遠慮は要らないわよ。ここでやったら?」
 巧は何を言われているのか十数秒も判らなかった。その間、慶子は無言で顔を砂に
向けている。やがてようやく理解した息子は本当に心臓が止まるような驚愕に飛びあ
がってしまった。
「や、や、やるって………」
「巧くらいの男の子なら毎晩やっているんでしょ。大丈夫よ。あれは回数さえ自制す
れば身体に悪いことじゃないわ。どーーぞ。じゃないとずっと痛いままよ。そこ」
 出来るだけ平静を保っているつもりの慶子だが声が上ずり、棒読みになっているこ
とは自分でも判る。すごい事を言っていると言う自覚ははっきりとあるのだ。そそっ
かしい慶子であるから“つい言っちゃった”と言うのに近いのかもしれない。同時に
ここまで恥ずかしい事を言わせた息子が次にどうするかについて身悶えしたいほどの
好奇心もあった。
(ちゃんとここでするのかしら?それとも我慢するのかな。いや、昨夜、口走った事
を実現しようなんては―――)
 この時の慶子の心境は初めての恋人に隙を見せた女の子にもっとも近かったのかも
しれない。何故なら、今の予想のどれがあたっても慶子本人はどう受けとめるか、ま
だ決めていなかったのである。
 うつぶせの姿勢で息子に向けた背中一杯を耳として、慶子は息子の反応を待った。
そのまま意外なほど時間が経過する。その間、一番気になったのは息子がこのホテル
のような事を――母との近親相姦を選んだらどうしようかということである。
 この時、慶子の中では不思議な事に最初あれほどあった嫌悪感に代わって、ある種
の恐怖みたいなものが一番大きくなっていた。母と子同士と言う行為そのものに対し
てでは、恐らくない。きっと巧が自分をどう扱うかについてである。そしてどうされ
たら慶子自身は満足なのか――或いはどうされたら慶子はどう反応するかは自分でも
全く判らなかった。
 そのようにして二人だけの海岸に沈黙が続く。気の短い慶子ではあるが、今度だけ
は辛抱強く待った。
 そしてついに動きが出た。慶子の背中に熱い蝕感があったのである。慶子はびくり
と身体が大きく波打つのを押さえる事が出来なかった。しかし――
(―――日焼け止めクリームを塗っているのね。これって……)
 慶子は思わず果てそうになった。巧は最初に命じられた通りに母の背中にクリーム
を塗り始めたのである。落胆する筋ではないのだから文句も言えないが、緊張して盛
り上った分、やっぱりがっくり来てしまう慶子であった。
(もう!ママがここまで言ってあげているのに!)
 理不尽な怒りにかられて慶子は顔を横にした。そのまま手を伸ばす。いや、最初は
そこまでする気はなかったのだ。巧の自主的反応――ないしは主導権を期待していた
のである。しかし、ここまで来てもまだ何もないことが慶子の怒りと勢いをさそって
しまった。
「それよりここはいいの?」
 そう言いざまに慶子は息子の股間をしっかりと握ってしまったのである。慶子の掌
に火のように熱い棒と化した息子の肉棒の感触がはっきりと伝わった。あまりのこと
に巧が女の子のような悲鳴を上げる。それがさらに余裕のない心理状態の慶子の勢い
を加速した。
「痛いんでしょ?しても良いって、ママは言っているじゃない。それとも――」
 そこで一呼吸つく。さすがに次の台詞を言うのには度胸と興奮が必要であった――
そして次の瞬間、はっきりと言ってしまった。
「それともママが必要なの?昨日みたいに!」
 今度は母の言った意味を巧はすぐに理解し、瞬間的に恐慌状態になってしまう。そ
うであろう。無理もない。昨夜、母を想っていたオナニーの事を当の母は知っていた
のだ!
「……あ、あ、あ、…ママ……」
 何と言って良いか判るわけもなく、巧は泣きそうな顔になった。肉棒を母にしっか
りと掴まれている驚きなどこれに比べればまだ小さい方だ。この近親相姦のホテルを
あそこまで毛嫌いしていた母に、息子がそのいやらしい欲情を感じていた事を知られ
てしまったのだ。普通の男女の失恋などとは次元が違う。これで産まれた時から何よ
りも価値のあった母と子の幸せな親子関係は消滅したのである。今から自分は母に欲
情した背徳的な男でしかないのだ。それも、最愛の母にとって――比喩ではなく本当
に巧の目の前は真っ暗になっていた。
「じゃ、してあげるわよ。水着を脱ぎなさい」
 気絶しそうな巧は慶子の台詞が良くわからなかった。ただ、母に短気が出た時のい
つものせいた口調だけが耳にこだまする。だから、慶子が遮二無二、巧の水着を脱が
し、下半身を剥き出しにしても、ほとんど抵抗出来なかった。
(うわ……)
 慶子の目の前に素肌のみになった息子の下半身が現れる。今度、息を呑むのは母の
ほうだった。
(お、大きっくなってる……)
 巧の肉棒は熱く硬く硬直し、まるでそこだけが別の生き物のように起立していた。
確かにこれは勃起だ。男が欲情した証である。しかし――
(やっぱり、この母であるあたしに対してかしら。それともさっきから他のカップル
のいかがわしいシーンを見たせい?)
