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小説(転載)  Coffee Shop 7/7

官能小説
12 /08 2018

美知が目覚めると、見知らぬ天井が見える。ゆっくり上半身を起こすと、ちゃんと服も着ている。
「夢…だったの?」
恥ずかしい夢を見てしまい、美知の顔が一気に赤くなる。

「きゃっ」

 起きあがろうした美知は、がくっと逆に倒れ込んだ。
「気が付いた?」
慌てて首をあげると、そこには竹内の顔がある。竹内が起きあがろうとする美知の腕を引っ張ったのだ。
 

「ここ、俺のマンション。」
自分の状況が理解できない美知に、竹内は説明した。
 美知は失神したまま気が付かず、竹内が服を着せ、抱きかかえて帰ってきたらしい。管理人には途中で貧血を起こしたと言い訳したが、たぶん信じていないだろうと竹内は笑った。
「しょ、書類は?」
同僚に頼まれた書類はどうしたのか、と美知は聞きたいらしい。竹内はさらに笑って、
「届けてきたよ。あいつ、えらくすまなさそうに謝るから、今回の件については、俺の方が感謝してるって言って置いた。」
明日から、資料室に行ったらにやけちゃうなあ、と竹内はうれしそうに笑った。
夢ではなかったのだ。美知は自分の姿を思い出し、一気に恥ずかしくなった。

「やっと主導権を握れたって感じ。」

美知の躰を抱きしめ、竹内はつぶやいたあと、ちらりと時計を見た。

「まだ、時間あるよ。…一緒に風呂に入ろ。」

「えっ…だ…だめ。だめです。」

竹内に手を引っ張られ、美知は懸命に首を振る。竹内はシャツとズボンを脱ぎ、トランクスだけになると、無理矢理美知のセーターを脱がせようとした。美知は竹内から逃れようともがいている。

 

「そう……そんなに嫌なら……」

竹内はそう言うと、美知を背後から抱きかかえ、首筋に唇をあてた。美知の全身がびりりと痺れる。

「美知の弱点……知ってる……。」

美知の耳元で竹内がささやき、そのまま唇で刺激し始めた。小さな悲鳴をあげる美知の服を脱がせた竹内は、裸の美知を持ち上げてバスルームに入っていった。

 

 恥ずかしそうに両手で躰を隠す美知にシャワーをあてた後、自分もさっと浴びた竹内は、空の浴槽に美知を抱えて腰を下ろした。蛇口から勢いよくお湯が流れ出し、二人の座る空の浴槽にお湯が張られていく。

「こっち向いて座って。」

恥ずかしがる美知に、竹内は強引に自分の太ももをまたがせ座らせた。竹内は両手を美知の腰にまわし、美知をゆっくりと抱き寄せる。

「昨日はごめんね。あんな場所で…。俺さ、喫茶店できみを見かけてから、いつか声をかけようって思ってたんだ。だから…すごく嬉しかった。告白されたのも、昨日のきみの反応も…。」

竹内の言葉に、美知は竹内の胸にしがみついた。

 

「あ…だめ…。」

突然、竹内が声をあげる。美知が驚いて竹内の顔を見ると、竹内の顔が少し赤くなっていた。

「どう…したんですか?」

「胸……美知の胸があたって、目が覚めちゃった。」

照れくさそうな竹内のつぶやきは、美知の下腹部にあたるものを指していた。美知が慌てて躰を浮かせると、竹内は美知の腰を片腕で抱きかかえ、美知の股間に自分のものをあてがった。

「だめです。そんな……動かさないで……や…っ……」

「美知の中に…入りたい。」

美知の秘部を男根の先でなぞり、竹内は美知の愛液を誘い出す。

 

 無防備に開かれた美知の秘部は、竹内の感触に反応を示し始めていた。

「竹内さ…ん……ず…るい…あっ……」

美知の躰がゆっくりと引き寄せられるように、竹内を受け入れていく。数時間前の熱い行為が、美知の躰に種火として残っていたらしく、美知の躰は急激に熱くなっていく。浴槽は竹内の胸のあたりまでお湯がたまり、竹内は蛇口をひねった。急に静かになった浴室の中で、竹内は美知の顔を見つめる。

「動いてもいい?」

美知は、うなずくしかなかった。じっとしていると、自分から腰を動かしそうになってしまう。

「あっ……んんっ……た…竹内…さ…ん……」

竹内は下からゆっくりと美知を突き上げ始めた。浴槽の水面が大きく揺れる。

 

「今日は…会社に行きたくないな…。」

片手で美知の腰を支えながら美知を突き上げる竹内は、もう片方の手を美知の頬に手をあてる。頬をピンク色に染め、潤んだ瞳で竹内を見つめる美知を手放せそうにない。

「んっ……はぁっ……はぁぁっ……あぅっ……」

ちゃぷんっ…ちゃぷんっ…ちゃぷんっ、ちゃぷんっ…

水面が音を立て、浴室内に響き渡った。

 

 

