木村は、姉ちゃんが僕とやって死にそうなくらいよかったと言ってたから、美由紀さんも
中山とやってみたほうがいいかも知れないと言ったのだそうだ。
「わたし、和子のお母さんからも同じような話を聞いたので和子に問いただしたの。そう
したら、和子ったら、智ちゃんと結婚の約束したって言うでしょう、わたし頭の中が真
っ白になっちゃったの。」
「それで智ちゃんにお願いなんだけど、美由紀ちゃんにも、ほんとうの男の味を教えてや
って欲しいのよ。義男じゃだめだわ。あの子技巧的ではあるんだけど、真剣さが足りな
いの。あたしもこれまでに何人かの人とセックスしてきたけど、子宮口が開くほどいい
気持ちになったのは、智ちゃんだけよ。さっきも言ったけど、あたし、智ちゃんの子を
産みたいの。だから、美由紀ちゃんにも智ちゃんの愛を分けてやって欲しいの。」
「本当に僕でいいの?」
「ええ、お願い。わたしにも智ちゃんの子を産ませて。結婚できなくてもいいの。
和子のお母さんも言ってたわ。ぜひ智ちゃんの子を産みたいって。」
「母さんまでそう言ったの?競争相手が多すぎるわね。」
そう言って姉ちゃんは楽しそうに笑った。
「なんだか種馬みたいな気もするけど、姉ちゃんたちさえよければいいよ。でもね、僕は
母さんのことが好きで好きでしょうがないんだ。だけど、姉ちゃんのことも愛してるん
だ。もちろん、美由紀さんのことも。すごい浮気者みたいだけど、本当のことなんだよ。
姉ちゃんちのおばさんのことも大好きだし、どうして僕の周りにはこんなに素敵なひと
ばっかりいるんだろうって、いつも思うんだ。」
僕は本心からそう言った。
「ありがとう、智ちゃん。あとで、そうねえ、いま9時半だから、11時半頃になったら来
てくれない。鍵は開けておくから。どうしても今夜美由紀ちゃんを抱いてやって欲しい
の。無理言うけど、お願いね。」
「うん、それじゃあ、あとで。」
僕はそう言って部屋を出た。
僕が部屋に戻ると、母はおばさんと和やかに談笑していた。
「あら、智ちゃん、ちょうどよかったわ。」
おばさんが一緒に聞いてくれと言う。
「智ちゃん、申し訳ないけど、わたしこれまでのこと、智子さんにみんな話したの。こう
いうことって秘密にしておくのはよくないから。」
おばさんは大して申し訳なさそうではない調子で言った。
「母さん、黙っててごめんね。」
僕はすなおに謝ったが、
「智ちゃん、わたし気にしてないわよ。むしろ、ほっとしているの。智ちゃんが、わたし
だけしか知らないなんて、ちょっと可愛そうだなとも思ってたんだから。」
母も笑顔で言う。
「和子もお陰さまでうまく離婚できたし、智ちゃんたちもめでたく“結婚”できたことで
もあるし、そろそろわたしも身辺整理しようかなって思ってるの。」
「どういうこと?」
「ご主人と離婚されるらしいの。」
「へえ、いよいよなの?」
「あら、智ちゃん、知ってたの?」
おばさんが、意外なことを言われたというような顔をして言った。
「いけねえ、これ、ないしょだったんだ。」
僕は慌てて口を押さえたが、もう間に合わない。これまで僕は“無口”で通っていたのだ
が、いろいろな人とおまんこするようになってからは、大分口数が多くなってしまった。
反省しなければいけない。
「智ちゃんの知ってるってこと、どういうこと?」
おばさんが不審そうに言った。
「谷山先生とのことでしょう?」
「やっぱりそうなの。そうじゃないかとは思ってたんだけど。」
おばさんはくすくすと笑いながら言った。
「あれ、僕、余計なことを言っちゃったみたいだね。」
「そんなことはないのよ。わたしも薄々感じてたんだから。」
おばさんは、おじさんが谷山先生と関係しているらしいということを1年くらい前から知
っていたそうだ。
「でも、わたしって、そういうことがあまり気にならない性格なの。わたしの家系は昔か
ら母系家族なの。出も、女系家族というのとは少し違うのよ。」
「へえ、母系と女系と違うんだ?」
「ええ、そうよ。女系家族というのは家族の主要構成員が女だというだけで、一家の主は
父親なんだけど、母系家族というのは家族の構成員はどうでもかまわないんだけど、一
家の主が母親で、その母親を中心として家庭ができているのよ。」
「なんか、母子家庭みたいな感じだね。」
「そうじゃないのよ。いい、子どもが生まれるには父親と母親が必要でしょう?でも、子
どもが出来てしまえば、どちらか片方がいなくてもなんとかなるわよね。」
「それはそうだね。」
「そこで、問題となるのは主導権を取るのは誰かということなの。家庭の外では男が主導
権をとり、家庭の中では女が主導権をとる、というのがこの国の昔からの習わしだった
のよ。それが母系家族なの。子どもを産むのは女なんだから、夫は妻の生んだ子はすべ
て“子ども”として認知し、“本当の父親”が誰かは問わないの。その代わり、夫がよ
その女に子を産ませても、妻がああだこうだと言うのは許されないの。今で言うスワッ
ピングと少し似ているけど、子どもの出産から育児まですべて母親の責任でやるの。父
親というのは“母親の夫”だというだけなの。わかった?」
おばさんはそこまで一気にしゃべってお茶を口に運んだ。
「ようするに、父親というのは妻の夫なんだから、妻が産んだ子は自分の子として育てな