 その瞬間、慶子は深刻にその点が気になってしまった。勝手な話である。まだ、息
子の欲情を受け入れる覚悟も決まっていないくせに―――
「……動かすわよ」
 もやもやとした嫉妬に似たものを感じながら、慶子は手を、しかしそっと動かし
た。滑らかな上に、皮のような触感の下に脈打つような熱い何かがはっきりと掌に伝
わる。それは筋肉の塊よりさらに逞しく、もっと卑猥であった。
「あ………」
 息子の反応は早かった。十回も上下しないうちに、びくっ!と大きく震え――巧の
声と共に爆発したのである。同時に昨夜見た以上の量の白い粘着液が飛び散る。
「わ」
 一拍おいてからようやく慶子は間抜けな声を出した。驚いたのである。こんなに早
く息子が射精するとは思っていなかったのだ。それも母の手の中で。
「だって――」
 巧は泣きそうになった。実の母の中で射精してしまったのである。恥ずかしいなど
と言うものではない。早かったのだって、昨日思い浮かべてオナニーしたばかりの母
が直接しごいたのだから無理もないだろう。その証拠に――
(……あ、また――)
 思わず慶子は息を飲んだ。握ったままの息子の肉棒が――今、どくどくと音を立て
て射精したばかりのそれが――、ぐん!と言わんばかりの勢いで硬さを取り戻したの
である。そのままさっきのサイズになるまで十秒もかからなかった。
「元気ねえ」
「ママが握っているからだろ!」
 思わず呟いた慶子に巧は思わず叫んでしまった。恥ずかしさでいくらか我に返った
らしく、真っ赤な顔のまま腰を引こうとする。しかし、慶子は手を緩めなかった。
「ちょっと待ってよ。これってあたしのせいなの?」
 自分でも驚くほどに真面目な声だった。息子の勃起した肉棒をしっかりと握りなが
らではふさわしくない口調だが、慶子自身は大真面目である。笑ってはいけない。何
よりも息子が何に欲情しているのか――昨夜から知りたかったのがそれだとようやく
口に出せたのだ。
「そ、そうだよ」
 急に勢いが変った慶子に押されてしまいながらも、巧は答える。
「握られているから?それともそれがあたしだから?」
「………ママだからと思う」
 ほんの少し躊躇はしたが、母の勢いに乗せられるようにして思わず言ってしまっ
た。言ってから“まずい!”と気がついたがもう遅い。慶子の目が輝いている。
「じゃ、巧はママとこんないやらしいことがしたかったのね」
「……………」
 にわかに巧の口が石になってしまった。それはそうであろう。普通の母子の会話で
はないし、実の母親に息子が言える内容ではない。たとえ――
「ここホテルの人みたいなことがしたかったの?このママと?」
 きっとそうなのであろう。このありさまや昨夜のオナニーの時に母の面影が脳裏か
ら離れなかった事からすると。しかし、巧がそれを意識し出したのはほんの昨日から
――このホテルのことがわかってからである。それまではただの一度として―――
(……そうなのかな?本当は僕は……)
「ね、はっきり言って。ママ怒らないから」
「…………」
「正直に言って良いのよ。ここはあたし達二人だけなんだから。他には絶対に秘密に
するから」
「………したかった」
 巧は不承不承うなずいた。もうここまで恥ずかしくなれば、あとは自棄である。何
と言い訳しようと、たった今、実の母に欲情していることは母の手の中で硬直した肉
棒が証明しているのだから。どうとでもなれとすら思ってしまった。
 だから、その告白で慶子がどれだけ感激するのかは判らなかった。
「そ……うなの」
 慶子の声が途切れがちに巧に聞こえる。怒っているのか、あきれているのか、軽蔑
しているのか―――その顔を直視する勇気は巧にはない。胸が鋭く痛んだ。そのまま
視線をおろした砂の上に、ややしてから母の水着がふわりと落ちる。
「え?」