「恥ずかしいことばかりするんだもの…竹内さん。」

風呂からあがり、ベッドで竹内に抱きしめられながら、美知はうらめしそうにつぶやいた。美知にとって、思いを寄せていた竹内にされることはすべて恥ずかしく感じていた。顔を見つめられるだけで頬が染まる。

「恥ずかしいこと…?…そうかなぁ。それほどでもないと思うんだけど。」

竹内は美知の髪をなでながら、美知の顔を見つめた。

「それじゃあ、今夜はもっと恥ずかしくしてやろっかな…。…っと、ぼちぼち行かないと…。」

美知に軽くたたかれ、竹内は起きあがると、服を着始めた。会社に行く時間が近づいていた。美知もふとんの中でごそごそ動いている。ふと、竹内はカレンダーに目をやった。

 
「今度の連休、空いてる?」
竹内の問いに、美知はうなづく。
「そう、じゃ、一緒に俺の地元に連れてく。」
 

 

しばらくして竹内の会社のデスクマットの下には、同窓会の写真と、竹内の家族と笑う美知の写 真がはさまっていた。

 

~終わり~

小説(転載)  Coffee Shop 6/7

告白・体験
12 /08 2018

 竹内は美知に口づけすると、耳元に唇をあてた。
「そこ…、だ、だめなの…。」
美知が逃れようとする。

「知ってる……」

竹内は美知を抱きしめて、ささやいた。竹内が耳たぶを刺激するたび、美知の躰がぴくんと痙攣し、甘く小さな悲鳴が漏れる。竹内は、美知の甘い声に酔いしれながら、なおも耳から唇を離さない。竹内の腕を握る美知の力が徐々に強くなっていく。

「や……ほん…とに…んっ…だ…め……あぁっ……」

 

 竹内は美知の腰に手を回し、美知のセーターの中に手を入れた。つるりとした感触が竹内の手に触れ、セーターの下にサテンのスリップを着ていた美知の肌にまだ触れることはできなかったが、サテンのなめらかな肌触りと美知の暖かさが、竹内を興奮させた。

「はぁっ……ぁふっ……」
 竹内は徐々に上へと手を這わせ、大きなやわらかいふくらみを感じたかと思うと、そのまま肩へと手を這わせた。ようやく、美知の肌に直接触れると、腕の方へ移動し、セーターのそでから美知の細い腕を抜いた。竹内は反対側の美知の腕も抜くと、名残惜しそうに耳元から唇を離し、美知のセーターをすべて脱がせた。

  
 今度は美知に口づけし、舌を入れていく。美知の力は完全に抜け、竹内の舌に自分の舌をゆっくりと絡ませ始めた。
 美知のブラジャーのホックが竹内の指先でぷちんと音を立てる。竹内は、ブラジャーとスリップの二本の紐を一緒に肩からはずした。
 竹内は首筋に唇を這わせながら、下着を少しずつおろしていく。同時に美知の細い躰に似合わぬ 大きな胸があらわになっていった。
「み、見ないで………」
美知の哀願は聞き入れられるはずもなく、そのふくらみは、竹内の手のひらに吸い付く。
「きれいだね。」
上から美知を見つめる竹内のつぶやきを聞いて、美知は恥ずかしさで顔をかくした。
「いや…。」
竹内は、美知の乳首を舌先で刺激しながら、美知のスカートとスリップを脱がせた。たまらず、美知が躰を竹内に寄せ、裸同然の自分を隠そうとした。竹内は、美知の髪を掻き上げながら、無防備に上を向いた美知の耳たぶに唇を近づけた。
「また……や……ん…っく……」

 熱い息が耳にかかると、美知の躰はまたぴくんと痙攣する。

「そんな声出されたら…やめられないよ……。」

その反応を楽しむように、耳元で竹内がささやくと、美知は竹内のシャツを握りしめて、声を押し殺す。

「もっと…聞かせて。」

トン…、美知が思わず竹内の胸をたたいた。

 
 竹内は美知の手をシャツからはずし、シャツを脱いだ。竹内の肌が美知の肌と触れ合う。はじめて感じる竹内の肌の匂いに、すがりつきたい気持ちと恥ずかしさでいっぱいになり、美知の躰が熱くなる。
 竹内は、また美知の乳房へ唇を這わせる。腰に回されていた竹内の指は、ショーツの中へ滑り込み、腰から前に移動し出した。

「いやっ……だ…だめっ…」

美知の声が大きくなり、精一杯の抵抗を見せるが、竹内は全身を隠そうと横を向いている美知の躰を倒し、乳首を軽く噛むのと同時に美知の秘部へと指を滑らした。

「だめぇぇぇ……うっ…」

くちゅっ…

美知の愛液が小さな音を立て、竹内の指に絡みつく。秘部がなめらかな液体で覆われ、竹内が探らなければその形が分からないほど愛液があふれている。

「はずかし…い……うぅっ…」

竹内に性感帯を刺激され続け、美知はこれまでにないほど濡れていることに戸惑っていた。

「恥ずかしいことじゃないよ……もっと感じて…」

「やっ……あぁぁぁっ……」

くちゅっ…ちゅぷっ……くちゅっ…ちゅぷっ…ちゅぷっ、ちゅぷっ、ちゅぷっ…

竹内は、美知の女陰にゆっくりと指を挿し込むと、美知をさらなる快感へと誘う。 声を出さないように我慢していた美知からせつない悲鳴が聞こえ始めた。美知の下着をすべて取り除き、自分も裸になった竹内は、愛液があふれる美知への行為をやめない。

