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小説(転載) 『一夜だけの』

近親相姦小説
06 /30 2018
掲載サイトは消滅。
『一夜だけの』

十時前にようやく帰宅した秀行に、母が妹の恵美子が家に来ている事を告げた。
「恵美子が?あっちの家で何かあったのか?」
「縁起でもない事を言わないの。お盆のお墓参りよ。ついでに今夜は泊まっていくだ
け」
「ふーーん」
何となく不明瞭な表情になった秀行の前に当の本人が現れた。
「お帰りなさい。兄さん。こんな時間までお仕事大変ね」
これが秀行にとっては何ヶ月ぶりの妹の声と姿であった。秀行より三つ下だったから
まだ二十二才なのだが、それでも結婚してすでにまる二年もたつせいか、今まで兄が
知らなかった――何となくしっとりとした感じがその姿ににじみ出てきていた。久し
ぶりに兄に会えて嬉しいのか、頬がほんのりと染まっている。
「吉祥寺に行ってたんだって?もう、仕事をお父さんから任されているそうじゃな
い」
「任されているったって、新装開店のブディックの内装工事!大した事はない」
やや不機嫌そうにそう言うと秀行は母と妹を押しのけるようにして玄関をあがり、風
呂場に向かった。急いでいるのは頬のあたりが何となく熱いのを見られたくないから
である。恐らく妹と同じくらいに赤くなっているのあろう。色っぽくなった妹を見て
不覚にもどぎまぎしたのだと自分でも判っただけに足取りは速かった。
風呂場につくとすぐ汗まみれの作業着を脱ぎ、湯船に入る。建設会社オーナー社長の
御曹司とは言っても、家を継ぐ為の修行期間中であるから、その日常はハードなもの
である。一級建築士の免許は持っているのだが、今やっている事は新人よりきつい完
全な肉体労働で、現場の誰よりも汗をかかされていた。
「……しかし、恵美子の奴。大丈夫だろうか。実家に一人で泊まったりして。向こう
の姑さんはかなりうるさいのに」
風呂道楽の父親のお陰で、三人たっぷりはいるほど大きい湯船に疲れた体をゆったり
とつけている間にも、つい妹の事が気になってしまう秀行であった。さっきは邪険に
していたが、もともと妹思いの兄なのだ。子供の頃はおとなしく地味な妹をいつもふ
くれっつらで守ってやっていたものだった。その時の感情は今も続いている。
恵美子は二十才で嫁にいった。相手は祖父の代から付き合いがあり、今では父親の会
社の筆頭株主でもある資産家の息子である。事前に当人同士に恋愛関係はなく、露骨
すぎるほどの政略結婚であった。年齢的に早すぎたのもそのせいである。親の都合に
文句一つ言わない恵美子の事を思ってか、結婚の前後の秀行は極端に無口になったも
のであった。
嫁ぎ先は確かに裕福ではあったが、唯一の男である夫と元気すぎるほどの姑、そして
やかましいまでの夫の姉妹と言う聞いただけで胃が痛くなりそうな構成だった。新妻
としての恵美子の苦労は並々ならないものがあったであろう。実際、秀行が結婚後最
初に会った時にはその痩せぶりに驚いたものである。だから秀行はあちらの家にあま
り良い感情は持っていない。
中でも義弟にあたる夫が嫌いであった。いかにも頼りない外見さながらに実に甘った
れで、しかも要領だけはいい男なのである。妻と姑の間では、常に強い方である姑側
に立ち、恵美子を苛めているらしかった。秀行が社会人でなければ昔のように張り倒
してやったであろう。


風呂から出てパジャマかわりのTシャツをトランクスの上に着る。呼ばれて居間に行
くと、ビールと枝豆、それに塩とレモンをふったサラミが並べられていた。このつま
みは二つとも秀行の好物である。
「はい、兄さんお疲れさま。ビールをどうぞ。冷えてますわよ」
テーブルの傍らにはTシャツと短パンと言う子供っぽい格好の恵美子がいた。笑っ
ているがどこか照れくさそうである。
「はい。お酌」
そう言って両手でビール瓶を差し出した。意外に可愛い仕種だ。何とも言えずに秀
行はコップを出す。深い色の液体がゆっくりと注がれた。
「あ、お母さん。後片付けはあたしがやるからもうやすんでいていいよ」
「そうかい。じゃあ、お願いするわ」
台所の母と妹の会話を聞きながら秀行は黙ってビールを飲む。そう言えば妹にお酌を
されたのは久しぶりであった。
「はい、おかわり」
コップが空になるとすぐに恵美子はビール瓶を持ち上げた。黙って秀行は注がれる。
それが何故か嬉しそうな妹の笑顔が少し照れくさくて、何気なく視線を下にそらした
秀行の視界に短パンからすらりと伸びた妹の太股は映った。
(けっこうふくよかになったんだな……)
「ちょっと、兄さん!どこを見てんのよ!」
恵美子の大きな声を聞いて初めて秀行は自分が妹の露な太股をじっと見ていた事に気
づき、慌てた。
「いや、べ、別に…」
「いーや、見てた。あたしの足を!」
現行犯だから言い逃れも出来ない。秀行はもう抵抗もせず、コップのビールをぐっと
一息に飲み干すと無言で妹に差し出した。それに自然に恵美子はビールを注ぐ。潔
い、しかも結構恥ずかしがりやである兄の事は良く知っている事からこれ以上いじめ
る気はないらしい。
しかし、そのかわりにもっと嫌な質問をした。
「そう言えば、兄さん。まだこうやってお酌してくれる人はいないの?」
そう言って兄の顔をそっと下から覗き込む。その目が意外と真剣だ。本気で興味が
あるらしい。
「……………」
秀行は無言でサラミをつまんだ。音を立ててかじる。次に枝豆に手を伸ばし、一房
一房丁寧に食べ始めた―――どうやら質問に答える事に口を使いたくないようだ。
「…いないのね?」
「―――――うむ」
無愛想でも嘘は下手な秀行である。あっさり事実を認めた。しかし嫌な質問だ。本当
に恋人などいないのだから。
「しょうがないんだ。親父の跡を継ぐ為の修行中で、女なんて探す暇も無いんだか
ら」
「でも、昔みたいにいかがわしいところへは行っているんでしょ。クラブとかソープ
とか!」
思わず秀行は目をむいた。あのおとなしい恵美子が“ソープ”などと言う単語を使う
とは思わなかったのだ。
まあ、明らかに動揺したのは事実を指摘されたせいもある。建設現場などで働いてい
るとそれなりに付き合いもあるのであって、特に次期社長と見られている立場として
は“お高く止まっている”と思われないためにも―――
 正直に顔に出た兄を見て妹は下目使いににらんだ。
「へーー。あたしは短大卒業と同時に結婚させられたって言うのに、いいよねえ。自
由で」
「…………」
これを言われると秀行としてはぐうの音も出ない。恵美子の結婚が完全に会社と家の
ためである事は事実だからだ。長男の自分が後継者修行などと言っていられるのも、
全て妹の犠牲のおかげなのである。
「やだ。兄さん。真面目に取らないでよ。冗談じゃない」
 本気で沈黙してしまった兄に恵美子は少し慌てた。根が真面目な兄の気にしている
事を指摘すると、本気で反省か自己嫌悪してしまうという性格を忘れていたわけでは
ないが、久しぶりに会えた喜びに浮かれて、つい気が回らなかったのだ。