 落ちた水着は赤いパンツのほうだった。その意味を理解した巧が思わず顔を上げ
る。砂に腰掛けた姿勢の自分の上にこようとする母の姿があった。
「え……」
「動かないで。それを小さくしてあげるから」
 おそらく息子と同じ位に紅い頬で慶子は息子の下半身剥き出しの身体に跨った。パ
レオで巧妙に隠しているから巧にはわからないが、その下は母も何もつけていないは
ずである。
「ちょ、ママ……」
「いいのよ。ここは二人だけなんだから」
 何が良いのかわからないが、童貞の巧ですらこれが何の意味を持つのかが判る。現
に股間の辺りに触れた母の下半身は海にも入ってないはずなのにしっとりと湿り気が
あった。
「これって……」
 近親相姦じゃない―――そう言いそうになった巧の口を慶子の左手がふさいだ。
「いいの。あたし達だけなんだから。二人の秘密にしておけばいいの。それに
―――」
 そう言う慶子の瞳が潤んでいる。それが母の欲情した時の表情である事を巧は後に
知った。
「巧が変な事言うから、ママのほうも大変になっているのよ。ちゃんと責任とりなさ
い―――」
 直立した巧の肉棒の先端に暖かく濡れた何かがあたった。ただの皮膚の感じではな
い。そしてそのまま母が腰をわずかに沈めると、息子の肉棒の先の部分はそのあたっ
ている部分を割って、熱くぬめる部分に入っていった。
「きゃ……ん…」
 小さく慶子が叫んだ。巧の肉棒に締めつけるような強い力がかかる。慶子の眉間が
わずかにしかめられた。息子のがきついのか母のが小さいのか―――しかし、慶子は
腰を沈める動きをゆっくりではあっても止めようとはしなかった。
「う……」
 どれだけ経過しただろうか。やがて母の両腿の裏が息子の下腹部に密着する。つま
り、その中心では――
「ぜ、全部入っちゃった―――」
 恥ずかしそうに、しかし満足そうに慶子は呟いた。その下では息子の肉棒は母の肉
壺がすっぽりと飲み込んでいる。ようやく左手を息子の口からはなすと、驚きと喜び
に満ちた巧の顔が現れた。
「だ、駄目ぇっ!大きくしないでぇ!」
「あ、ごめん」
 喜びのあまり、巧の肉棒はさらに太くなったらしい。実は今でもかつかつな慶子は
悲鳴を上げた。ずしん!と秘肉から脳裏までものすごい快感が走る。
「もう!もっとママを大事にしなさい!」
「でも……」
「いい?ここは二人しかいないからなのよ。それにこれは変な事じゃないわ。ママは
巧のここが痛そうでかわいそうだから、小さくしてあげているの!」
 慶子がお姉さんぶった女の子のように宣言した。息子とのこの状態を――近親相姦
を否定はしないまでもまだ恥ずかしいらしい。実際、深く考えてここまで来たのでは
なく、息子の告白に母の女の部分がたまらなくなってしまった勢いでこうなったと言
うのが正直なところである。
「ふふ…」
 もっとも巧にとってはどうでもいい事であった。罪悪感はともかく、今は一番好き
な女性と男と女の部分で交わっているのだ。しかも初体験で。それが可愛い実の母で
あっても、もう止まりそうもない。実兄とここに来ている百合の昨日の台詞の意味が
今はっきりとわかった。
「え………っと―――」
 巧の笑顔が気にはなったが、慶子はとにかく腰を動かし始めた。このままじっとし
ているわけにもいかないし、“小さくしてあげる”と言う大義名分もある。それにこ
うして息子の肉棒を下から突き刺されているだけで実はいってしまいそうなのだ。
(先にいかされちゃ恥ずかしいもんね。でも、巧のがこんなに大きく硬いとは――負
けちゃいそう……)
 ゆっくりとした上下運動の一回一回毎に慶子の頭まで強い刺激が突き上げていくよ
うである。離婚以来初めての男だからか、それともこれが実の息子のものだからなの
か――
(なーーに、十回もすれば、すぐに………九、十、十一、十二――――い、いってく
れない!)