 
「あぁぁっ……はうっ……い…や……あぁぁっ……」
 美知は波のように自分を襲う感覚に、頭が麻痺していく。何度も繰り返される愛撫を受け、我慢しても漏れてしまう自分の声を止めることができない。どのように逃れようとしても、竹内は確実に自分の弱点をとらえてくる。
(変になっちゃう…お願い、もう許してぇ…)

「あぁぁっ…んっ…うぅっ…んくぅぅぅぅっ……」
びくんっ…びくんっ……びくんっ……

喉から絞り出すような悲鳴を上げたあと、美知の呼吸が一瞬止まり、美知は竹内の指で絶頂に達した。

 
(…もう解放されたの…?)
 
「ひぃぃっ…。」

一瞬、美知は自分を支配していた快感から解放されたと思った。しかし、次の瞬間、美知の躰が大きく仰け反る。はちきれそうな竹内が美知の中に入り込み、ゆっくりと動き始めていた。

「はあぁぁっ……あうっ……はぁっ……」

美知の視界が徐々に揺れ始め、竹内の姿がぼやけていく。竹内の男根が引き戻されるたび、美知の愛液がお尻の谷間を伝い、静かな空間に、美知の甘い悲鳴と、竹内の荒い息づかいが溶け合っていた。

 竹内は、何度も射精感に襲われていたが、そのたびに動きを変え、美知を深い快感の淵へと誘い込もうとしていた。美知の乳房が、竹内に突き入れられるたび、大きく揺れる。

「も…もう……俺も…限界っ……」

何度も絶頂に達している美知の女陰がびくんびくんと痙攣し、竹内に甘い苦しみを与えていた。

「うっ…くぅぅぅぅっ…」

限界ぎりぎりまで美知に快感を与え続けた竹内は、かろうじて美知から飛び出した。

小説(転載)  Coffee Shop 5/7

官能小説
12 /08 2018

 竹内のあたたかい唇の感触と、熱い息が美知の耳元に伝わり、美知の目がさらに潤む。竹内は、つかんだ手を自分の胸元にねじり込み、美知を強く抱きしめた。美知は竹内の力に全く動けなくなり、躰をほんの少し震わせている。  
 竹内は美知の耳にかかった後れ毛をそっと耳にかけながら、美知の耳たぶを唇でなぞった。美知の躰に電流のようなものが走ったことを、胸元にあてられた美知の指先から感じ取った。指先がぴくんぴくんと痙攣している。

「だ…、だめっ…。」
美知の甘い声に、竹内の中に熱いものが込み上げてきた。
 

「俺は、ずっと前から…、きみのことが好きだったのかもしれない。」
竹内が、耳元でささやくと、美知の体から力が抜け、ふらっと倒れそうになった。
 竹内は美知を支えながら、資料室のドアを開け、美知を机の上にゆっくりと押していく。

ズ、ズズ…ズズズ……
机が美知の腰に押されて動き、棚にあたって止まった。竹内は、仰け反るような体勢の美知の耳元から唇を離し、美知を見つめた。潤んだ瞳と、何かを言いたげに少し開いた唇が、なまめかしい。
 

 竹内は美知の唇に、自分の唇を重ねると、軽く下唇を吸いながら離す。美知の唇はやわらかく竹内の唇を追いながら離れていく。竹内は口づけを何度も繰り返しながら、やがて美知の唇の中へ舌を入れていった。
くちゅっ……ちゅぷっ…

 深く絡み合う舌が、小さな音を立て始めると、竹内は抱きしめた力を少し緩め、セーターの上から、美知の胸に手をあてた。美知の体にフィットしたセーターの手触りが、美知の胸のやわらかさを強調し、思いのほか、美知の胸が大きいことに気づかせる。
「んっ…。」
自分を抱きしめる竹内の力が緩められたすきに、美知が竹内から少し離れた。
「こん…、こんなところで…。」
頬を染めて美知が慌てるのを見て、竹内はにっこりと微笑み、美知の耳元で
「どこならいい?」
とささやく。
「ど、どこって………。」