結局、秀行は黙って残りのビールを飲み干すと、つまみの皿を取り、自分で出した冷
蔵庫の氷を抱えて自室に引き込んでしまった。
それを見ながら、止められもせず、恵美子が苦い顔をする。別に兄を責めるために実
家に戻ってきたわけではないのだ。これじゃあ、嫁ぎ先の苦労の八つ当たりみたいで
はないか。全然、違う事を頼むつもりだったのに―――
二階のすでに布団が敷かれている自分の十畳間に入ると、秀行はキャビネットからウ
イスキーとグラスを出し、オンザロックを作った。ツーフィンガーどころか、その倍
はありそうなかなり濃いそれを布団の上に胡座をかいて、ちびちび飲り始める。
「結局、辛い思いをさせてるんだよなあ」
 一人で寝酒をしながらも、先ほどの話題が秀行の脳裏から離れない。恵美子の嫁と
しての苦労は母親からうすうすは聞いていた。昔から妹をいじめる奴は決して許さな
かった兄であったが、結局、大人になった最初に守りきれなかったのである。その事
実は何度思い出しても納得も我慢も出来ない事であった。
 ぶつぶつと一人だけの愚痴を呟きながら結構早いペースで二杯目にうつる。秀行だ
けの部屋の中は静かだ。音楽好きな秀行が自分で工事したかなり重厚な防音設備のお
かげである。一人で落ち込むにはこれほど適した部屋はなかったろう。
 さらに三杯目に口をつけた時に部屋の扉がそっと開いた。
「誰だ?」
 時間はすでに十二時をまわっている。朝の早い親父やそれに朝食と弁当を作らなけ
ればならない母親がこんな時間に起きているはずはない。
「あたしよ。兄さん」
 入ってきたのは恵美子だった。先ほどの服装から浴衣に着替えている。髪が湿って
いるところを見ると湯に入ったのであろう。
「どうした。こんな遅く」
まだ濡れて光沢を放つ髪と白いうなじが、兄の目から見てもどきりとするほど悩ま
しかった。
「さっきはごめん。あんな事をいうつもりじゃなかったの。その、なんて言うか――
ふざけたつもりがつい――」
「いいって。嘘じゃないんだから―――まあ座れ」
 秀行に言われた恵美子は一瞬、やるせなさそうな表情を浮かべたが、すぐにも一つ
小さくうなずくとおずおずと兄の前に正座した。浴衣の裾が乱れない様に丁寧に押さ
えている。こう言う慎ましやかさは子供の頃と同じであった。秀行はかって背中で兄
のシャツをを掴んで泣いていた妹の姿をぼんやりと思い出した。
「飲むか?」
「――うん。薄くしてね」
 ゆっくりと妹のオンザロックを作りながら秀行はいささか意外に感じていた。酒を
勧めたのは礼儀からであって、妹がもともとアルコールには弱く、家で酒など飲まな
い主義である事を知っていたからである。やはり結婚をすると何かが変ってしまうの
であろうか―――何となく秀行の胸の中に苦いものが動く。
「はい。薄め。水はないからゆっくり飲めよ」
「ありがと。兄さん」
 そうやって兄から手渡されたグラスを恵美子は両手で握り、少しの間見つめてい
た。そして不意に一気飲みしたのである。
「げほっ!げーーーほっ!っ!っ!おぉぉっ……!」
「お、おい、大丈夫か!」
 案の定、むせてしまった妹の背中に秀行は慌てて手を出しさすった。そしてまた驚
く。恵美子の身体は触れた部分が熱い過ぎるほど熱くなっていたのだ。
「だ、大丈夫…お酒なんて久しぶりだったものだから、つい……」
「いや、それより何か熱いぞ。風邪でもひいているんじゃないか?」
 心配げな兄に恵美子は大きく首を振った。しかし気づいてみれば頬もかなり紅い。
「いやでも紅いし熱いぞ。やっぱり――」
「いいから!兄さん。それより話があるの」
声その物は大きくなかったが、強く、思わず秀行も居住まいを正してしまうほど固
かった。せきを何とか押さえながら、恵美子も座り直す。
しかし、すぐには会話はなかった。ややの間、沈黙が流れる。
秀行は神妙に妹が“話”をするのを待っていたが、恵美子は何か言いにくいらしく、
口を何度も開けながらも声がでない。それを無言で見ながら、おとなしい妹だから恥
ずかしがっているのかと思っていた秀行であったが、やがて何となく雰囲気がいつも
と違う事に気づいた。
いや、それを言うのならさっきの居間の時もいつもの恵美子ではなかった。何か無理
に明るくふるまおうとしていたのでは―――?
「あたしまだ妊娠出来ないの」
不意に恵美子が言った。意外な言葉であった。秀行はきょとんとする。しかし、恵美
子の真剣そのものの視線に気づいて慌てて表情を引き締めた。
「妊娠って、子供の事か?」
恵美子が口を閉じてうなずく。それを見ながら秀行は苦手な話題だとやや苦く思
う。妹とは違い、まだ独身者なのだから無理はないであろう。
「まあ、あれだけは神様のおぼしめしだしなあ」
「でも、あたしが今の家に嫁いだのは跡取りを産む為なのよ。“おぼしめし”じゃす
まないわ」
その話は秀行も聞いていた。恵美子の嫁ぎ先では、何よりも跡継ぎを産む事を嫁の第
一条件としているのだ。姑も小姑もそれを露骨に口にし、“産めないのなら離婚して
もらう”と婚約時に宣言までしたと言う。
この時、自分の妹を子供を産む為の機械のように扱われた秀行は本気でこの話を破談
にするよう両親に迫ったものである。もちろんこれが政略結婚である以上、同じ想い
の両親でも、今更結婚を取りやめる事などできはしなかったのだが。
「この二年間、出来るだけ――かかさなかったのよ。でも何度やっても出来なかっ
た。どうしても妊娠しないの」
かかさなかった―――と言う事が何を意味するか理解して、秀行は瞬間的に胸と脳裏
が痛いほどに焼けた。あの嫌な義弟が、目の前の可憐な妹の身体に何をしたか――想
像するだけでも胸が鋭い衝撃が走り、熱い血が頭に逆流してしまう。たとえ夫婦とし
ては、あたり前の事であったとしても――これは娘を嫁がせた父親の感慨と似たよう
なものなのであろうか。
「それで、そろそろ姑が痺れを切らしそうなの」
兄が身体の中の激情を必死でこらえる事が判っているのかどうか―――恵美子は
淡々と続けた。
「“あと一年待って妊娠しなかったら考える”って、先週言われたわ。このまま
じゃ、あたし実家に戻されるかもしれない」
戻って来いよ―――思わず出そうになった言葉を秀行は口の中で辛うじてかみ殺し
た。恵美子の結婚が破れると言う事はあの家との縁も切れると言う事である。それは
直接的に父の会社の存否にかかわる事だった。
あの家は祖父の親友だった先々代も、父の良き協力者だった先代も人格者であった。
だからこそ、株式上場の際に筆頭株主になってもらったのである。しかし、この二人
が死んで恵美子の夫の代になると実権は姑に握られる事になった。
そして、この姑が恵美子の言う通りひどい女で、他人のどんな迷惑もかえりみないわ
がままであった。好き嫌いで長年の信頼関係をぶち壊すくらいは平気でやる。秀行自
身その実例を両手の指の数ほどは知っていた。
迷惑な事に、自分の馬鹿息子は溺愛していたから、もし恵美子が離婚などしたら、単
に悪口を言い触らす程度では治まらないだろう。秀行がそれに対抗する立場ならとも
かく、この建設不景気の中、何とか会社と社員を守ろうと奮闘している父親の事を思
うと、自分の思いと恵美子の事だけを優先させるわけにはいかなかった。
「だから何とかしなきゃならないの」
「しかし、何とかなるものなのか?それって?不妊治療とかいうのは聞いた事がある
が…」
どう何を言うのも苦しい秀行である。二十五才と言う年齢からもその方面の知識は乏
しいし、何よりこの妹が誰かの子を孕むと言う事自体に、言い知れない違和感と深い
ところでの嫌悪感があった。
「実はもう病院で検査してもらったの」
恵美子は淡々とした口調を崩さず言った。唇の端に微妙な皺が浮かんでいる。もし
かしたら努力してこのような口調を保っているのかもしれない。
「家には内緒に一人でね」
「――――どうだった?」
「何も問題はなし。健康そのものだったわ」
秀行の心のどこかでため息のような音がした気がした。
「じゃあ問題はあっちか」
「うん。その後、あの人のを本人には判らないようにこっそりと病院に持っていって
調べてもらったの」
「え?判らないって、ど――」
――うやって――と言いそうになって秀行は何とか口を止めた。何と言っても夫婦な
のだから方法はいくらもあるであろう――そう思い、何故か胸がまた痛む。そんな方
法とやらを聞くのも想像するのも兄としては辛いだけのようであった。
「無精子症だったのよ。あの人」
勝手に胸を痛めている秀行の耳に妹の声が冷たく流れた。その意外すぎる以上に陰気
な事実に自分の事も忘れて呆然となる。
「そ、そうか……それは残念だったな」
それきり口を閉じて下を向いた妹に何と言って良いか判らず、秀行は意味の無い慰め
しか出来なかった。しばし、沈黙が流れる。先にその重さに耐えられなくなったのは
兄のほうであった。
「―――それで、あっちの家ではなんて言っているんだ?」
「何も――と言うよりこの事を言っていないもの」
意外な妹の答えであった。
「何故?責任は向うなんだから―――」
「理由がどうであれ、子供が出来ないのなら離婚させられるわ」
恵美子の主張どおりであろう。あっちはそういう家だ。そして無精子症と言う男の不
名誉を誤魔化す為にもさぞや陰湿な嫌がらせを父の会社にしてくるに違いない。
「―――じゃあ。どうするんだ?」
どうして良いか判らない兄の問いに、初めて妹は毅然として顔を上げた。
「子供を作ります。この事は秘密にして、何としてでも」
「何言ってんだ!そもそも出来ないんだろうが!」
「あの人のはね。でも他の子種をもらえば何とかなるわ」
妹の宣言に秀行はそう言う不妊治療がある事を思い出した。子種の無い夫婦の為に、
匿名の男性からの精子によって妊娠させるのである―――秀行の趣味にあう話ではな
かった。
「…そこまでやる気か……」
「ええ」
恵美子は堂々と認めたが、秀行としては苦い顔にならざるを得ない。いくら子供が
欲しいと言っても、そう言う治療自体に疑問があるし、またどこの誰のものとも知れ
ない男のものが恵美子の身体に入ると考えただけでも苦すぎる思いがする。
「仕方ないの。これしか方法がないわ。でないと今までの我慢が無意味になってしま
うもの」
そう言う恵美子の顔には、おとなしいだけの妹だった頃には見られなかったような力
強さがみなぎっていた。ふと、秀行は恵美子があっちの家への復讐のつもりでいるの
ではないかと疑ってしまう。跡取りだけを要求する姑や夫に対して、どこの他人のも
のとも知れない子供を偽って渡すと言う陰湿な復讐を――
「……もう良い。好きにしろ。俺にお前の行動をとやかく言う資格はないからな」
ついに秀行は重い口調でそう言った。突拍子もない妹を責める気より、そこまで妹に
やらせてしまう自分の不甲斐なさと立場への怒りが肩から背中にかけて重くのしかか
る。
「じゃあ、兄さん、賛成してくれるのよね!」
規定量以上のオンザロックに更にウイスキーを入れる兄に恵美子が嬉しそうな――そ
して熱のこもった声を出した。それに対して即答はしない―――したくなかった。よ
うやく声を出したのは一口以上グラスを傾けてからである、
「ああ。好きにしろと―――」
「じゃあ、兄さんの子種をちょうだい!」
秀行は口に含みかけたウイスキーを一瞬で吹き出してしまった。盛大な霧状のシャ
ワーが畳に飛び散る。それでもかなりの量が気管に入ったらしく、声も出ないほどせ
き込んだ。
「!!!!!―――ホッ!ゴフォッ!」
「大丈夫?兄さん」
急いで恵美子が兄の背をさする。その触れた手の熱さに、秀行は何故かぞっとして
振り払ってしまった。
「何考えてんだっ!俺達は兄妹だろうが!」
「だから良いんじゃない!兄さんの子ならどんな遺伝でもばれないわ!血液型もあの
人と一緒なんだし!」
怒鳴り上げた秀行に恵美子は生まれて初めて怒鳴り返した。その剣幕に秀行のほう
がわずかにひいてしまう。その隙を妹は逃さなかった。
「知らない男の子供じゃあ、顔や身体の特徴がどうなるか判らないもの。その点、良
く似た兄妹のあたし達なら、どうなってもあたしに似たと言い張れるわよ」
「おま…そんな――」
言っている事は判るものの、だからと言って納得は出来ない。兄の子を妹が孕むな
どあってはならないはずではないか。
「あたしと兄さんさえ黙っていれば誰にも判らないのよ!」
「ばれなきゃ良いってもんじゃない!第一、どこの病院が兄妹の受精をやってくれる
というんだ?」
秀行としては拒絶の理由の切り札であった。確かにそんな背徳をやってくれる病院な
どありえないだろう―――しかし、妹の反応は兄の常識を超えていた。
「病院?何言ってるのよ。そんなところでやるつもりはないわ」
「はあ?」
「あたしは、今、ここで、二人でするつもりなの!」
恵美子はそう言いざまに立ち上がり、浴衣の帯に手をかけた。その次には帯が引か
れ、はらりと浴衣がはだける。一瞬、白い光の束がその下から現れたように秀行には
見えた。
恵美子は全裸だった。浴衣の下には下着一つつけていない。真っ白な肌のバランスの
良い肢体に小ぶりな乳首、そして股間の黒い茂みまでもが兄の視線に完全に晒され
る。
「あ――――」
あまりの事に秀行はぽかんと口を開けるだけだった。大人になってから初めて見た
妹の成熟した裸体はそれほどまでに美しく――そして食虫花のように魅惑的であっ
た。
その呆然により、秀行の手からグラスが落ち、氷とウイスキーが飛び散る。その音が
合図となった。
「兄さん!」
恵美子の裸体が秀行目掛けて飛んだ。呆然としたままで避けられない秀行にそのまま
覆い被さるように重なる。重みと勢いで二人はからまったまま布団に転がった。
「兄さん。お願い――兄さんの子をあたしにちょうだい。いや、兄さんの子じゃな
きゃ駄目なの。他の男なんて――この身体に入れるだけでも辛いんだから―――」
上になった恵美子は泣きつくように叫びながら、必死で兄の唇を追い、服を脱がそう
とする。すぐにもその手と爪によって鋭い音が立ち、秀行のTシャツが裂けた。
「―――――――」
妹に襲いかかられながらも、秀行は無言であった。その腕力なら必死の妹でもなんな
く引き剥がせるだろうに、動こうともせず、また必死の妹の嘆願にも応えようともし
ない。ただまばたきすら止めて妹の泣きそうな顔を見つめているだけである。
Tシャツが完全に取り除かれると、妹の胸が兄の胸と肌を接して重なる。形の良い大
きな乳房が兄の厚い胸で、いやらしい形につぶれた。肌と肌から妹の熱さが直接兄の
心臓まで伝わる。
やがて、妹の手がトランクスも破いた。中から完全に直線と化した肉棒が弾け出る。
その固さが恵美子の太股にあたり、兄の身体の真意が伝わった。
「兄さあぁん…」
半分の泣き顔にはっきりと笑みを浮かべ、恵美子はその肉棒を掴む。同時に自分の股
間を兄のむき出しになった逞しい身体に擦り込んだ。汗でも涙でもない、粘った体液
が秀行の腰にねっとりとつく。
「お願い。兄さん。あたしとして!あの時のように!」
首にしがみつくようにして囁く恵美子の圧力に秀行は苦しそうな表情になった。その
肉棒は妹の手が乱暴なまでにしごき上げている。しかし、その先端に透明な汁が染み
出たのはその為だけではなかった。
「今日ならいいの。きっと妊娠するわ。それに誤魔化す事も出来る。……昨日、あの
人としてきたからばかりだから―――」
この一言が全てを変える引き金になるとは言った恵美子も意識してなかったであろ
う。
耳の奥に届いた瞬間、秀行の脳裏にあの義弟と妹の痴態が浮かび――そして秀行を押
さえていた何かがはじけた。