 さっきたっぷり出したばかりの巧ははじめてのSEXだと言うのにまだまだねばって
いた。母としている感動も大きかったが、すぐにいっては恥ずかしいと言う男の見栄
もある。何よりも母の中に少しでも長くいたかったのだ。
「あ……ああ…あああぁぁっ!い、いく、いっちゃう!」
 やがて慶子の方に絶頂は先に来た。痙攣せんばかりに快感が肉壺から全身に走る。
童貞のはずの息子にいかされるのは意地っ張りの慶子には恥ずかしいはずだが、そん
な事を気にしている余裕もすでにない。息子を貪るかのように腰の動きが速くなり、
しかもそれを自分で止められないのだ。
「い、い、い、いっしょに……巧っ!」
 悲鳴を上げ、初めての息子の身体で慶子は絶頂に達した。巧も我慢の限界を超え、
爆発する。息子のミルクがあふれんばかりに母の肉壺に叩きつけられた。


 二人にとっての初めての時間が過ぎた後も母と息子はそのままの姿勢で抱き合って
いた。息子の肉棒が母の中で完全に小さくなるまで、ずっと。
 やがてそれも終わると、ようやく母子は離れた。しかし、互いの体温が離れたとこ
ろでいくらかでも我に返ってしまう。そして次には目をあわすのが二人ともに怖くな
り、ぎこちない空気が流れる。巧は母が今の事をどう思っているのか、慶子は息子が
あんな事をした自分をどう思っているのか――気にはなりながらもにわかには口に出
せなかった。
 慶子はそのまま黙って水着を着なおし、シートをまとめ出した。巧も慌てて自分の
水着を履き、Tシャツを直す。それが終わると慶子は視線をあわせないまま、呟くよ
うに言った。
「ご飯、食べにいこうか」
 やや時間をおいてから巧はうなずく。母子はそのままホテルの建物目指して歩き出
した。
 途中でプールに備え付けのシャワーを浴びた後、二人は昨日とは違うレストランに
入った。看板からするとシーフードとステーキの店らしい。別に選んだのではなく、
目についたからたまたまである。幸い、客はまばらで店内の空気はおちついていた。
「お腹すいたでしょう。一杯食べなさい」
「……うん」
 席につくと同時に慶子は言い、巧がうなずく。ややしてから慶子は、それが二人の
家庭でのいつもの食事前の会話であり、またこの島にきて初めて言った事に気づく。
それが不思議なくらいに可笑しかった。
「……どしたの」
「何でもないわよ。さあ、ママも食うぞ!」
 いぶかしむ息子に十秒前とは別人のように微笑むと、慶子はメニューを取り上げ、
ウエイトレスを呼んだ。もちろん実際に交渉するのは息子である。
 Tボーンステーキとシーザーサラダに何とかのスープと何とかの前菜等々を母子は
お腹一杯食べた。慶子は息子の目からも何か吹っ切れたようだったし、巧はとにかく
母の機嫌が良ければ自分の体調も気分も良くなる息子なのである。
 かくして二人が注文した料理を全部たいらげ、コーヒーと何とかのジュースを交互
に飲んでいる時に慶子が巧の目を見て言った。
「じゃ、部屋に戻ろうか」
「う…ん。でも、まだお昼だよ」
 息子の言う通りである。熱帯の太陽はまだ半分ほど傾きかけた程度で、まだまだ日
暮れには遠い。そして部屋では何も遊ぶ物がない事は、昨日一日かけて証明したばか
りではないか。
「いいのよ。あの部屋で」
 慶子は元気良く断言し――次に頬を急に染めて付け足した。
「それに――あそこなら二人きりになれるし……」


 まだ強い日光が差し込む明るい部屋に入った母子はどちらからともなく寄り添い、
抱きつき、キスをした。
「…………」
 声も立てずにお互いの唇をむさぼりあう。男性経験の乏しい慶子の舌の動きは稚拙
で、巧の愛撫はそれ以上に荒く乱暴なだけだったが、互いに相手に夢中になっている
母子には関係ない。ただただ甘く痺れるように感じるだけであった。
(あ、そう言えば―――)
 息子とのディープキスとの最中に慶子はふと思う。そう言えばこれが母子の初めて
のキスであった。そう、この互いの口腔をなめつくし、しゃぶりつくすようなこれが
――息子は母を思ってオナニーにふけり、母は欲情しながら息子の肉棒をしごき――
そしてついには息子のいきり立った肉棒を母の秘肉の中でたっぷり爆発までさせたの
に、キスをするのは今が初めてなのだ。
 そう思うと何か不思議な感じすらする。慶子の全身におかし味といたずらっ気が走
り、思わず笑ってしまいそうになった。
「……大丈夫?」
 母の身体が不自然に痙攣したので息子は心配になったらしい。今の慶子にはその心
配すらも嬉しかった。
「ね、巧のを全部見せて」
「全部?って何を?」
「ぜーーんぶよ。巧のママのをぜーーんぶ」
 にやりと笑って慶子は巧の水着に手をかけた。え?と巧がいぶかしんだ次の瞬間に
は思いっきりそれをずり下げる。その下から全裸の息子の下半身と――その中心にす
でに直線と化した息子の肉棒が現れた。
「ちょ、ちょちょっと!」
「だーーめ。ママに見せなさい」
 そう言って慶子はひざまづいた。そうすると目の前に息子の肉棒が突き出されるよ
うに位置している。まるで母を威嚇するかのように勇ましいそれを慶子はにっこりと
見やった。
「うーーん。可愛い」
 過激な台詞と同時に、慶子は息子の肉棒をそのままぱくりと咥えた。予想外のサー