 
 戸惑う美知をまた抱きしめ、竹内は黙った。さきほどから、美知の腰に押された机は、ギイギイと音を立てて、静まりかえったビル内に響いている。こんな音がしていては、竹内も落ち着かないし、何よりも、もっとゆっくりと美知を愛したいと思った。
「ちょっと待ってて。」
竹内は美知を資料室に残し、出ていった。カツカツという竹内の足音が小さくなる。一人暗い部屋に残された美知は、高鳴る鼓動を押さえるように、両腕を交差し、自分の肩を抱いた。
「どうしよう…。」
躰全身がドクッ、ドクッと脈打つ。
「俺は、ずっと前から…、きみのことが好きだったのかもしれない。」
竹内がささやいた言葉が頭の中でよみがえる。
「ずっと好きだったのは…、私のほう……。」
美知は思った。喫茶店のバイトを始めてから、ほぼ毎日顔を見せる竹内に、美知は密かに思いを寄せていた。竹内と会いたいがために、他のバイトはやめ、喫茶店だけにした。授業の都合でバイトに行けない日は、落ち着かず、竹内への思いが募った。
 痴漢から助けてもらったときは、竹内に抱きつきたい感情をこらえ、あのまま部屋に帰って声を出して泣いた。喫茶店の奥さんにお膳立てしてもらってデートしたとき、竹内自身にデートを誘われたとき、そして、さっきの言葉、どんなにうれしかったことか…。
 美知の目から涙があふれ出した。めまぐるしい想いが美知の感情を高ぶらせる。
 

 一方、竹内は資料室を出ると、オフィスに向かった。
「確か、毛布があったはずだ。」
オフィスの奥には、徹夜で仕事をしなければならないときの仮眠のために、毛布が何枚か置いてあった。
「高校生でもあるまいし…。」
竹内は、何枚かの毛布をかかえて歩きながら思った。女性経験は少なくはない。こんな場所ではなく、自分のマンションでも、ホテルでも、場所を変えればいい。今の自分の行動が、竹内自身、信じられない。なぜだろう。今すぐに美知を感じたいという気持ちが込み上げてくる。竹内は普段冷静なだけに、自分でも驚いているのだ。

 
 竹内がドアを開けると、美知が泣いている。
最悪だ。自分のデリカシーのなさが、美知を傷つけてしまったのだと、竹内は思った。毛布を床に投げ出し、美知に近づく。
「ごめん…。俺が悪かった。…本当に…。」

「ちがうんです……。」
美知は謝る竹内に、首を強く振りながら、その場に座り込んだ。慌てて竹内が毛布を広げて美知を座らせ、自分は床の上にあぐらをかいた。

 
 美知は、自分の気持ちを竹内に打ち明けた。
「気持ちが…、自分でもコントロールできなくて…。ずっと好きだったから……。」
美知が自分の行動に失望して泣いたのではないと知り、竹内はほっとした。そして、今、目の前で、自分のことを好きだと泣く美知を見て、どうしようもなくかわいいと思った。
 竹内は閉め忘れた入り口のドアを閉め、中から鍵をかけた。そして、美知をゆっくりと毛布の上へ押し倒した。

小説(転載)  Coffee Shop 4/7

官能小説
12 /08 2018
 

 竹内は、肌寒さを覚え、目を開けた。今の時期は夕方になると急に冷え込む。
「おはようございます。」
竹内が驚いて振り向くと、美知がさきほどの体勢のまま、こちらを見ている。
「竹内さん、まつげ長いんですね。」
美知の言葉で、自分が美知を見つめていたように、美知もまた、自分の寝顔を見ていたのだと分かり、竹内は焦った。
 

「い…いびき、かいてなかった?」
他に言葉が浮かばず、竹内が尋ねると、美知は真顔で
「かいてました。」
と答える。慌てながら謝る竹内を見て、美知はくすくす笑い出した。
「うそです。静かに寝てましたよ。」
ほっとする竹内の隣で美知が起きあがり、車の外へ降りた。竹内もドアを開けると、膝の上に自分の上着が掛けられていることに気づいた。美知がかけてくれたのだろう。
 上着を着ながら、美知のそばにより、富士山を見上げた。富士山は夕日に照らされて、赤く染まっている。写 真で見たときよりも色は薄いが、十分美しいと思った。きれいですね、という美知の言葉に、竹内はうなずいた。
 

「竹内さん。」
美知に呼ばれて振り返ると、美知が竹内を見上げている。夕日に照らされているせいか、美知の顔が赤い。
「私、竹内さんのこと…、好きです。………よかったら…、」
「ちょ、ちょっと待って。」
 続きを言おうとする美知を、竹内が止めた。竹内は片手で額を押さえ、美知を見た。夕日に照らされていたからではなく、想いを打ち明ける恥ずかしさで、頬を染めていたのだ。
「また、先手をとられたのか…。」
竹内は小声でつぶやくが、美知にはその言葉が聞き取れなかったようで、不安そうに竹内を見上げている。
 

「俺がいずれ言おうと思っていたんだ…。まったく…。最初のデートは喫茶店の奥さんの小細工だし、告白もきみからで…。」
竹内は指を折り、数えながら続けた。
「まあ、結果オーライってことにしよう。」
竹内の返事を聞き、更に頬を染める美知の耳元に、竹内はそっと手を添え、美知の唇に軽く口づけする。先ほど触れないでいた美知の唇はやはりやわらかかった。