突如、秀行の手が恵美子の顔を押さえ、その唇が乱暴に妹の唇を奪った。
「……………!」
うめき声も出せないまでに強烈な兄のキスに口腔全てを犯され、恵美子は歓喜の余り
に全身で震えた。女性経験の豊富な秀行のキスが上手かった以上に、念願の兄の愛撫
に理性以上に身体が驚喜したのである。
それだけで恵美子が気絶するほどのキスをしながら、巧妙に秀行は身体を入れ替え、
妹の上になる。手がすぐにも恵美子の形の良い乳房を握り揉みしだいた。やがて舌も
妹の唇から乳首へ移り、舌と涎のねとつく音が二人の身体の間に流れた。
「に、兄さん…すごい……胸が……こんなにも感じるなんて――!」
 悲鳴に近いあえぎが恵美子の口から漏れる。胸を愛撫されているだけなのに、もう
いってしまいそうだ。兄の愛撫はそれほどまでに妹には刺激的であった。しかし、そ
れでもその愛撫を全て身体に吸収するかのように、左手で兄の背を抱きしめ、右手で
自分の乳房を兄の口に押し付けようとする。
 もちろん妹への愛撫はそれだけではなかった。舌と口で存分に胸を弄りながら、右
手が快感にうごめく身体を下になぞり、ついには股間の叢に到達する。指がその豊な
茂みをなぞっただけですでに粘液質の音があがった。
「ひうっ!」
 秀行の指が妹の秘肉に触れた。すでに流れている暖かいねばつく液体がねっとりと
兄の指から手を濡らす。秀行は中指をそのまま肉襞にゆっくりと差し込んだ。
「い、いやあぁぁぁぁ…兄さん……も、もう駄目ぇぇーー」
 肉壺の中は、兄の指がさらに愛撫するまでもなくたっぷりとした愛液で満ちてい
た。これならすぐに出来るだろう。しかし、秀行は何かを確認するように丹念に指を
動かして妹の肉壺中をなぞり、まさぐった。もちろん、その間も舌は乳首を舐る事を
やめない。
「兄…に…いさぁん―――」
 緻密なまでの上下からの兄の愛撫に恵美子のほうが耐えられなかった。もう本当に
いきそうだ。しかし、せっかくの兄の腕の中で指と舌だけで絶頂を迎えるのは嫌だっ
たのであろう。遮二無二両手を兄の股間に伸ばし、その硬直した肉棒を掴む。その先
端はすでに十分なまでに熱く、先汁で濡れていた。
「こ、これ……恵美子の中に入って…お…願いだから―――兄さんを…感じたいの」
 妹の喘ぎ声での嘆願はかなえられた。秀行は無言のまま腰を動かし、その肉棒を妹
の誘導どうりにその秘肉にあてがったのである。
「…うれしい―――ひいっ―――っ!」
 ぐさり――と差し込む音がしたくらい強く秀行は肉棒を妹の股間に限界まで突き入
れた。その衝撃に恵美子の視界に閃光までもが走る。しかもそれが終わりではなく、
同じ位に激しいピストン運動が続いたのだ。
「…い、い…いわぁ――もっと…ついて。もっと――あた―――しの中に…入ってき
て。に、兄さんであたしを…一杯にしてぇぇっ!」
 兄の鋼のような肉棒に存分に肉壺をえぐられて、恵美子は半狂乱なまでに叫び喚い
た。防音設備のある部屋でなかったら家中に鳴り響いたであろう。
 恵美子は二度まで絶頂を迎えたところまでは何とかまだ意識があった。しかし、兄
がついに発射した瞬間には完全に失神し―――それでも両手が兄の身体を、肉壺は兄
の肉棒を締め上げんばかりに掴んでいた。