ビスに巧は目を見開いてびっくりする。慶子だってどこかでは自分の行動に驚いてい
た。何せ今までの人生唯一の男である前夫にすら口愛はした事がないのだ。今の息子
の肉棒にするのが女として初めてのフェラチオであった。
「マ、ママ……」
 初体験だから、実は慶子はこれからどうして良いのか良く判っていない。それでも
昔見た映画(どんな?)や女友達からの耳学問を思い出して、一生懸命に舌を動か
す。それは確かに下手だったかも知れないが、息子への――いや恋人への愛情はたっ
ぷりこもっており、巧にはそれだけで十分であった。
「――ママ、出ちゃう!」
 今度は自分でも情けなくなるほど早く巧は絶頂に達した。肉棒からの電撃にも似た
快感に急いで母の口からそれを抜こうとする。このままでは母の口に出しそうで――
「(駄目えっ!)」
 しかし、慶子は抜かせなかった。引きかけた息子の腰とお尻に両手でしがみつき、
さらに息子の肉棒を口の奥深くまで咥えこむ。絶頂はすぐに来、逃げられない巧は
たっぷりと男のミルクを母の口の中に発射した。
「……ママ…」
「あーーー、びっくりした。すっごい勢いなのね。巧って。もう三回目なのに」
 罪悪感のような満足感のような、自分でも良く判らない巧に、全てを飲み込んだ慶
子はにっこりと笑って立ちあがった。味がどうこうではなく、息子の全部を飲み込ん
だと言う事によって、自分でも不思議なくらいの充実感がある。
 それからようやく気がついたように巧のTシャツを脱がせにかかった。母の笑顔に
ほっとした巧は初めて悪戯っぽく笑い、今度は逆に母の水着とシャツを脱がせ始め
る。
「やん!こら、セクハラ息子!ママの服を逃がせるとは何事か!」
「おあいこだよ。僕にもママを見せてよ」
「無料じゃないわよ」
「見たらお小遣いくれるの?」
「何だとおぉぉっ!」
 母子は笑いあいながら全裸になった。まだ恥ずかしさが残る証拠に二人とも頬が紅
い。しかし、口も手も止まらず、何より互いの視線は常に絡み合って離れる事がな
かった。
「逞しくなったのね……」
 慶子は息子の身体を見てつくづくそう思った。もちろんまだ成長途上に違いない
が、母に向けられた胸はもう子供の頃のものではない。背丈はやや大きいくらいだ
が、母を見つめる瞳は憧れ以外の頼もしい何かをたっぷりと含んでいた。
 息子の手によって全裸になった慶子は、同じく母の手によって全裸になった巧に抱
きついた。そうすると腕や胸や腰の皮膚からじかに息子の逞しさと――体温が伝わ
る。その硬く熱い刺激を身体中に受け、慶子は陶酔しそうななまでにうっとりとなっ
た。そのとろけそうな母の裸体を巧はそっと、しかししっかりと抱きしめる。
(なんて言うか――息子と言うより、恋人に抱かれているみたい……)
 息子の腕の中で脳裏に浮かんだその考えを慶子は少し笑って訂正した。これは息子
が恋人になったのよ。だって、巧はずっとあたしの可愛い息子で、それなのに今日か
らは素敵な恋人なんだもの―――
「……ママ」
 目を閉じて至福の表情を浮かべる母に巧は囁いた。小声なのは恥ずかしいからだろ
う。決して股間がもう苦しくなっているからだけではあるまい。
「――なあに?」
「ママの……そのおっぱいを――見てみたいんだけど…」
 思わず慶子は巧の顔を見なおした。真っ赤になった息子の顔が至近距離で瞳に写
る。こう言う状況なのだから、もちろん見るだけではないだろう。それには愛撫も
入っているに違いない。恐らくこれが母の身体を愛撫したいと息子が意思表示した初
めての瞬間であった。
 慶子は短い間だけ迷った。先程の砂浜の時も今のフェラチオもあくまで母が息子の
欲情を処理してあげたのである。しかし、今度は巧は母の欲情を受けとめたいと言う
のだ。これを認めていいものだろうか?母として――
(――って、何言ってんのよ。あたしって。恋人同士なら当然じゃん。それに一度は
最後までいったんだし)
「いいわよ――ここで見る?それともベットにうつろうか?」
 自分でも笑いたくなるほどアンニュイに慶子は囁いた。巧は恥ずかしそうなまま
――ベットを見つめる。慶子は慈母のように微笑んでから、抱き合ったままの姿勢で
ベットに身体を傾けた。
 ベットのスプリングによる軽いバウンドに運ばれ、二人は中央に身体を横たえる。
慶子が下になり、巧はその胸元に顔を寄せるような姿勢になった。息子の股間の肉棒
の熱さと硬さが母の太股に微妙に触れる。
「さあ、どうぞ」
 母に優しく囁かれて巧は子供のように微笑み――次の瞬間には貪るように二つの乳
房にむしゃぶりついた。その歯と舌の乱暴な動きが慶子の乳首を捕らえ、強い刺激を
母の裸体に走らせる。思わずそれだけで声がでそうになったほどだ。
「た、巧…もうちょっと優しくして――」
「あ、ごめん」
 母の囁きに巧は一瞬だけ口を止めたが、すぐに責めのような愛撫を再開した。慶子
はその快感に声を押さえるのが精一杯である。その乱暴なだけの愛撫がここまで母の
裸体を震わせるとは予想外であった。そして努力の甲斐もなく忍び泣くようなあえぎ
がすぐにも口から漏れ出した。
「ママのおっぱいって綺麗だね。それに――」
「?」
「ここを舐めた時の声が可愛いよ」
(こ、こいつう!)