 
 帰り際、立ち寄ったレストランで食事をしていると、竹内の携帯電話が鳴った。会社の同僚からだった。竹内は、しばらく話をし、電話を切ると、
「帰りに会社に寄っていいかな。」
と美知に尋ねた。竹内の同僚が、会社に資料を忘れ、もし近くにいるなら届けて欲しいと言ったらしい。今、山梨だからと断ったが、遅くてもいいから、と言う。自分が行くのが面 倒くさいだけなんだろ、と竹内があきれた。
 美知は別に構わないし、自分も竹内の会社が見てみたいと答えた。
 

 

 東京に戻ってくると、九時をまわっていた。ビルの管理人室に行くと、同僚が電話で事情を説明していてくれたらしく、竹内はすんなりと鍵を受け取った。美知は竹内の後ろから、しんと静まりかえったビルの廊下を歩いて行った。
 エレベーターは止まっているので、五階にある竹内のオフィスまでは、常夜灯の明かりだけの薄暗い階段をのぼらねばならない。
「誰もいない会社って、妙な感じがするなあ。」
竹内が言うと、美知は内緒で忍び込んだ気分だ、と笑った。
 竹内がオフィスのドアの鍵を開け、スイッチをつけると、部屋の一画だけ、蛍光灯がついた。たくさんのデスクが並び、コンピューターの間に挟まれるようにして、たくさんのファイルが雑然とつまれてある。美知は珍しそうに部屋の中を見渡している。竹内は、早足で部屋の奥へ行き、大きなスチール棚の引き出しを開けた。
「あれー、どこだあ。」
そう言いながら、あちこち調べ始めた。
「ごめんね。すぐに済むから。あっ、ちなみに俺の机はそこ。」
美知は竹内が指さしたデスクに近づき、少し前かがみになって見ていた。竹内のデスクは他のデスクよりも片づいていた。デスクマットの下には、同僚たちと一緒に撮ったらしい写 真が挟んである。
 

 竹内は、探し物が見つからないらしく、携帯電話で同僚に場所を尋ね、何やら文句を言ったあと、電話を切り、美知を呼んだ。
「ごめん、隣らしい。」
竹内は美知とオフィスを出て、鍵をかけ、廊下の突き当たりの角を曲がったところにある、ドアの鍵を開けた。
 狭い部屋の壁には、五段ほどの棚があり、そこにはズラッと資料が並んでいた。竹内は部屋の電気をつけると、棚の前にしゃがみこんで、何冊かのファイルを抜き取り、部屋の中央の大きな机の上に広げた。
 

 美知は、部屋を少しのぞいたあと、廊下の窓際に行った。窓の下には、夜景が広がっている。明かりのついたビルもある。目線を移すと、車のライトの黄色い光と、反対車線の赤いバックライトの光が行き交う様子も見える。美知はしばらくその光景を眺めた。
「あった、あった。」
ようやく竹内が資料を見つけ、部屋の電気を消して部屋を出た。ドアの鍵をかけようとした竹内が、ふと窓際の美知に目をやった。
 美知はじっと窓の外を眺めている。
 

「何か、見える?」
竹内が美知のそばに来ると、美知は、車のライトの光が生きているようでおもしろい、と言った。
 富士山が見たいと言ったり、車のライトが生きているみたいだと言ったり、竹内は美知の興味の矛先に、不思議だな、と思いながら、美知の横顔を見つめた。
 

 瞳に夜景の光が移っている。夜景をじっと眺めている美知は、竹内の視線に気づかないらしく、静けさが二人を包んだ。
 

 竹内は、美知の肩に手を置くと、美知の耳元に軽く口づけした。
「あっ…。」
驚いた美知は、一歩後ずさりし、口づけされた耳を片手で押さえた。美知の頬がみるみるうちに紅潮し、目が潤んでくる。
「びっくりした…。」
そう言いながら、美知が耳に当てた手を下ろしたとき、竹内はもう一度美知の耳元に唇をあてた。
「やっ。」
声になるかどうかの美知のつぶやきを聞き、竹内は耳を押さえようとする美知の手を押さえ、なおも耳元を刺激する。美知は反対側の手を竹内の胸にあて、少し抵抗しようとしたが、竹内に抱きしめられ、そのまま動けなくなった。

小説(転載)  Coffee Shop 3/7

官能小説
12 /08 2018
 
 その日、喫茶店に寄ると、美知はいつものように働いていた。美知は竹内の姿に気づくと、
「今日は、ありがとうございました。」
と微笑んだ。近くにいたマスターが不思議そうな顔をしている。
「何?どうしたの?」
マスターの質問に、竹内は返事に困ったが、美知がマスターに事情を説明してくれた。
 

「やるねえ。竹内くん。」
美知がそばを離れたすきに、マスターが話しかけた。そこへ、カウンターの奥から、マスターの奥さんが顔を出した。マスターは奥さんを呼び、竹内の話をし始めた。
「ちょっと、やめてくださいよ。」
竹内の制止も聞かず、マスターは奥さんに事情を説明した。
 奥さんは、妙に感心し、いいことを思いついた、と言って奥から何かを持ってきた。
「美知ちゃん。」
奥さんは、離れたところでテーブルを片づけている美知を呼び、美知に紙切れを渡した。
「これ、あげるから。竹内くんを誘って行ってきなさいよ。」
奥さんが渡したのは、映画のチケットだった。お客さんに頼まれて買ったのだが、店があるから行けないと奥さんは言った。
 