ければならないっていうわけ?」
「そういうことよ。その代わり、夫がよその女といい関係になったからといって焼き餅や
いたりしちゃあいけないの。」
「平安時代だったかな?そんな話を聞いたことがあったなあ。」
僕は以前、中学生向けの口語訳本でそんな記述を読んだことがあったような気がして言っ
た。
「そうね。わたしも聞いたことがあるわ。」
母もそう言う。
「わたしの家も代々そういう家柄なの。家柄って言うとオーバーだけど、そういう性格の
人間が多いのよ。わたしもそうした人間の一人で、自分が産む子どもは愛した人の子じ
ゃなくちゃいやなの。だからって言うわけではないけど、和子も義男も主人の子ではな
いの。わたしの子には違いないけど、それぞれ父親は違うのよ。」
「そのこと、木村も姉ちゃんも知ってるの?」
「ええ、知ってるわよ。ちゃんと話してあるから。和子も義男もわたしと考えが似ている
し、主人もその点は理解してるからよかったんだけど、谷山先生はその辺を理解してい
ないから主人を独り占めしたいらしいの。まあ、普通の人なら当たり前なんだけど、つ
い最近、主人から離婚したいって言われたの。それで考えてるのよ。そろそろ主人を解
放してやろうかしらって。」
「へえ、そうなの?」
僕は感心して言った。何に感心したかと言えば、おばさんが主導権を持っているって事に
だ。
「智ちゃんはどう思う?」
「そうだなあ、おじさんがそう思ってるんなら離婚してやった方がいいんじゃないのかな
あ。?母さんはどう思う?」
「わたしも智ちゃんと同意見ね。ご主人は谷山先生を愛しているんでしょうから、もし和
美さんが、どうしてもご主人を手放したくないというのでなければ、離婚して差し上げ
た方がいいのじゃないかしら。」
「そうね。あなたたちの考えを聞いてすっきりしたわ。どうもありがとう。」
姉ちゃんが離婚を決めたときにも今のおばさんと同じことを言ったのを覚えている。
「ところで、あなたたちはこれからどうするの?」
おばさんが僕の顔を見て言った。
「さっきもお話したように、わたしとこの子は母子でありながら姉弟でもあるし、みなさ
んに祝福された夫婦でもあるわけだから、末永く濃密な愛を交わしていきたいと思って
るんですけど、みなさんのお申し出でもあるし、この子さえよかったらみなさんに子種
を授けるのは、わたしはかまわないと思うんです。智ちゃん、どう?」
母は上気した顔を僕に向けて言った。なぜか少し辛そうに見える。
「母さん、僕、母さんのこと死ぬほど愛してるんだよ。でも、おばさんのことも、姉ちゃ
んのことも、美由紀さんのことも好きなんだ。みんなが僕の子を産みたいって言ってる
のはさっき聞いたばかりだけど、母さんが許してくれるなら、みんなに僕の子を産んで
もらいたいんだ。みんなが産んでくれた子は母さんの甥っ子か姪っ子だと思ってくれれ
ばいいんだ。孫だと思ってくれてもいいよ。みんなの、と言うより、それぞれの子だと
思ってくれればいいんだよ。僕たちの子は、母さんと僕との間に生まれた子だけなんだ
から。おばさんが言ってるのはそういうことなんだと思うけど?」
僕は都合のいい理屈を言ってしまったことを後悔したが、遅かった。
「わたし、智ちゃんのこと、それこそ死ぬほど愛してるから、本当は他の人とセックスし
て欲しくはないの。頭の中ではよくわかってはいるんだけど、やっぱり、やだわ。和美
さん、ごめんなさい。わたし、智昭が他の女の人と性交することなんかとても考えられ
ないの。智ちゃん、堪忍して。母さん、あなただけが生きがいなの。だからわかって。」
母は泣き出してしまった。母は僕が否定的な気持ちを表明してくれることを期待して言っ
たのだ。それを額面どおりに受け取って、母の気持ちを無視した物言いをしてしまった。
母が泣き出すのは当たり前だ。僕は母の身体を抱きしめ、
「母さん、僕が悪かった。もう母さんを心配させるようなことはしないから、安心して。
ごめんね。おばさん、こういうことになっちゃったんだ。本当に申し訳ないけど、この
話、なかったことにしてよ。」
「ううん。わたしこそ無神経なことを言っちゃって、申し訳なかったわ。智子さん、もう、
言わないわ。気分を直して。わたしだってあなたたちが幸せになってくれることが一番
なんだから。許してね。智ちゃんも、わたしたちが言ったこと、忘れてちょうだいね。
和子にも、美由紀ちゃんにもよく言っておくから。」
おばさんは気まずそうにそう言って戻っていった。
「母さん、僕、約束するよ。これからは、母さん以外の女とは絶対にセックスしないよ。
母さんが一番大事なんだから。」
僕は浮気を見つけられた亭主みたいにおろおろしながら言った。
しばらく母の背中を愛撫しているうちに母も気を取り直したようで、
「智ちゃん、ごめんなさいね。取り乱しちゃって。でも、わたしの気持ちは言った通りな
の。だから、お願い。よそにあなたの子をつくるなんて言わないで。」
「うん、もうけっして言わないよ。僕は母さん一人だけいればいいんだから。」
「それじゃあ、キスして。うんと優しくしてくれないといやよ。」
「うん。母さん、愛してるよ。」
それから僕たちは空が白み始めるまで激しく燃えながら愛し合った。
(16)へつづく・・・