 息子の生意気に怒りながらもさらに興奮する慶子だが、声は止まらないし、腰の辺
りまで変になってきた。何より息子の愛撫による快感で身体がねじれそうに動いてし
まう。身悶えているのだ。
「ね、ママ」
 力を込めて恥ずかしい動きだけは押さえよういとしている慶子に巧がまた囁いた。
「下のほうも見ていい?」
「え――そ、それは…」
 駄目ぇっ!――と叫ぼうとした慶子だったが、巧が聞く訳もない。しかし、今の愛
撫どころか一番最初のキスの時から股間は濡れ、秘肉からは涎のように愛液が滴って
いるのだ。それを息子に知られる事は――母が実の息子に欲情し、その愛撫に感じて
いると言う事を知られるのは、今でもまだ恥ずかしすぎる事であった。
 巧の反応は早かった。そのまま息子は母の身体を下になぞりながら、顔を母の股間
に持っていた。母が止める間もなく、息子の目の前に瑞々しい女のしげみとその下の
肉襞がさらけ出される。それらが愛液によってじっとりと濡れている事は慶子にも
判った。
「ふー―――ん」
 巧は一声呟く。実の息子に自分の女の部分を全部見られているというのにどうしよ
うもない慶子は顔を両手でおおいたいくらいに恥ずかしい。しかし、次の瞬間、その
滴る部分に巧は舌を這わせたのである。暖かく柔らかい――そしていやらしすぎる刺
激に慶子はついに絶叫を上げた。
「ひ、ひぃぃぃん――、や、やめてぇっ!そんなとこぉぉ――」
 巧には舌での愛撫をどうして良いか判るわけもない。ただ、母の恥ずかしい部分を
味わいたく――母への愛情と恐らく男としての恋情、そしてその双方からの欲情を
持って舌を動かしているだけだ。ただその思いの分、執拗で丁寧ではある――それが
慶子を狂わせんばかりに刺激的であったのだ。
「た、巧ぃぃ――そん…なとこ…を…」
 慶子のあまりの暴れぶりに、このまま絶頂に達するのではないかと母子共に思っ
た。何せ、口では騒ぎながらも母は股間を息子の口から放そうとはせず、逆にむしろ
押しつけようとすらしているのである。ついさっきにも母の口だけでいかされた巧は
お返しとばかりに舌の動きをさらに強めた。
「駄目!口だけじゃ。巧をくれなきゃ、いやあぁっ!」
 しかし、慶子の反応は息子の予想を越えていた。本当にいきそうになった寸前に、
突如身体を起こし、乱暴なまでの動きで息子の肉棒に手を伸ばしたのである。もちろ
ん、それはかちんかちんなまでに準備OKであった。
「来て…お願い。巧ぃ、ママのところへ…」
 手では強引に引きながらも、口では甘えるように息子に囁く慶子である。巧もそれ
であっさり予定を変えたのだから可愛いものであった。
「ひ…………」
 巧はそのまま母の裸体におおいかぶさり――腰を突き出した。すでに流れ出るまで
に愛液に満ちている母の肉襞が息子の肉棒を一気に飲み込む。慶子は身体中を貫かれ
たような気がした。
「ま、待って!」
 息子の肉棒による痺れあがるような快感にとろけながらも、慶子は必死で息子の身
体にしがみついた。このまま腰を動かされでもしたら、すぐにも失神しそうだったか
らであり、少しでも長く母の中の息子を感じていたかったせいでもある。慶子はその
まま息子の意外に逞しい裸体を下から強く抱きしめた。
「あ、ああ……ああぁぁ……」
 慶子の両腕の中に息子の胸がある。股間にはその腰があり、母の肉壺には限界まで
に息子の肉棒が突き刺さっている。そして慶子は下から、母を欲情で貫いている息子
の顔を見た。
(あ――――)
 その瞬間の息子は男の顔をしていた。逞しく、頼り甲斐があって――慶子の全てを
飲み込み食らい尽くす男の顔を。次の瞬間、慶子は自分が女の子に戻ったような奇妙
な感じを憶えた。
(不思議ね。さっきは巧を男にしてあげたような満足をちょっと感じたのに)
 脳裏のどこかでだが、思わず慶子は笑ってしまう。確かに今の慶子は女に戻ってい
た。例え、その相手が実の息子だとしても。いや、こう言う場合、息子であることは
関係ないのではないかとすらも思った。
(女が女になるのは最愛の男に最愛だと示された時なのかも――それさえあれば息子