 竹内は焦った。この変な雰囲気は何なんだ。美知とデートしたいと思ったら、竹内は自分で誘える。おばさんの下手なお膳立てに乗せられる形で、美知と出かけるなんで最悪だ。
 そんな竹内の心情など、奥さんは全く気づかない。マスターもそれがいい、と言わんばかりだ。美知は、映画のチケットを見つめて、少し考えていたが、竹内の方を見ると、
「どうですか?」
と笑った。
「もちろん行くわよ、ねえ。」
奥さんの言葉に、竹内は苦笑いしながら、結局承諾したのだった。
 

 

 約束の日、竹内は美知と駅前で待ち合わせた。映画を見終わり、二人は夕食を食べた。
「映画、おもしろかったですね。」
美知は、笑いながら竹内に話しかける。竹内は、どうも集中しきれない。こんなバツの悪さは初めてだった。
「よかったの?俺と映画なんかみて。」
最悪だった。こんなお膳立てでしたデートのときに、男が口にできるのは、この言葉だけだ。
 美知は、楽しいですよ、と答えた。駅で別れる間際に、竹内は美知に謝った。
「ごめん。俺、こういうの苦手なんだよ。」
美知は竹内の言う意味が分からず、表情を変える。
「あの、ご迷惑でしたか?」
「いや、そういうことじゃなくて。うーん、今度の休みに会えないかな。」
竹内の言葉に、美知は驚いたようだった。苦手だと言った竹内の言葉はなんだったんだろう。戸惑う美知に、竹内は、このデートの発端が奥さんの差し金だったことがどうも気になって、誘うなら自分の方から誘いたいということを話した。
 美知はくすくす笑いながら、おもしろい人ですね、と言い、自分の携帯電話の番号を竹内に教えた。
 

 

 休みの日、竹内は久しぶりに駐車場から車を出し、美知を迎えに行った。休日で道路は空いている。待ち合わせの場所に、美知は立っていた。薄手の白いセーターと、長めのタイトスカートをはき、髪をあげた姿を見て、竹内がかわいいとほめると、美知はうれしそうに笑った。
 富士山が見たいという美知の希望で、竹内は山梨の方角へと車を走らせた。車中での会話はとぎれることなく、先日のデートのあと、喫茶店の奥さんがいろいろ聞いてきて、答えるのが大変だったことを美知が話すと、竹内も奥さんがいないかどうか確かめてから、喫茶店に入るようにしていたことなどを話し、二人で声を出して笑った。
 このときには、竹内の美知への気持ちははっきりしていて、いずれ美知に打ちあけようと思っていた。ただ、今日はまだその時期ではないと竹内は考えていた。
 

 富士山がよく見える場所に車をとめると、美知は車を降り、しばらく富士山をながめていたが、隣に立っている竹内の方を見、
「富士山って、絵みたいに赤く見えるんですか?」
と尋ねた。竹内が、夕日があたればそう見えるんじゃないか、と答えると、見てみたいと言いだした。竹内も絵や写 真でしか赤富士を見たことがない。美知は今、実際の富士山を目にして、その姿に感動したらしく、滅多に近くまでは来られないから、と竹内に頼んだ。
 

 竹内と美知は、近くのレストランで食事をし、夕方まで待つことにした。
 久しぶりに車の運転をし、少し疲れた竹内は、美知に了解をとって、運転席のシートを倒し、仮眠をとることにした。
 しばらくして、竹内が目を覚ましたとき、隣で美知も眠っていた。朝早くから出かけたので、美知も疲れたのだろう。ドアの方へ顔を向けているので、顔は見えないが、静かな寝息を立てている。竹内は、自分の上着を美知のひざにかけ、助手席側を向き、左手を枕にして横になった。
 時折、車が通っていくが、それ以外は静かで、時間が止まったような気がする。
 

 竹内がもう一度目を閉じたとき、美知が寝返りをうった。竹内が目を開けると、美知もこちらを向いて横になっている。竹内はそのまま美知の寝顔を見つめた。目の上に薄くアイシャドウをぬ っていたことに竹内は気づいた。若い女の子なのだから化粧はしているだろうと思っていたが、こんなふうに美知の顔を見たことはない。口もとに小さなほくろがあることも、気づいていなかった。
 竹内の目に、美知のつやのある唇が映る。美知が目を覚ます様子がないことを確かめると、竹内は右手の中指をゆっくりと美知の唇へと伸ばした。指先に美知の体温が感じられるところまで近づけたが、ふと指をとめ、またゆっくりと自分の方へ戻した。
(やっぱり、まずいよな…)