恵美子が意識を取り戻した時、兄は妹の裸体を抱きかかえる様にして布団に横になっ
ていた。
「あ…兄さん…」
恵美子は視線を頭の方に動かし、兄の表情を見る。口を力を込めて閉じているよう
な顔だった。それがどう言う意味か、恵美子だけには判る。自分のした事に後悔をし
て――しかし言い訳はしないぞと決意した時の顔であった。
 恵美子は思わずくすりと笑ってしまった。
「子供の頃から変らないのね。本当に」
 姉さんぶった妹の言い方が何かひっかかったらしい。秀行はそのまま口を閉じて妹
の顔を軽くにらむ。そう言えばさっきのSEXの最中も一言も発していない兄であっ
た。
「後悔しているの?実の妹のあたしとSEXしたこと」
「……………」
「してるのね―――ふふふ、兄さんらしいわ」
「……笑い事ではない」
 ようやく出たきしむような兄の声は真摯そのものであったが、妹はひるんだりはし
なった。何の迷いも罪悪感もない声で兄の耳に囁く。
「あたしにとっては笑い事―――いや幸せなことよ。だって、ずうっと前から兄さん
とこう言う仲になりたかったんだもの。兄さんは違うの?」
 俺はどうだったんだろう―――そう妹に言われて秀行は自分の胸に深く問うた。
 今までは、ただの妹思いの兄のつもりだった。しかし、そうでない事はたった今、
行われた狂態が証明している。あれは普通の兄と妹がなせる事でありえない。
 では、俺は恵美子と同じくずうっと昔から妹を女として愛し――その身体を欲して
いたのだろうか?
「でも、この部屋で兄さんに抱いてもらえるなんて嬉しいわ。
 知っている?あたし、結婚するまではいつもここでオナニーしていたのよ」
 恵美子の嬉しそうな告白に秀行は何も言えなかった。嘘だとも冗談だとも言えない
し、その笑顔を見ればまた思う事も出来ない。そもそもどんな背徳的な妹でも責める
権利はこの兄にはないのだ。何故なら先ほどの近親相姦の時、秀行は妹への嫉妬を引
金に、まごうことなき実の妹への欲情を露にしたのだから。
「それに、あたしの処女喪失もここだったんだ」
「え?」
 深い悔いと自責の念にひたっている秀行にも、さすがにこれは無視できない発言で
あった。しかし、“誰と?”とつい問いそうになった事実が、先ほどの本人の疑問へ
の最良の答であった。
「何言ってのよ。相手は兄さんよ。憶えていないんでしょう」
 どんな状況でも人間は驚く事はできるらしい。さらに意外な妹の発言に秀行は馬鹿
になったように口を開けた。
「兄さんが大学生であたしが高校生だった頃、コンパで泥酔して帰ってきた兄さんを
この部屋で介抱している時の事よ。せめて酒臭い服を着替えさせようと全部脱がせた
ら、兄さんのここが元気一杯になっていたの」
 恵美子の手が伸びてそのものを握る。とたんに硬度が増したのだから現金なもので
あった。
「それで上に座って…その――あたしを兄さんにあげちゃったの」
「うそだ!いい加減な事を言うな!そんな憶えは俺にはないぞ!」
 ほとんど絶叫した秀行であったが、恵美子は余裕で笑った。
「そう言うと思った。翌朝も兄さんは全く覚えてなく、二日酔いしか残っていなかっ
たからね。本気でがっかりしたんだもんねーー――ふん!だ。この悪党!」
「…………」
 覚えがないんだから否定できる証拠も自信も秀行にはない。
「でもそんな事もあろうかとあたしは証拠を残しておいたの。兄さん、お祖父さんの
形見の虎の掛け軸を持っているでしょう?」
 確かに持っている。何とか言う著名な画家の手によるもので時価数百万と言う名品
である。祖父の形見に家の後継ぎの秀行がもらったのだ。
「その裏地を見てよ。証拠を残しておいたから」
KO負けをいやがるボクサーの様に秀行は瞬間的に跳ね起き、押し入れからその掛け軸
を引き出した。祖父の形見で高価だとは知っていても、良く価値の判らない秀行だか
らちゃんと見てみるのも久しぶりである。わずかに震える手で紐を解き絵を開く。そ
してその裏地を見ると―――
「ちゃんとついているでしょう?」
裏には血の跡と思しい染みと、それをはさむようにしてHとEのイニシャルが書かれ
ていた。色合いから見て、最近のものではない事は明らかである。恵美子の猫のよう
なくすくす笑いが秀行の背に響いた。
「大事にしてよ。売ったりしちゃ駄目。あたしの一番の思い出の品なんだから」
全裸を隠す余裕も無く立ちすくむ秀行の股間に暖かいものが触れた。妹の手だ。恵美
子は立ったままの兄の下半身をすがるようにして抱き、その肉棒を口に咥えた。ねと
つく音と感触が秀行の股間に響く。
「う…………」
口での奉仕など秀行には何十回も経験した。しかし、この妹の愛撫はそのねばつきと
いやらしさにおいて最高であった。これがあの清楚な妹の口によるものだとは実際に
味わいながらも秀行には信じられない。恵美子は一体どこでこんな事を憶えたのか
―――そう考えただけで秀行の胸に引きつるような痛みが走る。
快感と何かに耐える兄の顔を見上げ、恵美子はにやっと笑った。それは妹のものとは
思えないようほどにいやらしく――またいとおしい笑顔だった。
(恵美子……)
そう心の中で思った瞬間、秀行はいってしまった。自分でも驚くほど早い。しかし、
発射されたミルクの量と快感は先ほどに匹敵するほどだった。
「……おいしい…兄さんのもの……兄さんの命を飲んでいるみたい」
兄のミルクを一滴ももらさずに飲み込んでから、恵美子はうっとりと呟いた。上手い
酒にほろ酔いしたかのような恍惚の表情を浮かべている。それを見た兄までもがとろ
けそうな艶っぽい女の香りが兄の視界を揺らせた。
しかし、手はまだ離さない。それどころか発射したばかりのそれを更にいやらしい手
つきでしごいていた。秀行の肉棒もそれにすぐ応え、スイッチでもいれたかのように
あっさりと固さを取り戻す。恵美子はにんまりと笑って背を向け、両手をついた。
「ねえ…今度は後ろからして…」
秀行の前に妹の露な尻が突き出される。ふくよかな白い二つの肉の真ん中に、肉色の
菊座とべっとりと濡れた叢があり――そしてその間にさっき兄の肉棒とミルクを全部
飲み込んだ秘肉がうごめいているのが見えた。
「お願い…兄さん。今日だけ…今夜だけだから、全部して欲しいの―――恵美子の身
体の全部に兄さんのしるしをつけて――お願い…」
女が男に見せるのには一番恥ずかしいポーズのまま、顔だけで振りかえり恵美子が
懇願した。すがりつくような表情であり、吸い込むような声であった。妹が兄を呼ん
でいるものではなく、淫らすぎる女が最愛の男を要求する顔と声であった。
秀行の脳裏でその表情と声が、子供の頃からの妹の思い出と一緒になってぐるぐる
とまわる。そして罪悪感より強いしびれるような喜びが初めて全身を一筋だけ駆け抜
けた。それが勝利感か達成感か――最後まで判りはしなかったが。
「……今夜だけ――か」
自分に言い聞かせるように呟いて、秀行は恵美子の尻を掴んだ。膝をつきながら肉棒
を涎のように愛液を垂れ流している妹の秘肉にあてがう。
そして一気についた。
「あ、あああん…!」
りゅん!と言う湿った音と妹の嬌声が重なる。そして鋭く激しい兄の腰の動きにより
妹の声は止まらず、最初の失神をするまで泣き続けるのであった。


それからの秀行は理性を忘れ、理性以外が望むとおりに、妹の飽くなき欲情の裸体を
存分に貪り続けた。
兄は無言で妹の身体中を舐めまわし、全身で愛撫し、鋼鉄のような肉棒で妹の秘肉を
えぐり続ける。それに応えて、妹は花のようにあえぎ、獣のように叫んだ。
兄さんであたしを一杯にして――その恵美子の懇願に応えるかのような無我夢中の秀
行の愛撫と攻撃に、何度も何度も恵美子は失神するが、それでもその手も腿も――秘
肉ですらも、片時も秀行の身体を離そうとはしない。例え無意識であっても兄の全て
を貪欲に貪り、まるで吸い尽くすかのようにへばりつき、兄の逞しい裸体の上になり
下になってうごめく。兄が何度射精したか、妹が何度それを口と肉壷でむさぼり絶頂
に達したか――もはや二人にも判らなかった。
その終わりの無いような兄妹の淫らな饗宴は、二人同時に意識を失った明け方まで続
けられた。妹と自分の体液でどろどろになった秀行はうすれゆく意識の中で妹の幸せ
そうなつぶやきを聞いたように思った。
「ありがとう。兄さん。今日、兄さんにもらったものは一生大事にするわ……」