だろうとなんだろうと関係ないのよ……)
「来て――巧。ママの中に……巧の好きなように愛して…ママ、ずっと巧の為にいる
わ…」
 その姿勢のまま、慶子は息子に囁いた。巧はにっこり笑い――猛然と腰を動かし始
める。リズムなどまだ知らないから乱暴なだけである。しかし、その一撃一撃が慶子
には声を押さえきれないほどに効いていた。今や、部屋は息子の荒い呼吸と動きによ
る音と母の快感による悲鳴だけが鳴り響いていく。
(あ――――)
 すぐにも慶子には絶頂が来た。自分でも恥ずかしいくらいに――さっきよりも早
い。その大波の中、慶子ははっきりとこう思った。
(――男は巧が一番だわ。息子だとしても――いや実の息子だからこそ…)
 母が女の最高点に達した瞬間、その可愛い声と淫らな表情にあわせて息子も爆発し
た。


 目覚めたのは恐らく翌日の朝だった。
「あ……」
 ようやく開いた慶子の目に天井のシャンデリアが映る。まだついている灯りが大き
な窓からの日の光によってぼやけて見えた。
(やだ、昨日はカーテン開けっぱなしだったのね)
 外から丸見えだった事に初めて気づいて慶子は一人赤面した。あの痴態が――今こ
うして思い出すだけでまたも酔ってしまいそうなあの二人だけの時間がむき出しに
なっていたのだ。3階だし、このホテルならわざわざ覗く者もいないだろうがやっぱ
り恥ずかしい。そしてその事にも気づかず、燃え狂っていた自分がもっと恥ずかし
かった。
(まさか――巧とあんなになるなんて……)
 昨夜の事を思い出して頬を染める慶子である。まったく夢のような時間であった。
 あまりの快楽に最後のほうは覚えていないが、たしかに慶子は息子の身体を食べ尽
くさんばかりに貪った。何度も何度も息子の肉棒を秘肉に飲み込み、また息子も負け
ずに前からも後ろからも――あらゆる角度と方法で母の裸体を責め続けたのだ。互い
に相手の身体の全てを舐めあい、息子が発射すれば母はすぐに口や手や、あるいは乳
房までも使って息子の肉棒を何度も勃起させ、母が失神すればその目が覚めるまで息
子が母の乳房を咥え、秘肉を舐め上げたのである。最後に意識が途絶えたのはいつで
あろうか。すでに朝日が部屋の中に差し込んでいたような気もするが……
 まさに獣のような一夜であった。今思い出しても自分があんな事をしたとは到底信
じられない。普通の母親と普通の息子だったはずなのに――近親相姦なんて一昨日ま
で想像もしていなかったのに。やはりこのホテルとそこの人達の空気にあたったせい
なのであろうか。
(…………)
 自分の疑問への答えも判らないままに慶子は顔を動かした。すぐそばによりそうよ
うに眠っている息子の寝顔が視界に入る。もちろん服は着ておらず、昨夜慶子が泣き
喘ぎながらしがみついた裸身は生まれたままにさらけだされていた。
「ママは大好きよ。巧。後悔なんかはしないわ――きっと」
 息子の可愛い寝顔に思わず慶子は囁いた。もっとも巧が目覚めても同じ事を言った
のかもしれない。
 くすりと小さく笑って慶子は巧の頭を自分の胸につける。むき出しの乳房が息子の
頬が触れた。少し強すぎたのかキスマークで花盛りの乳房が、それを昨夜たっぷりつ
けた息子の口にあたりでへしゃげる。もう少し力を入れたら完全にその口を柔らかい
塊がふさぐかもしれない―――慶子はそうしてみたい衝動にかられた。
 そんな息子の寝息以外音のない時間がどれだけたったであろうか――――そして、
ベットサイドに置いてある電話が鳴った。
「はい……じゃなかった。ええっと……“はろー”」
 純粋に邪魔に思えた電話をいやいや慶子は取る。でないと呼び出し音が終わりそう
になく、このままではその音で巧が起きてしまうからだ。
「ああ、慶子さん!」
 相手の声は支配人の美代子のものであった。慶子は思わず一昨日に百合から聞いた
話を思い出してしまう。このすました女性が若死にした弟の娘を産んだと言うあの話
を―――
(本当だとしたらすごいわよね……でも、私もいつかはそんな気になるのかしら?)