 竹内はふぅっとため息をつくと、体を倒し、車の天井を見つめた。まだ夕方には時間がある。竹内はまた目を閉じた。

小説(転載)  Coffee Shop 2/7

官能小説
12 /08 2018
 
 仕事が終わり、竹内がアパートに帰ると、留守電のランプがついていた。母親からだ。同窓会の返事が来ないので、友人が実家に電話をかけたらしい。竹内は本棚の前に置いてあったはがきに手をのばし、もう一度読み返した。
「どうしようか…。」
竹内はつぶやきながら立ち上がり、カレンダーをめくった。同窓会は連休中に予定されている。竹内の会社は休みで、特に用事もない。竹内はまた腰を下ろし、誘ってくれるうちに行ってみるか、と思いながら、はがきの返信欄に記入した。
 

 翌朝、近くのポストにはがきを投函し、駅へ向かった。毎日の通勤ラッシュには慣れてはいるが、知らない人間に自分の体をぎゅうぎゅう押される状態は、やはり気持ちのいいものじゃない。竹内は背が高い方なので、他の乗客よりは顔の位 置が上にある。おかげで、整髪料の強い匂いに悩まされるのだ。
 しかも、今日は直接取り引き先に行くため、さらに、別の電車に乗り換えなければならない。乗り換えの駅に近づき、竹内はなんとかホームへ降りた。
「ふうっ」
一気に体が軽くなり、早足で歩いて隣のホームへ行った。数分で電車が入ってきたが、やはり、すごい乗客の数だ。竹内は無理やり車内に乗り込んだ。電車が動き出し、じりじりと奥の方へ進んでいくと、少し離れたところに美知の横顔を見つけた。
「ああ、この路線だったか。」
先日、美知と出会った電車が、この路線だったことを思い出した。声をかける状態ではないので、竹内はそのまま電車にゆられていた。電車の中吊り広告を意味もなく見つめる。くだらないゴシップ記事のタイトルが並んでいる。竹内は広告から視線を落とし、美知の方を見た。美知も人に押されながら立っている。
 

 何気なく、美知を見ているうちに、竹内は、昨日マスターに、美知に興味があるのか、とからかわれたことを思い出した。そのときは否定したが、実際は少し興味がある。喫茶店で美知を見るようになって、美知が竹内の好みのタイプであったことから、いつか話しかけてみようと思っていたのだった。そんなときに思わぬ ところで、美知と話すことができ、竹内は、美知ともう少し話をしてみたいと思い始めていた。
 電車が駅に着き、乗客が入れ替わった。竹内の目的の駅まではあとしばらくある。再び電車が動き出し、竹内は美知の方へ近づこうとわずかなすき間をぬ っていった。
 

 あと少しのところで、竹内は、美知の表情に気が付いた。美知の顔色がみるみる変わっていく。その急激な変化に、竹内は美知に起こっていることを察知した。美知のすぐ後ろに立っている中年の男は、何食わぬ 顔で別の方を向いている。
 竹内は、強引に美知のそばに近づき、美知の頭をつついた。美知は竹内の方を振り返る。竹内の出現で、後ろの男は慌てたのか、美知から離れていった。
 

 次の駅で美知と一緒に竹内は降りた。
「大丈夫?」
竹内の問いかけに、美知は竹内が痴漢にあっている自分に気づいてくれ、声をかけてくれたということを悟った。
「ありがとうございました。」
うつむきながら礼を言う美知の肩をたたき、竹内は美知にコーヒーでも飲もう、と誘った。
「学校行っても、授業が身に入らないでしょ?」
竹内がそう言うと、美知はうなずき、竹内と並んで歩き出した。
「仕事は、いいんですか?」
美知が竹内の顔を見る。竹内は取り引き先との約束まで、まだ時間があるから、と答え、そのまま歩いていった。
「だいぶ落ち着いた?」
竹内の問いかけに、美知はカップを皿に置き、
「はい。本当にありがとうございました。」
と口もとをゆるめた。
「ごめんね。あいつをつかまえてやろうと思ったんだけど。」
竹内はイスにもたれながらつぶやいた。実際、竹内は男のあとを追いかけようとしたのだが、美知に腕をつかまれ、あきらめたのだ。今思えば、美知にとって、男をつかまえてもらうことよりも、誰かにすがりたい気持ちでいっぱいだったのだろう。
 美知は首を強く振り、
「いいんです。助けていただいただけで…。」
と答えた。
 

「よく、あるんです。」
美知はゆっくりと話し始めた。
「あの時間帯の電車は、できるだけ避けるようにしていたんですけど。今日は寝坊しちゃって。」
美知の話を聞きながら、竹内がカップに口をつける。痴漢男が美知のようなタイプをねらうことに、竹内はだんだん腹が立ってきた。あの電車の中で、悲鳴をあげることは勇気がいることだろう。新聞で痴漢を捕まえた女性の記事を読んだことがあるが、それはすごいことなのだ、と竹内は思った。
 時計を見ると、取り引き先との約束の時間がせまっていた。竹内は、もう大丈夫だと言う美知に別 れをつげ、駅まで走り出した。