兄妹の男女の関係はこの一夜だけで終わった。翌日からはまた無口な仲の良い兄妹
――兄は真面目な建築設計士に、妹は貞淑な人妻に―――戻ったのである。この日
以降、二人の間ではあの一夜については口にする事すらなかった。
翌年、恵美子は男女の双子を出産した。どちらも恵美子似の元気な赤ちゃんで、これ
で姑や小姑から責められる口実が一つ減った事になる。まあ、どうせすぐにも別の口
実がつくられるのだろうが。
それでも両親と産院にお祝いに行った秀行が見た恵美子は幸せそうに赤ちゃんを抱い
ていた。
「へーー、さすがに双子だと良く似ているわね」
「そうだな。こっちの女の子は特に恵美子似かな」
「男の子のほうはちっちゃい頃の秀行みたいだわ」
「両方とも我が家のほうに似たと言うわけか」
両親が嬉しそうに初孫に触っているのを一歩下がって見ていた秀行はこっそり恵美
子のほうに目をむけた。その視線に気づいた恵美子が兄のほうを向く。
「………」
実に幸せそうであった恵美子が、その瞬間だけ、妖しい――“勝ち誇った”と言うよ
りもさらに深い謎めいた笑みを浮かべた。そしてその笑みに触発されたかのように、
秀行の脳裏に、あのたった一夜の出来事が鮮やかに蘇る。同時に秀行の胸を一杯にし
た熱く激しい想いを何と表現すべきか、後々まで秀行には判らなかった。
その後、双子達はすくすくと育っていった。父親は相変わらず自分だけが可愛いいら
しく、赤ん坊の世話などろくにしなかったが、献身的な母親と無愛想だが意外に面倒
見の良かった伯父のお陰で愛情には不足しなかったようである。
秀行は双子の誕生の翌年に結婚した。見合いである。妻になった女性は清楚でおとな
しめで――ようするに妹に似ていた。その事を他人に言われると秀行は憮然とし、恵
美子は喜んだそうである。ちなみに家庭は円満であった。


ところで、秀行には一つだけ疑問が残った。
と言うのも、秀行の結婚の翌年に恵美子の夫が隠し子騒ぎを引き起こしたのである。
相手は良く遊んでいたスナックの女で、もちろん秀行は何もしていない。そして妹の
為に中に入って調停を行った秀行が相手の女に見せてもらった赤ちゃんの顔は、確か
に恵美子の夫に良く似ていたのだ。
では、恵美子の夫が無精子症と言うのは間違いだったのだろうか。それとも―――或
いは恵美子は知っていてあの夜に嘘をついたのだろうか。兄を一夜だけでも手に入れ
るために―――
その後、秀行は恵美子に会うたびに、また双子を見るたびにその疑問を思い出してし
まうようになった。その事を恵美子に直接確認しようと思った事も何度かある。
しかし、その疑問を口に出そうとすると、必ずやそれが判っているかのように、恵美
子はあの妖しい笑みを見せるのであった。それを見てしまうと、もう秀行はそれ以
上、舌を動かす事が出来なかった。何か大切なものに傷つけようとしているのではな
いか―――と言う恐れが必ずや重くわいてくるのだ。
そう――大切な、兄妹だけのかけがえの無い宝物――今では宝石のように二人の記憶
の中で輝き続けている、あのたった“一夜だけ”の事を。

―終―

[2000/09/06]

小説(転載) 「雲の上にて」

近親相姦小説
06 /30 2018
掲載サイトは消滅。
題名  「雲の上にて」

「アテンションプリーズ、アテンションプリーズ。
間もなく20時30分発xx航空YY便の御搭乗手続きを
受付カウンターにて始めますので、ご利用の方は至急お集
まり願います。」

喧騒のJFK国際空港。
まさしく人種のるつぼ。様々な人達が行き交う。

次々と流される空港アナウンスに、ソファーに座って
待っていた人達は、一斉に立ち上がって我先にと手続
きを行なっているカウンターへと急ぐ。


「ふむ。そろそろだな。」
高級スーツを身に纏った初老の男性が、ネクタイを
きゅっと締め直して、ゆっくりと立ち上がった。

原孫義男57才。
総合商社に勤めて35年。
ここ15年程はアメリカ・ニューヨーク支社に在籍
していた。
本場国際ビジネス戦争の最前線に送り込まれた義男
は、いわば会社期待の人材だったのである。
当然、厳しい日々が続くのは目に見えていた。
義男は家族を残して1人、単身で乗り込んで行った。

文字通り粉骨砕身でコトに当たった。
以来15年、その成果は目に見えて大きく出た。
売上高、規模、関連企業買収等。その発展の早さは
尋常ではなかった。

そして安定期に入ったのを機に、本社は義男に呼び
戻しを命じた。
勿論、専務という椅子を用意して。

(もう15年か。早いもんだ。)
搭乗便を知らせるボードを眺めつつ、その歳月の流れを
懐かしんでいた。



「おとうさーん。」
その時、遠くから自分を呼ぶ声がした。
その声がする方向に目を移すと、1人の女性が、
手を振りながら、早足でこちらに向かって来た。

深い紺色で統一されたジャケットとスカート。
肩から下げたショルーダーバックも紺色。
首の横でかた結びされたブレーンのスカーフが、
いかにも、といった感じがした。

「さすがに時間通りだな。舞。」
「ここは私の職場よ。当然よ。」
「おお・・随分と生意気な事を言うようになったな。あはは・・」

舞が国際線のFA(フライト・アテンダント)になって6年。
今や制服もピタリと似合う程、堂に入っている。
爽やかな笑顔で義男の前に立った。

「お客様。本日は私どもXX航空をご利用頂きまして
誠にありがとうございます。当飛行機はここニューヨーク
を出まして、アラスカを経由しながら・・・」
流暢な英語で喋り始める舞。

「おいおい、何もココで仕事の真似事なんかするな。」
右手を左右に振りながらイヤイヤの表現。
周りを見渡すと結構見ている人、人、人・・・

「どう?これでも・・」
「ああ分かった分かった。生意気と言ったのは、
お父さんの失言だった。謝るからもう止めなさい。」
「分かればよろしい。あはは・・」
「ふふふ・・だが大したもんだな。舞。」

綺麗な立ち姿。
自分を大きく超える背丈。
見栄えは、欧米人と比べてもひけなど取らない。

義男はしみじみと感慨にふけった。
渡米前、あのつぶらな瞳に涙を一杯に溜めながら、
スーツの端を掴んで放さなかった子供が、長い年月
を経て、人々の関心を一身に受ける美しい女性へと
変貌を遂げた。

「私もトシを取るわけだな。」
義男は白くなったモノが多く混じった頭を1つ撫でた。
「お父さん、そのセリフは厳禁よ。あたしだって気にし
ているんだから・・もう。」
ため息交じりの笑顔で呟いた。

「何言ってるんだ。FAってのは今ぐらいが一番良いんだろ?」
「そうかも知れないけど、もうすぐ28を迎える女の子にとっては、
そうそう悠長に構えてはいられないのよね。」

その言葉に義男は呆れた顔になった。
「お前、このフライトの後に結婚するんだろ?何を今更。」

「あのね、それとこれとはまったく別なの。女にとって”若さ”
は永遠のテーマなのよ。このまましわくちゃの婆さんになっちゃう
なんて、考えただけでも身震いしちゃうわ。おお、いやいや・・」

両肩をすぼめながらしかめ顔の舞。

やれやれ、女ってのは随分と勝手な生き物だな。

義男は、今さながらに妻の苦労を思いやった。
父親不在で一人娘を育てるのは並大抵の苦労
ではなかったはずだ。
女同士いがみ合う事もあっただろう。

義男は妻に会うのを楽しみにしていた。
最後に会ったのは何時だったか?
1年、いや2年前か・・・
長年連れ添った愛妻。愚痴1つこぼさずに
尽くしてくれる。いつも笑顔を絶やさない
女性。 感謝の気持ちで一杯だ。

「お母さんの事考えてたでしょ?」
ふいにそのイタズラ顔を義男に近づけて、
冷やかしの一言。
「な、何だ急に。もうしょうが無い奴だ。」
あたふたと顔を赤らめて怒り出した。

「あはは・・なあんだ図星か。もうやんなっ
ちゃうわ。どうもごちそうさま。」
舞は道化のようにおどけて格好を崩した。

義男は父としての尊厳を守るかのように、
忙しく咳払いを1つ2つして体裁を取り繕った。

「今日はよろしく頼むぞ。」
「はい。分かりました。今日1日、安心と快適
な空の旅を、どうか存分に満喫して下さいませ。」

すっと背中を伸ばして、ビューティスマイル。

思わず”どっきり”と息を飲む義男。
舞は軽い会釈と共に雑踏の中に消えて行った。
呆然とした表情で、その後ろ姿を見送る義男。

すらりと長く伸びた二本の足が優雅に動いている。
それに伴ってツンと上に向いたお尻が揺れていた。

義男はそこから視線を外さずにいた。
いや、外せなかった・・・のである。

凄い・・・凄くイイ身体しているぞ。
義男の目は、娘思いの優しい父親のそれではなかった。
1人の男。メスの匂いに敏感な野性のオスだった。
美味しそうな肉だ。喉が鳴る。たまらん。

おっと、いかんいかん。
騒がしい雑踏の中、我に帰る。
何てことを考えるのだ。義男は恥じた。
実の娘に邪まな思いを持つなど、人として最低だぞ。
義男は何度も首を振って邪心を振り払う事に専念した。

明日の夜は久しぶりの我が家。
たっぷりと古女房を慈しもう。
そうすればこの邪気も消えよう。
暫く女っ気が無いままに居たのが拙かったのだ。
ただそれだけの事なのだ。

義男は気を取り直して急ぎ足で受付カウンター
へと向った。

「WAO!」
その時前を行く義男の右手から、これまた早足の
男性が突っ込んできた。
「わあああ。」
慌てた義男は、その突進を交わせずに勢い良くぶつ
かってしまった。