「船の修理が終わりました。イオカステ号は本日夕刻にはサイパンへ向けて出港しま
す」
 慶子の不思議な思いにはもちろん気づきもせず、美代子は早口で用件をまくしたて
た。少し以上にうるさいほどだ。その証拠に巧がうっすらと目を覚ましてしまった。
(ああん、もう!もう少し寝顔を楽しみたかったのにぃ――)
「お二人はその便に乗ってください。一昨日、申し上げたようにサイパンではAクラ
スのホテルを当方からお取りしますので――」
 目の開いた巧と至近距離で慶子は目が合った。巧は母の顔とその間にある乳房をぼ
んやりと見る。まだ完全に目が覚めてはないが、この非日常的な光景に驚いているわ
けではないところをみると昨日の事は憶えているらしい。
(当たり前よ。忘れたら許さないわ。ママにとっては最高の時間だったんだから――
あんなに虐めてくれちゃってさ!)
「代金のほうはご心配なく。当方で見させていただきますから」
 ふと巧はにっこり笑い――ゆっくりと慶子の乳房に口を寄せた。“あん!”と出そ
うになった声を慶子は急いでこらえる。しかし、電話中で母が声を出せないのを知っ
ている息子はわざと母の乳房への愛撫を開始した。
(こ、こいつぅ!ママが声を出せないのをわかっていて!)
「ですからこちらの島での件はどうぞご内密に―――って、あの聞いています?」
 ゆっくりと口で母の乳房を舐め上げる巧の悪戯めいた笑顔が悔しい慶子は反撃に出
た。開いている左手を息子の股間に伸ばしたのである。お互い全裸であるからすぐに
も目的の肉棒が掴め――そしてそれは予想以上に熱く硬くなっていた。
(す、すご…もうこれなの?)
 驚く慶子は思わずもう一度巧の顔を見なおす。視線が合うと息子は、はにかんだよ
うにまた微笑んだ。それが慶子にはとてもいとおしく見え――身体のどこかのスイッ
チが入る音がした。
「もしもーーし。すいません。お休みでしたか?あの――返事くらいはしてください
な」
 無言のまま慶子は両腿を開いた。その間の女の大事なところは――秘肉から肉襞ま
ですでに十分なまでに濡れている。本当にスイッチが入ったみたいで恥ずかしかっ
た。
 巧はそこまでわからないにせよ、母の行動の意味はわかる。無言で口を乳房から放
し、身体を母のふくよかな両腿の間に入れた。
「どうなさいました?ご希望どおり、この島から出れますのよ?」
「ここからは出ません。予定通り二週間ずっといます」
 慶子ははっきりと言った。受話器の向こう側で驚いたであろう気配が確かに伝わ
る。
「え?でも、ここは……その近親愛の島でして、慶子様はご趣味が合わないかったん
じゃあ――」
「もう良いんです。ここの皆様がなさっていることをもう悪く言うつもりはもうあり
ません」
 巧が慶子の上にかぶさる。母は女として息を飲む。そして息子の腰が力強く突き出
され、ぐにゅん!と音を立ててその硬く大きい肉棒が母の秘肉を貫いた。頭の先まで
突きぬけるような快感に慶子は声を出す事だけを何とか耐える。
「は、はあ…よろしんでしょうか。本当に?」
「はい。ですからここにいさせて下さい。私達母子をこのすばらしい島とホテルに」
 巧の腰がゆるやかに動き出す。その熱さと硬さはすぐにも母の裸体に昨夜の息子の
男らしさを思いださせた。秘肉からの痺れるような快感が熱く慶子に伝わっていく。
“早く電話を切らねば”と慶子は思った。そう早く――
(……二人っきりにならなくっちゃ―――)



[2001/01/03]

eroerojiji

小さい頃からエロいことが好き。そのまま大人になってしまったエロジジイです。