小説(転載)  Coffee Shop 1/7

官能小説
12 /08 2018
Coffee Shop

 

 取り引き先回りが一段落し、竹内はいつもの喫茶店に入った。店内は空いている。
「いらっしゃいませ。」
竹内がカウンター近くのボックス席に座ると、店員が水を差し出す。竹内は、アメリカンを注文し、鞄からノートパソコンを取り出した。今の時期は、竹内の仕事は比較的暇であり、作成する見積書も多くはない。

 
 必要な書類を作成しながら、竹内はふと一カ月後の同窓会のことを思った。地元から離れた東京へ進学し、そのまま就職した竹内は、同窓会にずっと欠席していた。友人たちに会いたくないわけではないが、高校を卒業して年月が経ち、連絡を絶っているので、少し行きづらく感じていたのだ。
 今回の同窓会は、幹事がはりきっているらしく、絶対に来て欲しいという手書きのメッセージがついていた。前回の同窓会で、竹内の話が出、あいつは今、で盛り上がったらしい。
「別に何も変わってないよ。」
竹内はつぶやいた。

 
「お待たせしました。」
店員が竹内のテーブルにコーヒーを運んできた。竹内は、ありがとうと言いながら店員を見た。店員は微笑むと、他のテーブルの片づけを始めた。
「竹内さん、最近どう?」
カウンター越しにマスターが声をかけてきた。マスターは無愛想な人だが、常連の客にはよく声をかける。今は、客が少ないので、少し離れた竹内にも声をかけてきたのだ。
「ぼちぼちですよ。今はそんなに忙しくないから、楽ですけどね。」
竹内はコーヒーに口をつけながら答えた。
 マスターは笑みを浮かべて竹内を見、それからカップを磨き始めた。店員がカウンターの中に入ってくると、マスターが店員に声をかけた。
「美知ちゃん、それ洗ったら、休憩していいよ。」
はい、と返事をしながら、店員はカップを洗い出した。
 

 小さな喫茶店なので、店員は彼女一人だ。忙しい時間帯はマスターの奥さんも店に出る。竹内はマスターのいれたコーヒーの方が好きだったから、できるだけマスターだけがいる時間帯を選んでいた。
「彼女、大学生でしょ。」
竹内はマスターを通して美知に尋ねた。特に意味はなかったが、マスターに声をかけられた流れで、口にしたのだ。
 美知は笑顔でうなずいた。常連の客にそう聞かれるのはいつものことなのか、美知は特に会話をしようとはしなかった。食器を洗い終わると、カウンターの奥に入って行った。
 竹内はパソコンを鞄にしまい、残りのコーヒーを飲み込んだ。
「ごちそうさま。」
竹内はお金をレジに置き、店をあとにした。
 

 

 数日後、竹内が駅のホームで電車を待っていた。朝の通勤の時間帯と違い、ホームの人影はさほど多くはない。電車がホームに入ってくると、竹内は車両に乗り込んだ。
 ふと、前をみると、どこかで見た顔がある。向こうもこちらに気づき、軽く会釈をした。
「ああ、喫茶店の子か。」
喫茶店のユニフォームを着ていないので、すぐには気づかなかったのだ。あとから乗り込んできた他の乗客の肩が軽く竹内に触れた。美知が少し腰をずらしたので、竹内は美知の隣に座った。
「学校の帰り?」
竹内が尋ねると、そうです、と美知が答える。
「竹内さんは、仕事ですか?」
美知が自分の名前を知っていたことに驚くと、常連さんの名前はほとんど覚えている、と美知が言った。
 

 美知は店ではほとんどしゃべらないので、おとなしい子なのかと思っていたが、普段は明るく話すようだ。
 竹内が美知の大学のことを尋ねると、美知は微笑みながら話した。美知も地方出身で、初めて東京に出てきたときは、右も左も分からず困ったという話に、竹内は笑った。
 

 竹内が降りる駅に近づき、竹内は美知に声をかけて、電車を降りた。
 

 

 次の日、竹内がいつものように喫茶店に行くと、美知はいなかった。カウンターに座った竹内が
「あれ、今日は違う子なんだね。」
とマスターに声をかけると、マスターはニヤリと笑い、
「何?竹内くん、美知ちゃんに興味あるの?」
と聞いてきた。竹内は慌てて否定し、電車で出会ったことをマスターに話した。マスターは冗談だよ、と笑いながら、美知はこの曜日は休みだ、と言った。
 

 竹内は出されたコーヒーを飲みながら、そばにあった雑誌をめくり始めた。しばらくすると、店の扉が開き、中年の夫婦連れが入ってきた。夫婦はカウンターに座りながら、そばの竹内に気づき、声をかけてきた。
 この夫婦も常連の客で、竹内とはこの店で何度か顔を合わせている。中年の夫婦は仲がよいらしく、二人の会話を聞いていると、竹内は飽きない。マスターも加わって、時折大声で笑った。

eroerojiji

小さい頃からエロいことが好き。そのまま大人になってしまったエロジジイです。