散乱する荷物。相手の男性も、手に持っていた荷物を
落としてしまった。
「Oh!Sorry!」
「It is OK. Please do not care.」

男性は右手を前に出して、慌てる義男を制した。
そして笑顔で散らばった荷物を次々と片付けていった。
勿論、義男も手伝う。自分の荷物もかなりあったから
当然か。

そしてそれらは直ぐに片付けられた。
恐縮しながら何度も詫びる義男。
男性はずっと笑顔を絶やさずにその対処を
し終えると、そのまま雑踏の中に消えて行った。

ふぅ~。
義男はやっと安堵した。
それは無理もなかった。

ニューヨークという街は、世界一の国際都市である反面、
世界一治安の悪い街でもあった。様々な人種の集う街で
ある以上、それだけでとかく”いざこざ”が簡単に起こ
ってしまうのである。
白人に黒人、スパニッシュにチャイニーズなどなど。
喧騒の街。たとえ肩が触合っただけでも、もし相手が決し
て認められない人種だったとしたら、それだけで騒動にな
る可能性が多々ある・・・そんな街ニューヨーク。

義男は何度か、そんな場面を見て来た。
自分は日本人。みんな金を持っていると邪心する。
どこで狙われているか分かったもんじゃない。
それでなくともいちゃもんをつける材料は、
そこら辺にうじゃうじゃと転がっていた。

イエローモンキー。繰り返し何度も耳にした蔑視の嵐。
タフなだけでは生きてはいけない。己を厳しく律した。
目立つな、怒らすな、そして無意味に笑うな。
そして仕事はきっちりとこなせ。
こうして地道にひたすら、人々から信頼される努力を
してきた。

以来15年。それは気を抜けない日々だった。
それも今日でお終い。開放される日が来たのだ。

危ない危ない。きっちりと日本の土を踏むまで気を抜いては
いけない。女にうつつを抜かすのは明日からでいいのだ。

気を引き締めて税関を通る。そして飛行機のタラップを昇る。
夜の空港。風が心地良かった。

入り口でFAたちの出迎えを受けた。
綺麗な日本娘たちが様々な笑顔で挨拶。
最後に舞が挨拶。やはり一番可愛かった。

そして豪華ファーストクラスの席に通された。
会社からのささやかなプレゼント。
ゆったりと大きなシート。座り心地抜群。
平日のせいか、客の入りはまばらだった。
まるで独占している気分。それも悪くはない。

自然と頬も緩む。嗚呼さらばニューヨーク。
”Say Goodbye To NewYork”
ビリージョエルの歌をもじって口ずさむ。
場所は違えど気持ちは一緒だった。

シートベルト着用のアナウンスが流れた。
暫くしてエンジン音が響く。
いよいよだ。かすかな振動に下っ腹が張った。
GOGOGO・・・TAKEOFF。


「皆様、本日は当XX航空をご利用頂きまして
誠にありがとうございます。当飛行機はアラスカ・
アンカレッジ経由で東京に向っております。
アンカレッジ到着はXX時、東京到着はYY時を
予定しております。到着まではかなりのお時間を
要しますが、それまで美しい空の旅を、存分にお
楽しみ下さいませ。」

聞き覚えのある声。舞の声だった。
日本語、英語、仏語。見事に使い分ける。
さすがだな。
義男は感心しきりだった。

語学留学で1年、ニューヨークで一緒に暮らした
のは 舞が18の時だったか。
あの頃は、まだ自分のモノにはなっていなかった。

だが相当の努力を重ねたのを知っている。
自分の仕事にかこつけて一緒に全米各地を巡った
事もあった。

あの頃は一生懸命な娘を応援していた。
勿論色気などまったく感じなかった。
可愛いとは思ったが、それ以上の気持ちは
これぽっちも有りはしなかった。
そして1年経つと、英語もかなりの上達を見て取れた。
誰とでも1人で気軽に会話が出来るまでになっていた。

そしてその成果を肌で感じると、あっさりと妻の待つ
日本へと帰って行った。
以来、年に1度、ほんの数日間だけ顔を見せるだけに
なった。そしてそれは年中行事化した。
勿論その時は母親と一緒。そして帰る時も一緒。

男親なんかなるもんじゃない。
いつも寂しさを噛締めるのが日課になってしまっていた。
愛しい娘に会えなくなるのもそうだが、やはり妻の温もり
を感じられなくなる事が一番辛かったのだった。

そして今年は、いつもの2人にプラス1人加わっていた。
彼氏だった。舞より5つ上で自分と同じ商社マンだった。

一層寂しさが募った。自分を抜きにして全てのコトが進行
していたからに他ならない。
おそらくかなり前からの付き合いだったのだろう。
今年、15年振りに日本に帰る事が決まってから急だった。

いきなり”恋人です。””結婚します。”だった為、父親
らしい抵抗など出来ようも無かった。

してやられた。ホゾを噛むばかりだった。

今では、なるようになれ、という心境だった。
わざわざ娘のスケジュールに合わしての帰国は彼の思いやり
からだったのは言うまでもなかった。

娘の仕事振りを見るのは初めてだった。
そしてこれが最後でもあった。
結婚と同時にこの仕事を辞めるというのを聞いていたからだ。


当然の如く舞の笑顔は一層映えた。
テキパキと仕事をこなす姿を見て嬉しく思い、そして、
凄く寂しくも感じたのであった。

様々な思いが交錯する中、ふと気晴らしをしようとカバンから
2,3冊の本を取り出した。
忙しい日々の中、ヒマを見つけては、ちょこちょこと読んでいた
が、なかなか読み切れずにいた。

だが、今日は到着まで、たっぷりと時間がある。
一気に読み飛ばそう。こんな過ごし方なんぞ滅多に無い事だ。

最初の1冊を開いた。

ひらり・・・
何かが落ちた。
足元を見ると一片の葉っぱがあった。

拾い上げるや義男は目を細めた。
形の良い葉が四枚も着いていた。

(これは四つ葉のクローバーだな。何と縁起の良い事だろう。)
だが何時これが入り込んだのだろう?
しばし考えた後、義男はハタと気付いた。

そう・・あの男とぶつかった時だ。
ばら撒かれた荷物を整理している内に紛れ込んだのだろう。

(こんなに立派な葉は見たこともない。これは貴重だぞ。)
凄く嬉しい気持ちになる義男だった。
その反面、落とした男性に対して凄く気の毒な事をしたと
思いやった。

幸せの四つ葉のクローバー。
願い事は必ず叶うとの言伝えがあった。
叶う願い事は1つだけ、強い気持ちさえあればOKだった。

義男には、そんな迷信を信じる気持ちなど無かった。
圧倒的なまでの厳しい現実に生きる身では無理も無い事だった。

それよりも生の植物の持ち込みが心配になった。
知らなかった事とはいえ、検閲を潜り抜けた事が問題だった。

どうしようか?捨てるか?でも何処に?
暫く腕組みで熟考。

「どうなさいました?お客様。」
ふいに後ろから声がした。振り向くと舞が立っていた。
優しげな営業スマイルではなく、あのイタズラっぽい笑み
を浮かべながら。

「あっああ・・その、なんだ。」
もどかしく歯切れの悪い口調。舞も思わず首を傾ける。

「どうしたの?お父さん。」
小さい声で囁く。さすがに公然と公私混同は気が引けた。
「実はこれなんだが・・・どうしようか?」
目の前にゆっくりとその葉っぱを差し出した。
「まあ、四つ葉のクローバー。どうしてこんな物がここにあるの?」

義男は、事故の顛末を説明した。
このままではマズイ。だが捨てられない以上隠すしかないのは明白
だった。
「でもこんなに小さい物だったら、そんなに目くじらを立てる必要
も無いんじゃない?」
「確かに本の中に挟んでおけば全然問題無いけどな。でもお父さん
ちょっと気が引けて嫌だなあ。」
「いいわ。だったら私が貰っていくわ。それなら良いでしょ?」

舞は一片の葉っぱを手にすると、大事そうに胸ポケットに仕舞い
込んだ。
「四つ葉のクローバーってのは、昔から願い事が叶うアイテムなんだ
そうだな。」
「そうよ。何でも一生懸命祈れば神様が1つだけ叶えてくださるって
確か何かの本に書いてあったわ。」

「お前は何を祈るつもりだい?」
「な~いしょ。これって思っている事を口にするとご利益が無くなる
って事だよ。だから内緒よ。」
「そうかいそうかい。じゃあ何でも祈ってな。どうせあいつの事だろう
けどな。」

やっかむような口ぶり。
やっぱり彼氏の事だろう。
しゃくにさわる。義男の唇がへの字になった。

それを見て、そそくさと退散。
そして暫くしてから、また戻って来た。
なにやら小さなグラスと赤い色のビンが一緒だった。

「お客様、ワインをお持ちいたしました。どうぞごゆっくりと
おくつろぎ下さいませ。」


父のワイン好きを知ってか、機嫌直しにと素早いタイミング
で持ってきたのだった。
(こんなもので俺の機嫌直しか。ったく、しょうがない奴だなあ。)

見えすぎた魂胆。誰が引っ掛かるか。
いつもいつも、物分りのいい父親なんかやってられるものか。
柄にも無く、意固地な父親を演じてみたものの、
1杯、2杯とグラスを重ねる度に、その思いは次第に緩んでいった。

所詮、父親は娘には勝てないようになっているのだ。
何時の間にか気分が良くなっていた。
そして舞の気の配り方に感心するまでに気持ちが
一変していた。

凄く良い気分になった。
もう1本追加して、それもカラになった。
そうしているうちに義男は気持ち良さそうに寝息を立てて、
寝てしまったのだった。

後ろの方から、絶えず優しげな笑みを浮かべながら見守っていた
舞は持っていた毛布を、そっと肩口から掛けた。
「おやすみ。お父さん。」

声は無かったが、小さな唇はそう動いていた。



何時間程経過したのだろうか・・・
ふいに背中に悪寒が走った。
義男は突然に、どうしようもない程に尿意をもようした。

(いかん、飲み過ぎたか。)
ふらつく足元。頭が重い。まだ酔いから醒めていなかった。
(なんて事だ。浮かれ過ぎてしまった。)

無様な事をしている。
ふらつく意識の中でも恥ずかしさの自覚はあった。
シャツは、はみ出ていてネクタイは曲がったまま。
こんな姿を娘に見られたら最悪だ。
いつもカチっと決めていたい・・それは娘を持つ
父親なら誰しも持つ気持ちだ。
だが、尿意は待ってくれない。急がねば・・
そのままの格好でトイレへと走った。


ドアを叩いた。反応が無い。
良かった・・直ぐに入る。
そして一斉放水。
嗚呼何と気持ち良いことだろう。
あっと言う間に肩の力が抜けた。
ほんの少しだけ酔いが醒めた。

だが、その時なぜかふわふわと宙に浮いた
感覚を覚えた。
これって何だろう?凄く心地良い気持ち。
よほど良いワインだったのだろう。
こんなに気持ちの良いワインは初めてだ。

よし、今度舞に聞いて購入してみよう。
義男は洗面台に写った自分の顔を眺めつつ、
そんな事を思っていた。

義男は、手を洗うと直ぐにドアノブに手を掛けて
外へと出た。
辺りが静まりかえっていたのをその時知った。
腕時計を見ると、短針が2の数字を指していた。
何と中途半端な時間だろう。
気持ちの良い酔いも、急激に醒めていった。

(仕方ない。もうひと眠りするか。)
自嘲気味に軽く頭を振った。


すると丁度その時、奥の通路から誰かがこちらに
向かって歩いて来た。
薄暗かったせいもあってか、少し見えにくかったの
だが、スーツ姿にエプロンをしているのが判った。
交代で夜中の身回りや各所点検をしていたFAの誰
かだろうというのが、その時理解できた。

足音が近づく、そして電灯の下に出てきた。

「舞・・・。」
「お父さん・・。」

義男は、彼女に前に立ち止まった。
舞も、立ち止まったままに義男を見ていた。

しばしの静寂の中、互いが黙ったままに対峙した。
舞は、その表情を変えずにつぶらな瞳で父を
見つめていた。
まるで何かを求めるような瞳だった。


義男は、その時再び宙に浮かぶような感覚を覚えた。
それらによって息が詰まった訳でもなく、それは
まるで何かから解放されたといった類の感覚だった。


義男はネクタイの紐を緩めた。
続いてワイシャツボタンを1つ2つと外す。
舞もエプロンを投げ捨てた。


そしてズボンのチャックを下ろすと、中から肉棒を
つまみ出して、それを解放させた。
舞は眉1つも動かさずに、黙ってそれら一連の行動
を見ていた。

義男は、先程閉めたばかりのトイレドアを開けた。
そして、すっと左手を差し出して、レディを招くポーズ。

舞は躊躇わずに左手を差し出して、その招きに応じた。
ぐいっと力強く引き寄せると、舞は少しバランスを崩されて
前につんのめった。
勢い、舞の顎が義男の額に当たった。

義男はすかさず、そのまま顔を上げて舞の唇を塞いだ。
そしてあっと言う間の流れで2人は、そのままトイレの中に入った。
閉まるドア、乾いた鍵の音。

互いに黙ったままに、激しく舌を奪い合った。
背中に回した互いの両腕にも力が入る。
きつくきつく抱締め合う父と娘。
義男の頭の中は真っ白だった。何も考えられない。
でも何かに突き動かされるように、舞の身体が欲しくなっていた。

少し息苦しくなって顔を離した。
すると互いの唇を繋ぐようにひとすじの糸が垂れていた。

もう1度重ねる唇。それから父は首すじに舌を這わせ始める。
娘の口から切ない吐息が漏れる。
そして甘えるようにもたれ掛る。

義男は両腕を手前に戻して、今度は舞の胸ボタンの取り外し
に取り掛かった。
その間中、舞は義男の耳に舌を這わせていた。
舐めたり、ちょっとだけ噛んだり、息を吹きかけたりもした。

ジャケットが開いた。
真っ白いブラが眩しかった。
見事な隆起。ほんのちょっとだけ手に余るぐらいのサイズ。
その肌はスベスベで滑らか。まさに今が盛りであった。
そして5本の指に力を入れた。

「ああん。」
舞の甘えた声が耳元で囁く。
義男の興奮は最高潮に達しようとしていた。

舞は、ゆっくりと両股を八の字に広げながら、
しゃがみ込んで行った。
捲りあがるスカート。膝の上までが露出された。

目の前にある半立ちの肉棒を、しげしげと見つめて、
亀頭の先を舌でひと舐め。そして一気に咥え込んだ。

「おおおう!」
生暖かい湿り気が全体を覆う。堪らずに声が出た。
舞の頭が前後に激しく揺れる。添えられた右手
で激しく扱かれながら、ねっとりとした舌が絡み
付くという2段攻撃に、義男は一気に達してしま
いそうになった。

部屋中に響く淫音。
タップリと唾液がまとわりつく音は実に卑猥だった。
義男は、下に視線を落とした。
一心不乱にしゃぶりたてている舞の顔があった。
更に下に眼を向けると、八の字に開いた股から黒
のパンストが、肉付きの良い太ももを覆っている
のが見えた。

勿論その上からは、定番の黒のガーターベルトが
見えていた。
舞は余った左手を、開いた股間の中に入れていた。

更に捲れ上がるスカート。
その時、義男は少なからず驚いてしまった。
左手の先には、黒々とした密林があった。
舞は下着を履いていなかった。

指は激しくクリトリスを弄くっていた。
「ああああんん。」
切ない声と切ない表情。
義男は、舞の頭を押さえつつ腰を前後に
動かした。何と気持ちのイイ事だろう。
何時までも味わっていたかった。


「硬くなったわ。」
舞はそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。
見詰め合う2人。もう1度舞からキスをした。

何度も何度も舌が交差した。
そしてやっと舌が離れた。また見詰め合う。

舞は後ろを向いてドアに両手をつけた。
そして、ぐいっとお尻が義男の前に突き出された。
入れて欲しい仕草に義男の興奮は高まった。

これ以上ないぐらいに反り返った肉棒を持って、
それに狙いを定める。
唾液でベチャベチャの肉棒は、何の抵抗も無く、
するりと舞の中に入って行った。

「あうっ、くうううう・・・」
一気の快感が舞の全身に走る。必死に声を抑える。
「おうううう・・」
そのヌルリとした感触が更なる快感を引き出させた。
そして呻き声が漏れた。

禁断の結合が、今成された。
後ろから、激しく突上げる義男とドアに顔を押し当て
ながらも、それを受け止める舞。

「ア、ア、ア、はあああん~。」
声を出すまいと必死に堪える舞だったが、とても堪え
切れそうにも無かった。
一方義男の方は、年齢の割りに元気だった。
その証拠に腰の勢いは更に増してきた。

「あああ~ん。もうだめぇ~ん。」
とうとう大きな声が出てしまった。
慌てた義男は、直ぐに胸ポケットからハンカチを取り出
して、そのまま舞の口の中に押し込んでしまった。

そして肉棒を引き抜くと、今度は便座に腰を下ろした。
舞を正面に向けて、ちょうど抱っこをする形で義男の
股の上に腰を下ろさせた。

「おおおお。愛しているぞ舞。」
真っ白なブラをずらして、その綺麗な隆起物に舌を這わせた。
「うううん。うううん。」
舞もハンカチの下から、快度の声が漏れる。

器用に腰を動かす舞。ねっとりとした肉棒を締め付ける。
大きなお尻が、上下に動いていた。
義男も、何度も突上げた。

「おおお、た、堪らん。もうダメだあ。」
辛抱堪らずに、悲鳴に似た声が出た。
「うう、うううん。」
舞の首が、何度も何度も縦に揺れた。

「そ、そうかいいのか。中に出してもいいんだな?。」
懇願するような表情の義男。
舞は、にっこりと笑顔で、力強く首を縦に振った。

「くぉおおおおおお・・・・い、いいくううう!!」
激しく突上げる腰が、その時突っ張るようにして止まった。
ぶるぶるっと腰が震えた。そしてゆっくりと沈んで行った。

「ふぅ~。」
暫くして、義男は1つ大きく息を吐いた。
大きな快感の後の、ほんのひと時の安らぎ。

義男は自分の胸に顔を置いている舞を見た。
満足げな表情。口元には優しげな笑みを称え
ていた。

ゆっくりと優しく口の中に入れていたハンカチを取り出した。
すると舞は顔を上げて、義男の顔をまじまじと見つめた。

今度は頬に口づけ。
そしてにこやかな表情で立ち上がった。
ブラを直し、ボタンを嵌めて、素早く服装を正した。

そして何も言わずに、すっとドアを開けて出て行ってしまった。
その鮮やかな退場に1人下半身剥き出しのまま、ぽか~んと
佇んだままに見とれていた義男だった。
嵐は吹き荒れ、そして一瞬にして去って行った。

自分でも判らない一瞬の衝動だった。
まるで誰かに動かされたかのような不思議な感じがあった。
じっと股間を見る義男。
仕事を終えた肉棒は、ただ”だらん”と垂れていた。

今、確かに娘を抱いたのだ。
その手には、娘の柔らかい肌の感触が残っていた。
股間の痺れは、確かに温かいぬめりを残していた。

罪悪感はまったく感じなかった。
それよりも素晴らしい夢を見た感動があった。
もう1度、大きく息を吐いた。

義男も身支度を整えると、直ぐに自分の席へと戻って行った。
そして毛布を肩口まで掛けると、直ぐに眠ってしまったので
あった。


どれぐらい眠ったであろうか、女性の落ち着いたモーニング
コールアナウンスが耳元に入ってきた。
「うう~ん。」
大きく背伸びを1つした。相変わらず頭は重かった。
腕時計を見た。
(なんだ、たった4時間ほどか。)
小さく舌打ちをした。疲れが残っていたからだ。

「皆様、おはようございます。」
「Good Morning sir。」

その時、女性達の明るい声と共に、朝食のテーブルが
次々と運ばれて来た。

一瞬にして華やぐ客室。義男も気分が落ち着いた。
そして目の前を通るFAの後ろ姿を見た瞬間、
ほんの数時間前の出来事が脳裏を過ぎった。

突然に胸がドキリとした。
あってはならない出来事があった。
父と娘が1つになった。
誰にも言えない行為をした。
どうしよう?妻にも言えない。
1度きりの過ちで終えるか?・・・いや自信が無い。
昨日の感動などどこかに吹き飛んでしまっていた。

「お客様、大変お待たせ致しました。どうぞ。」
悩む義男の耳元に、爽やかな声が響いた。
舞だった。

差し出される朝食。普段通りに接する舞。
「ど、どうも・・」
義男は、動揺を隠せずにいた。
「どうぞごゆっくり・・・」
軽く会釈して、その場を去って行った。

とりあえず食事をする。だが味はしなかった。
まるで砂を噛むような感じがした。
何とか胃袋に収めた。

悩みは尽きない。沈む気持ち。

「わあああ!凄いなあぁ!」
客の一人が大きな声を上げた。
その方向に顔を向けると、窓の外から綺麗な朝日
が顔を出していた。漂う雲の上にそれが燦々と光り
輝やいでいた。

それは神秘な風景だった。高度何万M上空の別世界。
まさに神々が住む楽園であった。

義男は、ふと考えた。
ひょっとしてあれは全て夢だったのではと・・
舞の表情はいつもと変わりは無かった。
そうだ、そうに違いない。

ちょっと気持ちが軽くなったようだ。
そして、カップに残った紅茶をぐいっと、
ひと呑みした。

暫くして、テーブルを下げに再び舞がやって来た。
「如何でしたか?美味しかったでしょうか?」
笑顔で尋ねる舞。
「う、うん。美味しかったよ。うん。最高だった。」
「わあ。そうですか。ありがとうございます。」

更に優しそうな笑顔を振り撒く。
いつもと変わりの無い屈託の無い微笑だった。

・・・・・
やっぱりな。あれは夢だったんだ。
これは酒の飲みすぎだ。反省せねば。
何というバカな夢だったのだろうか。夢はその人の
潜在的欲求を示すものなのだと、誰かが言ってた。

と、すると俺は娘を一人の女として見ていたことになる。
バカな、俺には愛する妻がいるではないか。
今までそれで充分だったではないか。どうかしている。
それにもうすぐ日本だ。こんなバカな事は忘れてしまおう。
・・・・・・

こうして気持ちを整理して、何とか吹っ切ろうとした。

「それでは失礼致します。」
舞は、そう言うと静かにテーブルの取っ手に手を置いた。

さてと・・
義男は横に置いてあったカバンから本を取り出そうとした。
するとその時、綺麗な手が目の前を横切って、左手の甲に
置かれた。
(何だ?)
義男の視線が、その手に集中した。
ゆっくりと手が離れて行く・・連れて義男の目が大きく
見開いていく。
(こ、これは・・・)

手の甲には、綺麗な四葉のクローバーがあった。
はっと、舞の顔を見た。

何とも言えない慈愛に満ちた笑みが口元にあった。

「あのう。すみませんけど・・。」
「何か?」
「胃薬を持ってきてくれませんか?ちょっともたれる
気がしてしょうがないんですよ。」
「分かりました。直ぐにお持ちいたしますので、暫く
お待ちくださいませ。」


数分後、舞が薬と水の入ったコップを持って義男の席へと
やって来た。

「お待たせ致しました。お薬とお水でございます。」
「ありがとう。」

ゆっくりと3粒の錠剤を口に入れ、水を流し込む。

コップの水を飲み干すと、直ぐにそれを舞に手渡した。
「お大事に。」
舞は軽く会釈をすると身体を出口へと向けた。

「ちょっと待ちなさい。」
義男がゆっくりとした口調で呼び止めた。

「はい?」
再び義男の席の方に振り向く舞。
義男は、ゆっくりと膝に掛けてあった毛布を取った。

するとそこには膝までズボンとパンツをずらしていた姿が
現れた。
ちょうど、だらんと垂れた肉棒が、ゆっくりとその頭を持ち
上げつつあった。

「まあ。うふふふ・・」
優しい笑顔を浮かべた舞は直ぐに左手を、その肉棒に添えた。
そしてゆっくりと上下に動かした。

「おおおお。やっぱり本当だったんだな。」
昨日感じた柔らかい手の感触を思い起こした。

舞は素早くしゃがみ込むと、義男の両足の間に身体を入れた。
そして昨晩と同様の念入りなおしゃぶりを始めた。

まるで大事な宝物を慈しむ様に慈愛溢れる笑みで、それを口に
含んでいた。

「お前の願い事ってこれだったのか。」
「うん。」
「あの男はどうするのだ?結婚は止めるのか?」
「いいえ。ちゃんと結婚するわよ。」

「バレたら大変だぞ。」
「大丈夫よ。今度あの人イギリスに転勤なの。」
「でも母さんはどうするんだ?」
「外で会えば問題は無いわ。」

「外で?」
「そう。私ね、この仕事続ける事にしたの。そうすれば旦那様にも
会いに行けるし、仕事帰りのお父さんとも外で会えるし良いでしょ?」

舞は少し歯を立てた。
「痛っ!」
義男は思わず腰を浮かせた。

「うふふふ・・・」
イタズラっぽい笑顔で義男を見る。
「私には2人の旦那様がいるの。勿論お父さんにも2人の妻がいるのよ。」

「そういえばあの男、どことなく俺に似ていたなぁ。」
「私、お父さんの事、ずっと好きだったの。」
「そうか。」

「あの四つ葉のクローバーは私に幸せを与えてくれたわ。」
「私もそう思うぞ。」
義男と舞は互いの顔を見合わせると自然と笑みがこぼれた。

「一緒に住みましょ。いいでしょ?。」
「ああ大歓迎だ。だけどあの男が承知するかどうかだが・・」
「大丈夫よ。あの人私の言いなりだから。」

舞の手の動きが、速くなってきた。
義男は段々堪らなくなってきた。

「おおお。いいぞ舞。そろそろイキそうだ。もうちょっと
しゃぶっておくれ。」
「はい。お客様。」

舞の丁寧な舌使いが、とても気持ち良かった。

「それとねお父さん。」
「何だ?」
「あの人とお父さんとが似ている所が、もう1つあるのよ。」
「ほう。どこだい?」

「血液型よ。」

そう言うと舞は、一気に根元まで飲み込んだ。
堪らずに義男がうめいた。
「い、イク。」

爆発した溶岩は、ゆっくりと舞の喉元に流れ込んで行った。
その時、ふと外を見た。真っ白に雪化粧された富士山があった。
ああ日本だ。
やっと帰れたのだ。必然とこみ上げる喜び。

舞も顔を上げて、同じ様に外を見た。
そしてゆっくりと立ち上がった。
その時、アナウンスが流れてきた。

「皆様。間もなく当機は、着陸の準備へと入ります。
着陸の際には、大変危険を伴いますのでシートベルトを着用の上
静かにお待ち願います。今回は当飛行機をご利用頂きまして、誠に
ありがとうございました。またのご利用を心からお待ち申し上げて
おります。」

                      (おわり)

[2005/01/09]

投稿者 チップイン

個人撮影
06 /30 2018
この掲示板からお宝を集めたのか覚えのないものから、有名な掲示板までさまざま。
チップイン様:「アラフォー女上司」とのことですが、今も関係は続いているのでしょうか?
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投稿者 東

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06 /30 2018
どこの掲示板からお宝を集めたのか覚えのないものから、有名な掲示板までさまざま。
東様:「66歳超熟妻」とのことで、いつまでも変わらぬ愛を祈ります。
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投稿者 ぽぽ

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ぽぽ様:モデルは「義母70歳」とのことで、お二人の関係がどのようなものなのかもっと知りたかったです。
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eroerojiji

小さい頃からエロいことが好き。そのまま大人になってしまったエロジジイです。